• 検索結果がありません。

腹腔鏡手術後消化器がん患者におけるソフトマッサージの効果 : 予備的ランダム化比較試験

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "腹腔鏡手術後消化器がん患者におけるソフトマッサージの効果 : 予備的ランダム化比較試験"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)日本統合医療学会誌 第 13 巻第 1 号(2020). 報 告. 腹腔鏡手術後消化器がん患者におけるソフトマッサージの効果: 予備的ランダム化比較試験 Effect of soft massage after laparoscopic surgery for gastrointestinal cancer patients:a pilot randomized controlled trial. 緒 方 昭 子*・井 手 口 範 男**・外 村 昌 子***・蓮 池 光 人***.    Shoko OGATA     Norio IDEGUCHI     Masako SOTOMURA      Mitsuto HASUIKE. 要 旨:. 近年増加した腹腔鏡手術に対する安楽ケアとしてソフトマッサージの効果ならびに研究方法の検証をするため に、消化器がん患者を対象にマッサージ前後の変化についてランダム化比較試験(RCT)を実施した。男性 10 名、女性 3 名(平均年齢 62 歳)の対象者の協力が得られた。その結果、体温・脈拍・血圧に有意差はみられな かったが、マッサージ群の KOKORO スケールの「不安な気分から安心な気分」は対照群と比較して有意に改善 していた。マッサージ後のインタビューから、 「マッサージしているときに痛みがない」などの発言が得られた。 これらのことから、測定値の顕著な変化は得られなかったが、ソフトマッサージは心理的安定に寄与することが 考えられる。臨床看護において RCT の実施はさまざまな困難を伴うため、対象者個別のデータを活用する代替的 な研究方法を模索する必要性が示唆された。 キーワード:ランダム化比較試験、ソフトマッサージ、がん患者、腹腔鏡手術、心地よさ. Ⅰ.はじめに  諸外国では、病気の治療に対して西洋医学だけに 頼らず、人間が本来もっている自然治癒力を高める 補完代替医療を用いる考え方が普及している1)。補 完代替医療が認知されるようになり、その一つであ るマッサージがさまざまな場面で用いられるように なってきた2)。しかし日本では補完代替医療に対す る看護師の認知度は低く、さらにマッサージを実践 している看護師は少ない3)のが現状と思われる。.  マッサージは紀元前 2 世紀頃から世界の国々で治 療として行われてきた最も古い治療の一つである が、1940 年頃より薬物療法の普及により、マッサー ジの施術があまりみられなくなった4)。マッサージ については、疼痛の緩和5)や、副交感神経が優位に なる6)という身体的効果7)やうつ症状の緩和などの 「マッ 心理的効果8)が報告されている。また山口は、 サージが皮膚を刺激することからオキシトシンの分 9) と述べ、小板橋は 泌を促進し安心する効果がある」 「さまざまな苦痛や不確かさのある患者に対して、 人の手で丁寧に触れられることで緊張が取り除かれ   * 聖泉大学看護学部看護学科  ** 森ノ宮医療大学保健医療学部鍼灸学科 *** 森ノ宮医療大学保健医療学部看護学科. 40. 10) 心地よく感じる」 と人の手の効果について述べて. いる。  近年の日本の医療情勢は 2006 年の医療制度改革 関連法の成立に伴い、在院日数の短縮化が求めら れ、また医療技術の進歩に伴い、手術においては鏡 視下手術が増加している。1990 年頃より腹腔鏡手術 における研究報告も散見されるが、侵襲が小さいこ とから看護介入が減少し、患者の不安や不満が生じ ていることが報告されており11,12)、さらにマッサー ジなどの看護介入を行った研究報告はみられない。 今後国内外で、さらに腹腔鏡下手術が増えることが 予想され、身体侵襲も小さく入院期間も短縮するこ. とから、看護ケアとして患者とのかかわりが減少す ることが考えられる。人が人に触れる、触れられる ことは癒しに繋がり、看護における重要な役割と考 えられてきた。日野原らは、 「技術の進歩に伴い、看 13) と述 護や医療において触れる機会が減っている」 べている。  そこで、今後さらに増加すると考えられる腹腔鏡 手術に関連して、がん患者の手術前後に起こりやす い不安や疼痛などの症状緩和のために、看護師がソ フトマッサージなどの触れるケアを行うことを提案 するために、臨床看護研究として腹腔鏡手術後患者 に対する、ランダム化比較試験(RCT)の実施の可 能性と困難性、および実施方法と効果検証における.

