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数値化された法的基準が誘発する組織不正 燃費不正の事例研究

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1.はじめに 近年,データ改ざん,情報流出,虚偽記載など 情報経営の健全さを根底から覆す組織不正(orga-nizational wrongdoing)が増えている1).例えば, 2017 年秋頃に起きた神戸製鋼のデータ改ざんで は,JIS 規格に適合するように製品データが改ざ んされ,米ボーイングや JR 東海などに製品が納 品されていた.このように,本来適切に管理され るはずの製品データが改ざんされることは単に企 業の信頼失墜に留まらず,大規模な被害に繋がる ことがある. このような組織不正とは,端的に言えば企業の 経営方法が違法性をもつことである.このように

■ 研 究 論 文 ®

Abstract : Organizational wrongdoing has become rather frequent in Japan. As such, this study examined the case of falsifying fuel economy tests through a theoretical examination of research on organizational wrongdoing. It was found that although each case had illegality because of deviation from nationally defined fuel consumption methods, the companies used legitimate fuel consumption measurement methods. In other words, the theoretical conclusion was that the measurement method defined by the nation stimulated the falsifying of fuel economy tests.

Keywords : organizational wrongdoing, illegality, legitimacy, externality, institution

大阪産業大学 中原 翔

Osaka Sangyo University Sho NAKAHARA

Organizational Wrongdoing Stimulated by Quantified Legal Standards:

The Case Study of Falsifying Fuel Economy Tests in Japan

* 大阪産業大学 経営学部 准教授

数値化された法的基準が誘発する組織不正:

燃費不正の事例研究

組織不正を違法性(illegality)─合法性(legality) で判別する法的基準は重要な基準ではある.しか しながら,組織不正を分析する際に法的基準だけ を参照することもまた別の問題を生む.違法性ば かりが先行してしまうことで,どのような組織不 正であったのかという内実が軽視されてしまうか らである(「この事例は違法だから悪い」という ように).たとえ違法であっても,経営方法が伝 統や慣習において広く受け入れられていたり,不 正事例の悪影響があまりない場合もある.本稿が 取り上げる燃費不正にも,このような事例が含ま れている.これらの(良質な)不正事例を他の(悪 質な)不正事例と混同しないためには,複数の判 定基準を導入しなければならない2) 以上より本稿では,組織不正研究に複数の判定 基準を導入するための理論的検討を実施し,その 重要性を示すための事例研究を行う.本稿では,

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燃費不正の事例研究を実施し,複数の判定基準を 通じて組織不正を分析することの理論的・実践的 含意を提示する. 本稿の構成は,次の通りである.続く第 2 節で は,組織不正研究に複数の判定基準を導入するた めの理論的検討を行う.ここでは組織不正研究の 法的基準と違法市場研究(the illegal markets) の道徳的基準と外的基準の理論的検討を行いなが ら,研究課題を導出する.第 3 節では,わが国に おける 2 つの燃費不正事例を取り上げ,それらを 研究課題に即しながら事例記述する.本稿では, 三菱自動車工業株式会社(以下,三菱自動車)と スズキ株式会社(以下,スズキ)の燃費不正を取 り上げ,両事例が同様の燃費不正事例でありなが らも,それぞれ決定的な相違点を有していたこと に注目する.第 4 節では,事例記述で得られた発 見事実を整理しながら考察を行う. 2.組織不正研究への複数の判定基準の導入に 向けて:理論的検討 これまで組織不正研究では,法的基準の観点か ら不正行為者がなぜ不正行為に着手したかという 意図が分析されてきた(Palmer, 2012).だが法 的基準ばかりが先行することは組織不正の内実を 軽視することに繋がる.本節では,違法市場研究 の道徳的基準や外的基準に関する議論も手がかり にしながら,組織不正研究へ複数の判定基準を導 入するための理論的検討を行う.なお,違法市場 研究では,道徳的基準に関する Mayntz(2017) や外的基準に関する Beckert and Dewey(2017) の理論的成果がある.本稿ではそれらの成果を踏 まえつつ,3 つの判定基準に紐付いた研究課題を それぞれ導出する.なお,本節は研究課題を導出 するためのレビューであり,組織不正研究や違法 市場研究の体系的レビューではない3) 2.1 組織不正の法的基準 本稿が主に参照する Palmer(2012)は,既存 の組織不正研究を批判的に検討し,経営学の重要 な研究領域として(再)定位した文献である.そ の功績は,米国経営学会(Academy of Manage-ment)の最優秀書籍賞受賞とジョージ・R・テ リー賞の最終候補への選出に見て取れる4).この Palmer(2012)によれば,既存研究は組織不正 を通常の組織現象で起こりえないものと捉えてお り,その捉え方を「異常な組織不正(abnormal organizational wrongdoing)」(Palmer, 2012, pp. 6-8)と呼称する.この「異常」とは,組織不正が 違法性を有する状態を指している(e.g., Ndofor, Wesley and Priem, 2015). だ が パ ル マ ー(D. Palmer)は,このような既存研究の捉え方を批 判する.具体的には,組織不正とは通常の組織現 象の中で起こりうるものとした上で,それを「正 常な組織不正(normal organizational wrongdo-ing)」(Palmer, 2012, pp. 8-10)と呼称している5) 組織不正は違法性を事前に確定できるわけではな く,合法的な経営方法が事後的に違法なものと認 識されうるからである. その後パルマーは,組織不正を判別するための 法的基準という位置づけから,むしろ法律こそが4 4 4 4 4 4 4 4 組織不正を生み出す4 4 4 4 4 4 4 4 4 という持論を展開している (Palmer, 2017).旧態依然とした法律がかえって 先進的な経営方法を組織不正と判別してしまうか らである.パルマーは,これを理論的に考えるべ く制度派組織論(organizational institutionalism) の知見を参照しており(e.g., Greenwood, Oliver, Sahlin and Suddaby, 2008; Greenwood, Oliver, Lawrence and Meyer, 2017),「制度が組織不正 を誘発する(institution can stimulate organiza-tional wrongdoing)」(Palmer, 2017, pp. 742-744) という独特な命題を提示している6).すなわち, 合理合法,正統性,専門家といった制度が組織不 正を誘発するために(e.g., 上西,2014),そのプ ロセスを記述によって明らかにすべきという議論 である. ところで,パルマーの議論を踏まえて燃費不正 を分析するとすれば,数値化という概念に着目す る必要がある.というのも,燃費不正の場合には, 数値化された法的基準が燃費不正(組織不正)を 誘発しているケースがあるためである.燃費目標

