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アメリカ圧力団体の国際化-イスラエル・ロビーとジャパン・ロビーを中心に-: 沖縄地域学リポジトリ

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(1)

Title

アメリカ圧力団体の国際化−イスラエル・ロビーとジャ

パン・ロビーを中心に−

Author(s)

照屋, 寛之

Citation

沖大法学 = Okidai Hōgaku(11-12): 43-77

Issue Date

1991-12-20

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/6534

(2)

今や、 ている。

アメリカ圧力団体の国際化

五四三二

Iイスラエル・ロビーとジャパン・ロビーを中心にI

イスラエル ジャパン・ あとがき アメリカ圧力団体の国際化の主要因 はじめに アメリカ圧力団体の国際化

圧力団体に関する研究は、政治過程論は勿論のこと、国際関係論の視点からの研究もますます盛んになってき

はじめに ロビー ・ロビー H召 」b、、

屋寛之

四一一 一

(3)

(4) 来である。

ところで、最近の圧力団体研究の特徴のひとつとして「圧力団体の国際化」が指摘されている。政治課題が国際化し

た現代では、外政に連動しない内政問題などほとんどないといっても過言ではあるまい。アメリカ政治についての古典

的な明言に、「すべての政治は地元政治である」というのがある。ところがいまや、「すべての政治は国際政治である」

(1) という一一一己葉がそれなりの説得力をもつようになった。国内政治と外交政策が、連動しつつ、相互連環図を描きながら、

展開されている。このような政治・経済の国際化する中にあって、圧力団体論の研究視点も国際的視野の要請される時

代となってきたとていえよう。かくして、国内政治過程の分析用具として用いてきた圧力団体概念をここに国際関係の

(2) 分析と総合化への応用が試みられてきたのである。

伝統的に外交政策は国内政策とは異なり、国家の運命を左右する厳粛かつ神聖なものであり、外交の専門家がマクロ

な視点から国家目標を掲げ、自国をめぐる内外の情勢を客観的に分析し、その国家目標を実現するためにもっとも効率

的と考える政策手法を選択し、それを実行すべきであるというような考え方があり、いわゆる「合理的行為者モデル」

に通じるものである。かかる考え方は、国家の政策は国内の諸々の利益団体間の政治過程をそのまま反映したものにす (3) ぎないとする「利益団体政治モデル」と真っ向から対立するものである。

いずれにしても、ロビイストの役割については、国内政策との関連では論じられても、外交政策との関連では六○年

代前半頃まではあまり論じられなかったといえる。国内政治と外交政策とのつながりについて、米国の政治学者が体系

的に分析するようになったのは、ロゼノーが編集した□・曰の、弓の・胃・の。扁甸・曰の曰、勺・}」二が六七年に出版されて以

本論において詳しく見る如く、現在アメリカ、とりわけ首都ワシントンには、多くの国々の圧力団体が自国の利益を 沖大法学第十一・十二合併号

(4)

今曰、世界のパワー・センターを自負するアメリカの議会を中心とする政府の政策決定は、国内だけでなく、国際的 にもその影響力が及ぶのである。全世界のほとんどの国が、アメリカ政府の政策によって何らかの経済的、政治的な影 響力を受けている。これは勿論第二次大戦後アメリカが国際経済システムのリーダーあるいは世界の警察(湾岸戦争に (1) おける対イラク攻撃もそのひとつ)としての役割によって世界に対する影響力を強化してきた結果である。 確かに、連邦議会の通商法案、国防法案、環境規制など、どれをとっても日本を含めた世界各国の国政や企業活動へ、 直接・間接にインパクトを与える。それ故に、その反作用として、日本やイスラエルのような一小国でもユダヤ系アメ アメリカ圧力団体の国際化 四三 めざして、大規模なロピイング活動を行っている。本稿においては、アメリカの外交政策に特殊な影響力をもつ代表的 な圧力団体として、「イスラエル・ロビー」に焦点をあて、経済政策に大きなインパクトを与える圧力団体として曰本 のいわゆる「ジャパン・ロビー」について考察することによって、アメリカ圧力団体の国際化の現状をまとめ、アメリ カの内政・外交政策への諸外国のロビイングについて論じてみたい。 (1)佐々木毅『政治に何ができるか』講談社、一三頁。 (2)ジャン・メノ、デュザン・シジャンスキ箸、中原喜一郎訳、『ヨーロッパの国際圧力団体』ミネルヴァ書房一二頁。 (3)佐藤英夫「アメリカ政治の構造変客と利益団体・ロビイスト」『国際問題』’九八七年九月号、第三一一一○号、一一頁。 (4)佐藤前掲論文三頁。 ニアメリカ圧力団体の国際化の主要因

(5)

リヵ人を動員してロビィング活動を展開すれば、アメリカの外交政策にさえインフルエンスを及ぼすことができる。太

平洋をへだてた曰本でも世界最強国家アメリカの政治を動かすことができる。これこそ〃開かれたアメリカ政治〃の本

(2)

質であろう。「すべての道はワシントンに通ず」。このフレーズこそ、ロビー国家アメリカの現実を端的に表現している。

かって、圧力団体研究の先駆者であるV.O.キーは、圧力団体の活動対象について論究した際、「権力が存在する

(3)

ところ、そこに圧力がかけられる」と述べたのであるが、〈「曰のアメリカの国際社会での地位からして、アメリカの連

邦議会、政府の決定が、即座に他の国々の政治、経済に及ぼす影響力は極めて大であり、それがこのような影響を受ける

(4)

国々や、これらの国々の企業・団体などのアメリカ連邦会議・政府に対するロビイング活動を促進してきたのである。

この意味で、かかる諸点に関する『コングレショナル・クォータリー』誌の次のような説明は、この事態の動向に関

する要約的説明として有益であろう。「世界中で、アメリカ政府の動向やアメリカ国民の世論に関心を払わずにすます

ことのできる国は少ない。第二次世界大戦後における世界の主要な軍事国、経済国、援助供与国としてのアメリカの台

頭が、それを不可能としたのである。この地球上にある国の中で、防衛費、武器輸出、穀物その他の直接貿易、開発援

助、多国間経済関係などに関してアメリカ連邦議会や行政府がおこなう決定によってなんらかの影響を受けない国は、

おそらくないであろう。こうして外国や外国企業は、国内の利益集団と同じように、アメリカの政治システムの中で自

(5)

分たちの目標を達成するために、当然にロピイングに目を向ける}」とになるのである。」

右の指摘からも理解できるように、外国ロビーの拡大は、外国がその利益を守るために必要不可欠なものだといえる。

したがって、多くの利益団体がワシントンに代表を置いている政治経済情勢下で、外国の政府や企業がワシントンに代

表または代理人を置くことは、一種の保険のようなものとさえいうことができよう。パット・チョートはその間の事情

沖大法学第十一・十二合併号 四一〈

(6)

を次のように巧みに述べている。「今曰の熾烈な国際競争市場では、最高の製品を製造しただけでは競てない。伝統的

な五つの経済戦略l価格、品質、アイディア、マーケッティングそしてサービスーに加えて、〃政治力〃が必要とされ

る。今日の世界経済の仕組みのもとでは、市場で獲得できなかったものは政治力で手に入れることができる。現代アメ

リカにおいて、政治的手法を用いて経済面で利益を得る機会は山ほどある。.……:曰本やヨーロッパの企業のトップは、

社運を左右する国際社会あるいは国内政策を、自社に有利にし向けるために多大の時間を費やしている。これらの外国

企業は、自国政府の政治経済政策を完全に牛耳らないまでも、大きく動かすだけの力をもつようになっている。彼らは

アメリカ市場に根を張ると、自国内と同様の力をアメリカ政府に対してももつことを目論む。自国政府の協力のもとに、

多数のロビイスト、学者、政治顧問、PRコンサルタント、もとアメリカ政府高官などを雇い、アメリカ政府の基本的

(6)

