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<臨床研究>小児弾発母指の保存療法について 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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小児弾発母指の保存療法について

渡 辺   寛,浜 田 良 機,戸 島 忠 人,長 沢 晃 樹

山梨医科大学 整形外科学教室 抄 録:小児弾発母指に対する患指の他動伸展運動を行う保存療法の有用性と限界について検討し た。対象とした 20 指中 11 指 55 %は,最長 4 年,平均 2 年 9 カ月で改善をみた。一方,改善のない 9 指の治療期間は最長 2 年 6 カ月,平均 11 カ月と改善例に比べ短期であった。以上から改善のない 症例に対しても,さらに治療続行することで改善が期待できると思われた。日常生活での障害がな い小児弾発母指に対する手術の適否は少なくとも 4 年以上の保存療法施行後に判断するのが妥当で あると考えている。 キーワード 保存療法,弾発母指,小児 Ⅰ.はじめに 弾発母指は長母指屈筋腱上に存在する一番近 位の輪状靭帯(annular ligament)である A1腱 鞘の部位で屈筋腱が走行障害を受けるため,母 指の指節間関節の屈曲あるいは伸展障害がおこ り,また屈筋腱が A1腱鞘を通過する際弾発現 象を伴うものである。その治療法は成人の場合 には手術的に A1腱鞘を切除する腱鞘切開術が 選択されることが多いが,小児例では成人例と 異なり,経過観察により症状の改善する例が報 告されている1–3)。しかし初診時より患指伸展 位での固定装具の使用などの保存的治療を行っ ても著明な改善のみられない症例もある。この ような臨床的事実と小児に対する手術が家族, 特に母親に与える心理的,社会的影響を考慮す ると,最初から腱鞘切開術を行うか,あるいは 一定期間保存療法を施行したのちに手術に踏み きるかについては,意見の一致をみないのが現 状である。われわれは小児弾発母指に対しては 直ぐに手術を施行することなく,母親による患 指の他動的伸展を指導して経過観察する保存療 法を行ってきた。今回は,これらの症例の成績 から本症に対する保存療法の有用性と限界につ いて検討したので報告する。 Ⅱ.対  象 当科で加療した小児弾発母指のうち,手術を 施行せず当科の保存療法を施行した男児 5 例, 女児 13 例の計 18 例 20 指を対象とした。罹患 側は,右側 9 例 50 %,左側 7 例 39 %,両側 2 例 11 %で,右側罹患例が多い傾向をみた。こ れら症例の初診時年齢は生後 1 カ月から 6 歳, 平均 2 歳 5 カ月で,1 歳未満の症例が 8 例 45 % を占めていた。 初診時所見では,全例 A1腱鞘の部位に腫瘤 を触知し,母指指節間関節の自動運動による完 全伸展は不能であったが,20 指のうち 3 指は 他動的に弾発現象をともなった完全伸展が可能 であった。 〒 409-3898 山梨県中巨摩郡玉穂町下河東 1110 受付: 1999 年 12 月 24 日 受理: 2000 年 2 月 2 日

