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モダンテクニックを扱った教材の一試案

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Academic year: 2021

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(1)Title. モダンテクニックを扱った教材の一試案. Author(s). 八重樫, 良二. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 67(1): 403-414. Issue Date. 2016-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8030. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. モダンテクニックを扱った教材の一試案 八重樫 良 二 北海道教育大学旭川校デザイン研究室. A Proposal of teaching materials dealing with the modern techniques YAEGASHI Ryoji Department of Design, Asahikawa campus, Hokkaido university of Education. 概 要 アメリカの絵本作家,エリック・カールは自分で彩色した紙を素材として,それらをコラー ジュすることで作画している。その素材となる紙への彩色の方法がモダンテクニックと同様で あることに着目して,その手法に倣った学習教材を試案した。彼の作画法においては,抽象表 現と具象表現を関連付ける手立てが見出される。そのことを手掛かりとしてモダンテクニック による描画体験を踏まえた実技課題を考え,大学での演習授業を行った。その内容を美術科教 材として応用することを意図している。課題による学生作品の鑑賞にあたっては,その作品を 使った動画を作成し,課題意図の理解を図った。本稿では課題制作における学生の様子などを 通して,その学習内容について報告する。. 1.モダンテクニックを扱った教材の特質. 技法に当てはまらないものとして一括りにモダン テクニック1)と呼んでいる。偶発的で無作為な表. 19世紀末から20世紀初めの頃,フォーヴィズム. 現,また何らかの方法によって偶然に得られる模. やキュビスムなど新たな絵画運動の機運と共に抽. 様など,半ば他動的な描画手法を指している。. 象絵画への道が開かれた。指で直接描くことや絵. デザイン分野と関わりの深い構成教育において. 具の落下滴によって描いた抽象絵画も現れ,それ. は,バウハウスを始めとする諸外国の造形教育に. らの新しい絵画における革新的な技法はいかにも. 関する教育理論と方法の取り入れと共に,早くか. 現代美術らしい表現に思えるものであったであろ. ら専門教育での基礎造形における描画体験として. う。本来,作者の意図に沿って描画することが普. 取り入れていたようである。今日でも,その技法. 通の描きかたであり,偶然性に委ねる描画法はそ. は小・中学校での図工,美術でもよく扱われてい. れまでの絵画技法とは全く異質な表現手法であっ. る学習教材となっている。その例としてweb上で. た。美術教科では,こうした20世紀以降の現代美. 公開されるモダンテクニックを題材とした指導案. 術における新たな描画法について,伝統的な描画. と実践報告の一部を以下に抜粋する。. 403.