な貿易政策が自国に好都〈ロになるようにし向けている。」

したがって、アメリカの政策決定、立法過程は、諸外国のロビイングによって、大きく左右されているであろう。今

やアメリカの政治・経済はロピイングのモザイク模様をなしている。これを目的にした外国ロビーで、ワシントンで顕

著な圧力活動を展開している国は、イスラエル、韓国、ギリシャ、エジプトなどの同盟国である。同盟国だけでなく、

共産圏もワシントンに代表を置いている。たとえば、一九八三年に司法省に登録されている外国ロビーの団体には、ソ

連が一一一一一、ポーランドが一一一、東ドイツの八団体が含まれている。アメリカと貿易関係をもつ諸外国も、経済や貿易対

策に影響を及ぼそうとワシントンに代表を置いている。そのなかでも存在が目立つのは、カナダ、日本、イギリス、西

ドイツなどの主要貿易相手国である。アメリカの政策決定における議会の重要性が認識されるに従って、政府だけでは

(7)

なく、個々の外国企業や団体がワシントンに進出するようになったのである。

アメリカ圧力団体の国際化 四七

(7)

⑪イスラエル・ロビーの必要性とその勢力 (1)

ワシントンで活動する数多いロビーの中でも、イースラェル・ロビーは、「アメリカの中東政策を左右する」といわれ

るほど強大な影響力を持っている。ジョージ・ポール元国務次官は、「イスラエル・ロビーはアメリカ政治における最

(2)

強のロビーだ。もしアメリカの中東政策1とはなにかと聞かれれば、私はイスラエルの望むこと、と答えざるをえない」

とイスラエル・ロビーの影響力の大きさを述べた。また在米ユダヤ人の組織である、アメリカ・イスラエル公共問題委

員会(シ曰の弓自庁日の}勺g]]・崖莅冨○・日目(の①津シ弓シ○)の創設者ケネンは、「米国内にイスラエル・ロビーが

(3) 存在しなければ、イスラエル国家はとっくに滅亡していただろう」と、イスラエルにとって国家存続のためにも、ワシ (1)信田智人『アメリカ議会をロビーする』ジャパンタイムズ、一二七頁。 (2)小尾敏夫『ロビイスト』講談社現代新書、一一三頁。 (3)ご・○・【の】》句。}鴬」8・句凹耳】のmPpQbHの①の巨甸の○門○巨己の一一九一〈四、勺・’一一一〈. (4)内田満「アメリカ圧力政治における最近の問題」早稲田政治経済学雑誌第一一六八号、’二頁。 (5)内田満『アメリカ圧力団体の研究』一一二書房、’’五三頁。 (6)パット・チョート箸、塩谷紘訳「影響力の代理人」『文芸春秋』一九九○年一○月号一八六頁。 (7)信田前掲書一一一九頁。 三イスラエル・ロビー 沖大法学第十一・十二合併号 酉〈

(8)

トーマス・ダイン専務理事は、「二○○○年にもわたる流転、迫害、苦痛の体験は、われわれをして二四時間体制で 政治活動を行うことを必要ならしめた」と述べている。イスラエル・ロビーの使命は、周辺のアラブ諸国に対抗して、 ントンでの強力なロピイング活動を恒常的に展開する必要があることを力説する。 例外的な存在であるイスラエル・ロビーは、アメリカで最大かつ最強の外国ロビー軍団であるといわれているが、そ の実態は定かではない。というのも、イスラエル・ロビーのなかで強力なロビーは、イスラエル本国の団体よりも、ア メリカ国内の親イスラエルのユダヤ系米国市民の団体だからである。アメリカ国内には約七七○万人のユダヤ系市民が いる。その数は全世界のユダヤ人人口約一三○○万人のおよそ半分を占め、ユダヤ人国家としてつくられたイスラエル のユダヤ人人口の三四○万人を大きく上回る、世界最大のユダヤ人コミュニティを形成している。 しかし、このアメリカ在のユダヤ人が、すべて親イスラエルであるとは限らないし、しかも積極的に活動しているの は、その一部である。アメリカにおけるイスラエル・ロビーの中核的な存在は、アメリカ・イスラエル公共問題委員会 (4) (シ閂勺少。)である。当委員会は、本部をワシントンの連邦議会のすぐ近くに構えており、現在会員はユダヤ系アメリカ人 を中心に六万人である。本部スタッフは一○○人という大所帯で、有力なロビイストを擁し猛烈なロビイング活動を展 開している。議会対策をはじめ、国際部、通商問題などの部局に分かれて活動している。年間予算規模も、ここ一○年 (5) 問に八倍に膨れ上がった七五○万ドルにのぼる。しかも、実際の資金力は、その五倍はあると一一一三われる。AIPACは き年代には単に親イスラル広報活動を行う討議機関に過ぎなかったが、今や多くの上下両院議員が権威ある指針を求め るロビーに発展するに至った。一部のイスラエル人ジャーナリストは、AIPACは「われわれの大使館」だと言って い る亘 アメリカ圧力団体の国際化 男

(9)

イスラエルが国家として存続することを保障するために、アメリカからの援助を確保することである。とはいっても、 イスラエル政府がアメリカ在のロビー団体に資金援助をするのではなく、六○○万人のユダヤ系アメリカ人が団結して (7) イスラエル支持のロビー活動を行うという点が、他の外国ロビーとはまったく異なるところである。 条約に基づく法的な形での同盟国ではないイスラエルが、安全保障条約を締結している正規の同盟国以上にアメリカ の支援を得てきたバック・グランドに、イスラエル・ロビーの強大な影響力があったのは否定できない。’九四八年の イスラエル建国以来、トルーマン政権から現在のブッシュ政権に至るまで、アメリカの歴代の政権はすべて、イスラエ ルの国家としての存続と安全を保障するということを繰り返し強調してきたし、実際に政治的・軍事的・経済的支援を (8) 行なってきた。文字どおりアメリカは、イスーフェルの守護者としての立場をとり続けてきた。 かくしてアメリカはイスラエルの国家安全保障に大きく関与してきたし、アメリカの体外援助の多くを優先的にイス ラエルに配分してきた。過去二○年間、イスラエルは、アメリカの軍事・経済援助の最大の恩恵国であった。とくにレー ガン政権になってからは、援助額は毎年、アメリカのあらゆる国に対する援助総額の三○パーセント近くを占めるよう (9) になり、しかも最近では、それがすべて無償で供与されるという特別の待遇を与えられるようになった。実際、アメリ カの対イスラエル援助は、’九六二年の九三四○万ドルが一九八六年にも一一一八億ドルと飛躍的に増加しており、アメリ (、) 力とイスラエルの援助関係はOECD諸国の一般パターンからみれば、常識の域を越えている、といわれている。特に 湾岸戦争がぼっ発してからは、イスラエルはイラクのスカッド・ミサイル攻撃に自制を続けた。アメリカとしては大き な「借り」が出来ただけに、イスラエルの対米姿勢にも自信と強硬な言動が見え隠れする。三月五曰にブッシュ政権は、 とりあえず六億五○○○万ドルの現金供与に同意した。しかし、イスラエル側は「ソ連から流入してくるユダヤ人たち 沖大法学第十一・十二合併号 三つ

(10)

