〈論説〉再論 : 杉村敏正先生の行政法学と憲法原理
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(2) 再論:杉 村敏正先生 の行政法 学と憲法原理. ドイ ツ帝 国 憲法 か ら ワイ マ ー ル 憲法 に変 わ った とき,「憲 法 は変 わ る,さ れ ど行 政 法 は残 る」 と語 った の とは対 照 的 で あ る。 む しろ,ボ. ン基 本 法 の下 で,ド イ. ツの行 政 裁 判所 長 官 プ リッツ ・ウエ ル ナ ー が語 った 「行 政 法 は具 体 化 され た憲 法 で あ る」3)に近 い。 私 は杉 村 行 政 法 学 は,生 き た憲 法 で あ る,ま た は活 動 す る憲法 で あ る,あ るい は具 体 化 され る憲 法 で あ る と主 張 した い。 と こ ろで杉 村 行 政 法 学 は法 解 釈 教 義 学 で あ る。 した が って,大. 日本 帝 国憲 法. 下 の 行政 法 学 の法 解 釈 教 義 学 と同質 性 を有 して い る。 た とえ ば,行 政 行 為 論 を と って み て も,公 定 力 の理 論,「 許 可,特 許 お よ び認 可 」 の分 類 論 は,思 考 様 式 に お い て美 濃 部 行 政 法 学 と共 通 す る と ころ が あ る と思 わ れ る。 しか し杉 村 行 政 法 学 は,美 濃 部 行 政 法 学 と明 らか に違 う と ころ が あ る。 そ れ は,大. 日本 帝 国憲 法 か ら 日本 国憲 法 へ の憲 法 原 理 の変 化 で あ る。 杉 村 行 政 法 学. は,日 本 国 憲 法 に お け る民 主 主 義 原 理,自. 由主 義 原 理,基 本 的 人 権 尊 重 原理,. 平 和 国家 原 理 お よ び地 方 自治 尊 重 原 理 を行 政 法 学 に可 能 な 限 り実 現 され よ う と され た4)。 他 方,同. じ 日本 国憲 法 下 に あ って も,杉 村 行 政 法 学 は 田 中二 郎 行 政 法 学 と比. べ て,法 解 釈 教 義 学 と して は多 くの点 で 共 通 性 を有 して い るが,異 質 面 が あ る。. 3)FritzWerner,DVBl,1959,527.一. 般 に は ウエ ル ナ ー の こ の言 葉 は,「 憲 法 の具 体 化 法 で あ る」 と. 訳 され て い る。 しか し私 は,原 文 で は,"VerwaltungsrechtistkonkretisiertesVerfassungsrecht" と さ れ て い る の で,行 政 法 は具 体 化 され た憲 法 で あ る と訳 して い る。 また,現 行 政 法 の教 科 書 の著 者 で あ る マ ウ ラ ーが,ロ. 動 す る憲 法 で あ る(taetigwerdendeVerfassung)」 Verwaltungsrecht,14,Auflage,S.12.)が,こ. 在 の ドイ ツの 著 名 な. レ ン ツ ・フ ォ ン ・シ ュ タ イ ンの 言 葉 で あ る 「行 政 は 活 を 引 用 して い る(vg1.Maurer,Allgemeines れ を 「行 政 は 憲 法 の 活 動 法 で あ る」 と は訳 し難 い と. 思 う。 私 は,杉 村 行 政 法 学 こ そ,具 体 化 され た憲 法,ま. た は,ロ. レ ン ツ ・フ ォ ン ・シ ュ タ イ ンの 言. 葉 に従 い,杉 村 行 政 法 学 は,活 動 す る憲 法 で あ る と捉 え た い の で あ る。 な お,以 上 の こ と に 関 して, 村 上 「憲 法 原 理 と行 政 法 理 論 体 系 」 公 法 研 究67号(2005年)74頁(註3))で 4)と. 触 れ て い る。. は い え,美 濃 部 達 吉 博 士 は,人 権 尊 重 主 義 を貫 か れ た と して 歴 史 的 意 義 を 高 く評 価 しな けれ ば. な らな い だ ろ う。 この 点 につ き,家. 永 三 郎 「美 濃 部 達 吉 の思 想 史 的 研 究 』(岩 波 書 店,1964年)参. 照 。 「『人 権 』 な ど と い う も のが ち り あ くた の よ う に扱 わ れ て い た 明 治 憲 法 時 代 に,国 を画 定 しそ の濫 用 を 阻 止 し よ う と い う考 え 方 が,ど. は十 分 に 評 価 しな けれ ば な らな い 」(家 永 ・前 掲 書344頁)。 党 『大 正 デ モ ク ラ シー の 研 究 』(青 木書 店,1968年,再. 2. 家権力の限界. ん な に積 極 的 な 意 味 を も って い た か を,私 な お,美. 版)238頁. 濃 部 博 士 につ い て は,松. 以 下 も非 常 に 参 考 に な ろ う。. たち 尾尊.
(3) 法科大学院論集. 第10号. 周 知 の よ う に,田 中行 政 法 学 は 日本 国 憲 法 に お いて 福 祉 国 家 論 を 最 大 限 発 展 さ せ よ ラと され たが,杉 村 先 生 は,そ の イ デオ ロ ギー 性 を 指 摘 され る5)な ど,行 政 を可 能 な 限 り客 観 的 に と らえ,し か も肥 大 化 し強 大 化 す る行 政 権 に対 して, 人 権 擁i護理 論 と して の 行 政 法 学 を 展 開 され た 。 以 上 の よ う に,杉 村 行 政 法 学 の 意 義 は,行 政 法 学 の 歴 史 的 発 展 段 階 の視 座 の な か で 位 置 づ け る こ と もで き るが,本 稿 は,杉 村 先 生 の 行 政 法 学 の特 質 を と く に憲 法 原 理 との か か わ りで 考 察 して み た い。 な お,本 稿 で 参 考 に した 杉 村 先 生 の著 書 と して は,主 行 政 法 』,「法 の支 配 と行 政 法 』(有 斐 閣,1970年),「 (有斐 閣,1991年)お. と して,前 掲 『憲 法 と. 続 ・法 の 支 配 と行 政 法 」. よ び 「全 訂 ・行 政 法 講i義 総 論(上 巻)」(有 斐 閣,1969. 年)で あ る。 もち ろ ん,先 生 の他 の著 書 ・論 文 も必 要 な 限 りで参 照 して い る。. 第1章. 杉村行政法学 と民主主義原理. (1)杉 村 先 生 は大 日本 帝 国憲 法 の下,大 正7年. に生 まれ られ た6)。 そ して27. 歳 の とき に 日本 国憲 法 が制 定 さ れ て い る。 したが って,杉 村 先 生 は,大 日本 帝 国憲 法 の原 理 と 日本 国憲 法 の原 理,す. な わ ち極 端 に対 立 す る二 つ の 憲 法 原 理 を. 体 験 さ れ た。 す な わ ち,先 生 自身 の 中で,軍 国 主 義 ・全 体 主 義 ・封 建主 義 と平 和 主 義 ・個 人 尊 重 主 義 ・民 主 主 義 が 相 克 す るが,軍 国 主 義 ・全 体 主 義 ・封 建 主 義 が もた ら した貧 困 ・差 別 ・絶 対 服 従7)に 対 して,正 義 感 と して そ れ らを 批 判 さ れ た。 す な わ ち,憲 法 原 理 と して の 平 和 主 義 ・個 人 尊 重 主 義 ・民 主 主 義 は, 正 義 と連 結 して 杉 村 行 政 法 学 の 心 髄 あ るい は根 幹 とな って い った。. 5)杉. 村 「新 法 学生 の諸 君 へ」 『憲 法 と行 政 法 』(勤 草 書 房,1972年)8頁. 6)大. 正7年9月26日. 生 ま れ。 昭和16年12月. 参照。. に京 都 大 学 法 学 部 を卒 業 さ れ,昭 和22年 同助 教 授 に な ら. れ て い る。 7)わ. が 国 で現 在 起 こっ て い る学 校 で の体 罰 問題,あ. る い は柔 道 界 で の暴 力 問題 も,大. 時代 の 絶対 服 従 の風 潮 と無 関係 で は な い よ う に思 わ れ る。. 3. 日本 帝 国 憲 法.
(4) 再論:杉 村敏正先生の行政法学 と憲法原理 (2)杉 に,ス. 村 先 生 は,私. が 京 大 大 学 院 に 在 籍 して い る と き(昭. イ ス の プ リ ッ ツ ・フ ラ イ ナ ー(FritzFleiner)の. た と 言 わ れ た こ と を 記 憶 し て い る。 フ ラ イ ナ ー8)は,ス り,ド. 和42年 ∼ 同46年). 行 政 法 の著 書 を全 訳 し イ ス の行 政 法 学 者 で あ. イ ツ 帝 国 憲 法 の も と で の オ ッ トー ・マ イ ヤ ー の 行 政 法 学 に 対 し,民. 主主. 義 原 理 を 重 視 す る行 政 法 学 者 と して 著 名 で あ る。 杉 村 先 生 が フ ラ イ ナ ー の 著 書 を 全 訳 さ れ た こ と は,杉. 村 行 政 法 学 が 民 主 主 義 原 理 に 基 づ く こ と を も示 唆 し て. い る。 フ ラ イ ナ ー の 著 書 を 見 る に,「1919年8月11日 2項 は,国 表(国. の ワ イ マ ー ル 共 和 国 憲 法1条. 家 権 力 は 国 民 か ら 由 来 す る と規 定 し て い る。 国 民 の 意 思 は,国. 民 議 会)に. 民代. よ り議 決 さ れ た 憲 法 お よ び 法 律 の な か に 見 い だ さ れ る。 国 民. 国 家 に お い て は,い. か な る権 能 も,憲. 法 や,憲. 法 か ら導 か れ る法 律,そ. 律 に よ り委 任 さ れ た 法 令 に 基 づ か な け れ ば な ら な い 。 行 政 庁 は,憲. して法. 法 お よ び法. 律 に 依 存 し な い 自立 的 な 権 能 を け っ し て 有 し な い 」 と述 べ る9)。 オ ッ トー ・マ イ ヤ ー が,帝. 国 憲 法 か ら ワ イ マ ー ル 憲 法 に 変 わ っ て も,行. 政 法 は変 わ らな い と. 述 べ る の とは根 本 的 に異 な る。. (3)ま. た杉 村 先 生 は 「田 中行 政 法 学 は,戦 後 民 主主 義 行 政 法 学 の 基盤 で あ り,. 現 在 の 行 政 法 学 の発 展 の 基 礎 を な す もの で あ った。 この 意 味 で,田. 中先 生 は,. 戦 後 の行 政 法 学 の最 大 の 指 導 者 で あ り,功 労 者 で あ った 。」 とさ れ,田 中 博 士 の行 政 法 学 の なか に,戦 後 日本 の行 政 法 学 に お け る民 主 主 義 原 理 の 展 開 の 端 緒. 8)フ. ラ イ ナ ー に 関 す る 最 近 の 研 究 と して,諸. 声 社,2003年)が. 興 味 深 い 。 ま た,同. 法 学42巻2号(2009年)606頁 川 法 学43巻1号(2010年)360頁 706頁 以 下,「. 坂 佐 利. 「ブ リ ッ ツ ・フ ラ イ ナ ー 一 そ の 法 治 主 義 観 』(水. 「プ リ ッ ツ ・ フ ラ イ ナ ー の. 以 下,同 以 下,「. 「ブ リ ッ ツ ・フ ラ イ ナ ー の. 「行 政 法 に お け る 契 約 』」 神 奈 川 「法 律 に よ る 行 政 の 原 理 』」 神 奈. ブ リ ッ ツ ・ フ ラ イ ナ ー 」 神 奈 川 法 学43巻2号(2010年). ブ リ ッツ ・フ ライ ナ ー の 自治 行 政 論 」 兼 子 仁 先 生 古 稀 記 念 論 文 集. 法 学 』(勤 草 書 房,2007年)237頁. 以 下 が,杉. 『分 権 時 代 と 自 治 体. 村 行 政 法 学 を 理 解 す る うえ に も非 常 に 参 考 に な る。. 9)FritzFleiner,InstitutionendesDeutschenVerwaltungsrechts,2,Neudruckder8.Auflage, 1928,S、132.. 4.
