子どもの手の巧緻性に関する基礎研究(1) : 予備調査報告と検証
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(2) 平 成 25{ I 8月. 北海道教育大学紀要(教育科学編)第6 4巻 第 1号 J o u r n a lo fHokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n( E d u c a t i o n ) Vo . l6 4,No. l. ご. August,2 0 1 3. 子どもの手の巧綴性に関する基礎研究 ( 1 ) 予備調査報告と検証. 阿部宏行. 北海道教育大学岩見沢校美術教育研究室主. TheD e v e l o p m e n to fM a n u a lS k i l l si nC h i l d r e n( 1 ) ABEH i r o y u k i Departmento fArtE d u c a t i o n,IwamizawaCampus,HokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n. 概要 本稿は,科研費による「子どもの手の巧椴性に関する基礎研究と授業改善の一考察 J ( 2 0 1 2 . 4~2015.. 3 研究課題2 4 6 5 3 2 4 1 ) に基づいて実施しているものである。本年度は, 3年次研究の 1年目にあたり,本 調査に向けて精査しなければならないことなどを,予備調査の結果を基に論述していく。具体的には,指力 の測定方法,はさみによる切断作業の精査に関することである。. はじめに 手の巧綴性に関する書物の書き出しのその多 は,「科学技術の進歩と経済の著しい発展と物質. と比較する定点観察による基礎データの収集行う とともに, 6 0 年を経て子どもの握力や指力に変化 があるとしたら,その要因を探り,指導の在り方 などへの示唆を行うことができると考える。. 的な豊かさが,社会にさまざまな影響を与えた。」. 2では,調査方法の精査を念頭に行った予備調. として,ヒトという生き物として使うべきいくつ. 査から得られたことを基に,その記録の正確さを. かの機能を失うこととなったと,危機的状況を述. 精査向上させる。また,予備調査で得られた記録. べている。. から本調査の測定方法などの改善を行う。. 具体的には「鉛筆が削れない J 1"靴ひもが結べ. 3では, 6 0 年間に様々な手法を用いて調査した. ない J 1"はしが上手に使えない」など,その実状. 手の巧敏性に関する先行研究を取り上げ,それら. をあげれば枚挙にいとまがない。. の調査方法や巧椴性の要因の考察を本調査に生か. 人類に与えられた「手」は,その機能を低下さ. す 。. せ退化させているのだろうか。. 1では,約 6 0年前の児童の握力そして指力(視 力との混同をさけるため「ゆびりよく」と呼ぶ). 1 8 1.
(3) 阿部宏行. 1 研究の背景と動機. 1-2 聞き取り調査から この調査研究を担当した伊藤恵(大正 8年生ま. 1-1 研究の発端. 5日)を れ)に直接インタビュー(平成 24年 4月1. 3年 2 この調査研究の発端となったのは,昭和 6. 行い,その調査方法や調査後のまとめなど聞き取. 月に発行された北海道教育実践研究会による教育 実践研究叢書 1 1 9号「子の巧椴性を高める」 1)とい う特集号の伊藤恵の記事である。 伊藤が巧轍性の調査の根拠としているのは,「は. りを行った。 伊藤は調査に関する記載頁を懐かしそうに見た が詳細について,特に,測定方法やデータの所在 については覚えていないと話した。. さみを使うためには,手の力に頼らざるを得ない。. ただ,そのころの研究同人とともに,手の巧椴. その場合,紙を切るだけの力を持ち合せていない. 性の問題に限らず,様々な問題を調査研究してい. としたら,切断は無理であることから握力と指力. たとも語った。. を調査した」というのである。. 0年 その調査は,札幌市図工部研究部が,昭和 3 に「図画工作における材料の抵抗に関する調査」. 1-3 研究のねらい 本研究は,測定のための測定ではなく,指導に. として行っているもので,「はさみが紙を切るに. 生かす,授業を改善することに資する調査である。. いる力」を測定している。その方法として,「は. 授業改善という観点から,特に「はさみ」を使用. 0 g毎)へのせる。紙を刃 さみを台ばかり(目盛 1. することの多い図画工作などの造形活動との関係. にはさむ。