小学校における健康に関わるモラルジレンマ授業の研究
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(2) 目. 次. 第1章 序論. 第1節 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 1 第2節 健康の概念・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 1. 第3節 健康教育の必要性・・・・・・・・・・・・・・…. 2. 第4節 健康教育について・・・・・・・・・・・・・・…. 4. 第1章の引用文献・・・・・・… ●・●●’”●’●’●’9. 第2章 健康教育とモラルジレンマ授業. 第1節 健康教育と道徳教育の関連・・・・・・・・・・・…. 11. 第2節 道徳教育の充実・・・・・・・・・・・・・・・・…. 13. 第3節 モラルジレンマ授業を支える道徳性認知発達段階理論・・16 第1項 コールバーグ理論の概要・・・・・・・・・・・…. 16. 1 認知能力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 20. 2 役割取得能力・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 21. 第2項 道徳教育への適用・・・・・・・・・・・・・・…. 26. 第3項 日本におけるコールバーグ理論の実践研究・・・…. 28. 1 モラルジレンマ資料・・・・・・・・・・・・・・…. 29. 2 モラルジレンマ授業の進め方・・・・・・・・・・…. 31. 第2章の引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 36.
(3) 第3章 健康に関わる問題を素材としたモラルジレンマ授業. 第1節 目的と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 40 第1項 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 第2項 方法・・・・・…. ♂・・・・・・・・・・・…. 40 41. 1 授業対象者と授業者・・・・・・・・・・・・・・…. 41. 2 期間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 41. 3 資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 41. 4 授業実践計画・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 50. 第3項 分析の方法・・・・・・・・・・・・・・・・・… 1 判断理由づけを中心とした分析・・・・・・・・・…. 52 52. 2 5主題10時間を通した道徳性の発達段階における縦断的な 変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 52. 3 道徳性発達検査による分析・・・・・・・・・・・…. 52. 4 役割取得能力検査による分析・・・・・・・・・・…. 52. 5 感想文による分析・・・・・・・・・・・・・・・…. 53. 6 「健康」という言葉に対する意識調査の分析・・・…. 53. 7 学習意欲と授業評価の分析・・・・・・・・・・・…. 53. 第2節 判断理由づけを中心とした分析(授業の結果と考察)・・54 第1項 授業「さち子さんの誕生会」の分析・・・・・・…. 54. 1 資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 54. 2 学習過程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 56. 3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 60. 第2項 授業「歯医者の予約」の分析・・・・・・・・・… 1 資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 65 65.
(4) 2 学習過程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・…. 、…. 67 71. 第3項 授業「なかよし遠足」の分析・・・・・・・・・…. 78. 1 資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 78. 2 学習過程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 80. 3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 84. 第4項 授業「お父さんのビール」の分析・・・・・・・…. 90. 1 資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 90. 2 学習過程・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 92. 3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 96. 第5項 授業「残ったおかず」の分析・・・・・・・・…. 105. 1 資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 105. 2 学習過程・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 107. 3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 109. 第3節 5主題10時間を通した道徳性の発達段階における縦断的な 変化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 115. 第4節 5主題授業実践の前後における道徳性発達段階の変容・119 第1項 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 119. 第2項 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・…. 120. 第5節 5主題授業実践の前後における役割取得能力の変容・・126 第1項 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 126. 第2項 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・…. 127. 第6節 5主題終了後の感想文による分析・・・・・・・… 131. 第1項 「さち子さんの誕生会」の感想から・・・・・… 132 第2項 「歯医者の予約」の感想から・・・・・・・・…. 136.
(5) 第3項 「なかよし遠足」の感想から・・・・・・・・…. 142. 第4項 「お父さんのビール」の感想から・・・・・・…. 148. 第5項 「残ったおかず」の感想から・・・・・・・・…. 155. 第7節 「健康」という言葉に対する意識調査の分析・・…. 162. 第1項 連想を構成する単位1「体を動かす」について…. 166. 第2項 連想を構成する単位2「元気な心」について・…. 167. 第3項 連想を構成する単位3「食べる」について・・…. 167. 第4項 連想を構成サる単位4「病気」について・・・…. 169. 第5項 連想を構成する単位5「薬物」について・・・…. 170. 第8節 学習意欲と授業評価の分析・・・・・・・・・・…. 172. 第1項 モラルジレンマ授業全体についての感想から・…. 173. 第2項 1主題2時間の授業についての回答人数とその理由・178 第3項 オープンエンド資料についての回答人数とその理由・180 第4項 モラルディスカヅションについての回答人数とその. 理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 182. 第3章の引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 184. 第4章 全体の考察と今後の課題. 第1節 全体の考察・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 186. 第1項 判断理由づけを中心とした分析から・・・・・… 189 第2項 5主題10時間を通した道徳性の発達段階における縦断 的な変化から・・・・・・・・・・・・・・・…. 189. 第3項 5主題授業実践の前後における道徳性発達段階の変容.
(6) から・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 。。189. 第4項 5主題授業実践の前後における役割取得能力の変容か ら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 190. 第5項. 5主題終了後の感想文による分析から・・・・…. 190. 第6項. 「健康」という言葉に対する意識調査による分析から・190. 第7項. 学習意欲と授業評価の分析から・・・・・・・…. 第2節. 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 191 192. 第4章の引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 193. 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…. 195. 謝辞. 巻末資料.
(7) 第1章 序論. 第1節 はじめに. 1996年度の第15期中央教育審議会第一次答申「21世紀を展望 した我が国の教育の在り方について」で、今後の学校教育の在り方とし て「ゆとり」の中で「生きる力」を育成することが強調された。その中 で指摘されている「生きる力」とは、「いかに社会が変化しようと、自. 分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よ りょく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他人 とともに協調し、他人を思いやる感動する心など、豊かな人間性」であ る。それに加えて「たくましく生きるための健康や体力が不可欠である ことはいうまでもない」とし、このような資質や能力を「生きる力」と. している。つまり、健康や体力は「生きる力」の基盤としていて、学校 教育において健康に関する学習が大変重要であることを意味している。. 第2節 健康の概念 WHOでは健康の定義(1946)を「健康とは、身体的、精神的、社会的 にも良好な状態であり、疾病がないということだけではない」1)として いる。. また、オタワ憲章(WHO,1986)では、「健康増進とは、人々が自らの. 健康をコントロールし、改善する能力を向上させるプロセスである」と 表現され、加えて、「健康とは毎日の生活を送る資源なのであって、生 きていくことの目的ではない。健康というのは身体的能力であるばかり でなく、社会的ならびに個人的な資源である」2)とされている。. WHO執行理事会(1998)において、 WHO憲章全体の見直し作業の中 .1..
(8) で、「健康」の定義を「完全な肉体的(physica1)、精神的(mentaD、霊的 (串pidtua1)及び社会的(social)福祉の動的(dynamic)な状態であり、単に疾病. 又は病弱の存在しないことではない」3)と改めることが議論された。同 理事会では、spidalalityは人間の尊厳の確保やQuality of Life(生活の質). を考えるために必要な本質的なものであるという意見が出された。また、. dynamicについては、「健康と疾病は別個のものではなく連続したもので. ある」という意味づけの発言がなされている。このことは、「健康」の 確保において生きている意味・生きがいなどの追求が重要との立場から 提起されたものと理解される。. その後、「健康」の定義の改正案が、第52回WHO総会(1999)で、議 題として取り上げられはしたものの、健康の定義に係る前文の改正案を 含めその他の憲章に係る改正案と共に一括して、審議しないまま事務局 長が見直しを続けていくこととされた4)。. このことから、現代のように複雑・多様化した社会においては個人の 価値観、生活様式は様々に異なっているので、健康についても、個人や 集団の生命や生存を維持し、存続させ、生活や人生を高めていくという、 より積極的な見方が提唱されていることが分かる。. そこで、筆者はオタワ憲章やWHO執行理事会で論じていることを基 調とし、「健康とは、一定の正常な状態を指す概念ではなく、毎日の生 活を生き生きと自分らしく過ごすことができるように自分自身の健康度 をより高めていく過程」と捉えることとする。. 第3節 健康教育の必要性 私たちの生活が充実したものであるためには、どうしても「健康」で なければならない。児童生徒たちの将来が幸せであるための最低の要件 .2..