(5) 法科大学院論集. 第10号. を認 め られ た10)。も っ と も,雄 川 一 郎 博 士 に よ る 田 中行 政 法 学 の分 析 の な か に は,民 主 主 義 原 理 の指 摘 は な い11)。 ま た,田 中行 政 法 学 は周 知 の よ うに侵 害 留 保 理 論 を説 かれ た12)。田 中理 論 が 自 由主 義 原 理 に立 脚 した 理 論 と して 位 置 づ け られ る所 以 で あ る。 そ れ に 対 し て,杉 村 行 政 法 学 は,「 法 律 に よ る行 政 の 理 論 」 と の 関 連 で は,全 部 留 保 理 論 と して 名 高 い。 国 民 の 同意 と して の 法 律 の 授 権 を必 要 とす る と い う意 味 で,杉 村 理 論 は民 主 主 義 原 理 に立 脚 す る と位 置 づ け られ る所 以 で あ る。 杉 村 理 論 は, 権 利 義 務 に 関 わ る公 権 的行 政 ば か りで な く,非 権 力 行 政 で あ って も公 行 政 は, 予 め必 ず 国 民 の 同 意 と して の 法 律 に よ る授 権 を必 要 とす る とす る理 論 で あ っ た13)。しか し杉 村 理 論 は 厳 格 す ぎ現 実 に あ わ な い との 批 判 が 学 界 で は 強 か っ た。 そ こで,杉 村 先 生 は,後 に,「 原 則 完 全 全 部 留 保 理 論 」 と して 自説 を修 正 され,原 則 と して との文 言 を付 け加 え られ た14)。 な お,杉 村 先 生 は,私 の理 論 を 「原 則 全 部 留 保 理 論 」 と して位 置 づ け られ て い る。 私 の理 論 に は,完 全 と い う文 言 が な い。 す な わ ち,私 の理 論 は,「 日本 国 憲 法 の下 で は,や は り,公 権 力 の行 使 につ い て は,い. うま で もな い が,国 家 と. 国民 と の 問 の 権 利 義 務 関 係 にか か わ る非 権 力 的 公 行 政 につ い て も,原 則 と し て,法 律 の根 拠 が 必 要 で あ る」 とす る理 論 で あ る。 私 の趣 旨 は,給 付 行 政 に も 法 律 の根 拠 が 必 要 で あ る と述 べ る こ と に あ る。 そ して 原 則 と い う文 言 を付 加 し 10)杉. 村 「田 中先 生 の 行 政 法 教 科 書 」(ジ ュ リス ト767号,1982年)28頁. 政 法 学 の 特 質 が な に で あ る か に つ い て は,人 て は,と. り敢 え ず,体. 系 性,総. 合 性,合. 参 照 。 杉 村 先 生 は,「 田 中 行. に よ り,い ろ い ろ な 見 解 が あ る と思 うが,わ. 理 性,柔 軟 性,民. た しとし. 主 性 お よ び 先 見 性 の 六 つ を 挙 げ た い と思. う」 と され るの で あ る。 11)雄. 川 「田 中先 生 の 行 政法 学 の歩 み」(ジ ュ リス ト767号,1982年)21頁. 12)田. 中 二郎 「行 政 法 総論 』(有 斐 閣,1957年)32頁. 13)「 一 切 の 公 権 的 行 政 は も ち ろん,非. 以 下 参 照。. 。. 権 力 的 公 行 政 につ いて も,法 律(ま. た は地 方 自主 法 た る条 例). の 根 拠 を 必 要 とす る もの と解 す べ き で あ る。」(杉 村 『全 訂 ・行 政 法 講 義 ・総 論(上 1969年>42頁,43頁. 巻)』 〈有 斐 閣,. 参 照)。 杉 村 先 生 の 理 論 に よれ ば,給 付 行 政 や 公 行 政 と して行 わ れ る行 政 指 導. も法 律 の根 拠 が か な らず 必 要 と さ れ る こ と に な っ た。 杉 村 先 生 は,ご. 自分 の理 論 を 「完 全 全 部 留 保. 理 論 」 と名 付 け られ て い る(杉 村 「続 ・法 の支 配 と行 政 法 』<有 斐 閣,1991年>42頁)。 14)杉 村 ・前 掲 書39頁 以 下 。. 5.
(6) 再論:杉 村敏正先生の行政法学 と憲法原理. た理 由 は,人 権 の 中で も,人 間 の 生 存 権 の 保 障 に最 高 の 価 値 を 置 い た と き,そ れ を守 るの に緊 急 の 必 要 が あ る場 合 に は,と. くに厳 密 な 作 用 法 が な くと も,他. の民 主 的 な 手 段 で コ ン トロ ール す る こ とを 条 件 に行 政 を 進 め て よい よ うな場 合 も例 外 と して あ りえ よ う」 と考 え た か らで あ った15)。. (4)杉 村 先 生 は,財 政 民 主 主 義 を 徹 底 され た 。 田中 博 士 は,給 付 行 政 に は法 律 の 根 拠 を必 要 と しな い と され て いた が,杉 村 先 生 は,資 金 補 助 行 政 に お い て も,民 主主 義 原理 に も とづ き 法 律 の 根拠 を必 要 とす る とさ れ た。 す な わ ち,「塩 野 宏 教 授 か ら,『わ が 国 の全 部 留 保 理 論 は,資 金 交 付 行 政 につ い て,特 に 言 及 し て いな いの で 明 確 で はな いが,補 助 金 の 交 付 は 権 力 的 手 段 と して,法 律 の根 拠 が 必 要 だ と解 して い る よ う に思 わ れ る。 これ に対 して,現 在,補 助 金 適正 化法 の 如 き規 制 法 の な い融 資 行 政 につ い て は,わ が 国 の 全 部 留 保理 論 に よ れ ば,法 律 の 根 拠 は不 要 とな るの で あ ろ うか 』 と問 題 提起 され た の に対 して,『 この 点, 私 は,第 一 に,補 助 金 交 付 決 定 を 処 分 と解 して,こ れ に つ き法 律 の根 拠 の必 要 で あ る こ とを 主 張 した の で あ り,第 二 に,融 資行 政 に つ い て は,そ れ が非 権 力 的 公 行 政 で あ る こ とを 別 に して も,国 有 財 産 の 処分 に つ い て,そ れ が 国有 で あ るた め,国 有 財 産 法 で 定 め な けれ ば な らな い と同様 に,国 の 資金 の融 通 で あ る た め,そ の 民 主 的 統 制 の た め に,法 律 の 根拠 を 要 す る もの と解 す べ き で あ る と 思 う(戦 後 の 租 税 特 別 措 置 も,国 家 資金 の 投入 も,と もに,大 企 業 に重 点 を お く資 本 拡 充 政 策 の 実 施 の た め で あ っ た が,前 者 に は法 律 の根 拠 を 必 要 とす る が,後 者 に は不 必 要 と考 え る こ との不 合 理 性 は,明 らか で あ ろ う)。 そ して,こ の 考 え は,す で に述 べ た よ うに,行 政主 体 の 公共 用 の施 設 ・事 業 の使 用 ・利 用 に関 す る基 本 的 関 係 の定 め を立 法 事 項 と す る考 え に 対 応 す る もの と思 って い る。』」 と述 べ られ て い る16)。 15)村. 上 「法 治 主 義 」 山 田幸 男 ・市 原 昌三 郎 ・阿 部 泰 隆 編 「演 習 行 政 法(上)』(青. 66頁,67頁. 参 照。. 16)杉 村 「続 ・法 の 支配 と行 政 法 』(有 斐 閣,1991年)28頁. 6. 参照。. 林 書 院,1979年).