はさみを押して紙を切る。はかりの目. を重要視している。. 盛の最高を読みとる o } )の記述がある。 下の写真は,この記述に沿って,学生を被験者 として実験を行ったものであるが,数値が一定し ないばかりか,読み取りが不正確になることが判. はさみは,「つまむ・はさむ」という行為によっ て切断が図られることなどを勘案して,測定方法 を考えた。 はさむことに必要なのは,母指・人差指・中指 の 3指である。この指の力を測定し,力の有無,. 明した。. 力と用具の使い方,力と手の巧轍性の関係,手の 巧椴性の発達及び指導の在り方という流れを考え た。指導の充実を図ることで授業改善の道を提示 できると考えている。 実際にはさみを使う場面では,はさみを持つ子 と紙を持つ手の両手の連動性なども大きく関わっ ている。また,幼児期や児童期においては,たと えば,膝でリズムをとって切るなど,体全体の感 学生による昭和3 0 年の調査の再現. 覚の働きによるものもある。 しかし,ここでは全身の感覚を対象とせず,両. この他に,同調査では,昭和 3 0 年に幼児から中. 手の連動性を考慮しつつ研究を進める。. 学生までの握力と指力を握力計で測定している。 その際使用している握力計に関しては,「普通の } 旨力」に関しては,「母指・人 握力計」とある。 I. 差指・中指の握力」と記述されている。(資料参照) この指力に関しては全国的なデータなどがない ことから,本研究となったのである。. 1 8 2. 2 予備調査. 2-1 予備調査報告 予備調査は,次の要領で実施した。. ( 1 ) 調査期間.
(4) fどもの予の巧綴牲に関する基礎研究. 平成 2 4 年1 1月2 8日(水) 3校時. 2-2 予備調査から得られたこと. 凶調査対象 岩見沢市立第二小学校. 男子 1 6名. ( 1 ). ( 1 ) はさみによる切断調査. 3年. ①. k子 16名 合 計32名. 切断作業のための手続きと用具. 予備調査では,被験者を教室に集め,. ( 3 ) 調査場所. 4種類の. 紙を切断することを説明する。. 教室及び特別教室の 2室. はさみは,動く刃と動かない刃の 2枚をすり合. 教室で切断作業を行い,特別教室で握力及び指. わせてものを勇断(せんだん)する用具で,てこ の原理を応用した刃物である。支点の位置により. 力の測定を行った。. ( 4 ) 手続き. 3通りに分けられるが,ここでは,中支点式の一. ①. 般的な洋ばさみを使用する。 3). 握力及び指力の測定の要領. 被験者を教室に集め,握力計の使い方,測定の. 調査にあたっては,右利き用と左利き用の 2種. 仕方を説明する。説明後,準備した握力計の場所. 類を用意した。右利き用は,フッ素加工を施した. で,左右 1回ずつ測定し記録する。記録用紙には,. 工作用のはさみで,重量 4 2.0g 全 長 160mm,刃. 事前に右利き・左利きの別,性別を記入しておく。. 先から支点までの刃の長さは, 70mmである。左. 補助員として,美術教育専攻学生 2名が測定に. 65mmである。(この予備調査では,左利き用の. 力日わった。. ②. 利き用は,全長 150mm,支点までの刃の長さは,. 使用はなかった). 握力計による握力及び指力の測定. 教室に置かれた握力計の前に児童が整列し, 人ずつ握力計をまず右手に持ち,体から離して握 力を測定する。 測定後記録を記入する。次に左手 に握力計を持ち,右手と同様に測定し記録する 0 ・握力の測定が終わった児童は,同じ握力計で指 力を測定する。はじめに右手を測定し,次に左手 を測定する。 -親指,人差し指,中指の第一関節から先の指先 の 3本を閉じるときの力を測定する。その際,親. 調査に使用したはさみ. 指は曲げずに測定することを説明し実施する。(※. (左:右利き用右:左利き用). 下線の理由としては,はさみを使うとき親指は伸. 4種類の紙の内訳は,切断線の形状が,直線(ア). びたままであることから判断し決定した。) -握力計は,エパニュー製のデジタル握力計. ( E. KJ077) を使用した。. と渦巻き曲線(イ)の 2種類と,紙質(特に厚さ)の 異なる 2種類に印刷して切断作業を実施した。. この握力計の仕様は,測定範囲 5.0~100kg. 測 定 精 度 50kgで土 2kg 最 小 単 位 O.lkg 寸法. ゾ ノ. イ. W122x D45x205mm 重量約 5 7 0gである。. 切断線(直線・曲線)を印刷した紙. 1 8 3.
