群馬保健学研究 41:9-18,2020
医療系大学4年生におけるメンタルヘルスリテラシーの
現状と課題に関する研究
八木原 ひなた
1),近 藤 浩 子
2) (2020 年9月 30 日受付,2021 年1月 15 日受理) 要旨:メンタルヘルスリテラシーは,精神疾患の認知・管理・予防に役立つ知識や信念と定義 される。これには精神疾患の知識のみならず,適切な受診を促進する態度も含まれる。本研究は, 医療系大学生のメンタルヘルスリテラシーの現状と課題を明らかにすることを目的とし,4 年 生約 160 名に質問紙調査を行った。調査内容は1.WHO-5 精神的健康状態表,2.うつ病の 知識(うつ病事例を提示して,病名を回答してもらう),3.自分または他者がうつ病になっ た場合の対処方法であった。有効回答は 130 名(81.3%)であった。精神的健康状態は,学生 の 28.5%が不健康に該当した。うつ病の知識については,48.5%の学生が病名を正しく答えて おり,病名の正答率は,健康な者より,不健康な者の方が高かった(p=0.049)。対処方法のう ち,「精神保健の専門家への相談」「かかりつけの医師への相談」の2つについては,自分より も他者がうつ病になった場合により多く選ばれ,反対に自分がうつ病になった場合には,「自 分の力で対処する」がより多く選ばれた。医療系大学生のメンタルヘルスリテラシーを向上す るには,専門家等への相談に対する抵抗感を減らすことが課題であることが示唆された。 キーワード:メンタルヘルスリテラシー,精神的健康状態,医療系大学生 1)群馬大学大学院保健学研究科博士前期課程 2)群馬大学大学院保健学研究科 Ⅰ.はじめに 労働安全衛生調査(厚生労働省,2018)によると, 労働者の 58.9%は,現在の仕事や職業生活に関するこ とで強い不安,悩み,ストレスを感じている1)。また 事業所の 6.7%には,過去1年間にメンタルヘルス不 調により連続1か月以上休業した労働者がおり,5.8% には退職した労働者がいる1)。さらに精神障害による 労災補償請求は年々増加し,2018 年度は 1820 件あり, 中でも「医療,福祉」は 320 件と業種別でもっとも多 い2)。このようにメンタルヘルス不調は,労働者の抱 える大きな健康問題の一つであり,医療職にとって自 身のメンタルヘルスを維持促進していくことは重要な 課題である。 メンタルヘルスを維持促進するための方策の1つと して,メンタルヘルスリテラシーがある。メンタルヘ ルスリテラシーは「精神疾患の認知・管理・予防に役 立つ知識や信念(Jorm,1997)」と定義される3)。こ れには精神疾患の知識のみならず,適切な受診を促 す態度も含まれる。メンタルヘルスリテラシーの先 行研究によると,うつ症状について適切な知識を有 していたものは大企業の従業員で 15.5%4),一般大学 生で 22.8%5),臨地実習を未経験の医療系大学 2 年生 で 35.2%6)であった。つまり医療専門職を目指す学 部学生であっても,約 7 割が適切な知識を有していな いことが明らかになっている6)。メンタルヘルスリテ ラシーの不足には,病態を正しく認識する知識がない ため発病時期がキャッチできない7),また精神疾患に なった場合,一般に控えるべきとされる飲酒6)や叱 咤激励といった対処がなされているという問題があ る。 医療職は自身のメンタルヘルスをケアしながら,他 者へのケアも行うことから,高いメンタルヘルスリテ ラシーが求められる7)。すなわち医療職を目指す学生 にとって,自分自身のメンタルヘルスを維持促進する10 卒業して医療職として働く予定である医療系大学 4 年 生を対象に,精神疾患に関する知識と態度を調査し た。