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知的障害教育における「主体的・対話的で深い学び」を踏 まえた授業づくりの視点

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研究論文

知的障害教育における「主体的・対話的で深い学び」を踏

まえた授業づくりの視点

Viewpoint of lesson making based on "Active learning " in

intellectual disability education

葛西一馬

・西永堅

* *

Kazuma KASAI Ken NISHINAGA

Abstract

We conducted a questionnaire survey for teachers to clarify what is important in class development based on the viewpoint of "active learning". As a result of the factor analysis, the scale of what was considered important in the lesson creation based on the viewpoint of "active learning" was divided into five factors. This

suggests that teachers are conscious of five more detailed viewpoints when creating lessons, and are creating lessons. In addition, multiple regression analysis was performed to examine the effects on the five factors. As a result, it was confirmed that the faculty to which this scale belongs had an effect. From the above, it can be pointed out that it is necessary to have a common understanding of "active learning" and to provide evidence-based instruction in response to the educational needs of children..

Keywords:intellectual disability education, “active learning” , lesson making , factor analysis , multiple regression analysis

キーワード:知的障害教育 主体的・対話的で深い学び 授業づくり 因子分析 重回帰 分析 1.はじめに 文部科学省(2012)は「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のた めの特別支援教育の推進(報告)」の中で、共生社会について「誰もが相互に人格と個性を 尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である。」と示 した。その上で、学校教育が障害のある子どもたちの自立と社会参加を目指した取り組み 2020 年 12 月 31 日受付 2020 年 2 月 12 日受理 * 星槎大学客員研究員(Seisa University)

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を含めて、共生社会の形成に重要な役割を果たすこと、また、特別支援教育が共生社会の 形 成 に 向 け た イ ン ク ル ー シ ブ 教 育 シ ス テ ム 構 築 の た め に は 必 要 不 可 欠 な も の で あ る こ と (文部科学省 2012)が示された。特別支援教育が必要不可欠なインクルーシブ教育および インクルージョンとはどういったものであるのか。インクルージョンという言葉が世界的 に使われるようになったきっかけは、1994 年のサラマンカ声明においてであり、その正式 名称は、「特別なニーズ教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明」であった (西永 2016)と示されている。また、その声明においては、インクルージョンの原則であ る Education for All がキーワードになっており、インクルージョン、インクルーシブ教 育は、「特別なニーズ教育」である(西永 2016)と述べられている。また、西永(2018) は「個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その 時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備す ることが重要である。」と述べている。ここで、特別支援教育の理念について触れる。文部 科学省(2007)は特別支援教育の理念として「特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒 の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人 一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服 するため、適切な指導及び必要な支援を行うものである。」と示している。インクルーシブ 教育およびインクルージョンと特別支援教育の理念を比較すると、特別支援教育は障害の ある子どもたちを対象としているという点で違いはあるが、一人一人の教育的なニーズに 合わせた教育、支援の必要性が共通して示されている。また、西永(2016)は「インクル ージョンが目指している『共生』とは、ただみんなが一緒にいることを目指す『共存』で はなく、一人ひとりみんな違い、“みんなちがってみんないい”という、一元論的思想であ るということが何よりも重要である」と述べている。つまり、学校教育において、障害の あるなしに関わらず、一人ひとりのニーズに合わせた教育であるインクルーシブ教育およ びインクルージョンを行うことができれば、共生へとつながると考えられる。そして、特 別支援教育においても教育的ニーズに応じた指導・支援を行うことができれば、共生社会 へも寄与することにつながると考えられる。 そのような中で、文部科学省は 2017 年 4 月に特別支援学校学習指導要領を公示した。 その中で、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通して、創意工夫を生か した特色ある教育活動を展開すること(文部科学省2017)が明記された。主体的な学びは、 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを 持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる学び対話的な学びは、 子ども同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等 を通じ、自己の考えを広げ深める学び。深い学びは、習得・活用・探究という学びの過程 の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付 けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を