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を統制する法的基準は単なる法制度ではなく数値 化された法的基準であり,この数値化された法的 基準が燃費不正の発生に影響している可能性があ る. 詳しくは後述するが,このような数値化された 基準にいち早く警鐘を鳴らしていたのが価値評価 研 究(valuation studies) で あ っ た. 例 え ば, Kjellberg et al.(2013)は,客観化され計算可能 な基準ほど人々に無前提に信じられやすいと言及 している.もともと人々の平等さ・公平さを担保 するために数値化された基準が,ひるがえり組織 不正などの問題発生に繋がるからである.さらに 価値評価研究をデューイ(J. Dewey)の議論を 手がかりにする上西(2018)は,様々な価値評価 の場面で経済学的価値(数学的価値)を反映する 数値化が浸透してしまっているとする.このよう な事態を上西は,「数値への盲信」(上西,2018, p. 12)と呼称しているが,数値化された基準を われわれが盲信すること,その盲信から組織不正 が生まれてしまうことにも注意が必要であろう (e.g., Thornton, Ocasio and Lounsbury, 2012;

Vatin, 2013). ところで,数値化された基準は数値化しえない 基準を生み出し,その非数値的な基準が組織不正 に繋がることもある.例えば,ラトゥール(B. Latour)のアクターネットワーク理論(actor network theory)を踏まえつつ数値化を議論す る國部(2017a)は,数値化を 1 つの翻訳(trans-lation)プロセスと見なすことができるとし,そ の数値化を起点として構築されるネットワークが あると言及している.例えば,試験における英語 能力の数値化では,英語教師,学生,教材,試験 問題,点数等がアクターとして 1 つのネットワー クを構築しており,そのアクターの遂行的実践を 通じて試験が実行されている(p. 27).これを踏 まえると,英語能力の数値化によって順位付けが なされた場合,その順位付けは学生間の能力格差 を助長する.そして,数値化された能力格差を克 服しようとする学生は,「試験勉強までの頑張り」 や「日頃の生活態度」といった事柄を主張するこ とによって非数値的な基準を作り出したり,ある いは結託して能力をもつ学生へいじめや脅迫を行 うこともありうるだろう.これは一例に過ぎない が,このように数値化された基準は,非数値的な 基準を生み出し,それが組織不正を誘発すること もある. 2.2 違法市場の道徳的基準 数値化された法的基準が生み出す非数値的な基 準の一つに道徳的基準がある.この道徳的基準に ついて古くから研究蓄積のある違法市場研究で は,世界有数の研究者を擁するマックス・プラン ク研究所(Max Planck Institute)が研究拠点と なっている.その初代社会研究所長(1985 年─ 1997 年)であったマインツ(R. Mayntz)は,違 法市場には合法性─ 違法性という法的基準のみな らず,正統性(legitimacy)─異端性(illegitimacy) という道徳的基準が必要であるとする(Mayntz, 2017).違法市場で取引されている財に違法性が あるかだけではなく,その財の良し悪しを判断す るのに道徳的基準が必要だからである. 道徳的基準に言及する前に,まず違法市場研究 における法的基準の議論に言及しておきたい. Mayntz(2017)は,法的基準が明白な法律によっ て定義されるものである以上,概念的な曖昧さが 少ないものとする.ただし,合法という言葉には 二重の意味があり,一方では法を遵守するという 意味と(do-rules),他方では法を犯さず抜け穴 を突くという意味がある(donʼt-rules).特に後 者は,違法市場における財が「法に抵触していな い」という理由だけでは受け入れられるか否かを 判断できないとして道徳的基準を参照すべきとす る. この道徳的基準は,反対に伝統や慣習のように 根拠が幅広く,多義的な意味を持ちうる.したがっ て Mayntz(2017)は,道徳的基準については観 察可能な実践を分析すべきとし,どのように伝統 や慣例の中で受け入れられているかを確認せよと する.例えば,違法市場において市場取引される 財の中でもマリファナ(marijuana),フェイク

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(fake clothing),闇タバコ(cigarettes),盗難品 (stolen parts),コカイン(cocaine)などは伝統 や慣習において受け入れられているが,芸術の密 輸(art),武器製造(arms),宝石の密輸(dia-monds),臓器売買(human organs),人身売買 (people),児童ポルノ(child pornography),動 物売買(animals)などは受け入れられにくい. このように異端性の高い財は,違法市場で新たに 取引されるもので取り締まりも強化されやすく なっている.以上のマインツの類型は,3 代目所 長であるベッカート(J. Beckert)が図式化して いる(図 1 を参照).これらの位置づけに若干の 違和感を覚えるが,これは国家間の法律や伝統の 違いであろう. 2.3 違法市場の外的基準 ここからは数値的な外的基準について議論す る.この外的基準は,ここまで議論してきた非数 値的な道徳的基準に対して影響を及ぼすことがあ る.ベッカートによれば,違法市場のような特殊 な市場の場合,道徳的基準のみならず外的基準も 議論しなければならない(Beckert and Dewey, 2017).彼らは外的基準を単に外部性(externality) と言及しているが,これは正の外部性(positive externality)─負の外部性(negative externality)

に分類することができる.