(2) 日本統合医療学会誌 第 13 巻第 1 号(2020). 図 1 介入・データ測定の流れ. 問題点抽出のために小規模 RCT のパイロットスタ ディを計画し実施した。. Ⅱ.研究の目的  腹腔鏡手術後のがん患者に対するソフトマッサー ジの効果を検証する。また、臨床看護における RCT 研究の方法論上の問題点を検討する。. Ⅲ.研究の方法   1 )対象者:腹腔鏡手術を受ける成人の消化器が ん患者 40 名   2 )研究期間:2016 年 10 月∼2017 年 3 月   3 )研究施設:関西の 500 床以上の A 総合病院、 外科病棟   4 )研究の体制  同意確認、データ収集、インタビューを実施する 研究者 3 名、コンピュータを用いてランダム化を行 うとともにデータ分析を担当する者 1 名、オンコロ ジマッサージの研修受講済みのソフトマッサージ実 施者 2 名、インタビューデータ分析のための質的研 究分析者 1 名にて研究を実施した。   5 )研究の方法  (1)マッサージの方法  ソフトマッサージによって人の手が触れることで 副交感神経が優位となり、術後の不安・ストレスを. 和らげる効果が期待できる。そのため、背中全体に 圧をあまり加えず、ゆっくりとしたペースの皮膚刺 激とした14)。1 秒間に 5 cm のスピードで実施する15) ように 2 人の研究者ならびに研究協力者が事前に手 技の統一を行い、20 分程度の実施とした。対象者す. なわちソフトマッサージを受けるがん患者の姿勢に. ついては、本人の望む側臥位または座位の姿勢とし た。  (2)測定項目  ①体温(予測式体温計、テルモ)  ②脈拍、血圧(加圧式電動血圧計、テルモ)  ③ 疼 痛 と 不 安 に 対 す る Visual Analog Scale (VAS)用紙(10 cm の直線を引いたもの).  ④KOKORO スケール(1 辺 10 cm の横軸の対角 に「安心な気分」と「不安な気分」、縦軸の対角に 「イライラする気分」「ワクワクする気分」を入れ、 四角形の平面上に対象者の現在の気分の位置を点で 表し、データを横と縦の目盛の位置により測定す る、理研開発) :開発者より承諾ならびに機器の使用 協力を得て使用した。  ⑤マッサージに対する感想のインタビュー(本人 の承諾を得て IC レコーダーに録音)  (3)具体的な研究の流れ  研究の具体的な流れを図 1 に示す。  ①病棟師長より腹腔鏡手術予定で入院した対象者. の情報を得る。  ②入院日(手術前日)に、研究の説明文を用いて 説明を行い同意を得る(RCT であり、対照群になっ た場合、希望に応じてデータ収集後にマッサージを 実施する。どちらになるかは当日わかる)。  ③研究の同意を得られた対象者について、分析者. にランダム化を依頼する。  ④ランダム化の結果を受けて研究者が対象者に対 して振り分けた結果を説明し、研究者が上記(2) ①∼④の測定を行う。  ⑤介入群の対象者は、測定終了後、マッサージ実 施者と交代し背部マッサージを実施する。. 41.