(9) も「健康」である。. 教育は、児童生徒の自己実現を支えるためになされている。どれほど 豊富な知識があっても、また、いかに優れた技能を持っていても、健康 でなかったらそれらは十分に生かされないし、子どもの夢も希望も叶え られない。. 改めて、学校教育においても「健康教育」の重要さを確認することが できる。. しかし、筆者を含めて学校教育に携わる者は、健康のありがたさ、健 康教育の重要さについては十分に認識していても、学校教育を推進する 上で、具体的にその線で進めているか、成果を挙げているか、と問われ ると戸惑いを禁じ得ない。. それは、現在、あまりにも多くの緊急を要する教育課題を抱えていて、 それに振り回されているからともいえる。. 石川(1998)は、「人生80年代の時代を迎え、高齢化社会の進展とと もに、その『生活の質(生命の質)』の在り方が問われており、『健康に生. きること』、『生きがいをもって生きること』が大切であるとの価値観が. 定着してきている。また、活力ある社会を維持していくためにも、国民 が『健康に生涯を送ること』が極めて重要な課題となっている」5)と健 康教育の重要性を述べている。. また、保健体育審議会答申(1997)では、「健康教育の目標は、時代を. 越えて変わらない健康課題や日々生起する健康課題に対して、一人一人 がよりょく解決していく能力や資質を身に付け、生涯を通して健康で安 全な生活を送ることができるようにすることである。このためにも、健 康教育においては、単に知識を習得するためだけに行われるものではな く、自分自身の心と体を大切にし、高めることが大切であるという内面. .3..
(10) に根ざした人としての価値観を身に付け、知識を実践に生かす態度の育 成を重視する必要がある」6}と健康教育が目指すことを述べている。. そして、同答申では、「児童生徒に対する健康教育は、児童生徒が、. 発育・発達の著しい時期であることなどから、他のライフステージにお ける健康に関する教育・学習は代替できない重要な意義と役割を持って. いる。このため、児童生徒期については、生涯を通じて心身ともに健康 で安全な生活を送るための基礎を培うという観点から、学校において組 織的・体系的な教育活動を行うことは極めて重要である」7}と、生涯に わたる健康教育の中でも、学校教育で行う健康教育の意義を述べている。. 第4節 健康教育について. 昭和62年に出された教育課程審議会答申に「健康教育の一層の充実 を図るため、健康科学を基盤として…. 」8)と記され、文部省管の公. 的文書のなかに、健康教育という用語が登場した。. そして、昭和63年に文部省体育局長名で出された通知「健康教育の 推進と学校健康教育課の設置について」のなかに「健康教育とは、心身 の健康保持増進を図るために必要な知識及び態度の習得に関する教育を いう。…. 初等中等教育においては、教科『体育』及び『保健体育』. の『保健』で心身の健康・安全全般についての知識を習得させるととも に、『家庭』等の他の教科や『道徳』等でも健康に関する内容を扱って おり、また保健指導、安全指導、学校給食など、特別活動や日常的指導 を通じて健康な生活に関する態度を習得させることとしているが、学校 における健康教育とは、これらを指すものであること」9}と記されてい る。. このことから、学校における健康教育という用語は、保健教育の他に. .4一.
(11) 安全教育、学校給食指導や体力づくりなどを含んだものであると考える。. では、実際に、学校教育の中でどのように健康教育を進めていったら よいのだろうか。. 中央教育審議会答申(1996)の中で、「家庭や地域社会に見られる教育. 力の低下は、大きくは、戦後の経済成長の過程で、社会やライフスタイ. ルの変容とともに生じてきたものと言わなければならない」10)と述べ ている。. また、保健体育審議会答申(1997)の中では、「人生をいかに充実して. 過ごすか、人生80年時代にふさわしい新たなライフスタイルの構築が 求められている。… 健康教育・学習により、生涯にわたる心身の健 康の保持増進に必要な知識、能力、態度及び習慣を身に付けることを通 じ、たくましく生きる意志と意欲、価値観を形成するなど、生きる力を はぐくむとともに、長期化する人生の全生涯にわたって、活力ある健康. 的なライフスタイルを築くことができるものと考える」19と述べられ ている。. さらに、小学校体育科については、教育課程審議会答申(1998)の趣旨. を踏まえて、「保健については、生涯を通じて自らの健康を適切に管理 し、改善していく資質や能力の基礎を培うため、健康の大切さを認識し、 健康なライフスタイルを確立する観点に立って、内容の改善を図ること」 12}として今回の指導要領の改訂を行った。. これらのことから、健康教育の目的は、心身の健康の保持増進であり、. そのためには、健康なライフスタイルを確立しなければならないという ように解釈することができる。. ライフスタイルについて山本(1995)は、「心理学では人々が選ぶ消費. 行動パターンについて、ライフスタイルという言葉が使われたが、今で. .5..
(12) は個々人の日常的な具体的生活習慣をあらわすとともに、より抽象化さ れた個人の生きざま、健康に対する考え、人生観などを表現する用語と してさまざまに用いられている。いうならば、選好的な生活行動パター ンのことである」13)と述べている。. また、武田(1995)は、「ライフスタイルという概念には、単に具体的. な日常の基本的生活習慣を表すだけでなく、個人の生きざまや健康観、 人生観ともいうべき抽象概念をも包括しているのであって、学齢期から 思春期にかけて、どのような教育環境のもとで、どのようなライフスタ. イルが形成されてきたかが、その後の数十年間の生涯にわたる健康生活 を遠隔的に大きく左右することになる」14}と、ライフスタイルの重要 性を述べている。. 川田(1995)は、ライフスタイルの変容について、「行動の変容のみに. 注目していたのではライフスタイルの変容はできないと考える。目標行 動の変容に注目すると同時に、自己判断・自己決定能力を獲得すること が必要である。なぜかというと、ライフスタイルは多様性があり、種々 の条件がからみあったなかである行動が採用されたり採用されなかった りするのであり、いくら健康面にとって重要な行動でも、ある時は意識 的に採用しなくても理由がはっきりしていればよいと思う。むしろはっ きりした意志が大切なのである」15)と述べている。. ジョン・W・トラビス(1988)は、健康把握のモデル16)を図1−1の 氷山の一角で捉え、健康と病気の認識を明らかにしている。. 一6.
(13) 康状態. 宴Cフスタイル・行動 心理的レベル 深層心理的レベル. 図1−1 ウエルネスの氷山モデル(『Travis&Ryan、1988). そして、その中で「健康というと、たいていの人は病気でないことを 思い浮かべる。ここにあげたのは、氷山をたとえにしたものである。水 面上の氷山の一角は、病気であるにせよ、健康であるにせよ、我々の健 康状態をあらわす。もし、氷山の一角が不快なら、けずり取ることは可 能である。でも、ある部分をとり除いたとしても、それに代わるものが 浮上してくるのが普通である。水面下には、同じものがもっとあり、機 会があればあらわれてくるのだ。つまり、水面下にいくつかの層がある と考えると、水面直下の層は行動レベルをあらわす。何を食べ、身体を どのように使い、運動させているか。どのようにリラヅクスし、ストレ スを解消しているか。身のまのりの危険なものから、どう自分自身を守 っているか。総合すれば、ライフスタイルということになる。多くの人 たちは、自分にとっても地球にとっても破壊的だとわかっていながら、. そういう生き方をしている。でも、それを変えることはとてもできそう にない。この現象を理解するには、さらに深い心理的レベルを見なけれ ばならない。ここでは、自分が選んだ生き方を、何がさせているかがわ かる。たとえば、太りすぎ、喫煙、無謀な運動の後にくる報いとは何か、. よいものを食べ、他人に思いやりを持ち、決まった運動をするとどんな .7一.
