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イギリスと日本の公的扶助制度の比較

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長野大学紀要 第13巻 第2・3号合併号 134-146頁 1991

イギ リス と日本の公的扶助制度の比較

Comparative Public Assistance in Britain and Japan

は じめ に 公的扶助制度 といっても、法の内容は、その国の 社会経済 ・生活状況や歴史及び生活習慣によって異 なる事は言 うまでもない。公的扶助の特徴は、一般 に社会保障制度 におけ る所得保障の中に位置づけ られる場合が多い。しか し、いわゆる保険原理によ る年金制度のように、一定期間保険料の拠出を行 っ て、受給開始年齢になっては じめて給付が 自動的に 受けられるもの とは異なっている。以下、公的扶助 の特徴について整理 してみ よう。 ① 公的扶助の費用は、社会保険のように保険料 の拠出を行 わずに、現実に生活の困窮に陥った 者に対 して、全額 を公費の負担 (国家の財源) によって最低生活の維持 を図るための制度であ る。 ② 扶助の対象 と水準については、社会保険のよ うに、給付の対象 を 「保険事故」の発生 とい う 視点か らみ るのではな く、生活困窮に対 して最 低生活 を保障 しようとす るものである。従 って、 給付 され る水準は、、最低生活 を維持す るに足 る レベル とい うことになる。 この場合、最低生活 水準の レベルが問題 となるが、歴史的にはナ シ ョナル ミニマム (国民的最低限)に基づ くとさ れているが、 その内容は、統一 された ものでは な く、理念的側面か らとらえられているといえ よう。 (診 公的扶助 を受けるための給付の条件には社会 保険の ように、「保険事故」に該当す ることが確 認されれば 自動的に行 われ るのではな く、扶助 を受け ようとす るものが最低生活 を維持 できな い状態に陥っているか どうかが問題 とされ る。 そのためには、これ を認定す るための、資産調 査

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が行われ、困窮状態が明 らか になっては じめて公的扶助が適用 され る。

六波羅

Rokuhara Shiro

以上のような公的扶助の特徴 をふ まえて、救貧 法以来の公的救済制度 を経て諸外国 の中で も比較 的先進的な公的扶助の制度運営 を行 っているイギ リスに焦点 を当てて、 日本の公的扶助 としての生 活保護制度 との比較 を行 う。 本稿 では歴史的な経緯 を大 まかに概観 しなが ら、 イギ リスの新 しい制度の内容 を紹介す る事 とした い。 この新 しい制度の内容及び特徴 について も一 応の整理 をした上で、わが国の生活保護制度 との 比較 を行 ってい くことに したい。特 に、個々のい くつかの部分 についての比較 を行 うと同時に、制 度全体の基本原理や原則についての課題 について も、整理 してお くことにす る。 1.公 的扶 助 の歴 史的概観 (1) 日本の公的扶助制度の歴史概観 戦前の公的救済制度の歴史は、当初封建的な幕 藩体制下の救貧理念 を引 き継いだかたちで位置づ け られていた といえよう。昭和 に入って も、充分 な制度 としては発展せず、生活困窮者の救済 を国 民の権利 として明確化す るとい う視点に欠けてい た点が特徴 である。 明治維新 によ り政府が確立 して以降、最初 に制 定 された重要 な救貧法規は、「他救規則」である。 この法規の 目的は、「済貧他政-人民相互 ノ情誼」 によるもの と位置づけ られ、封建的思想に基づ い た血縁的 ・地縁的相互扶助精神 に基づ くもので、 いわば隣保相扶 をもって救済の基本 とす るもので あった。そのため救済の対象は、 どうして も放置 で きか 1「無告の窮民」 をいわば治安対策的にや む をえず公の費用で救済す るとい うものであった。 昭和

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年に始 まる世界恐慌 は、失業者や貧 困者 の増大 を生み出し、他致規則に変 わる新 たな致済 制度の早急な必要性 を生 じさせ た。すでに、 この