(u) の定住経費として一○○億ドル」、と、大胆に要求する一幕もあった、といわれている。 勿論、イスラエルに対抗して、アラブ諸国も大物ロビイストを使ってロピイングに力を入れているが、その影響力に は限りがある。一九八一年のレーガン政権初年度において、空中早期警戒管制機という最先端軍事技術の対イスラエル 輸出をめぐって、イスラエル・ロビーとアラブ・ロビーが激しい攻防戦を展開したが、ホワイトハウスの支持を得たイ (胞) スラエル・ロビーが勝利を得ていヱ〕。 ②イスラエル・ロビーの政治力の源泉 イスラエル・ロビーの影響力を、ポール・フィンドリー元下院議員は、「悲しい現実だが、アメリカの中東政策はワ (過) シントンではなく、イスラエルのエルサレムで作られていると一一一一口っていい」と述べ、アメリカの中東政策へのイスラエ ル・ロビーの影響力の凄さを力説した。AIPACがワシントンにおける最強のロビイスト団体であることは定評のあ るところであるが、|体その力の源泉は何か。その最大の要因は、AIPACが単なるロビイスト団体ではなく、その 背後に多数のユダヤ人諸団体を擁し、政治家の最大の注ぎどころ、つまり票と選挙資金とパプリシィの面で、政治家に (汎) 恩恵あるいは脅威を与えうる存在である.という点である。 前述したように、米国のユダヤ人人口は約六○○万人で、アメリカの総人口の二・八パーセントにすぎない。ところ が、ユダヤ人が全国的に分散したとはいっても、比較的大都市に集中して住んでいるのが特徴である。しかも、ユダヤ 人は政治参加意識が強い為、棄権率が極端に低く、国政レベルの選挙ではアメリカ人の平均投票率が四○’五五パーセ ントであるのに対して、ユダヤ人の投票率はほぼ九○パーセントに達する。したがって、人口比では二・八パーセント でも、全国的な票数では五パーセント近い比率を占めることになる。これが「ユダヤ票」をその実数以上に重くしてい アメリカ圧力団体の国際化 三一

(11)

一九七六年の大統領選挙では、任期中に「アラブ人に対する強硬姿勢を改めなければ、経済援助を削減する」とイス ラエルに警告したフォード大統領は、ユダヤ人の支持を失い、対立候補のカーターが六八パーセントのユダヤ人票を獲 得した。これはカーター勝利の一要因といわれた。 そのカーター大統領も、イスラエルとエジプトとの和平交渉の成功で一時ユダヤ人に高い評価を得たが、その後、イ スラエル・アラブ紛争の総合的な解決のためにソ連との交渉に乗り出そうとしたこと、またイスラエルの入植地政策を 非難する国連決議に賛成票を投じたことなどによって、ユダヤ人の反発を買った。再選を目指す八○年の選挙では、ユ ダヤ人票の四○パーセントがレーガン候補に流れたといわれる。 八八年の大統領選挙でも、ユダヤ人票の獲得のために、ブッシュ、デュカキス両候補は、親イスラエルの姿勢を在米 ユダヤ人社会に訴え続けた。また、「一ニーョーク・タイムズ」紙や「ロサンゼルス・タイムズ」紙など有力紙や、1 (焔) ダャ系の新聞にユダヤ人向けの全面広告を掲載し、激しくユダヤ人電宗の獲得合戦を繰り広げた、といわれている。この 大統領選をみる限り、ユダヤ人票がいかにその勝敗に影響を与えるかがわかる。こうして当選した大統領は就任後もユ ダヤ人社会に気を使わなければならない。大統領はユダヤ社会との連絡にあたる専従の担当官を置き、恒常的に接触を きる。 そのユダヤ人票の選挙への影響力の例として過去のアメリカ大統領選挙をみてみたい。「ユダヤ人票がアメリカ大統 領選挙の結果を左右する」といわれ、在米ユダヤ人社会の絶大な政治力をシンポライズする例として、しばしば語られ ることの一つである。確かに、これを裏付けるような実例を、過去のアメリカ大統領選挙の歴史に幾つか見ることがで 沖大法学第十一 (狙) ろ一つの理由である。 ・十二合併号 三一一

(12)

維持するように心がけ、イスラエルにかかわる問題で決定を必要とする場合には事前に担当官を通して主要なユダヤ人

(Ⅳ)

団体の指導者に根回しをしなければならない。

次にイスラエル・ロビーの強さのもう一つの要因である選挙資金の寄付について考えてみたい。ヨダャ票」よりも

さらに効果的なものは、選挙資金の寄付である。「アラブ系アメリカ人全国協会(NAAA)」代表で中東政治問題の

専門家ハリール・ジャハシャーン氏は、その背景として莫大な選挙資金を必要とするアメリカの選挙制度を挙げる。

「一回の上院議員選挙で平均二五○万ドル(約三億三○○○万円)はかかる。なかには一一六○○万ドルもかかった選挙

もあった。下院議員の場合はその額は上院議員選挙より少ないが、一一年ごとに選挙があるから、莫大な費用がかかるこ

(旧)

とになる・だからどうしても多額の政治献金をしてくれる組織に頼らざるをえなくなる。」したがって、組織的に候補

に多額の政治献金をすることのできる組織の影響力は大きくなるのは当然である。政治家の当落の「生殺与奪の権」を

握っているといっても過一一一一口ではあるまい。

アメリカでは、ひとりの候補者に対する一個人の選挙資金の寄付には一○○○ドルの上限が設けられているが、個人

が集合して政治活動委員会(祠・]三色鈩昌・ロ○・日已三の①》勺鈩。)を結成した場合には、一つのPACから一候補者に

対し五○○○ドルまでの寄付が可能である。もちろん、|っのPACが複数の候補者に対し、あるいは複数のPACが

一候補者に対しそれぞれ上限までの寄付を行うことも可能である。このシステムに着目し、それを最大限に活用したの

がAIPACであった。候補者にとってこの親イスラエルPACからの献金は、喉から手が出るほど欲しい選挙資金で

ある。とりわけ民主党の候補者にとってヨダャ人の金なしでは当選は難しい」といわれるほど、在米ユダヤ人社会か

らの政治献金は不可欠である。民主党への全政治献金のうち五○パーセントから七○パーセントが在米ユダヤ人からの

アメリカ圧力団体の国際化 三一一一

(13)

沖大法学第十一・十二合併号 三四 (四)

献金だからである。活発な政治活動を行っている「ユダヤ人共同体」の多くの指導者は、AIPACが支援候補者に運

動資金を調達するため、ユダヤ人組織や共同体グループが設立したS以上の親イスラエルPACに政治的指導を行って

いることを隠すことなく語り、自分たちが活発に政治活動を行っているユダヤ系米国人であることを暗にほのめかして

いる。ほとんどの親シスラェルPACは、国民PAC、共同体行動委員会、フロリダ議会委員会、ハドソン・バレーボー

ルPACなどである。そうした親イスラエルPACは、連邦選挙管理委員会の記録によれば、八六年に約四○○万ドル

(卯) を候補者に政治献金したのである。

さらにAIPACを中核とするイスラエル・ロビーが、アメリカの政治の場で議員に恐れられているのは、AIPA

Cが議員の言動、とりわけ委員会や本会議における発言や投票行動を曰常的に監視し、AIPACの基準に照らしてイ

スラエルに批判的もしくは「敵対的」と思われる議員あてに選挙区からの電報や手紙を大量に送らせ魂・あるいはその

議員の評判を落として選挙戦を不利にさせるといった運動の面で、絶大な力を発揮しているからである。そのひとつの

例として、チャールズ・パーシー議員へのイスラエル・ロビーの攻撃と落選についてのアウトラインを述べてみたい。

パーシー議員は、八○年から上院外交委員会の委員長も務め、その議員の地位は不動のように思われた。ところがその

パーシー議員が八四年、イスラエル・ロビーの圧力によってアメリカ議会の議席を追われてしまった。この選挙結果は、

シンドローム

その後「パーシー現象」とさえ呼ばれ、他の議員を震憾させるイスラエル・ロビーの脅威のシンボルとなった。パーシー

はもともとイリノイ州のユダヤ人から絶大な支持を受けていたが、七五年に中東を訪問した後「イスラエルは、PLO

がイスラエルの生存権を認めるならば、PLOと交渉すべきだ」、「PLOのアラファト議長は、ジョルジュ・ハバシュ

などの過激派に比べれば、相対的に穏健派である」などと述べ、AIPACからにらまれる結果となった。その発言か

(14)