(7) 法科大学 院論集 私 自 身 も,杉 私 は,さ. 村 先 生 と 同 様 に,融. ら に,給. 第10号. 資 に も 法 律 の 根 拠 が 必 要 と 考 え て い る が,. 付 目 的 の 法 律 に よ る 確 定 の 理 論 を 唱 え て い る。 こ の 理 論 は ド. イ ッ で ハ ベ ル カ テ 教 授(Haverkate)が. 唱 え ら れ て い る 理 論 で あ る17)。 私 は,. こ の 給 付 目 的 の 確 定 の 理 論 に よ り,会. 計検 査 院 の財 政 コ ン トロー ル を導 き 出す. こ と を 狙 っ て い る18)。. (5)杉 村 民 主 主 義 行 政 法 学 は,さ よ うに,特 別 権 力 関係 論 は,大. らに特 別 権 力 関係 論 批 判 に 向 か う。 周 知 の. 日本 帝 国憲 法 時代,ド. イ ツ か ら導 入 さ れ た理 論. で あ った。 この理 論 は,外 部 関係 と して の一 般 権 力 関係 に お い て は 「法 律 に よ る行 政 の原 則 」 が妥 当す る が,国 家 の 内部 関係 と して の特 別 権 力 関 係 に お いて は,そ の原 則 は妥 当せ ず,天 皇 主 権 の もと,天 皇 の 自 由 な指 揮 命 令 に服 す と と らえ られ た。 しか しこ の理 論 が非 民 主 主 義 原 理 に立 脚 した こ と は い う まで もな いo な る ほ ど,日 本 国 憲 法 が 成 立 し,基 本 的 人 権 が 絶 対 的 に保 障 され る と,特 別 権 力 関 係 論 に対 して 強 い批 判 が 寄 せ られ,特 別 権 力 関 係 論 は否 定 され た か にみ え た19)。しか し,い わ ゆ る一 般 権 力 関 係 と特 別 権 力 関 係 を 相 対 的 に区 別 す るだ けの,か つ て の 形 式 的 特 別 権 力 関 係 理 論(一 般 権 力 関 係 にお い て も法 律 の 形 式 さえ とれ ば 自 由 ・財 産 を 侵 害 す る こ とが で き る)で は な く,田 中博 士 の よ う に, 一 般 権 力 関 係 と特 別 権 力 関 係 は ,絶 対 的 に 法 的地 盤 を 異 に す る と説 く新 た な特 別 権 力 関 係 論(絶 対 的 区 別 説)が 唱 え られ る と20),単 に人 権 の不 可 侵 性 を説 く 17)詳. し くは,拙 著 「給 付 行 政 の理 論 』(有 信 堂 高 文 社,2002年)172頁. 18)会. 計検 査 院 に よ る コ ン トロ ー ル に つ い て も,村 上 ・前 掲 書396頁 以 下 を参 照 して い た だ けれ ば幸. い で あ る。 また,石. 森 久 広r財. 以下参照。. 政 民 主 主 義 と経 済 性 』(有 信 堂 高 文 社,2011年)に. ドイ ツ の 会 計 検. 査 院 に つ い て詳 細 な分 析 が あ る。 19)室 井 力 「特 別 権 力 関係 論 」(勤 草 書 房,1968年)346頁,347頁 20)絶 対 的 区別 説 に つ い て は,杉 村 敏 正r全 参 照 。 そ こ に は,田. 訂 ・行 政 法 講 義. 中二 郎 『行 政 法 総 論 』(有 斐 閣)224頁. け る,相 対 的 区 別 説 と絶 対 的 区 別 説 につ い て は,室. 参 照。 総 論(上. 巻)」(有 斐 閣,1969年)62頁. が 引用 され て い る。 特 別 権 力 関 係 論 にお. 井 ・前 掲 書263頁,267頁,343頁,344頁. 参照。. わ が 国 の 田 中学 説 や雄 川 学 説 の特 別 権 力 関 係 理 論 にお け る絶 対 的 区 別 説 につ い て は,室 井 ・前 掲 書. 7.
(8) 再論:杉 村敏正先生 の行政法学 と憲法原理. 形 式 的批 判 説 は,特 別 権 力 関係 批 判 と して は用 を な さ な くな って い った。 この新 しい実 質 的 区別 説 に基 づ く特 別 権 力 関係 論(す して,杉 村 先 生 は,同. な わ ち 田 中理 論)に 対. じ実 質 的観 点 か ら,特 別 権 力 関係 論 を批 判 さ れ た。 す な. わ ち,杉 村 先 生 は,法 関係 の実 質 を み る に,特 別 権 力 関係 の典 型 的 な例 と して の官 吏 関係 に お い て,民 間 の労 働 者 と使 用 者 の 関係 と比 較 す る に,社 会 的 ・機 能 的 に み れ ば,ど ち らに も見 られ る権 力 関係 で あ る と捉 え られ,何. らの実 定 法. 的根 拠 な しに,公 務 員 関係 に お い て だ け,突 如 公 権 力 と して の特 別 権 力 関 係 を 導 き 出す の は お か しい と批 判 さ れ た21)。 と こ ろ が,杉 村 先 生 の社 会 的 ・機 能 的権 力 関 係 理 論 は,周 知 の よ う に室 井 力 博 士 に よ り批 判 され る こ と と な った。 す な わ ち,社 会 的 ・機 能 的 に み て権 力 関 係 とす る杉 村 理 論 に対 して,権 力 関 係 と い う語 感 か ら誤 解 を招 くと批 判 され た の で あ っ た22)。室 井 博 士 に よ れ ば,公 務 員 関 係 に お いて も,一 般 の労 働 者 の関 係 に お いて も,本 来 は非 権 力 関 係 と して,対 等 当事 者 間 の労 働 契 約 関 係 と して 捉 え るべ き も の と考 え られ23),も し公 務 員 関 係 に お いて 公 権 力 性 を付 与 す るな ら,国 家 公 務 員 法 や 地 方 公 務 員 法 等 の法 律 に よ り規 定 さ れ るべ き も の と され た。. 第2章. 杉村行政法学と法治主義原理. (1)杉 村 先 生 が 強 調 す る憲 法 原 理 と して,法 治 主 義 原 理 も,民 主 主 義 原 理 と 345頁 参 照 。 こ の 絶 対 的 区 別 説 あ る い は 実 質 的 区 別 説 に よ れ ば,た. と え ば 医 師 が 大 手 術 の後 に絶 食. を 命 じて も,そ れ を 基 本 的 人 権 の 侵 害 とは 誰 も言 わ な い で あ ろ うに。 21)杉. 村 ・前 掲 書60頁 以 下 参 照。 私 は,こ. の よ うな 杉 村 先生 の理 論 の な か に 法 関係 重 視 の 視 点 を強 く. 感 じる 。 先生 の この視 点 は ドイ ツ の 法 関 係 論 よ り もは る か に早 い 時 期 に 提 起 され て い る。 な お,ド イ ツの 法 関 係 論 に つ い て は,村. 上 武 則 「西 ドイ ツ に お け る給 付 行 政 の 法 関 係 論 に つ い て 」 『伊 藤 満. 先 生 喜 寿記 念 ・比較 公 法 学 の諸 問題 』(八 千 代 出版,1990年)159頁 い で あ る。 22)室 井 ・前 掲 書385頁(註2))参. 照。. 23)室 井 ・前 掲 書393頁 参 照 。. 8. 以 下 を参 照 して い た だ け れ ば幸.
(9) 法科大学院論集. 第10号. 並 び 重 要 な 柱 で あ る。 国 民 の 同 意 を 志 向 す る民 主 主 義 原 理 と異 な り,法 治 主 義 原 理 は 自 由主 義 原理 に根 ざす もの で あ り,国 家 権 力 か ら国 民 ・個 人 の 権 利 利 益 を 保 護 す る憲 法 原理 で あ る。 杉 村 先 生 は,昭 和29年 に論 文 「法 の 支 配 」 を公 表 され た24)。そ れ に よれ ば, ドイ ツ の法 治 国(Rechtsstaat)の. 理 論 す な わ ち形 式 的 法 治 国家 と は違 う憲 法. 原理 と して,日 本 国 憲法 は英 米 の 「法 の支 配 」 を採 用 した と され た。 した が っ て 杉村 先 生 は,同 論 文 に お い て は,明 瞭 に 「法 の支 配 」 と 「法 治主 義」 を分 け て考 え られ て い た25)。先 生 に よ れ ば,わ が 国 で い う法 治 主 義 の原 則 は,行 政 権 の 発 動 は法 に基 づ き,法. に従 って な され るを 要 す る とい う こ と を 内容 とす る。. した が って法 治 主 義 の原 則 は,法. と行 政 との 関係 を規 律 す る原 則 で あ って,法. の 内容 に 関 す る もの で は な く,法 の 内容 に 関 す る制 限 は憲 法 の他 の条 項 の規 定 す る とこ ろ とさ れ る。 これ に対 して,法 の支 配 は,右 に述 べ た意 味 に お け る法 治 主 義 の原 則 を 内容 とす る外,す. で に述 べ た如 く,法 の 内容 に 関 して,法 は個. 人 の 自己主 張 の最 小 限度(例,人. 身 の 自由,信 仰 の 自 由,意 見 表 現 の 自由)を. 侵 しえ な い と い うこ と を 内容 とす る と さ れ た26)。. (2)し. か し高 田 敏 博 士 は,昭 和31年 に博 士 の処 女 論 文 「『法 律 に よ る行 政 』. と形 式 的 法 治 国 」 「渡 邊 宗 太 郎 博 士 還 暦 記 念 ・公 法 学 の諸 問題 」 〈有 斐 閣,昭 和 31年7月>17頁. 以 下)を 著 され たが27),高 田博 士 の こ の論 文 こ そ,日 本 国 憲 法. が 実 質 的 法 治 主 義,す な わ ち実 質 的 法 治 国 家 原 理 そ して 法 の 支 配 を 採 用 した と す るわ が 国 最 初 の 学 説 で はな か った か と思 わ れ る28)。 24)杉. 村 「法 の 支 配 」(法 学 論 叢i60巻5号,昭. 所 収3頁. 和29年)(同. 『法 の 支 配 と行 政 法 」 有 斐 閣 〈昭 和45年 〉. 以下 参 照)。. 25)杉 村 「法 の支 配 」 前 掲 書 所 収29頁 以 下参 照 。 26)杉 村 ・前掲 書27頁 以 下 参 照。 27)な. お,同 論 文 は,高. 年9月)に,補 28)高. 田 『法 治 国家 観 の展 開一 法 治 主 義 の普 遍 化 的近 代 化 と現 代 化 』(有 斐 閣,2013. 論 と補 註 を付 け られ て,所 収 さ れ て い る。. 田 敏 「『法 律 に よ る 行 政 』 と形 式 的 法 治 国 」(渡 邊 博 士 還 暦 記 念)17頁. 9. 以 下 参 照 。 「斯 様 に見 て.
