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竹原市に生育する希少な植物

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Academic year: 2021

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竹原市に生育する希少な植物

大沼 みお

*1

,藤冨 信之

*2

Rare and Endangered Plants of Takehara

Mio OHNUMA and

Nobuyuki FUJITOMI

The previous “Rare and Endangered plants of Osakikamijima-cho I, II”and “Rare Woody Plants of Osakikamijima” reported the herbaceous plants on this island from the point of view of biodiversity conservation. A protective activities of Hypericum oliganthum and Sparganium erectum mentioned in those papers is going on now. This paper reports rare plants growing in Takehara, which is geographically near this island and its most closely related living area.

KEYWORDS:Takehara, biodiversity, rare species, protect, environment,wetland,paddy field

1.はじめに

これまでに筆者らは生物多様性の立場から,2015 年から大崎上島の植物調査を始め,2017 年から 2019 年にかけて「大崎上島希少植物Ⅰ」(1)「大崎 上島希少植物Ⅱ」(2)「大崎上島の希少な木本植物」 (3)に結果を報告している。この調査で確認され,広 島県内では大崎上島だけに生育していると考えられ るアゼオトギリ,コギシギシやオオミクリなどにつ いては保護活動もおこなっている。本稿では,引き 続き大崎上島に地理的に最も近く,生活圏内でもあ る竹原市の希少植物について調査したので報告する。 -

2.調査地域の概要と調査結果

竹原市は広島県の中南部に位置する人口約24000 人,面積約118 km2の小規模な都市である。地理的 には北の賀茂台地から市の中央部を経て南の瀬戸内 海に賀茂川が流れ込んでいる。平野部はこの賀茂川 沿いと海浜を干拓した南部の瀬戸内海に沿って点在 している。最高点は北西部の洞山(544 m)で,南 部の海岸線まで山地が続き,谷あいから多数の小さ い河川が瀬戸内海に流れ込んでいるが,瀬戸内小気 候区(年平均気温約15℃,年間雨量約 1500 mm) に属し,少雨なことから流量は少なく,夏季にはよ く枯渇する。地質は地域のほとんどが花崗岩と流紋 岩で,竹原町と小梨町一部でわずかに石灰岩を含む 古生層が見られ,賀茂川周辺と海岸線は,堆積層で ある(4)。竹原市の植生は古くから山中の平坦地や谷 あいの谷地にも人手が入り,耕作地として活用され, また塩田による製塩業が盛んで,これに必要な木材 が周囲の山から切り出されたこともあり,現在は植 林地を除いて,カシ類や竹を中心とした二次林が大 部分を占める。Fig. 1 に竹原市域図を示す。 Fig. 1 竹原市域図 地図上の地名は竹原市の行政区分上の町名であるが, 仁賀町は面積が大きいため,小字の上仁賀は分離し て表記している。調査は2016 年から 2019 年にかけ *1 一般教科 *2 電子制御工学科  令和元年12月17日受理