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考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう学び。このように、文部科学省 (2017)は 3 つの学びを示している。 また、この主体的・対話的で深い学びの実現に向けて授業改善を行っていく上では、児 童生徒が各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら知識を相互に関連付け深く 理解したり、問題から解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりといった学びの過 程を重視した学習の充実を図ること(文部科学省 2017)が示されている。 知的障害教育において山中(2018)は「『主体的・対話的で深い学び』は、特に新しいも のというよりは、これまでの特別支援教育実践と通ずるところがあるとして理解される傾 向にある。」と述べている。先行研究を概観すると、神山(2016)は「従来の特別支援教育 (知的障害)においては、児童生徒の実態などに即して指導内容を選択・組織することな どにより、アクティブ・ラーニングの視点と同様に、児童生徒が主体的・対話的で深い学 びができることを目指し、それにより児童生徒に育てたい力をつけることが目指されてき た」と述べている。また、石塚(2017)も「授業における『主体的』な行動として、自分 の意思・判断に基づいて自ら学ぶことを重視することや、『さまざまな人とのやりとり』を 含めて『対話的』に学習することは、これまでも重視してきた」と述べている。このよう に知的障害教育は児童生徒の実態などに即して指導内容を選択・組織したり、授業におい て学びの過程を大切にしたりするなど、主体的・対話的で深い学びの視点を踏まえた上で 行われてきた。 一方で、三浦(2017)は「特別支援教育においても『主体的・対話的で深い学び』の視 点で更なる授業改善をし、障害のある児童生徒が実生活・実社会で確実に『生きる力』と なって活用できる資質・能力を育成していかなければならない」と指摘している。しかし、 知的障害教育において、「主体的・対話的で深い学び」の視点でどのような内容を扱い、具 体的にどのような指導が行われてきたかに関する先行研究は多くはない。また、知的障害 教育におけるアクティブ・ラーニングを取り入れた授業実践について、今後、子どもたち の学びの必要性に応じた単元(題材)設定や授業内容の精選、変容や授業の改善点がわか るような学習評価の方法等を総合的に検討することが課題となる(国立特別支援教育総合 研究所 2016)と指摘されている。これらから、知的障害教育における「主体的・対話的で 深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおけるよりよい手立てについて検討する必要性 がある。 そこで、本研究では、知的障害教育における「主体的・対話的で深い学び」の視点をふ まえた授業づくりにおけるよりよい手立てを明らかにするため、知的障害特別支援学校の 教員が授業において、何を重要視し、どのような視点で授業づくりを行っているかを明ら かにすることを目的とした。

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2.方法 1)調査の概要 質問紙調査(無記名郵送法)の本調査を実施する前に、質問紙予備調査を行った。質問 紙予備調査終了後、再検討を行い、質問紙構成はフェイスシート(現在の年齢、性別、所 属学部、担当学年、教職経験年数、知的障害教育の経験年数、特別支援教育免許状の有無、 他の障害種での勤務経験の有無、他の学校種での勤務経験の有無)及び香川県教育センタ ー(2017)を基にした生活単元学習の授業づくりについての 18 項目の質問項目を設定した。 本調査の対象は知的障害教育に携わっている教員 233 名である。調査の実施にあたって は、まず、対象とする学校の学校長に質問紙調査実施の許可をもらい、質問紙を郵送した。 対象とする教員に配布、回答してもらった後、同封した返信用封筒で郵送してもらうこと により質問紙の回収を行った。結果は多変量解析を用いるため、回答者個人を特定する情 報が公開されることがないことを伝えた。 なお、本研究は、星槎大学研究倫理審査委員会 の承認を受けた。(承認番号:1812)調査は 2018 年 6 月から 11 月の間に実施した。回収 率は教員において、33.62%(配布数 233)であった。 2)統計分析の方法 総数 18 項目の各項目において、各項目の 7 段階評定を「いつもしている」を 7 点、「い つもしていない」を 1 点として得点を与え、換算した。本研究における統計分析には、SPSS Statistics version22 を使用した。 (1)「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて何を重要視してい るかの尺度の妥当性と信頼性の検証 因子的構成概念妥当性を検討するために、主因子法による因子分析を行った。その後、 バリマックス法によって回転を行う因子分析を実施した。さらに、「主体的・対話的で深い 学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて何を重要視しているかの尺度の信頼性の検討 を行うために Cronbach の α 係数を算出した。 (2)「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて何を重要視してい るかの尺度における要因分析 教員において、「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて何を 重要視するかの要因を見出すために、フェイスシートから得られた変量データである教員 の現在の年齢、担当学年、教職経験年数、知的障害教育の経験年数をそれぞれ独立変数と した。また、性別、所属学部、特別支援教育免許状の有無、他の障害種での勤務経験の有 無、他の学校種での勤務経験の有無についてもダミー変数に変換し、独立変数とした。そ して、調査対象者78 名の 18 項目の合計得点及びそれらの下位因子である「課題設定、解 決方法の手立て」「主体的な学びにつなげる手立て」「対話に必要な補助的な手立て」「学び を深める手立て」「対話に必要な時間の確保」を従属変数として、ステップワイズ法による 重回帰分析を実施した。ステップワイズ法の基準投入は F 値確率が.05、除去は F 値確率