(5) 阿部宏行. ②. 紙の切断作業に関する難易度と抵抗感. 3年 生 (9歳程度)を対象に行った予備調査で. 全児童が終点まで切断した。. 1名の女子が,. 5m mの切断線を切り抜いた. は,紙の抵抗(厚さや紙質)と時間を予想して設. ため時間を要することとなった。指示者からの説. 定した。. 明不足が原因として考えられる。. 1, 2回目は,通常のコピー紙(リサイクル. 以上のことから,はさみによる切断調査では,. ppc 大王製紙 K K A 5判)に切断線を印刷し. 3年生には,抵抗感も少なく難易度を上げる必要. たものを使用した。時間は 2分とした。. があると判断した。. 3, 4回目は,同じ切断根を印刷した厚手の A. 5判画用紙(中厚口. 1 0 5 k g k y o k u t o ) を使用. した。時間は 3分とした。 切断線は,. A, 2種類のうち紙質の難度(厚口のボール紙 など)を上げる。. 5 m mの幅とし,始点から終点ま. での距離の測定と,. 本調査に向けて,. 5 m mの幅から左右に逸れ. た長さや回数などを減点の対象とすることを規定. B,切断線の幅を 5 m mから 3 m mに細くす. る 。 この 2点を本調査に向けて改善することとし た。この場合は 3年生を対象とすることを前提と. した。. している。幼児や 1年生などには,紙の硬さや図 ③. 形の複雑さなど,難易度が高すぎる懸念もあるの. 検査結果. 1回目のコピー紙の直線切断においては, 30秒. で,さらに検討を重ねる必要がある。. から 1分以内に全児童が切断を終えた。また,逸 れた児童はいなかった。. ( 2 ). 2回目のコピー紙の曲線の切断は,時間が 1分. 握力・指力の測定調査. ①握力・指力の測定の手続き. から 2分までに作業を終えた。曲線の切断に手間. 握力の調査は,その測定方法について,丈部科. 5 m mの幅から逸れ. 学省の体力テストなどもあり,一般的である。し. 取ったところもあったが, た児童はいなかった。. 3, 4回目の厚手の画用紙の切断は,. かし,指力に関する資料はほとんどない。指力を 1, 2回. 「ピンチ力」として規定し,大人の平均値をだし. を経験することで,はさみの使い方にも,ゆとり. ているものもあるが,その真偽は定かではない。. が生まれ所要時間は,平均 1分 30秒であった。. そのため本研究では,前述の昭和 30年の握力と指. 厚手の画用紙ということで,抵抗感が増し,難. 力の測定したものと比較する観点で「普通の握力. 易度も上がり,切断に苦慮するかと予想したが,. 計」を使った「十旨力 J(母指・人差指・中指の握力). 子どもたちは難なく乗り越えてしまった。. を測定することにした。. 5m mの幅も,ぎりぎりのところで逸れずに,. 切断線に沿って切る児童. 1 8 4. 測定に際して,説明者の過不足をなくすること. 指力の測定の動画を制作する学生.