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- 2 - て市内全域を対象におこなったもので,すでに市内 で絶滅したものについては2015 年のもの含まれて いる。 2.1 調査結果 調査結果を表にまとめて,Table 2 に示す。和名を 五十音順にならべて,その植物の科名,学名,広島 県と環境省のレッドデータブック(RDB)(5)(6)での ランク記号,生育している竹原市内の町名,生育環 境を示す生育場所,それから保護の必要性をランク 分けして表した。環境省のランク分けをTable 1 に 示す。なお,広島県のランクでは,環境省の絶滅危 惧ⅠA類とⅠB類を区別せずに1つのランクとして, 絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)として表記され,情報不足 (DD)についても,広島県では要注意(AN)とし ている。 Table 1 絶滅危惧種ランク記号(環境省) 記号 CR 絶滅危惧ⅠA類:ごく近い将来におけ る野生での絶滅の危険性が極めて高い もの EN 絶滅危惧ⅠB類:ⅠA 類ほどではない が,近い将来に野生絶滅の危険性が高 いもの VU 絶滅危惧Ⅱ類:絶滅の危険が増大して いる種 NT 準絶滅危惧種:生息条件の変化によっ ては「絶滅危惧」 に移行する可能性の ある種 DD 情報不足:自然特性から保護が必要と 考えられるが,判定する情報がたりな いもの このTable 2 に示した希少植物は 37 種類で,広島県 の RDB に準じたランク分けでは絶滅危惧Ⅰ類 (CR+EN)に 2 種,絶滅危惧Ⅱ類(VU)に 3 種, 準絶滅危惧種(NT)に 14 種,要注意(AN)に 3 種で,全体で22 種の植物を確認したが,このうち, ハマウツボは市内で絶滅した。他の15 種については, 環境省のRDB に記載されている種や広島県内と竹 原市の生育状態からみて,希少と考えられる種を選 択して記載した。保護の必要性の項目は竹原市内の 生育環境の今後の変化の変遷を考慮して,保護対策 の緊急性を必要とする順にA,B,C の 3 段階に分けて 表示した。 2.2 竹原市の注目すべき希少な植物 (1) デンジソウ デンジソウ科 Marsilea quadrifolia シダ科の夏緑性の多年草で,日当たりのよい水田 や休耕田,用水路などの水辺に生育する。浅い水中 では浮葉性と抽水性の性質がある。根茎は泥土の上 を長く這い,多数のひげ根を泥中に伸ばす。根茎の 節から1 個ずつ,長さ 5~20 cm の葉柄を出し,そ の先に扇状の小葉を4 枚,クローバーのように並べ た葉をつける。和名はこの小葉の配置が田の字に似 ていることに由来している。小葉は日中は平開し夜 は閉じる,就眠運動をする。夏から秋にかけて胞子 嚢果を葉柄基部近くから出た短い枝に 1~3 個つけ る。分布は北海道,本州,四国,九州,南西諸島, 東アジアまで広く分布する(7)(8) 竹原市では,高崎町の水田や休耕田,用水路の傍 らに他の背丈の低い水田雑草と混在して生育してい る。Fig. 2 は涸れた用水路の中に生育しているデン ジソウである。類似種にナンゴクデンジソウがある が,ここの個体は葉柄基部の少し上から胞子嚢果の 果柄が出ているデンジソウである。10 年ほど前から 休耕田が増加して,生育環境が狭められてきたが, さらに 2018 年に休耕田が太陽光発電施設や大規模 な畑作地に変わり乾燥化したため,絶滅が避けられ ない状況になっている。 Fig. 2 デンジソウ

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- 3 - Table 2 竹原市の稀少植物(1) 和名 科名 RDB カテゴリー 生育地域 生育場所・備考 保 護 の 必要性* 学名 広島県 環境省 アマナ Tulipa edulis ユリ 仁賀 水田の畔 B イヌノフグリ Veronica polita var.

lilacina ゴマノハグサ VU 竹原 高崎 墓地や路傍 B ウマノスズクサ Aristolochia debilis ウマノスズクサ 下野 山道の路傍 C ウラギク Aster tripolium キク NT NT 吉名竹原 汽水池の畔 C ウンヌケモドキ Eulalia quadrinervis イネ NT 高崎忠海 乾燥した尾根の裸地 C エビネ Calanthe discolor ラン NT NT 東野 暗い林中 B オオアカウキクサ

Veronica polita var. lilacina アカウキクサ NT NT 高崎 水田,アゾラとの 区別困難(市内絶滅) D カワヂシャ Veronica undulata ゴマノハグサ AN NT 東野高崎 耕作地の用水路 C カワツルモ

Ruppia rostellata Koch ヒルムシロ CR+EN NT 高崎 阿波島の廃棄溜池 A ケシュンジュガヤ

Scleria rugosa R.Br. カヤツリグサ NT 上仁賀 山中の湿地 A ゲンカイツツジ

Rhododendron mucronulatum Turcz.