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が.10 とした。ダミー変数について性別は男性が 0、女性が 1、所属学部は小学部、中学部、 高等部のそれぞれを、小学部でないが 0、小学部であるが 1、中学部でないが 0、中学部で あるが 1、高等部でないが 0、高等部であるが 1 とした。特別支援教育免許状の有無はな しを 0、ありを 1、他の障害種での勤務経験の有無はなしを 0、ありを 1、他の学校種での 勤務経験の有無はなしを 0、ありを 1 とした。 3.結果 1)フェイスシート 回収数 78 のうち、「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて 何を重要視しているかの尺度 18 項目において無記入のものがあった 2 名は分析の対象か ら外した。したがって有効総数は 76 となった。フェイスシートの内訳は現在の年齢は 20 代が 15 名、30 代が 19 名、40 代が 14 名、50 代が 27 名、60 代が 1 名であった。性別は 男性30 名、女性 46 名であった。所属学部は小学部が 35 名、中学部が 11 名、高等部が 29 名、その他が 1 名であった。教職経験年数は 0~10 年が 30 名、11~20 年が 14 名、21~30 年が17 名、30 年~が 15 名であった。知的障害教育の経験年数は 0~10 年が 44 名、11~20 年が 18 名、21~30 年が 10 名、30 年~が 3 名、無記名 1 名であった。特別支援教育免許状 の有無は有が 64 名、無が 12 名であった。他の障害種での勤務経験はありが 29 名、なし が 47 名であった。他の学校種での勤務経験はありが 38 名、なしが 38 名であった。 2)教員 (1)「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて何を重要視してい るかの尺度の妥当性と信頼性の検証 a.因子的妥当性 「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて何を重要視してい るかの尺度 18 項目の質問に対して調査を行った教員を対象にして因子的妥当性の検証の ため主因子法による因子分析を行った。総数 18 項目全ての項目において、高い共通性が 得られた。なお、この総数18 項目の Cronbach の α係数は.852 であった。この総数 18 項 目の因子構造をみるため、固有値の累積寄与率の変化をみた。第 1 因子、第 2 因子、第 3 因子、第 4 因子、第 5 因子の累積寄与率が 50%を超えたことから、因子数は 5 が適当であ ると考えられた。そこで、因子数を 5 に設定し、再度主因子法による因子分析を行い、バ リマックス回転を行った。結果を Table.1 に示す。 第 1 因子は「8.解決方法が多様な課題の設定」「7.集団で解決する必然性のある課題の設 定」「15.試行錯誤の場の設定」「13.答えが1つでない課題の設定」などの項目が負荷して いた。この因子は、授業づくりにおける課題設定についての項目、また、課題の解決方法 に関する項目であった。したがって、第1 因子を「課題設定、解決方法の手立て」と命名 した。Cronbach の α係数は.782 であった。

