• 検索結果がありません。

<総説> 真性赤血球増加症:最新の話題 利用統計を見る

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "<総説> 真性赤血球増加症:最新の話題 利用統計を見る"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

真性赤血球増加症:最新の話題

小 松 則 夫

山梨大学医学部附属病院血液内科

要 旨:真性赤血球増加症 polycythemia vera(PV)は多能性血液幹細胞の腫瘍性増殖による骨髄 増殖性疾患の一つで,特に赤血球数および総血液量の著しい絶対的な増加を特徴とする。診断には PV study group による古典的診断基準が用いられているが,最近では WHO による新しい診断基準 が提唱され,血清エリスロポエチン濃度の低下,内因性赤芽球系コロニー形成などが加えられ,よ り実用的なものになっている。赤血球産生には造血因子であるエリスロポエチンが必須であるが, ごく最近,PV 患者においてこの造血因子の細胞内シグナル伝達に中心的役割を果たす JAK2 チロシ ンキナーゼの遺伝子変異が報告された。この遺伝子変異によって JH2 領域の 617 番目のバリンがフ ェニルアラニンに置換し,そのため JH2 の本来の機能である JAK2 のチロシンキナーゼ活性を抑制 する機能が作動しなくなり,細胞内へのシグナル伝達が亢進することになる。実際,この変異遺伝 子を導入した骨髄細胞を移植されたマウスは赤血球増加症を来すことから,この遺伝子変異が PV の発症に重要な役割を演じていることは明らかである。 キーワード 真性赤血球増加症,本態性血小板血症,慢性特発性骨髄線維症,JAK2 チロシンキナ ーゼ,エリスロポエチン 1.はじめに 真 性 赤 血 球 増 加 症 polycythemia vera(PV) は多能性血液幹細胞の腫瘍性増殖による骨髄増 殖性疾患の一つで,特に赤血球(RBC)数およ び総血液量の著しい絶対的な増加を特徴とす る。1892 年に Vasquez(ヴァケー)がはじめて 報告し,1903 年に Osler(オスラー)がこの疾 患をさらに詳細に記載した。別名 Vasquez 病, Vasquez-Osler 病,Osler 病とも称される由縁で ある。本邦では年間 10 万あたり 2 人の割合で 発生する。診断時年齢は 50 ∼ 60 歳代が多く, 男女比は 1.2 ∼ 2.2 : 1 である。若年者発症例 は ま れ で あ る 。 診 断 に は PV study group (PVSG)による古典的診断基準(表 1)が用い られているが,最近では WHO による新しい診 断 基 準 が 提 唱 さ れ , 血 清 エ リ ス ロ ポ エ チ ン (erythropoietin; EPO)濃度の低下,内因性赤 芽 球 系 コ ロ ニ ー ( endogenous erythroid colony; EEC)形成などの実用的な項目が加え られている(表 2)。赤血球産生には造血因子 である EPO が必須であるが,ごく最近,PV 患 者においてこの造血因子の細胞内シグナル伝達 に中心的役割を果たす JAK2 チロシンキナーゼ の遺伝子異常が報告された。この変異遺伝子を 導入した骨髄細胞を移植されたマウスは赤血球 増加症を来すことから,この遺伝子変異が PV の発症に重要であることが明らかになった。本 稿ではその詳細を概説する。 2.基礎編 JAK2 は細胞質型(非受容体型)チロシンキ 〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 受付: 2005 年 6 月 28 日 受理: 2006 年 2 月 8 日

総  説

(2)

表 1 真性赤血球増加症の標準的診断基準(PVSG) 基準 A(大基準) A − 1 循環赤血球量 男性 36 mL/kg 以上 女性 32 mL/kg 以上 A − 2 動脈血酸素飽和度 92 %以上 A − 3 脾腫 基準 B(小基準) B − 1 血小板数> 40 万/µL B − 2 白血球数> 12,000/µL (ただし発熱または感染がないこと) B − 3 好中球アルカリホスファターゼ活性< 100 (ただし発熱または感染がないこと) B − 4 血清ビタミン B12 > 900 pg/mL または 不飽和ビタミン B12 結合能> 2,200 pg/mL A1 + A2 + A3 または A1 + A2+ 基準 B のうち 2 項目であれば本症とする。 表 2 真性赤血球増加症の WHO 診断基準 A1.赤血球量が平均正常予想値の 25 %を越えるか, ヘモグロビン値が男性 18.5 g/dL,女性 16.5 g/dL を越える A2.以下の二次性赤血球増加症を除外する 家族性赤血球増加症 エリスロポエチン高値 低酸素血症(動脈酸素飽和度 92 %以下) 酸素親和性の高いヘモグロビン異常症 エリスロポエチン受容体異常症 エリスロポエチン産生腫瘍 A3.脾腫 A4.骨髄細胞にクローナルな遺伝子異常を認めるが, フィラデルフィア染色体や bcr/abl キメラ遺伝子は検出されない A5.内因性赤芽球系コロニー形成 B1.血小板数> 40 万/µ L B2.白血球数> 12,000/µ L B3.骨髄生検で赤芽球や巨核球の増生を伴う汎過形成を認める B4.血清エリスロポエチン低値 A1 + A2 に加えて A3-5 のうち 1 項目または B のうち 2 項目 満たせば本症と診断できる。

