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流通業界の新潮流と伝統的流通業の可能性―配達販売業の経営診断と活用―

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日本経営診断学会論集20, 12–18 (2020) 自由論題

流通業界の新潮流と伝統的流通業の可能性

―配達販売業の経営診断と活用―

New Trend of Retail Business and Possibility of Traditional Retail Business:

Management Diagnosis and Utilization of Delivery Sales Industry

並木雄二*

法政大学

Yuji Namiki*

Hosei University, Tokyo

*[email protected] 抄録:テクノロジーとデジタル技術の進歩が流通業の未来を変えようとしている。EC大手のAmazon,アリババはリアルの小 売業を巻き込み,顧客データを一元管理し支配しようとしている。流通業にとり顧客データは重要な経営資源であり,伝統的流 通業はまずこの顧客データを活用し,顧客へのアプローチを変えていく必要がある。分析を基にしてハイタッチな心の通い合う 関係作りを目指すことが目的である。本論は,牛乳・新聞販売業の経営診断から有効と考えるデータ分析の手法と活用の事例を 示す。分析手法は①jSTAT MAPの活用による商圏分析,②受発注データを利用したRFM分析・マーケットバスケット分析, ③顧客アンケートによるCSポートフォリオ分析の3つになる。 Key Words:データ分析と活用,新聞販売・牛乳販売業の経営診断,リテールビジネス,新連携と価値共創,CSポートフォリ オ分析 1. 緒言 テクノロジーとデジタル技術の進歩が流通業の未来を 変えようとしている。RFID(電子タグ)による物流の 効率化とキャッシュレス決済,画像認識技術による無人 店舗,自動運転による配達やドローン宅配など進化の範 囲は広く速い。この大きなテクノロジーの変化に乗れな い伝統的な流通業は衰退していく危機にあると言われて いる。 本論では業種店を中心とした地域の商業と地域の配達 販売業(牛乳配達業,新聞配達業など)を合わせて「伝 統的な流通業」という。Amazonなどの新興流通業はデ ジタルを活用しマーケティング技術の精度を高めている。 それに対し伝統的な流通業は従来と変わらない経営手 法を取り続けている。これらの企業が,新たな投資を行 わずとも,企業内の未活用のデータを活用し新しい経営 に取り組める方法を示す。資本力に劣る企業であっても 可能な取り組み方法である。 流通企業の中には多くのデータが存在している。それ らのデータは価値が認識されておらず埋もれた状態にあ る。それはデータの分析方法,有効活用の方法がわから ないことに起因する。これらの未活用データは整理し適 切な分析手法を用いれば経営に活かしていくことが可能 である。例えば受発注の取引データなどは加工分析する ことによりマーケティングに活用することができる。 本論で取り上げる牛乳販売業は,顧客の住所データと 顧客の購買履歴とを紐づけることができ,個別のマーケ ティングを策定するうえで有効なデータを持っている。 マーケティングのデータ活用が行える貴重な業界である が,有効な活用事例は見られない。 新井[1]はコンサルティング・サイエンスへの進化の ためには産業分類と職業分類の中から専門とする分野を 特定することが必要と論じた。牛乳販売業や新聞販売業 は衰退が著しい業種であるが,顧客データや取引データ が いコンサルティング・サイエンスに取り組むことが 可能だ。 さらに日本の戸別配達システム(新聞・牛乳)は世界 で類を見ない貴重なビジネスモデル[2]であり,高齢化 社会の中で重要なインフラと言える。また流通業はEC を中心に宅配競争になっており,日本に従来から存在す る配達する販売業を見直すことは社会的な意味を持つと 考えた。 牛乳販売業は,配達にコミュニケーションなどの付加 価値を加えようとしている。顧客の健康を習慣化し,配 達する価値を高め,健康支援ビジネスに生まれ変わって いる。 コンサルティング・サイエンスの事例として牛乳販売 業の経営診断から有効なデータ分析の手法を示し,牛乳 販売業や新聞販売業だけでなく,伝統的な流通業の将来 における一つの在り方を示したい。 2. 先行研究 牛乳販売店に関係する先行研究は少なく,経営診断に 受付日:2020年3月26日 受理日:2020年7月11日 公開日:2021年6月8日

