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フィルム映像のデジタル化における色の再現について

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Academic year: 2021

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1.序 国立映画アーカイブでは,歴史的に重要なフィルムの色を 再現することを目的に,種々の取り組みを行っている.過去 に制作されたフィルム映画を,製作当時の色で再現すること は,監督やカメラマン等のクリエーターの考えを知るうえで 重要である.これまで,映画はフィルムの複製を作成するこ とにより,その復元と保存を行ってきたが,現在ではこれを, デジタル技術を用いて行う方法が普及している.映画フィル ムをデジタル化する場合には,各種スキャナを用いることが 一般的だが,得られるデータはスキャナ依存性が有り,フィ ルムの色がどのように数値化されるかはブラックボックスと なっている.また,現在の進んだ技術で復元すると,当時と は異なる色再現が行われる可能性が生じる.さらに,グレー ディングに際して,立ち合い者やグレーダーの主観的な調整 により色再現が行われる場合もあり,定量的な指針がないの が現状である. そこで,本稿では,残存する映画フィルムに記録されてい る画像のスペクトルを、主成分分析(Principle Component Analysis 以後 PCA と略記する)の手法を用いて,スキャニ ングにより作成したデジタルデータから再現することによ り,元のフィルムと等しい色をデジタル上で復元する手法の 開発を試みた結果について述べる. 2.基礎的なお話 具体的な色再現方法の説明の前に,そもそも色とはどのよ うにとらえたらよいのかについて考える. <電磁波としての光と可視光線> 色とは,物質に反射したり,物質を透過したりして入射し た光に人間の目が反応して感じるものである.その光とは電 磁波である.電磁波は電場と磁場の波であり,波長を有して いる(Fig. 1 参照).波長が短い(振動数が大きい)ほどエ ネルギーは高く,波長が長い(振動数が小さい)ほどエネル ギーは低い.この電磁波を人間は全て感じることができるの で は な く, 特 定 の 波 長,380 ナ ノ メ ー ト ル(nm) か ら 780 nm 程度を視覚で感じることができる.これが可視光線 である.ナノメートルとは 1 mm の 100 万分の 1 の長さであ る.個人や年齢,人種によってもどの範囲の波長を感じるこ とができるかは異なると推定されるが,前述の範囲が通常, 可視光線の領域とされている.波長の短い側から,紫,藍,青, 緑,黄,橙,赤の色となり,紫光より短い波長の電磁波が紫 外線であり,さらに波長が短くなると X 線,γ線となる. また,赤光より長い波長の電磁波が赤外線であり,さらに波 長が長くなると電波となる(Fig. 2 参照).ちなみに太陽光 に含まれている電磁波のエネルギー分布を Fig. 3 に示した. ほとんどは可視光線と赤外線であり,紫外線は 4% 程度であ * **

令和 2 年 1 月 10 日受付・受理 Received and accepted 10th January, 2020 国立映画アーカイブ 東京都中央区京橋 3-7-6

National Film Archive of Japan 3-7-6, Kyobashi, Chuo-ku, Tokyo 104-0031 Japan 富士フイルム株式会社 神奈川県足柄上郡開成町宮台 798

FUJI FILM Corporation 798, Miyanodai, Kaiseimachi, ashigarakamigun, Kanagawa, Japan

フィルム映像のデジタル化における色の再現について

Digital Reproduction of Color in Motion Picture Film

大 関 勝 久

・山 田   誠

**

Katsuhisa O

hzeki*

, Makoto Y

amada**

要 旨 保存しているリバーサルフィルムの分光スペクトルを測定し,その主成分分析(PCA)により,分光器により測定したス ペクトルと等しい分光スペクトルを,スキャニングにより得たデジタルデータから再現できた.映写環境を考慮すること で,再現された分光スペクトルから,フィルム映写と等しい色再現が可能となる.

Abstract Spectra of color in motion picture film were measured. The spectra were reproduced from scanned data based on

principle component analysis. Taking projection condition into consideration, authentic reproduction of color in film is performed using the reproduced spectra.