ら一週間後、そのパーシーに一三○○の電報と約四万通の手紙が殺到した。その九五パーセントは彼の発一一一一口を批判し、

それを取り消さなければ投票と支持をやめるという内容のものであったといわれる。だが、次の七八年の選挙では、あ

えて追い落とすために動くことはしなかった。

そのイスラエル・ロビーが八四年の選挙でパーシー議員潰しのために全米に動員をかけるきっかけの一つとなったの

は、八一年、パーシーが上院外交委員としてレーガン政権のサウジアラビアに対する空中警戒管制機(AWACS)の

売却を支持したことは、AIPACの彼に対する心証を決定的に悪くした。このようなパーシーの動きに、イスラエル・

ロビーは八四年の選挙で本格的に反パーシー・キャンペーンを展開した。AIPACの週刊ニューズレター『近東リポー

ト(zの肴回閉←悪□・耳)』|面にはAWACS売却に賛成した議員、反対した議員のリストが掲載された。このリス

トは次の選挙に際して威力を発揮することになっていた。一九〈四年の選挙で、パーシーはAWACS売却の支持を取りっ

(配)

けるために積極的に動いたとされ、AIPACのテコ入れした対立候補に敗れる羽目になったという。AIPACはイ

リノイ州出身の下院議員ポール・サイモンを上院に鞍替えさせパーシーの対立候補として担ぎ出した。七○にもおよぶ

プロ・イスラエルのPACが全米から多額の献金を集め、個人によるユダヤ人の献金を合わせると、サィモンに寄せら

れたユダヤ人からの献金は約三○○万ドルに達したという。それに加えてユダヤ人実業家マィヶル・ゴランドがパーシー

(鋼)

の弱点や短所を攻撃する広報活動に一○○万ドル支出した。その結果、パーシーは八万九○○○票の差で落選した。ベ

テランの現職の外交委員長が落選したことは多くの上院議員を震え上がらすに効果満点であった。AIPACのダイン

理事長は「全米のユダヤ人がパーシー氏を追い落とすために結集した。今や政治家、公の立場にある人々、またそれを

志す人々は、私たちのメッセージを受け取ることになった」と語った。ともあれ、現職の上院外交委員長を落選させる

アメリカ圧力団体の国際化 壹

(15)

ことに成功したイスラエル・ロビーの威力は、パーシー・シンドロームを生み、ますます多くの議員に心理的圧力を加

(灘)

える効果を生んだのである。AIPAC幹部によれば、「パーシー・シンドローム」が上院議員をヨルダン・サウジア

ラビア両国向けの武器売却反対に傾かせたが、その傾向は特に八六年に再選を控えた共和党議員の間に強かったという・

ダインは八六年ユダヤ人連合評議会で講演した際、選挙後上院は選挙前に比べ勢力が多くなったと評価した・彼による

(妬)

と一二一人の新人議員のうち八人は彼らの前任者よりイスラエルに友好的であるという。

このようにアメリカにおけるイスラエル・ロビーの政治力の源泉は、「票と資金」は勿論のこと、こうした敵に対す

る攻撃力の強さにある。 (皿)士丑別掲書一三七頁。 (u)(略)木村前掲論文四五頁。 (⑬)土井前掲書一三七頁。 (血)信田前掲書一三一一頁。 (、)小尾前掲書一九○頁。 (、)小尾前掲書一八九頁、 (9)木村前掲論文三六頁。

(8)木村修三「米国ユダヤ人とイスラエル・ロビー」「国際問題』一九八七年九月号、第一一一一一一○号、

(8)木村修三「米国ユダ』

(7)鈴木康彦『ワシントン・ロビー』有斐閣一九一一一’四頁。

(6)ヘドリック。スミス箸、蓮見博昭監訳完ワー・ゲーム』時事通信府二五七頁。

(5)小尾前掲書一八○頁。 (4)信田智人『アメリカ拳 (2)(3)小尾敏夫『E (1)土井敏郎『アメリカ( 沖大法学第十一・十二合併号 土井敏郎『アメリカのユダヤ人』岩波新書一一三頁。 (3)小尾敏夫『ロビイスト』講談社現代新書一七九頁。

信田智人『アメリカ議会をロビーする』ジャパンタイムズ一三一頁。

ヘドリック・スミス著、蓮見博昭監訳『パワー・ゲーム』時事通信社一一四九頁。

三五頁。 三一〈

(16)

Ⅲワシントンにおけるロビイングの必要性

ポーダーレスの時代にあって、アメリカの国際政治経済分野での相互依存関係は、さらに深まっている。かかる状況

下において、逆に通商摩擦、投資規制、安全保障をはじめ、ワシントン政治が日本経済をストレートに直撃する頻度は、

アメリカ圧力団体の国際化 三芒 (Ⅳ)丸山直起「アメ叩 (肥)土井前掲書一三机 (岨)右同書一三九頁。 (旧)土井前掲書一三八頁。 (Ⅳ)丸山直起『アメリカのユダヤ人社会』ジャパンタイムズ、 (肥)士丑別掲書一六五から一六七頁を中心にまとめた。 (肥)ヘドリック・スミス前掲書二六六頁。

(別)イスラエル・ロビーのパーシー議員への圧力については、土井前掲書一二一一~一一一六頁、木村前掲論文四九~五○頁、鈴木前

掲書一九六頁、小尾前掲書一八一一一頁、丸山直起一七四頁、ヘドリック・スミス前掲書一一六頁を中心にまとめたものである。

(妬)ヘドリック・スミス前掲書一一六七頁。 (皿)丸山前掲書一七四頁。

(Ⅲ)スティーヴン・コーエンの世論調査によれば、「過去一年間にイスラエル支援のため、新聞への投書あるいは公職者に手紙を

(別)ヘドリック・スミス前掲書二六五頁。

書いたことがある」と答えた人が、一般ユダヤ人で一一○%、リーダー層でじっに七○%といたといわれているが、こうした手紙

戦術がAIPACあるいはPACの運動の一環として、きわめて有効な手段とされてきたのである(木村前掲論文四九頁)。

四ジャパン・ロビー ’七八頁。

(17)

ワシントン駐在事務所が短期間のうちにこれほどまでに増えたのは、いうまでもなく曰米経済関係の緊密化のためで ある。左グラフにみる如く、大蔵省が発表した一九九○年の貿易統計速報(通関ベース)によると、曰米の貿易収支は 曰本側の三八一億ドルの黒字となっている。しかしより正確にいうならば、日本の貿易の対米依存度の高さ、日本の工 (4) 業製ロ、の根強い人気、それに対比されるところの米国工業製品の急速な競争力の衰えといったものが、曰本企業のワシ ントン詣での背景にはあるといえよう。つまり、日米経済摩擦の激化である。曰本企業と競合する米国の企業ないし労 働組合が、曰本製品は不当な安値販売をしているとして国際貿易委員会(ロロ言旦のご←の巴日の目Pは。□巴曰『且の○・日三 (5) の、』。ご)に訴え救済を求めているとか、あるいは地元選出の上下両院議員を介して、曰本製品の米国市場への流入を立法 (6) 措置を通じて阻止するというような動きが、’九七○年代以降急速に増加してきたからである。つまりこの状況を経済 (7) 摩擦への対応という観点から把えることが可能である。 いまや曰米関係は、単純な経済摩擦がただちに政治問題化し、貿易、軍事、高度技術、投資、文化などの混じり合っ た い2 沖大法学第十一・十二合併号 ニハ (1) 貿易(経済)摩擦とともに高まってきた。 首都ワシントンにおける日本企業や政府機関の現地駐在事務所あるいは業界団体の活動ぶりは、近年とくに注目をひ (2) いている。その数だけをとっても第一二者が関心を寄せるに十分である。因みに一九九○年末の時点で、司法省に届て出 ている外国代理人総数は、約七五○人だが、そのうち曰本のために働いているロビイストいわゆるジャパン・ロビーは、 ’五○人と圧倒的に多い。左表は過去における「国別登録ロビイスト数」である。二位の順位にはかなりの入れ換わり がみられる中で、曰本がほぼ一貫して一位であるのは例外的であり、日本の首位が四半世紀も不動であることに注目し