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六波羅詩朗 イギ リス と日本の公的扶助制度の比較 ような状況は、大正末期か ら社会問題 として進行 してお り、政府は、や っ と 「救護法」 を制定 させ たが、実際に施行 されたのはその3年後であった。 確 かにこの法律の内容 は、1血政規則に比べれば一 応公的扶助義務 といった近代的な部分 をある程度 含 んではいた ものの、国民生活の不安 と思想の動 揺 を防止す るとい う積極的な視点 を持 っていた事 も否めない。 しか し、実際の生活困窮者に対す る致護法の適 用者はそれほ ど多い ものではな く、戦時体制の進 行 は、む しろ母子保護法、軍事扶助法、医療保護 法 といった法律が制定 されて以降、戦争遂行の も とで法律が 多元化 しただけで、救護法の地位 は相 対的に低下 してい くことになった。 敗戦後の混乱は、戦災者 ・引 き揚げ者、戦災孤 児など多 くの戦争犠牲者、生活困窮者が街 にあふ れ、 これ らの人々の生活 をいかに保障 してい くか が緊急課題 であった。 このため、 占領軍 と政府の 覚書 「救済並 びに福祉計画に関す る件」に基づ き、 生活困窮者の応急援護のための要綱 を閣議決定 し、 実施 した。 占領軍は、敗戦後の 日本の非軍事化 ・民主化の 一環 として、「公的扶助に関す る覚書」 (SCAP IN775)を政府 に送 り、政府は、原則に示 された 国家責任無差別平等 (国家責任 と無差別平等 を二 つに別けている場合 もある)・公私分離 ・必要且つ 十分条件の三つの原則に基づ き 「生活保護法」 を 制定 した (以下、 この とき制定 された法 を旧法 と 略す)。旧法の内容 は、労働能力の有無や 困窮のい かん を問わず、困窮 していれば生活の保護 をす る ことを一応建前 とした一般扶助主義 を取 り、 また 保護費の国家負担 を8割にす るなど、救護法に比 べ れば画期的な内容 を持つ ものであった。 旧法の制定以後、必ず しも3原則の趣 旨が反映 されず、怠惰者や素行不良の者 を保護か ら排除す る欠格条項や保護請求権 ・不服 申立の否定 など、 改善 されなければな らない多 くの問題 を含 んでい た。 さらに、保護の補助機 関 を戦前か らの民間の 名誉職 であ った民生委 員 に行 わせ た こ とは、保 護行政 に組 み入れ た こ とに対す る 占領軍の批判 や法の内容 におけ る問題 を当初か ら含んでいたた め、大幅な改正 を行 う必要が生 じていた。 現行生活保護法は、昭和25年 に全面的な改正が 135 なされ、その基本原理 と基本原則が位置づ け られ た。 基 本 原理 として生活保 護 法1条 は、 目的の原 理 とも呼ばれ、憲法25条の理念に基づ いた最低生 活の保障 と同時に、 自立の助長 とい う将来の 自立 をEj的 とした法である. この二つの 目的は、前者 を社会保障の側面 として、 また後者 を社会福祉の 側面か ら位 置づ け られた ものであ ることが特徴で ある。 よ り具体 的には、生存権の規定が公的扶助 の根源であるこ と、国家責任 に基づ く一般扶助主 義 を明確 に していること、困窮の程度に応 じた個 別性 を示 している点 も特徴 といえよう。 また、第

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条において、保護は、法の要件 を満 たす限 り、 貧困原因、信条、性別、社会的身分 などを問わず、 旧法の ような欠格条項 を廃 し、国の責任において 無差別平等に実施 され るとした。 保 障 され る最低生活は、憲法25条の理念である 「健康 で文化的な最低 限度の生活」の維持に必要 な内容や水準 を保障す るもの とされている。 さら に、生活保護 を受け ようとす る者は、 自己の資産、 労働能力、その他 あらゆる生活手段 を活用 して生 活の維持 を行 って も、なおかつ不足す る場合 に限 って給付が行 われ るとされている。 さらに、民法 に定め る扶養及び他 の法律に定め られている扶助 は、保護 に優先 して行 われ るものである。 基本原則について、保護は、要保護者の申請に よって開始 され ることを原則 としているが、要保 護者が急迫 した状態にあ る場合 は、例外 として職 権 で必要 な保護 を行 うこ とがで きるとされている。 保護の基準は、厚生大 臣の定めた保護基準によっ て測定 された要保護者の需要の うち、金銭 または 物品で満 たす こ とがで きない不足分 を補 う程度の おいて行 われ る。保護 は、要保護者の年齢別、性 別、健康状態な ど、個人 または世帯の実際の必要 の度合 を考慮 して、有効かつ適切に行 われるもの であること。世帯単位の原則は、保護の安否や程 度 の決定 に、世 帯 を単位 として定 め ている。保 護 の種 類や 方法 は個 人単位 で決め られるが、生 活費の需要は、世帯 とい う生活単位 について判定 をお こな う。生計の同一性があれば、住居 を同一 に していな くて も世帯 と認定 され る場合 もあるが、 これ とは逆に、同一世帯 として認定す ることに妥 当性 を欠 く場合 の例外 として、個人単位 で保護 を