(14) 利益があるのか、などがわかる。心理的層の下は、深層心理的レベルで ある。それは、生命の誕生と存在にかかわるレベルである。そうしたこ とに関心と疑問を持つか、持たないかが、その上の層全部の基本となる。. それが上の層まで浸透した結果、私たちの健康状態をあらわす氷山の一 角が、病気か健康かを決定するのである」1ηと述べている。 また、保健体育審議会答申(1997)では、健康教育の目標として、「健 康の価値を認識する」という表現がある。. これらの考え方から、筆者は、健康なライフスタイルを確立するため には、特に健康に関する心情面に重点をおき、健康に関する価値的な側 面を重視した学習を進めていく必要があると考える。. .8.
(15) 〈第1章の引用文献〉. 1)World Health Organization 1946 Magna Carta for the WHO,The Constitution of. the WHO.Geneva:WHO 2)Wo且d Health Organization 1986 Health and Welfare CImada,Public Health Association,Ottawa Charter for Health Pq)motion.Otawa:WHO 3)Wodd Health Organization. Definition of Health(Preamble). Executive Board, 101醗Session。EB101/1998/Rec/2.40−43.. 4)Wodd He田th Organization. Amendmentsめthe Constitutlon:Item 160f the Agenda(Document A52/24). Fifty−Second Wodd Health Assembly. A52/B/SR/3. 8−10.. 5)石川哲也 1998 健康教育の課題と展望. 「体育科教育」3月別冊. 大門門書店 p.45. 6)文部省 1997 保健体育審議会答申 7)前掲書6). 8)文部省 1987 教育課程審議会答申 9)文部省 1988 健康教育の推進と学校健康教育課の設置について 10)文部省 1996 中央教育審議会答申 11)前掲書ω. 12)文部省 1999 小学校学習指導要領解説体育編 東山書房 p.5. 13)山本多喜司 1995 ライフサイクルと健康教育 健康教育の心理学 肥田野直・本明寛・山本多喜司監修 実務教育出版 p.86. 14)武田三太郎 1995 保健三教育法:新しい健康教育の展開 ぎょう せい まえがき. .9.
(16) 15)川田智恵子 1995 ライフスタイルの変容と健康教育 「健康観の 転換」園田恭一・川田智恵子編 東京大学出版会 p.240 16)シ“ヨン・W・トラヒ“ス/レシ“一ナ・S・ライアン共著 1988 ウエルネスワークブヅク. 日本ウエルネス協会監修 p.14 17)前掲書16)p.14. 一10.
(17) 第2章 健康教育とモラルジレンマ授業. 第1節 健康教育と道徳教育の関連 小学校における健康教育については、小学校学習指導要領第1章総則 の第1教育課程編成の一般方針3に「体育・健康に関する指導」として 触れられている。詳しくは、小学校学習指導要領解説総則編で以下のよ うに述べている。「これからの社会を生きる児童に、生涯にわたり心身 ともに健康で活力ある生活を送るための基礎的な健康や体力をはぐくむ ことは極めて大切である。…. 体育・健康に関する指導は、健康・安. 全で活力ある生活を営むために必要な資質や習慣を育て、心身の調和的 な発達を図ることをねらいとするものである。・・身近な生活における 健康・安全に関する知識の理解や活動を通じて自主的に健康で安全な生 活を実践することのできる資質や能力を育成し、生涯にわたり楽しく明 るい生活を営むための基礎づくりを目指したものである。このような体 育・健康に関する指導は、体育科の時間だけでなく、関連の教科や道徳、. 特別活動のほか、総合的な学習の時間なども含めた学校の教育活動全体. を通じて行うことによって、その一層の充実を図ることができる」D. また、道徳教育については、同章の第1教育課程編成の一般方針2に 「学校における道徳教育は、学校の教育活動全体を通じて行うものであ. り、道徳の時間をはじめとして各教科、特別活動及び総合的な学習の時 間のそれぞれの特質に応じて適切な指導を行わなければならない。道徳 教育は、教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づ き、人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭、学校、その他社会 における具体的な生活の中に生かし、豊かな心をもち、個性豊かな文化 の創造と民主的な社会及び国家の発展に努め、進んで平和的な国際社会 .11一.
(18) に貢献して未来を拓く主体性のある日本人を育成するため、その基盤と しての道徳性を養うことを目標とする」2)と示されている。人間尊重の. 精神は、日本国憲法に記述されている「基本的な人権の尊重」や教育基 本法の「人格の完成」を貫く基本的な精神であり、健康、生命、人間愛 など、心身ともに健康な人間の育成が根底にある。 また、小学校学習指導要領解説道徳編の各教科における指導のケでは、. 「体育科においては、『心と体を一体としてとらえ、適切な運動の経験 と健康・安全についての理解を通して、運動に親しな資質や能力を育て. るとともに、健康の保持増進と体力の向上を図り、楽しく明るい生活を 営む態度を育てる。』となっている。健康と安全の指導は、道徳の内容 にも含まれている。また、楽しく明るい生活を営む態度の育成は、道徳 教育の基本でもある」3}と示している。. 以土のことから、身体の健康と心の健康の育成は、教育の目標であり、. 健康教育の目標と道徳教育の目標は不離一体のものといえる。健康教育 と道徳教育は、学校教育を進めるうえでも十分関連性を保ち進めなけれ ばならないことが分かる。. ところで、体育科の領域は大きく「運動」と「保健」とに分かれてい る。「健康」という言葉は、特に保健領域において使われている。小学. 校学習指導要領解説体育編では、保健領域の内容とねらいを次の表2− 1ように示している4)。. 表2−1 小学校体育科保健領域の内容とねらい ア 毎日の生活と健康(3年生で4時間の指導) 健康を保持増進するには、健康の大切さを認識するとともに、家庭や学校における 毎日の生活に関心をもち、健康によい生活の仕方を理解できるようにすることがねら いである。. イ 育ちゆく体とわたし(4年生で4時間の指導) 体の発育・発達についての一般的な現象についての理解とともに、思春期の体の変 化などについて理解できるようにすることがねらいである。 12.
(19) 表2−1(続き). ウ けがの防止(5年生で5時間の指導) けがを防止するには、けがの発生要因や防止の方法について理解できるようにする とともに、けがが発生したときは、その症状の悪化を防ぐために適切な手当ができる ようにすることをねらいとしている。. 工 心の健康(5年生で3時間の指導) 心の健康については、心も体と同様に発達すること及び心と体は密接な関係がある ことについて理解できるようにするとともに、心の発達に伴い生じてくる不安や悩み に対して、適切な対処の仕方があることを理解できるようにすることがねらいである。 オ 病気の予防(6年生で8時間の指導). 病気を予防するには、病気の発生要因や予防について理解し、予防のための適切な 対策を考えて行動することができるようにすることがねらいである。. このように、「知識・理解」が中心に述べられていることが分かる。. また、決まった内容を心と身体をばらばらに決まった学年で扱わなけれ ばならない。しかし、自分の健康に気をつけ、その維持に努めるには、 自分との関わりで考えさせ、健康の価値を自覚させることが大切である。. このような体育科の保健領域だけをもって「心の健康」を伝えることに は無理があろう。. そこで、健康の価値の内面的自覚のためには、人間としてよりょく生 きるための基礎・基本となる道徳性を育成することに意義があり、道徳 の時間を利用する必要性をもったのである。. 第2節 道徳教育の充実 小学校学習指導要領第3章道徳の第1目標に「道徳教育の目標は、第 1章総則の第1の2に示すところにより、学校の教育活動全体を通じて、 道徳的な心情、判断力、実践意欲と態度などの道徳性を養うこととする。. 道徳の時間においては、以上の道徳教育の目標に基づき、各教科、特別 活動及び総合的な学習の時間における道徳教育と密接な関連を図りなが ら、計画的、発展的な指導によってこれを補充、深化、統合し、道徳的 一13..