(3) 八重樫 良 二. ○小学校6年を授業対象とした授業指導案2)から. の面白さを感じさせたいことが挙げられている。. 「…デザインの分野で学習するモダンテクニッ. これらはどのモダンテクニックに関する教材にも. ク(技法)を使えば,具象的な表現にコンプレッ. 共通する特質と言えよう。その技法体験を通して. クスを持っている児童生徒も生き生きと創作活動. 抽象表現に対する関心,興味を喚起し,理解を深. が行えるという実感があった。…中略…思うよう. めることに意義ある教材であることが言える。こ. な表現ができずに,自信をなくしがちになる子ど. のように美術科の学びにおけるモダンテクニック. もは多い。このモダンテクニックを含め,抽象表. に関する教材は,抽象表現についての学びに触れ. 現をさせてみると,そういった子どもたちが意外. る授業題材となっている。. にも味のある面白い表現ができるのである。…」. その一方,学習対象として抽象表現を扱うこと. ・題材名:モダンテクニックを使って. には難しさがある。風景画や人物画などの具象表. ・題材の目標. 現であれば,少なくとも何を描いた絵であるのか. ⑴ モダンテクニックの学習によって,多様な. が分かるので,それが理解の起点ともなりやすい. 表現法を知る。. が,抽象表現では何が描かれているか分からない. ⑵ 抽象的な表現の面白さを体感する。. だけに,どのように理解するのが良いか,鑑賞の. ⑶ 抽象作品の鑑賞から,これまでと違った鑑. 手がかりが得にくい表現であると思われる。実際,. 賞の仕方を学ぶ。. 多くの大人にとって抽象画への理解は難しいもの と思われがちである。まして児童・生徒にとって, 3). ○中学校2年を授業対象とした実践報告 から. モダンテクニックの技法体験を通して得た表現を. 「…美術科における「表現」では特に上手下手. そのまま,抽象絵画の良さに通ずるものとして理. の個人差を生徒は敏感に感じ,思うがままに描け. 解することは難しい。その理解を深めるには単に. ないがためにある種のジレンマに陥っている生徒. 面白い表現体験だけに終わることなく,新たな描. も多い。すると,生徒の創造活動は消極的になり. 画への応用や鑑賞の対象とするなど,児童・生徒. 美術の授業を「つまらない」・「できない」と感じ. がその技法体験を通して得た表現をどのように受. 始める時期ではなかろうか。そんな時期にモダン. け止めているかを探ることが必要であろう。. テクニックの単元を入れることにより得られる効. これらの授業実践においてはモダンテクニック. 果は大きいと考える。…」. で彩色した描画紙を,それぞれ「封筒作りの台紙」,. ・題材名:モダンテクニックを用いて. 「心に残っている本の表紙」として活用すること. ・単元の意義. で,児童・生徒にその表現をできるだけ身近に感. ⑴ 偶然生まれる形や色に親しみ,抽象的表現. じさせるよう工夫している。それぞれモダンテク. に美しさや面白さを感じさせることができる。 ⑵ 短時間で体験できることにより,集中して 取り組ませることができる。. ニックを模様作りの一手法として扱い,偶然に描 かれる模様の良さを感じ取らせることで,抽象表 現について児童・生徒の理解につなげている。こ のようにモダンテクニックの教材では,その描画. 学年が違っていても,この2つの事例でのモダ. 体験のみに終えずに,その理解を深めていくこと. ンテクニックに関する題材観は共通している。い. が大事である。. ずれも,児童・生徒にとって描写の上手・下手が. こうしたことからモダンテクニックにより得ら. 問われないことが大きな長所となっていることを. れる抽象表現への理解をどのように図ることが良. 挙げ,いつもと違う描画体験への興味と楽しさを. いか,それを考慮した制作課題が望まれるものと. 感じさせることができる点で魅力あることが記さ. 考えた。描画体験の後,その表現について理解を. れている。また学習目標としても共に,抽象表現. 図る何かしらの方策を設けることが,教材をより. 404.

(4) モダンテクニックを扱った教材の一試案. 有意義にすることと思われた。. 選択するのである。下絵をもとに,その組み合わ せや配置の具合を考えながらコラージュの作業が. 2. エリック・カールの作画手法と創作への 意識. 進められる。その行為は絵筆で絵具を拾うことと 同じであり,絵具としてどの紙の具合が一番良い のか,それを選ぶ楽しさ,組み合わせることの楽. 「はらぺこあおむし」の作者としてよく知られ. しさがその創作からも感じられる。このように彼. る絵本作家,エリック・カール4)はモダンテク. の創作には大きくは,コラージュの素材となる色. 5). ニックと同様の方法によって,コラージュ に使. 紙作りとコラージュによる実制作の2つのプロセ. う色紙を自作している。彼が行った絵本作り体験. スに分かれている。. 6). のワークショップ では自らの作画法の紹介と共. 最初のプロセスでの彩色は無作為に行われてい. に, 子ども達がそれを追体験する様子が見られる。. る。それは全く意味のない模様付けであり,抽象. はじめは無意味な模様付けのように思って彩色し. 的な模様の表現となっている。次に絵本制作に取. た色紙が人物や動物の姿の部分となるコラージュ. り組み,虫や動物など作画したいものが決まるこ. の技法を知り,子ども達は絵を描くより簡単だと. とで,それらの色紙の模様が実際にイメージを. 思ったことや親しみやすかった,といった感想を. もった具象的な表現に生かされるものとなってい. 寄せている。出来上がった子ども達の作品にはコ. く。そしてコラージュを行い,色鉛筆で描画を加. ラージュの技法の良さがよく生かされている。. えて画が完成する。彼がなぜこうした手法をとっ. ワークショップでは難しい理屈が語られることは. ているのか,その理由を彼が行ったワークショッ. ない。モダンテクニックを扱う教材を考える時,. プの中での言葉に伺う事ができる。彼はインタ. このように子どもからも親しまれる彼の手法は,. ビューに答えて「子供のように大胆に,無邪気に. 抽象的表現への興味の喚起とその理解を図ること. 描く事。それはとても大切なことだ。」と言って. に有益であるものと思われた。. いる。ワークショップに参加した子供達に対して,. エリック・カールの作画は先ず,コラージュの. 描写の上手下手を意識することを防ぎたいと思っ. 素材となる紙に彩色することからはじまる。最初. ている。ただ純粋に描くことに熱中する子どもの. に紙と絵具,筆などを用意し,なりゆきまかせに. ような気持ちで描くこと,そのことに適した手法. 描画を行う。 どのようにするかは気分次第である。. として,コラージュによる表現方法を選んでいる. 時には指で直接塗りつけたり,切り取った絨毯の. ことが理解される。. 一部でスタンピングしたり,描画して直ぐに筆の. 彼は描写の巧緻性や熟練とは対極にある表現,. 持ち手の尻部を使って引っ掻いたりもする。その. つまり子供のように大胆で無邪気な表現を求めて. 彩色の方法はモダンテクニックの描画法に共通す. いる。先ず,コラージュの素材作りに際して無作. る考え方,つまり偶発的な描画に委ねる描き方に. 為であること。そしてコラージュの際のカッティ. 従っている。彼にとって,この色紙作りは絵具と. ング(切り紙作業)を無造作に行うことで自然に. 同様に描画素材の下ごしらえであって,それらを. 形の簡略化がなされること。これらの点は彼の要. 何の描画に使うのかは彼自身,まだ分からない。. 望に適っている。同様の手法をたどるならその描. そうして彩色された紙は一旦,しまい込まれる。. 画はエリック・カール的表現となることは免れな. 実際に絵本を製作するにあたっては物語を考. い。それは作家の手技の跡に表れる個性より,手. え,それぞれの頁にどんな絵や言葉がふさわしい. 法そのものに強く個性が表れているためである。. のかが立案される。そうして描きたいもののイ. その作風がデザイン的に映るのは,こうした作画. メージがはっきりしてから,初めてしまっておい. 手法への着想自体に独創性が見出される作家であ. た多数の色紙の中から,作画にふさわしい色紙を. るためであろう。. 405.