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定め る世帯分離 とい う方法が適用 され る場合 もあ る。 保護の種類 は、七つの扶助 (生活、教育、住宅、 医療、出産、葬祭)が定め られている。各種の扶 助の実施 にあたっては、基本的には金銭給付 であ るが、医療扶助 などについては現物給付が基本 と され、物 品の支給の他、決め られた指定医療機関 に委託 して、診療 を受け るための医療券が発行 さ れ る。 保護の内容 は、例 えば生活扶助に代表 され る一 般生活費の場合、一類費 (年齢別個人的経費) と 二類費 (世帯共通の経費)か らなる基準生活費及 び特別 な需要 に対応 した各種加算 (特定の者に上 ずみす るこ とが認め られてい る特種経 費分 の基 準)に分けることができる。 このように、七種類 の扶助 は、要保護者の必要に応 じて、-種類 (早 袷)の場合 もあれば二種類 (併給)以上の場合 も あ り、その世帯の需要に対応す るように定め られ ている。 現行 の生活保護法の基本的内容 については、以 上の ように整理す ることがで きよう。

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)イギ リスの公的扶助の歴史概観 イギ リスにおけ る公的扶助制度の沿革 を考 える とき、最初に取 り上げるべ きは

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年に国民扶 助法が成立す るまで存在 した救貧法であろ う。 こ こでは、詳細に論 じることの必要性はないが、簡 単にその概略 と救貧思想 を整理 してお くこ とにす る。 この救貧法は、 イギ リスにおける資本主義の形 成期か ら成長、確立のプロセスを背景 としている といって も過言ではないであろう。社会経済思想 か らみ るとす ると、重商主義、か らマルサ ス以降 の大戦間期 に代表 される自由放任主義の展開 され た時代 とい うこともできよう。いわゆるエ リザベ ス救貧法

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年法)は、その対象者 を①労働能 力にある貧民②労働能力のない貧民③ 自活で きな い児童の三つに分類 した。 この

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年法は、一応 労働能力のない貧民の救済 を行 う一方、労働能力 のある貧民や 児童に対 しては就業の強制が求め ら れ、いわゆ る労役場 テス ト法

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の様 な救済 抑制の手段 としてワー ク- ウスを位置づけた。 そ の後様々な法が制定 されることとなるが

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世紀 か ら

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世紀前半の産業革命は、大 きな社会的変化 をもたらす こととなった。特に、資本主義の発展 のプ ロセスは、職人層の没落や農民の賃労働化 を 進め、いわゆる相対的過剰人 口を生み出 し、その 底辺である受給貧民を形成せ しめ ることとなる。 この結果は、新 たな救貧法の原則 を生み出す こと となるのである

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年の改正政貧法は、「劣等処 遇」 を代表 としたワー ク- ウスでの劣悪 な強制労 働的要素 を生み出 し、働け るものの救済の拒否的 要素 を明確 に示 したのである。被救済者の生活水 準 を実質及び外見 とも最下級の独立労働者の生活 状態以下にす るという 「劣等処遇の原則」 をもと に した公的政済の考 え方は、あ る意味でその後の イギ リスにおけ る貧困者救済の基本である 「働 け るもの」に対す る制度的対応が常に問題 となって い くことになるのである。 貧困問題 に対す る社会的な視点は、世紀末以降 の

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ブー スや

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ロウン トリー な どの貧 困調 査 によって貧困問題の社会性が示 され ると共に、 王立救貧法委員会による検討、 とりわけ ウェッブ らの少数派報告 などか ら、救貧法の解体 を通 して 最低生活 を国民の権利 として考 えるナ ショナル ・ ミニマムの基本が示 され ることになる。 しか し、 これ らの制度的実現は、第二次大戦後 を目指 した ベ ヴァ リッジの社会保障計画の提案 を通 じて戦後 の社会保障立法の制定 まで待 たねばならなか った。

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月公的扶助 としての国民扶助法の成立は、 救貧法の長 い歴史 を収束させ ると同時に、新 たな 社会保障制度体系の中に位置づ け られ、社会保 険 による均一拠出均一給付、行政責任の統一、ナ シ ョナル ミニマムの保障 を掲げた福祉 国家の確立 を 提示 したのである。 しか し、公的扶助 は、厳密に は社会保険 と区別 され、扶助が必要 であ るこ との 証明 として 「ミー ンズテス ト (資産調査

)

」の必要 性 を求め られ、 このことは、扶助制度 を何か望 ま し くない もの、で きれば受けた くない制度 とい う スティグマ (恥辱感)の付与がなされていたので あった。 2.現行 イギ リスの公 的扶 助 制度 の概 要 (国民扶 助 ・補足給付 制度 か ら所 得扶 助 へ) (1)国民扶助から補足給付 へ 戦後の社会保障制度は、前述の ごとく社会保険