(6) fどもの予の巧綴牲に関する基礎研究. を目的として,握力と指力の測定方法の動画と掛. ( 1 ). 女子右手平均. 13kg. 女子左手平均 12.6kg. であった。平成 2 3年度の文部科学省の体力テスト. 図を準備することとした。 美術教育専攻を中心とした学生によって,動画 をつくり,本調査の際に,全国のどの地域の学校. による調査(第 3学年 k子の全国平均は 14.13kg となっている。. においても,電子黒板やテレビなどに映し出して, 測定を可能にするためである。. 男子の握力が全国平均を大きく下回っていたの が気になるところであった。 測定に不慣れな面や 器具の調整などに一層の精度をあげる必要がある. ②. といえる。. 調査結果 調査結果は次の通りである。. ア握力 [男子]. イ指力. 1 6名. 1 6名. [男子]. (グラフの No1~16 までは児童一人一人の測定 値を去す。 No17は,平均を去す。 以下のグラフ. P. 6. も同じ). 5 4. 明削向指チ7毛 ヲ. -~二 口. ー… ff : ブ7さE. 3. 20. よ :. 開糊榔引き f. 1う. ( 1 ー. 日. 12. ミ. 1 丹(). -;-毛. 910111~nHl 百 161. i. 一…:宙 開問榔ζ :. 。 匹. 男子の 1 6名中,右手で 2名,左手で 1名の子ど り. もの測定ができた。また,そのうち両方の手の測 定 が で き た の は 1名 で あ っ た 。 そ れ も 握 力 が 男子右手平均 10.21kg 男子左手平均 10.5kg であった。平成 2 3年度の文部科学省の体力テスト. 15kg以上の体格のよい男子に限られた。他の 1 3 名の男子は測定ができなかった。. に よ る 調 査 ( 第 3学 年 男 子 ) で は , 全 国 平 均. 14.84kg(右手 2固と左手 2回のよい記録の平均). [女子]. 1 6名. となっている。全国平均を 4kgほど下回ってい るのは,器具の調整などが不十分であったことが. 8. 考えられる。. [女子]. 一一指すJ: L :. 1 6名. 時間勝者詰 ha : .. 18 1信. 12: 1 4 G G 1 '8. H. !~). lOll121;~1 -t 101G17. . 12. 1り. 時一議);毛:1. 8. 時一議:fJ!i. 。 内. 女子では右手の指力が 6名,左手は 7名の測定 ができた。. 4. 握力との関係では, 10kgから 15kgあたりに属 の. 12: 3 1 -. ろ().. 8 9 1011121:5141ち 161寸. する女子が,左右それぞれの手の指力が測定でき. 1 8 5.
(7) 阿部宏行. た。やはり他の子どもの指力の測定はできなかっ た 。. 聞を費やした。 改善としては,. 2コマ分の授業時間を確保し,. はじめに握力と指力を測定し,そのデータから, ③. 測定結果から. 抽出する児童を選び,切断作業の際の手元の映像. 今回の予備調査では,小学校 3年3 2名中の測定. を撮影し記録とする。どの児童を選出するかにつ. で両方の手が測定できたのが男女合わせて 6名で. いては,握力・指力の数値が高い児童,反対に低. あったことから考えると,不慣れなことだけでは. い児童もなどが考えられる。. ないことが考えられる。握力計の握る部分の調整. また,予備調査から握力と指力の測定後に,顕. 3年生にとって,指の力. 著な数値を示す子どもに対してのみ,個別の面接. だけで握力計の重量を支えることができず,「つ. 法などを通して,はさみの使用方法を映像記録し,. まむ」という運動にまで、いたっていないことが考. はさみと紙の関係を見取る方法も考えられる。. ができていない。また,. えられる。. 観点としては, A はさみを持つ手と,紙を持. そのため握力計を台に載せるなどして「つまむ」. つ手の協働関係,. B はさみと紙の切断場所の特. 運動に集中できるようにする。また,「はさみ」. 定 ,. c. を使うことを前提としたため,親指,人差し指,. る 。. Bの理由は,薄い紙のような比較的容易に. 中指の 3本の指のまげずに伸ばして測定させたこ. 切断できる場合は,刃先に近い部分で切断するこ. とにより不自然な測定になり,力をだせなかった. とが可能であるが,厚い紙などを切断する場合,. ことが考えられる。. 刃の根元を使う。このとき,はさみを握る力(指. はさみの動きなどを調査するものであ. 力)も必要になる。この関係をどのようにとらえ. ( 3 ) 調査の改善点 ア. て,切断するかを確かめなければならない。その. 握力及び指力の測定の改善. ためにも,手元を写した映像記録が必要になる。. 握力に関しては,文部科学省の全国体力テスト の要綱を準じて実施するが,左右の握力を平均化 せず,左右それぞれの測定結果をデータ化する。. 3 先行研究を調査活動に生かす. 指力に関しては,握力計の重量を考慮し,台の. 子どもの手の巧椴性に関して,発達との関連で. 上で斜めに置いて握る部分を「つまむ」ようにす. 調査した研究と全国的な調査分析を行った先行研. る 。. 究の中から,直接的な調査に絞って記述すること. 測定対象は 1年から 6年までの全学年とせず,. 1, 3, 5年で実施する。. とした。 一つは幼児期のはさみの使い方から手の巧轍性. イ 切断作業に関する改善. の発達をとらえようとした調査研究である。二つ. 切断する紙質を,コピー紙と厚口の工作紙の 2. 目は鉛筆を小万で削る全国的な調査研究である。. 種類とする。大きさは,. A 5判とし,切断線を. 予め印刷しておく。切断線の幅は,予備調査の 5. 3-1 先行研究からの考察. m mから 3mmと細くする。 時間は難易度の低い. ( 1 ) 清水歌の「手指の巧椴性に関する研究」. コピー紙の切断は 2分とし,難易度の高い厚口の. 3年にわたって幼 清水歌は,昭和 60年から昭和 6. 工作紙は 3分とする。印刷する切断線は,予備調. 稚園児を対象にはさみの切断作業によって子指の. 査と同じ直線系と曲線系の 2種類とする。. 7 巧椴性を調査した。守口市の幼稚園児の 4歳児 9. ウ. 面接法など測定法の改善. 予備調査は,. 1授業時間 ( 4 5分)を 2グループ. にわけで実施したが,指力の測定に思いのほか時. 1 8 6. 名 ,. 5歳児 1 0 5名を対象に実施している。調査方. 法は,観察法と面接法により行った。 はさみによる切断では,「直線の切断」と「曲.