(3) 日本統合医療学会誌 第 13 巻第 1 号(2020). 表 1 群別—性別数と検定結果. 表 2 群別—脱落者数と検定結果. 介入群 対照群 Fisher s p 値(両側検定) 男性 女性. 7 2. 6 3. 1.000.  ⑥対照群の対象者については、測定終了後 10 分の 安静を依頼する。.  ⑦マッサージ終了後、実施者が上記(2)①∼④の 測定を再び行い、続いてマッサージの感想について インタビューを行う。  ⑧対照群の対象者に対しては 10 分後に研究者が 上記(2)①∼④の測定を再び行う。   (4)解析方法.  上記(2)①∼④の測定データについては、JMP 12.0(SAS Institute 社)を用いて介入群・対照群ご との前後差検定、群間の有意差の検定を行った。  ⑤インタビューについては逐語録を作成し、質的 研究者 1 名を含む 4 名の研究者で検討を重ね、語ら れた内容をマッサージの効果として類似した意味内 容ごとに分類しカテゴリー化した。. Ⅳ.倫理的配慮. 介入群 対照群 Fisher s p 値(両側検定) 実施 中止. 6 3. 7 2. 1.000. 中・微熱がありマッサージ実施による温かさに不 快」など体調・気分不快などによる 4 名と開腹術へ の変更 1 名の計 5 名から同意撤回があった(表 2)。 実施対象者は介入群 6 名、対照群 7 名の 13 名とな り、内訳は男性 10 名、女性 3 名、平均年齢 62 歳± 11(SD)であり、診断名は胃がん 4 名、大腸がん 5. 名、直腸がん 4 名であった。. 2.測定データ  表 3 に介入前の測定値を示す。介入群の年齢が対 照群と比べて有意に高かった。.  表 4 に測定値の前後差平均を示す。生理指標であ る脈拍、体温、最高血圧、最低血圧、および心理指 標である不安 VAS、疼痛 VAS、さらに KOKORO スケールによるワクワク、イライラ(KOKORO 縦 軸)に関しては、有意な群間差は認められなかった。 一方、不安・安心(KOKORO 横軸)については群 間に有意差を認めた(p=0.0393)。.  著者が所属する大学の倫理委員会の承認(2016 020)ならびに研究を実施する A 病院の倫理委員会 の承認を得た(28 04) 。  対象者に対し、入院日に説明の時間を設け、本研 究は RCT であり、介入群と対照群とがあり、コン ピュータでランダムに群分けを行うこと、どちらの 群も実施内容は同じであるがマッサージの順番が異 なることを説明し、説明文書により研究の目的・方 法・自由参加と途中辞退・結果の公表・匿名性の確. 3.インタビューの結果  マッサージの感想では「人が人に触れることの効 果」として、身体的、心理的、スピリチュアルの 3 側面が捉えられた。その内容は以下のとおりである (表 5)。  身体的効果としては<痛み><温もり>があり、 その内容は「マッサージをしているときは痛みがな. てかまわないことを十分に説明し、同意書に署名を 得、実施日に再度同意の確認を行った。.  心理的効果としては<気持ちよさ><安心><リ ラクゼーション><気分>であり、安心については 「安心感というか癒されるというか…。だから、恐怖 感とか不安感とかがものすごくなくなる」 「こういう. 保・データの保存と処理・研究者への連絡手段など について、特に手術後であるため当日の辞退があっ. Ⅴ.結果 1.対象者の状況  腹腔鏡手術予定入院患者 28 名中 18 名の同意が得 られた。介入群 9 名、対照群 9 名であり、患者の性 別(表 1)および術前の評価項目において両群に差. はみられなかった。実施日当日に「 怠感が強い・ マッサージを受けたい気分ではない・家族の面会 42. かった」 「肩や背中がすごく温かくなる」などであっ た。. ことがあると不安なことが 1 つ 2 つと消えていくか ら、一人で考えずに…」などの語りがあった。  スピリチュアルとして<手の力><思い出>があ り、「手の力、パワーを感じる」「人の手の力は説明 しがたい力があるような気がしますわ」 「さすってく れる人の心がこもったようにしてくれるとそれは本. 当に効果があると思いますよ」など手の力について の思いが語られた。「子供のころ親などに痛いとこ.