キーワード:色再現,主成分分析,映画フィルム,デジタル化,スキャニング,リバーサルフィルム

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る.ただし,紫外線のエネルギーは高いので目や皮膚への影 響は大きい. Fig. 2 では,波長(横軸)に対して種々の色が示してある. これは単色光(単一波長もしくは非常に狭い波長範囲の光) に対して示したものである.(Fig. 2 は白黒印刷のため色が 濃淡でしか表されていない.以下の波長と色の大まかな関係 を参照されたい.) 紫〜藍 380-450 nm 藍〜青 450-495 nm 緑   495-570 nm 黄   570-590 nm 橙   590-620 nm 赤   620-750 nm <物質の光吸収と色> 一方,実際の色は通常,種々の波長の可視光線が種々の割 合で混じりあっている.Fig. 4 にカラーチャートを撮影した リバーサルフィルムの各色部分の吸収スペクトルを示した. 吸収スペクトルとは,入射した光を物体がどの程度吸収する か,波長に対して示したものである.例えば Fig. 4 左の青い 部分(B と表示)は,緑から赤の光を多く吸収するため青く 見える.このように,物体の色とはその物体がどの波長の可 視光をどの程度吸収するかに依存する.吸収されないで反射 したり,透過したりした光が目に入射し,色として認識され る.(厳密には吸収以外に光散乱により,反射光や透過光は 減少する.)一般に,光吸収,光反射,光散乱等の波長依存 Fig. 1 電磁波 h t t p s : / / s e a r c h . y a h o o . c o . j p / i m a g e / s e a r c h ? r k - f=2&ei=UTF-8&p=%E9%9B%BB%E7%A3%81%E6%B3%A2#-mode%3Ddetail%26index%3D26%26st%3D1000 Fig. 2 電磁波の種類 https://search.yahoo.co.jp/image/search?rkf=2&ei=UTF-8&p=%E5% 8F%AF%E8%A6%96%E5%85%89%E7%B7%9A#mode%3Dde-tail%26index%3D3%26st%3D72 Fig. 4 カラーチャートを撮影したリバーサルフィルム(左)とその分光吸収スペクトル(右)

Fig. 3 太陽光のエネルギー分布(AM;Air Mass) http://denkou.cdx.jp/Opt/PVC01/PVCF1_4.html

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性を示したものを分光スペクトルという.例えば,反射の場 合は,分光反射スペクトルあるいは単に反射スペクトルとい う. <色の認識と定義> 同じ物体であっても,どのような光源の下で観測するかに よって,認識される色は異なる.Fig. 5 に示すように,反射 スペクトルが R(λ)であらわされる物体であっても,S(λ) のような分光スペクトルを示す光源下で観測すると,目に入 射するシグナルは両者の掛け合わせとなる.これが色刺激で ある. さらに,この刺激に対して,目がどのように感じるかで最 終的に色が認識される.前述のように,この感じ方は個人間 で異なる.そこで,標準的な人間,測色標準観察者が国際照 明 委 員 会(Commission internationale de l’éclairage:CIE) によって決められた(CIE1931/CIE1964).この測色標準観 察者が各波長の可視光をどのように感じるかを数値化したも のが等色関数である(Fig. 6 参照).このように定義された 等色関数 x(λ),y(λ),z(λ)を用いて,光源の分光スペク トル S(λ)および物体の分光反射スペクトル(反射率)R(λ) とから下記式 1 により,測色標準観察者が感じる三刺激値 X, Y,Z が定義される.式中 k は定数である. X=k・ ∫380 780 S(λ)・R(λ)・x(λ)dλ Z=k・ ∫780S(λ)・R(λ)・z(λ)dλ この三刺激値 X,Y,Z を用いて正規化した値 x,y およ び z が得られる(下記式 2 参照).これらの値のうち x,y を用いて定義されるのが CIE xy 色度である. x=X/(X+Y+Z) y=Y/(X+Y+Z) 式 2 z=Z/(X+Y+Z) 3.フィルムに残された色のデジタル再現 通常,フィルムのデジタル化はスキャナによって行われる. 物体としてのフィルムには光源からの光が入射し,フィルム を透過した光がスキャナのセンサーにより測定されて,R,G, B の 3 つの数値となる.先にも述べたが,この値が正しくフィ ルムの色を再現しているかは不明である.そこで,フィルム に残された色の分光スペクトルを測定し,デジタル化しても そのスペクトルが正しく再現される手法の開発を試みた.分 光スペクトルが再現されれば,フィルムの色が正しく再現さ れたこととなる.ここでは PCA の手法を用いた1-3) PCA とは統計処理的な手法であり,一般的なものである. 分布する多くのデータから,分散の大きい方向を抽出して, 主成分を求める.その主成分を用いることにより、元のデー タを表現することができる.フィルムの色は通常,シアン, マゼンタおよびイエローの 3 種類の色素によって形成されて いるので,フィルムの分光スペクトルに対して PCA を行う と,第 1 から第 3 までの 3 つの主成分で,全ての色をほぼ表 現できる.例えばフィルムの分光透過率(スペクトル)T(λ) の場合,3 つの主成分 V(λ),V1 (λ),V2 (λ)を用いて,3 下記式 3 のように表すことができる. T(λ)=10-D(λ) 式 3 D(λ)=aV(λ)+bV1 (λ)+cV2 (λ)3 ;フィルムの分光透過濃度     a,b,c は係数 最初に,市販のカラーリバーサルフィルムに,カラーチャー トを撮影,現像し,ポジ画像をフィルム上に得た.このポジ Fig. 5  色刺激.刺激(シグナル)としての色は,光源の分光分布(S (λ))と物体の反射率(R(λ))で決定される. Fig. 6 等色関数 koshinran.hateblo.jp/entry/2019/01/23/234728 Fig. 7 スキャナによるデジタル化