臨床研究

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Ⅲ.治療方法 全例に対して,自宅で用手的に中手指節間関 節を伸展位に固定した状態で,母指指節間関節 の伸展運動を他動的に,毎日 10 回程度,患児 が疼痛を訴えない範囲で行うように母親を指導 した。そして,4 から 6 カ月後の来院時に母親 にその治療法を継続しているかどうかを実際に 母親に施行させ,施行法に誤りのないことを確 認して経過を観察した(図 1)。 Ⅳ.結  果 最終観察時には 20 指中 11 指 55 %が自動伸 展可能となっていた。このうち初診時弾発現象 とともに他動的伸展が可能であった 3 指のうち 2 指では弾発現象もなく完全伸展が可能となっ ていたので完全治癒としたが,1 指では症状の 改善はなかった。他方初診時他動的伸展が不可 能であった 17 指のうち,9 指は弾発現象を伴 う自動的伸展が可能となったが,8 指は症状の 変化がなかった。 症状が改善した 11 指の改善までの期間は初 診後 4 カ月から 4 年,平均 2 年 9 カ月であった。 また改善のない 9 指 45 %の治療期間は 2 カ月 から 2 年 6 カ月,平均 11 カ月であった。なお 経過中に症状の悪化した例や日常生活動作に障 害を訴えた症例はなかった。 4 年以内に改善した 11 例のうち,治療開始 後 12 カ月以内に改善をみたのは 1 例 9 %,12 から 24 カ月以内に改善したものは 3 例 27 %, 24 から 36 カ月以内に改善したものは 1 例 9 %, そして 36 から 48 カ月以内に改善をみたものは 6 例 55 %で,症状が改善した症例の半数以上 は 3 年以上継続して保存療法を施行していた。 他方非改善例では 9 例中 7 例が治療期間 1 年以 下であった。初診時年齢については,各年代に 分散しており,症状改善例との間には明らかな 関係はみられなかった(表 1)。 図 1. 当科での保存療法 罹患母指の中手指節間関節を母親により伸展位に保持,指節間関節の 他動的な屈曲(A)伸展(B)運動を毎日 10 回程度,患児が疼痛を訴 えない範囲で行う。 A B

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Ⅴ.代表症例 症 例: 3 歳 4 カ月,女児。 現病歴:母親が生後 3 カ月頃より右母指の屈曲 変形に気付いていたが放置していた。 既往歴:特記すべきことなし。 初診時所見:右母指の中枢掌側指皮膚線のやや 中枢に A1腱鞘の部位に一致して腫瘤を触知す る。中手指節間関節の可動域制限はないが,指 節間関節は自・他動完全伸展は不能であった。 なお中手指節間関節過屈曲位における指節間関 節の完全伸展は可能であった(図 2)。 経過および結果:前述の方法により患指の指節 間関節の他動的伸展運動を母親に指導した。そ の結果,初診の約 2 年後弾発現象とともに指節 間関節の他動的伸展が可能となり,約 4 年後の 現在,指節間関節の自動運動による屈伸が可能 となった(図 3)。 図 2. 3 歳 4 カ月,女児,右母指弾発指。 初診時,右母指の中枢掌側指皮膚線のや や中枢に腫瘤を触知する。中手指節間関 節の可動域制限はないが,指節間関節は 自他動的完全伸展は不可能であった。 表 1. 改善例と非改善例の治療期間では前者は後者に比べより長期である。

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Ⅵ.考  察 本症に対する保存療法として各種の装具療法 による成績が報告されている。1994 年,根本 ら4)は患指を可及的に伸展位とした軟性ポリ エチレン製の装具で初診時年齢 1 カ月から 6 歳 3 カ月の 39 例に対し保存療法を行い,治療開 始後平均 11 カ月で 52.5 %に自動運動による母 指指節間関節の屈伸が可能になったと述べてい る。また 1981 年根来ら5)は前腕よりの母指伸 展装具で平均初診時年齢 15 カ月,平均経過観 察期間 5.6 カ月の 26 例中 22 例 84.6 %に改善を みたと報告し,いずれも各種装具治療の有用性 を強調している。そのほか,装具療法の成績に ついては楠2),露口6),石倉7),杉本8),対馬9) らの報告によれば,初診時年齢が 2 歳 1 カ月か ら 3 歳 3 カ月,平均観察期間が 7 カ月から 2 年 8 カ月では,その改善率は 48 %から 86.7 %で ある。 一方,小児弾発母指の放置例の治癒率につい て,Dinham ら1)は生下時から症状を認めた弾 発母指では生後 12 カ月までに 30 %,生下時に は明らかな症状がなく,生後 6 から 30 カ月に 発症した弾発指では 12 カ月以内に 12 %が改善 したと報告している。また道振ら3)は初診時 年齢が生後 1 カ月から 9 歳の 142 指の弾発指の うち,72 指 50.9 %が特別な治療することなく 5 年 2 カ月の経過で症状改善をみたと報告して いる。このように本症は自然経過により症状の 改善をみる症例も多い。 以上のように自然放置例の改善率と装具療法 の改善率では前者が優れているものがあるが, その理由としては装具の必要性について小児が 理解することは困難であるため,いやがって装 用しない,さらには小児の手指への装具の適切 な装用や長期にわたる装着が指のサイズから困 難であり,実際にはほとんど使用されていない ためとの意見がある10) われわれは,以上の様な問題点から,小児に 対しては装具療法は適切でないと考えて母親に よる指節間関節の他動的伸展運動を毎日 10 回 程度施行する保存療法を指導して経過を観察し た。その結果平均経過観察期間 2 年 9 カ月,平 均年齢 4 歳 2 カ月の時点で 11 指 55 %に改善を 認めた。これは装具療法による平均改善率に比 べてほぼ同等の結果であった2,4–9) 今回の保存療法で 9 指,45 %には改善をみ なかった。現在のところ症状の改善をみる治療 期間についての詳細な報告がないこと,対照群 として当科での放置例や装具療法施行例がない ことから,これら 9 指が改善例と同じ時期まで 治療を継続することで改善が得られるか否かは 不明である。しかし,われわれの非改善例の治 療期間が平均 11 カ月ときわめて短いこと,ま た改善例の 55 %が 36 から 48 カ月の治療期間 を要したことから,非改善例においても今後経 過観察を続けることにより症状の改善が期待で きるものと思われる。今回の結果より,われわ れの方法は装具装着の問題点を解決しかつ,自 然放置例にくらべ最長 4 年,平均 2 年 9 カ月と より早期に弾発現象の消失や母指指節間関節の 完全伸展をみたことから小児の弾発指の保存療 法として有用な方法の一つといえる。 図 3. 3 歳 4 カ月,女児,右母指弾発指,初診後 4 年。弾発現象もなく,自動運動による完全 伸展が可能となった。