この外的基準は,主に「正統性の源泉(sources of legitimacy)」(Beckert and Dewey, 2017, p. 13)として機能する.例えば,私たちは伝統 や慣習において受け入れられるかどうかを(道徳 的基準),どれだけ社会に対して悪影響をもつか をもとに判断している側面がある(外的基準). その場合,社会に対する悪影響は環境問題に通ず るものとして数値的に換算されるものが多い.本 稿が扱う燃費不正もそうである.この場合,数値 化された外的基準がその後の道徳的基準に影響を もたらす可能性があるため,その考察が必要であ る.例えば,図 1 でもそれぞれの財が正統である か,異端であるかは社会に対する悪影響に鑑みて 類型されているとも考えられる.マリファナ,フェ イク,闇タバコ,盗難品,コカインなどよりも, 芸術の密輸,武器製造,宝石の密輸,臓器売買, 人身売買,児童ポルノ,動物売買などの方が高額 取引にかけられることが多いためである. ただし,この場合の外的基準は道徳的基準の判 断材料の一つである(つまり,他の基準も関係し ている可能性がある).また,道徳的基準と外的 基準は全く同様ではないため分析的には双方を異 なるものとして位置づけるべきではある.以上を 踏まえると,数値的な外的基準を非数値的な道徳 的基準とあくまで別々の基準とした上で,その影 響を考察していくといった工夫が望ましいだろ う. 2.4 研究課題の導出 ここまで複数の判定基準について理論的検討を 行ってきた.これらの理論的検討を踏まえて,本 節では燃費不正の事例研究に向けた研究課題を導 出しておきたい.まず法的基準については,数値 化された法的基準が燃費不正に繋がるプロセスを 分析する必要がある.燃費不正の責任が企業に帰 属されていた事例であっても,それがどのように 数値化された法的基準との関係で生じたのかを再 度分析する作業が必要である.ここでは,「数値 化された法的基準がどのように燃費不正を誘発し 図 1 違法市場のマトリクス

(出典) Beckert and Dewey(2017, p. 13, Figure 1. 1)より 著者作成

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ているのか」という研究課題 1 を設定する. 次に,道徳的基準についてである.ここでは, 数値化された法的基準によって生じた非数値的な 道徳的基準に着目し,それがいかに組織不正を誘 発しているかを分析する必要がある.この場合に は,「数値化された法的基準によって見えてきた 非数値的な道徳的基準とはどのようなものか.そ して,それがどのように燃費不正に繋がっている のか」という研究課題 2 を設定する.まずは数値 化された法的基準によってどのように非数値的な 道徳的基準が生じてきたかを明らかにし,そして その非数値的な道徳的基準が燃費不正を誘発する プロセスに着目する. そして最後に,外的基準についてである.ここ では,非数値的な道徳的基準に対して影響をもた らす数値的な外的基準を明らかにする.この場合 には,「どのような数値的な外的基準が非数値的 な道徳的基準に対して影響を及ぼしうるのか」と いう研究課題 3 を設定する. 3.燃費不正の事例研究:経験的検討 本節では,三菱自動車とスズキの燃費不正事例 を研究課題に即しながら記述する.この事例記述 に使用した主な資料としては,記者会見の文字起 こしデータ及び両社調査報告書(簡略版を含む) である7).記者会見は,三菱自動車が 3 回(2016 年 4 月 20 日,同年 4 月 26 日,同年 5 月 11 日), スズキが 2 回(2016 年 5 月 18 日,2018 年 8 月 9 日) であるが,本稿では記者会見上のやり取りを文字 起こしした上で,コーディングやカテゴリー化な どの質的分析を行った. 3.1 数値化された燃費試験基準が誘発した 2 つ の燃費不正 本稿が取り上げる 2 つの燃費不正事例は,国土 交通省が 1991 年に定めていたつの惰行法から逸 脱する事案として発覚した.もともと国内で定め られていた燃費試験基準(JC08 モード)では, 試験室内に設置されたシャシダイナモメータと呼 ばれる燃費測定装置を使用することになってい た.この時,シャシダイナモメータを実際の道路 状況と同等の負荷状態にする必要があったが,そ の負荷状態は惰行法と呼ばれる方法で測定するこ とになっていた. この惰行法では,試験路を実走させて測定した 走行抵抗をもとに「目標走行抵抗」を算出する. その実走では,20km/h,30km/h…90km/h とい うように各指定速度を基準にし,試験自動車を指 定速度+5km/h を超える速度からギアをニュー トラルにした状態で指定速度が+5km/h から −5km/h に至るまでの惰行させる.この試験を 最低各 3 回ずつ行い,その平均惰行時間を算出す る.走行抵抗は,(詳しい数式は省略するが)平 均惰行時間と試験自動車の重量をもとに算出され ており,さらにシャシダイナモメータに設定する 目標走行抵抗は必要な係数を乗じるなどして求め られている. しかしながら,三菱自動車とスズキでは,この ような数値化された燃費試験基準があったにも関 わらず燃費不正を行っていた.三菱自動車では, 走行抵抗の測定や実験などを司る性能実験部が高 速惰行法という測定方法を 1978 年から使用し続 けていた.高速惰行法とは,惰行法と似て非なる もので,試験自動車を 150km/h(又はその自動 車の最高速度の 90%)とかなりの高速域まで上 げてから 5 秒間保持した後に惰行を開始する方法 である.この高速惰行法では,高速域の走行抵抗 を算出することには適していたものの,惰行法の ように低速域での走行抵抗を求めることには適し ていなかった(特別調査委員会,2016a,2016b). その一方で,スズキもまた惰行法とは異なる方 法で走行抵抗の算出を行っていた.スズキでは, 実走による惰行法ではなく,実際の走行状態と同 様の状態を作り出す風洞試験室で測定した空気抵 抗,タイヤ転がり抵抗,ブレーキ引きずり抵抗な どを装置毎等の積上げで走行抵抗を算出してい た.このような積上げは,スズキ社内において車 両開発などを担うカーラインと呼ばれる部門で行 われており,カーラインは実走によって走行抵抗 を算出せず,この積上げでの走行抵抗を社内の技

