岡部 友峻 *・髙橋 史 **・伊藤 大輔 *
大学生におけるCompulsive Sexual Behaviorと
精神的健康およびエフォートフル・コントロールとの関連
本研究の目的は,Compulsive Sexual Behavior(CSB)と精神的健康およびエフォートフル・コントロー ルとの関連を明らかにすることであった。CSB,抑うつ,不安,エフォートフル・コントロールを測定す る尺度を用いて,大学生150名に対する無記名式インターネット調査を実施した。分析の結果,1)CSB 傾向は女性よりも男性で高いこと,2)性に関する行動がコントロールできず,日常生活に支障をきたす 可能性のある者が一定数存在すること,3)CSB傾向の高さと抑うつおよび不安の高さに関連があること が示された。また,男性においては,エフォートフル・コントロールの行動抑制の制御や注意の制御が, CSBと関連することが示唆された。最後に,CSBの発症・維持プロセスに関する示唆と今後の課題が議論 された。
キーワード:Compulsive Sexual Behavior,精神的健康,エフォートフル・コントロール,大学生 問題 近年,性に関する社会的問題が注目を集めてい る。日本における性感染症の患者報告数は横ばい であるものの,梅毒の患者数に関しては,2013 年から急増加している(荒川, 2018)。また,平 成29年度の人工妊娠中絶件数は 164,621 件であ り,年々減少しているものの,依然として望まな い妊娠に苦しむ者がいる(厚生労働省, 2018)。 このような性の健康に関する問題に対して,性教 育や性感染症予防啓発などの取り組みは行われて いるものの(荒川, 2018),依然として社会的な 課題である。このような望まない妊娠や梅毒, HIV等の性感染症を引き起こすようなリスクのあ る性的行動には,コンドームを用いない性交渉や, 不特定多数との性的接触,風俗通い等が挙げられ る。そして,リスクのある性的行動の背景要因の 1つに,やめようと思ってもやめることの出来な い反復的な性的行動や,強烈な性的渇望をコント ロールできない障害が関係していると考えられて
い る(Gullette & Lyons, 2005; Kalichman & Rompa, 1995; Reid, Garos, & Fong, 2012a)。 Compulsive Sexual Behaviour Disorder
International Classification of Diseases-11(以 下,ICD-11; World Health Organization, 2018) の衝動制御障害の1つとして新しく追加された Compulsive Sexual Behaviour Disorder( 以 下, CSBD)とは,強烈で反復的な性的衝動,もしく は性的行動の渇望の制御の失敗の持続的なパター ンが長期間(例えば6か月間以上)続き,日常生 活に支障が生じることによって特徴付けられる 障害である(Kraus et al., 2018; WHO, 2018)。 CSBD患者の30%は,大学生時代に発症し,28% が性感染症の感染歴を報告している(Reid et al., 2012b)。また,具体的な性的行動は,同意の下 での成人との性的行為,不特定多数との性的行為, 風俗通い,サイバーセックス,マスターベーショ ン,ポルノグラフィ利用等が挙げられる(Kafka, 2010)。ICD-11から正式な障害として認められ たことで,やめようと思ってもやめられない性的 行動や思考に苦しむ個人の治療や,性的リスク行 動の予防につながることが期待されている(原田, * 兵庫教育大学大学院学校教育研究科 ** 信州大学学術研究院教育学系
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発達心理臨床研究 第26巻 2020 compulsivity」をキーワードとした場合の文献 ヒット数は0件,「sexual addiction」をキーワード した場合の文献ヒット数は6件,「セックス依存」 をキーワードとした場合の文献ヒット数は6件, 「強迫的性行動」をキーワードとした文献ヒット 数は3件であった。つまり,ICD-11にCSBDが新 しい診断名として追加されたにも関わらず,日本 において,やめたいのにやめることのできない性 的行動や思考に関する研究は,ほとんど行われて いないのが現状である。したがって,諸外国との 現状を比較するためにも,日本のCSBの現状を把 握する必要がある。