(4) 日本統合医療学会誌 第 13 巻第 1 号(2020). 表 3 介入前測定項目(体温・脈拍・血圧・VAS・KOKORO スケール). 年齢 体温(℃) 脈拍(回/分) 最高血圧(mm/Hg) 最低血圧(mm/Hg) 疼痛 VAS(cm) 不安 VAS(cm) KOKORO スケール横軸(cm) KOKORO スケール縦軸(cm). 介入群(n=6). 対照群(n=7). 平均. 標準偏差. 平均. 標準偏差. 69.56 36.43 68.67 130.89  68.44 0.59 3.39 −0.53 −0.6. 14.13 0.28 10.31 17.73 10.56 1.6  3.52 2.81 1.79. 58.67 36.51 77.78 120.11  76.33 0.38 3.46 −0.95  0.51. 9.75 0.25 12.05 13.63  8.53 0.77 2.86 1.89 1.16. t値. 自由度. p値. −1.903 0.616 1.724 −1.446  1.743 −0.357  0.0456 −0.366  1.565. 14.21 15.79 15.62 15.00 15.32 11.48 15.35 13.99 13.67. 0.0774 0.547 0.105 0.169 0.101 0.728 0.964 0.72 0.14. 表 4 測定値の分析結果. 脈拍(回/分) 体温(℃)  最高血圧(mm/Hg) 最低血圧(mm/Hg) 疼痛 VAS(cm) 不安 VAS(cm) KOKORO スケール横軸(cm) KOKORO スケール縦軸(cm). 介入群(n=6). 対照群(n=7). 前後差平均 標準偏差. 前後差平均 標準偏差. 2.83 −0.02 −6.33  0.67 −0.49 −1.02 1.29 0.27. 6.494 0.402 9.933 9.395 1.184 3.223 1.115 0.702. 2.71 −0.06 −2.86 −1.29 −0.09  0.15 −0.01  0.20. 10.547 0.257 7.151 9.844 0.827 0.454 0.714 0.405. 平均差 −0.12 −0.04  3.48 −1.95 0.40 1.17 −1.29 −0.07. t値. 自由度. p値. −0.025 10.108 0.9806 −0.212 8.276 0.8371  0.713 8.957 0.4938 −0.365 10.839 0.7219 0.697 8.779 0.504 0.878 5.170  0.4186 −2.444 8.277 0.0393 −0.207 7.734 0.8416. 表 5 マッサージの効果 身体的. 心理的. 痛み. 痛みは少しはましになっている 痛みは変わらない マッサージをしているときは痛みはなかった 安心から痛みや血圧が下がった. 温もり. 肩や背中がすごく温かくなる とても温かかった 手のぬくもり 温かいということは、身体にとってもよいことだと思う 温かかったですね やわらかい温かさが体にとって障害をましにする. 気持ちよさ 気持ちがよかった 気分. 気分の変化はない. リラクゼー やさしい感じがした ション ゆっくりしている リラックスしますね 安心. スピリチュアル 手の力. 思い出. 安心感がある 安心感というか癒されるというか…。だから、恐怖感とか不安感とかがものすごくなくなる こういうことがあると不安なことが 1 つ 2 つと消えていくから、一人で考えずに誰かに相談 することと同じ 手当というものだと思う 手の力、パワーを感じる 手の感触、手の気持ちよさが脳に気持ちよさを伝える ハンドパワーってよく聞くでしょ。若干ああいうものもでたらめじゃないんだな 人の手の力は説明しがたい力があるような気がしますわ さすってくれる人の心がこもったようにしてくれるとそれは本当に効果があると思いますよ 子供のころ親などに痛いところをさすってもらった思い出に通じる. 43.