その結果から,医療系大学生のメンタルヘルスリ テラシーの現状と,メンタルヘルスを維持促進するた めの課題について示唆を得ることを目的とした。本研 究の成果は,医療系大学生に不足しているメンタルへ ルスリテラシーの内容を明らかにし,学生が自らの精 神疾患に早い段階で気づき,相談・受診できるように するための教育方法の開発に貢献すると考える。 Ⅱ.対象と方法 1.対象者 医療系大学の 4 専攻(看護学,検査技術学,作業療 法学,理学療法学)の 4 年生約 160 名であった。 2.調査期間 2019 年 8 月~ 9 月 3.調査方法 無記名質問紙を用いた集合調査を行った。 4.調査内容 調査内容は,メンタルヘルスリテラシーの構成内容 に即して設定した。精神疾患の認知としては精神的健 康状態を,知識としては精神疾患の理解,治療法,精 神的健康を保つ方法を,また態度としては精神疾患 なった場合の対処方法を尋ねた。態度については精神 疾患に自分がなった場合と他者がなった場合を比較 し,その違いから精神疾患や受診に対する態度に潜在 する課題を明らかにすることを試みた。 1)基本属性 医療系の専攻領域を尋ねた。 精神的健康状態を測定する調査票として,世界各 国で翻訳されている The World Health Organization-Five Well-Being Index(以下 WHO-5 と略す)精神的 健康状態表の日本語版を使用した。質問は5項目,回 答は6件法(0 ~5点)である。25 点満点で,得点が 高いほど精神的健康状態がよいことを示している。粗 点が 13 点未満であるか,5項目のいずれかに0また は1の回答があるときには精神的健康状態が低いこ とを示している。 3)精神疾患(うつ症状)の理解 精神疾患の理解について調べるため,代表的な精神 疾患であるうつ病の事例を提示し,うつ病であること が判断できるかどうかを測定した。事例は,先行研究4) を参考に作成し,精神疾患の診断・統計マニュアル: アメリカ精神医学会版(2013)である Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(以下 DSM-5 と略)において,大うつ病エピソードAの基準を満た すようにした。作成事例は,精神科病棟で臨床実践に 従事している臨床心理士の指導のもとに修正を加え, 内容が基準を満たすことについて確認を得た。質問 は「事例Aさんにはどのような問題があると思います か」と尋ね,回答は,Jorm ら(1997)が作成した「う つ病,統合失調症,精神的な問題,こころの病気,感 情的な症状,ストレス」等を含む 10 項目の選択肢から, 1つを選択してもらった。 4)治療法と精神的健康を保つ方法に関する知識 治療法に関する知識を調べるため,こころとからだ の健康についての国民意識の実態に関する調査で,竹 島ら(2007)が用いた項目を使用した。「栄養ドリン クやサプリメント,心理カウンセリング,療養・教育, 睡眠薬,抗うつ薬,抗精神病薬」等を含む 11 項目を 提示し,各項目について「事例Aさんの状態を改善す るために効果があると思うか」と質問した。回答は「効 表1 うつ病の事例 表1 うつ病の事例 【事例】Aさんは,医療系大学に通う3年生です. Aさんは ヶ月くらい前から,身体がいつも疲れているような感じがして,次第に,気分が沈んできました. 食欲もなく,体重も3㎏ほど減りました.友人からも「やせた?」と聞かれることが多いです.夜も眠れない 日が2週間以上続いています.寝つきは悪いし,朝4時頃になると目が覚めてしまうのです.普段の生活では, 何でもないことで涙が出てきてしまうことがあります.授業にも集中できず,テストの成績も落ち,みじめな 気持ちになっています.Aさんはカラオケが大好きですが,最近は,気分転換しようぜと友人に誘われても, 全く行く気が起きません.