(5) 八重樫 良 二. モダンテクニックに関する教材への理解を深め. こととした。. るには,その技法体験を通して得た表現をどのよ. 課題1の狙いは先に記した二つの指導案と同じ. うに扱うのかが課題となることを指摘したが,エ. ように,モダンテクニックの技法体験と描画行為. リック・カールの着想と作画法はそのことへのヒ. そのものの楽しさに気づいてもらうことにある。. ントを与えてくれる。純粋に描くことを楽しみと. デザイン実技に関する入学後の最初の課題となっ. 考えている彼にとって,なによりも自由な気持ち. ているが,受講者には小・中での図工・美術の学. で描くことが大事である。コラージュの素材とな. 習経験のみに美術体験が留まる学生も含まれるこ. る紙に描画する際には,なるべく無作為な態度で. とから,美術体験の少なさにコンプレックスを感. 臨み,何かしらの意図があることは不適当である. じることなく,楽しく表現できることを重要視し. と考えていることが分かる。その一方でコラー. ている。. ジュでの描画のプロセスにおいては意図をもって. 続く課題2では課題1で彩色した紙を素材とし. 素材を選び,その表現に意味を与えている。. たコラージュによる作画を体験する。演習では好. モダンテクニックに関する教材における重要な. きな「動物」を表すこととした。この方法で作画. 特質には,児童・生徒が抽象表現の面白さを感じ. するため誰が表現しても,先に彩色した抽象的な. ることと,抽象的な色や形における美の理解を深. 模様のある複数の面で構成される具体的な動物が. めることがあることを先に挙げたが,彼の創作に. 表現されることとなる。結果的にはそれは一様に. は表現することの楽しさと共に,抽象的な彩色の. 簡略化されたデザイン画のような画風,つまりエ. 良さへの気づきが含まれているものと思われた。. リック・カールの表現と類似するスタイルを持つ. この点に着目して,その手法に倣った実技課題を. 表現となった。画面上には文字スタンプを使って. 考え,大学での演習授業において試行することと. 表して,絵本のような体裁とした。ここでは各部. した。その内容は中学校の美術科教材に応用され. 分には抽象,全体としては具象表現が得られるこ. ることを想定している。抽象と具象の表現の違い. とから,その違いを意識することを意図している。. について理解を深め,自分なりにその表現の良し. 最後の課題3では,課題2で表された動物の姿. 悪しを考えるための感受性の育成を意図している。. を積み木のように簡単な幾何図形の組み合わせに よって直すことを指示している。この課題では形 の簡略化を図る体験となることを意図している。. 3.大学での演習授業の報告. これら課題1から課題3までの一連の流れは,. 美術分野に属する1年生を対象としたデザイン. 形の表し方について抽象と具象の両方があること. 7). 実技に関する演習授業 において,モダンテク. を知るためのプロセスとして考えている。わざと. ニックの教材体験を想定した実技課題を設けて授. 学生には各課題が関連することを知らせず,課題. 業を行った。 モダンテクニックの技法については,. 毎に新たな視点をもって表現に取組めるよう留意. 中学校における教科書や美術科副読本などで取り. して授業を進めた。以下の⑴~⑸は課題の進行に. 上げられている。同様の説明を学生に行い,最初. 沿って提示した指示であり,中学校美術科におけ. の実技内容とした。. る授業の進め方を想定したものである。その順に. エリック・カールの作画法においてはコラー. 従ってそれぞれ指示した課題と説明や作業の内. ジュに使う紙を準備するためのモダンテクニック. 容,学生の様子などについて記す。. による彩色作業と,コラージュ作業との2つのプ ロセスがあることを記したが,この演習ではさら. ○課題1:モダンテクニックの技法体験. に自作の表現の単純化に関する課題を設けて,全. ⑴ 無作為の描画をすることの指示:. 8). 部で3つのプロセスに分けて2種の制作 を行う. 406. 「配布した紙に平筆,丸筆,烏口,マスキングテー.