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Table.1 回転後の因子行列 因子 1 2 3 4 5 8.解決方法が多様な課題の設定 .822 .081 .123 .266 .128 7.集団で解決する必然性のある課題の設定 .700 .161 .259 .163 .004 15.試行錯誤の場の設定 .553 .166 .043 .002 -.151 13.答えが1つでない課題の設定 .522 .143 .203 .202 .176 3.自己選択や自己決定をする機会の設定 .010 .757 .029 .064 .127 5.児童生徒の学びの過程に対する価値付け .261 .652 .132 .210 -.033 1.目標が明確な課題の設定 .147 .648 .162 .158 .269 2.具体物や体験活動等を取り入れた課題の設定 .129 .572 -.063 -.058 .150 14.実社会や実生活に結びついた課題の設定 .109 .492 .331 .002 -.038 4.児童生徒が考えたり、表現したりしたことに対して教 員が評価している .391 .402 .075 .090 .010 6.実社会や実生活とのつながりに気付く資料等の提示 .236 .222 .900 .068 .142 16.いろいろな考えを比べる機会の設定 .422 .053 .425 .271 -.039 9.対話のために必要な補助具(ICT 機器)の活用 .279 .034 .422 .347 .211 18.学びを他の場面で活用したり、新たな疑問を生み出 したりする .185 .183 -.010 .740 -.038 17.児童生徒が自分の学びを自分なりの言葉(表現)で まとめる時間の確保 .285 .009 .334 .649 -.076 11.児童生徒が他の児童生徒の活動を見る時間の確保 -.192 .206 -.022 -.029 .700 12.児童生徒がペアや小集団で学習成果や学びの過程 を振り返る時間の確保 .294 .057 .197 -.106 .581 10.課題、題材にじっくりと向き合う時間の確保 -.018 .386 .038 .312 .401

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第 2 因子は「3.自己選択や自己決定をする機会の設定」「5.児童生徒の学びの過程に対す る価値付け」「1.目標が明確な課題の設定」「2.具体物や体験活動等を取り入れた課題の設 定」「14.実社会や実生活に結びついた課題の設定」「4.児童生徒が考えたり、表現したりし たことに対して教員が評価している」などの項目が負荷していた。この因子は、児童生徒 の主体的な活動を引き出す手立てに関する項目が多かった。したがって、第2 因子を「主 体的な学びにつなげる手立て」と命名した。Cronbach のα係数は.792 であった。 第 3 因子は「6.実社会や実生活とのつながりに気付く資料等の提示」「16.いろいろな考 えを比べる機会の設定」「9.対話のために必要な補助具(ICT 機器)の活用」などの項目が 負荷していた。この因子は、児童生徒の対話的な学びにつながる手立てであると考えられ た。そこで、第 3 因子を「対話に必要な補助的な手立て」と命名した。Cronbach の α 係 数は.710 であった。 第 4 因子は「18.学びを他の場面で活用したり、新たな疑問を生み出したりする」「17.児 童生徒が自分の学びを自分なりの言葉(表現)でまとめる時間の確保」などの因子が負荷 していた。この因子は、学んだことを振り返ったり、次につなげたりすることに関する項 目となっていた。そこで、第 4 因子を「学びを深める手立て」と命名した。Cronbach のα 係数は.701 であった。 第 5 因子は「11.児童生徒が他の児童生徒の活動を見る時間の確保」「12.児童生徒がペア や小集団で学習成果や学びの過程を振り返る時間の確保」「10.課題、題材にじっくりと向 き合う時間の確保」などの因子が負荷していた。この因子は、児童生徒が友だちと関わっ たり、題材と向き合ったりするための時間の確保についての項目があり、対話的な学びに つながるものであると考えられた。したがって、第 5 因子を「対話に必要な時間の確保」 と命名した。Cronbach の α係数は.595 であった。 本研究に使用した「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて 何を重要視しているかの尺度は「課題設定、解決方法の手立て」「主体的な学びにつなげる 手立て」「対話に必要な補助的な手立て」「学びを深める手立て」「対話に必要な時間の確保」 の 5 因子による因子構造を持っていると言うことができる。 3)要因分析 教員を対象とした、総数 18 項目による「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた 授業づくりにおいて何を重要視しているかの尺度の合計得点に対して、ステップワイズ法 による重回帰分析を行った結果、除外されなかった変数は高等部(β=.231,p<.01)であ り、この重回帰式の重相関係数 R は統計的に有意であった(R=.231, F (1,73) =4.110, p <.01)。 次に「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて何を重要視し ているかの尺度の 5 つの因子に対して重回帰分析(ステップワイズ法)を行った結果を示 す。