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スズキ:測定の現場は,惰行法を測りながら 色々と試みるのですが,自然界の外で安定して 取れないとかバラツキが出るとかの中で大変苦 労をしていたようなのです(2018 年 5 月 18 日 スズキ記者会見). このような言及を踏まえると,数値化された燃 費試験基準自体が両社の燃費不正を誘発していた とも言えるだろう.そしてそれは両社が惰行法を 使用していなかったという単純なものではなく, 数値化された燃費試験基準を徹底しようとすれば するほど,惰行法を使用できないというパラドキ シカルな燃費不正であったと言える.記者会見で も経営陣が測定に困難さを覚える現場の悲鳴を代 弁しているが,このような内情は違法か否かだけ ではなく,数値化された燃費試験基準を再考する ことによって見えてくるものでもある. そして,もう一つ興味深いのが両社の測定方法 が選択された背景である.これは技術的に効率的 な測定方法であったという以上に伝統や慣習に根 ざしたものであり,さらにそれらがもう一つの意 味での燃費不正を誘発していた. 3.2 非数値的に参照された国際的な燃費試験基準 三菱自動車が高速惰行法という測定方法を選択 していたのは,既述の通り惰行法が困難となるた めだった.だが,それだけではなぜ高速惰行法が 選択されたのかが不明瞭ではある.実は高速惰行 法という測定方法は,もともと三菱自動車が一か ら開発した方法ではなかった.米国への出荷を予 定していた三菱自動車が,米国で古くから使用さ れていたとされるコーストダウン法という測定方 法を参照し自社に適合させていたものだった. 三菱:米国の燃費,排ガスの試験をするための 走行抵抗を取るのが,この高速惰行法という手 法でございました.それを当社としてはずっと 当然,米国向けに関しましてはそれで走行抵抗 を出してきておりました(2018 年 4 月 20 日三 菱自動車記者会見). 術開発本部や関係者に報告していた(スズキ株式 会社,2016a,2016b). 以上を踏まえると両社の事例では,三菱自動車 は高速域に特化した測定方法を使用していた一方 で,スズキはそれぞれの装置毎等の積上げを行っ ていたという違いを確認できる.なお,両社の燃 費不正は惰行法からの逸脱という意味で違法性を 有する組織不正であったことが共通している. ところが,この燃費不正は両社が違法な測定方 法を使用していたという単純な帰結に終止すべき ではないものであった.なぜなら,数値化された 燃費試験基準自体が現場の測定実践を困難にさせ ていたからである.両社の記者会見でしきりに言 及されていたことは,惰行法が風や気温といった 自然環境の影響をかなり受けやすかったことであ る.三菱自動車では,それを加味してわざわざ遠 方のタイで測定を行っていたこともあった. 三菱:終盤,もうこれは最終終盤まで達成でき ると,実際にやっていた人間は思っておりまし た.それ故に先ほど申し上げました,タイの方 に行って温暖なところで取ればそういう走行抵 抗は出るのではないかということを,最後の終 盤まで思っていたということであります(2018 年 5 月 11 日三菱自動車記者会見). さらに調査報告書では,惰行法を使用しなかっ た理由として,「(惰行法は)よほどの条件が整わ ない限り不可能であった」(特別調査委員会, 2016a,p. 62;括弧内筆者)と言及されており,「惰 行法が非常に手間の掛かる面倒な走行抵抗測定方 法であると認識されていた」(特別調査委員会, 2016a,p. 62)とも言及されている. その一方で,スズキの場合も試験場が海に近い 丘の上で風の影響を強く受けていたために惰行法 は非常に困難な測定方法と認識されていた.そこ に燃費を良く見せようという意識はなく,あくま で燃費を正確に出すために自社の方法を採用して いたという.

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確かにコーストダウン法は,それが普及するよ うになった 1980 年代では,「運輸省(当時)にお いても,測定精度の高い負荷設定方法として認知 され」(特別調査委員会,2016a,p. 59)ていた. しかしそれは,1980 年代の話である.このコー ストダウン法をもとにした高速惰行法が,現代で は最も技術的効率性をもつ測定方法ではないこと は明白だった.このことを踏まえると,三菱自動 車が惰行法を使用せず高速惰行法を使用していた のは(米国の燃費試験基準を参照していたのは), 「米国で伝統的に用いられている測定方法として コーストダウン法があったから」という米国の伝 統や慣習を意識してのことになる. これに対して,スズキも装置毎等の積上げを採 用していたのは,欧州向けに出荷を行うためで あった.三菱自動車とは対照的に欧州への出荷を 予定していたスズキでは,欧州現地の燃費試験基 準を参照していた.実際に調査報告書においても, 「欧州認証用に測定した装置毎等の積上げによる 走行抵抗値が既に存在していたことから,国内申 請用に必要な惰行法による測定をせず,装置毎等 の積上げによる走行抵抗測定値を国内でも申請値 として使用出来るとの誤解が生まれ,以降の新規 開発車両にも踏襲されていったものと推測してお ります」(スズキ株式会社,2016a,p. 4)と言及 されている.しかしながら,スズキも三菱自動車 と同様になぜ欧州の燃費試験基準だったのかにつ いて明白な理由はない.このように考えると,ス ズキも欧州で伝統的に用いられていた燃費試験基 準を参照し燃費不正を誘発させていたと言える. ちなみに,このような海外で伝統的に用いられ ている燃費試験基準を国土交通省が燃費不正の発 覚後にわが国に導入していたことは注目に値する だろう.国土交通省は,2017 年 4 月に燃費測定 の追加的な測定方法として,スズキが採用してい た「風洞法(風洞実験室での測定方法)」と呼ば れる室内での測定方法を容認している.また, 2018 年 10 月には,惰行法が定められている燃費 試験基準である JC08 モードを WLTP(Worldwide Harmonized Light vehicles Test Procedure:乗