例えば,井上他(2017)は CSBを測定する自己記入式尺度を用いて日本にお ける調査を行い,1)CSBの高さと精神的健康の 悪さは関係していること,2)CSBは,女性より も男性で高いこと,3)ヘテロセクシュアルより もバイセクシャル,及びゲイ・レズビアンで高い こと,4)性交渉頻度と関係していることを明ら かにしている。しかし,井上他(2017)の調査 はHIV陽性者のみを対象としており,女性回答者 が極端に少なく,調査対象者のほとんどは同性愛 者である。このことから,日本におけるCSBの広 がりを把握するために,一般集団における調査を 行うことが必要である。Compulsive Sexual Behaviour Disorderと実行機能 CSBDの発症・維持に関わる要因の1として,抑 制制御や意思決定に関係する実行機能の低さが関 係していることが提唱されている (Brand et al., 2019)。実行機能は,性的欲求や衝動を喚起させ る何らかのトリガー刺激に遭遇した際,感情や認 知の反応と意思決定の関係性を調節する(Brand et al, 2019)。言い換えると,性的思考や性的行 動は実行機能によって制御されている。つまり, 実行機能の低下によって,トリガー刺激に対応し た特定の行動が,支配的に導かれる可能性が示唆 されている。このことから,CSBDの発症・維持 のプロセスを明らかにするためには,実行機能の どのような働きが,CSBに関連するのかを検討す る必要がある。 2019; Kraus et al., 2018)。 しかしながら,CSBDに関する疫学や病因,治 療について不明な点が多く,研究知見の不足が指 摘されている(Kraus, Voon, & Potenza, 2016)。 例えば,CSBDの有病率は,3 ∼ 6%であり(Kafka, 2010),CSBD患者の大部分は成人男性であると 報告されているものの(Reid et al., 2012a),研 究によってばらつきがあることが指摘されている (Kraus et al., 2016)。また,研究によって異 なる用語が用いられており,制御困難な性的行 動の定義のコンセンサスが十分に得られていな い現状がある(Hook, Hook, Davis, Worthington, & Penberthy, 2010)。 諸 外 国 で は,Sexual Addiction,Compulsive Sexual Behavior,Sexual Compulsivity,Sexual Impulsivity,Hypersexual Disorder等の複数の用語によって説明されており, 日本においても,性依存症やセックス依存,性的 強迫症,性的アディクション等の複数の名称で扱 われている。このように,制御困難な性的行動に 関する用語が一貫していないことからも,国内外 ともに制御困難な性的行動の概念確立が不十分で あることが示唆される。 そのため,本研究では,複数の用語によって説 明されている日常生活に支障をきたすパラフィリ アを除く反復的で強迫的な性的行動や性的衝動を, 包 括 し てCompulsive Sexual Behavior( 以 下, CSB)として論じる。特に,臨床的診断基準を満 たす病名としてCSBDを用い,臨床的診断基準を 満たすかどうかに関わらず,日常生活に支障をき たす程の制御困難な性的行動や性的衝動をCSBと して扱うこととする。
国内のCompulsive Sexual Behavior
日本の保健医療分野においては,制御困難な性 的行動に関する研究はほとんどなされていない (井上他, 2017)。筆者がデータベース医学中央雑 誌での検索を試みたところ(2019年7月時点), 「性的強迫症」をキーワードとした場合の文献 ヒット数は0件,「性依存症」をキーワードとし た場合の原著論文のヒット数は13件,「sexual
大学院生158名を調査対象とした。欠損値を含む 回答を除外し,計150名(男性86名,女性64名, 有 効 回 答 率 =94.9%; 平 均 年 齢21.48歳,SD= 1.21,年齢範囲20−26歳)を分析対象とした。 回答が19歳以下のもの(3名),指定した回答方 法と異なる回答をしたもの(2名),回答範囲を 超えた回答をしたもの(3名)を除外した。 調査内容 デモグラフィック項目 年齢,性別について回 答を求めた。