(18)

た複合摩擦の時代に突入してい魂・対米関係が外交の

孵鮒123456789m一一

基軸である日本にとって、アメリカとの良好な関係を どのように維持・発展せしめるかは、恒常的に日本外

孵馳269534-,-681

順一父の最重要課題のひとつである。したがって、湾岸戦

数W認朋軒弧胡胡帥釦朗朗咀、、

9数台争でさえも、日本の議論は、中東よりももっぱらアメ

汁識別而剖別師妬茄別肥泌、8認繊蜥リカの意向に沿ってその貢献策が組み立てられたこと

8.大

録1

成少豚朋冊師肥酊的弘別Ⅲ皿茄4Ⅲ牒臓にも端的にあらわれているといえよう。かかる文脈に

イ*

澄獣ⅡⅥ弛町邪祀肥潴p9皿砠〃〃蛾帥鯏おいて、曰本からみれば、中東問題でさえも、対米関

9肱棚係のひとつのブランチであり、その中でしか対応でき

国洲》独孵忰螂癖恥汕泄哩唖““》》》》癖回仰痙蕊窪一症函Ⅲ川祢酢仙糾翰”舸桝Ⅷ州燗Ⅷ瀞

ロイ期動を通じてアメリカの政策形成過程に与える影響も無

鶴産出視できない程になってきている。これに対してアメリ

年本ダスコスッ国湾ルルァ連関

リシンイジェリ機

ナギキラドラスタ鵬計

一フ 名 * 力側からは、すでに反発の一門も出ている。しかるに日 国日カイメフ西韓台ブイイソ国 ** 本の企業の立場からすると、ワシントンでのロビィン

グ活動は、企業防衛上も不可欠であり、今や対米貿易をスムーズに展開するためには、ロビィング活動は必要不可避な

ファクターとなっている。 アメリカ圧力団体の国際化 夷

(19)

(、)

の皮をむくように、次から次へ、と摩擦はくり返し発生してきたのである。今や、日米貿易摩擦は、夏の高校野球のよう

に毎年確実に起こる年中行事になったと考えてもよいであろう。 一一一肩 000 倍 89 沖大法学第十一・十二合併号 96 Z )8 489 〕C

板!

iii

jiiii薑[

一くつ 度 ・年

対議会工作専門の純粋ロビイスト、議会工作と法律業務を兼ね合

0 9

わせる弁護士、政府内でのかっての地位とコネクションをフルに利

9 8

用する元官僚、情報の収集と操作を一手に引き受けるPR業者等々

朗肥肩書きこそいろいろだが、これらジャパン・ロビイストが曰米関係

月の舞台裏で果たす役割は想像以上に大きい。日本の文字どおり、手

74

8膵足、耳目はては頭脳となってアメリカの政府、議〈雪、国民一般への

M四圧力活動を積極的に展開しているのである。

(9) J

朋縮戦後の曰米関係は緊密ながらも多くの対立や衝突があった》」とも

4釦事実である。特に今曰の「曰本経済摩擦」という言葉もそのあらわ

8rれである。また考え様によっては、この曰米経済摩擦は古くて新し

蝋い問題ともいえよう。すでに一九五○年代にはワンダラー・ブラウ

スや金属洋食器、続く六○年代から七○年代初にかけては繊維、そ

の後鉄鋼、カラーテレビ、自動車、半導体、八○年代には牛肉・オ

1 8 9

レンジ、そしておそらく九○年代には「コメの自由化」が大きな政

治、経済問題となる可能性は大きい。このように、それこそ玉、ネギ

(20)

かかる曰米貿易摩擦の最頻状況下において最も必要とされるのが、米議会に対して日本の立場をよく説明し、彼らに

インフルエンスを与える「ジャパン・ロビー」の活動である。ジャパン・ロビーは、日本の外にあって曰本の経済的奇

(Ⅲ)

蹟をサポートする最重要で強力な団体である。

②ジャパン・ロビーの影響力

ジャパン・ロビーはワシントンで、イスラエル・ロビーを除くと最大の外国ロビーとして知られている。イスラエル・

ロビーの主体がユダヤ系アメリカ人であることを考えると純粋な意味での外国ロビーのなかで日本ロビーは、その影響

力を別にして、最大のものである。「ワシントン最大の成長産業は、ハイテクでも不動産でもなく、日本関係のロビー

(皿)

活動である」といわれている程、ジャパン・ロビーの活動は盛んであり、アメリカの議員、経済界が神経過敏になって

いるのも事実であろう。因みに、日本ロビーが一年間に使うその費用は、一億ドル以上で、これは米国商工会議所(S

四日ケの局。、○・日日の『・の)、全米製造業者協会(z畳。ごP]シ、の。。」畳・ロ。、三目具日日の『、)、ビジネス・ラウンドテーブ

ル(ロロ、旨のの、幻・目&号」の)経済開発委員会(○・白白三$命。『因8己・目CDのぐの]・已日の己)、米国ビジネス評議会(シ己の『

」・目、巨昌のmmoo員の『のロ・の)というワシントンで最も影響力の強い五大ビジネス団体の年間ロビー予算を上回る巨額と

(囮)

なっている。一」の活動費の多さが、後にみるようにジャパン・ロビーへの批判ともなっている。

最近アメリカで、連邦議会に影響力を持つ政治・経済学者で、米エレクトロニクス企業TRWの前副社長のパット。

チョートの「影響力の代理人』(シ○回z畠○両三国毎口因z○回)という「ジャパン・ロビー」の活動とその問題点を指摘

した本が出版され話題となってる。それは次のようにジャパン・ロビーのロピィングのすごさを論究している。少々長

くなるが引用してみたい。「曰本はアメリカにおいて恒常的に政治キャンペーンを展開しており、その活動ぶりはあた

アメリカ圧力団体の国際化 一〈一

(21)

かもアメリカに第一一一の有力政党が存在するかのようである。曰本は年間少なくとも一億ドルを費やしてワシントンに数

百人のロビイスト、大物弁護士、元政府高官、広報スペシャリスト、政治顧問、そして元大統領をさえ雇っている。さ

らには、年間三億ドルを費やし、全米に広がる地域的な政治ネットワークを通じて、アメリカ人の世論形成を図ってい

る。アメリカに対する日本のキャンペーンは、アメリカの両政党、いかなる国内産業、労働組合、特定の利益団体より

も多くの資産をかけた、より広範でより効率のよいものだが、その目的はただ一つ、すなわち、ワシントンにおける政

治的決定の結果に影響を及ぼすことである。日本の企業および利益団体に直接的な影響をあたえる。毎曰数億ドルI累

積的に見れば数十億ドル-が懸かっているワシントンの政治的決定を左右することである。こうした決定をアメリカに

おける競争相手よりも早く知り、強力なコネクションを持つワシントンのインサイダーおよびロビイストのネットワー

クを利用し、草の根の政治ネットワークを活用し、ジャーナリストを動かして政治問題を報道させ、大学やシンクタン

クのオピニォン・リーダーを動員することによって、日本は買いとった経済的影響力を自国および国内企業の戦略の重

要な要素として活用することができるのである。この政治ゲームは一一○年以上も前から日々展開させてきた。そして、

その勝利は家電製品、スーパー・コンピューター、工作機械、ボールベアリング、光ファイバー、人工衛生、コメ、バ

イオテクノロジー、航空運輸、通信、半導体、法律や金融サービスなどをはじめ、数十の分野でみられた・アメリカ産

(魁)