var. ciliatum Nakai

ツツジ NT NT 高崎 忠海 路傍や日当たりの よい山の尾根 C コアマモ Zostera japonica アマモ 竹原 河口の泥砂土 C コウホネ Cephalanthera erecta スイレン 東野 溜池 B コオニユリ

Lilium leichtlinii var.

tigrinum ユリ 高崎 竹原 阿波島,路傍 C コシオガマ Phtheirospermum japonicum ハマウツボ 竹原 竹原の海崖 B サクラタデ Persicariaconspicua タデ 東野 休耕田や用水路の傍 B サクラバハンノキ Alnus traveculosa Hand.-Mazz. カバノキ NT NT 田万里 山中の湿地 B サギソウ Pecteilis radiata ラン VU NT 田万里仁賀 山中の湿地 B サンヨウアオイ Heterotropa hexaloba ウマノスズクサ 高崎仁賀 林中の日陰部 C シオクグ Carex scabrifolia カヤツリグサ NT 吉名 塩性池の畔 C

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- 4 - Table 2 竹原市の稀少植物(2) 和名 科名 RDBカテゴリー 生育地域 生育地・備考 保護の 必要性* 学名 広島県 環境省 スズメハコベ Microcarpaea minima ゴマノハグサ NT VU 仁賀 水田 A スブタ Heterotropa hexaloba トチカガミ NT VU 東野 溜池 A ツメレンゲ Orostachys japonica ベンケイソウ AN NT 竹原 寺社の石垣や岸壁 C デンジソウ

Marsilea quadrifolia デンジソウ CR+EN VU 高崎 水田 A ノシラン Ophiopogon jaburan ユリ NT 竹原 海岸にある林中(逸出の可能性) C ハマウツボ Orobanche coerulescens ハマウツボ NT VU 高崎 寄生(市内絶滅)海浜・カワラヨモギに D ハマゴウ Vitex rotundifolia シソ AN NT 高崎竹原 海岸の砂浜 C ハマサジ Limonium terragonum イソマツ NT NT 竹原忠海 海岸の塩性湿地 C ヒナノカンザシ Salomonia oblongifolia ヒメハギ VU 上仁賀 山中の湿地 A ヒメミズワラビ Ceratopteris gaudichaudii var. vulgariss ミズワラビ NT 仁賀 高崎 水田 C ホシクサ Eriocaulon cinereum ホシクサ 仁賀 水田 C ミズマツバ Rotala pusilla ミソハギ NT VU 仁賀 水田 A ムラサキミミカキグサ Utricularia uliginosa タヌキモ VU NT 上仁賀 山中の湿地 A ヤナギスブタ Saururus chinensis トチカガミ 東野 溜池 A ヤブサンザシ Ribes fasciculatum ユキノシタ 東野 礫岩の多い林 B ヤマトキホコリ Elatostema laetevirens イラクサ 上仁賀 渓谷の多湿な岸壁 B ユキワリイチゲ Anemone keiskeana キンポウゲ 東野 礫岩の多い林 A *保護の必要性 A:早急な保護対策が必要,B:なるべく早い保護対策が必要,C:緊急性は少ない。 (2) ヒメミズワラビ ミズワラビ科

Ceratopteris gaudichaudii var. vulgaris 水田や休耕田,用水路などの水辺に生育する 1 年 草のシダ科の水生植物である。本州,四国,九州, 沖縄にかけて分布しているが,沖縄に生育する類似 種はミズワラビと分類された(8) 竹原市では高崎,仁賀,東野の水田や休耕田に生 育するが,高崎の個体数が最も多い。Fig. 3 に示す ように形態的変異が大きく,数cm から 30 cm 以上 の個体が混生している。しかし,休耕田が畑地など に変わり,数が減少している。