Compulsive Sexual Behavior Kalichman & Rompa(1995) に よ っ て 開 発 さ れ た,Sexual Compulsivity Scaleの日本語版Ver.1(以下,SCS; 井上他, 2017)を使用した。Sexual Compulsivity は,Sexual Addiction,Hypersexual Disorder等 にも類似している概念であり,性的ファンタジー や性行動の頻度や内容が日常生活を阻害するまで に達し,継続的,反復性,侵襲的,かつ望んでい ないにもかかわらず,儀式化あるいはルーティン 化された特定の性的な行為をせきたてられてやっ てしまうことである(Kalichman et al., 1994)。 本研究では,CSBの指標として用いた。10項目で 構成されており,「1:まったくあてはまらない」, 「2:あまりあてはまらない」,「3:まああてはまる」, 「4:とてもあてはまる」までの4件法で回答を求 め,1−4点で得点化,総得点(10−40点)を 算出した。日本国内のHIV陽性者を対象としたと きのCronbachのα係数は.89であり,信頼性と妥 当性が確認されている(井上他, 2017)。本研究 でのCronbachのα係数は.89であった。井上他 (2017)は「過去6か月間に性に関する行動が自 分でコントロールできず日常生活上の支障が出て いますか」のセルフレポート結果をもとに, 28/29をカットオフ値としている。
Effortful Control Rothbart et al.(2000) が 開発したAdult Temperament Questionnaireのう ち,EC尺度35項目の成人用エフォートフル・コ ントロール尺度日本語版(以下EC; 山形他, 2005) を 使 用 し た。 下 位 尺 度 は,「 行 動 抑 制 の 制 御 そして,実行機能と関係する概念にエフォート
フ ル・ コ ン ト ロ ー ル が あ げ ら れ る(Effortful Control: 以下,EC ; Rothbart, Evans, & Ahadi, 2000; 山形・高橋・繁桝・大野・木島, 2005)。 ECとは,「実行注意(Executive Attention)の効率 を表す概念で,顕現して継続中の反応を抑制し, 非顕在的な反応を開始したり,計画を立てたり, 誤りを検出したりするための能力」と定義されて いる。実行注意の機能は,不適切な接近行動を抑 制する「行動抑制の制御(Inhibitory Control)」, ある行動を回避したい時でもそれを遂行する「行 動始発の制御(Activation Control)」,必要に応 じて,集中したり注意を切り替えたりする「注意 の制御(Attentional Control)」の3つで構成さ れている。性的衝動や思考の反応を抑制すること が難しくなる背景に,反応を抑制し,注意を切り 替えるECの低下が関係していることが予想され る。つまり,不適切な接近反応を抑制するECの 機能がCSBと関係する可能性がある。しかし,実 行機能とCSBとの関連が検討されつつあるものの, ECとCSBとの関係を検討した研究は見受けられな い。そこで,ECとCSBの関係を明らかにする必要 がある。 目的 本研究では,CSBについて諸外国との比較に寄 与するため,まず,国内の発症年齢の高い一般集 団である大学生を対象とした際の,Compulsive Sexual Behaviorの広がり及び特徴を明らかにす る。特に,先行研究で示唆されている特徴から, CSBは,男性の方が女性よりも高いこと,また, 精神的健康と関係することが予想される。次に, CSBと実行機能との関係を明らかにする。特に, CSBとECの関係について探索的に明らかにする。 方法 参加者 A県内の大学に在籍する20歳以上の大学生及び
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発達心理臨床研究 第26巻 2020 行われた。調査実施期間は2018年11月から12月 までであった。調査案内は,心理学を専門とする 大学教員の講義中および筆頭著者のSNSを利用し た縁故法によって実施された。講義中では,調査 対象者にインターネット調査に関する案内紙を配 布し,その後,案内紙記載のQRコードに各自の 自由な時間でのアクセスを求めた。その際,「性と 行動に関する調査」であること,回答は任意であ ること,未回答に伴って一切の不利益が発生しな いことを書面と口頭で伝えた。SNSを利用した縁 故法では,調査対象者にSNSアプリのLINEにより インターネット調査の案内を行い,回答ページへ のアクセスを求めた。その際,講義時の案内と同 様の説明を行った。 倫理的配慮 本研究は,信州大学教育学部研究 委員会による倫理審査および承認を受けて実施さ れた(管理番号:H30-17)。 