11 果がある,効果がない,悪影響がある,どんな影響が あるかわからない,この言葉を知らない」の 5 件法で 得た。 精神的健康を保つ方法の知識を調べるため,Jorm ら(2010)が作成し,河畑ら(2018)が大学生用に改 変した「睡眠をとる,規則正しい生活を送る,体を 動かす,リラックスする」等を含む 11 項目を提示し, 各項目について「精神的健康をよい状態に保つために 適切だと思うか」と質問した。回答は「はい・いいえ」 の2件法で得た。 5)精神疾患になった場合の対処方法 精神疾患になった場合の受診への態度を調べるた め,竹島ら9)が使用した「休息する,家族や友人に相談, 精神保健の専門家に相談」等を含む 17 項目を提示し, 「事例Aさんにとって,適切な対処方法は何か」と質 問した。回答は,上位3つを選択してもらった。次に 「自分が事例Aさんのような状態になった場合に,適 切と思う対処方法は何か」と尋ね,同様に上位 3 つを 選択してもらった。 5.倫理的配慮 調査は無記名とし,回答は自由意志によるものであ り,研究不参加による不利益は一切生じないことを口 頭・文書で十分に説明した。また調査協力の有無が他 者にわからないように,集合調査の会場では回答の有 無にかかわらず全員から回収箱に投函してもらった。 本研究は,群馬大学の人を対象とする医学系研究倫理 審査委員会の承認(受付番号:HS2019-095)を得て 実施した。なお本研究には,開示すべき利益相反はな い。 6.分析方法 1)精神的健康状態 WHO-5 精神的健康状態表の基準に従って,粗点が 13 点未満であるか,5項目のいずれかに 0 または1 の回答がある者を「不健康群」とし,それ以外を「健 康群」とした。 2)精神疾患(うつ症状)の理解 事例Aさんのもつ問題として「うつ病」を選択した 者を「正解者」とした。選択肢の中には,「精神的な 問題,こころの病気,感情的な症状,ストレス」など, うつ病に関連する項目もあったが,うつ病であること が判断できるかどうかを正確に知るため,これらを選 択した者は「不正解者」とした。 3)精神的健康状態と精神疾患(うつ症状)の理解 精神的健康状態の「健康群・不健康群」の2群間に おいて,うつ症状の「正解者・不正解者」の割合をχ2 検定によって比較した。また医療系の4専攻間におい て,精神的健康状態の「不健康群」の割合およびうつ 症状の理解の「正解者」の割合をχ2検定によって比 較した。 4)治療法と精神的健康を保つ方法に関する知識 治療法は 11 項目について,「効果がある」を選択し た者の割合を算出した。同様に,精神的健康を保つ方 法の 11 項目についても,「はい(適切だと思う)」を 選択した者の割合を算出した。これをうつ症状の「正 解者・不正解者」それぞれについても算出し,2群間 において選択者の割合をχ2検定によって比較した。 5)精神疾患になった場合の対処方法 うつ病になった場合の適切な対処方法として,17 項目から選択された上位 10 項目について,選択者の 割合を算出した。これをうつ症状の「正解者・不正解 者」のそれぞれについて算出し,2群間において選択 者の割合をχ2検定によって比較した。 次に,うつ症状の正解者のデータのみを抽出し,「自 分がうつ病になった場合」と「他者(事例Aさん)が うつ病の場合」において,適切と思う対処方法に違い があるかどうかを検討した。2つの条件下において各 項目を選択した者の割合を,McNemar 検定で比較し た。 全ての検定には,SPSS(ver. 25)を用いた。検定 の有意水準は5%とした。 Ⅲ.結果 回収数は約 160 名中の 130 名(回収率 81.3%)であっ た。対象者の専攻領域は,看護学 58 名,検査技術学 37 名,理学療法学 19 名,作業療法学 16 名であった。 1.精神的健康状態と精神疾患(うつ症状)の理解 表2に,精神的健康状態とうつ症状の理解のクロス 集計を示した。精神的健康状態は,健康群が 71.5%, 不健康群が 28.5%で,約3割の学生が不健康に該当し た。一方,事例の病名を「うつ病」と正解した割合は 48.5%で,学生の約半数が,事例のもつ症状から「う つ病」と判断できていた。 精神的健康状態の2群間でうつ症状の理解を比較 すると,健康群では病名正解率が 43.0%であったのに 対し,不健康群では病名正解率が 62.2%と高く,差は 有意であった(p=0.049)。換言すると,精神的健康状 態の低い学生のほうが,うつ病の症状を正しく理解し ていた。 表 3 に,精神的健康状態の「不健康群」の割合,