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- 5 - Fig. 3 ヒメミズワラビ (3) ミズマツバ ミソハギ科 Rotala pusilla 本州から沖縄にかけての水田や休耕田に生育する 小形の1 年草。茎の基部は地面を這い,分枝して高 さ3~10 cm になる。披針形の小さな葉が 3〜4 個輪 生する。花期は8~10 月で,淡紅色の花が葉腋に単 生する。Fig. 4 に示すように,球形のさく果を葉腋 につける(4) 竹原市では仁賀の水田や休耕田に生育しているが, 個体数は多くない。水田雑草であるため除草剤の使 用により減少した。1 年草であることから,環境変 化のために,翌年に同じ場所で確認できないことも 多い。 Fig. 4 ミズマツバ (4) スズメハコベ ゴマノハグサ科 Microcarpaea minima 本州から沖縄の水田や休耕田に生える小型の1 年 草。茎は多く分枝して地表を這い,長さ5~10 cm で節から根を出す。葉は長さ3~5 mm,幅 1 mm ほ どで,長楕円形で柄はない。花期は8〜10 月で,花 は葉腋につき柄はなく,萼は筒状で先端は5 浅裂し て,縁には毛が生えている。さく果は長楕円形で萼 より短く,種子は黄褐色でごく小さい。Fig. 5 に果 実期のスズメハコベを示す。竹原市ではミズマツバ と同じく仁賀の水田に生育している。この水田はホ シクサなどの同じ水田雑草も多く生えていることか ら,除草剤を使用していない水田とみられる。 Fig. 5 果実をつけたスズメハコベ (5) ナガエミクリ ガマ科 Sparganium japonicum 北海道西南部から九州のため池や河川,水路など に生育する多年草。流れのある浅い水路では沈水形 や浮葉,抽水形になる。根茎は短く,地下に長い走 出枝を出して群生する。高さ70~130 cm。抽水葉は 幅5~14 mm,背稜が顕著で断面は三角状。花期は 6~9 月で,花序は分枝せず,上部には雄性頭花が 4 ~9 個,主軸に着生し,下部では雌性頭花が 3~7 個 つく。雌性頭花のうち,下側の1~3 個は,長さ 7~ 50 mm の柄があり,主軸とは合着しない(腋性)。 雌性頭花は果時には径1.5~2 cm になり,上部の頭 花は接近する。Fig. 6 に示すように,果実は紡錘形 で長さ4~6 mm,幅約 2 mm,全体に流線形で他種 の果実に比べ細長く,先端は嘴状に尖る。

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- 6 - 竹原市では仁賀と西野の溜池,東野の用水路に生 育している。仁賀では水田地帯の中にある,円形の 小さくて浅い溜池(直径約4 m,水深約 50 cm)の 水中や畔に群生している。この集団は環境が適して いるのか,果実をつけている個体が多くみられる。 東野では水路の約1 km の区間にわたって生育して おり,流れや深さにより抽水,浮葉,沈水の3つの 葉の形態が見られる。個体数も多く,水路の流れを 妨げるため除去されている場所もある。 Fig. 6 溜池のナガエミクリの果実 (6) サギソウ ラン科 Habenaria radiata 自然度が高くて,日当たりの良い湿地や溜池の畔 などに生える多年草。泥中にある楕円形の球茎から 高さ15~40 cm 地上茎を出し,その先に 1~4 個の 白色の花をつける。広い線形の葉を3~5 枚,茎の下 部につける。花期は7~8 月頃で,花の大きさは約 3 cm で,Fig. 7 に示すように大きな唇弁は 3 裂し,中 央の裂片の幅は狭く,側裂片は広く縁は深く細裂し て左右に広がる。花の姿がシラサギが羽を広げてい るように見えて美しい。国内では本州・四国・九州で, 台湾・朝鮮半島にも分布する。 竹原市では上仁賀や田万里にある,賀茂川の源流 域の湿原に生育している。この湿原も乾燥化が進ん でいて生育環境が狭まっている。また,仁賀の包山 (516 m)の谷地の湿地にオオミズゴケなどともに生 育していたが,樹木の成長で日陰になり見られなく なった。 Fig. 7 サギソウの花 (7) ケシンジュガヤ カヤツリグサ科 Scleria rugosa 小型の1 年生草本で,山すそから水がしみだすよ うな貧栄養の湿地に生育している。植物体は叢生し, Fig. 8 ケシンジュガヤの果実と茎葉の白毛