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画像を用いて,本手法の妥当性を検証した.検証のワークフ ローを Fig. 8 に示す.カラーチャートを撮影したフィルムの 分光透過スペクトルを,分光器を用いて測定した後,分光透 過スペクトルを 2 mmφのアパーチャーを通して,380 nm〜 780 nm の範囲で測定した.得られた分光透過スペクトルデー タに対して,PCA を行い,第 1 から第 3 主成分(V1,V2,V3) までを求めた.得られた成分の累積寄与率は 99.9% であった. 次に,フィルムを 4K スキャンし,得られた R,G,B 出 力値から,スキャナが感じた露光量 Ei(i=r,g,b)を求めた. 一方,スキャナの分光感度の初期値を仮定し,フィルムの分 光透過率と仮定したスキャナ分光感度を掛け合わせて計算的 に得られる露光量を求め,両者の露光量の差が最小となるよ うにスキャナの分光感度 Si(λ)を逐次近似で求めた.さらに, 主成分を用いて各色のデータに基づく分光透過率を式 4 に 従って算出し,これを T′(λ)とした.実際に測定したフィ ルムの分光スペクトル T(λ)と算出した T′(λ)とを比較 して,色再現結果を検証した.結果を Fig. 9 に示す.実線が 前者で,破線が後者である.分光器で測定したフィルムの分 光透過スペクトルとデジタル化後の分光透過スペクトル T′ (λ)は良く一致した. Fig. 8 分光スペクトル再現の検証実験ワークフロー Ei=∫380780 T′(λ)・S(λ)dλ   i=r,g,b i 式 4   T′(λ)=10-D(λ)   D(λ)=aV(λ)+bV1 (λ)+cV2 (λ); フィルムの分光3 透過濃度   Vj(λ);主成分  j=1,2,3   S(λ);スキャナの分光感度i また,分光測定したスペクトルとデジタル復元したスペク トルから L*a*b* 値を求め,色差ΔE(CIE19764))を計算した 結果,カラーチャートを撮影したフィルム 24 色の平均色差 はΔE=1.3 であり,高い精度で色再現ができた.分光スペク トルが再現できているので当然の結果といえる.これらの結 果は,スキャナの分光感度が精度よく推定できており,スキャ Fig. 9 カラーチャートの分光透過スペクトルの比較   実線;分光器により測定されたフィルムの分光透 過スペクトル   点線;スキャナ出力から,主成分分析を用いて算 出した分光透過スペクトル Fig. 10 カラーチャート L*a*b* 値の比較  Δ Eab = 1.28   矢印の始点は分光測定値を,矢印の終 点は主成分分析に基づく再現値を示す. Fig. 11  『鎌倉カーニバル』のスペクトル測定.図中の円は実際のフィ ルム上では直径 2 mm である.このような点を 38 点選び, その分光透過スペクトルを測定した.