(6) モダンテクニックを扱った教材の一試案. プなどを使って直線,曲線を描いて下さい。また,. ⑵ 抽象表現の鑑賞をすることの指示:. モダンテクニックを応用して適当な描画を試して. 「出来上がった自分の描画面を4つ切りしA4判. 下さい。 」. の大きさの6枚として,うち3枚を他の人が作っ. 学生たちには上記の事柄のみを課題説明し,描. たものと交換してから,それぞれの描画面をよく. 画作業を開始した。モダンテクニックの説明と共. 観察して下さい。そして,それらがどのように感. に水平線や斜線を何本か描画させたり,文字をレ. じるか意見交換して下さい。」. タリングさせるなど,適宜,具体的な指示と説明. 上記の指示は無作為の描画表現の観察とその良. を加えて授業を進めている。用意した烏口やマス. さに気付くことを意図している。全員が配布した. キングテープなどの道具は全員が使用体験するこ. 紙に一通りの描画体験を終えた後,上記の内容を. ととして,技法紹介の目的を果たすように努めて. 指示して,それぞれの画面を眺めてみる。自作の. いる。. 描画と新たに得た自作以外の描画が混在すること. 課題1においては用具の使用法の熟練を求める. で,描画に対する客観性を高めることに有意であ. のではなく様々な描画具があること,また描画具. ると考えた。各分割面には直線,円といった幾何. の違いによって描線にも表情の違いがあり,モダ. 的表情をもった描画跡ときまぐれな模様,場合に. ンテクニックの技法と共にその描画跡の表情につ. よっては落書きの一部が見られる。作為的に描画. いて,体験的に学ぶことが目的である。都度,初. はしていないので,その描画の表情について感覚. 心者でも理解されるよう必要な説明を行ってい. のみをもって観ることとなる。それまでは落書き. る。線ばかりではなく面の描画にも展開し,時間. にすぎないような描画を試みた全面を分割してみ. の猶予があれば画面上で,自由に様々な彩色を試. ると,それらは新たな視線で見直す機会となる。. すよう指示している。その一例を〈写真1〉に示. 他人が描画したものも同時にみるため,それぞれ. す。. に違いがあることにも気がつくきっかけとなって. ここまでの描画体験は無作為に彩色されること. いる。実際,分割した面に残される無意味な描画. を意図して,その良し悪しを考えさせることはな. 跡に対して,学生達からは「きれい」とか,他の. い。それはあたかも落書きのように思えるもので. 人が作ったものに「かわいい」という感想が聞か. あり,学生たちは第1課題を無目的な描画体験と. れることから,たとえ落書きのような描画であっ. して受け取っている。. ても,その偶然の筆勢や配色,形の組み合わせに 面白さを感じていることが分かる。 こうした無作為な描画における美しさへの気づ きは,モダンテクニックに関する教材の意義とし て重要であり,ここでは自作の描画と他者が作っ た描画を同様に観ることで,より客観的な視点に 立つ事を意図している。 ○課題2:コラージュによる作画体験 ⑶ 描画題材の設定をすることの指示: 「これから手元にある課題1で彩色した4枚の紙. 〈写真1〉. をコラージュの素材として,別紙に好きな動物を. 無作為に彩色した数枚の紙 (コラージュの素材となる) スパッタリング, ドリッピングなど適当に描画している。. 表現してもらいます。最初にその下書きとなる動 物の姿を描き,その姿をコラージュする面で分割 して下さい。」. 407.