用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法)モード へ変更し,世界共通の排出ガス・燃費測定を推進 する旨を発表した.このように,(それが技術的 にどれだけ効率的かという以上に)海外で伝統的 に受け入れられているという事実がわが国の燃費 試験基準にも重要な影響を与えていることが理解 できる. 3.3 燃費不正によって生じた影響 最後に,燃費不正の影響について考えていきた い.既述の通り,三菱自動車で行われた燃費不正 では走行抵抗が机上計算されたり,恣意的に引き 下げられた結果,燃費性能がカタログよりも悪化 する結果となった.このことにより,三菱自動車 では消費者への影響,消費者が受ける税金への影 響,工場勤務を行う労働者の雇用への影響等の対 応が求められていた.そこで三菱自動車は,対象 車両(「eK ワゴン/eK カスタム」「eK スペース (カスタム類別も含む)」)を保有する消費者に対 して一台につき 10 万円の補償額を設定すること を決定した.一部報道では,その補償総額は数 百億円に上るとも予想されており,その額が消費 者への影響の大きさを物語っていた.なお,10 万円の算定根拠として三菱自動車は,燃料代の差 額と自動車関連諸税の増額分を挙げている(2016 年 6 月 17 日当社 HP 公表,8 月 29 日改訂). その一方でスズキの燃費不正では,2016 年 5 月 18 日の記者会見時から燃費値への影響がない ことが明言されており,走行抵抗の測定方法には 不正が確認されていたものの,取得していた走行 抵抗は惰行法で検証した結果,誤差の範囲内で留 まっている.そのため,カタログにおける燃費値 が修正されることはなかった. 4.考察 本節では,ここまで行ってきた事例記述を考察 していきたい.なお本節では,それぞれの研究課 題に対する応答として各節での議論を展開する. 特に研究課題 1 については,今回の燃費不正が両 社の責任としてではなく,(国交省が設定した)

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数値化された燃費試験基準にあったことに言及す る.これは本研究独自の発見事実でありつつも, 組織不正研究とは何を行う研究領域かを再考させ る重要な発見事実である. 4.1 研究課題 1 への応答:法的基準 まず,研究課題 1 の「数値化された法的基準が どのように燃費不正を誘発しているのか」につい てである.まず今回の燃費不正は,両社の不正事 例として認知されていた.既述のように,三菱自 動車では高速惰行法と呼ばれる測定方法を用いて 高速域に特化した走行抵抗の算出を行っていた. スズキも惰行法を使用せず,装置毎等の積上げで 走行抵抗を算出していた.これらの事実だけを見 れば,燃費不正の責任は両社にあるように見えた. だが今回の事例で問題だったのは,両社以上に 数値化された燃費試験基準の方であった.具体的 には,惰行法が現場での測定実践に合わず,それ を使用しようとするほど燃費測定が困難になると いう悲劇的な事態を引き起こしていた.惰行法は, 20km/l から 90km/l の低速・中速域で,かつそ れが無風状態に近くなければ測定出来ない方法で あった.そのため両社は,車体の軽量化やタイヤ の抵抗減に取り組んでいたわけだが,しかしそれ だけ軽量化が進むと今度は風の影響を著しく受け るようになっていた.つまり,現場にとっては, 「燃費試験基準の暴走」だった. なお,このことを既存研究に対する新たな発見 事実として提示することもできる.今回の燃費不 正は,法制度が組織不正を誘発したというよりは 法制度を具体化したような法的基準が組織不正を 誘発していた.ということは,規範的な法制度よ りも実践に近い法的基準が組織不正を誘発する機 会をもつことが分かる.しかし,だからと言って 簡単に予防策を講じられるわけでもない.なぜな ら,組織不正は「正常」に行われているからであ り,特にスズキのような場合には燃費を正確に出 そうとしていたのだから,それに予防策を講じる などは困難である. 以上を踏まえると,組織不正研究では組織不正 を「予防」したり,「改善」するという考え方を 捨て去る必要があるのかもしれない.これについ ては後述するように,制度(基準)と実践のズレ に着目するなどの根本的な態度変更が必要だろう が,少なくとも「正常な組織不正」や「制度が組 織不正を誘発する」という考え方は,そのような 示唆を与えてくれている. 4.2 研究課題 2 への応答:道徳的基準 次に,研究課題 2 の「数値化された法的基準に よって見えてきた非数値的な道徳的基準とはどの ようなものか.そして,それがどのように燃費不 正に繋がっているのか」である.ここではまず, 「数値化された法的基準によって見えてきた非数 値的な道徳的基準とはどのようなものか」につい て言及したい.まず両社では,わが国の数値化さ れた燃費試験基準を参照しており,それに適合す るように測定を行っていた.ところが既述のよう に惰行法が困難となっていた.そこで両社ともに 海外の燃費試験基準を参照していた.それは海外 の燃費試験基準が数値化された燃費試験基準とし て効率的であるか否かという以上に,両社が主と して出荷している地域で用いられているか否かと いう伝統に根ざすものだった.例えば,三菱自動 車が参考にしていた米国のコーストダウン法は, 1980 年代では測定精度の高い測定方法だったも のの,現代ではそれが通用するわけではなかった. スズキに関しても同様に現代においていかに効率 的かについては明言されていなかった. さらに,「それがどのように燃費不正に繋がっ ているのか」については,もう一つの意味での誘 発を確認することができる.すなわち,単に「数 値化された法的基準が誘発した燃費不正」という 意味ではなく,「非数値的な道徳的基準が誘発し た燃費不正」という意味である.国際的な燃費試 験基準に根ざすということは,両社にとって社会 的に正統化された基準に根ざすということだっ た.つまりそれは伝統や慣習に根ざすことが結果 として燃費不正を誘発していることを示してい る.