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積もられていることを示している. 次に,実際の映画フィルム「鎌倉カーニバル」(1951 年制作, 約2分45秒,富士写真フイルム社製外型カラーポジフィルム, 支持体はナイトレート)について,なるべく単色と思われる 部分 38 点について,分光透過スペクトルを測定した.測定 点の例を Fig. 11 に示した.得られた分光透過率データに対 して PCA を行い,第 3 主成分までを求めた.累積寄与率は 99.3% であった.これら主成分を用いて,カラーチャートの 場合と同様に,画像中の各点の分光透過率 T(λ)を算出した. 算出した T(λ)と実際に測定したフィルムの分光スペクト ルを比較して Fig. 12 に示した.スペクトル形状の一致はカ ラーチャートの場合(Fig. 9)に比較して劣った.この原因 はスペクトル測定にあると考えられる.すなわち,今回スペ クトル測定をした実際の映像では,完全に単色の部分を選定 することが困難で,一部は混色した部分の測定となった.こ 径を 2 mm としたこと,映像が 3 分弱と短く測定できる映像 が限定されたためである.また,同様の原因で,測定色域が やや限定された.スペクトル測定の精度を上げ,アパーチャー 径をより小サイズにしてより単色の部分を測定すること,お よびより広範囲の色域を測定することにより,PCA の精度 が向上し,スペクトル再現性が良化すると考えられる.カラー チャートの場合に比較してスペクトルの再現性は劣るもの の,推定した分光透過率から計算された測色値 L*a*b* と実 際のフィルムの分光透過率から算出した測色値 L*a*b* から 求めた色度差は,測定した 38 点についてΔEab=4.3 であり, 色再現性としては良好であった.この結果を Fig. 13 に示し た.Fig. 13 には比較のために,通常のグレーディングを行っ た場合と分光測定して得られた色度の差を併せて示した.通 常グレーディングの際には,特に映像の色情報は提供してい ない.グレーディングにより空は鮮やかな青空に仕上がった が,38 点の部分の平均色度差はΔEab=13.3 であり,元のフィ ルムの色との差は大きくなった.フィルムを上映して参考に しながらグレーディングを行えば,色度差は低減できると考 えられるが,そのためには試写室等の大きな設備が必要とな り、また、試写条件に依存することになる.今回開発した方 法は,計算によって分光スペクトルを再現するものであり, 効率的かつ色の忠実性が担保されている点が優れているとい える. 4.上映データの作成 実際に上映用映写機に提供するためのデータは,以下のよ うに行った. ・ 映像全体について,スキャナの R,G,B 値から,PCA に基 づいて,色再現データを作成した.この時点で物体として Fig. 12 『鎌倉カーニバル』の映像中のスペクトルの比較  実線:分光測定値,  点線:主成分分析に基づく再現値

(a)

(b)

Fig. 13 『鎌倉カーニバル』の映像の L*a*b* 値の比較(Rec.709,γ= 2.2)  矢印の始点:分光測定値

 矢印の終点:デジタル再現値

 (a):主成分分析に基づく再現値,Δ Eab = 4.3  (b):通常グレーディング結果,Δ Eab = 13.3

(6)

のフィルムの色が再現されている. ・ このフィルムを映写するための環境として,国立映画アー カイブ大ホールを想定し,この大ホールにおいて,映写機 の光源特性を踏まえたスクリーンの反射率を測定した. ・ PCA に基づいて作成した色再現データに対して,上記映 写環境を考慮した変換を加えて LUT(Look up Table)を 作成し,画像データを得た.最終的データとしては,試写 用に mov ファイル(REC.709),上映用に DCP(Digital

Cinema Package)(DCIP3)を作成した.これらのワーク フローを Fig. 14 に示した. まとめ ・ 残存するフィルムのスペクトルの主成分分析から,フィル ムの分光スペクトルを精度よく再現する方法を開発した. ・ 上記結果を用いて,日本初のフルカラー外型リバーサル フィルム(ナイトレート)で撮影された『鎌倉カーニバル』 のデジタル色復元を行った.その結果,フィルムの分光ス ペクトルから得られる測色値を良い精度で再現することが できた. 参 考 文 献 1) N. Ohta, Anal.Chem., 45, 553(1973). 2) 大田登,高橋公治,日本写真学会誌,36 巻,p291(1973). 3) 大田登,高橋公治,日本写真学会誌,38 巻,p284(1975). 4) ISO 11664-4:Colorimetry-Part4. Fig. 14  外型ポジフィルム画像『鎌倉カーニバル』の色再現ワークフ ロー

Fig. 3 太陽光のエネルギー分布(AM;Air Mass)
Fig. 13 『鎌倉カーニバル』の映像の L*a*b* 値の比較(Rec.709,γ= 2.2)

参照

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