業はlたとえどれほどの競争ヵを持っている分野であっても’一つとして安全なものはない。」と、いささか感情移

入をしたような、ジャパン・ロビーへの批判を含めた論調であるともいえよう。なぜなら、従来ジャパン・ロビーが巨

額のカネをかけた程、その成果はなかったと指摘されるからである。ここ数十年にわたる、アメリカ側の対曰感情の悪

化も日本のロビーが効果的に行われていない証拠である。さらに、日本を標的とした次から次へと上程される一連の法

沖大法学第十一・十二合併号 〈

(22)

案、たとえば一九八七年から八八年にかけての包括貿易通称法案などもその典型的な例といえよう。もしチョート氏の

いうとおりに曰本企業のロビー活動がアメリカに大きな影響力を及ぼしているならば、どうして日本に不利なこのよう

な法案が可決されるのか。どうして議会を含めたアメリカ側の対日感情が悪化するのか。これらは日本企業のロビィン

グが効果をあげていないことの、何よりの証拠ではないか。という疑問、反論も大いに出るところであ魂。したがって

パット・チョートの主張を全面的に受け入れることはできないが、多くの点で傾聴すべきであろう。氏はさらに「いま

ワシントンのジャパン・ロビーは、きわめて強力でかつよく組織されたパワー集団として、事実上陰のアメリカ政府に

なっている。日本政府と企業はワシントンの十大法律事務所のすべてを使っている。ロビイストの中には大統領、閣僚、

上下両院議員のアドバイザーを務めている人物も多い。そのため曰本の関心事はつねに連邦レベルの政策決定の

場で取り上げられるようになっている。またこれら元高官ロビイストの発一一一一口には重みがあり、日本側の主張に信愚正を

もたら苑・」、したがって日本は、このロビイストを巧みに活用することによって、これまでも幾多の成功例を見るこ

とができたのも確実である。勿論、曰本ロビーの影響力についての評価は、必ずしも一致せず、|般的にはカネをかけ

ている割には成功していないと一一一一口われていろ。ここでは成功したものとして、特に曰・米間で話題となった。「ローカ

ル・コンテント法案」と「東芝制裁」についてまとめてみたい。

ローカル・コンテント法案、一九八○年前半、アメリカ議会にひとつの法案が一一度にわたって提出された。アメリカ

自動車業界の不景気を反映したこの法案は、アメリカ国内で販売される自動車に対して、ある一定の割合のアメリカ製

部品とアメリカ人の労働力を使うことを義務づける法案であった。この法案が成立すると、アメリカを最大の海外市場

にもつ日本の自動車産業は、日本車の輸出を大幅に削減されることになり、大きな打撃を受けることとなると思われた。

アメリカ圧力団体の国際化 〈

(23)

法案は、深刻なアメリカの自動車不況を背景に、全米自動車労働組合が起草したものである。その内容は、アメリカ市

場で一○万台以上の販売量をもつ自動車メーカーに対して、ある一定の国内生産比率を義務づけるものであった。それ

によると、たとえば日本の一一大メーカーであるトヨタと曰産は、アメリカ国内で販売する自動車に関しては、その九○パーセ

ントをアメリカ国内で生産しなければならなくなる。この法案に対する日本側のロピイングの一面をみてみたい。

日本の自動車メーカーは、ローカル・コンテント法案に反対する団体の連合を形成することに努めた。たとえば、ト

ヨタは一、’○○に及ぶアメリカのディーラーに電報を打ち、ローカル・コンテント法案反対に立ち上がるよう要求し

た。こういった日本メーカーのイニシアチブの後、全米に五、○○○ものメンバー数をもつ米国国際自動車ディーラー

協会(AIADA)が、法案反対のロビー活動に本格的に乗り出すことになった。全米に広がった、ほとんどの選挙区

にメンバーをもつディーラーの団体の全面的な協力を得たことによって、日本ロビーには強い味方のネットワークが築

かれた。さらに、自動車の輸入業者、農業団体、米国商工会議所、米国婦人有権者連盟や世界貿易のための消費者団体

(Ⅳ)

等々も曰本側のロピイングに力を借した。その結果同法案が二度も廃案におい》」まれた。

②東芝制裁。この事件の発端は、一九八二年一一一月から東芝機械が、ココス違反の品目である工作機械を、ソ連に

不正輸出したことに始まる。’九八七年一一一月、事件が発覚し、アメリカ側から東芝機械に対して制裁要求の声があがっ

た。まず軍事委員会のダンヵン・ハンター下院議員が、東芝製品の輸入禁止などを盛り込んだ制裁法案を上程した。同

年五月一五曰上院側では、ジュィク・ガーン議員が所属する銀行委員会からのろしが上がった。六月一五曰には、チャー

ルズ・ウィルソン下院議員が東芝製品の五年間輸入違反禁止を主眼とする法案を上程するに至る。翌日下院は、被害に

対する損害賠償を、日本政府に要求するよう国務長官に義務づける、国務省権限法修正案を圧倒的多数で可決した・翌

沖大法学第十一・十二合併号 一〈酉

(24)

一七日には、上院でガーン議員を先頭に報復手段として東芝製品の全面輪禁止措置を要求すると発表した。さらに下院

商業委員会に籍を置くロイ・ローランド議員が、東芝並びに関連企業の製品を連邦政府調達から除外させる内容の法案

を上程した。東芝機械に対する最終的な制裁は、一九八八年三月一一一一曰にまとまった両院協議会案は、「東芝機械並び にノルウェーのコングスベルグ・トレーディング社に対して三年間の輸入禁止措置、親会社の東芝並びにコングスベル グ社に対しては米政府調達契約の三年間禁止措置」という内容であった。 このような制裁処置に対して東芝は、いかなるロピイング活動を展開したのか、その戦略をみてみたい。東芝がマッ ジ・ローズ法律事務所に依頼した時には、事態はすでに手のっけようのない状態になっていたが、ロビー対策部隊の編 成・補強が行われた。まずニクソン大統領の法律顧問をした前歴をもち、国防省に顔のきくL・ガーメント弁護士がい た。また、曰本市場開放問題をめぐる「ジョーンズ・レポート」で有名なJ・ジョーンズ。そして上院外交委員会のス タッフが「振り向くたびに、東芝のロビイストの数が増えていた」と言うように次々と大物ロビイストがその戦列に加 わり激しくロビイングを展開した。一方、二三州にわたる東芝の関連事務所や工場の四一○○人の従業員たちに、それ ぞれの地域の議員に宛てて、東芝制裁案に抗議する手紙を書かせた。この手紙キャンペーンには、東芝プラントのある テネシーとインディアナ両州の知事も参加した。さらにキャンペーンは、東芝に材料を納めている会社や、東芝製の部 品を使っている会社にまで広がった。東芝部品を使用しているAT&TやIBMを含むワシントン・ハイテク・ロビー・ グループも、同問題を取り上げ、特別連合を組んだ。そして、「もし東芝制裁が行われると、必要な部品の入手ができ ず、自分たちの作業に障害が生ずる」といって、議員たちに働きかけた。 ロピイングが功を奏した結果、かなりの怒りを買った事件であったが、正式に決定された東芝制裁条項は、東芝にとつ アメリカ圧力団体の国際化 一〈三