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日本経営診断学会論集20 (2020) 関するものは見られない。新聞販売店については,経営 の現状を捉え提言したものがある。青山・松井[2]は新聞 販売店の現状を分析し,新聞販売店が生き残るためには ポスティングなどの新しい仕事を加えることが新聞販売 店のイノベーションになると論じた。野口[3] は被災地に て新聞販売店を活用し「情報コーディネータ」を配置す ることで地域の人の顔が見えるコミュニケーション手段 を提案した。新聞販売店が地域の情報サービス提供の拠 点,ハブとなりうると論じたことは,今後の新聞販売店 が新規事業を展開していくうえで重要な指摘である。新 聞購読者は減少し続けており,今後もさらに減ることが 考えられる。今後,新聞販売店の強みを正しく認識し新 たな取り組みをしていくことが求められている。 牛乳販売店の業界および経営についての先行研究はほ ぼ存在しないが,(社)全国牛乳流通改善協会[4]が牛乳販 売店の優良事例発表会を行っており,内容は寄付事例が 多く表彰的な意味合いが強いものとなっている。 3. 流通業の新潮流 「Amazon Effect」と言われるように米国の小売業は Amazonの成長により勢力図が変わった[5]。玩具専門店 チェーンのToys R Us(トイザらス),シアーズ・ホー ルディングスは破綻に追い込まれている。シアーズ・ ホールディングスはドラッカーが「全米で最も成功した 企業の一つ」と称賛した小売業であるが,デジタル化が 遅れ,このディスラプション(創造的破壊)の渦に飲み 込まれた。 Amazonの 「アマゾン・ゴー」[6]はAmazonのアカウン トと連動したリアル店舗である。オンラインとリアルを テクノロジーによって融合させ,顧客情報を一元管理し, パーソナルなマーケティングを進化させようとしている。 より広域な取り組みをしているのが中国アリババグルー プである。アリババ(株)代表執行役副社長田中豊人氏 のヒアリングを行い,上海フーマフレッシュの店舗視察 (2019年9月)を実施した。アリババグループが運営す るスーパーマーケット盒馬鮮生(フーマフレッシュ)の 情報活用度は生体認証技術などでAmazonを凌ぎ,3キ ロ以内 30 分配達の宅配サービスも実現している。店舗 内には多くの集荷スタッフが携帯端末を持って待機し, 注文情報が入れば商品を素早くピックアップする。それ を天井に張り巡らされたベルトコンベアを通して配送ス タッフに渡す。ハイテクとローテクを組み合わせた宅配 システムである。これら宅配の売上が全体の 60%を占 めている。クラウド事業を通して総合的なデータプラッ トフォームを構築し,個人の消費データや金融情報も把 握している。EC,リアルの小売連携に留まらず,エン ターティメント,ファイナンス,ペイメント,ロジス ティクスなどを統合させている。両社に共通しているの はデータ活用と宅配システムにより新しい流通を築こう としている点である。 4. 牛乳販売店・新聞販売店の現状 4.1 牛乳販売店の現状と課題 牛乳販売店の店舗数は減少しているが,牛乳販売店4 社 15 店の取引データ(2017∼2019)を分析すると 1 店 あたりの販売金額は下げ止まり傾向にあることが判明し た。牛乳の販売チャネルはスーパーが主流で牛乳販売店 のシェアは元々わずかである。スーパーとの販売価格差 は大きく,対策として差別化された専用商品が開発され 健康機能を持つ商品が強化された。それが販売金額の下 げ止まり要因の一つと考えられる。確認のため顧客への アンケート調査を行った。 図 1 のアンケート調査は,牛乳販売店 A 社において 「牛乳宅配を利用しようと思った理由」を顧客に聞いた ものである。 〈アンケート調査の実施要領〉 ・調査の期間:2019年4月10日∼5月1日 ・調査の対象:A社牛乳販売店3店の3,828軒の顧客 ・調査の方法:受け箱によるアンケート方式 ・データ収集:回収標本数450(回収率11.7%) ・有効回答数:448(回収率11.7%) 最も多い回答が 「家族(自身)の健康・成長」(41.7%) であり,顧客は健康のためにサプリを飲むような感覚で 乳製品の購入をしており,一般の牛乳を購入する時の目 的とは異なるものになっている。理由の4位は「カルシ ウム強化等の宅配専門商品があるから」(21.2%)とい う回答であり,健康志向の専用商品が購入目的となって いる。 牛乳販売店はモノを運ぶだけでは価値は少なく「健康 を届ける」というコトの提供に変化することにより,存 在価値を高め,商品ラインの幅も広げている。 牛乳販売店で取り扱われる商品は幅広く9つに分類され る。①健康機能性ミルク②機能性ヨーグルト③もろみ酢 やQ10飲料などの健康飲料④とうふ,梅干しなどの日配 品⑤サプリメントなどの健康食品⑤地域特産商品⑥おせ ち料理などの催事商品⑦布団,石鹸など雑貨日用品⑧衣 料品・化粧品である。 図 2 の宅配牛乳を利用して良かったことの 3 位には 「身体が健康になったと感じる」(25.2%)といった回答 が挙げられた。これは牛乳宅配によって顧客の健康が習 (出所:筆者作成) 図1. 宅配牛乳を利用しようと思った理由(A社)