(5) 日本統合医療学会誌 第 13 巻第 1 号(2020). ろをさすってもらった思い出に通じる」など、マッ サージの効果として捉えることができた。. あった。対象者にとって一部緊張の中でのマッサー ジの実施となったことも考えられ、臨床で日々顔を. うな感じ」などのソフトなタッチの特徴に対する発 言がみられた。またその他今回のケアについて「看 護師がちょっと触れてくれたら、来てくれたなとい. 3.マッサージの効果について  対象者の感じる「痛みがない」 「ぬくもり」 「リラッ クスする」 「安心感がある」などは、触れることの直.  これらの効果以外に、<従来のマッサージとの比 較>として、 「普段と違う。軽すぎる。マッサージし てもらった感がない。今回のは手当だな。なでるよ. う気持ちになる。話しながらマッサージしてもらっ てよかった。マッサージは素晴らしい」などの語り が聞かれた。. Ⅵ.考察 1.手術後の対象者の状況について  介入当日の 5 名の同意撤回については、腹腔鏡手 術後 1 日目の状態を術前には本人が予測できなかっ たことや、ドレーン類の挿入による疼痛や不快感な どの苦痛などから、日常のケアとは異なる研究とい う状況への参加を負担と感じたことが考えられた。 今回は、一部測定を含む研究でありマッサージ導入 の前に拒否されることとなったが、それらの測定を 含まずマッサージのみを実施することにより、 怠 感・不快感の緩和、症状軽減の効果が期待できたの ではないかと考える。 2.測定データの分析結果について  介入後の体温・脈拍・血圧などの生理的データに おいては、対照群との差がみられなかったことか ら、ソフトマッサージは術後の身体への負荷をかけ ることがない、安全なものである16,17)ことが再確認. できた。マッサージの効果として副交感神経の顕著 な優位状態がみられなかったことは、統計学上対象 数が少ないことも原因と考えられるため、より大き な規模の RCT で検証することが必要である。また、 両群の年齢にも大きく差がみられたため、今回のパ. イロット RCT では明確に判断できない状況である。  対象者の心理面においては、KOKORO スケール の横軸にある「不安な気分から安心な気分」におい て有意差がみられたことから、マッサージを通して 看護師が対象者の身体に触れること、そばにいるこ とにより術後の対象者の気分の安定につながること. が考えられる。皮膚感覚については、自己の意識の 影響を強く受けるといわれており18)、実施者と対象 者の関係性も影響することが考えられる。今回の マッサージ実施者は、実施日が対象者と初対面で 44. 合わせる看護師の実施によりさらに<安心>の気分 のほうに変化することが期待できる。. 接の効果として、過去に 20 代、壮年期、胸部手術後 患者に対して実施したソフトマッサージの研究結 果19,20)と同様であった。「手の感触、手の気持ちよさ が脳に気持ちよさを伝える」との発言もあった。山. 口は心理学の視点から、人間にとって快適さを与え る 1/f ゆらぎについて皮膚の振動実験を行ってお り、 「なでる」ことで 1/f の振動が発生し、その振動 「なでる」 「さする」 は頭部まで届いていた21)。また、 「タッピング」の実験において、「なでる」ことで抑 うつ気分が顕著に低下したと述べている21)。これら のことから、今回のソフトなマッサージで発生した 皮膚の振動が手術後の対象者の脳に届き、温かいな どの気持ちをもたらした可能性が考えられる。ま た、 「不安や恐怖感がなくなる」などの発言があり、 がんの手術後であり、身体・心理的に苦痛な状況に ある対象者にとって、わずかひと時でも、癒すとい う意思をもった誰かがそばにいて、体に優しく触れ ることは苦痛緩和の一助となると考えられる。  また、 「看護師がちょっと触れてくれたら、来てく れたなという気持ちになる」という発言から、看護 師の存在にタッチングをプラスすることで安心につ ながる患者もいることが確認できた。さらにソフト なマッサージにより、そこに存在し心を込めたケア を行うことの意義が確認された。  一方、ソフトタッチのマッサージについて、従来 のマッサージとの違いなどから物足りなさを感じた り、手当という別の認識をもった対象がいたことか ら、マッサージの定義、概念を明確に対象者に伝え ることが必要であることが確認できた。 4.臨床看護における RCT 研究実施の困難さ  今回のパイロット RCT では、当初 40 名の対象者. を想定したが、実際の入院予定患者は 28 名であり、 さらに同意が得られたのは 18 名であった。研究の説 明の段階では対象者からの不安や疑問はみられず、 ランダム化に対する拒否的な反応はなかった。しか し、研究の参加そのものに対する拒否と、手術前日 の説明というタイミングの悪さによると思われる同.