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第 1 因子「課題設定、解決方法の手立て」に対して、ステップワイズ法による重回帰分 析を行った結果、除外されなかった変数は高等部(β=.248,p<.01)、特別支援教育免許状 の有無(β= .234,p<.01)であり、この重回帰式の重相関係数 R は統計的に有意であっ た(R=.359, F (2,72) =5.331, p <.01)。 第 2 因子「主体的な学びにつなげる手立て」に対して、ステップワイズ法による重回帰 分析を行った結果、除外されなかった変数は性別(β=.259,p<.01)であり、この重回帰 式の重相関係数 R は統計的に有意であった(R=.259, F (1,73) =5.251, p <.01)。 第 3 因子「対話に必要な補助的な手立て」に対して、ステップワイズ法による重回帰分 析を行った結果、除外されなかった変数は高等部(β=.273,p<.01)であり、この重回帰 式の重相関係数 R は統計的に有意であった(R=.273, F (1,73) =5.860, p <.01)。 第 4 因子「学びを深める手立て」に対して、ステップワイズ法による重回帰分析を行っ た結果、除外されなかった変数は高等部(β=.326,p<.01)であり、この重回帰式の重相 関係数 R は統計的に有意であった(R=.326, F (1,73) =8.662, p <.01)。 第 5 因子「対話に必要な時間の確保」に対して、ステップワイズ法による重回帰分析を 行った結果、除外されなかった変数は現在の年齢(β=-.702,p<.01)、教職経験年数(β =.539,p<.01)性別(β=.222,p<.01)であり、この重回帰式の重相関係数 R は統計的に 有意であった(R=.430, F (3,71) =5.371, p <.01)。 4.考察 本研究では知的障害教育における「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業 づくりにおけるよりよい手立てを明らかにするため、「主体的・対話的で深い学び」の視点 をふまえた授業づくりにおいて何を重要視しているかの尺度を使用した。また、本研究で 使用した「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて何を重要視 しているかの尺度における、授業づくりの手立てに関する要因を探るために、ステップワ イズ法による重回帰分析によって、要因分析を行った。 その結果、本研究の「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおい て何を重要視しているかの尺度の下位概念を見ると、「課題設定、解決方法の手立て」「主 体的な学びにつなげる手立て」「対話に必要な補助的な手立て」「学びを深める手立て」「対 話に必要な時間の確保」の 5 つに分けられた。これは教員が授業づくりにおいて潜在的に この 5 つの視点を意識していることを示している。国立特別支援教育総合研究所(2018) が主体的・対話的で深い学びを実現させるために「学習の成果を的確に捉えるための、学 習評価を充実させることが不可欠」と述べているように、今後、この 5 つの視点からの授 業評価の必要性を指摘することができる 次に、全体の「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて何を 重要視しているかの尺度において、どのような要因が影響を与えているかを検討するため

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に、重回帰分析を行った結果、「高等部」に所属しているが統計的に有意な関係性が示され た。これは高等部に所属する教員の方が「主体的・対話的で深い学び」の視点を踏まえて、 授業づくりを行っていることを示したものになる。このように、所属する学部によって「主 体的・対話的で深い学び」の視点の意識に差があることが明らかになったことで、学部間 での授業づくりについての情報共有や研修の充実が求められることが示唆された。そのた めには、教員の授業づくりに対する意識改革の必要性を指摘できる。教員が教え込むよう な、トップダウン型の指導ではなく、子どもたちの実態に合わせ、課題や題材設定、活動 が取り組まれてきているが、これに加えて 3 つの学び、5 つの視点をしっかりと意識した 授業づくりを行っていくことで、さらに、子どもたちの学びは充実していくと考える。そ のためには、教員が自身の経験や各学校の授業づくりの流れといったものだけでなくエビ デンスをもった指導が必要不可欠だと考える。 ここまで、全体の「主体的・対話的で深い学び」の視点をふまえた授業づくりにおいて 何を重要視しているかの尺度の考察を行ったが、この尺度は「課題設定、解決方法の手立 て」「主体的な学びにつなげる手立て」「対話に必要な補助的な手立て」「学びを深める手立 て」「対話に必要な時間の確保」の5 因子による因子構造が確認された。それぞれの因子に おいて要因分析を行った結果から、次のことが指摘できる。 まず、第1 因子である「課題設定、解決方法の手立て」は授業づくりを行う上で必要不 可欠な課題及び解決方法に関するものである。この因子には「高等部」「特別支援教育免許 状の有無」に統計的に有意な関係性が示された。これは高等部に所属し、特別支援教育免 許状を持っている教員の方が「課題設定、解決方法の手立て」を意識していることを示し ている。 このことから、専門性を高め、特別支援学校教諭の免許状の取得していくことは、「主体 的・対話的で深い学び」の視点を踏まえた授業づくりにおいても重要であり、今後は特別 支援学校教諭の免許状の取得率を上げていく必要性がある。 第 2 因子である「主体的な学びにつなげる手立て」は授業における子どもたちの主体的 な姿及び活動に関するものである。この因子には「性別」が統計的に有意な関係性が示さ れた。これは、女性の方が授業づくりにおいて、「主体的な学びにつながる手立て」を意識 していることを示している。特別支援学校の授業におけるティーム・ティーチング(以下 TT と示す)は欠かすことのできないものとなり、授業、児童生徒の学びを支えている(静 岡県総合教育センター授業づくり支援課特別支援班 2012)と述べられている。このことか ら、TT を行う教員構成として、男性だけや女性だけの構成にするのではなく、男性と女性 を組み合わせた教員構成にすることで、より「主体的な学びにつなげる手立て」を意識す ることができると指摘できる。 第 3 因子である「対話に必要な補助的な手立て」は資料等の提示や考えを比べる機会の 設定、補助具(ICT)の活用に関するものである。この因子には「高等部」が統計的に有意