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なる。牛乳販売業は,健康支援ビジネスに生まれ変わっ ていると言える。 4.2 新聞販売店の現状と課題 日本の新聞発行部数は日本新聞協会によると,2018年 は過去最大の220万部の減少になっており,その傾向は 加速している。食い止める手立てはなく,5社のヒアリ ング調査により多くの販売店は経営が苦しくなっている ことを確認した。PC・タブレットなどのデジタル化に伴 い紙離れは急速に進み,日本経済新聞社だけでも65万人 (広報聞き取り2019年9月現在)がデジタルにシフトし ており,それは日本経済新聞社の発行部数の 28%にあ たる。 新聞販売店は全国で15,802 店(2018 年)あり,従業 員総数は286,384人になる。発行部数と同様に販売店も 減少しており,18 年度は過去最大の減少率となってい る。 る広告収入であり,この収益を使い高額な景品提供や外 部セールスマンの活用により顧客を維持してきた。近年, この折り込みチラシの受注金額が激減しており,このま までは配達網の維持が難しくなってきているのが現状で ある。 日本の新聞戸別配達システムは,地域の流通システム としてだけでなく,治安維持の観点からも優れており, 一人暮らしの老人の異変を真っ先に察知したケースもあ り,社会的なインフラとして重要な存在である。この配 達システムを維持するには,関連する牛乳などの他の商 品の取り扱いや新しいサービスなど既存の枠組みを超え た連携が求められる。 5. 牛乳販売店の受発注データの分析 牛乳販売店A社の受発注データを利用しRFM分析と マーケットバスケット分析[7]により営業戦略を検討する。 5.1 牛乳販売店のRFM分析の結果 牛乳販売店の顧客分析では短期での解約率が高く,新 規顧客獲得の営業コストが回収できていないことが判明 した。これは牛乳販売店に限ったことではないが,多く の業種において新規客獲得を優先し既存顧客へのアプ ローチは軽視されがちである。牛乳販売店にとって既存 顧客に対して適切なアプローチ策をとり解約率を減少さ せることは重要な経営課題である。まずは既存取引デー タを分析し顧客を分類し顧客を理解することから始める。 顧客分析手法の一つであるRFM分析は,Recency (最終 購入日),Frequency (購買頻度・契約期間),Monetary (購入金額)の 3 つの指標で顧客を分類し施策を立てる 手法である。 表1. RFM分析の結果(A社4店舗) 牛乳宅配の契約期間(F軸) 一月の購買金額︵ M 軸︶ 3 2 1 合計 36ヵ月 96ヵ月 A A3 1,657,918円 11.3% (213軒) A2 707,380円 4.8% (89軒) A1 2,942,218円 20.1% (383軒) A 5,307,516円 36.2% (685軒) ¥5,000 B3 1,701,546円 11.6% (440軒) B2 929,472円 6.3% (242軒) B1 3,483,386円 23.8% (911軒) B 6,114,404円 41.7% (1593軒) B ¥3,000 C3 622,141円 4.2% (274軒) C2 527,192円 3.6% (260軒) C1 2,095,211円 14.3% (1016軒) C 3,244,544円 22.1% (1550軒) C 合計 3,981,605円 27.1% (927軒) 2,164,044円 14.8% (591軒) 8,520,815円 58.1% (2310軒) 14,666,464円 100.0% (3828軒) (出所:筆者作成) (出所:筆者作成) 図2. 宅配牛乳を利用して良かったこと(A社)