(8) fどもの予の巧綴牲に関する基礎研究. ( 1 ). 線の切断」を行い,その切断所要時間・切断物・. 児童の「道具使用技能」という用語で,手先の器. てっきの 3観点で,成長発達段階別と性別による. 用さ(巧椴性)を調査研究している。ここでは,. 比較を行っている。. 本研究と関連の強い「ナイフによる鉛筆削り」に. 使用器具は,切断用紙白色画用紙 1 5 0( 縦27cm, 横 13cmの長方形,中央下部より 20cmの長さの. 直線をひいたもの), は さ み ( 市 販 工 作 ば さ み 全長 13.1cm,刃渡り 4.5cm,重量 3 0 g ) を使用し ている。. 着目して考察する。 この調査では,. 1年 , 3年 , 5年の児童を対象. にして,総数4 6 1名から調査結果を得ている。 この研究の主たるねらいは,技能の習得が道具 使用への好悪,意欲との関わりで,どのように変. 「直線の切断」では,直線に沿って切断する調 査を 3回実施し,その切断所要時間を計測してい. 化するかを明確にすることを目的として,その実 態を調査している。. 2回目には急激. 調査は,新しい Bの鉛筆と,木などの握りがつ. に速くなり,回数を重ねるごとに速くなっている。. い て い な い 切 り 出 し 小 万 ( 全 長 20cm,刃渡り. 年齢差では,いずれも 5歳児が速くなっている。. 3.2cm,身に対する刃の傾斜2 7度,刃先角 3 0度). る。結果は 4歳児と 5歳児とも,. 器用さを見取る切断線(画用紙に引かれた直線) からの逸脱を分析すると,. 4歳児では,男女平均. を使用し,個別の面接法で、行った。 分析項目は,削り終わった鉛筆を写真に記録し,. が 5段階中 3段階目である。内訳として,女子が. 左右の削り角度,芯の長さ,削り落した木の部分. 4 ・5段階の多く分布しているのに対して,男子. と芯の割合,芯のくびれ,削り面のなめらかさな. は 1 ・2段階に分布した。 5歳児では,男子が 3. どを対象に調査している。考察では,「多少の指. 段階に分布しているのに対して女子は 4段階にほ. 導をすれば,現代の子どもも,この程度には鉛筆. とんどが分布した。「曲線の切断」も同様な結果. を削ることができるとみることが大事である oJ. が得られている。特に目を惹くのは,手つきの項. L. 目で,「ほとんどの幼児が右手にはさみを,左手. と述べている。. に紙を持って空中にかかげで紙を切断していた. 経験することによって,削る技能は身に付く. この研究の考察において,特記すべきこととし. が,左右両手の協応動作はほとんどできていな. てナイフの使用技能の発達は,未経験者を除き,. かった。」とある 04). 各年齢で経験する場があれば,伸びるとしている. この先行研究では,手の巧椴性を支える握力や. が,年齢とともに直線的に高まるものではなく 9. 指力に関する調査は行われていない。また,幼稚. 歳前後で質的な変化をすることを記述している。. 園児ということもあり,個別の面接法で行われて. 16 ・7歳では丁寧に仕上げるというよりも,. いる。研究の主たるねらいが,年齢に伴う発達を. 例えばしんが出ればそれで削れたという意識にな. 調査分析することであることから,幼児期の年齢. ると思われる。 9歳前後で仕上げようとする鉛筆. 1年間の差が大きいと結論づけ. のイメージがより明確になり,それを達成させる. ている。その理由としては,家庭でも,幼稚園で. ため,自分の持っている技能を最大限に発揮させ,. も普段からはさみを使う経験が多いことを第一に. 自分のイメージと異なる部分も修正しようとして. 挙げている。. 時聞が経過すると考えられる o」6). に伴う巧椴性は,. このような経験を積んで, 1 0 歳を超えるころに ( 2 ) 森下一期の「児童の工作技能・生活技能の. 発達に関する実証的研究」. なれば,比較的簡単なナイフの技能は身に付くこ ととなり,時間を要さず,できばえも,よいもの. 森下一期は昭和 6 1年から 6 2年の科学研究補助金. ができるようになる。また,ナイフの使い方では,. (一般研究 B 研究課題番号6 1 4 5 0 0 3 5 ) の研究成. 鉛筆を持った手の親指でナイフの背を押すという. 果報告書において,ナイフとのこぎりを使って,. 方法は,自然には身に付かないので,学校での最. 1 8 7.