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な関係性が示された。これは、高等部に所属する教員の方が「対話に必要な補助的な手立 て」を意識していることを示している。このことから、児童生徒の実態に合わせた補助的 な手立ての充実を図り、子どもたち同士の対話、教員との対話、題材等との対話につなげ られるように、機器に関する理解や活用方法に関する実践の蓄積が求められると考える。 第 4 因子である「学びを深める手立て」には、学びを振り返ったり、次につなげたりす ることに関するものである。この因子には「高等部」が統計的に有意な関係性が示された。 これは、高等部に所属する教員の方が「学びを深める手立て」を意識していることを示し ている。深い学びになるには振り返りの活動が必要であることが示されている(三浦 2017)。 また、高等部の実践から自己評価や他者評価場面を適切に設定したことで、作業の効率が 上がったことが報告されている(清水 2016)。このように高等部の実践において、振り返 りの活動が行われ、子どもたちの学びが深まっていることが確認されていることは今回の 調査の結果にも影響を与えた 1 つではないかと考えられる。今後は、すべての学部におい て「深い学び」の姿を評価していく方法の充実が求められると考える。 第 5 因子である「対話に必要な時間の確保」には友だちの活動を見たり、一緒に振り返 ったりするための時間の確保に関するものであった。この因子には「現在の年齢」「教職経 験年数」「性別」が統計的に有意な関係性が示された。これは年齢が若く、教職経験年数が 多い女性の方がこの手立てを意識していること示している。言い換えれば、年齢が高く、 教職経験年数が少ない男性はあまり意識していないことを示している。これらの年齢や教 職経験年数、性別がこの手立ての意識に影響を与えるという結果から、授業づくりの際に、 教員同士のコミュニケーションを十分にとる必要性を指摘することができる。また、学校 単位で授業づくりに関する共通理解ができるような研修の充実が求められると考える。 これまで述べた「主体的・対話的で深い学び」は幼稚園や小学校、中学校の学習指導要 領の改訂のポイントとして示されている(文部科学省2017)。そして、その学びを通して、 学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養、生きて働く知識・ 技能の習得、未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成が目標(文部科学 省 2017)となっている。この 3 つの力は知的障害教育においても大切なものであると考え る。すなわち、知的障害教育においても主体的・対話的で深い学びの充実は重要である。 また、文部科学省(2012)にも示されていたように、共生社会に向けたインクルーシブ 教育が重要であり、そのインクルーシブ教育のために特別支援教育のより一層充実するこ とが重要である。障害のあるなしに関わらず、子どもが主体となった学びが大切であるが、 教育課程や指導内容、指導方法などそれぞれのニーズに合わせることが難しく、支援では なく援助が多くなってしまう現状もある。障害があるなしに関わらず、一人ひとりのニー ズに合わせた教育こそ、インクルージョンであり、共生社会に必要なものである。しかし、 本研究の結果から、主体的・対話的で深い学びの意識には差があることが明らかになった。 そのため、具体的な指導方法などはまだ十分に共通認識されていない部分もあると考えら