(25)

罪状にしては軽かったこの制裁措置がとられた陰には、「投入した費用、ロビイストの数、そして活動規模からして、

外国企業によるロビー史上最大の作戦」。「米企業以外の企業の中で、最も高額で攻撃的なロピイングだ」。「日本が

その政治的影響力を行使した、唯一の劇的な実力行使」と、アメリカのマスコミが競って報じたジャパン・ロビーであつ (肥) た。日本企業としては初めて真の意味での本格的なロビー活動が行われたのであった。 ③ジャパン・ロビーの影響力の源泉

ジャパン・ロビーがうまくいったものとしては、前述したように「ローカル・コンテント法案」の廃案、「東芝制裁」

の援和、あるいはその他にもユニタリータックス(ロ日ご旨弓貝)課税の租止、全米精米者協会(RMA)が通商代表

部(USTR)に対して曰米の保護政策等は不公正貿易慣行だとの理由で訴えた。ところがUSTRは却下した。仮り これらの件でロビイングの成果があったとすれば、曰本が元政府高官などの大物ロビイストを雇ったことと決して無関 うえ、東芝はそれらの会社に対する販売を増やすこともできることになった。

は東芝と関係はあったが契約をもっていなかった会社も、継続して東芝製部品を買うことができることになった。その

それが、「東芝といかなるビジネス関係をもっているアメリカの会社」というかたちに修正された。つまり、それまで

芝とすでに契約のあるアメリカの会社に限って、東芝製部品を買い続けることができる」という例外が設けられていた。

ては以外と軽い制裁措置であった。「東芝製品の米国市場での販売を禁止する」という東芝制裁条項の原案には、「東

この東芝制裁条項は、一九八八年八月三曰に上院本会議を通過し、一一四曰に大統領署名によって成立した。「ゆでた

麺で手を叩くくらいのものだ」と言われたように、東芝にとっては、実質的にはそれほど大きな打撃を受けるものでは なかった。 沖大法学第十一・十二合併号 〈〈

(26)

係ではないであろう。

日本がワシントンでロビイストを雇う契機となったのは、繊維摩擦である。繊維が日本にとって対米輸出の本命であっ

た一九五○年代後半から六○年代にかけて行われた日本繊維交渉の際、日本政府と業界を代表するかたちでジェトロ

(曰本貿易振興会)が大物ロビイスト、ディーイを雇い、年間一○万ドルといった破格の報酬を支払ったことがある。

当時は外貨持ち出し制限が厳しかった時期であったにもかかわらず、以後五年間にわたって総額五○万ドルも支払われ

それを皮切りにジャパン・ロビーは、一兀連邦議会議員、元大統領補佐官、元CIA長官、元運輸長官など、ワシント

(即〉

ンの政策サークルで顔の利く大物を多く雇ってきた。特に七○年代に入った》」ろから、日本企業や曰本政府は多数の著

名な元政府高官を雇って、教えを受けたり代理人を依頼するようになった。その種の活動をするようになった人間の一

人に、ニクソン政権の通商交渉特別代表を務めたウィリアム・エバリーがおり、曰産自動車のために働くようになった。

もう一人は元CIA長官のウィリアム。A・コルピーで、規模は小さいが豊かな人脈を誇る日本の政治機関、政治広報

(副) センターのコンサルタントとなり、高額の報酬を得た。

’九八一年、カーター政権が終わり、多くの民主党員が従来のポストを離れると、この流れは洪水と化した。ジョン・

カルバー上院議員はトヨタと契約した。上院外交委員会の委員長を務めたこともあるフランク・チャーチ上院議員は、

曰本貿易振興会のために働くことになった。エイブラハム・リビコフ上院議員は日本情報文化問題研究所に雇われた。

日本の利益団体のために働いた政府高官にはこのほかにも、カーター大統領の国内政策担当顧問だったスチュァート・

(皿)

アイゼンスタットは曰立と、元米国通商代表部法律顧問のリチャード・リバーズは、富士通とそれぞれ契約した。

(四) ていう①。 アメリカ圧力団体の国際化 -くせ

(27)

最近では、対曰強硬派として知られたライオネル・オルマー元商務次官が曰本のロビイストとして雇われているし、

ブッシュ大統領の選挙キャンペーンを助けたジェームズ・レイクは日本の利益を代表する、影響力の強いロビイストと

して知られている。政府高官や議員、または議員スタッフにとっても、高収入の曰本のロビイストは魅力的な職業であ

(犯)

り、日本の天下りによく似た「ワシントンの回転ドア」の行先として曰本企業は人気がある。

最近、最も興味深いものとして、一九八六年から一九八七年にかけての曰米市場分野別通商協議で、日本市場への米

国自動車部品の参入を強く推進していた、商務省次官補代理のロバート・ワトキンスが政府の職員たる身分でありなが

(翻)

ら、「退官後に自分を雇わないかと」曰本車メーカーや自動車部品〈云社に手紙を書き、問題となった。これは極端な例

であろうが、八○年代以降、日米間の貿易問題が大きく取沙汰されるようになると、貿易問題を熟知した元政府高官が

日本ロビーの一員となることが多くなった。

アメリカの元政府高官が自分を売り込みにやってくるときには、自分の価値を証明するための手土産として〃金

塊〃l日本の役に立ちそうな内部情報lを持参することを期待されている。たとえば二九八九年に商務省を辞めた

ばかりの一一人の政府高官が仕事を求めて東京へ出向いたという。彼らはクライアントを獲得するために、自分たちが在

任中に作成した規制を曰本企業がうまくくぐり抜けられるように手助けしようと申し出た。彼らが将来の報酬の源泉に

なるかもしれないと期待して故意に法律に抜け穴を作ったかどうかは知る由もない。だが、これらの元政府高官がこの

(妬) ような形で曰本企業に自分を売り込んだというのは事実のようである。 ⑭ジャパン・ロビーの問題点

過去二○年間のあいだに、日本企業、業界団体のワシントン駐在事務所は、急激に増えた。しかし残念ながら、その

沖大法学第十一・十二合併号 一〈〈

(28)

その理由のひとつは、ジャパン・ロビーがあまりにも大規模なロビイングを行うためである。たとえば、’九八八年 包括通商法案の立法過程において、法案成立を阻止するために、日本政府と企業は約二○○社のロビー会社を使い、活 動費として総額一億ドル(当時の為替レートで約一二五億円)を注ぎこんだといわれている。この前例のない巨額のロ ピイング費用にまず批判が出た。この批判の主は、ジェームズ・ライト下院議長で、「米国内の立法作業にこれほど外 国企業が関わったのは史上ないことだ。ワシントンは日本に買収されている。」と強い不快感を表明し、日本側のロビー 活動を批判したのである。同様に民主党の副大統領候補に選ばれたロイド・ベンッェン上院財政委員長も日本のロビー 活動を再三にわたって批判している。ベンッェン議員は、日本が少なくとも六、○○○万ドル以上を通商法案反対のロ (妬) ピー活動に費やしたと主張し、外国によるこれほどの出費はアメリカの立法への干渉ではないかとまで述べている。 特に「東芝制裁条項」がもりこまれようとしていた東芝は、三○○万ドル(約三億七○○○万円)を使ったといわれ (”) る。ハインッ議員は、「東芝制裁をめぐる攻防は、犯罪的行為もある程度まで割にく□うものということを一派した。アメ リカのロビイストは潤い、不正輸出で約四、○○○万ドルを手にした企業も損はしないのだから」と強く東芝のロビイ ングを批判した。つまり、東芝は金の力で「犯罪行為」に対する罪を軽減したというのである。豊富な資金によって多 くの大物ロビイストを雇い、効果を上げた東芝ロビーであったが、その出費は桁外れのものであり、多くのワシントン の政策サークルに属する者に、常軌を逸しているとの印象をもたせることになった。ある日系弁護士は、「東芝があれ みたい。 ン・ロビーは、ワシントンで数々の批判を生んできた。ここでは、ジャパン・ロビーへの批判の諸要因について考えて 活動ぶりについては、曰本政府のそれを含めて、あまり好意的に評価されてきたとはいいがたい。残念ながら、ジャパ アメリカ圧力団体の国際化 一〈九