(9) 阿部宏行. 初の指導が重要であることも記述している。. の刀が広がり,つまむ動作(曲げ)で万が下がり,. 9歳前後. 上下するのである。この動作の繰り返しによって,. (学校年齢では 3 ・4年生)に特徴が表れること. はさみは閉じたり聞いたりするのである。このと. このことから手の巧椴性に関しては,. き大脳の中枢から「曲げJ I伸ばし」の指示が,. を言己している。 今回の調査でのはさみによる切断も,指定した. 脊髄から出ている細い電線のような運動神経繊維. 線を切断する場面では,初めに意識が介在するも,. を通って肩や腕の筋肉に伝えられ,指示通りに筋. 次第に,切断するという動作に関して,意識の度. 肉が動いて初めて指が動くのである。指には筋肉. 合いは少なくなると考えられる。. ではなく臆が張り巡らされているのである。. 手の巧椴性は,日常の生活の中で,培われるこ. さて,巧椴とは,「巧みで細かいさま」のこと. とが,ほとんどである。未経験の用具と触れて,. であるが,「巧」には手際いいさまのほかに「も. はじめはとまどいながらも,意識から無意識へと. くろみ,たくらむ,考案する」などの意味もある。. やがては,身体性を備えた暗黙知となるというこ. しかも,「工む」に通じるところもあり,「工夫す. とである。. る」という意味合いが強い。. 小万やのこぎり,金づちなど,従来子どもの生. 「巧み」は単なる箸やはさみが使えることを意. 活圏にあったものが,普段の生活から消え,現在. 味するのではない。手の巧椴性という意味には,. では,学校教育でしか使用しなくなってきている。. 人間の本性としての美的本能に根ざし,美しさや. 特に,成長著しい小学校においては,図画工作に. よさを求めて創造することが込められている。そ. おいて,これらの用具を体験することになる。. の実現に向けて手が巧みに動くのである。. 子どもにとって,っくりだすことは,喜びであ り,創造性を培うことになる。昭和 22年度 「学習指導要領. 省. 丈部. 図画工作編(試案 ) J では,. 冒頭に「図画工作の教育はなぜ必要か」という問. つまり,手の巧椴性の育成は,自分の思い(心) と日と,手をしっかり連動させ,人間本来のすべ ての感覚を働かせて,豊かなものをつくりだすた めに必要なのである。. いを設けて,戦後の教育を始動させている。 その存在の根拠として,いくつかあげている。 「技術力の養成」は,手で道具をつくり,もの をつくる活動すなわち,人間の技術の活動が伴わ なければ,すべての丈化は成り立たない。「技術 の養成の基礎となる目と手の感覚を鋭敏にするこ とが,教育の一つの項目として取り上げられなけ ればならない。そして,その使命を負って,図画 工作が一つの教科として取り上げられたのであ る。」と,図画工作の役割とともに技能の育成を うたっている。 7). 参考文献 1)北海道教育実践研究会編『手の巧綴性を高める 育実践研究叢書 119~. p . 1 4 1 5 2) 同 p 3) 文 部 省 「 小 学 校 図 画 工 作 指 導 資 料 材 料 ・ 用 具 の 扱 い方とその指導」. ぎょうせい. 1 9 8 6 p 1 0 6. 4) 清 水 歌 森 博 美 森 岡 鈴 美 大 谷 智 美 梶 岡 み の り 杉本真奈美. 「手指の巧級性に関する研究(I). 稚園児について-~帝国学園紀要 14号. る実証的研究」. 6)同. なる紙を目視し,切断線をイメージしながら,は さみを動かして切るのである。 はさみは,親指を広げる動作(伸ばし)で片方. 1 8 8. 1 9 8 8 p6. 昭和 61 ・ 62 年度科 ~7~研究費補助金(一. 1 9 8 8 p 1 8. p 2 1. 7)文部省「昭和 2 2年度学習指導要領図画工作編(試案) J 昭和 2 2年 5月 1 9 4 7 .) ; 日本書籍. はさみで紙を切るという行為には,目で対象と. 幼. 5)森下一期「児童の工作技能・生活技能の発達に関す 般研究 B) 研究成果報告書. おわりに. 教. 1 9 8 8. 北海教育評論社. p2.