(7) 八重樫 良 二. この課題で初めて「自分達でつくった素材を. ⑷ コラージュによる表現をすることの指示:. 使って動物をコラージュせよ。 」という具体的描写. 「下書きが出来た人から,別紙にコラージュして. の課題を提示した。学生はこれまで考えることな. 好きな動物を表現して下さい。」. く描画を進めてきたが,ここで初めて表したい動. 学生達は課題2の提示により,最初の課題に意. 物を考えることが始まる。ここでは課題1で描画. 味があったことを初めて知る。課題1で得た紙を. した紙をコラージュに使うよう指示することで,. 実際に切り取って使うため,熱心にその状態を観. これまで無意味と思っていた彩色した紙に対して,. 察するようになり,今までは単なる抽象的な模様. 何かしらの都合を考えて観るように意識の変化を. に過ぎなかったものが,動物の一部を表すために. 促している。学生達は描きたい動物の姿を思い浮. 使うにはどんなふうになっているのが良いのか,. かべながら,紙のどの部分をどのように使うかを. というように,その意識が変化する様子が見られ. 考えたり,逆に描画跡の様子をみながら模様のあ. た。これまで単に描画の跡を感覚的に受け止める. る動物を連想するなど,何の動物を描くのが良い. 態度から,創作に向かって適した箇所を能動的に. か,考えを巡らせながらアイデアスケッチを行う。. 探す態度へと変わっていく。それは表したい動物. アイデアスケッチに際しては,動物の姿を12~. の模様に適すものを探しているだけではなく,隣. 15面ほどに分割して表すこと,必ずしも手足など. に並べたときの模様や色の具合について考えてい. 身体の部分毎の分割にこだわらず,大きな胴体を. る。姿全体を作る上で,各部の模様や色具合につ. 幾つかの面に分割しても良いこと,実際の動物の. いてどれが適当であるか,無意識にその良し悪し. 色や模様などとは無関係であること,など具体的. を計ることにもつながっている。 〈写真2-2〉, 〈写. な制作条件を指示している。また実際に使う下書. 真2-3〉はコラージュを進めている場面の一例. きはトレーシングペーパーに線画として描き,課. である。. 題1で描画した紙に切り取り線にあたる線をト レースダウンすることなど,具体的な技法説明を 行って,下書きの意味とコラージュで表すことの 都合に合わせた描き方を伝えている。ここでは作 例を提示して描画の工程を説明して,課題で求め ている最終的な制作イメージの理解を図ってい る。ライオンをイメージした下書きの一例を〈写 真2-1〉に示す。. 〈写真2-2〉各部をトレースダウンし切り抜く。. 〈写真2-1〉 下書きのトレース(コラージュの型取りの原画となる。 ). 408. 〈写真2-3〉コラージュしながら作業を進めていく。.

(8) モダンテクニックを扱った教材の一試案. 学生が課題1で彩色した紙のあちこちから部品 を得ようとする姿からは,無意味に彩色された抽 象模様はどれでも同じではなく,比較するとこち らの方が良いといったように,能動的にコラー ジュに使う部分を選択する意識が感じられた。 〈写 真2-4〉は完成作の一例である。. 〈写真2-4〉コラージュの完成。. ○課題3:具象から抽象へと向かう表現の体験. 〈写真3-1〉 課題2(上)と課題3(下)でのクマ の表現. ⑸ 形の単純化をすることの指示: 「課題2で表した動物の姿を元に,それを単純な 形の組み合わせに直して, 別紙に表現して下さい。 」 この演習ではさらに第3の課題を設けた。課題 2で得た動物の姿をもとに形の単純化を図り,そ の姿を構成的に捉えてもらうことが意図である。 形の単純化は簡単な形に置き直すことには違いな いが,実際には様々な解釈,方法が考えられる。 その方策を考えること自体,デザインの感覚がよ く表れる創作行為と思われる。ここではあえて単 純な形とは,幾何形とその一部を変形させた形を 指すものとして説明している。課題3では単純化 された良い形を考えることより,そういう見方で 表現を観る視点の体験に課題の目的がある。結果 的には誰もが,長方形や円といった幾何的な形, ある程度整理された形などの組み合わせとなる。 それは具象的な姿から抽象性を増した姿へ翻訳す る一つの体験である。学生は課題に戸惑いながら も全体と各部の構成について観察し,その組み合 わせを考えたコラージュを行った。 〈写真3-1〉, 〈写真3-2〉はいずれも矢印の上が課題2,下 が課題3による作品である。. 〈写真3- 2〉ネコをイメージした作品例から 描写的な姿(上図)に対して骨格的な姿(下図)を表す。. 409.