解析方法 第一に,本研究で用いた各尺度の記述統計量( Mean, SD, Max, Min)を算出し,尺度の特徴を確 認した。その後,性別による差を確認するため, 各尺度を従属変数とする対応のないt検定を行っ た。第二に,測定変数間の関連性の分析として, Pearsonの積率相関を算出した。第三に,CSBと 注意の実行機能の関係を明らかにするために,全 ての対象者と男女別における,SCSを目的変数, ECの下位尺度を説明変数とする重回帰分析を 行った。データ解析には,統計解析ソフトウェア IBM SPSS Statistics22を用いた。 結果 各尺度の記述統計量をTable 1に示す。本調査 におけるSCS平均値は,井上他(2014)が行っ たHIV陽性者を対象にした調査(M = 19.26,SD = 6.35)よりも低かった。また,SCSのカットオ フ値を上回るものは5名(3%,男性4名,女性1名) であった。PHQ-9の症状評価では,「なし」が65 名(43%),「軽度」が59名(39%),中等度が23 (Inhibitory Control)」,「 行 動 始 発 の 制 御 (Activation Control)」,「注意の制御(Attentional Control)」の3つで構成される。全35項目で構 成されており,「1:あてはまらない」,「2:あまり あてはまらない」,「3:少しあてはまらない」,「4: あてはまる」の4件法で回答を求め,逆転項目の 得点を逆転した上で,各項目の合計を尺度全体/ 下位尺度の得点とした。得点が高い程ECが高い ことを示す。山形他(2005)によって信頼性と 妥当性が確認されている。本研究での合計得点の Cronbachのα係数は.88,行動抑制の制御は.72, 行動始発の制御は.84,注意の制御は.82であった。 抑うつ症状 抑うつ症状の指標として,Patient Health Questionnaire-9(Kroenke, Spitzer, & Williams, 2001)の日本語版(以下PHQ-9;村松, 2014; Muramatsu et al., 2007) を 用 い た。 PHQ-9は9項目で構成されており,評価症状は, 「0:全くない」,「1:数日」,「2:半分以上」,「3: ほとんど毎日」の4件法で回答を求め,総得点(0 −27点)を算出した。症状評価は,0−4点は抑 うつ症状はなし,5−9点は軽度,10−14点は中 等度,15−19点は中等度−重度,20−27点は重 度である。Muramatsu et al.(2007)によって, 日本語版PHQの妥当性は確認されている。本研 究でのCronbachのα係数は.81であった。 不 安 症 状 不 安 の 指 標 と し て,Generalized Anxiety disorder-7(Spitzer, Kroenke, Williams, & Löwe, 2006)の日本語版(以下GAD-7; 村松, 2010; 村 松, 2013; 村 松, 2014) を 用 い た。 GAD-7は7項目で構成されており,評価症状は 「0:全くない」,「1:数日」,「2:半分以上」「3: ほとんど毎日」までの4件法で回答を求め,総得 点(0−21点)を算出した。症状評価は,0−4 点は不安症状はなし,5−9点は軽度,10−14点 は中等度,15−21点は重度である。村松(2010) によって日本語版GAD-7の妥当性は確認されてい る。本研究でのCronbachのα係数は.86であった。 手続き 本調査は無記名式インターネット調査によって51
大学生におけるCompulsive Sexual Behaviorと精神的健康及びエフォートフル・コントロールとの関連
SCSは男性の方が女性よりも有意に高かった [t (146.51) = 3.74, p < .001, d = 0.60](Table 2)。 さらに,SCSと各変数との関連性を検討するた め,Pearsonの積率相関を算出した(Table 3)。 SCSはPHQ-9やGAD-7で示される精神的健康の悪 さと弱い正の相関関係を示した。また,SCSは, EC合計及びEC下位尺度とも負の相関関係を示し た。特に,行動抑制の制御と中程度の相関関係を 示した。 最後に,CSBとECの関連を明らかにするために, EC下位尺度を説明変数,SCSを目的変数とする重 回帰分析を行った(Table 4)。参加者全体におい ては,SCSに対するEC下位尺度の説明率が有意で あった[R2 = .25, F (3, 146) =16.00, p < .001]。 