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日本経営診断学会論集20 (2020) 牛乳宅配という業態の特性から,F軸とM軸の2軸の 分析となる。F軸は通常は購買頻度を表すが,牛乳宅配 の契約期間とする。M軸は一月の購買金額を示す。「A1 ランク」から「C3 ランク」まで 9 つのランクに顧客を 分類しランクごとの営業施策を検討する。 A 社は業績の良い優良企業で顧客数も多い。RFM 分 析ではロイヤルカスタマーと言えるA1ランクの軒数が 383軒あり,売上合計で2,942,218円,総売上高の20.1% を占めている。Aランク全体では36.2%の売上構成比と なり,他社と比較してAランクの顧客が多い。A社は「健 康を届ける」というモノからコトへの提案が進んだこと により,牛乳商品以外の2次商品の受注が多く,それが 客単価を高めている要因の一つだ。 A1ランクの顧客に対しては,店主自ら顧客の家を訪問 して長年のご愛顧のお礼を述べてまわった。顧客に想定 外に喜ばれ,店主が face-to-face で話を聞くことがプラ イスレスのプレミアムとなった。コミュニケーションに よりロイヤルカスタマーと店主が顔の見える関係を築い た好例である。解約率が高い3年目までの顧客に対する 対策も経営的には重要である。商品説明・健康通信チラ シの配布,骨強度の測定による健康相談などのイベント などを検討した。このように RFM 分析などにより 9 つ の顧客ランクの実情にあった戦略を策定することが可能 になる。 5.2 牛乳販売店のマーケットバスケット分析の結果 牛乳販売店には多くのデータが存在するが,データが マーケティングに活用されておらず,全戸一律のプロ モーションがなされている。ターゲットに合わせたプロ モーションができれば無駄なコストを減らし,売上効果 も上げることが可能になるはずである。 片岡・森田[8]はドラックストアの店舗において優良顧 客群に共通する購買商品が存在するなら,優良顧客の離 脱に影響する一つの要因であると説明した。 RMF分析のA1顧客群に最も購入されている商品は健 康機能牛乳である。カルシウム機能が強化された商品で 高齢者に支持されている。この商品と関連性の高い商品 は何か。併買分析によって,ある商品と別の商品との購 買に関する関係性(相関ルール)を見いだし,クロスセ ルなどの客単価を上げるためのヒントを得る。これは一 般的にはマーケットバスケット分析と言われる。 図3の数値は,リフト値を示しており,リフト値は1を 超えると商品同士の関連性が高いことを意味する。 健康機能牛乳を買う顧客はグルコサミンも同時に購入 する確率が高く,健康機能牛乳は機能性ヨーグルトや飲 むヨーグルトとの関係性は弱い。機能性ヨーグルトと飲 むヨーグルトの関係性はさらに弱くなる。まずは健康機 能牛乳を購入した顧客にグルコサミンの併買を促進させ るために,健康機能牛乳を購入している方にグルコサミ ンのサンプルを提供する併買キャンペーンを計画した。 このようにマーケットバスケット分析を使い,ターゲッ トを決めることでプロモーション策の効果を高めていく ことが可能になる。 6. 牛乳販売店のCSポートフォリオ分析[9]の結果 取引データの分析はあくまで結果に基づいたものであ り,購買の理由や背景まではわからない。アンケート調 査で顧客の声を直接聞くことにより,配達員が把握でき ていない顧客の属性情報(家族構成・年代など)や購買 理由を理解し,家族構成に則した戸別のアプローチを行 う。 CSポートフォリオ分析は,アンケート分析で満足度, 重要度を定量化し顧客満足度を図解する手法である。質 問項目ごとの単純集計だけでなく,それぞれの重要度も 加味した質問で,全体満足への影響度を分析する。それ により自社の強みや,優先課題を認識していく。縦軸に 顧客満足度,横軸に顧客が重要視している度合いを示 す。 表の右下に位置する項目は顧客が重要視しているが, 現状の満足度が低い項目で「優先改善項目」と位置づけ することができる。右上は顧客の満足度が高く,重要度 が高い項目であり「重点維持項目」となる。左上は顧客 の重要度が比較的低いものの,満足度が高い項目であり 「維持項目」となる。左下は顧客の満足度が低く,顧客 も重要視していない項目であり「改善項目」とする。 牛乳販売店A社が優先して取り組まなければいけない ことは優先改善項目の「コミュニケーション」になる。 A社はコミュニケーションの重要性は認識しており教育 に取り組んでいるが,配達は早朝の時間帯であり,顧客 と接するのは集金時のみである。配達効率を考えると朝 の配達時間をすぐには変更できないが,一部の店舗で昼 の配達の実験を始めた。CSポートフォリオ分析により 「コミュニケーション」の重要性を再認識したからであ る。昼の時間の配達に変更することで顧客とのコミュニ ケーションができる機会が増えただけでなく,人材の採 用もしやすくなってきている。 (出所:筆者作成) 図3. 受発注データのマーケットバスケット分析(A社)