(9) 八重樫 良 二. 以上が課題毎にまとめた授業の概要と全体の流 れである。写真に示すよう学生達は課題2と課題 3による2つの習作を提出している。課題を終え た後に互いの作品を鑑賞すると共に学生作品を素 材とした2つの動画を作り,これまでの課題の振 り返りを行った。. 4.作品鑑賞におけるコンピュータの活用 先にモダンテクニックによる表現の理解を深め るには単に面白い表現体験だけに終わることなく, 新たな描画への応用や鑑賞の対象としてその理解 を深めることが重要であることを記した。この授 業では学生の作品を互いに見せ合って,互いの表 現の良さを発見するよう努めた。全体と部分との 見え方について観察することなども促している。 課題で制作する作品の大きさが小さいため,作 品鑑賞にあたってはパワーポイントに代表される プレゼンテーションツールを利用9)して,作品を 拡大して提示することが有効であった。特に画像 の一部の拡大や複数の作品の提示など,学生の注 目を引くことができる点でその利点は大きい。 学生全員の作品を〈写真4〉のようにまとめて. 〈写真5-1〉 課題2での作品の一部を拡大し,具象と抽象の理解 を意図して提示した。. 同時に提示することもできる。また〈写真5-1〉, 〈写真5-2〉は課題2で作った作品の一部を拡 大し,そこにある抽象的表現と全体の姿から受け る印象の差異とそうした表現の面白さなどに気が つくことを意図して提示した例である。. 〈写真4〉課題2で作成した動物たち 作者が違っていても表現に共通性が感じられる。. 410. 〈写真5-2〉アルパカをイメージした作品例から.

(10) モダンテクニックを扱った教材の一試案. コンピュータの利用はさらに静止画ばかりでは. 先ず「ボク,ダーレ?」と言う題名の動画を作. なく, 動画を扱うことを可能にする。 〈写真5-1〉,. 成した。最初に課題3での原画(課題2の動物を. 〈写真5-2〉では2枚のスライド画面を切り替. 元にして単純化を計った動物)を画像処理11)し. えて,先に矢印の上にある原画と拡大の範囲を提. た動物が登場する。その姿は実物に比べ,コント. 示し,次に下にあるよう,その部分を拡大した画. ラストが強調された白黒模様の色紙を切り貼りし. 像を提示している。それに対して動物の姿の一部. たかのような姿で表される。〈写真6〉の下段の. をズームアップして提示することを思いついた。. 図がその処理を行った例の一つである。. 動画であれば,いかにも体の一部に近づいて見. 動画の中ではこの画像処理をした動物の登場に. ているかのように感じさせることができる。こう. 続いて,効果音と共に課題2で最初に作った動物. した動きのある見せ方が可能になるものと思い,. が画面に登場してきて,その動物が何であるかを. 学生作品を使って絵本をイメージした動画を作る. 伝える内容となっている。これに相当する場面の. こととした。課題2と課題3で得られた作品を使. 一例が〈写真7-1〉,〈写真7-2〉である。各動. 用した案と課題2における作品のみを使用する案. 物が一匹ずつ同じように繰り返して場面が進行す. が思い浮かび,二つの動画を作成10)した。. る。最後には登場した動物たちの行進で動画が終 了するというものであり,小さな子供に向けた動 物の名前当てクイズのような内容の動画となった。. 〈写真7-1〉動画の1場面から オオカミの遠吠えの効果音と共に登場する。. 〈写真6〉オオカミをイメージした作品例から 最上段は課題2,中段は課題3によるオオカミ,下段 は中段の表現をもとにした画像処理によるイメージ。. 〈写真7-2〉上の続きの場面 上の画面で登場した動物が左に移動して小さくなり, その原画となった動物が姿を表す。. 411.