特に,行動抑制がSCSに対して負の影響力を及ぼ していた(β= -.40, p < .001)。男性においても, SCSに対するEC下位尺度の説明率が有意であった [R2 = .53, F (3, 82) =30.22, p < .001]。特に,行 動 抑 制(β= -.66, p < .001)と 注 意(β= -.23, p = .01)が負の影響力を及ぼした。一方,女性におい ては,SCSに対するEC下位尺度の説明率は有意で なかった(R2 = .05, F (3, 60) =1.07, p = .37)。 名(15%),中等度から重度が3名(2%)。GAD-7 の症状評価では「なし」が97名(65%),軽度が 36名(24%),中等度が14名(10%),重度が3名 (2%)。 次に,各尺度の平均値の男女差を検討するため, 対応のないt 検定(両側)を行ったところ,PHQ-9,GAD-7,EC,行動抑制,行動始発,注意にお いて性別に有意な差はなかったが(ps > .05), かにするために,全ての対象者と男女別にお ける,SCS を目的変数,EC の下位尺度を説明 変数とする重回帰分析を行った。データ解析 に は , 統 計 解 析 ソ フ ト ウ ェ ア IBM SPSS Statistics22を用いた。 結果 各尺度の記述統計量を Table 1 に示す。本調 査における SCS 平均値は,井上他(2014)が 行った HIV 陽性者 を 対象にし た調 査( M = 19.26,SD = 6.35)よりも低かった。また,SCS のカットオフ値を上回るものは 5 名(3%,男 性 4 名,女性 1 名)であった。PHQ-9 の症状 評価では,「なし」が 65 名(43%),「軽度」が 59名(39%),中等度が 23 名(15%),中等度 から重度が 3 名(2%)。GAD-7 の症状評価で は「なし」が 97 名(65%),軽度が 36 名(24%), 中等度が 14 名(10%),重度が 3 名(2%)。 次に,各尺度の平均値の男女差を検討する ため,対応のない t 検定(両側)を行ったとこ ろ,PHQ-9,GAD-7,EC,行動抑制,行動始発, 注意において性別に有意な差はなかったが(ps > .05),SCS は男性の方が女性よりも有意に高 か っ た [t (146.51) = 3.74, p < .001, d = 0.60] (Table 2)。 さらに,SCS と各変数との関連性を検討す るため,Pearson の積率相関を算出した(Table 3)。SCS は PHQ-9 や GAD-7 で示される精神的 健康の悪さと弱い正の相関関係を示した。ま た,SCS は,EC 合計及び EC 下位尺度とも負 の相関関係を示した。特に,行動抑制の制御と 中程度の相関関係を示した。 最後に,CSB と EC の関連を明らかにするた めに,EC 下位尺度を説明変数,SCS を目的変 数とする重回帰分析を行った(Table 4)。参加 者全体においては,SCS に対する EC 下位尺度 の説明率が有意であった(R2 = .25, F (3, 146) =16.00, p < .001)。特に,行動抑制が SCS に対 して負の影響力を及ぼしていた(β= -.40, p < .001)。男性においても,SCS に対する EC 下 位尺度の説明率が有意であった(R2 = .53, F (3, 82) =30.22, p < .001)。特に,行動抑制(β= -.66, p < .001)と注意(β= -.23, p = .01)が負の影響力 を及ぼした。一方,女性においては,SCS に対 する EC 下位尺度の説明率は有意でなかった (R2 = .05, F (3, 60) =1.07, p = .37)。 考察
Compulsive Sexual Behavior の広がり
本研究の目的は,日本の大学生を対象とし て,Compulsive Sexual Behavior の広がり及び 特徴を明らかにすることであった。本研究に おいて,CSB 傾向を測定する尺度として用い た SCS は,井上他(2017)の平均値よりも低 い結果であった。SCS は,HIV 陽性になる人は Sexual Compulsivity 傾向が高いことを想定し た上で作成していることからも(Kalichman et 男性 (n = 86) 女性 (n = 64) SCS 16.58 (5.85) 13.33 (4.80) 注)SCS:Sexual Compulsivity Scale.