(3)

ナーゼの一つで JAK1,JAK3,Tyk2 とともに一 つのファミリーを形成している。EPO 受容体 に EPO が結合し二量体が形成されると,JAK2 チロシンキナーゼが活性化され,自己リン酸化 す る と と も に EPO 受 容 体 や STAT( signal transducers and activators of transcription)蛋 白をチロシンリン酸化する。リン酸化を受けた STAT 蛋白は核内へと移行し,転写因子として の機能を発揮し,さまざまな標的遺伝子の発現 を誘導する(図 1)。JAK2 遺伝子破壊マウスで は二次性赤血球造血が著しく障害されて,胎生 致死となる。JAK ファミリーに共通してみられ る相同性領域は 3 カ所存在し,C 末端側からそ れぞれ JH1,JH2,FERM(4-point-one,Ezrin, Radixin,Moesin)と命名されている(図 2)。 JH1 はチロシンキナーゼ活性化領域(catalytic domain)で,それに隣接して JH2 が存在する。 この領域は以前にはキナーゼ活性を有するもの と考えられ,1 分子に JH1 と JH2 の 2 つのキナ ーゼ領域が存在することからローマ神話の双面 神ヤヌス(Janus)にちなんで名付けられた経 緯がある。しかしその後の研究で,JH2 にはキ ナーゼ活性がないことが判明し,現在では偽キ ナーゼ領域(pseudokinase domain)とも称さ れている。ところが最近の研究で JH2 が JH1 のチロシンキナーゼ活性を負に制御する重要な 領域であることが明らかになった8)。サイトカ イン非存在下では JH2 が JH1 の activation loop 図 1.JAK2 の機能と遺伝子変異

EPO 受容体は EPO が結合すると二量体を形成し,JAK2 が活性化される。活性化された JAK2 は EPO 受容体をチロシンリン酸化し,そこにレクルートされた STAT 蛋白のチロシンリン酸化を誘 導する。チロシンリン酸化を受けた STAT 蛋白は二量体(ホモの場合もヘテロの場合もある)を形 成し,核内へと移行後,転写因子としての機能を発揮し,さまざまな標的遺伝子の発現を誘導す る。変異型 JAK2 ではチロシンキナーゼ活性亢進によってサイトカイン非依存性に STAT 蛋白をチ ロシンリン酸化し,標的遺伝子の転写が恒常的に誘導される。

(4)

と結合し JAK2 の Vmax を低下させることによ って JAK2 の活性化を負に制御している。なか でも JH2 の 619-670 番目のアミノ酸領域が JH1 活性の抑制に重要である。したがって JH2 領 域内の変異によってその機能が損なわれれば, JAK2 のチロシンキナーゼ活性は亢進し,造血 異常を引き起こすことは想像に難くない。慢性 骨髄性白血病(CML)を除く骨髄増殖性疾患 (MPD)[PV,本態性血小板血症(ET),慢性 特発性骨髄線維症(CIMF)]において JAK2 の JH2 領域の遺伝子変異が高頻度に検出されると の報告が相次いでなされた(表 3)1-7)。遺伝子 変異は JAK2 ゲノム遺伝子のエクソン 12 領域に 一致して検出された。すなわち 617 番目のアミ ノ酸であるバリンをコードする GTC が TTC に 1 塩基置換したためにバリンからフェニルアラ ニンに置換し(Val617),その結果,JH2 の JH1 に対する抑制機構が作動しなくなり,EPO 図 2.JAK2 の模式図 C 末端側から JH1,JH2,SH2,FERM 領域を示している。野生型 JAK2 では JH1 のチロシンキナーゼ活性を JH2 が抑制している(上段)。JAK2 遺伝子変 異は JH2 領域にみられ,N 末端側から 617 番目のバリン(Val)がフェニルア ラニン(Phe)に置換している(Val617Phe)。変異型 JH2 は JH1 のチロシン キナーゼ活性の抑制ができなくなり,恒常的に細胞内へとシグナルが伝達す る(下段)。617 番目のバリンはヒト,イヌ,ハツカネズミ,クマネズミ,ニ ワトリと種を越えて保存されており,JAK1 でも共通してみられることから, JAK2 の機能面からも重要であることがうかがえる。 表 3 MPD における JAK2 遺伝子変異の頻度 疾患 検出頻度(平均値) 真性赤血球増加症 65 ∼ 97 %(78.1 %) 本態性血小板血症 25 ∼ 57 %(35.2 %) 慢性特発性骨髄線維症 35 ∼ 57 %(50.0 %)