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- 7 - Fig. 8 に示すように,茎は有毛で高さ10~20 cm, 葉は茎上から生え淡緑色で,全体に白色毛がある。 頂生または腋生の花序は1 つの茎に 2~3 個つき長 さは1~1.5 cm である。果実は灰白色で径 1.5~2 mm の球形である。千葉県以西の本州~琉球,台湾・ 朝鮮・マレーシア・インド・オーストラリアに分布 する。竹原市ではサギソウと同じく上仁賀の賀茂川 源流域の湿原の中で,日当たりが良く,さらに土壌 がむき出しで,他の高茎植物のない場所に生育して いる。このような場所は湿原の中でも少なく,イノ シシのぬた場に適しているためよく荒らされている。 (8) ヒナノカンザシ ヒメハギ科 Salomonia oblongifolia 日当りのよい湿地にはえる小型の1年草。茎は細 く直立して高さ5~15 cm。Fig. 9 に示すように葉は まばらに互生し,長楕円形で長さ3~8 mm,短い柄 がある。花は赤紫色で茎の上部に穂状花序につく。 花期は8~9 月で,果は扁平腎形である。本州から九 州,台湾,東南アジアに分布する。竹原市ではサギ ソウやケシンジュガヤ,ムラサキミミカキグサなど と同じ上仁賀の賀茂川源流域にある湿原に生育して Fig. 9 ヒナノカンザシ いる。この湿原の中でも日当たりが良好で,さらに, 植物体が小さいため,高茎植物が生えていない,湿 った地表がみえるような場所に限られている。 (9) ウンヌケモドキ イネ科 Eulalia quadrinervis 里山の草地や乾燥した低い山,溜池土堤などに生 育する多年草。茎は叢生し株になる。茎は直立し, 高さ1 m 以下で細い。茎の基部の葉鞘は赤味を帯び, 無毛。葉は長い線形で長さ10~30 cm,葉の両面及 び縁に白毛がある。葉鞘には短毛が密生する。花期 は9~10 月。Fig. 10 に示すように,花序は 3〜7 個 の総からなり,長さ6~12 cm。小穂は長さ 5〜6 mm。 ススキに似るが,葉身が短く,総の数が少ないこと で区別できる。本州(関東以西),四国,九州,沖縄 , 東南アジアまで分布する。竹原市では高崎の標高 200 m ほどの低山の尾根部の日当たりのよい乾燥し た裸地に局所的に生育している。周辺では日陰にな ったり,土壌が肥沃になるとススキなどの植物に遷 移している。 Fig. 10 ウンヌケモドキ (10) スブタ トチカガミ科 Blyxa echinosperma 水田や溜め池などに生育する1 年草。Fig. 11 に