M SD Min Max SCS 15.19 5.65 10 36 PHQ-9 5.63 4.22 0 23 GAD-7 4.13 3.93 0 21 EC 89.73 14.56 53 129 行動の抑制 31.07 5.07 14 43 行動の始発 29.59 6.82 14 47 注意の制御 29.06 6.57 15 47 Table 1 各変数の記述統計 注) EC:エフォートフル・コントロール,GAD-7:Generalized Anxiety disorder-7,PHQ-9:Patient Health Questionnaire-9,SCS:SexualCompulsivity Scale. 分析として,Pearson の積率相関を算出した。 第三に,CSB と注意の実行機能の関係を明ら かにするために,全ての対象者と男女別にお ける,SCS を目的変数,EC の下位尺度を説明 変数とする重回帰分析を行った。データ解析 に は , 統 計 解 析 ソ フ ト ウ ェ ア IBM SPSS Statistics22を用いた。 結果 各尺度の記述統計量を Table 1 に示す。本調 査における SCS 平均値は,井上他(2014)が 行った HIV 陽性者 を 対象にし た調 査( M = 19.26,SD = 6.35)よりも低かった。また,SCS のカットオフ値を上回るものは 5 名(3%,男 性 4 名,女性 1 名)であった。PHQ-9 の症状 評価では,「なし」が 65 名(43%),「軽度」が 59名(39%),中等度が 23 名(15%),中等度 から重度が 3 名(2%)。GAD-7 の症状評価で は「なし」が 97 名(65%),軽度が 36 名(24%), 中等度が 14 名(10%),重度が 3 名(2%)。 次に,各尺度の平均値の男女差を検討する ため,対応のない t 検定(両側)を行ったとこ ろ,PHQ-9,GAD-7,EC,行動抑制,行動始発, 注意において性別に有意な差はなかったが(ps > .05),SCS は男性の方が女性よりも有意に高 か っ た [t (146.51) = 3.74, p < .001, d = 0.60] (Table 2)。 さらに,SCS と各変数との関連性を検討す るため,Pearson の積率相関を算出した(Table 3)。SCS は PHQ-9 や GAD-7 で示される精神的 健康の悪さと弱い正の相関関係を示した。ま た,SCS は,EC 合計及び EC 下位尺度とも負 の相関関係を示した。特に,行動抑制の制御と 中程度の相関関係を示した。 最後に,CSB と EC の関連を明らかにするた めに,EC 下位尺度を説明変数,SCS を目的変 数とする重回帰分析を行った(Table 4)。参加 者全体においては,SCS に対する EC 下位尺度 の説明率が有意であった(R2 = .25, F (3, 146) =16.00, p < .001)。特に,行動抑制が SCS に対 して負の影響力を及ぼしていた(β= -.40, p < .001)。男性においても,SCS に対する EC 下 位尺度の説明率が有意であった(R2 = .53, F (3, 82) =30.22, p < .001)。特に,行動抑制(β= -.66, p < .001)と注意(β= -.23, p = .01)が負の影響力 を及ぼした。一方,女性においては,SCS に対 する EC 下位尺度の説明率は有意でなかった (R2 = .05, F (3, 60) =1.07, p = .37)。 考察
Compulsive Sexual Behavior の広がり
本研究の目的は,日本の大学生を対象とし て,Compulsive Sexual Behavior の広がり及び 特徴を明らかにすることであった。本研究に おいて,CSB 傾向を測定する尺度として用い た SCS は,井上他(2017)の平均値よりも低 い結果であった。SCS は,HIV 陽性になる人は Sexual Compulsivity 傾向が高いことを想定し た上で作成していることからも(Kalichman et 男性 (n = 86) 女性 (n = 64) SCS 16.58 (5.85) 13.33 (4.80) Table 2 性別におけるSCSの平均値と標準偏差
注)SCS:Sexual Compulsivity Scale.
M SD Min Max SCS 15.19 5.65 10 36 PHQ-9 5.63 4.22 0 23 GAD-7 4.13 3.93 0 21 EC 89.73 14.56 53 129 行動の抑制 31.07 5.07 14 43 行動の始発 29.59 6.82 14 47 注意の制御 29.06 6.57 15 47 Table 1 各変数の記述統計 注) EC:エフォートフル・コントロール,GAD-7:Generalized Anxiety disorder-7,PHQ-9:Patient Health Questionnaire-9,SCS:SexualCompulsivity Scale.