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六波羅詩朗 イキ リスと日本の公的扶助制度の比較 をその中心に位置づ けた。 それは、ベ ヴァ リッジ 計画の中では公的扶助の果 たす役割は拠出制の年 金制度の成熟によって減少 してい くもの と考 えら れていたか らである。 しか し、中心であるはずの 国民保 険の給付額 は、老齢者に対す る年金額が最 低生活水準保 障の レベル を満た していなか ったこ とと、逆に国民扶助基準の給付 レベルの方が家賃 な どの加算 といった ものの給付が含 まれ るため、 実質的には、国民扶助の方が高 くなるとい う結果 を もた らす こ ととなった。 このこ とは、国民扶助 が保 険給付 ない し年金 を補完す るような関係 にな ったことを意味す る。 この ような状況の打開 をめ ざし、1966年 に国民扶助が補足給付 に改め られた 段階では、長期給付の制度 を公的扶助の中に位置 づ け、 多 くの貧 困老人の救済 を目的 とした対応 を す ることによって、国の定め る最低生活費の水準 に格差 を設けている。 前述の ように、1966年に制定 された社会保障省 法によって、名称 を補足給付 に改め、保 険 と扶助 の窓 口や手続 きを統合す ることによって、最低生 活水準に満 たない貧 困層が容易に扶肋 を受け るこ とがで きる方法が取 られた。補足給付 は、①年金 受給年齢以上 を対象 とす る補足年金②年金受給年 齢未満 を対象 とす る補足手当③特別 なニー ドを持 った人 を対象 とす る一時金の3つに大 き く分け る ことがで きる。 また、補足給付の申請方法は、郵 便局に備 えられた申請書に住所氏名 を記入 して投 函すれば申請手続 きが可能 とな り、受給 し易 くす る方法が取 り入れ られた。 その特徴 は、扶助 を受 給す るこ とに よるスティグマ を取 り除 く工夫や扶 助基準 の引 き上 げ (老 人 を対 象 とした ものが顕 著)、資産限度額及び ミ- ンズ・テス トの条件の緩 和が図 られたのである。 しか し、 この時点では、 扶助の受給者が働 いて得 られ るであろう収入水準 まで しか支給 しない とい うウェ ッジ・ス トップ (質 金停 止事項)や フルタイムで仕事 をしてい る人-の扶助の禁止についてはその まま引 き継がれ るこ とになった。前者の措置が廃止 されたのは、1976 年以降であった。 また、後者は、世帯主が フル タ イム就業者で有子世帯に対す る対応 としての世帯 所得補足制度の創設 をみたのは1970年の ことであ った。 137

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)イギ リスの所得扶助制度の概要 と特徴 1980年代 に入 って、 イギ リス経済の状況は、70 年代のインフレと高い失業か らの脱 出が大 きな課 題 となる中で、保守党の引 きいるサ ッチャー政権 の登場は、 イギ リスの経済政策のみならず社会福 祉政策-の大 きな変化 を生み出す こととなった。 とりわけ、1982年以降のサ ッチャー政権 は、年金 制度、住宅給付、補足給付 など次々に再検討のた めに委員会 を設置 し、ベ ヴァ リッジ報告以降の大 改革 を行 うこ ととなった。その改革の流れは、『社 会保障の改革』 として1985年6月にグ リンペーパ ー を、 さらにその年の12月にはホワイ トペーパー に よ り公表 され た。(1)さらに改革 は急テンポで進 み、翌年

1

月には、「社会保障法案」が議会に提出 され、 7月に成立、1988年には、新 しい社会保障 法によ り公的扶助 としての所得補助が実施 される こととなった。

〔1

〕所得補助

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従来は、給付の対象者で権利があって(2)も受鎗 しない人 もいれば、楽 をして給付 を受けている人 もいると言った不平等があった。 これ を合理的に 統合す ると同時に簡素化す るこ とが、1986年改革 の重要 な 目的であった とされている。特に補足給 付

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以下

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と略す)は、対 象者 ごとの加算が その都度作 られて きたために、 制度 自体が複雑化 してお り、合理的に統一 をして これ までの矛盾 をな くす ことが求め られたのであ る。特に

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は、諸給付の他 に靴、服や冷蔵庫、 オーブンな どの家庭用 品の支給 を行 っていたが、 これ らのほ とん どは働かない人が もらっているこ とか ら、失業者に有利 であることが多かった。 所得補助

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と略す) は、働 いていない人 を対象 (失業者ではない) と した週単位 の給付 で、給付 を受け る人に とってよ り良いサー ビスの提供ができるように、特に給付 やサー ビスが真 に必要 とされ る特別 なニー ドをも った人 (老人、障害者、 多子世帯等) を対象 とし ている。 また、一時給付 は、従来はその時 どきに 少 しずつ出 していた もの を、重点的に一括 して出 す ことによ り、 その世帯の生活 を充実 させ、 自立 した生活がで きるように変更 していることも特徴 である。種類は、家族割増金、片親割増金、年金 生活者割増金、障害割増金、障害児割増金、年金