(10) 再論:杉 村敏正先生 の行政法学 と憲法原理. (3)英. 米 の 「法 の支 配 」 と ドイ ツ の法 治 国原 理 の と らえ方 に つ い て は今 日で. も争 い が あ る。 この 点,土 井 真 一 教 授 に よれ ば,「 も ち ろん,現 代 の法 治 国家 原 理 は,専. ら 『法律 に よ る行 政 の原 理 』 を意 味 す る形 式 的法 治 国家 論 か ら,人 間. の 尊厳 と基 本 権 の保 障,立 法 の憲 法 的秩 序 へ の拘 束 を要 請 す る実 質 的法 治 国家 論 へ と転 換 して い る。 た だ,こ. う した体 系 的 で能 動 的 な法 秩 序 の形 成 は,依 然. と して,判 例 法 主 義 よ りは制 定 法 主 義 に,司 法 型 秩 序 形 成 よ り も行 政 型 秩 序 形 成 に親 和 的 で あ る点 に留 意 が必 要 で あ る。」,「お そ ら く,法 の支 配 及 び法 治 国家 原 理 は,共 に長 所 と短 所 を有 して お り,そ れ ぞ れ が相 補 的 関係 に立 つ もの と考 え るの が適 当 で あ ろ う」,「制 定 法 主 義 と判 例 法 主 義,行 政 型 秩 序 形 成 と司法 型 秩 序 形 成,そ. して法 治 国家 と法 の支 配 の原 理 の統 合 と均 衡 の在 り方 が,統 治 機. 構 論 全 体 の 中 で探 求 さ れ る べ き で は な い か と考 え られ る」と述 べ られ て い る29)。 ∼. (4)と. こ ろ が ドイ ツ で は,具. 体 的 に は,た. と え ば公 法 上 の原 状 回復 請 求 権 と. し て の 結 果 除 去 請 求 権(oeffentlich-rechtlicherFolgenbeseitigungsanspruch). 来 る と,日 本 国憲 法 は,単. に 『法 律 に よ る行 政 』 を 保 障 す る のみ で はな く,基 本 的 人 権 の 尊 重 と い. う実 質 面 を 第 一 義 的 に考 慮 し,法 律 の 内容 も基 本 的 人 権 を尊 重 す る もの で あ る こ とを 保 障 して い る 訳 で あ る。 そ れ故,日. 本 国 憲 法 は,形 式 的 法 治 国 で はな く,実 質 的 法 治 国 或 は 『法 の 支 配 』 の 原 理. を採 用 した と云 うべ きで あ ろ う。」 高 田 ・前 掲68頁 参 照。 な お,高. 田博 士 の 「日本 国 憲 法 は実 質 的法 治 国 或 は 『法 の 支 配 』 の原 理 を 採 用 した とす る理 論 」. に関 して,私. 自身(石. 森 久 広 教 授 と共 著)か. つ て 法 律 時 報 の 学 界 回 顧 の な か で 次 の よ う に述 べ た こ. とが あ る。 す な わ ち,「 高 田 敏 『法 治主 義 の概 念 と動 向』(公 法 五 七)は,九 の基 調 報 告 。 ドイ ツの 法 治 主 義 の 理 論 の 展 開 につ い て も触 れ,参 展 望 ・憲 法 』(公 法五 七)は,『 う図 式 に もか か わ らず,両 か に,高. 四 年 度 の 日本 公 法 学 会. 考 にな る。 た だ,初. 宿 正 典 「学 界. 高 田敏 の 報 告 に も見 られ る 〈実 質 的 法 治 国 イ コー ル 法 の 支 配 〉 とい. 者 の 観 念 が 〈決 定 的 に快 を わ か つ 〉 点 を 含 ん で い る』 と指 摘 す る。 た し. 田報 告 は,日 本 国 憲 法 上 の 原 理 と して は 統 一 的 に解 釈 す るほ うが よ り よい 原 理 を 構 成 し う. る と考 え て い るが,他. 方 で 明 白 に 『比 較 法 上 の 概 念 と して の 法 治 主 義 ・法 の 支 配 と,憲 法 上 の 概 念. と して の そ れ ら と は,区 別 して 論 じ られ るべ きで は な いか 』 と した うえ で,両 は力 点 の お きか た に相 違 が 生 じ る こ と とな るで あ ろ う と指 摘 して お り,決. 概 念 の 使 用 に 際 して. して ス トレー トに イ コー. ル と は され て いな い こ と に も注 目 した い。 と もか く も,こ の よ うな 議 論 を 通 して 法 治 主 義 の 理 論 が い っそ う進 展 す る こ とを 期 待 した い。」 と(法 律 時報67巻13号 29)土. 井 「法 の支 配 」 「新 法 律 学 の争 点3・. な お,土. 井 教 授 の 理 論 に つ い て は,高. 〈1995年>191頁)。. 憲 法 の 争 点 』(ジ ュ リス ト増 刊,2008年)4頁. 田 ・前 掲 書641頁 以 下 に詳 しい。 一10一. 以下参照。.
(11) 法科大学院論集 が,学. 説 ・判 例 に よ り,慣. 習 法 上 の 権 利,し. 第10号. か も憲 法 上 の 権 利 と し て 確 固 と し. て 認 あ ら れ て い る30)。 こ の 権 利 の 根 拠 と し て は,第1は. 正 義 で あ り,第2は. 法. 治 主 義 で あ り,第3は. さ れ る が,正. な. 基 本 権 の 統 合 性(lntegritaet)と. わ ちGerechtigkeit(justice)が ま た ドイ ツ で は,社 lungsanspruch)も,法. 義,す. 根 拠 と な っ て い る31)。. 会 法 上 の 回 復(実. 現)請. 求 権(sozialrechtlicherHerstel.. 教 義 学 の 枠 を 超 え て で あ っ て も,連. め ら れ て い る32)。 こ の よ う に,今. 日 の ドイ ツ で は,単. 邦 社 会 裁 判 所 で認. に制 定 法 主 義 と の批 判 は. 当 た らな くな って き て い る。 さ ら に ドイ ツ の 制 定 法(行 政 事 件 訴 訟 法25条. 政 裁 判 所 法80条. の 執 行 停 止 原 則33))も,日. の 執 行 不 停 止 原 則 と比 べ て,救. 本 の行. 済 法 の観 点 で驚 くほ ど の大 き. な違 い が み られ る。 現 代 ドイ ツ 法 に お い て は,上. 記 の 具 体 的 な 例 を み て も,実. く 志 向 し て い る 。 こ れ ら の 具 体 的 な 例 を み る と,実 は,内. 質 的法 治 主 義 を強. 質 的法 治 主 義 と法 の 支 配. 容 的 に は異 な る もの とは思 え な くな っ て き て い る。. (5)杉 村 行 政 法 学 は,普 遍 主 義 的 な 内容 を 志 向 して い る。 また,杉 村 先 生 は, 法 治 主 義 を 実 質 的 な 意 義 に お い て 捉 え られ て い る。 そ れ ゆ え,杉 村 行 政 法 学 は,実 質 的法 治 主 義 と法 の支 配 を 同 じ もの と され る高 田博 士 の説 に近 い も の と 30)ド. イ ツの 公 法 上 の原 状 回 復 請 求 権 と して の 結 果 除 去 請 求 権 につ い て は,太. る公 法 上 の 結 果 除 去 請 求 権 の 研 究 」(有 信 堂 高 文 社,2008年)に. 田 照 美 『ドイ ツ に お け. 詳 しい。. 31)憲. 法 上 の 権 利 と して の 結 果 除 去 請 求 権 の 根 拠 につ い て は,太. 田 ・前 掲 書55頁 以 下 に 詳 しい 。. 32)村. 上 武 則 「給 付 行 政 の 理 論 』(有 信 堂 高文 社,2002年)361頁. 以下参照。. 33)同. 条1項. に は,「異 議 審 査請 求 お よ び 取 消 訴 訟 は,停 止 の 効 力 を 有 す る。 権 利 形 成 的 行 政 行 為 に お. いて も,同 様 とす る」 と規 定 され て い る(南 博 方 編 「注 釈 行 政 事 件 訴 訟 法 』 〈有 斐 閣,1972年>418 頁 参 照)。 た だ し同 条2項. に例 外 的 規 定 が 定 め られ て い る。 わ が 国 で は 周 知 の よ う に行 訴 法25条 は. 執 行 不 停 止 原 則 が 規 定 され て い る。 しか も,例 外 的 に 裁 判 所 の 決 定 で 執 行 停 止 決 定 が な され て も, 行 訴 法26条 に は,内. 閣総 理 大 臣 の 異 議 が な さ れ る と,裁 判 所 は 執 行 停 止 決 定 を す る こ とが で きず,. 執 行 停 止 の 決 定 が な さ れ て い る と き は,こ. れ を 取 り消 さ な けれ ば な らな い と の規 定 が 設 け られ て. い る。 こ れ を 聞 か れ た ドイ ツ の ウ レ(Ule)教. 授 は,驚 愕 さ れ,思. Iich!〉」 と叫 ば れ た との こ とで あ る。 この 点,高 一11一. わ ず 「中 世 的 だ<Mittelalter-. 田 ・前 掲 書650頁(註40))。.
(12) 再論:杉 村敏正先生の行政法学 と憲法原理. 私 は理 解 した い。. (6)杉 村 先 生 自身 も,「こ れ に対 して,日 本 国 憲法 第一 三 条 の 規 定 は,国 民 の 権 利 ・自 由 を不 当 に侵 害 制 限 す る立 法 を 禁 止 し,同 法 第 一 四 条 第 一 項 の 規 定 は,国 民 に対 す る不 平 等 な 取 扱 を 内容 とす る立 法 を禁 止 す るか ら,こ の 意 味 に お いて は,現 在 の法 治 主 義 を,実 質 的 意 義 に お け る法 治 主 義 と称 す る こ とが で き る。」 とさ れ,そ. して,「 英 米 に お いて い う 『法 の 支 配 』 は,単 な る法 及 び秩. 序 の 支 配 で はな く,国 民 の 基 本 的 人 権 を 尊 重 す る法 の 支 配 を意 味 した か ら,右 の 実 質 的 意 義 に お け る法 治 主 義 を 『法 の 支 配 」 と称 して もよ い」 と さ れ て い る34)。. 第3章. 杉村行政法学 と人権尊重原理. (1)杉 村 先 生 は,適 正 手 続 の 憲 法 上 の 根 拠 を,早. くも昭 和31年 に,憲 法31条. で はな く,憲 法13条 に求 め られ た35)。憲 法13条 は個 人 の 尊 重 の 原 則 を 定 め る規 定 で あ る。 杉 村 先 生 は,戦 前 の 全 体 主 義 ・国 家 主 義 の 時 代,人 間 の 生 命 が 赤 紙 一 枚 で 徴 兵 され ,個 人 の 尊 厳 が 無 視 され た こ と にた い して,日 本 国 憲 法 にお い て は,個 人 の 尊 重 が 最 大 限 国 政 にお い て な され な けれ ば な らな い と され る。 こ の 憲 法13条 を 行 政 の 適 正 手 続 原 則 の 憲 法 上 の 根 拠 と され た の で あ った。 ま さ に 正 義 に適 う理論 と され よ う。 杉 村 先 生 は,従 来 は,「 行 政 につ い て,「 法 治主 義 の 原 則 』 や 『法 の 支 配 』 が 説 か れ て も,こ 34)杉. の 課 題 か ら欠 落 して い. 村 「行 政 法 の 諸 問題 」(長 谷 川 正 安 ・宮 内 裕 ・渡 辺 洋 三 編 『安 保 体 制 と法 』 〈三 一 書 房,1962. 年 〉)82頁,83頁 35)杉. と,行 政 手 続 の 公 正 性 の 要 請 は,そ. 。. 村 「行 政 行 為 と適 正 手 続 」 「渡 邊 博 士 還 暦 記 念 ・公 法 学 の 諸 問 題 』(有 斐 閣,昭. 『法 の 支 配 と行 政 法 』(有 斐 閣,昭 和45年)所. 収123頁 以 下,144頁. 憲法31条 説 は,六 法 を寝 そ べ って 見 て い て,13条. が載 っ て い る頁 を裏 返 しに見 て い て,13が31に. え た よ うな もの と椰 楡 さ れ て い た の を記 憶 して い る。 一12一. 和31年),同. 参 照 。 杉村 先生 は,私 の 学 生 時 代, 見.