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7. jSTAT MAP[10]による商圏分析の結果

牛乳販売は新聞販売と違い販売テリトリーの制限がな いため,商圏は自ら決められる。jSTAT MAPを使い時 間距離を入れて自店の商圏を確認する。

jSTAT MAP は政府統計の総合窓口(e-Stat)が提供 する地理情報システムである。無料で利用できるシステ ムであるが,流通企業での活用例は少ない。このシステ ムでは,顧客住所(CSV)を取り込み,その住所をプロッ トし,商圏(エリア)の作成が可能であり,地図に統計 データを重ね合わせて表示し,商圏分析をすることがで きる。商圏内の人口構成,性別,事業所などの事実情報 に基づく営業戦略や販売促進の計画を立てることが可能 になる。 小売業は立地が売上に大きな影響を与えるため,新店 の売上予測システムには多額なコストをかけて開発す る。jSTAT MAPは新店の売上予測には向かないが,既 存店の商圏把握には便利であり,顧客データがあれば簡 単に入力することができる。行政の持つ町丁目データや 他のメッシュデータなどを取り込むことも可能である。 図 5, 6 は牛乳販売店 B 社(首都圏)の顧客を jSTAT MAPでプロットした事例である。 商圏の特徴を可視化することによって営業の施策が検 討しやすくなった。図5では14歳以下の人口の割合が多 い地区を把握し営業施策を検討した。具体的には若年層 向けの機能性ヨーグルトや母親をターゲットにしたコラー ゲン配合の美容系飲料のサンプリングなどを計画した。 図6は65歳以上の人口の割合が多い地区と顧客プロッ トである。対象人口が多いエリアには骨粗鬆症防止のた めのカルシウム強化の商品のサンプリングを実施しさら に骨密度測定器による骨強度測定会のイベント会を計画 した。 このイベント会が好評であるため,さらに地域の老人 施設へ出向いての開催も検討した。このような場合も jSTAT MAPに老人施設のデータを取り込み,地図情報 で訪問のルートを検討することが可能であり,さまざま な活用法がある。 8. 新聞販売店の牛乳販売の事例 新聞販売店B社は,独自の手法で牛乳販売を取り組み 始めた企業であり,新聞と牛乳を同時に配達している。 業界としては稀なケースであり,顧客満足と配達効率の 同時実現を可能にしている。 B社がもともと新聞販売店の顧客サービスで始めたの が「まごころサポート」である。30 分 500 円で,顧客 のちょっとした困りごとを解決する。例えば高いところ の電球交換,窓ふき,お風呂掃除,家の中の掃除,草刈 り,落ち葉掃除,お買い物代行などであり,特にお年寄 りに喜ばれてきた。今ではリピーターも増え,なかには 「B 社があるから元気で過ごせるわ」と言ってくださる 顧客もいる。シニアのそばで,シニアに寄り添い,シニ アの声に耳を傾けることを大切にしてきた。お客様の笑 顔が,スタッフのモチベーションになり原動力になると (出所:筆者作成) 図4. CSポートフォリオ分析(n=448) 図5. B社の顧客分布(14歳以下の人口の割合) (出所:筆者作成) 図6. B社の商圏分析(65歳以上の人口の割合) (出所:筆者作成) 図7. 商圏内にある老人施設のプロット