12 およびうつ症状の「正解者」の割合を専攻別比較で 示した。各専攻の「不健康群」の割合は検査技術学 43.2%,作業療法学 37.5%,理学療法学 31.6%,看護 学 15.5%で専攻間に有意差があった(p=0.024)。他方, 各専攻の「正解者」の割合は,作業療法学 62.5%,検 査技術学 54.1%,看護学 48.3%,理学療法学 26.3%で 専攻間に差があったが,有意な差ではなかった。なお 「不健康群」の割合が高かった2専攻は,うつ症状の 理解の「正解者」の割合も高かった。 2. 精神疾患(うつ病)の治療法および精神的健康に 関する知識 表4に,事例に「効果がある」と評定された治療法 を,高い順に示した。全体では,「心理カウンセリング」 92.2%,「療養・教育」83.1%,「睡眠剤」73.8%の3 項目が高く,いずれも効果を認めた者が7割上いた。 うつ症状の「正解者・不正解者」で比較すると,正解 者では「心理カウンセリング」「抗うつ薬」「抗精神病 薬」「精神科病棟への入院」「電気けいれん療法」の5 項目の選択割合が,不正解者に比べて有意に高かった (p=0.018,p<0.001,p=0.005,p=0.001,p=0.024)。 精神的健康を保つ方法として「適切だと思う」と評 定された上位4項目は,「睡眠をとる」99.2%,「規則 正しい生活を送る」98.4%,「体を動かすこと(運動 など)を続ける」97.6%,「リラックスするための時 間を常にとる」97.6%であった。精神的健康を保つ方 法に関しては,うつ症状の「正解者・不正解者」に差 がなかった。 3.精神疾患(うつ病)になった場合の対処 表5に,うつ病になった場合に適切と思う対処方法 について,選択項目を上位から示した。全体では「休 息する」73.1%,「家族や友人に相談」71.5%が,とも に7割を超えて多かった。うつ症状の「正解者・不正 解者」で比較すると,「休息する」「精神保健の専門家 に相談」の2項目に有意差がみられた。これらの項目 の選択割合は,「正解者」が 82.5%と 42.9%であった のに対し,「不正解者」は 64.2%と 23.9%で,いずれ も正解者の選択割合が高かった(p=0.018,p=0.022)。 表6に,うつ症状の正解者 63 名について,「自分がう つ病になった場合」と,「他者(事例Aさん)がうつ 病の場合」において,適切と思う対処方法を比較し た。3項目に両者の差がみられた。うち「精神保健の 専門家に相談」「かかりつけの医師に相談」の2項目 は,自分がなった場合の選択割合が 42.9%と 4.8%で あったのに対し,他者の場合は 73.0%と 19.0%と高く, いずれも自分がうつ病になった場合の選択割合が有 意に低かった(p<0.000,p=0.012)。これとは反対に, 「自分の力で対処する」は,自分がうつ病になった場 表3 精神的健康状態と精神疾患(うつ症状)の理解-専攻別比較-
表2 精神的健康状態と精神疾患(うつ症状)の理解 うつ症状の理解 全体 正解者 不正解者 S 値 全体 精神的健康状態 健康群 不健康群 χ検定 S 表3 精神的健康状態と精神疾患(うつ症状)の理解-専攻別比較- 専攻領域 精神的健康状態 うつ症状の理解 不健康群 Q S 値 正解者 Q S 値 看護学Q 検査技術学Q 理学療法学Q 作業療法学Q χ検定 S 表2 精神的健康状態と精神疾患(うつ症状)の理解13 表4 精神疾患(うつ病)の治療法および精神的健康に関する知識-病名正解・不正解別- うつ症状の理解 全体 Q 正解者 Q 不正解者 Q S 値 うつ病に効果があると思う治療法 心理カウンセリング 療養・教育 睡眠剤 抗うつ薬 抗精神病薬 精神科病棟への入院 催眠療法 栄養ドリンクやサプリメント 一般病棟への入院 電気けいれん療法 鎮痛剤 精神的健康を保つ方法 睡眠をとる 規則正しい生活を送る 体を動かす運動などを続ける リラックスする時間を常にとる 薬物に頼らない ストレス状況を避ける 過度な飲酒を慎む 友人と常にかかわる 家族と常にかかわる 宗教など精神的支えを持つ 甘いものを避ける χ検定 S S S 合が 19.0%であったのに対し,他者の場合は 0.0%で, 自分がうつ病になった場合にのみ選択されていた。 Ⅳ.考察 1.医療系大学生の精神疾患に関する理解 今回の調査においては,うつ病事例の病名が判断で きるかを問うことによって,精神疾患の症状に関する 理解を測定した。うつ病事例の病名正解率は 48.5%で あり,調査対象となった医療系大学4年生は,約半数 が「うつ病」の症状に関して正しい知識をもっていた。 本調査と同様に,大うつ病の事例を示して病名を判断 させた先行研究では,先に述べた通り,一般大学生の 病名正解率が 22.8%5),臨地実習を未経験の医療系大 学 2 年生で 35.2%6)であった。これらの結果と比べ ると,今回の調査の病名正解率 48.5%は高い値である。 しかし今回の調査対象の半数以上は,精神科における 臨地実習を終えた看護学専攻および作業療法学専攻 の学生であったことから,うつ症状の知識を有する者 の割合が高かったことは当然といえる。むしろ臨床実 習を終えた大学4年生において,「うつ病」の症状に 表4 精神疾患(うつ病)の治療法および精神的健康に関する知識