(20) 価値の自覚を深め、道徳的実践力を育成するものとする」5)と示してい る。. また、小学校学習指導要領解説道徳編には、道徳性について「道徳性 とは、人間としての本来的な在り方やよりよい生き方を目指してなされ る道徳的行為を可能にする人格的特性であり、人格の基盤をなすもので. ある。それはまた、人間らしいよさであり、道徳的諸価値が一人一人の 内面において統合されたものといえる。…. 道徳性は、人間が人間と. して共によりょく生きていく上で最も大切にしなければならないもので ある」6)と示している。そして、この道徳性の側面としての道徳的判断. 力、道徳的心情、道徳的態度、実践意欲の向上を図ることによって道徳 性を発達させ、道徳的実践力を育成することとなっている。ここでいう 道徳的実践力とは、小学校学習指導要領解説道徳編で、「人間としてよ りょく生きていく力であり、一人一人の児童が道徳的価値を自分の内面. から自覚し、将来出会うであろう様々な場面、状況においても、道徳的 価値を実現するための適切な行為を主体的に選択し、実践することがで きるような内面的資質を意味している」7)と説明している。. 今まで述べてきた目標に向けて、道徳教育や道徳の時間が実践されて きたのだが、これまでの道徳の時間は、果たして望ましい在り方だっと いえるかどうかをみていぎだい。. 荒木(1993)は、「一般に行われている道徳授業では次のような指導原 理がとられている。①読み物資料(物語や伝記、作文など)を用いて、規 範となるモデルを示し、見習わせる。②先生が道徳的な価値についてその必 要性を説得し、確信をもたせる。③大人の容認する価値の中から子どもに価 値を選択させる。④規則によって統制し、考えるまでもなく受け入れられるよ. うにしつける。⑤規範や行為の基準に反する罪悪感や良心が働くように行為. .14一.
(21) を規制する」8)と示し、従来の道徳授業の問題点を指摘している。. また、金井(1997)は、児童への道徳授業に対する調査をもとに、児童. が道徳授業を楽しくないと感じる理由として「①友達の意見を聞いても 楽しくないから。②自分が本当に知りたいことや求めていることが学べ ないから。③資料の内容がつまらないから。④いつも同じような授業だ から」9)などをあげている。. つまり、金井のあげている児童が道徳授業を楽しくないと思う理由は、. 先に述べた荒木の道徳授業の問題点から生じると言っていいだろう。. これらの点を踏まえて、小学校学習指導要領解説道徳編では、道徳の 時間を実行するための新しい模索や、重点的な取り扱い、児童が喜び、. 楽しんで参加できる道徳授業の実現のために、数々の新しい改善の手だ てを提案しているが、その一部を次の表2−2に示す10》。. 表2−2 道徳の時間の指導について ○児童の発達や個に応じた指導の工夫 ○児童に教え込もうとしない ○多様な資料の開発と効果的な活用(児童が人間としての在り方や生き方など について多様に感じ、考えを深め、学び合う共通の素材) ○複数時間扱いの学習指導 ○発問の工夫(心が揺さぶれる発問など) ○話合いの工夫・(座席の配置の工夫、討議形式・グループやペアによる話合い など). さて、このような特徴をもち、内面的自覚を児童の中に促すための手 だてとして注目を浴びているのが道徳性認知発達段階理論に基づくモラ ルジレンマ授業である。. そこで、本研究では、モラルジレンマ授業の形態をとることにより、. 生涯を通じて健康な生活を送るために必要な健康に関わる道徳的判断力 や実践力を育てようと考えた。 .15..
(22) 第3節 モラルジレンマ授業を支える道徳性認知発達段階理論. 第1項 コールバーグ理論の概要 ハーバード大学教授、同道徳教育センター所長であったコールバーグ (Kohlberg,L 1971)は、「私は、デューイ(Dewer,J)、ミード(Mead,GH)、ボ. ールドウイン(Baldwin,M)、ピアジェ(PiagetJ.)、そして私自身の道徳理論. に共通する一連の仮説を指して『認知発達的』という言葉を用いてきま した。これらすべての学者は、自己と社会に関する概念の認知・構造的 な変化を表す道徳性の発達段階の存在を仮定しています。また彼らは、. この発達段階は社会状況の中で『人の立場で考える』一連の様式を表し ており、したがって発達の社会的環境決定要因は役割取得の機会だと仮 定しています。もっと一般的に言えば、これらの学者はすべて、自分の 知覚した環境を構造的に把握する積極的な子どもを仮定し、したがって 道徳性の段階やその発達は、ものを構造的にとらえる子どもの傾向と、. 環境の構造的特徴との間の相互作用を表していると仮定します。」m. と述べている。この「認知発達的」という言葉について、ヒギンズ (Higgins,A 1985)は、「認知的と呼ばれるのは、それが、道徳教育の基礎. は、知的教育と同様、道徳問題や道徳的決定に関する子どもの能動的な 思考を刺激することにあると認識したからです。これが発達的と呼ばれ るのは、道徳教育の目的は道徳性の段階の向上にあると考えているから です」12)と説明している。. つまり、コールバーグは表面的な道徳的行動や道徳的な知識の内容で はなく、道徳的判断の背後にあるより深い認知的な構造の質的変化に焦 点を当てて発達を捉え、発達段階を示そうとしたのである。. コールバーグはこのような立場をとる背景に、道徳教育に関する哲学. .16..
(23) 的考察と心理学的考察との統合した研究のあり方を規定しようとしたこ とを述べているま3)。 コールバーグ自身も道徳教育の目標について、「私. は、デューイやピアジェの説に従って、道徳教育の目標は、一人ひとり. の子どもの道徳的判断と道徳能力の『自然の』発達を促進し、それによ って、子どもが自分自身の道徳判断を用いて自分の行動をコントロール できるようにすることであると主張します」14)という言葉を用いて説 明し、哲学的基礎をデューイに求め、心理学的基礎をピアジェに求めて いる。つまり、教育あるいは道徳教育の目的は、より高い段階への発達 を促すことであり、その根拠は、哲学的には道徳的に十分な判断、すな わちより広い立場に普遍化可能な原則に基づく道徳判断に向かっての変 化であること、また、心理学的にはより均衡化された状態への普遍的な 発達段階であること、といえる15)。. ピアジェが考えた道徳性の発達の道筋は、彼の著書『子供の道徳判断』 (1932)の中で、子どもが道徳的規則を一方的に尊敬している大人から派. 生し、絶対的、永続的、神聖なもので変えることができなく、あたかも 実在すると考えてしまう道徳的実念論・他律的道徳の段階から、道徳的 規則は尊重しなければならないが大人により作られた絶対的なものでは なく、相互の同意に基づき社会的活動を調節するためのもので、同意が あれば修正できると考える道徳的相対論・自律的道徳の殺階へ向かうも のとしてまとめている。また、ピアジェは、子どもが他律的道徳から自. 律的道徳の段階に進むためには、(1)子どもの認知能力が発達するこ と、(2)他者との相互作用の中から協同の社会的な関係が起こってく. ることの2点に注目し強調している。そして他律から自律への道徳性の 発達に直接関わっている概念が自己中心性であり、この自己中心性から の脱却こそ、自律の道徳をもたらすと述べている16}。. .17..