(13) た 。」36)と さ れ る が,ド わ け,当. 法科大学院論集. 第10号. イ ツ に お い て も,「 法 治 国 に ふ さ わ し い 行 政 手 続. と り. 事 者 に 聴 聞 を 受 け る 権 利,こ. れ と密 接 に 関 係 す る 官 庁 文 書 の 閲 覧 権 が. み と め ら れ な け れ ば な ら ず,ま. た,こ. し て,権. 主 的 な 行 政 の あ り方 と し て 価 値 を もつ と い う 反. 威 的 な 行 政 で な く,民. れ を み と め る こ と 自 体,行. 省 が 行 わ れ る に 至 っ た 」37)と 述 べ ら れ た 後,今 提 示 に つ い て も,早. く も1973年. 日盛 ん に議 論 され て い る理 由 の. に,「 理 由 の 明 示 」 と 題 す る 節 を 設 け ら れ,詳. 細 に 検 討 さ れ て い る 。 す な わ ち,イ. ギ リス に 関 し て,「 自然 的 正 義 は,決. 由 を 明 示 す る こ と を 要 求 し な い 。」 が,1958年 は,理. 政 へ の参 加 と. 定 の理. の 『審 判 所 お よ び 審 問 法 』12条. 由 を 述 べ る こ と を 義 務 づ け て い る と 述 べ られ て い る38)。. (2)ま. た杉 村 先 生 は,人 権 の な か で も,と りわ け社 会 権,生 存 権 を重 視 され. た。 た とえ ば公 害 防止 の 関係 で,大 気 汚 染 防 止 法 の規 定 を横 出 し ・上 乗 せ す る 条 例 が あ った とき,そ れ を適 法 ・有 効 と され た。 そ の理 論 は,当 該 法 律 自身 も 憲 法 の保 障す る 国民 個 人 の生 存 権 を保 障 す る た め に定 め られ た もの で あ り,た とえ法 律 の基 準 を上 回 る規 定 を条 例 が横 出 し ・上 乗 せ して 設 けた と して も,そ れ は実 質 的 に は法 律 の趣 旨 を活 か す も ので あ って,逆. に法 律 の 規 定 に違 反 す る. と解 釈 す れ ば,そ の法 律 こそ 憲 法 違 反 で あ る と され た39)。杉 村 先 生 に よれ ば, 大 気 汚 染 防止 法 の規 定 は,い わ ゆ る ナ シ ョナ ル ・ ミニ マ ム を 定 め た だ け で あ り,マ キ シ マ ム で は な く,し たが って,そ れ を下 回 る こ と は違 法 で あ るが,上 回 る こ と は違 法 で は な い と され た 。 こ の生 存 権 を 保 障 す る杉 村 理 論 に た い し て,真 正 面 か ら反 対 す る説 は存 在 しなか った と言 って よ いだ ろ う40)。 36)杉. 村 「行 政 手 続(現. 37)杉. 村 ・前 掲 書22頁 。. 38)杉. 村 ・前 掲 書51頁 。. 39)杉. 村 『憲 法 と行 政 法 」(勤 草 書 房,1972年)149頁. 40)子. 供 が 成 績 が 悪 く,親 に しか られ,一. の 子 が 上 乗 せ して6時 れ て,横. 代 法 学 全 集11)』(筑 摩 書 房,1973年)22頁. 以 下,と. 間 勉 強 した 場 合,怒. 日 ミニ マ ム5時. 。. くに163頁 参 照 。. 間 は勉 強 しな さ い と諭 され,発 憤 して,そ. る親 は ど こに もい な い。 ま た,家. で勉 強 しな さ い と言 わ. 出 し して 図 書 館 で 勉 強 して も怒 る親 は ど こに もい な い で あ ろ う。 しか し胃 を手 術 して,医. 師 に 「一 日動 い て 良 い の は マ キ シ マ ム ・最 大 限2時 一13一. 間 で す よ。 外 に 出 る の も近 くの 公 園 まで で す.
(14) 再論:杉 村敏正 先生の行政法学 と憲法原理. (3)杉 村 先 生 は 慣 習 法 上 の 権 利 利 益 も尊 重 され た 。 た とえ ば,公 物 を 長 ら く 占有 した 場 合,伝 統 的 な 行 政 法 学 は,明 示 の 公 用 廃止 行 為 が な い か ぎ り,民 法 上 の 時 効 取 得 を 認 め な か った の に た い して,民 法162条 の取 得 時 効 の要 件 事 実 が 存 在 す る とす れ ば,そ の 物 に つ い て は 黙 示 の 公 用 廃止 行 為 が あ った もの とみ な して,長 期 間 占 有 した者 の 権 利 利 益 の 取 得 を認 め られ た41)。こ の 杉 村 理 論 を,最 高 裁 が 判 例 と して 認 め た の は,よ 巻11号1104頁)で. うや く昭 和51年12月24日 判 決(民 集30. あ った42)。た だ し,最 高 裁 は,「 公 共 用 財 産 が,長 年 の 間事. 実 上 公 の 目的 に 供 用 され る こ とな く放 置 され,公 共 用 財 産 と して の 形 態,機 能 を 全 く喪 失 し,そ の物 の うえ に 他人 の平 穏 か つ 公然 の 占有 が 継続 した が,そ の た め 実 際上 公 の 目的 が害 され るよ うな こ と もな く,も は や そ の物 を 公共 用 財産 と して維 持 す べ き理 由 が な くな った 場合 」 とい う要 件 の下 で は じめ て 黙示 の公 用廃 止 を認 め る もの で あ った43)。. (4)と. ころ で特 筆 す べ き こ と と考 え るべ き こ とに,杉 村 先 生 は,行 政 の違 法. 無 過 失 責 任 を認 め よ う と され た。 す な わ ち,「国 や 公 共 団 体 と国 民 の 間 で は,公 権 力 を行 使 す るの は,国 や公 共 団体 の公 務 員 だ け で あ って,国 民 が,国 や公 共 団体 に対 して,公 権 力 を行 使 す る とい う こ とは あ りえ な い。 この点 で,私 人 相 互 間 の場 合 と異 な る。 国 や公 共 団体 の公 権 力 を行 使 す る公 務 員 が違 法 に 国民 に 損 害 を あ た え た以 上,本 来,公 務 員 に 『故 意 又 は過 失 』 が あ ろ う と,な か ろ う と,国 や公 共 団体 に賠 償 責 任 を み と め るべ き で あ ろ う。 要 す る に,こ の 問 題 は,. よ」 と指 示 され て いた に もか か わ らず,4時. 間 も動 い た り,公 園 を越 え て 映 画 館 ま で 横 出 しす れ ば,. 当然 に医 師 に叱 ら れ る こ と は間 違 い な い だ ろ う に。 41)杉. 村 「全 訂 ・行 政 法 講 義. 総 論(上. 習 を重 視 され る理 論 に啓 発 され て,私. 巻)』163頁 参 照 。 直 接 に は関 係 な い こ と だが,杉. 村 先 生 の慣. は,入 会 権 と財 産 区 に関 心 を も ち,慣 習 法 の 研 究 を 目指 した. こ と が あ る。 村 上 武 則 「財 産 区 と行 政 法 学 上 の諸 問 題 」(広 島 大 学)政. 経 論 叢24巻2号(1974年). 417頁 以 下 参 照。 42)杉. 村 先 生 は,私 の学 生 時 代,は. 43)広. 岡隆 「公 共 用 財 産 と取 得 時 効 」 行 政 判 例 百 選1〈. じめ て最 高 裁判 所 が 自分 の理 論 を認 め て くれ た と述 べ られ て い た。. 一14一. 第3版>71頁. 参照。.
(15) 法科大学 院論 集. 第10号. 違 法 な 行 政 に よ って 損害 を加 え られ た 犠牲 者 に,不 運 と して諦 らあ よ とい うの か,そ れ と も,違 法 に行 使 され る こ とが あ り う る こ とを知 りな が ら,公 権 力 を 行 使 す る権 限 を あ た え た 以上,国. 民 は そ の犠 牲 者 の損 害 を税 金 で填 補 す べ き か. の 問題 で あ る。」 と44)。 さ ら に,杉 村 先 生 は,別 の 箇 所 で,「 そ れ 故,た. とえ ば 公 権 的行 政 につ い て. い え ば,国 民 の権 利 義 務 の 変 動 を効 果 と して 生 じさせ る違 法 な公 権 的行 政 は, 原 則 と して,取 消 さ れ る必 要 が あ り,国 民 に 対 す る違 法 な 実 力 行 使 の結 果 も, 原 則 と して,原 状 回復 さ れ る必 要 が あ り,さ らに,こ れ ら違 法 な侵 害 ・制 限 に よ って 国民 に与 え た損 害 は賠 償 さ れ な け れ ば な らな い。」と述 べ られ,こ こで原 状 回復 とい う言 葉 を 明記 さ れ て い る45)。. (5)こ. の よ う に,杉. 村 先 生 は 違 法 無 過 失 責 任,そ. して原 状 回復 を考 え て お ら. れ た 。 も し こ の 理 論 を 発 展 さ せ る こ と が で き れ ば,今 例 上,慣. 日 の ドイ ツ で は 学 説 ・判. 習 法 上 の 権 利 と し て 明 白 に 承 認 さ れ て い る 憲 法 上 の 権 利 と して の 「公. 法 上 の 結 果 除 去 請 求 権 」(oeffentlich-rechtlicherFolgenbeseitigungsanspruch) を わ が 国 で も発 展 さ せ る こ と が で き る 萌 芽 を 見 い だ す こ と が で き る の で は な か ろ う か 。 そ の こ と に よ り,わ. が 国 に お い て も,憲. 法上の補償原理体系を欠鉄な. く確 立 す る こ と が で き る こ と に な る 。. (6)も. っ と も,杉 村 先 生 は,前 述 の よ う に損 害 の 填 補 と述 べ られ て い る。 し. た が って,違 法 無 過 失 責 任 とい って も,あ. くま で も損 害 賠 償 の 枠 内 に と どめ ら. れ て い る。 これ に対 して ドイ ツの 公 法 上 の 結 果 除 去請 求権 は,損 害 賠 償 で は な く原 状 回 復 を 問 題 と し,違 法 な 行 政 が な か った 場 合 に,以 前 に 存 して い た 法 状 態 を 元 に 戻 そ う とす る内 容 で あ る46)。 44)杉. 村 「内 閣政 治 と法 治 主 義 」 『続 ・法 の 支 配 と行 政 法 」(有 斐 閣,1991年)10頁. 45)杉. 村 「全 訂 ・行 政 法 講 義. 46)太. 田照 美 「ドイ ツ に お け る公 法 上 の結 果 除 去 請 求 権 の研 究 』(有 信 堂 高 文 社,2008年)101頁. 総 論(上. ∼11頁 参 照 。. 巻)』46頁 参 照 。. 一15一. 以下.