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138 長野大学紀要 第13巻 第2・3号合 併号 1991 生活者高額割増金、重度障害者割増金、がある。 また、住居費は、基本的に家賃 を支払っているの であれば、住宅給付 を申請す ることによって全額 支給 され るこ ととなる。 しか し、住宅 ロー ンの利 子への援助は、年齢 (60オ未満か以上)によ り全 額か50%とい う二つに分け られて、給付がなされ る。 受給条件は、18歳以上、フルタイム就労 (週24 時間以下)ではな く、資産が6000ポン ド未満 とい う条件である。 これ らの給付は、独身者や25歳以 下の人が受給す ることは少 ない。 また、軽い障害 や病気のある場合は、医学的な証明書が必要 とさ れる。 また、16,17歳の者は、政府が行 う青年 を 対象 とした職業訓練 を受け させている (18歳未満 は基本的には給付 されないが)。給付額は、限度や 最高額 といった ものはな く、その対象者の状況に よって異な り、特別の事情のある場合は増額 され るし、児童手当は、そのまま収入充当され る。 基準額の改訂 は、毎年10月か ら9月までの小売 物価指数 を出 し、翌年の改訂 を10月に決定 し、実 施は翌年の

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月か ら実施 され る。 資産 は、3000ポン ドまでは無条件に認め るが、 3000-6000ポン ドについては、25ポン ドごとに1 ポン ド収入充当す る。 なお

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の時に比べて、資産の上限を上昇 さ せ た理由は、従来住宅給付の上限を8000ポン ドと 制限を設けたため、 この制限に近づけるために

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の資産の上限 を上昇 させ た と考 えてよいだろう。

〔2

〕家族給付

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従来の家族所得補足

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と略す)を改めた ものでワー キ ング .ファ ミl)- を対象 としてお り、フル タイム (週24時間以上)で働 いて も収入が少 ない場合 に 支給 され るもので、以前 よ りも受給 し易 くなって いる。 この制度 では、支給開始後6カ月間は多少 収入が変化 して も申請時 と同 じ額の給付が行 われ る。受給額 は、子供の人数、年齢、手取 りの収入、 資産額 によって決定 される。支給額 は

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に比 べ ると高 く週平均25ポン ドで、支給方法は、毎週 チェ ックあるいは銀行振込で行 われ る。 そのほか 国民保健サー ビス

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以下、

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と略す)の薬や歯科の負担は免除され るが、 学校給食は、給付額が

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よ り高い分無料 となら ない(

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は無料)。 この場合、手取 り収入が、単 一適用額 を下回れば全額支給 され るが、上回った 場合、その差額の70%を世帯人員別 限度額か ら差 し引いた額が給付 される。 現在の対象ケー スは

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の20万ケースか ら 家族給付 (以下

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と略す)に変 わって32万ケー スに増加 してお り、そのための財政負担 も2億か ら4億 ポン ドに増加 した。 申請は、郵便 で行 い、 その処理は、地方事務所ではな くニュー カッスル の中央事務所で700人のスタッフが一括 して処理 してお り、 申請 もここに送 られて一括 して裁定が 行 われている。 現在 は、働 くことにつなが るとい う意味か らI

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に力 を入れてお り、労働 のインセ ン ティブ との関わ りか ら、政府が受給す るように と の積極的な宣伝 をテレビでおこなっている。 〔3〕社会基金

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従来の

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の一時扶助に代 わって、緊急時等の 貸付 を中心 とす る援助の形式で、従来 とは異なる 形の制度 として導入 されたものである。 社会基金 は、特別の支出を賄 えない人々 を援助 す るための もので、1988年 4月か らこれ までの

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Bの一時給付制度及び1987年4月に導入 された出 産給付及び葬祭給付に取 って代 わった ものであ る。 給付の種類 は、以下の

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種類 であ る。 ①

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(家計貸付金) この貸付金は

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受給者 を対象に、臨時に必 要 とす る資金 を無利子で貸付 して、費用 を長期 に わたって返済す ることが基本 であ る。 しか し、貸 付 は、予算の範囲で行 われて るいため、 申請者の 優先度 と返済能力 を考慮 して個々に決定 され る仕 組みである。最 も優先順位の高い項 目では、家族 の健康や安全 に危険 を及ぼす ような物 に対応す る もの とされ、基本的な家具、家庭 の設備、住宅の 修理や維持等の費用がそれにあたるとされ る。 そ のほか、基本的ではない として も家具や設備、住 宅の模様替 えの費用、衣料、前払いの家賃、等が あげ られている。 しか し、出産、葬祭、衣料及び 教育の費用等のような他 の制度によってカバー さ れ るものは対象 とならない。 対象者は、本人 または配偶者が