(6) 日本統合医療学会誌 第 13 巻第 1 号(2020). 意が得られなかった対象者が 10 名いた。マッサージ の RCT においては対象者のブラインド化は不可能. であるため、データ収集者のブラインド化を試みた が、病院環境・実施の過程においてデータ収集者と マッサージ実施者が出会わない状況を作ることが困 難であったため、評価者ブラインドも断念せざるを えなかった。  このように、信頼のおける強いエビデンスをつく るための研究方法としての RCT であるが、それを 日本の病院の臨床看護の現場で計画し実施すること の困難さがこのパイロット試験で明らかとなった。 入院患者を対象とする看護介入を RCT で検証した 報告は国内ではこれまでほとんどみられず、今回の 実施を通して前述したような多くの障壁の存在を再 認識することとなった。今後、RCT を実施できる環. 境を構築することも重要であるが、同時に、一人ひ とりの状況を捉え一人ひとりに対応するべき臨床看 護においては、RCT に頼らない研究方法を模索し看 護介入に適したアウトカムについて再検討すること が必要だと考える。 5.看護への示唆   「触れること」について、手術後の苦痛がある対象 者に対する効果を検証することが当初の目的であっ たが、今回は客観的データとして明確なものを抽出 することはできなかった。しかし看護師の存在、傾 聴、共感などによる心理的効果については、インタ ビューでさまざまな声が聞かれていたように、研究 者が術後に訪室し状況に応じて会話をしたこと、 マッサージ実施者が対象者の希望に沿って体位調整. し安楽な姿勢でゆっくりとしたマッサージを実施し たこと、必要に応じて会話をしたことなど、マッ. サージ手技だけではない日常の看護ケアと相俟っ て、術後の苦痛状態にある対象者の身体・心理的緩 和の一助となったと考えられる。  このことから、触れる/触れられることが少ない 文化である日本において、特に「さする」手の効果 が看護場面で活用されることについては期待ができ るため、今後も新たな研究方法論の開発やその研究 成果に裏付けられた触れるケアが普及することが望 まれる。. 謝辞  今回の研究を行うにあたりご協力いただきました 患者様、ならびにご協力いただきました A 病院の師. 長はじめ病棟スタッフの皆様に感謝申し上げます。  この研究は 2016 年度科学研究基盤 C(16K12047) の助成金を受けて実施し、第 37 回日本看護科学学会 で一部発表したものに追加修正したものです。. 文献 1)Cutshall SM, et al.:Creation of a healing enhancement program at an academic medical center. Complement Ther Clin Pract. 2007;13(4):217 223. 2)Smith MC, et al:Benefits of massage therapy for hospitalized patients. A descriptive and qualitative evaluation. Altern Ther Health Med. 1999;5 (4): 64 71. 3)緒方昭子:国立大学病院に勤務する看護師の代替 医療・統合医療に関する興味・関心.日統合医会 誌.2012;5(1) :73 78. 4)Field TM:Massage therapy effects. Am Psychol. 1998;53(12) :1270 1281. 5)Filed T, et al.:Fibromyalgia pain and substance P decrease and sleep improves after massage ther:72 76. apy. J Clin Rheumatol. 2002;8(2) 6)Diego MA, et al.:Aggressive adolescents benefit from massage therapy. Adolescence. 2002;37 (147) :597 607. 7)Hou WH, et al.:Treatment effects of massage therapy in depressed people:A meta analysis. J Clin Psychiatry. 2010;71(7) :894 901. 8)Diego MA, et al:Aggressive adolescents benefit from massage therapy. Adolescence. 2002;37 (147) :597 607. 9)山口創:手の治癒力.草思社,東京,2012:112 121. 10)小板橋喜久代編:ナーシングマッサージ入門.日本 看護協会出版会,東京,2016:37. 11)寛重有美香,他:ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘 術を受ける患者の心理適応に関連する要因.日本が ん看護学会誌.2015;29(3) :61 66. 12)若崎淳子,他:腹腔鏡下手術を受ける壮年期婦人科 疾患患者の心理状況.インターナショナル Nursing Care Reserch.2009;8(3) :11 22. 13)日野原重明,他:看護の時代.看護協会出版会,東 京,2012:30 33. 14)MacDonald G:Massage therapy in cancer care: an overview of the past, present, and future. Altern Ther Health Med. 2014;12:12 15. 15)山口創:皮膚は「心」を持っていた.青春出版社, 東京,2017:82 104. 16)酒井桂子,他:健康な女性に対するタクティールケ アの生理的・心理的効果.日本看護研究学会雑誌. 2012;35(1) :145 151.. 45.