(16) 再論:杉 村敏正先 生の行政法学 と憲法 原理. とは い え,杉 村先 生 は無 過 失 責 任 を認 あ られ,か つ原 状 回復 とい う言 葉 も使 わ れ て い るの で あ る。 この 点 で ドイ ツ の公 法 上 の結 果 除去 請 求 権 と明 白 に相 通 ず る と こ ろ が あ る。 この 共 通 点 を さ らに 発 展 させ る こ とが で き な い だ ろ うか 。 す な わ ち,公 法 上 の原 状 回復 請 求権 と して の結 果 除去 請 求 権 は,そ の根 拠 と し て,ド イ ツ で は,三 段 階理 論,す. な わ ち第 一 段 階 と して正 義,第 二 段 階 と して. 法 治主 義 お よ び 第三 段 階 と して人 権 の統 合 性 の,三 つ の根 拠 を あ げ る の が通 説 と され る47)。杉 村 先 生 は,正 義 を一 貫 して重 要 視 さ れ て い る,ま た法 治 主 義 を 強調 さ れ て い る。 しか も人 権 を最 大 限尊 重 さ れ て い る。 した が って,杉 村 先 生 の理 論 を発 展 さ せ れ ば,ド イ ツ の公 法 上 の原 状 回復 請 求 権 を わ が 国 に も根 拠 付 け る こ とが で き る。. (7)も. し原 状 回復 請 求 権 を わ が 国 に も根 拠 づ け る こ とが で きれ ば,た とえ ば. 現 在 盛 ん に議 論 さ れ て い る過 誤 納 金 に た いす る損 害 賠 償 請 求 訴 訟 に お いて,最 高 裁 判 決(平 成22年6月3日. 民 集64巻4号1010頁)48)は,公. 定 力 とは 関係 な く,. 民 法724条 の 適 用 を認 め,不 法 行 為 が あ った と き か ら20年 前 に遡 及 して 損 害 賠 償 請 求 を認 め たが,原 状 回 復 請 求 権 に よれ ば,ド イ ツの よ う に,原 状 回 復 請 求 権 に時 効 な しの原 則 に基 づ き,さ. らに遡 及 して 過 誤 納 金 の 原 状 回 復 を 求 め る こ. とが で き る こ と にな る49)。 参 照 。 太 田 教 授 の 研 究 に よ れ ば,ド. イ ツ で は 国 家 補 償 の 体 系 の欠 嵌 を 結 果 除去 請 求権 に よ り埋 め る. もの で あ り(太 田 ・前 掲 書6頁. ∼9頁),そ. た と され よ う。 わ が 国 で は,権. 利 救 済 に 欠訣 が あ る の に,今. 前 掲 書 は,わ. の 意 味 で,ド イ ツ の結 果 除 去請 求権 は偉 大 な 発 見 で あ っ 日に 至 る ま で看 過 さ れ て い る。 太 田 ・. が 国 の 国 家 補 償 の あ り方 に 大 き な 課 題 を投 げ か け て い る と言 え よ う。. 47)太. 田 ・前 掲 書55頁 以 下 参 照 。. 48)田. 中 孝 男 『課 税処 分 と国 家 賠 償 」(行 政 判 例 百 選H〈. 49)過. 誤 納 金 返 還 問題 に,損. 第6版. 〉 有 斐 閣,2012年494頁)参. 照。. 害 賠 償 請 求 に よ る 救 済 ば か りで な く,原 状 回 復請 求 権 あ る い は結 果 除去. 請 求 権 に よ る 救 済 を考 え る 理論 と して,お. そ ら く 日本 で最 初 の研 究 と して,太. 田照 美 「租税 過 誤 納. 金 返 還 問 題 と公 法上 の原 状 回 復請 求権 」 産 大 法 学45巻1号(2011年)1頁. 以 下,お. に お け る 公 法上 の結 果 除去 請 求権 の研 究』(有 信 堂 高 文 社,2008年)239頁. が あ る。 ドイ ツ で は,結. よ び 同 『ドイ ツ. 果 除 去 請 求権 の 時効 の 問題 は ほ と ん ど考 え られ な か っ た が,近 年 は結 果 除去 請 求 権 の 時効 の 問題 が 議 論 さ れ て い る。 この状 況 に つ い て は,太. 田 ・前 掲 論 文17頁 以 下 参 照 。 一16一.
(17) 法科大学院論集. (8)も 法33条)に. 第10号. ち ろ ん,原 状 回復 の 問題 は,わ が 国 の行 訴 法 の取 消 判 決 の拘 束 力(同 よ り多 くの 問題 を解 決 で き る とす る余 地 も あ る50)が,前 述 の例 の よ. うに,取 消 判 決 とは 関係 な く,原 状 回復 請 求 権 に よ り独 自の救 済 手 段 を提 供 す る こ とが で き る の で あ る。 杉 村 理 論 は,こ の よ うな救 済 理 論 を も包 含 す る もの で は な か ろ うか。. (9)も. し こ こで,私 の勝 手 な比 喩 を お許 しい た だ け る な ら,ノ ーベ ル 賞 を受. 賞 さ れ た 山 中伸 弥 教 授 が4つ の遺 伝 子 を発 見 され,こ れ を導 入 す る こ と に よ り 細 胞 分 裂 が初 期 化 され,ips細. 胞(多 能性 幹 細 胞)を 生 成 す る こ とが で き る と. い う世 紀 の大 発 見 を遂 げ られ た よ うに,杉 村 先 生 の場 合 も,正 義,法 治 主 義 お よ び人 権 の統 合 性 とい う3つ の憲 法 原 理 「遺 伝 子 」 を用 いて,公 法 上 の 原 状 回 復 請 求 権 を構 築 で き る の で は なか ろ うか 。 そ の萌 芽 を杉 村 先 生 は既 に説 か れ て い た と考 え る の は行 き過 ぎで あ ろ うか 。 さ らに付 言 す れ ば,こ の 三 つ の 憲 法 原 理 「遺 伝 子 」 に,さ. らに 四つ あ の憲 法 原 理 「遺 伝 子 」 で あ る地 方 自治 尊 重 の 原. 理 を 加 え れ ば,国 の レベ ル だ け で な く,地 方 公 共 団 体 の レベ ル に お い て な お い っそ う輩 固 な憲 法 上 の人 権 を創 造 で き る,す な わ ち活 動 す る憲 法,具 体 化 さ れ た 憲 法 を地 方 自治 の 世 界 に 発 展 さ せ る こ とが で き るの で は な か ろ うか 。 い や,杉 村 先 生 は,さ. らに五 つ め の 「憲 法 原 理 遺 伝 子 」,す な わ ち平 和 国家 原 理. を加 え る こ と に よ り,よ り普 遍 主 義 的 な,活 動 す る平 和 国 家 憲 法 と して の 行 政 法 を構 築 で き る ので はな か ろ うか 。. 50)ド. イ ツで は,結 果 除 去 負 担(Folgenbeseitigungslast)の. 理 論 が あ る。 これ は 「行 政 庁 の誤 った. 行 為 の 事 後 的 な 訂 正 が 給 付 主 体 の 裁 量 の な か に あ る と ころ で は … …(中 対 す る請 求 権 の た め の 十 分 な 根 拠 を用 意 す る」 と され て い る(太 は わ が 国 の 取 消 判 決 の 拘 束 力 と相通 ず る と ころ が あ ろ う。. 一17一. 略,筆. 者)…. 田 ・前 掲 書6頁. … 原状 回復 に. な ど参 照)。 こ れ.
(18) 再論:杉 村敏正先生の行政法学 と憲法原理. 第4章. 杉村先生と平和国家原理. (1)杉 村 先 生 は,有 斐 閣 法 律 学 全 集 で防 衛 法 の執 筆 を担 当 され て い る51)。そ こで は,自 衛 隊 法 を憲 法 違 反 で は な い と仮 定 した うえで,そ. の法 解 釈 論 を展 開. さ れて い る。. (2)し か し,杉 村 先 生 の信 念 は,日 本 国 憲 法 の平 和 国 家 原 理 を守 る こ と に あ る。 杉 村 先 生 は,「第 一 に,憲 法 第 九 条 は戦 争 の放 棄 と戦 力 の不 保 持 を規 定 して い る。 戦 力 の 保 持 を認 め る場 合 に は 当然 に必 要 な宣 戦 ・講 和,統 帥 権 の所 在, 軍 の 組 織 ・編 成 な ど に関 す る規 定 を欠 いて い る こ とか らみ て,現 行 憲 法 が 自衛 隊 の 存 在 を認 め る もの で な い こ と は,明. らか で あ る。 した が って,国 民 が 憲 法. を 正 当 に解 釈 し,か つ,憲 法 を 尊 重 す る意 思 を もつ 限 り,国 民 に よ って 承 認 さ れ え な い 自衛 隊 の 存 在 を 前 提 と して,文 民 統 制 を 論 ず る こ と にな る。 この よ う な 変 則 的 な 事 態 が 生 じた の は,わ が 国 の 保 守 政 権 が,米 国 政 府 の 指 令 に基 づ い て 警 察 予 備 隊 を 発 足 させ,そ の 後,そ の 要 望 に対 応 しな が ら,防 衛 ・外 交 ・経 済 な どの 諸 政 策 を 推 進 して きた こ との 結 果 で あ る。 第 二 に,自 衛 隊 の 施 設 ・装 備 ・教 育 訓 練 ・行 動 な どが 米 軍 との 協 力 を 前 提 と して 行 な わ れ,し か も,米 国 政 府 が わ が 国 の 政 府 に対 し,外 交,経 済 な どの 面 で も指 導 的 な 立 場 にあ り,自 衛 隊 の 体 制 そ の もの が 日本 政 府 の み の 自主 的 決 定 に よ らな い と き,文 民 統 制 が どの 程 度 に有 効 に機 能 を発 揮 す るか に も問題 が あ る。 第 三 に,現 在 の よ う な, 選 挙 制 度,議 会 制 度 の 運 用 が 行 な わ れ,勤 労 者 の生 命 ・身 体 ・財 産 の 尊 重 に対 して 資 本 の 利益 の 擁 護 に傾 く政 権 の 下 に,文 民統 制 が どの 程 度 に 真 に本 来 の 機 能 を 発 揮 す るか に も問題 が あ る。 この よ うに 考 え れ ば,文 民統 制 の 原理 は,単. 51)杉 村 敏 正 「防衛 法 』(有 斐 閣 法 律 学 全 集12,1958年)。 一18一.