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を26週 間 以上受給 していた場合に対象 となる。ただ し、500 ポン ド以上 の資産 を保有 している場合や支払能力

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六波羅詩 朗 イギ リス と日本の公的扶助制度の比較 によっては制限の生 じる場合がある。 返済は、本人の同意の上

、 IS

の受給額や他の 年金手当か ら差 し引かれる。 申請は、書面や電話で も良いが、 申請書に署名 が必要 とされ、 申請か ら 4週間以内に決定通知書 が出され ることとなっている。 ②

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(緊急貸付金) この貸付金は、緊急時 または災害時の ような短 期 間のニー ズに対応す るこ とを目的 とした無利子 の貸付金である。 しか も、他 の援助 を緊急で受け るこ とので きない場合 とい う限定が されているが、

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を受給 していることは要件にはなっていない。 具体 的には、本人及び家族が災害に よる破壊や損 失、強盗による金銭の損失、遠隔地で困難に遭遇 しているもの-の緊急の旅費等が対象 とな り、 こ の貸付金がなければ生活に困る場合 に対象 となる。 この資金は、予算の範囲内 とされ、18歳未満の者、 ナー シングホーム入居者、入院患者、学生等は対 象 とな らない。 貸付 は、必要 な金額ではな くて、生活費でいえ ば、本人のISの個人手当の75% (子供のいる場 合は人数 に応 じて)であった り、品物やサー ビス の場合 は、その うちの最低額 とされ る。 また、利 用は、本人の返済能力が考慮に入れ られ、10000ポ ン ドまで とされ る。

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(コ ミュニティ ・ケア給付金) この給付 は、老人や障害者 な どが地域社会 で独 立 した生活 を行 うことを援助す るための一時金 と して行 われ、返済の必要 を伴 わない給付 である。 優先 され るのは

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の受給者で、働 くことや 日 常生活が困難な老人、障害者、慢性病患者、アル コール中毒者、住所不定着筆である。対象項 目は、 前述の対象集団に よ り異なるが、家具、設備、寝 具、医療、旅費、規模 に小 さい修繕 または維持費 用、住宅の模様替 えの費用、追加 された暖房費等 である。 申請は、書面 または電話で行 い、 その後 申請書 に記入す ることによ り行 われ、500ポン ドを越 える 資産 を持 っている場合 は、 これ を越 える分 だけ減 額 され る。 また、同 じ項 目による家計貸付金、緊 急貸付金及びこの貸付 を26週間以内に受けている 139 場合 は、対象 とならない。 (除外 され る)0 給付額は

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ポン ド、家具、設備、小規模の修 理は最高額 で行 われ る。 ④

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(出産給付金) この給付金は、低所得者が出産 を行 う場合に援 助 され るもので、返済の必要はない。 また、他の 社会基金 とは異な り、予算額に しぼ られない給付 であるため、条件 さえ満 たせば給付が行 われる。 対象は、本人 または配偶者が

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または家族 ク レジッ トを受給す る場合 に対象 となる。 また、給 付額は定め られているが、対象者の資産が500ポン ドを越 えると越 えた分 だけ減額 される。 申請は、妊娠後29週か ら種産後3カ月以内に郵 便局 または社会保障事務所 にある用紙で行 う。 ⑤

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(葬祭給付金) この給付 は

、 IS

家族 クレジッ トまたは住宅給 付 を受給す る低所得者が、葬式 を行 うのに必要 な 費用が まかなえない場合 に支給 され る。給付額は 定額 で、返済の必要 はない。ただ し、生命保険金、 友人や親戚 などか らの金銭、本人 または配偶者に 500ポン ドを越 える資産がある場合 には、その分が 減額 され る。 G)∼(卦は、社会保障事務所の社会基金担当官が 個々のケースに応 じて決定す ることとされ、年間 の予算の範囲で社会基金担当官の裁量が認め られ ている。① ・⑤ は、一定の条件 に合致すれば 自動 的に給付が行 われ、予算の制限は設け られていな い。 また、③ ∼⑤ は、返還 を必要 としない給付で ある。 3. イ ギ リス と日本 の生活保護 制度 の比 較 を 通 じたわが 国の生 活 保護 制度 の検 討 (1)扶助の種頬 わが国の場合 は、 7種類の扶助に分類 されてお り、生活扶助がその基本 であることは明かである。 年齢 と世帯人月が重要 な要素 となっているが、そ のほかに、加算 とい う方法によって最低生活のニ ー ドを充足 させ る方法が とられてい るのが特徴 と 言えよう。 イギ リスにおいては、個人の状況に応 じて従来加算の措置 を実施 して きたが、今 回の制 度改革は、簡略化す る目的か ら加算の一部 を別に してお り、その意味で、従来以上に大 きく日本 と は異 なるスタイルになった とい うことができよう。