(11) 八重樫 良 二. 次に「いっしょにうつろう。」という題名の動. 〈写真8-3〉に見るズームアップしたフレー. 画を作った。最初に丸と三角と四角の3種の形を. ム内の画面は抽象画のようになる。その中に一緒. 擬人化したキャラクターが登場〈写真8-1〉する。. に映る丸と三角と四角のキャラクターは,画面の. それぞれのキャラクターが課題2で作った動物の. 中でのアクセントのように位置する。その画面で. 側に立ち〈写真8-2〉,動物の体のどこかをズー. は「どんな かんじ?」の文字表示がなされるこ. ムアップして一緒に写真に収まる〈写真8-3〉,. とで,抽象表現について考えてもらうことを意図. というようなストーリーを持たせた。. した動画である。 これらの動画の各場面はそれぞれの課題での学 びとして学生に理解を図りたい内容を示してい る。この動画への注目はとても高く感じられた。 自作した動物が動画に登場することで,自作品が 絵本の一頁になったかのような驚きと喜びがあっ たようである。こうした作品鑑賞にあたってコン ピュータを活用することが有効であることは言う までもない。既にプレゼンテーションツールの利 用は一般化しているものと思われるが,視覚的な 表現を扱う美術科にとって様々な活用がなされて. 〈写真8-1〉キャラクター達が散歩をして…. いることと思われる。ここでは学生作品の鑑賞に 動画を応用した試みを記した。. 5.まとめ モダンテクニックに関する教材の長所として, 描写の上手下手が問われない描画体験ができるこ とを挙げた。それは抽象表現にはそもそも,上手 下手の尺度で計られる写実性が問われないためで ある。課題1におけるモダンテクニックの技法体 〈写真8-2〉いろんな動物に会う度に…. 験を学生達は,児童・生徒と同じように楽しんで いる。描画体験を行った画面には絵具の飛び散り やにじみが残され,思わぬ色の組み合わせ,勢い をその描画跡に見る事ができる。抽象的な描画跡 に対する鑑賞体験を通して,何かしらの印象を受 けることが最初の学びになるものとして課題1を 考えた。 そして課題2の提示により学生達は初めて,動 物の姿を表すことを描画目的とした具象表現に向 かうことになる。コラージュのための下書きには 写実性が意識されるが,実際にコラージュし終え. 〈写真8-3〉. た動物の姿はあまり写実的な表現としては映らな. 動物の姿の一部に置かれたフレーム内で一緒に写る。. い。それは動物の姿を形作る各部には無作為で抽. 412.