(19) 法科大学 院論集 に,制. 度 的 ・形 式 的 な 問 題 と し て,把. 第10号. 握 さ れ る だ け で は 不 十 分 で あ ろ う。」 と. さ れ る52)。. (3)と. ころ で,杉 村 行 政 法 学 は,日 本 国憲 法 原 理 の枠 内 だ け で平 和 の 問題 を. 考 え られ て い る わ け で は な い。 日本 国憲 法 の平 和 原 理 に と って,そ. して杉 村 行. 政 法 学 に と って,し か も 日本 の全 実 定 法 体 系 に お い て,日 米 安 全 保 障条 約 は避 け て通 る こ と の で き な い 問題 で あ る。1960年 に改 正 さ れ た こ の条 約 は,日 米 間 の軍 事 同盟 条 約 の性 格 を帯 び て お り,戦 争 法 体 系 の なか に 日本 国 憲 法 も取 り込 まれ て い る。 杉 村 行 政 法 学 に と って 避 け る こ と ので き な い問 題 が こ こ に提 起 さ れ て い る。 杉 村 先 生 は真 摯 に安 保 体 系 の問 題 に取 り組 まれ て い た。 そ の分 析 の 結 果 は,た とえ ば,「 行 政 法 の諸 問題 」 に お い て著 さ れ て い る53)。. (4)杉. 村 先 生 の 戦 争 と 平 和 に 対 す る 想 い は,次. す な わ ち,「 甥 に は,父 学 校 を 出 て,就. の 一 節 に よ く示 さ れ て い る 。. の 日 は 父 を し の ぶ 日 で あ る 。 今 は 成 長 し,夜 間 高 等 工 業. 職 し て い る が,母. 子 家 族 の 生 活 は つ ら か っ た ろ う。 彼 も 父 を ほ. とん ど知 らな い 。父 は戦 争 で 奪 わ れ た。 中東 戦 争 の ニ ュー ス を み た 。歩 兵 の戦 死 者 の 死 体 は 黒 こ げ で あ っ た 。 そ こ で も,父 界 で も,製 社 で,儲. 鉄 業 界 な ど は,ベ. が 奪 わ れ て い る。 今 の 日 本 の 経 済. トナ ム 戦 争 に よ っ て,息. を つ い て い る。 会 社 は 会. け さ え す れ ば よ い と い え る だ ろ う か 。 直 接,間. の た め に 父 を 奪 わ れ て い る ベ トナ ム の 住 民 。 結 局,父. 接 の 『死 の 商 人 』,そ. の 日 も,す. べ て の人 間 の. 幸 福 を 考 え る 『人 類 の 日 で な け れ ば な ら な い の で は な い か 。 日本 国 憲 法 は,ま さ に そ の よ う な 理 想 を 高 く う た い あ げ て い る の で あ る が 』」 と54)。 も っ と も 先 生 は 神 社 神 道 を 信 じ ら れ て い た 。 も し私 の 記 憶 に 間 違 い な け れ 52)杉. 村 敏 正 「憲 法 第 九 条 と行 政 上 の 諸 問 題 」 『憲 法 と行 政 法 』(行 政 の 姿 勢)171頁. 53)長. 谷 川 正 安 ・宮 内 裕 ・渡 辺 洋 三 編 『安 保 体 制 と法 』(三 一 書 房,1962年)所. 54)杉. 村 敏 正 「お父 ち ゃん へ 」 『憲 法 と行 政 法 』(随 想)196頁. た い す る想 い が 込 め られ て い る。. 一19一. ∼172頁 参 照 。. 収67頁 以 下 。. 参 照 。 こ こ に も杉 村 先 生 の反 戦 平 和 に.
(20) 再論:杉 村敏正先生の行政法学 と憲法原理. ば,先 生 の お兄 様 が 靖 国 神 社 に祀 られ て い る こ とで,先 生 自身 が,靖 国 神 社 に お参 り して 兄 に会 い た い と言 わ れ て いた こ とを 想 い 出す 。 この こ と は先 生 個 人 の信 教 の 自 由 の問 題 で あ ろ う。. (5)今. ま さ に,状 況 は著 し く変 化 して きた 。 再 び 戦 争 の 勃 発 の 予 感 が す る と. い うの が 大 方 の 感 じで はな か ろ うか 。 杉 村 先 生 の 当 時 欠 けて い た 軍事 法 体 制 が 着 々 と整 備 され つ つ あ る。 けれ ど も杉 村 先 生 の 憲 法 原 理 は 普 遍 的 な 性 格 を 有 し て い る。 山 中教 授 のips細. 胞 の よ う に,杉 村 先 生 の憲 法 原 理 遺 伝 子 を 用 いて,. 日本 国 憲 法 の 原 点 に戻 って,平 和 を 守 り発 展 させ た い もの で あ る。 杉 村 先生 が 語 られ て お られ る よ う に,父 を 戦 争 で 奪 わ れ る子 を 作 らせ て は な らな い。 しか し一 歩 横 出 しす る こ とを 杉 村 先 生 にお 許 しい た だ け るな ら,同 様 に,子 を戦 争 で 奪 わ れ る母 を 作 らせ て は な らな い だ ろ う し,ま た 夫 を戦 争 で 奪 わ れ る妻 を作 らせ て はい けな い 。. 第5章. (D杉. 杉村行政法学 と地方自治尊重原理. 村 先 生 は,日 本 国 憲 法 の地 方 自治 尊 重 原 理 を強 く尊 重 さ れ て い る。 道. 州 制 に対 して,次 の よ うに述 べ られ て い る。 す な わ ち,「 しか し,最 近,財 界 か ら主 張 され る道州 制案 で は,現 在 の都 道 府 県 の 区域 の狭 少 に よ る行 政 の効 率 的 運 営 の支 障 を 指 摘 し,道 州 の長 の 公選 制 を承 認 して い る。 しか し,い ず れ に して も,現 在 の市 町村 や都 道 府 県 に して も,完 全 自治 体 と い わ れ な が ら も,完 全 自治 体 とい うに値 す る ほ ど,行 財 政 上 の権 限 を与 え られ て い な い。 この こ とは,都 道 府 県 の場 合,と. くに顕 著 で あ る。 こ の よ うに,府. 県 や市 町村 の 自治 権 の確 立 を ま た ず して,道 州 制 を とる こ と は,結 局,全 体 と して の地 方 自治 制 を さ らに弱 体 化 し,も っぱ ら,産 業 基 盤 整 備 の た め の公 共 投 資 の集 中 を強 化 す る こ とに な る。 道 州 とい う区域 に お い て は,も は や,地 方 自 一20一.
(21) 法科大学院論集. 治 体 の性 格 を もつ と い っ て も,そ れ は形 式 論 に過 ぎず,そ. 第10号. こで の 政 策 決 定 は住. 民 の 声 と 手 の 届 か な い 財 界 と 政 界 の 有 力 者 の 掌 中 に 帰 す る こ と に な る 。」 と55)。. (2)現. 在 ま さ に大 阪. 「都 」 構 想 が 議 論 さ れ て い る56)。 しか し,道. 州 制 も着 々. と進 みつ つ あ る。 も し道 州 制 が 実 現 され れ ば,都 道 府 県 はな くな って しま う可 能 性 もあ ろ う。 しか し地 方 自治 権 の 確 立 は,道 州 制 に よ って 真 に可 能 な の で あ ろ うか 。 形 式 的 に 道 州 の地 方 自治 権 は拡 大 して も,先 生 の危 惧 さ れ て い るの は,住 民 自治 権 の保 障 で あ るが,そ の 確 固 た る保証 は未 だ 見 当 た らな い まま で あ る。. 55)杉. 村 「地 方 自治 一 そ の現 状 の 批 判 と将 来一 」 『憲 法 と行 政 法 』112頁 参照 。. 56)大. 阪 「都 」 構 想 を歴 史 的 に 振 り返 って み る と,「1955年 頃,大. は 田 中 二 郎 博 士)に. 阪 府 地 方 自 治 研 究 会(当. 時 の会 長. よ り 『大 阪 商 工都 』 構想 が 提案 さ れ た こと が あ っ た。 こ の 「都 』 は地 方 自 冶法. 上 の 都 制 で は な く,憲 法95条 に よ り一 つ の地 方 公共 団体 の み に適 用 さ れ る法 律 でつ く られ る べ き こ とを 想 定 して の 内容 で あ る。 こ の 案 に よ れ ば,大 け,区. 阪商 工 都 の下 に は,特 別 区 で は な く,自 治 区 を設. 長 を 知事 が 任命 す る とい う案 で あ った。」(高 田敏 ・村 上 武 則 編 『フ ァン ダ メ ンタ ル地 方 自治. 法 〈第2版 〉』 〈 法 律 文化 社,2009年>223頁 「ま た,大. 阪府 の 太 田(元)知. て い る府 地 方 自治 研 究 会(成. 参 照)。. 事 が 提 唱 した 「大 阪都 構 想」 な どの 具 体 化 に 向 け た 制 度 を 検 討 し 田頼 明会 長)は,2003年6月13日,府. と,府 を な く し欧州 連 合(EU)の. 市 合 併 に よ る東 京 都 に近 い方 式. よ う な市 町村 の広 域 連 合 をつ くる方 式 の2案. を 中間 報 告 に ま と め. 知 事 に 提 出 した。 い ず れ も,き め細 か な行 政 サ ー ビス を め ざす 観 点 か ら,大 阪 市 の再 編 や分 割 が 必 要 だ と して お り,大 都 市 の強 い 自主 性 を打 ち 出 そ う と 『特 別 市 』 構 想 を掲 げて い る大 阪 市 と は,正 反 対 の方 向 と な っ て い」 た(高 は,2004年(平. 成16年)10月. 田 ・村上 編 ・前 掲 書223頁 参 照)。 そ の 後,同. 研 究 会(成. 田 頼 明会 長). 最 終 報 告 を提 出 した が,そ れ に よれ ば 「大 阪 府 を廃 止 し,新. しい タ イ. プ の 広 域 連 合 で あ る 「大 阪新 都 機 構 』 を 設 置 す る。」 「市 町 村 は,広 域 連 合 で あ る 「大 阪 新 都 機 構 』 を構 成 す る と と もに,国 や 大 阪 府 か ら権 限 移 譲 を 受 け,住 民 に 身 近 な 行 政 を 自立 的 に 執 行 す る」「道 州 制(関. 西 州)と. い っ た新 た な制 度 を導 入 す る場 合 に も,大 阪 新 都 は関 西 州 と併 存 しつ つ,大. 阪都. 市 圏,関 西 の発 展 を支 え る核 と して の役 割 を果 たす 」 こ とが 提 案 され た 。 そ して,政 治 的 な動 き の な か で,広 域 連 合 方 式 で はな く,2012年8月29日 都 市 地 域 特 別 区設 置 法 」 が 可 決 成 立 し,同 年9月5日 以 前,地. 方 自治 法 第281条 第1項. 一 挙 に新 た な 法 律 「大. に平 成24年 法 律 第80号 が 公 布 され た。 法 改 正. は 「都 の 区 は こ れ を特 別 区 とい う」 と規 定 さ れ て い た が,法. で 「総 務 大 臣 は こ の法 律 の定 め る所 に伴 い,道 府 県 の 区 域 内 にお いて,特. 改正. 別 区 の 設 置 を 可 能 」 と定. め,一 定 手 続 き を経 過 後 に,総 務 大 臣が 認 可 を す れ ば道 府 県 で も特 別 区 設 置 可 能 と改 正 され た 。 一21一.