(7)

140 長野大学紀要 第13巻 第2・3号合併号 1991 日本 においては、多様 な生活需要に対応す ること を目的に して加算制度が設け られているが、確か に煩鎖 な観は免れず、 しか もその加算が世帯 と個 人 との関係 では説明がつ きに くい ものや無拠出の 年金制度 などとの関わ りなども含め、いわゆる社 会保障制度の体系か らみると、公的扶助 と社会扶 助 との関係 をどのように考 えるか といった問題 も 含んでお り、社会保障制度体系全体の視点か らの 改善の余地があ ることは確かであろう。 住宅扶助は、他の扶助 とかな り異質を側面 を持 っている。本来は、 イギ リスの ような家賃の補助 の ような制度 として検討す ることが望 ましいであ ろう。 しか し、現実問題 としては、わが国全体が 住宅問題 に関 してその制度的対応が不十分 なこと か ら、問題 は単純ではない。 しか し、現在の住宅 扶助は、大都市は言 うに及ばず地方都市において も生活保護の一般基準では無理があ り、現実的 な 対応 を必要 としていることは言 うまで もないこ と である。 さらに、世帯 を単位 としていなが ら、世 帯の人員 と住宅扶助が うま く適合 していない側面 も見 られ る。む しろ、単なる級地利 を前提に した 対応ではな く、地域に応 じた住宅事情に対応す る 住宅基準についての新 たな視点か らの方法が求め られ るのではないだろうか。 また、教育、出産や葬祭扶助は、一時的なもの であるこ とを考慮に入れると、イギ リスのような 社会基金の方式 を研究す る価値 はあるか も知れな い 。 これに対 し、勤労控除は、 イギ リスと同様に、 勤労のインセンティブを考慮 した方法の必要性が あるように思われ る。 しか し、わが国の場合、現 在の被保護者の動向は、非稼働世帯が絶対的に多 い とい う現状 をどのように認識す るかの問題 と関 わって くることに注意 をしなければならないであ ろう。稼働能力 を一時的に喪失 した人が、生活保 護 を受給で きる条件が問題 とな り、現実には勤労 控除の積極的利用ので きる受給者がなぜ減少 して きているか を問題 とすべ きであるか も知れない。 医療扶助 との関係では、 日本の場合の特殊性 と イギ リスの場合 の特殊性があ り、前者は、医療保 険制度の成熟時期 と制度体系の問題に起 因す る問 題 を含んでお り、後者は、国家保健制度 とい うま った くわが国 とは異なる制度体系か らもたらされ た違 い とい うことができよう。特 に、わが国の場 合 は、現状 では医療保険の制度が一応確立 してい るに もかかわらず、生活保護受給者の中に 占め る 医療扶助受給者が比較的 多いことを考 え合 わせ る と、現状でのスティグマや医療券に よる指定医療 機関での受診 とい う問題 を含め、生活問題 と医療 (疾病)の関わ りをどの ように考 えるか、で きれ ば分離す る方向を模索 して も良い時期 に きている のではないか と思われ る。 (2)保護基準 わが国は、いわゆる生活保護基準につ いては妥 当な水準であるとされているが、その算定方式や 改訂の方法がわか りに くいように思われ る。 その 意味では、保護の基準については、 イギ リスの よ うな各種調査の結果の公表やデー タの明確化が必 要であることは基本的問題 であるが重要 なことで あろう。 そのほか、わが国において も昭和

3

0

年代 まで実施 していた、低所得者調査 といった ものの 必要性 もあろうし、被保護者の生活実態の レベル でのデー タの公開 を通 じた分析 も必要 となってこ よう。 さらに、 イギ リスにおいては、全国一律 の基準 を採用 しているが、 日本においては、級地利が導 入 されてお り、 この問題の解消 をどの ように積極 的に考 えてい くか とい うことがあろ う。年金や所 得税 については、地域による格差はないに も関わ らず、 また、生活スタイルや消費生活の レベルで の格差は大 きくない と判断され るのが一般的であ る。 このように考 えれば、国民の納得 で きるコン センサスを作 りなが ら、再度地域別の基準 を縮小 の方向で検討す る余地があるように思われ る。 (3)申請手続 き 申請方法については、従来か ら言われているよ うに、 イギ リスでは補足給付以来簡素化が進め ら れて きてお り、情報の伝達方法や 申請場所 につい ての積極性が 日本で も求め られ るであろう。わが 国は、 申請保護の原則 を取 っている以上、前述の 補足性の原則 とも関わってスティグマ をどの よう に排除す るか といった視点か らの検討 は、早急な 課題 といって も過言ではないであろう。 とくに、 最近は、老人 を中心 とした在宅福祉サー ビスの動