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- 8 - 示すような,沈水植物で水中の泥土に根を伸ばすが, 茎は極めて短く,葉は根生する。葉は線形,先にい くにつれて細くなり,長さ10~30 cm,先端は鋭尖 頭で,縁に微細な鋸歯がある。花期は7~10 月。葉 腋から花柄を水面に伸ばし,白い3 枚の花弁を持つ 花を気中に開く。種子はだ円形で両端に刺状の突起 がある(10)。本州,九州,四国,沖縄から東南アジア まで分布する。 竹原市では東野の自然度の高い溜池のみに生育し ている。この溜池の近くにもう一か所生育地があっ たが,2018 年 7 月の豪雨で,土砂崩れのため大半が 土砂に埋まり絶滅した。 Fig. 11 スブタ (11) シオクグ カヤツリグサ科 Carex scabrifolia 河口の塩性湿地や汽水池などに生える塩性の多年 草。泥中の地下茎で群生する。高さは30~60 cm。 基部の鞘は赤紫色を帯び,糸網を生じる。葉は幅1.5 ~3 mm の線形で硬い。花期は 5~6 月。小穂は 3~ 4 個で,上部は雄花の集まりで,下部は雌花の集ま りである。Fig. 12 に示すように,茎頂に雄小穂,茎 の中ほどに雌小穂をつけ,夏に熟する。雌小穂は長 楕円形で,離れてふつう2 個生じる。これは,海水 に浮かんで散布されるための適応とも考えられる果 胞は長さ6~8 mm の長楕円形,縦縞がありコルク 質である。北海道から沖縄の日本全域と東アジアに 分布する。竹原市では吉名,下野,竹原の汽水池の 畔に生育する。最も大きい群生地の吉名の個体は繁 殖力の強いヨシの影響で減少している。 Fig. 12 シオクグの果実 (12) ゲンカイツツジ ツツジ科

Rhododendron mucronulatum var. ciliatum 山地の日当たりのよい尾根部や岩場に生育する樹 高1.5~3 m の落葉低木で,枝分かれが多い。葉は数 枚が枝先に集まって互生し,葉身は長さ4~7 cm, 幅1~3 cm で,先が尖った革質の楕円形で互生し,

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- 9 - 両面に粗毛が生える。花期は葉の展開する前の3 月 下旬から4 月である。Fig. 13 に示すように,枝先に 直径3~4 cm で淡紅色から紅紫色の先端が皿のよう に横に広がって5 裂した漏斗型の花を 1~3 個つけ る。分布域は狭く本州(中国地方),四国(北部), 九州(北部),朝鮮半島である(11) 竹原市では忠海の黒滝山,高崎の総合公園バンブ ー・ジョイ・ハイランド内の尾根伝いの遊歩道の傍 らにも生育する。また高崎の海抜10m ほどの崖地に も点在しており,低地であることから注目される。 (13) カワツルモ ヒルムシロ科 Ruppia rostellata 海岸沿いの用水路や塩田跡,汽水池の水域に生育 する沈水性の多年草。泥中の地下茎から水中茎を伸 ばして群生する。Fig. 14 に示すように葉は狭線形で 互生,長さ6~10 cm,微細な鋸歯があり,基部は葉 鞘となって茎を抱く。花穂は葉腋から伸びた花茎の 先につき,受粉後,茎が伸びる。日本全域と世界に 広く分布する。 竹原市では以前に吉名と竹原,および忠海での記 録(12) があるが,吉名と竹原では生育地が埋め立て られて絶滅しており,忠海は沿海の水路や汽水池を 調べたが確認できなかった。しかし,この調査で新 たに,高崎の阿波島の砂浜に近い廃棄溜池の中に群 生しているのを確認した。真水の供給は耕作破棄地 に降った雨水が水路で流れ込むだけで,夏の水位は 低下する。 Fig. 14 カワツルモ