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日本経営診断学会論集20 (2020) 店主は話す。 顧客とさらに寄り添いたいという想いを持ち「まごこ ろ健康サポート事業」もスタートした。これは認知症予 防・老化予防をテーマとし,現役医師からの動画による 指導などを行い,健康維持のための運動やリクレーショ ンの時間を提供している。これらの取り組みはスポット 的な位置づけであったが,これを継続的な形にしたいと いう思いで牛乳宅配を始めた。顧客に「健康を届ける」 ビジネスである。「心」があってこそ「モノ」と「コト」 の価値が生き,ビジネスとしても付加価値がでてくる。 これらの事業により,販売店が情報のハブ的な機能を持 ち始めることになる。 乳製品は新聞配達員が夕刊と同時に配達するが,これ は新聞販売店の夕刊の部数が減少傾向にあり,人員に余 裕があるために可能になっている。配達のバイクには乳 製品 10 軒分程度の積載が可能で,軽量で新聞配達の妨 げとならない発泡スチロールボックスを後部荷台に固定 している。かつては積載量に有意な3輪スクーターを利 用していたこともあるが,故障が頻発したため,現在は 新聞配達用のバイクを使用している。 新聞配達の強みを牛乳販売に結びつけ,新たな社会的 価値として「健康」と「安心」を地域の顧客に届けてい る。従来とは異なる形で異業種が連携し人間の想いが掛 け合わされた事例と言える。 9. 結語 牛乳販売店の経営診断において①受発注データを利用 したRFM分析,マーケットバスケット分析②顧客アン ケートによる CS ポートフォリオ分析③ jSTAT MAP の 活用による商圏分析が総合的に活用できることを確認し た。 顧客の生活を支える地域の流通業が生き残るには,既 存の顧客データを見直し,よりハイタッチな心の通い合 う関係作りを志向することが一つの方法である。 CSポートフォリオ分析で明らかになったように,顧 客はコミュニケーションを求めている。「モノ」から「コ ト」の提案になれば,なおのことコミュニケーションの 質を高めていく必要がある。企業と顧客が対話や交流の 中で,「コト」の要素に「心」が入ることによって,顧 客との信頼関係が生まれる。ECと差別化するうえで考 慮すべきことだ。 世の中では顧客データを取得するための競争が激化し ており莫大な投資がなされている。データを持っただけ では意味がなく,データを活かすためにどのようなビジ ネスモデルを設計していくかが重要である。 伝統的な流通業にはデータが蓄積されていない企業も 多く存在する。本論ではそれらの企業がどのような手法 で生き残るかは示せていない。今後の研究課題である。 新たな企業の診断に取り組み研究を継続していきたい。 謝辞 本論文の執筆にあたり,経営診断および取材にご協力 くださった牛乳販売店,乳業メーカー,新聞販売店,新 聞社の各社,また関東部会でご助言いただきました岡田 匡令先生,新井信裕先生に心から感謝申し上げます。 参考文献 [1] 新井信裕「コンサルティング・サイエンスへの進化提 言:経営診断の新たな展開を提言する」『日本経営診断 学会論集』Vol. 18, pp. 104–108, 2019. [2] 青山一郎・松井邦憲「新聞販売店と地域貢献:可能性 と課題」『日本地域政策研究』Vol. 15, pp. 64–69, 2015. [3] 野口武悟「被災地における新聞販売店を活用した地域 情報提モデルの検討(岡野H. 圭一教授 退職記念号)」 『専修人文論集』Vol. 90, pp. 189–201, 2012. [4] 全国牛乳流通改善協会『牛乳販売店の優良事例集 No. 20–No. 29』,2008–2017. [5] 江原 淳「「無人店舗」は業態を変えるか?:米国と中 国の事例から」『専修ネットワーク&インフォメーショ ン』Vol. 27, pp. 15–19, 2019. [6] 郡司 昇「無人店舗アマゾン・ゴーが示す「未来」顧客 視点でのIT化を目指せ(日本経済予測2019)」『エコノ ミスト』Vol. 96, No. 50, pp. 82–83, 2018. [7] 下山 禎「マーケットバスケット分析システムとその 適用事例」 『東北農業研究』 Vol. 60, pp. 243–244, 2007. [8] 片岡弘貴・森田裕之「異常検知を利用した優良顧客離脱 予測モデル」『経営情報学会 全国研究発表大会要旨集 2011』,p. 78, 2011. [9] 並木雄二 「コンビニ業界の現状と未来」 『流通情報』 Vol. 51, No. 4, pp. 25–31, 2019. [10] 羽淵達志・駒形仁美「地図で見る統計(jSTAT MAP) について」 『情報の科学と技術』 Vol. 69, No. 6, pp. 244– 249, 2019.

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New Trend of Retail Business and Possibility of Traditional Retail Business:

Management Diagnosis and Utilization of Delivery Sales Industry

Yuji Namiki*

Hosei University, Tokyo

*[email protected]

Abstract: Advances in technology and digital technology are changing the future of retail business. EC giants Amazon and Alibaba are involved in the real retail business and are trying to centrally control and control customer data. Custom-er data is an important management resource for the retail business, and the regional retail business must first use this customer data to change its approach to customers. The goal is to create a high-touch, communicative relationship based on analysis. This section presents examples of data analysis methods and utilization that are considered to be effective based on management diagnosis of newspaper and milk sales businesses. There are three analysis methods: (1) trade area analysis using jSTAT MAP, (2) RFM analysis and market basket analysis using order data, and (3) CS portfolio analysis using customer questionnaire.

Key Words: data analysis and utilization, management diagnosis of newspaper and milk sales business, retail business,

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