14 表5 精神疾患(うつ病)になった場合の対処-うつ症状の正解・不正解別- 表6 精神疾患(うつ病)になった場合の対処-自分の場合と他者の場合の比較- 表5 精神疾患(うつ病)になった場合の対処-うつ症状の正解・不正解別- 適切と思う対処方法 うつ症状の理解 全体 Q 正解者 Q 不正解者 Q p値 休息する 家族や友人に相談 精神保健の専門家に相談 体を動かす 自分の力で対処する 外出を増やす この状態の情報収集 かかりつけの医師に相談 電話相談 市販薬を服用する χ検定 S 表6 精神疾患(うつ病)になった場合の対処-自分の場合と他者の場合の比較- 適切と思う対処方法 自分がうつ病に なった場合 Q 他者事例Aさん がうつ病の場合 Q S 値 休息する 家族や友人に相談 精神保健の専門家に相談 この状態の情報収集 体を動かす 自分の力で対処する 外出を増やす 電話相談 かかりつけの医師に相談 市販薬を服用する 0F1HPDU 検定 S S
15 関する正しい知識をもっている割合が半数弱であっ たことが十分と言えるのかどうかについて,検討すべ きではないかと考える。 ところで医療系大学生は,うつ病をはじめとする 精神疾患に関する知識をどこで得ているのであろう か。今回,専攻別にうつ病事例の病名正解率を検討 したところ,4専攻の病名正解率は 62.5%,54.1%, 48.3%,26.3%と差があった。これらの専攻のうつ病 に該当する講義時間を専門科目のシラバスから推測 すると,10 時間,0 時間,8時間,2時間であり,病 名正解率と講義時間は多少関連があるものの,一致は していなかった。また病名正解率が1位と3位の2専 攻には臨地実習で精神疾患患者と関わる機会があっ たが,カリキュラム上に精神科関連の臨地実習がある ことと,病名正解率の高さは一致していなかった。こ のことから,うつ病に関する知識の高さは,必ずしも 講義時間や実習時間の長さに関係していないことが 示された。 では,うつ病に関する理解は,何によって異なるの であろうか。今回の調査では,WHO-5 精神的健康状 態表のカットオフにもとづく不健康群が 28.5%いた。 不健康群の学生の病名正解率は 62.2%で,健康群に比 べて有意に高かった。精神的に不健康な群においてう つ病の病名正解率が高いことは,企業における先行研 究4)でも同様の報告がある。企業では,回答者が実 際にうつ病の診断を受けているか,あるいはそれに近 い精神状態であるために自分自身でうつ病に関する 情報を収集した可能性があるという4) 。学生の場合 も,精神的不健康な状態になった学生は,自分自身の 問題を調べる過程でうつ病の知識を得ていた可能性 がある。かといって,うつ症状の理解を本人の自助努 力に委ねることにはリスクがある。中には,かなり重 症になって初めて自分がうつ病であると気づくケー スがあるという指摘もある4)。 一部の大学においては,一次予防の観点から,精神 保健上の支援ニーズをもつ学生にメンタルヘルスの 課題を気づかせるメンタルヘルス健診が実施されて いる10)。このような取り組みも重要であるが,医療 系大学生においては,講義や実習で学んだ精神疾患の 知識を,ケア対象者のためだけでなく,学生自身のメ ンタルヘルスの維持促進に活用できるようにするこ ともできると考える。たとえば学生が日頃から自分の 精神的健康状態をチェックできるよう,精神科関連の 講義で症状チェックシートを配布すること,また学生 と同世代の事例を用いて精神疾患を具体的に学ばせ ることにより,精神症状をより身近なものとして捉 え,自己診断にも使えるようにすること,等があげら れる。 2. 精神疾患の治療法や精神的健康に関する知識およ び受診への態度 メンタルヘルスリテラシーには,精神疾患の知識の みならず,適切な受診を促す態度が含まれる。本研究 では精神疾患の知識として治療法と精神的健康を保 つ方法を,また態度として精神疾患なった場合の対処 を尋ねた。さらに,これらが主要な精神疾患であるう つ病の症状の理解の有無によって異なるかどうかを 検討した。 治療法については,9割以上の学生がうつ病に効果 がある方法として「心理カウンセリング」「療養・教 育」を選択していた。これに関して,うつ症状を理解 できた学生は,「心理カウンセリング」「抗うつ薬」「抗 精神病薬」「精神科病棟への入院」「電気けいれん療法」 といったより専門的な治療法をより多く選択してい た。すなわちうつ症状を正しく理解している学生は, 治療法の知識も備えていたといえる。 精神的健康を保つ方法については,うつ症状の理解 による差はなかった。9割以上の学生が選択した項目 は,「睡眠をとる」「規則正しい生活を送る」「体を動 かすこと(運動など)を続ける」「リラックスするた めの時間を常にとる」であり,これは先行研究7) に おいて,看護系短期大学生が入学時に選択した項目と 同様であった。すなわち精神的健康を保つ方法のよう な基本的なメンタルヘルスの知識は,すでに高校時代 に学習されて定着していたと考えられる。 うつ状態になった場合の対処方法としては,「休息 する」が最も多く,次は「家族や友人に相談」で,い ずれも7割の学生が選択していた。