(12) モダンテクニックを扱った教材の一試案. 象的な描画跡があることから,あえて本物そっく. 題材であるが,その作画を複数人で協力しあうな. りの描写としていないことがすぐに分かるためで. ど集団制作の課題として生かすことが考えられ. もある。ここで描かれる動物の姿に関する写実性. る。こうした可能性も踏まえて,今後は中学校で. は,それが何の動物であるかが分かれば良い程度. の授業実践など試行を重ね,より実際的な教材と. であって,いうなれば抽象と具象の間の半具象的. していくよう考えていきたい。. な表現として位置する表現のように感じられた。 課題2では抽象表現を用いた具象表現を求める. 註. ことで,課題1で彩色した描画の跡について学生 に新たな見方をさせることに狙いがあった。コ. 1)主に偶発的で無作為な描画が得られることを技法の. ラージュの際,学生が能動的にコラージュに使う. 特質として,フロッタージュ,ドリッピング,デカル. 部分を選択する意識が感じられたことを記した。 それは動物の姿全体の彩色と分割された各部分の 彩色の状態について,その関係性の良し悪しを計 ろうとする見方があったことを指している。 このような見方は課題1ではなされない。課題 1を終えた時は,モダンテクニックによる描画跡 を純粋に楽しんでいる意識であって偶然の表現に も何かしらの美しさがあることに気づくことが目 的であった。それに対して課題2では目的とする 動物の姿をイメージしながら,その部分としての 良し悪しを計る見方に変化している。 課題3では,課題2で得た動物の姿の単純化を 図る事で,その動物表現を改めて解釈する機会と なる事を想定して設けた課題である。もちろんそ の解釈には良し悪しがある。ピクトグラムやマー クに用いられる簡略された絵の表現はこうした見 方によって描かれる代表的な例として挙げられよ う。課題3は具体の形について構成的な理解のも とで,動物の各部を簡単な形に置き直しすること を求めている。ここでは形の抽象化について理解 することを学びの内容としている。 また作品鑑賞の際に作成した動画について,各. コマニーなど十種を超える技法が挙げられる。その共 通する属性を厳格に区別して呼称している訳ではない。 コラージュもまたモダンテクニックの一つとして紹介 される技法である。 2)以下のURLで公開される実践報告から抜粋した。 実践事例 小学校高学年①(第6学年)題材名「モ ダンテクニックを使って」平成17年度研究報告収録 第121号 大阪府教育センター,pp.79-81 http://www.osaka-c.ed.jp/sog/kankoubutu17/ kenkyuu17/pdf/01/9.pdf#search=‘モダンテクニック’ 3)以下のURLで公開される実践報告から抜粋した。 谷口博文「モダンテクニック,技法体験学習(実践 を通して,単元の意義) 」鹿児島県美育協会 http://www15.synapse.ne.jp/kenbikyo/_userdata/ data/ronbun/ronbun1.pdf 4)Eric Carle,1929年生まれ。これまで多数の絵本を生 み出し,中でも代表作である「はらぺこあおむし」は アメリカで1969年に出版されて以来,世界中の国で出 版されている。日本では1979年に偕成社から出版され ている。 5)ピカソやブラックらキュビスム(立体派)の画家が 試みたパピエ・コレ(糊付けした紙の意)と同様に, 新聞や雑誌の切り抜きなど別の紙を切り抜き,別の画 面に貼り付ける行為,画面構成することを意味する。 紙だけに限らず,布や網など様々なものも含む。 6)NHK教育テレビで2000年10月に放送された「未来へ の教室 エリック・カール―色の魔法を学ぶ」の番組 中で紹介されているワークショプを指す。. 場面に登場するそれぞれの動物たちの描画にそれ. ビデオ資料として「NHK未来への教室〈3〉エリック・. ほど個別的な印象がないのは,同様の手法をたど. カール―色の魔法を学ぶ」出版者:NHKソフトウェア. るならその描画はエリック・カール的表現となる ことは免れないためである。めいめいの制作で. (発行2001/12) ISBN:4877663770を参考とした。 7)平成27年度前期「デザイン演習1」 8)実技課題の用紙について,課題1ではA3判模造紙を. あっても同じ手法をたどることで表現の共通性が. 一人あたり3枚配布し,木製パネル上に画鋲止めして. 保たれる,という表現の性格は美術制作にあって. 彩色した。課題2と課題3の制作にあたっては絵具を. 着目すべき点と思われた。例えば絵本の制作はそ の作業量の多さから,一人で成すには扱いにくい. 使用しないため,別紙としてA4判ケント紙を配布して コラージュの台紙としている。. 413.

(13) 八重樫 良 二. 9)この授業ではアップル社製,Mac機のOSに付随する アプリケーションである「Keynote」を使用した。 10)MacOSに付随する「keynote」と「iMovie」を使用 した。「keynote」はパワーポイントと同類のアプリケー ションであるが,配置された場所が異なる同一のオブ ジェクトが配置されている場合,スライドが入れ替わ る際にその位置が移動したかのように見せることなど, オブジェクトに動きを与えることができる。その機能 を利用してあたかも動画のように感じるプレゼンテー ションを作成した。この動画での動きは全て「keynote」 の利用による。その後に「iMovie」によって効果音と BGMを付けMPファイル形式に直すことで,動画を作 成している。 11)課題3で製作した単純化した動物の姿をアドビ社 「Photoshop」を利用して白黒2値化を行い,わざと分 かりにくい表現として動画に利用した。. 写真図版 〈写真1〉, 〈写真2-1〉, 〈写真2-2〉, 〈写真2-3〉 , 〈写 真2-4〉は著者による課題作例である。 〈写真3-1〉, 〈写真3-2〉, 〈写真4〉, 〈写真5-1〉 , 〈写 真5-2〉 , 〈写真6〉は課題による学生作品を筆者が編集 したものを掲載した。 〈写真7-1〉, 〈写真7-2〉, 〈写真8-1〉, 〈写真8-2〉 , 〈写真8-3〉は課題による学生作品を用いて,筆者が制 作した動画からの各場面である。. (旭川校教授). 414.

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参照

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