(24) コールバーグはピアジェの他律から自律は発達段階の条件に合致して おらず、不十分なものであるとして、新たな発達段階一発達段階の条件 を満たす道徳判断の形式の発達を提唱した。荒木(1990a)は、この点に. ついて「ピアジェは『自律』を『外からの拘束、ないし強制によるもの. 以外はすべて自律である』とみなし、12歳頃にはそれをほぼ達成する と考えたようである。コールバーグは、これに対して『自律』を『普遍 的な倫理的原則に従うこと』として捉えている。そして、①道徳性が本. 来の意味で自律的となるにはさらに発達を遂げた25歳頃であるという こと、②道徳的規範や価値を内面化する社会化の過程を、社会の一員と して社会に適合していくと狭く考えるのでなく、慣習をも越えて個人の 理想の追求を追及することと捉えていること」17)とまとめている。 山岸(1991)は、このピアジェ・コールバーグの認知発達理論における における道徳性の捉え方の特徴を次のようにまとめている18)。. ①我々がもつ道徳的概念は、能動的に構成化さたものである(我々は道 徳的規範や概念を与えられたまま受け取るのではなく、自分なりのも のの見方に基づいて構成化する能動的存在である)。その構成化の仕 方の変化が道徳性発達の基本的な問題である。構成化の仕方はその背 後にある認知構造(発達段階をなす)によって決定される。. ②認知構造は個人と環境との相互作用の結果として生じ、発達は個人と 環境との相互作用がより均衡化される方向へと進む。. ③道徳的認知の発達には一般的な認知能力と社会的な経験が関与してい る。道徳的認知も一つの「ものの見方」であるため一般的な認知能力 が必要だが、同時に他者一社会との関係に関することであるため、他 二一社会(およびそれと自分との関係)に関する社会的な認知能力が 必要とされる。そしてそのような認知の発達は外界との相互作用の中 .18..
(25) で進展するのだから、他者一社会とどのような相互作用をもっている かが重要になる。. 一方、コールバーグ(1985)は、この道徳性の発達段階の概念は、次の ような特徴をもつと述べている19>。. ①段階とは、思考と選択における質的に異なる構造と形式であって、その 内容とは区別されるものである。. ②段階は「構造を持った統一体」すなわち、思考の組織化された体系であ. る。個人の道徳判断のレベルは、葛藤場面や規範が違っていても一貫 している。. ③段階は、一定不変の連続性を示している。極端な衝撃的体験を除くあ らゆる条件下で、段階の移行は常に前進的で、後退はありえない。. ④段階は「階層的に統合されたもの」である。高次の段階の思考は、低い 段階の思考をその内に包含もしくは統合している。可能な最も高い段階 で思考し、また最も高い段階を好む傾向がある。. また、コールバーグ(1971)は、道徳性の発達を促す直接的条件として、 次の3つをあげている20)。. ①道徳性の発達の前提となる認知発達と役割取得の能力の発達が促進さ れること。. ②自分の道徳的な考えを表明し、その欠点や不十分な点に気づく機会 (すなわち、道徳的認知構造に不均衡をもたらす機会)が生徒に与えら れること。. ③続いて、生徒の道徳的思考よりも均衡化されている、一つ高い段階の道 徳的思考に触れること(生徒の道徳的思考では、一貫した形で解決でき. ない道徳的問題を解決できる、一つ高い段階の道徳的思考に触れ、そ れを理解すること)。. 一19一.
(26) 荒木(2000)は、こうしたコールバーグ理論に基づいて、道徳教育の目. 標を、道徳性を子どもの達している段階よりもより高めるべく配慮がな されなければならないとした上で、子どもの道徳性をどう発達させるか という方法面において、発達を促す2つの要因である認知能力と役割取 得能力の関係を次の図2−1のようにまとめている21}。. 認 知 能. 年齢. 力. 道 徳 性 の. 水 準 形式的操作. III慣習以降の. @自律的、. 大人. 原理的原則. 発 達. 役割取得能力. 段 階 i六普遍的な倫理…的原則の道徳性. 全人類を含む. &ユ的な視点 }i五人権と社会福祉 社会システムに先. 高校生. II慣習的水準. 中学. 生. c の道徳性. @行ずる個人の視点. 1四社会システムの. 抽象的な社会. 遠ケ徳性. …i三対人的規範の. i道徳性. 具体的操作. 1前慣習的水準 @(可逆的). 生. i二個人主義、道具的な. @道徳性. Iな視点 他者との関係. ノおける視点 具体的な個人. @的な視点. i一他律的な道徳性 自己中心 的視点. 前概念的操作. iO自己欲求希求志向. 図2−1 道徳性の発達と構造(コールバーグ、荒木、2000、1990を修正). 1 認知能力 コールバーグ(1987)は、「段階の定義は、慣習的水準(段階3と4). にはピアジェの具体的操作が、また、原理的水準(段階5と6)には形 式的操作が必要である」22)とする。コールバーグのこのような考え方 の基本には、道徳性の発達を規定する大きな要因として認知能力23)を 捉えているのである。コーバーグは、認知能力の発達は必要条件ではあ るが、十分条件ではないとしている24)。. 荒木く1990a)は、「認知能力は世界を知り、自分と世界との間の適応 20.
(27) をはかる(均衡化)知的な能力」であり、「認知的な発達は、自分と世 界との間に生じた矛盾や疑問、混乱、不整合といった不均衡な状態を子 ども自らが行う自己調整によって解消することにより達せられる」25}. と述べている。また、道徳教育の観点からこの均衡化を取り土げて、荒 木(1990a)は「道徳的なジレンマを与えられ、その解決のために、同化. と調節のバランスをとる過程が均衡化である。このようなジレンマ課題 を繰り返し解決するという経験によって、認知構造が質的に変換し、ひ いては段階移行が行われる。この不均衡を生み出す機会として最適とい えるのが道徳的(モラル)ジレンマの経験である」26)と述べており、道 徳の時間への理論の適用の仕方に示唆を与えている。. 2 役割取得能力 コールバーグ(1969)は、「社会および道徳性の構造は、自己と似てい るが自己ではない他者の自己と、自分の自己との相互作用の構造である。. 異なった自己の持つ欲求が葛藤するという問題は、道徳性または道徳的 葛藤の問題である。そして、我々の各段階を定義している道徳的な判断 と選択の様々な構造は、そのような葛藤状況でなされる役割取得の様式 によってなされる」27)と述べ、また、「道徳的発達が、基本的に役割 取得の様式の再構造化のプロセスであるのなら、道徳的発達を促す基本 的な社会的入力は『役割取得の機会』といえる」28)とも述べている。. つまり、役割取得の概念は、道徳性の発達における中核的概念であり、道. 徳的葛藤にもとつく討論のなかで適切な役割取得の機会が与えられ、他者 の立場にたって問題を見つめ直したり、社会的な視点にたって問題を再考 することで、道徳性の発達が促されるというのである。. また、セルマン(Selman,1976)は、役割取得能力の発達を子どもの視点と他. 一21..
(28) の人の視点が分化し、視点間の調整がなされていく構造的変化の過程と考 えて、それを「社会的視点取得能力(soial perspective−taking ability)」の発達と呼. び、コールバーグの道徳性発達段階の第4段階まで対応させた段階表を作 成している(表2−1)29)。. .22.