また,うつ症状を 理解できた学生は,「休息する」「精神保健の専門家に 相談」という,うつ状態において重要な対処方法を選 択する割合が有意に高かった。一般大学生および医療 系大学 2 年生を対象とした調査5)6)では,「飲みに行く」 が対処方法の上位に上がっており,これを選択した学 生は,病名正解率も低かったと報告されている。今回 の調査で,「酒を飲む」は対処方法の 10 位以内に含ま れなかったことから,医療系大学4年生は,事例の問 題が単なるストレスではなく,何らかの心の病気であ ることを理解できたのではないかと推測する。うつ病 に対する正しい知識のない者は,うつ状態の人に対し て,しっかりしろと励ます,飲酒を勧める,回復する まで無視するといった望ましくない対応をすること があるという11)。
生は,治療法の知識もあり,適切な対処方法を選択で きていた。換言すれば,医療系大学生がうつ病になっ た場合に適切な対処方法を選択するには,うつ症状の 正しい理解と,うつ病であることを判断できる能力が 不可欠であるといえる。 3. 医療系大学生のメンタルヘルスリテラシー促進の ための課題 ところで対処方法の選択は,自分がうつ病になった 場合と他者がうつ病になった場合で異なっていた。こ れは注目すべきことであると考える。他者がうつ病 になった場合には,「精神保健の専門家に相談」「か かりつけの医師に相談」を選択した学生が,それぞ れ 73.0%,19.0%いた。しかし自分がうつ病になった 場合には,「精神保健の専門家に相談」「かかりつけの 医師に相談」の選択割合がそれぞれ 42.9%,4.8%に とどまっていた。反対に自分がうつ病になった場合に は,「自分の力で対処する」が 19.0%を占めていた。 すなわち,他者がうつ病になった場合には相談を勧め るものの,自分がうつ病になった場合には相談をせ ず,自分で何とかしようとする傾向のあることが示さ れた。 メンタルヘルス専門家への援助要請態度の心理的 阻害因子には,スティグマ,恥意識,自己効力感,自 己コントロール感などがあるという12)。このスティ グマは,「メンタルヘルスケアを利用することにより 精神疾患の烙印を押されることを回避しようとする 社会的認知」であり,恥意識に関連する。また自己効 力感や自己コントロール感は「私は自分の精神的問題 を解決する力がある」という過度な自信であるとい う。すなわち自分がうつ病になったことを他者から認 められたくない,また自分の力で解決できるという過 度な自信が,専門家に相談することへの抵抗となって いると推測される。 以上のことから,医療系大学生のメンタルヘルスの 維持促進に必要な,メンタルヘルスリテラシーの課題 は,うつ症状を判断できる能力を身につけることに加 え,専門家への受診に対する抵抗感を減らすことの 2 点であると考える。スティグマや自己コントロール感 に関しては,直接アプローチをすることが難しい。し かし本研究の結果から,医療系大学生は,自分にとっ て情報が必要な状況になれば,自ら情報収集して知識 を得ていくのではないかと考えられる。精神科受診意 図を高めるには,基本的な情報の提供だけでなく,情 報探索行動を助けること,また個人が求めるときに欲 あるという 。このような能動的学習の機会を授業 に取り入れ,受診や相談にアプローチしやすくするこ と,またうつ病事例の抄読を通してうつ症状の判断能 力を身につけるような教育内容を,カリキュラムに組 み込むことも,メンタルヘルスリテラシーの向上につ ながるのではないかと考える。 教育現場におけるメンタルヘルスリテラシーへの取り 組みは世界的に行われているが 14)15)16),わが国での 研究報告は小中高を対象としたものが多く17)18)19) 20), 大学生を対象としたものは少ない21)。今後は,本研 究で検討したメンタルヘルスリテラシーの内容を,医 療系大学生の教育に取り入れ,その効果を検証してい くことが課題である。なお本研究は一大学における一 時点の横断的調査であったため,今後も調査を継続し て対象数を増やし,結果を検証していく必要がある。 また同様の問題を抱えていることが予測される新人 医療職を対象とした調査を行なうことについても検 討したいと考えている。 Ⅴ.結論 1. うつ病事例の病名を「うつ病」と判断した学生は, 医療系大学4年生の 48.5%であった。 2. 精神的健康状態の「不健康群」に該当する学生は, うつ病の症状を正しく理解している割合が高かっ た。 3. うつ病の知識のある学生は,うつ病になった場合 の対処行動として,「休息する」「精神保健の専門 家に相談」という適切な対処行動の選択割合が高 かった。 4. 自分がうつ病になった場合の対処行動は,他者が なった場合と比較して,専門家に相談する割合が 低く,自力で対処する割合が高かった。 5. 医療系大学生のメンタルヘルスリテラシーを向上 するための課題として,うつ病の症状を判断でき る力を身につけること,また専門家に相談するこ とへの抵抗感を減らすことの2点が示唆された。 謝辞 本研究にご協力いただきました皆様に深く感謝い たします。またうつ病事例の作成にご指導いただい た,群馬大学医学部附属病院精神科神経科の服部卓先