3.まとめ

2015 年の春から大崎上島町と並行して,竹原市の 希少植物についても調査をおこなった。その結果 24 種の広島県または環境省のレッドデータブックに記 載されている植物を確認することができた。竹原市 域は約118 km2と狭く,山地から海岸線に至るまで 大部分に人手が入っており,自然度の高い場所を好 む希少植物は少なく,ほとんどが里山里地にあり人 間の活動と密接する場所に生育している。生物多様 性の保護の立場から,各種別には次のような対応が 必要と考えられる。 1) デンジソウは広島県内では高崎の水田が唯一の 生育地である。しかし,水田から畑地への転作や休 耕田への太陽光発電施設の建造により著しく環境が 悪化して減少している。保護地域を設けるなどの対 策が早急に必要である。 2) サギソウ,サクラバハンノキ,ケシンジュガヤ, ヒナノカンザシ,ムラサキミミカキグサは上仁賀や 田万里の湿原に生育しているが,乾燥化が進み高茎 植物や樹木が侵入しつつある。周辺の樹木の伐採な どの湿原の維持活動が望まれる。 3) ミズマツバ,スズメハコベ,ホシクサは仁賀の水 田地帯に生育している。いずれも1 年草の水田雑草 であるため強い除草剤が使用されたり,休耕田とな り稲作がおこなわれないと高茎の雑草に負けて,絶 滅する可能性がある。このため,水田耕作者の理解 が必要となる。 4) スブタ,ヤナギスブタ,コウホネは東野の溜池に のみ生育しているが,周辺の樹木の成長で,生育す る池の浅い場所が日陰になり生育環境が悪くなって いる。また,2018 年の水害による土砂災害の影響も 受けていることから,溜池管理者を含めて保護活動 が必要である。 5) カワツルモは広島県 RDB の絶滅危惧Ⅰ類 (CR+EN)にランクされている最も県内では絶滅の おそれが高い植物に属するが,高潮による海水流入 で塩分濃度の変化で絶滅が危惧される。しかし,島 嶼部にあるため保護活動が困難と考えられる。 6) 竹原市は面積が小さいため,生育地の面積も狭く, ハマウツボのように除草剤の使用ですぐに絶滅した り,環境の変化により大きく影響を受け,絶滅する 可能性が高くなる。全体に,土地管理者との保護す べき種の情報を共有し最適な保護活動をおこなう必 要がある。

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4.おわりに

古くから竹原市は土地耕作の進んだ地域であり, 原生林は存在しないが,里山・里地・里海とよばれ る豊かな自然が残されている。今後も調査を継続す るとともに,地域の教育機関や住民とともに,情報 を共有して,ここに取り上げた希少種について保全 活動をおこないたい。また,この調査はCOC 活動 の一環としておこなったことを付記します。

5.謝辞

今回の調査にあたり,広島市佐伯区在住の世羅徹 也氏から,同定に関して貴重な助言をいただいた。 ここに感謝の意を表します。 □参考文献 (1) 大沼 みお, 藤冨 信之:大崎上島町の希少植物 I, 広島 商船高等専門学校研究紀要 第 39 号 pp.143-151 (2017) (2) 大沼 みお, 藤冨 信之:大崎上島町の希少植物 II, 広 島商船高等専門学校研究紀要 第 40 号 pp.73-84 (2018) (3) 大沼 みお, 藤冨 信之:大崎上島町の希少な木本植物, 広島商船高等専門学校研究紀要 第 41 号 pp.97-104 (2019) (4) 松浦 浩久:三津地域の地質, 地域地質研究報告 地質 研究所 (2001) (5) 広島県編 : 改訂・広島県の絶滅のおそれのある野生 生物(レッドデータブック広島 2011. 広島県環境保健 協会,広島県 (2011) (6) 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編:レ ッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野 生生物- 8 植物 I(維管束植物). ぎょうせい,(2015) (7) 角野康郎:日本水草図鑑,文一総合出版,東京 (1994) (8) 角野康郎:日本の水草,文一総合出版,東京 (2014) (9) 矢原徹一(監修):絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプ ランツ, 106, 山と渓谷社 (2015) (10) 佐竹義輔・大井次三郎他(編):日本の野生植物 草本 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ. 平凡社, 東京, (2000) (11) 佐竹義輔・大井次三郎他(編):日本の野生植物 木本 Ⅰ・Ⅱ. 平凡社, 東京, (2000) (12) 広島大学理学部付属宮島自然植物実験所・比婆科学教 育振興会(編):広島県植物誌,中国新聞社,広島県 (1997)

Fig. 13  ゲンカイツツジの花

参照

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