(29) 表2−1 社会的視点取得と道徳性発達段階にみる構造の対比(荒木、1988) 道徳性判断の段階(Kohlberg). 社会的視点取得の段階(Selm{m). 段階0 一 未分化で自己中心の役割取得 (年齢の範囲3−6歳)注. 子どもは自己と他者が違うということを 知っているが、自己と他者それぞれのもの の見方(考え方や感じ方)を区別すること ができない。他者のあからさまにされた感 情を言葉で言い表すことができるが、社会 的な行為に関した原因と結果の関係を推論. 段階0 一 前慣習的ステージ 自己欲求希求志向 善悪の判断は結果がよいか悪いかによるも のであり、その意図や動機ではない。道徳的 な選択は自分にとってよいことが起こるとい う主体の欲求から引き出される。そして、選 択の理由の正当性を主張しようとするより、 子どもはただ選択することを主張する。. できない。. 段階1 一 分化と主観的な役割取得. 段階1. 罰回避し従順志向. (年齢の範囲5∼9歳). 子どもは他者のそれぞれの論証(理由づ け)に裏づけられた社会的なものの見方を しており、それがその子どものものの見方 と似ている場合も、似ていない場合もある ことに気がついている。しかしながら、子 どもはそれらの考え方を整合しようとする より、一つの見方にとらわれて答えようと. 子どもは権威や力といった一つの見方に固 執する。しかし、よい行いがよい意図や動機 に基づいていることを理解している。公平と いうことが平等という行為であることだと思 い始める。. する傾向にある。. 段階2 一 自己内省的/二人称と二者相. 段階2. 道具的互恵主義. 互の役割取得(年齢の範囲7議2歳). 道徳上の互恵的関係は、二人の間で意図や 人間はそれぞれに他者のものの見方を意 識でき、この意識が自己や他者の、考え方 動機に基づいて、相互にギブ・アンド・テイ や感じ方に影響し合っていることを子ども クのできる場合である。もしだれかが自分に は知っている。自分を他者の立場に置いて 対して意地悪くすれば、自分もその人にその 考えることが、その人の意図や目的や行動 ようにすればよい。正義とは自分にとって価 を判断する方法となる。子どもは他者の見 値ありと認められるものと定義される。 方を一つ一つ整合することができるが、そ れらを同時に、相互に関係づけ抽象するま でには至っていない。. 段階3 一 三人称と相互的役割取得. 段階3. よい子志向. (年齢の範囲10∼15歳). 正義は黄金律として定義される。自分にし しかも同時に主体として互いを見ることが てもらいたいと望むとおり、人にもそのよう できることを知っている。子どもは二人の にしなさいという。子どもはあらゆる見方を 人の外側に立って、第三者の視点からこの 考慮し、それぞれの動機を反映させて、すべ 二人の相互のやり取りを見ることができる。 ての参加者が一致をするべく努力する。 法と秩序維持志向 段階4 一 広範囲の慣習的、象徴的役割 段階4 取得(年齢の範囲12歳一大人) 相互的なものの見方をとることが分かる 正義は一般的他者、あるいは大多数の人の が、常にそれが完全な理解に向かうのでな ものの考え方によって定義される。人は行為 いことも知っている。そして社会的慣習は、 の結果がそのグループや社会にとり、どうい すべてのグループの成員(一般的他者)の う意味を持つかから考えるようになる。社会 立場や役割、経験にかかわらず必要である 道徳や社会的秩序を維持するように働きかけ 子どもは自己と他者の両方ともが相互に、. る。 ことが理解されている。 (注)年齢の範囲はセルマンの研究やわれわれの研究に基づいて概算したものである。. 23.
(30) 荒木(1992)は、こうした役割取得能力に関して、「相手の立場に立って心. 情をおしはかり、自分の考えや気持ちと同時に他者の考えや気持ちを受け 入れ、調整し、対人交渉に生かす能力のことを『役割取得能力(role−taking ability)』という。このなかには、①自他の観点の違いを意識すること、②他者. の感情や思考などの内的特性を推論すること、③さらに、それに基づいて自 分の役割行動を決定することの3つの機能が含まれている」30>と、そのもつ意 味を述べている。. 荒木(2000)は、コールバーグが1976、1984年に再定義した道徳性発 達段階と社会的視点と役割取得の様式をまとめ直して道徳性の発達を再定 義している(表2−2)31)。. .24.
(31) 表2−2 コールバーグによる3水準6段階の道徳性の発達 2000. こコー レノ曽一. 1976. ’・. π いこ. O. .. こ. !、. }、,. V I」. 7. ・ オ. カ. 無条件に服従すること。行 正しいζとである。、 為の持つ心理的、人間的な 意味ではなく、物理的結果 が善悪を決める。. 純血道徳性. 自己の欲求、時に他者の欲 求を道具的に満たすことが 正しい行為で、自分の利益 や欲求に合うように振る舞 うことが正しいとされる。 人間関係は市場の取引と同 じように見なされ、交換に よる公平な取引が目指され 第II水準:慣習的水準. 直接的に利益なる場合に. 規則に従うことが正し い。自分の興味や欲求に. 一致するように振る舞. !. ナ. 第1段階:他律的道徳性 破ると罰がくる規則を守 権威者が持つ卓越した権 ること、権威者に服従す 力のため、罰をさけるた 正しいことは、罰や制裁を ること、人や人の所有物 めに正しいことをする。 回避し、権威に自己申心的、 に損傷を与えないことが. 第2段階:個人主義、道. 1984 こ. ム. 磁. 自分も他人もそれぞれが 欲求や利害関心をもって おり、そのような世の中 にあって、自分の欲求や 関心を満たしていくため. い、他者にも同じことを させることが正しい。公 に正しいことを行う。 平なこと、平等の交換、 分配や合意が正しいこと. こ. 自己中心的視点。. 他者の利害関心を考慮できな い、行為者と他者の利害関心 が異るなことがわからない。 従って二つの観点を関係づけ られない。行為は他者の心理 的利害関心からではなく、物 理的観点から考えられる。権 力者と自己の視点を混同して. 「. 具体的な個人主義的視点。. 誰もがそれぞれに追求する利 害関心を持っており、それら が葛藤、対立していることに 気づいている。つまり正しさ は行為者の具体的、個人主義 の意識において相対的である ことに気がついている。. である。. 道徳的価値はよいまたは正しい役割をとり、慣習的な秩序や他者からの期待を 、. こ. こ. 第3段階:対人的規範の 身近な人からの期待や一 自分からみても、他者か 他者との関係における個人的. 道徳性(対人 般に期待されている自分 らみても「よい」人間で 間の期待、関 の役割(息子、兄弟、友 ありたいという理由から 係性、同調性) 人など)に従って生活す 正しい行動をする。他者 他者から期待されるよい役 ることが正しい。「よい に対する配慮や「自分に 割を実行することが正しい 人」であることが重要で してほしいことを相手に ことである。「意図がよい」 あり、それはよい動機を せよ」とい黄金律の信念 ということが重要であり、 持ち、他者に配慮できる に基づいて行動し、また ステレオタイプの「よい」 ことを意味している。信 ステレオタイプのよい行 イメージに同調し、他者か 頼、誠実、尊敬、感謝と いを支持する規則や権威 ら認められ、他者を喜ばし いった相互的な関係を維 を維持したいという欲求 たり、助けることを志向す 持することも意味する。 