(5)

が存在しない状態においても JAK2 の恒常的活 性化が生じていることが明らかになった(図 1)。JH2 の Val617 は JAK2 チロシンキナーゼ活 性の抑制に必要な領域に近接し,JAK2 の 3 次 元構造から Val617 は JH1 との接触面に存在す ることが推測される9)。さらに, PV 患者に お け る EEC の 形 成 は 診 断 的 価 値 が 高 い が , small interfering RNA(siRNA)で JAK2 の発現 を抑制すると EEC の形成が著しく阻害され る2) JAK2 変異遺伝子を EPO 依存性細胞株 に導入すると EPO 非依存性に細胞増殖できる (図 3)3) JAK2 変異遺伝子を導入したマウ ス骨髄細胞を致死量照射マウスに移植するとマ ウスは赤血球増加(ヘマトクリット 60 %前後 に上昇)を来すことが証明されている2)。これ らの実験結果から JAK2 の異常が PV の病因と 密接に関係していることは明らかである。さら に興味深いことに EEC 形成が認められた PV お よび ET 症例は EEC から全例遺伝子変異が検 出された。このことは EEC 形成が MPD の診断 に極めて有用であることを物語っている1) 3.臨床編 JAK2 遺伝子変異のある骨髄増殖性疾患では 年齢が高く,二次性骨髄線維症,出血,血栓塞 栓症の合併が多いことが明らかになった4)。ま たサンプル採取時に抗癌剤を使用している症例 では遺伝子変異検出頻度が有意に高いことも報 告された4)。興味深いことに遺伝子変異のある 117 症例中 4 例(3 %)が急性白血病に移行し たが,遺伝子変異のない症例ではわずかに 127 例中 1 例(1 %)であった。症例数が少ないた めに有意差は認めなかったが4),今後の症例の 集積が待たれる。その他,PV や本態性血小板 血症の末梢顆粒球に特異的に検出される PRV-1 の mRNA レベルは JAK2 遺伝子変異を有する方 が有意に高かったとの報告がある7) LOH(loss of heterozygosity)として表現さ れる場合には 2 種類のメカニズムが考えられ

図 3.変異型 JAK2(Val617Phe)の EPO 依存性細胞株 BaF/3-EPOR の増殖に対する影響 (文献 3 より引用改変)

Val617Phe を発現した細胞では EPO に対して高感受性を呈し,さらに EPO 非存 在下で自律性増殖することができる。

(6)

る。すなわち正常アレルの欠失か有糸分裂組換 え(体細胞組換え)のどちらかである(図 4)。 Levine らは JAK2 遺伝子座のコピー数を調べた ところ,2 コピー存在することから正常アレル の欠失ではなく有糸分裂組換え(体細胞組換え) に よ る ホ モ 接 合 性 で あ る こ と を 明 ら か に し た3)。ホモ接合性とヘテロ接合性では臨床的に 大 き な 違 い は な い が , ホ モ 接 合 性 を 有 す る PV ・ ET 患者はヘテロ接合性や正常に比して 病歴が長い(中央値 89 ヵ月対 61 ヵ月)ことが 指摘されている(CIMF では有意な差を認めて いない)。このことはホモ接合性が臨床経過と ともに優位性を増すことを物語っている。実験 的にも BaF/3 細胞に変異型 JAK2(Val617Phe) 単独発現させると自己増殖能がみられるが,野 生型 JAK2(Val617Phe)を共発現させるとその 能力は抑制されることが証明されている2)。し たがってヘテロ接合性の PV 患者では野生型 JAK2 が変異型 JAK2 の機能を優位に抑制してい るが,体組換えによって変異型 JAK2 ホモ接合 性 が 生 じ る と ホ モ 接 合 性 の 方 が 増 殖 優 位 性 (growth advantage)を獲得し,臨床経過とと もにホモ接合性の比率が増加してくるという推 論が成り立つ。 4.まとめ PV は長い間,その病因が不明であったが, ごく最近 JAK2 の遺伝子変異が高頻度にみられ るとの報告がなされ,これが病態と密接な関係 にあることが明らかにされた。しかしこの遺伝 子変異は ET や CIMF でもみられ,疾患特異性 に乏しい。同じ JAK2 遺伝子の変異でありなが ら,なぜ表現型が異なるのかについては今後の 図 4.LOH の機序(文献 3 より引用改変) LOH すなわちホモ接合性として表現される場合には 2 種類のメカニズムが考えられる。正常アレ ルの欠失か有糸分裂組換え(体細胞組換え)のどちらかである。