(7) 日本統合医療学会誌 第 13 巻第 1 号(2020). 17)緒方昭子:胸腔鏡手術後患者におけるソフトマッ サージの効果.日統合医会誌.2018;11 (3):299 304. 18)傳田光洋:皮膚感覚と人間のこころ.新潮社,東 京,2013:143. 19)緒方昭子,他:壮年期男女におけるソフトマッサー ジの生理的・心理的効果.森ノ宮医療大学紀要. 2019;13:23 35. 20)緒方昭子,他:ソフトマッサージが健康な 20 代男 女 の 身 体・ 心 理 に 与 え る 効 果. 日 統 合 医 会 誌. 2014;7 (2) :50 59. 21)山口創:皮膚という「脳」 .東京書籍,東京,2012: 128 134.. 46. 著 者 履 歴 緒方昭子 大学病院看護師、専門学校教員として勤務後、2007 年より宮 崎大学看護学科助教、2015 年より森ノ宮医療大学看護学科 准教授、2019 年より聖泉大学看護学部教授となる。 補完・代替療法に興味を持ち日本統合医療学会に入会、その 後、看護師が行うケアとしてソフトタッチのマッサージの教 育と実践研究に取り組んでいる。 i 連絡先 〒521 1123 滋賀県彦根市肥田町 720 番地 聖泉大学看護学部成人看護学 TEL:0749 47 5098 E mail:ogata@seisen.ac.jp.

(8)

表 4 測定値の分析結果 介入群(n=6) 対照群(n=7) 平均差 t 値 自由度 p 値 前後差平均 標準偏差 前後差平均 標準偏差 脈拍(回/分) 2.83 6.494 2.71 10.547 −0.12 −0.025 10.108 0.9806 体温(℃)  −0.02 0.402 −0.06 0.257 −0.04 −0.212 8.276 0.8371 最高血圧(mm/Hg) −6.33 9.933 −2.86 7.151  3.48  0.713 8.957 0.4938 最低血圧(mm/Hg

参照

関連したドキュメント

当該不開示について株主の救済手段は差止請求のみにより、効力発生後は無 効の訴えを提起できないとするのは問題があるのではないか

学術関係者だけでなく、ヘリウム供給に関わる企業や 報道関係などの幅広い参加者を交えてヘリウム供給 の現状と今後の方策についての

および皮膚性状の変化がみられる患者においては,コ.. 動性クリーゼ補助診断に利用できると述べている。本 症 例 に お け る ChE/Alb 比 は 入 院 時 に 2.4 と 低 値

アスピリン バイアスピリン 7 日(5 日でも可) 個別検討 なし 術後早期より クロピドグレル プラビックス 7 日(5 日でも可) 7 日(5 日でも可) なし

本案における複数の放送対象地域における放送番組の

このうち、放 射化汚 染については 、放射 能レベルの比較的 高い原子炉 領域設備等を対象 に 時間的減衰を考慮す る。機器及び配管の

このうち、放 射化汚 染については 、放射 能レベルの比較的 高い原子炉 領域設備等を対象 に 時間的減衰を考慮す る。機器及び配管の

このうち、放 射化汚 染については 、放射 能レベルの比較的 高い原子炉 領域設備等を対象 に 時間的減衰を考慮す る。機器及び配管の