から正しいことを行う。. な視点。. 自分と相互関係にある相手の 視点を取り入れて相互に関連 させることができる。また人 々が共有している感情や一致、. 期待の中身がわかり、それら が個人的な利害関心よりも優 先ずることに気づいている。 他者の身になってみるという 具体的な黄金律を通した視点 を関連づけることができるが、. 一般化されたシステムの視点. る。. オい. 第4段階:社会システム 自分が同意した現実の義 社会制度を全体として維 対人間の合意や動機とは異な. の道徳性(良 務を果たすことが正しい 持するため、「誰もがや こと。法律は、社会的に る」といった行為による 全体として社会システムを 定着している義務と相容 社会システムの崩壊を防 維持することが正しいこと れない極端な例を除いて ぐため、また自ら定めた で、そのために社会におけ 守られるべきである。社 義務を果たせという良心 る義務や責任を果たし、権 会、集団、制度に貢献す の声のためにとられる行 為は正しい。(第3段階 威を尊敬し、与えられた社 ることも正しい。 会秩序を保つことを志向す の規則と権威に対する信 心). 念. 第m水準:慣習以後の原則的水準. ’面. ら考えることができる。. い. 道徳的価値は現実の社会や規範をこえて、妥当性と普遍性を .、1 志。. の.、1 、. 第5段階:人権と社会福 人は様々な価値観や意見 法律に対する義務を理解 を持っており、それがほ できるのは、あらゆる人 祉の道徳性 一般的な個人の権利と幸福 とんどが集団によって相 の幸せと権利を守るため を守るために社会全体によ 対的であることを知って に法律を作り、守ってい って吟味され同意したもの いる。しかし、それらは るという社会契約の観点 として基準に従うことが正 公平姓のために、また社 からである。家族や友情 しいことである。個人や集 会契約であるために、守 信頼、労働の義務は自ら 団によって価値は相対的で. られるべきである。ただ し、生命や自由のような 同意に達するための手続き 相対的でないかちや権威 を強調し、社会契約(自由 はいかなる社会でも多数 で平等な個人同士の同意) 者の意見にかかわらず支 や全体の公益(最大多数の 持されねばならない。 あることに気がついており、. 一. る抽象的な社会的な視点。. 役割と規則を規定しているシ ステムの観点を取得し、個人 的な関係もシステムの観点か. 士口. こ に. つ. 社会システム全体の視点に. 行ずる普遍的な個人の視点。. 自分が属する社会を越えた視 点を持ち、人閻の普遍的な権 利や義務をという視点から社 会組織のあり方を合理的に危 う。合意や契約、客観的な公 自由に契約したものとい 平さ、正当な方手続きという うことから守らねばなら 形式的なメカニズムによって、 ない。法律や義務は全体 視点を統合する。道徳的視点 の公益を予測できる「最 と法律的視点を考えることが 大多数の最大幸福」に基 できるが、両者は時に対立し、 つくという関心から、正 統合できないと理解している。 いこ. た}. 第6段階:普遍性、可逆 自ら選択した倫理的原則 合理的な人間として普遍 全入類を含む普遍的な視点。 性、指令性を に従うことが正しい。特 的な倫理的原則の妥当な この視点に基づいて社会的な もつ一般的な 定の法や社会的合意は、 ことを信じているために、 契約が導き出されている。道 倫理的原則の この原則に基づいている またその原則をよしとし 徳の本質とは何かを理解する 道徳性 限りは妥当と考えられ ているので、正しいこと こと、そのこと自体が目標で. 人間性にかかわる普遍的な る。法がそれらの倫理的 倫理的原則によって自らを 原則を犯す場合には、原 導く。. を行う。. 則に従って行動すること が正しい。この原則とは 正義という普遍的な原則 であり、人間の権利の平 等や個人としての人間の 尊厳を尊重するという原 1 “. .25.. あり、そのように見なすこと. が合理的な個人の視点である。.
(32) 第2項 道徳教育への適用 コールバーグは、前述した理論に基づき、2つの道徳教育の方法を提 唱している。1つは、道徳授業や社会科授業で行われる「討論プログラ ム」である。そして、もう1つは学校教育全体に関する教育プログラム である「ジャストコミュニティ(Just Community Approach)」である。ここ. では、特に我が国の道徳教育に関連がある道徳の授業に関わる「討論プ ログラム」について触れることにする。. 討論プログラムは、普遍的な価値の葛藤を扱った道徳的ジレンマを題 材とする討論を行う。そこでは、教師は討論への権威的な介入を避け、. 子どもと同じ立場で討論に参加したり、子どもが自分の道徳的思考の不 十分さを理解し、より高い段階の道徳的な思考を取り入れることができ るように援助したりする役割を担う。. ブラヅト(Blatt,1969)は、6年に対して3カ月間、仮説的な道徳的葛 藤に関する討論を行うプログラムを行った。その結果、子どもの45%が1 段階上になり(統制群は8%)、10%が2段階上になった32)。また、プラ ットとコールバーグ(Blatt&Kohlbarg,1973)の実験授業においては、討. 論において教師が子どもの道徳的思考の不十分さを指摘し、高い段階の 道徳的思考を導く群(実験群1)、教師が介入せず自由に討論を行う群(実. 験群2)、通常のカリキュラム(統制群)にそれぞれ9週18時間の授業. を行った。その結果、実験群1は、平均3分の1の段階の上昇が見られ たのに対し、他の2群ではほとんど変化がみられなかった33)。. これらはいずれも、討論プログラムの効果を実証するものであるが、. その進め方については、コールバーグとゴルビーらは図2−2のように 表している34}。. .26..
(33) 道徳的ジレンマに直面させ. ジレンマの導入. ジレンマに対する個々の立 黷. ーさせる。. ジレンマにおける用語の理. i何人かの生徒に質問する. f. を助ける 最初のジレンマまたは代わ. 閧フジレンマに対する立場 ジレンマの性質を明確に述 個々の立場に対する根拠を. 表明させる ラさせる(論点を説明させる. ?ーさせる。 凵j. 適法な方略を選ぶ. ` 同意見の5∼8人のグル クラス全体の反応を求め. @ ープに分け、最終的に. 驕B賛成一反対を挙手させ、. 烽オ一方の立場が 114以. 道徳的ジレンマに対する. コであったら、変わりのジ. ツ々の立場における理由づ. 激塔}(最初のジレンマに新. ッの正しさのテスト. @ もっともよい根拠を作 @ り出させる。. a、同意見ではない小グル @ ープに分け立場や根拠. オい事情が加わったもの)を. @ の正しさを討論させ. 示する. @ る。 f 4名を選んで,全員の前 @ で討論させる(異なる段 @ 階のものが望ましい). クラスで討論された理由づ. 1つの立場に対する1つの. クラスまたは集団で個々の. ッをまとめる. ェ拠を採用する(生徒》. ェ拠を検討する(A∼Cの方 @で). 1つの立場をとり続けるか, Vしい立場をとる(生徒). 他のジレンマの場合と関連 ウせて根拠を検討する(A∼ bの方法で). 図2−2 道徳討論を指導するための図式(Kohl berg&Colby、1975 内藤J985) .27..