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ちなみに,燃費不正に対する国土交通省の対応 を見ていくと,既述の通り燃費不正後に国内の燃 費試験基準を JC08 モードから WLTP モードへ と変更している.だが,それが果たしてどれだけ 燃費向上を果たすのか,あるいは現場の測定実践 と適合するのかについては言及されていない.む しろ,国際的な燃費試験基準に適合させることを 優先し,現場の測定実践について関心を持ってい ないようにも思える.このような国土交通省の事 後的対応は,(皮肉を込めて)興味深い.それは 今回の燃費不正が,純粋に両社に責任があるとい うよりも国土交通省が定めた燃費試験基準が現場 に適合していなかったことが主な原因となってい るからである.だとすれば,JC08 モードから WLTP モードへの変更は,暗に責任回避のよう に見えても仕方ない.この点についてはパルマー が言及した「制度が誘発する組織不正」を踏まえ ても納得がいく.パルマーは,一貫して企業自体 の改善や対応ではなく,既存の制度やルールと実 践の乖離のようなものを指摘し続けている.つま り,組織不正を企業固有の問題としてではなく, 制度と企業のズレのようなものとして捉え,その ズレを無くすことである.その意味で,国土交通 省の事後的対応も果たしてこれで良かったのかが 反省的に問い直されるべきだろう. 4.3 研究課題 3 への応答:外的基準 最後に,研究課題 3 の「どのような数値的な外 的基準が非数値的な道徳的基準に対して影響を及 ぼしうるのか」について考察しておきたい.まず 外的基準として明らかになったのは,特に三菱自 動者がもたらした負の外部性であった.特に消費 者への影響は大きく,一台につき 10 万円の補償 額が総額では数百億円にも上ることが予想されて いた.その反面,スズキは具体的な補償額を設け ていなかった.スズキはカタログの燃費値を変更 する必要がなかったからである. それでは,このような数値的な外的基準はどの ように非数値的な道徳的基準に対して影響を及ぼ しうるのだろうか.まず数値的な外的基準は,「正 統性の源泉」として道徳的基準に影響を及ぼす可 能性があった.ところが,三菱自動車の場合は負 の外部性であったため正統性の源泉となりうるか と言えば否であろう.つまり,補償額が数百億円 に上る測定方法を今後伝統や慣習の中で用いるか と言えばその可能性は低い.しかしながら,これ は反対に「異端性の源泉」となる.伝統や慣習の 中では受け入れられにくいが,ある種の測定方法 として認識されるものである. その反対にスズキの場合は負の外部性がほとん ど確認されなかったため,正統性の源泉になりう る.つまり,スズキで用いられていた測定方法は 今後伝統や慣習において受け入れられやすい.こ の点については,実際に国土交通省がスズキの風 洞法を容認していることにも見て取れる.このよ うに数値的な外的基準が非数値的な道徳的基準に 対して影響を及ぼしていた. ここまで議論すると分かるように,同様の燃費 不正であっても複数の判定基準を用いればかなり の違いが見受けられる.しかしながら,法的基準 だけであれば,「わが国の燃費試験基準に適して いない限り違法性をもつもので燃費不正に変わり ない」という批判に終止してしまうだろう.法的 基準だけではなく,道徳的基準や外的基準を踏ま えて議論するからこそ,組織不正を多角的な視点 から振り返ることが可能になる.乱暴な企業批判 を増やさないためにも,本稿のような分析・考察 が他事例に適用されるべきであろう. 5.おわりに 本稿では,組織不正研究の理論的検討と経験的 検討(燃費不正の事例研究)を行ってきた.以下 では,本稿の理論的含意と限界,そして今後の方 向性を述べたい.理論的含意としては第一に,組 織不正研究を理論的・経験的に深耕させたことで ある.本稿では,パルマーが論じていた制度が誘 発する組織不正という命題を踏まえつつ,さらに 数値化した法的基準がどのように組織不正に誘発 してきたかを明らかにしてきた.このように数値 化に着目することは,それまで単に法的に合法か