(29)

(釦) を認めたので老のる。 大物ロビイストを雇った曰本企業に対する批判のポイントは、金に糸目をつけない彼らは、ロビイスト側の要求どお りの契約金を支払うケースが多く、結果的にロビイストのコスト・アップを助長しているというものである。アメリカ 沖大法学第十一・十二合併号 七つ (羽) ほど派手なことをやったのは反感を買うだけだ。」と、東芝のロピイングに疑問をいだいた。〈「や、このジャパン・ロ ビーの規模自体が問題となり、多くの議員が非難、もしくは少なくとも懸念をもつようになった。 次にジャパン・ロビーが批判の対象となる理由は、その豊富な資金力によって大物ロビイストを雇っていることであ る。数の多さに加えて、ジャパン・ロビーの「大物好み」と「資金力」が、アメリカ議会における曰本のイメージを悪

くしている。無条件で高給の弁護士や元行政府担当官の「大物」をロビイストとして雇う傾向が強い。曰本では、企業

が政府との関係を円滑にするためのひとつの手段として、元官僚が天下るのを引き受けているが、それに似たような感 (調) 覚で、多くの曰本企業は元政府高官をロビイストとして多く雇っている。 そして、こうした大物ロビイストの主な仕事は、通常「ドア・オープニング」、つまり日本企業とアメリカの議会や 行政府の担当者との顔つなぎである。たとえば、’九八七年夏、トヨタ自動車は、当時建設中だったケンタッキーエ場 の採算性を悪化させかねない障害にぶつかった。曰本などからの輸入部品に関税優遇措置を認める「外国貿易地域」の 指定を申請していたトヨタに対し、商務省が、これまで対米進出企業に認めてきたこの優遇措置の見直しに乗り出した。 そこで、トヨタ社は、早速、米国トヨタを通じて共和党全国委員長のファレンコフ氏に働きかけ、同氏の仲介で当時の ポルドリッジ商務長官とトヨタ首脳の会談が実現した。ファレンコ氏はトヨタのロビイストではなかったが、米国トヨ タが雇うロビイスト事務所に所属していた。トップ会談が効を奏したのか、商務省は一九八七年末、トヨタの優遇措置

(30)

(訓)

側の批判はここに集中するものである。「日本企業は金になる。契約料をつりあげるなんて簡単さ」・と、いうのがワシ

ントンのロビイスト達のあいだでの話である。特に「東芝制裁」に対する東芝側のロビーのあり方をめぐって、ビジネ

ス的には成功したが、曰米関係の視点からは非難が集中した。なかでも一法律事務所に法外な報酬を支払ったことは、

(鍵)

「ジャパン・ロビー‐地上げ屋論」を生み、ワシントンのロビー界で公然と批判されるに至ったのである。

曰本ロビーに関して、もうひとつ批判の対象となるのは、曰本企業があまり多くのロビイストを雇いすぎることであ

る。日本の企業は、「金に糸目をつけず、役に立ちそうな者はすべて雇って、徹底的な情報収集を行うと同時に、積極

(調)

的に議会や行政府に働きかけさせる」ので、結果的には、多くのロビイストと契約するこ●とになる。たとえば、一九八

一年に曰本車の輸入規制が問題とったとき、反対の先頭にたったトヨタの現地法人は、少なくとも一○以上の弁護士、

ロビイスト、コンサルタントとロビー契約をし、ほとんど同じ内容の業務を委託した。自動車輸入規制法案の成立見通

しを、各ロビイストを通じて聞かれる立場にたった議員や議員スタッフが根をあげ、他方、トヨタの評判が急落したこ

とはいうまでもない。というのは、議員やスタッフはロビイストに喜んで情報を提供するが、同じ企業から依頼された

仕事をやる多くのロビイストに何度も同じ説明をするのは、時間の無駄であり、それがくり返されるならば、時には怒

(鋤)

りを覚えるのふい》無理からぬことであろう。

ときには、次のような逆効果になることもある。「たとえば、自分が考えてもいなかったような輸入規制法案につい

て、日本側ロビイストから質問を受ければ、一回目には正直に否定する。しかし、同じことを四回も五回も尋ねてこら

れると、規則法案が必要ではなかろうかと考えはじめる。そして、六回目には、そのような法案を委員会に上程にして

(顎)

やろうかという気持ちになる。」司法省のクラークソン外国代理人登録課長は、「ジャパン・ロビー‐の特徴は、同一課

アメリカ圧力団体の国際化 ご-

(31)

題の情報分析を複数の代理人に委ねて、結果を比較する方法だ。分析も三組ものロビイストに依頼して、一種のダブル

(妬)

チェックを行うわけだが、契約相手の調査力・情報力を信用していないと受け取る一」ともできる。」

以上のように、ジャパン・ロビーへのアメリカ側の批判をまとめてみたのであるが、結局ジャパン・ロビーが豊富な

資金力に基づいて大物をロビイストと契約し、大規模なロビイングを過度に展開していることにある。日本人特有とも

いえる拝金主義が、ロピィングの面でも典型的に表われたのであるが、このことが曰本のロビイングヘの批判の根底に

ある。金で何でも解決できるという高度経済成長が生んだ曰本人の発想をここで転換しなければ、以上のようなジャパ

ン。ロビーへの批判は、増幅され、効果的ロビイングを行うことは期待できないであろう。 (1)小尾敏夫百ビイスト』講談社現代新書、’七七頁。 (2)草野厚「米国における日本企業のロビイング」『国際問題』 ’九八七年九月号、第三一一一○号、’八頁。 (3)小尾前掲書、二一四頁。 (4)次の図は「米国(日本)製品に対するイメージ」について 両国の消費者について調べたのである。これを見てもいかに 日本製品がアメリカに人気があるかがわかるであろう。 (5)たとえば、’九七五年一一一月、日立、三菱電機、一一一洋電機、 シャープ、東芝の日本のカラーテレビ輸出五社は、ダンピン グの疑いで国際貿易委員会に訴えられた。当委員会は、貿易 条令違反の疑いで調査を開始した。この条項には「略奪的な 価格」によって「不当な競争」をする違反行為が含まれてい た。処罰はアメリカ市場からの総締め出しである。さらに国 沖大法学第十一・十二合併号 米国(日本)製品に対するイメ ジは

幽鍵託

0 0 旧本での調査米国での凋杳

昌崖 )戊岡時説か臣 芒’一 『日本の選択』292頁

参照

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り最:近欧米殊にアメリカを二心として発達した

政治エリートの戦略的判断とそれを促す女性票の 存在,国際圧力,政治文化・規範との親和性がほ ぼ通説となっている (Krook

平成21年に全国規模の経済団体や大手企業などが中心となって、特定非営

都における国際推進体制を強化し、C40 ※1 や ICLEI ※2

1997 年、 アメリカの NGO に所属していた中島早苗( 現代表) が FTC とクレイグの活動を知り団体の理念に賛同し日本に紹介しようと、 帰国後

開発途上国では女性、妊産婦を中心とした地域住民の命と健康を守るための SRHR

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