(34) 第3項 日本におけるコールバーグ理論の実践研究 荒木(1990b)は、コールバーグ理論を受けて、道徳授業の目的を「道 徳的価値葛藤(モラルジレンマ)をモラルディスカション(集団討議)によ. って解決に導く過程を通して、児童一人ひとりの道徳的判断力を育成し、 道徳性をより高い発達段階に高める」35)こととしている。そして、「道. 徳の授業では、道徳的な実践力というきわめて難しい課題に取り組んで いる。そこでは児童生徒の主体的な学習過程に重点を置いた指導が行わ なければならない。」と述べている。. さらに、荒木(1990a)は、宇田川(1989)36}の挙げる5つの道徳授業の. 成立条件に表2−3に示した4条件を加えている37)。. 表2−3 道徳授業の成立条件(宇田川1989、荒木1990). 道徳授業の成立条件(宇田川). ①道徳授業の内容は、それが授業である以上、子どもが何か新しい事実や世界を知るも のでなければならない。. ②子どもが思考をめぐらして主体的に学習するような道徳の授業が成立するためには、 資料(教材)は、リアリティや発見のある、子どもの心を揺り動かすようなものでなけ ればならない。. ③道徳の授業で学習が成立するためには、他の教科の授業と同様に、子どもの思考と発 言の自由が保障されていなければならない。. ④以上のことともかかわるが、道徳の授業は「価値意識や規範意識を教える」のではな い(教えることはできないし、教えてはならない)。. ⑤以上のことによって道徳の授業が成立するのだとすれば、道徳の授業の目標・内容・ 方法を教師が自由に工夫できる教育の自由が必要になる。 道徳授業の成立条件(宇田川)に加えられた4条件(荒木). ①モラルジレンマ資料を用いることが望まれること。. ②道徳性の発達から見て一段階上位の高い考え方に触れる「道徳的認知的葛藤経験」を 用意すること. ③他者の立場に立って考える「役割取得の機会」を設けること。. ④主として判断はそれぞれの自主性に任せられ、一つに収束するものでないという意味 でオープンである。また、教師はどのような判断のもとで、どのような理由づけがなさ れたかのまとめをすればよい。ここでは、このように考えなければならないというよう に価値の押しつけをして終わるべきではない。. 28.
(35) 1 モラルジレンマ資料 ジレンマ資料はオープンエンドの形で投げかけられる道徳的な価値葛 藤の物語である。. 荒木(1990c)は、「道徳的な認知葛藤を引き起こすジレンマ資料はこ. の授業の要である。ジレンマの解決が道徳性を高めるという考えは、コ ールバーグ理論の中核だからである」38)とジレンマ資料の重要性を述 べている。また、低学年では、主に一つの価値についての当為をめぐっ て生ずる葛藤(タイプ1)を扱い、高学年では二つ以上の価値の間で生ず る当為をめぐる葛藤(タイプH)を扱っている。そして、ジレンマ資料を授業. で用いる意義として次の3点をあげている39)。. ①道徳的問題解決への内発的動機づけ(学習意欲)の喚起がなされる。. ②集団討議にもとつく、より高次な認知的葛藤のより構造化された解 決が、子どもたちの(道徳的な問題に対する)感受性を高め、道徳性 を高める。. ③問題の解決に役割取得の積極的な適用という認知方略の獲得を促 す。. では、ジレンマ資料とはどのような特徴をもつといえるのか、従来の 資料と対比して何が違うのか、ここでは、モラルジレンマ授業の実践に おいて用いられるジレンマ資料の特徴について荒木(1990a)40)徳永(199 1)4nの研究よりまとめる。. ジレンマ資料の第一の特徴は、道徳的な価値葛藤を扱った物語(強い 心と弱い心、良い心と悪い心といった+と一の心理的な葛藤は含まない) である。. 第二の特徴は、その結果は原則として示されないオープンエンドであ る。つまり、結果が描かれずに、またどちらの行為を選べば良いか即答 .29..
(36) できない状況が示されているところである。. それは、いくつかの価値が単に取り扱われているだけの資料でなく、 相互に影響しあい価値葛藤を引き起こす内容である。そして、安易に、. 無責任に二者択一的に判断するのではなく、判断した結果起こる+面と 一面を丁寧に検討していくことで得られた判断は、他方の価値の否定で も、切り捨てでもない。だから、子どもたちは主体的に活動し、意思決 定せざるを得ないのである。つまり、どちらを選んでも間違いではなく、. 伸び伸びと自分の考えや意見が言える。また、自分と友達が同じ意見で あっても判断・理由づけが違っていることにより多様な考えが引き出さ れ、ディスカッションを高め、自分の意見をより確かなものへとできる のである。. そのような特徴をもつジレンマ資料作成の留意点を、荒木(1995)は以 下の6点にまとめている42}。. ①お話はできるだけ単純とする。 ②オープンエンドである。. ③道徳的な意味について2つ以上の論点が含まれている。 ④「主人公は何をすべきか」というように、すべき(当為:should)を. 用いて、主人公のとるべき行為を意思決定させる。 ⑤現実の特定個人を傷つけたり、攻撃する場面や状況を設定しない。 ⑥児童・生徒の必要感に見合ったジレンマにする。 小学校学習指導要領解説道徳編では、「道徳の時間における資料は、. 児童が道徳的価値の内面的な自覚を深めていくための手がかりとして極 めて大きな意味をもっている。また児童が人間としての在り方や生き方 などについて多様に感じ、考えを深め、学び合う共通の素材として重要 な役割をもっているとしている」43)と述べている。そして、道徳の時 .30一.
(37) 間に用いられる資料の具備すべき要件として、次の点を満たすことが大 切であるとしている44)。. ア 人間尊重の精神にかなう資料 イ ねらいを達成するのにふさわしい資料 ウ 児童の興味、発達に応じた資料 工 多様な価値観が引き出され深く考えさせられる資料 オ 特定の価値観に偏しない中立的な資料. つまり、ジレンマ資料は学習指導要領で述べられている内容にかなり 一致する部分が多く、資料として大変効果的であるということがいえる。. 2 モラルジレンマ授業の進め方 モラルジレンマ授業は従来の授業と違って道徳的認知的葛藤(モラル ジレンマ)の経験を重要視しているが、それは、資料の中で道徳的価値 をしっかりと見つめ、問題解決に何が最も大切か、他の道徳的価値と比 較しながら吟味し、また、他者の視点からも検討して総合的に判断する。. そして、より次元の高い価値のもとに統合化が生じる(葛藤しており、. 独立と思われたそれぞれの価値が一つにまとまる)。そのようなモラル ジレンマを正しく処理するのが「道徳的推論」であり、そのため道徳的 思考力や道徳的判断力が必要であるといえる。. モラルジレンマ授業の具体的な授業の進め方として重要な留意点の一 つがモラルディスカッションである。荒木・野口(1987)は、その基本的. な話し合いの段階をべ一ルズの3位相推移仮説に沿って思考(話し合い) が進むように組み立てた45)。. 第一位相…問題解決のための方向づけの段階(資料を共通理解する). 第二位相…意見の交換の段階(自己と他者の考えを相互に批判・吟味 一31..
(38) する). 第三位相…行為の示唆と意思決定の段階(自己と他者の考えを相互に 練り合わせる). そして、荒木(1990c)は、道徳性の発達にとって特に強調されている、. ①相手の立場に立つ、②一つ高い段階の考えにふれる、を討論に生かす. ためには、以下の7つの発問を授業のなかに取り入れることを示してい る46)。. ①問題を明確化する発問(解決すべき問題が何かを確認させる). ②自己の考えを明確化させる発問(取り得る行為と取り上げた理由を 明らかにさせたり、他人の意見に耳を傾けさせる). ③認知的な不均衡をもたらす発問(主張している考えや感じている内 容と矛盾する事実や内容をつきつける). ④役割取得を促す発問(主人公や登場人物の立場や気持ちを考えに入 れて答えさせる). ⑤一般的な結果に対する発問(もし∼だとしたら、その結果どんなこ とがおこるか、推論させる). ⑥道徳的価値の根拠に関わる発問(道徳的判断の背後にある理由をた ずねる). ⑦道徳的判断を求める発問(授業の最終では主人公はどうすべきか、 公正という視点から、最良の「取るべき行為」を判断させる). 以上のような流れを前提としたモラルジレンマ授業モデルは、授業を. 「1主題2時間構成」とし、前半1時間はモラルジレンマを問題として 受け止め、主人公はどうすべきかを児童生徒たちが意思決定をする(第 .32..
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