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手術の適応と時期については,Dinham1) 二次的変形などを考慮して 4 歳以前,南條11) らは指変形の発生を考慮し初診後 6 カ月から 1 年の経過観察後改善しないものとしている。し かしわれわれは,症状改善をみるまでの最長の 経過観察期間は 4 年であったが,その間 ADL 障害や手指骨の変形など,重篤な合併症ををみ ないことから,経過観察中に 2 次的変形の発生 をみない場合は12),少なくとも 4 年以上の経過 観察ののち手術を施行するのが妥当と考えてい る。 引用文献

1) Dinham JM, Meggitt BF: Trigger thumbs in chil-dren: review of natural history and indications for treatment in 105 patients. J Bone Joint Surg,

56B: 153–155, 1974. 2) 楠 正敬,中本俊毅,香月憲一,福島賢三:乳 幼児バネ指に手術的治療は必要か?.日手会誌, 6: 490–493, 1989. 3) 道振義治,村上宝久,熊谷 進,大山 守:小 児弾発指の自然経過に関する考察.29: 1648– 1651, 1978. 4) 根本孝一 他:小児バネ指の保存的治療.日手会 誌,11: 151–155, 1981. 5) 根来秀明,塩田 誠,畑中生稔,中野謙吾: Trigger thumb の保存的治療について.整形外 科,32: 1732–1734, 1981. 6) 露口雄一,多田浩一,米延策雄,行岡正雄,原 田一孝,栗崎英二:小児弾撥指の装具療法.整 形外科,32: 1724–1726, 1981. 7) 石倉哲雄,村上宝久,熊谷 進,鈴木克侍,菅 剛猛:小児バネ母指の保存的治療について.日 手会誌,1: 349–352, 1984. 8) 杉本良洋:小児ばね指の治療.整形・災害外科, 34: 1047–1050, 1991. 9) 対馬祥子,大溝呂章:強直母指の装具療法.作 業療法,8: 610–616,1989. 10) 伊藤貴夫,山内茂樹,島村浩二:小児バネ指の 遠隔成績.整形外科,39: 1478–1481, 1988. 11) 南條文昭:あすへの整形外科展望 ’76,金原出 版,東京,p189, 1976. 12) 杉本良洋,松井 猛,井上広司,奥原 佐,関 隆教:小児ばね指の追跡調査.整形外科,32: 1726–1729, 1981.

参照

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