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違法かだけが問われてきた既存研究に対して,む しろ合法性がもつ責任(数値化された法的基準の 責任)を問い直すことに繋がった. 第二に,組織不正研究に法的基準のみならず, 道徳的基準と外的基準を導入したことである.本 稿が示したように,複数の判定基準を導入するこ とで組織不正を脱自明視化(相対化)することが 可能になった.既存の組織不正研究は,組織不正 の違法性を前提とし,それがどのような不正行為 者によって行われたものかを意図の観点から分析 するものが少なくなかった.しかしながら,単に 法的基準のみならず,道徳的基準や外的基準を導 入することで個人の意図に還元されない組織不正 の発生原因を探ることが可能になった.今回の 2 つの燃費不正事例のように,それらを単に一括り に扱うのではなく,なぜその測定方法が採用され ていたか,また社会への影響はいかなるもので あったのかを考えることが企業の(情報)経営を 復権させるために重要である8) 本稿の限界としては,データの偏りが挙げられ る.本稿ではあくまで調査報告書と記者会見の文 字起こしを主な資料としていたが,本社社員や現 場作業員へのインタビュー調査を行っていれば新 たな発見事実を提示できた可能性があった.つま り,インタビュー調査の未実施は限界である. しかしながら,仮に今後インタビュー調査を行 うとすれば,本稿は調査アクセスを通じた内部開 陳のための,当事者と研究者の公共的資料に位置 づけることができる.つまり,不正や不祥事といっ たネガティブな調査内容は調査アクセスに失敗す るという報告もあるが(e.g., 福原・蔡,2011;間 嶋,2007),そこに企業への支援的立場を表明す ることで調査アクセスも可能にすることができ る.たとえ不正や不祥事でも背後にある権力関係 を読み解くことで研究者は当事者として支援的立 場にも批判的立場にも回ることができる(中原, 2015). 最後に,組織不正研究の今後の方向性に言及し ておきたい.本稿では,複数の判定基準の導入に よってどのように組織不正への見方が変化するか を燃費不正によって例示してきた.しかしながら, 本学会のビジョンに即せば,これらの理論的成果 を広く情報経営研究へ援用することが求められ る.冒頭にも述べたように,近年情報経営の健全 さを根底から覆すような重大な組織不正が発生し ている.ただし,それを研究者がマスメディア等 と一緒になって批判していてはならず,改めて何 が問題であるのか否かを複数の判定基準から分 析・考察し直さねばならない.以上のことは今後 具体的な事例分析を通じて推進されるべきであろ うし,それによって今一度(一見すると逸脱して いる)先進的な情報経営も再焦点化されるべきで ある. このような先進的な情報経営を再焦点化してい くという時に,組織不正研究者には一体何が貢献 できるだろうか.その一つの答えとして本稿が着 目したいのが学際的な研究プロジェクトである. 本稿がそうであったように,組織不正といっても 制度派組織論や価値評価研究の知見を活用しなけ ればならない状況がある(e.g., 桑田・松嶋・高橋, 2015;矢寺,2018).であるならば,むしろ組織 不正研究者が特定の不正事例を取り上げ,それを 多角的に分析するために研究者や実務家,更には 政策立案者などを自身の研究プロジェクトに招き 入れていく必要がある.それは裏を返せば,それ だけ既存の「組織不正」にまとわりつく支配的言 説の影響力が強く,それに対抗的言説を提示する ことが難しいことを示している.以上の方向性は, 何より筆者が行うべき課題であり,今後実行して いかなければならない課題である.このことを末 尾に約束して本稿を擱筆したい. 謝辞 論文執筆に際して,匿名レフェリーの先生並びに神戸大 学大学院経営学研究科の國部克彦先生,松嶋登先生には大 変多くの示唆に富むご指摘やアドバイスを頂きました.こ こに記して,感謝申し上げます.なお本研究は,日本学術 振興会科学研究費補助金・若手研究「組織的不正の構築主 義的アプローチに関する理論的・経験的検討」の助成を受 けたものです.

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1) organizational wrongdoing は「組織的な不正行為」と も訳出できる.しかしながら,本稿で参照する文献では, 単に不正行為としてではなく,組織不正現象全体を指 している場合も見受けられるため,本稿ではこれを「組 織不正」と訳出した. 2) 複数の判定基準が組織不正を構築しているという見方 は,組織不正の構築主義的(constructionism)なアプ ローチと呼称できるだろう.例えば,世界的に権威の ある会計系ジャーナルAccounting, Organizations and Society誌では,特集号「会計,組織,社会における不

正研究の学際的視座(interdisciplinary perspectives on fraud and wrongdoing in accounting, organizations and society)」において,組織不正が複数の評価によっ て構築される側面を取り上げている.Cooper, Dacin an Palmer(2013)は,1990 年代初めの米国における 積極的税務プランニング(aggressive tax planning) において租税回避商品が不正商品として認定された背 景には,この商品を斡旋しようとする金融機関や租税 専門家たちとそれを取り締まろうとする内国歳入庁の 評価の食い違いがあったと言及している.紙幅の関係 上,このような不正の構築主義的理解については別稿 での課題とするが,このように構築主義(construction-ism)の議論も援用できるだろう(e.g., 上野,2001;浦 野・松嶋・金井,2011;中原,2016;松嶋,2015). 3) とはいえ,組織不正研究や違法市場研究はいずれも体 系的に研究されている領域とは言い難く,包括的なレ ビュー文献もあまりない.その中で本稿が取り上げる Palmer(2012)や Beckert and Dewey(2017)などは, それぞれの領域における問題点や分析枠組みなどを整 理しているため,必要に応じて参照されたい. 4) このような業績を有する Palmer(2012)に幾つかの書

評 が 送 ら れ て い る が(e.g., Misangyi, 2014; Towers, 2013),なかでも組織論の泰斗であるワイク(K. E. Weick)は,パルマーを「組織不正の不可避性(inevi-tability) に 対 し て 挑 戦 的 な 議 論 を 展 開 す る 人 物 」 (Weick, 2013, p. 292)と評価し,その著作の完成度や

議論の鋭さに一目を置いている.