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発達心理臨床研究 第26巻 2020 ていることが示され,CSBDの発症・維持プロセ スに実行機能の働きが関係しているというBrand et al.(2019)を支持する結果であった。さらに, 男性では,ECの行動抑制の制御と注意の制御の 低さが,CSBとの関係を示した。つまり,「不適切 な接近行動を抑制する能力」と「必要に応じて, 集中したり注意を切り替えたりする能力」がCSB と関連している可能性が示唆される。行動抑制に 優れた人は,不適切な反応を生じやすい際に,そ の 抑 制 が 容 易 で あ る と さ れ て い る( 山 形 他, 2005)。また,注意の制御が優れている人は,不 適切な情報を抑制し,適切な情報に注意をむける ことが得意とされている(山形他, 2005)。特に, CSB傾向の高い男性は,性的に露骨な刺激に対し て,早く注意を方向づける注意バイアスを示すこ とが報告されている(Mechelmans et al., 2014)。 さらに,性的行動の意思決定には,抑制制御が関 係している (Brand et al, 2019)。これらのことか ら,男性において,注意の制御の低さが,性的な 情報により注意を向けやすくしている可能性が考 えられる。そして,行動抑制の低さが,性的な刺 激に対しての接近反応を導く可能性が考えられる。 一方,女性では,エフォートフル・コントロー ルはCSBを説明しなかった。Brand et al.(2019) によると,発症・維持プロセスに関係する要因は, 実行機能の他に,幼少期のネガティブ体験や,パー ソナリティ特性,コーピングスタイル,精神病理 が影響すると考えられている。このことから,女 性の反復的な性的行動や衝動に関係する要因は, 男性と異なる可能性が考えられる。現在,女性に 焦点を当てた研究が不足していることは指摘され ており(Kraus et al., 2016),今後は女性を対象 とした際のCSBDの関連要因を検討する必要があ る。 今後の課題 第一に,本研究においては,CSBDの多くは青 年期に発症するため(Reid et al., 2012b),大学 生を対象に調査を行ったことが挙げられる。つま り,日本におけるCompulsive Sexual Behavior の 考察
Compulsive Sexual Behaviorの広がり
本研究の目的は,日本の大学生を対象として, Compulsive Sexual Behaviorの広がりや特徴を明 らかにすることであった。本研究において,CSB 傾向を測定する尺度として用いたSCSは,井上他 (2017)の平均値よりも低い結果であった。SCS は,HIV陽性になる人はSexual Compulsivity傾向 が高いことを想定した上で作成していることから も(Kalichman et al., 1994; Kalichman & Rompa, 1995),HIV陽性者を対象とした時より も大学生を対象とした時の方が,CSBD傾向が低 い可能性が考えられる。しかし,井上他(2017) のカットオフ値を上回る者は3%存在し,大学生 を対象とした時でも,先行研究で示された有病率 (Kafka, 2010)をおおむね支持する結果であった。 つまり,諸外国と同様に,日本の大学生を対象と した時でも,CSBのリスクを抱えた者が一定数存 在することが示唆される。 また,CSB傾向は女性よりも男性で高いこと, 抑うつや不安といった精神的健康と関係すること が示された。この結果は,CSBは,男性に多く (Kraus et al., 2016; Reid et al., 2012a),抑うつ や不安といったネガティブな感情や,ストレス体 験の対処方略として性的行動を行うという特徴を 一部支持する(Kafka, 2010; Reid et al., 2012b)。 本研究が相関デザインであることを考慮すると, 対処方略としての性的行動なのか,過剰な性的行 動によって不快な感情になるのかの明確な因果関 係については,言及することは出来ない。しかし, 精神的健康の悪さとCSB傾向との間に相関関係が みられることから,臨床場面への提言として, CSB傾向を持つ大学生への支援では,精神的健康 の悪影響を踏まえることが重要であると示唆され る。
Compulsive Sexual Behaviorと実行機能
本研究におけるCSBは,実行機能と関連する概 念であるエフォートフル・コントロールと関係し
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Yushun Okabe*, Fumito Takahashi**, Daisuke Ito* *Graduate School of Education, Hyogo University of Teacher Education
**Institute of Education, Shinshu University
The purpose of this study was to clarify the relationship between Compulsive Sexual Behavior (CSB) and mental health, and Effortful Control in Japan. An internet survey was conducted with 150 university students using scales that measured CSB, depression, anxiety, and effortful control. As a result of the survey, it was indicated that the tendency of CSB is higher in men than in women, and there are a certain number of people who cannot control sexual behavior and may interfere with daily life. Furthermore, high CSB tendency was related to depression and anxiety. It was suggested that the Inhibitory Control and the Attentional Control of Effortful Control are related to CSB in men. Finally, suggestions on the onset of CBT and the process of maintaining CSB, the limitations of this study, and future issues were discussed.