(10) 子どもの手の巧綴性に関する基礎研究 ( 1 ). 参考閲覧 文部科学省の体力テストによる平成2 3年 度 の 調 査. h t t p : / / w w w . e s t a t .g o . j p / S G1/e s t a t l X l s d . l do? s i n f i d= 0 0 0 0 1 4 9 0 2 4 1 8 (閲覧年月日. 2 0 1 3 / 2 / 1 2 ). 資料 第 1表 幼 児 か ら 中 学 生 ま で の 握 力 握力. k g. kg. 指カ. 種別. 4 5 号 幼 オ 女 児 1 5 男 オ 女 男. 1 女. 男 女 男 3 女. 2. 学 校. 4 男. 女 男 5 女 男 6 女. 中 男 中 l 女 男 主ザ~ 中 2 女 校 中 努 3 女. 平均. 最高. 最低. 5 ' . 3 5 . 8 8 . 8 6 . 4 8 . 8 7. 4 1 0 . 3 9 . 1 1 5 . 7 1 2 . 7 1 6 . 7 1 4 .. 6 2 0 . 3 1 6. 4 1 9 . 7 1 8. 4. 7 . 5 7 . 5 1 2 . 0 7 . 0 1 4 . 5 1 1 .0 1 3 . 5 1 3 . 5 21 .0 1 8 . 0 2 6 . 0 2 0 . 0 2 9 . 5 2 1 .0 2 7 . 5 2 4 . 5. 3 . 7 4 . 5 6 . 0 5 . 0 6 . 0 5 . 5 8 . 0 6 . 5 1 0 . 0 9 . 0 1 2 . 0 1 2 . 0 1 5 . 0 1 0 . 5. 2 3 . 4 3 8 . 0 2 3 . 4 3 3 . 0 2 8 . 6 4 7 . 0 2 47 3 2 . 0 3 7 . 0 6 0 . 0 2 5 . 5L 3 !.5 酒. 平均. 最高. 最低. / //レ //1/. 3 . 3 2 . 8 4 . 1 3 . 6 4 . 7 4 . 4 5 . 5 4 . 8 6 . 2 5 . 0 6. 4 1 1 3 1 . . 0 5 5 . 9 . 8 1 4 . 5 6 1 5 . 5 6. 4 1 9 . 0 7. 4 1 7 . 5 7 . 0 . 3 1 9 . 5 8 1 8 . 0 7 . 0. 5 . 5 4 . 5 7O 5 . 0 6 . 5 6 . 5 7 . 5 7 . 0 9 . 5 7 . 5 9 . 5 8 . 0 9 . 5 8 . 0 1 0 . 0 8 . 0 1 2 . 0 9 . 0 司. 2 . 0 1 .5 2 . 0 2 . 5 3 . 0 2 . 5 4 . 0 2 . 5 4 . 5 3 . 0 5 . 0 4 . 0 5 . 5 5 . 0 5 . 5 6 . 5 5 . 5. u . 壬. 注1.昭和 3 0 年測定、札幌市桑濁幼稚園及び学芸大 学付属札幌小中学校児童・生徒の測定結果 2 .指カは、母指、人楚指、中指の握力 昭和 6 3年発行の『手の巧敏性を高める」に記載された指 力の調査の記録(札幌市図工部研究部による調査). (岩見沢校准教授). 1 8 9.
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