(22) 再論:杉 村敏正先生の行政法学 と憲法原理. お わ りに. (1)ド. イ ツ の ブ ム ケ 教 授57)に よ れ ば,ド. の 行 政 法 学 が 自 信 を 喪 失 し,代. 際,他. つ て の 法 教 義 学 と して. わ っ て 政 治 学 や 社 会 学 が 隆 盛 と な っ て き た が,. 行 政 法 学 が そ の 自 信 を 取 り戻 す た め に,様 の た め に,科. イ ツ で は,か. 々な 改 革 が な され て い る。 と くにそ. 学 化 が 志 向 さ れ て い る 。 危 機 か らの 脱 出 と も 表 さ れ て い る 。 そ の. の 隣 接 科 学 と の 対 話 も提 案 さ れ て い る。 と り わ け,社. wissenschaften)に. 会 諸 科 学(Sozial-. 期 待 が 寄 せ ら れ て い る 。 そ こ か ら,ド イ ツ で は,社 会 現 実,. お よ び 法 律 学 上 の 決 定 に お け る 実 際 の 影 響 要 素 に 関 し 信 頼 で き る 解 明(Aufklaerung)ば. か りで な く,法 的 な 紛 争 に 投 影 さ れ て い る 社 会 問 題 を 処 理 す る 解. 決 提 案(Loesungsvorschlaege)に,期 授 の こ の 論 説 を 見 る と,現. 待 が 寄 せ ら れ て い る58)。 ま た ブ ム ケ 教. 在 に 至 る ま で の ドイ ツ の 行 政 法 学 理 論 発 展 の 歴 史 が. 非 常 に よ く分 か る59)。 そ れ ら を 鳥 畷 す れ ば,わ. が 国 の行 政 法 学 の な か で 杉 村理. 論 が どの よ うに位 置 づ け られ る か の 問 題 も 自ず か ら理 解 で き る よ う に思 わ れ る。. 57)ブ 時,大 在,ド 58)ブ. ム ケ 教 授 は,2007年10月. か ら 同 年11月. に か け て,大. 阪大 学 に 客 員研 究員 と して 滞 在 さ れ た。 当. 阪 大 学 は ドイ ツ の 新 進 気 鋭 の 将 来 性 に 富 む 若 手 の 教 授 を 招 聰 さ れ て い た 。 ブ ム ケ 教 授 は 現 イ ツ ・プ チ ェ リ ウ ス ロ ー ス ク ー ル の 教 授 で あ る 。 ム ケ 教 授 の 理 論 に つ い て は,太. 田照 美. 「ヨ ー ロ ッ パ 化 に 伴 う ド イ ツ 行 政 法 学 の 改 革 一 ク リ ス. チ ャ ン ・ブ ム ケ 教 授 の 『 ドイ ツ に お け る 行 政 法 学 の 方 法 論 の 展 開 」〈ChristianBumke,DieEntwicklungderverwaltungsrechtswissenschaftlichenMethodikinderBundesrepublikDeutschland, SS.73ff.〉. の 紹 介 一 」 「ヨ ー ロ ッ パ に お け る 人 権 問 題 』<大 阪 国 際 大 学 研 究 叢 書No.14,2006年3月>. 196頁 以 下,と 頁 ∼231頁 59)ド. く に197頁,205頁. ∼206頁,208頁,210頁,214頁. 以 下,221頁. ∼223頁,228頁,230. 参 照 。. イ ツ で は,行. 政 法 学 の 歴 史 に つ い て は,こ. DieVerwaltungsrechtswissenshcaft,1909)や Verwaltungsrechts,1948)な. れ ま で た と え ば,シ. ど が あ っ た が,ブ. 行 政 法 学 の 動 き も含 め て 良 く分 析 さ れ て あ り,非 し て い る 。 ま た,ブ 先 生(AndreasScheller,ド. ュ ピ ー ゲ ル(LudwigSpiegel,. デ ネ ヴ ィ ッ ツ(BodoDennewitz,DieSystemedes ム ケ 教 授 の 上 記 論 説 に お い て は,最. ム ケ 教 授 の 同 論 文 に つ い て は,か. つ て大 阪大 学 大 学 院 で学 ば れ て い た シ ェ ラ ー. イ ツ ・フ ラ ン ク フ ル トに 生 ま れ,現. 一22一. 近 の ドイ ツ の. 常 に参 考 に な ろ う。 太 田論 文 は そ れ を 克 明 に紹 介. 在 広 島 国 際 大 学 准 教 授)が. 一 緒 に.
(23) 法科大学院論集. 第10号. こ の よ う に ブ ム ケ教 授 は行 政 法 学 の科 学 化 を志 向 され る と と もに他 の隣i接科 学 との 対 話 も強 調 さ れ る と こ ろ で あ る。 他 の 隣 接 科 学 との 対 話 につ い て 言 え ば,わ が 国 に お いて も,公 法 学 と諸 科 学 と の対 話 の 意 義 が 強 調 され て い る と こ ろで あ る60)。. (2)杉 村 先 生 の 場 合,最 初 か ら と い うべ きで あ ろ うか,行 政 法 教 義 学 ば か り で な く,政 治 学,行 政 学,法 社 会 学,マ ル キ シ ズ ム 法 学 に強 い 関 心 を 寄 せ ら れ61),行 政 法 学 を よ り客 観 的 に見 る こ とを 強 く志 向 され て い た 。 別 言 す れ ば 杉 村 先生 は,科 学 と して の 行 政 法 学 を 目指 され て い た。 現 今 の ドイ ツの 行 政 法 学 に お け る改革 視 点 そ の もの は,杉 村 先生 の場 合,は. じめ か ら存 在 して い た とい. え よ う。. (3)正. 義 に 基 づ く こ と,お. よ び 日本 国 憲 法 原 理 を 重 視 す る こ と,な. らび に科. 学 と し て の 行 政 法 学 を 構 築 す る こ と を 志 向 さ れ た 杉 村 先 生 の 行 政 法 学 は,今 な お,行. 政 法 学 と し て の み な らず,生. (ロ レ ン ツ ・フ ォ ン ・シ ュ タ イ ン)と. き た 憲 法 と し て,ま. リ ッ ツ ・ウ エ ル ナ ー)と. し て,今. し て,あ. た. 日. 「活 動 す る 憲 法 」. る い は 「具 体 化 さ れ た 憲 法 」(プ. な お 私 た ち の 目 の 前 に 存 在 し続 け,わ. た した. ち を導 か れ て い る よ う に感 じる。 翻 訳 を 援 助 して くだ さ って い た の で,ド. イ ツ語 の ニ ュア ンス につ い て も,可 能 な か ぎ り正 確 に 内 容. が 伝 わ って い る 。 60)た. とえ ば,礒 野 弥 生 「公 法 学 と諸 科 学 と の対 話 」 公 法 研 究73号(有. 61)「 二 〇 年 近 く前 の こ と に な る か と思 い ま す が,長 つ い て 報告 さ れ ま した が,そ. の 折,受. 斐 閣,2011年)63頁. 以下参照。. 谷 川 正 安 教 授 が 公 法 学 会 で 『憲 法 学 の方 法 』 に. け た感 激 と衝 撃 は い ま だ に忘 れ る こ とが で き ま せ ん し,ま た. 渡 辺 洋 三 教 授 の 「法 社 会 学 』 に つ い て の 著 書 や,『 公 営 住 宅 の 利 用 関係 』 に つ い て の 論 文 を読 ん だ とき の 印 象 も い ま に心 に 刻 み 込 まれ て い ます 」 と述 べ られ て い る(杉 村 「新 法 学 生 の 諸 君 へ 」 『憲 法 と行 政 法』(勤 草 書 房,1972年)10頁. 参 照)。 ま た,杉 村 先 生 の教 科 書 に は,長 濱 政 寿 先生 の行 政. 学 の成 果 が よ く引用 さ れ て い る と こ ろ で あ る。 た と え ば,杉 村 『全 訂 ・行 政 法 講 義 4頁 註1),5頁. 註1),13頁. 註1),21頁. れ て い る。 杉 村 ・前 掲 書51頁 註5),53頁 れ て い る。 た と え ば,杉 村 ・前 掲 書7頁. 註8)参 註1)参 註2)参 一23一. 総 論(上. 巻)』. 照 。 ま た,辻 清 明 教 授 の 行 政 学 の 成 果 も 引用 さ 照 。 さ らに丸 山真 男 教 授 の政 治 学 の成 果 も引用 さ 照。.
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