17 生に心より感謝申し上げます。 文献 1)厚生労働省.2019.平成 30 年度労働者健康状況調査. https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/h30-4 6- 50b.html (2020 年 9 月 28 日検索) 2)厚生労働省.2019.平成 30 年度過労死等の労災補償状況 . https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05400.html (2020 年 9 月 28 日検索)
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in 4th-year medical college students
Hinata Yagihara
1), Hiroko Kondo
2)Abstract: Mental health literacy is defined as knowledge and beliefs useful to recognize, manage and prevent mental disorders. It includes not only knowledge about mental disorders but also attitudes to promote proper consultation. The purpose of this study was to clarify the current state and issues of mental health literacy in medical college students. We distributed the questionnaire to approximately 160 4th-year students. The survey content included (1) mental health (The World Health Organization-Five Well-Being Index: WHO-5), (2) knowledge about depression (the name of disease was asked after presenting depression cases), and (3) coping behavior when they themselves or someone else became depressed. 130 (81.3%) students gave valid responses. Regarding mental health (WHO-5), 28.5% of students were unhealthy. Regarding knowledge about depression, 48.5% of students gave the correct disease name. The rate of correct answers on the disease name was higher for unhealthy students than for healthy students (p=0.049). Two of the coping behaviors, "consultation with a mental health specialist" and "consultation with a family doctor," were selected more often when someone else became depressed instead of themselves. On the other hand, "to deal with it by myself" was selected more often when they themselves became depressed. It was suggested that reducing the resistance to consult with specialists is an issue for improving mental health literacy in medical college students.
Keywords: Mental health literacy, mental health, medical college student
1)Gunma University Graduate School of Health Sciences Master’s Program 2)Gunma University Graduate School of Health Sciences