(7)

研究課題である。本邦でのこれらの疾患におけ る検出頻度の報告はないが,我々の教室での解 析では PV 患者 8 例中 6 例(75 %)に同様の変 異を認めている。今後さらに症例を集積し,解 析を進めて行きたい。 文  献

1) Baxter EJ, Scott LM, Campbell PJ, East C, Fourouclas N, et al.: Acquired mutation of the ty-rosine kinase JAK2 in human myeloproliferative disorders. Lancet, 365: 1054–1061, 2005. 2) James C, Ugo V, Le Couedic JP, Staerk J,

Del-hommeau F, et al.: A unique clonal JAK2 muta-tion leading to constitutive signalling causes polycythaemia vera. Nature, 434: 1144–1148, 2005.

3) Levine RL, Wadleigh M, Cools J, Ebert BL, Wernig G, et al.: Activating mutation in the tyro-sine kinase JAK2 in polycythemia vera, essential thrombocythemia, and myeloid metaplasia with myelofibrosis. Cancer Cell, 7: 387–397, 2005. 4) Kralovics R, Passamonti F, Buser AS, Teo SS,

Tiedt R, et al.: A gain-of-function mutation of JAK2 in myeloproliferative disorders. N Engl J Med, 352: 1779–1790, 2005.

5) Zhao R, Xing S, Li Z, Fu X, Li Q, Krantz SB, et

al.: Identification of an acquired JAK2 mutation

in Polycythemia vera. J Biol Chem, 280: 22788–22792, 2005.

6) Steensma DP, Dewald GW, Lasho TL, Powell HL, McClure RF, et al.: The JAK2 V617F activating ty-rosine kinase mutation is an infrequent event in both “atypical” myeloproliferative disorders and the myelodysplastic syndrome. Blood, 106: 1207–1209, 2005.

7) Jones AV, Kreil S, Zoi K, Waghorn K, Curtis C, et

al.: Widespread occurrence of the JAK2V617F

mutation in chronic myeloproliferative disor-ders. Blood, 106: 2162–2168, 2005.

8) Saharinen P, Vihinen M, Silvennoinen O: Au-toinhibition of JAK2 tyrosine kinase is depen-dent on specific regions in its psedokinase do-main. Mol Biol Cell, 14: 1448–1459, 2003. 9) Kaushansky K: On the molecular origins of the

chronic myeloproliferative disorders: it all makes sense. Blood, 105: 4187–4190, 2005.

表 1 真性赤血球増加症の標準的診断基準(PVSG) 基準 A(大基準) A − 1 循環赤血球量 男性 36 mL/kg 以上 女性 32 mL/kg 以上 A − 2 動脈血酸素飽和度 92 %以上 A − 3 脾腫 基準 B (小基準) B − 1 血小板数> 40 万/µL B − 2 白血球数> 12,000/µL (ただし発熱または感染がないこと) B − 3 好中球アルカリホスファターゼ活性< 100 (ただし発熱または感染がないこと) B − 4 血清ビタミン B12 > 900 pg/mL

参照

関連したドキュメント

ときには幾分活性の低下を逞延させ得る点から 酵素活性の落下と菌体成分の細胞外への流出と

にて優れることが報告された 5, 6) .しかし,同症例の中 でも巨脾症例になると PLS は HALS と比較して有意に

tiSOneと共にcOrtisODeを検出したことは,恰も 血漿中に少なくともこの場合COTtisOIleの即行

青色域までの波長域拡大は,GaN 基板の利用し,ELOG によって欠陥密度を低減化すること で達成された.しかしながら,波長 470

※ 硬化時 間につ いては 使用材 料によ って異 なるの で使用 材料の 特性を 十分熟 知する こと

 活性型ビタミン D₃ 製剤は血中カルシウム値を上昇 させる.軽度の高カルシウム血症は腎血管を収縮さ

および皮膚性状の変化がみられる患者においては,コ.. 動性クリーゼ補助診断に利用できると述べている。本 症 例 に お け る ChE/Alb 比 は 入 院 時 に 2.4 と 低 値

統制の意図がない 確信と十分に練られた計画によっ (逆に十分に統制の取れた犯 て性犯罪に至る 行をする)... 低リスク