5) normal organizational wrongdoing という名称は,ペ ロー(C. Perrow)のノーマル・アクシデント理論 (normal accident theory)を彷彿とさせるが(Perrow,

1984, 1999),ノーマル・アクシデント理論でも組織事 故が通常起こりうるものと考える点に特徴があった. ただし,このような類似点がありながらも,Palmer (2008, 2012, 2013, 2017)では,ノーマル・アクシデン ト理論を参考にしているとは明言されていない. 6) このような制度の位置づけをめぐっては,制度派組織 論のみならず,新制度派経済学においても議論が交わ されている.岡村(2017)によれば,新制度派経済学 には二つの制度の捉え方があり,アメリカ型の新制度 派経済学では制度を行為主体の行動を制限するための 何らかの規則やルールとして用いている.それに対し て,ドイツ型の新制度派経済学では,制度を行為主体 の合理性を補完する機能として用いている.これを踏 まえれば本稿では,ドイツ型のように行為主体の合理 性を補完する存在として制度を捉え議論を展開してい るが,アメリカ型の議論は菊澤(2006)が詳しい. 7) 調査報告書として本稿が参照したのは,三菱自動車で は,『燃費不正問題に関する調査報告書』(2016 年 8 月 1 日付)及びその要約版(同日付)である.スズキでは, 『「排ガス・燃費試験に係る不適切な事案に係る調査指 示」に対する国土交通省への報告内容について』(2016 年 5 月 31 日付),『「排ガス・燃費試験に係る不適切な 事案に係る調査指示」に対する国土交通省への追加報 告内容について』(2016 年 6 月 8 日付),『「燃費及び排 出ガスの抜取検査の不正事案を受けた確認の実施等に ついて」に対する国土交通省への報告について』(2018 年 8 月 9 日付)である. 8) 測定(方法)が価値を生むということに関しても批判 的に検討しなければならない.このような測定を支え る計算(calculation)こそ価値を創造する方法である と言及する國部(2019)は,身近な確定申告を例に,「確 定申告で,収入に対する経費を計算して算入すれば, 課税所得は小さくなって税金は減り,手元に残る資金 が多くなるという意味で,簡単に価値が生まれてしま う」(國部,2019,p. 66)と言及する.國部は,現在 主流の会計学が計算行為における根本的な問題に目を 向けておらず,またその問題を議論するためには責任 と正義という哲学的基礎が必要であるとし,現代会計 学への批判と方向性を与えている.その他にも,計算 に対するアカウンタビリティに関する議論は國部 (2017b)を,計算と経営実践の関係については國部・ 澤邉・松嶋編(2017)を参照されたい. 参考文献 上西聡子 (2014)「制度的同型化を通じた戦略的リアクショ ン:携帯電話産業における標準に基づいた異種混合の 競争(1979 年─ 2010 年)」『経営学論集』Vol. 25,No. 2, pp. 25-45. 上西聡子 (2018)「デューイ『評価の理論』に含まれた価 値評価の原理:価値評価に関する研究の方向性の展望」

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『九州産業大学経営学論集』Vol. 28,No. 4,pp. 11-21. 上野千鶴子 (編) (2001)『構築主義とは何か』勁草書房. 浦野充洋・松嶋登・金井壽宏 (2011)「『緊プロ』の社会的 構成に接続された知識生産:社会構成主義再訪」『日本 情報経営学会誌』Vol. 31,No. 3,pp. 66-80. 岡村俊一郎 (2017)「新制度派経済学と実証的エージェン シー理論」『関西学院商学研究』No. 73,pp. 71-96. 菊澤研宗 (2006)『組織の経済学入門(改訂版):新制度派 経済学アプローチ』有斐閣. 桑田耕太郎・松嶋登・高橋勅徳 (編) (2015)『制度的企業 家』ナカニシヤ出版. 国土交通省 (2016)「道路運送車両の保安基準の細目を定 める告示の一部を改正する告示等について(概要)」国 土交通省. 國部克彦 (2017a)「計算が創る市場・組織・社会」國部克 彦・澤邉紀夫・松嶋登 (編) (2017) 『計算と経営実践: 経営学と会計学の邂逅』有斐閣,pp. 17-42. 國部克彦 (2017b)『アカウンタビリティから経営倫理へ: 経済を超えるために』有斐閣. 國部克彦 (2019)「連載 会計・責任・正義 第 1 回 会計 と価値」『書斎の窓 2019 年 3 月号』No. 662,pp. 63-67. 國部克彦・澤邉紀夫・松嶋登編 (2017)『計算と経営実践: 経営学と会計学の邂逅』有斐閣. スズキ株式会社 (2016a)「『排出ガス・燃費試験に係る不 適切な事案に係る調査指示』に対する国土交通省への 報告内容について」スズキ株式会社. スズキ株式会社 (2016b)「『排出ガス・燃費試験に係る不 適切な事案に係る調査指示』に対する国土交通省への 追加報告内容について」スズキ株式会社. 特別調査委員会 (2016a)「燃費不正問題に関する調査報告 書」特別調査委員会. 特別調査委員会 (2016b)「燃費不正問題に関する調査報告 書(要約版)」特別調査委員会. 中原翔 (2015)「組織不祥事研究のポリティカル・リサー チャビリティ:社会問題の追認から生成に向けて」経 営学史学会 (編)『経営学の批判力と構想力』No. 23, pp. 133-143. 中原翔 (2016)「組織不祥事の構築主義的アプローチ:イ ンフォーマントとの対話を伴うポリティカル・リサー チャビリティ」神戸大学大学院経営学研究科博士論文. 福原康司・蔡イン錫 (2011)「組織不祥事研究における視 座と方法:ミクロ・アプローチの再検討」『専修大学マ ネジメント・ジャーナル』Vol. 1,No. 1-2,pp. 99-113. 間嶋崇 (2007)『組織不祥事:組織文化論による分析』文 眞堂. 松嶋登 (2015)『現場の情報化:IT 利用実践の組織論的研 究』有斐閣. 矢寺顕行 (2018)「組織における人材の価値と評価の実践 に関する考察」『同志社商学』Vol. 69,No. 6,pp. 103-118.

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参照

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