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れる。今後、その共通認識をもち、よりよい指導が特別支援教育で行われれば、インクル ージョンに、そして、共生社会に寄与することができるだろう。 5.今後の課題 今後、段階を追って新学習指導要領が実施となり、知的障害教育においても実践が蓄積 されていくことが予想できる。このことから、意識していることに加えて実際にどのよう に授業づくりを行ったか、また具体的に授業においてどのような評価を行っていったかな どを調査することで、よりよい「主体的・対話的で深い学び」の授業について明らかにす ることができると考える。また、本研究においては対象授業を生活単元学習としたが、知 的障害教育において領域教科を合わせた指導は生活単元学習の他に日常生活の指導や遊び の指導、作業学習がある。それぞれについての検討も必要になると考えられる。また、生 活単元学習は知的障害特別支援学校だけでなく、小学校や中学校の特別支援学級でも行わ れている。特別支援学校の教員と小中学校の教員との意識に差があるかなど検討すること で、知的障害教育におけるよりよい「主体的・対話的で深い学び」について明らかにする ことができると考える。 文献 石塚謙二(2017).知的障害教育におけるアクティブ・ラーニング―「深い学び」の実現と 学びのメカニズム―. 発達障害研究第 39 巻,第 3 巻 p236-242 国立特別支援教育総合研究所(2016).知的障害教育における 「育成すべき資質・能 力」を踏まえた 教育課程編成の在り方 −アクティブ・ラーニングを活用した各教科 の目標・内容・学習評価の一体化−(平成 27 年度)中間報告 https://www.nise.go.jp/cms/resources/content/7412/20160620-103807.pdf (2019 年 1 月閲覧) 香川県教育センター(2017).「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業づくり-ア クティブ・ラーニングノススメin かがわ- 神山務(2016).アクティブ・ラーニングを活用した活用した各教科の目標・内容・方法・ 評価の一体化. 実践障害児教育 12 月 p10-13 三浦光哉(2017).特別支援教育のアクティブ・ラーニング「主体的・対話的で深い学び」 の実現に向けた授業改善 文部科学省(2017).新しい学習指導要領の考え方 -中央教育審議会における議論から改 訂そして実施へ- http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/newcs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/139671 6_1.pdf .(2018 年 12 月閲覧) 文部科学省(2017).特別支援学校学習指導要領解説 各教科等編(小学部・中学部)

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文部科学省(2017). 幼稚園教育要領、小・中学校学習指導要領等の改訂のポイント. https://www.mext.go.jp/content/1421692_1.pdf(2019 年 12 月閲覧) 文部科学省(2012). 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための 特別支援教育の推進(報告). https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321669.htm (2019 年 12 月閲覧) 文部科学省(2007).特別支援教育の推進について(通知). https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/07050101/001.pdf(2019 年 12 月閲覧) 西永堅(2018).共生教育としてのインクルーシブ教育. 共生科学(Journal of Kyosei Studies), 第 9 巻, 82-87 西永堅・永翁一代・白鳥絢也・森川和子 (2016). 生きものの多様性とインクルージョン教 育.共生科学(Journal of Kyosei Studies),第 7 巻, 46-58

西永堅(2016).特殊教育からインクルージョンへ.星槎大学紀要(Seisa Univ. Res. Bul.) 共生科学研究 No.12,25-36 清水貞夫(2012)渡邉健治・湯浅恭正・清水貞夫(編).キーワードブック特別支援教 育の授業づくり 授業創造の基礎知識.p98 渡邉はるか・前川久男(2011).児童の学業適応感が学校生活適応感へ及ぼす影響の検討. 特 殊教育学研究, 49(4),351-359 山中冴子. (2018). 特別支援教育の視点からみた新学習指導要領の議論:「主体的・対話的で 深い学び」 を中心に.教育科学,埼玉大学紀要,教育学部, 67(1) ,53-60 付記 本研究は星槎大学大学院に提出した修士論文の一部に加筆、修正し、再分析したものであ る。

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