(8)

六波 羅詩 朗 イギ リス と日本の公的扶肋制度の比較 向を見 ると、如何 にニー ズを持 った人が制度 を利 用 し易 くしてい くか といった観点か ら、サー ビス のア クセスの問題が議論 されて きてお り、 さらに、 個別 的相談に対応す る体制が取 られて きているこ とを考 えると、生活保護 だけが、従来の範囲か ら でないでいる訳には行かないように思われ る。 また、 イギ リスでは、 日本 と異なって経済給付 とサー ビス給付 (ケースワー クを含む相談やサー ビス提供の部 門)は機関 として明確 に分離 されて いる。 日本はイギ リス とは異な り、経済給付 とケ ー スワー ク援助 を含めた生活保護運営 を行 って き てい る。 また、 申請段階は、福祉事務所 におけ る 相談機能の重要性 についての視点か らも大 きな課 題 とい うことがで きようo この ことは、一般 に、 生活保護の申請は福祉事務所の窓 口で行 われ るた め、 いわゆるケー スワー クでい うインテー クの視 点 をよ り明確 にす る事 を通 じて、ア クセス しやす い相談援助体制が早急に求め られ るであろう。 特 に、生活保護の対象 とな らなか った場合 にお いて も、何 らかの制度にで きるだけ結び付け られ るよ うな社会資源の確保 とい う事 も重要 な課題 と なってこよう。 (4)制度全体か らの比較 (わが国の生活保護法 における原理 ・原則 との関係か らの検討) わが国の公的扶助 としての生活保護制度は、 イ ギ リス との比較 とい う視 点か ら考 えれば、従来か ら指摘 されているように世帯や家族制度 (親族扶 義) と結 びついている点に特徴があ り、その点が 決定的にイギ リス と異なるとい うことがいえよう。 一方、イギ リスの場合 は、救貧法時代か ら 「働 く 能力 を持つ もの」 と 「働 く能力 を持 たない もの」 を厳 しく分 けて きた とい う歴史があ り、いわゆ る フル タイム労働 とそ うでない者 との区別 を明確 に して きた とい うことがで きる。 日本においては、 戟前や 旧生活保護法の時代 には、いわゆる 「欠格 条項」が存在 したが、現行法では、無差別平等の 原理 によって生活に困窮す るすべ ての国民 (憲法 で保 障す る健康 で文化的な最低生活 をす る事がで きない状態) を対象 としている点で異なる対象規 定 を有 しているとい うことがいえよう。 しか し、 わが国の場合 は、法 1条の 「自立助長」や法 4条 の 「能力の活用」 といった内容 が保護の受給要件 141 と直接的 ・間接的に結 びついてい るため、単純 で はないように思 われ る。 イギ リスの ようなはっき りした対象者規定や手続 きを持 った制度体系の方 が、制度利用者だけでな く実施 に関わる担当者に も分か りやす さの点か ら言えば良い と判断できな いわけではない。 いわゆ る国家責任 とい う点に着 目す ると、わが 国の場合 の責任主体 は、制度運営の実施過程 では 地方公共団体が機関委任事務 として福祉事務所で 行 ってい るが、生活保護法の責任は国が持つ とい う特殊 な方法 を取 っている。 また、費用の点では、 国 と地方の負担割合が四分の三 と四分 の一である 点に違 いがある。 イギ リスの場合は、公的扶助の みならず社会保 険 を含めて社会保 障事務所が統一 的に事務 を行 ってお り、経費は、全額国庫負担で ある点に大 きな違いがあろう。 さらに、実施過程 の問題で言えば、前述 のように 日本では、J経済給 付だけでな く対象者に対す るケースワー ク的援助 が行 われ るのに対 し、 イギ リスにおいては、経済 給付 とケースワー ク的援助は区別 されている点に 違いがある。 この間題 は、わが国において も制度 制定以降多 くの議論がなされてお り、それは、専 門性の問題 と結 びつ きなが ら、いわゆ るスペ シフ ィックかゼネ リックか とい う問題 と共に議論のあ るところである。社会福祉におけ る対象者援助の あ り方は、制度運用 における専 門性の有無 との整 合性 をどこに求め るか といった問題に帰着 し、最 終的には専 門性のあ り方 をどの ように考 えるか と い う、あ り方の問題 に還元せ ざるを得 な くなって しまうこ と自体が課題 というこ とになろうか。 つ ぎに、わが国の生活保護におけ る補足性の原 則 との関わ りか ら検討 をしてみ よう。すでに、わ が国の制度の歴史の ところで述べ たように、扶養 の問題 を親族 との関係か ら厳格 に規定 された扶助 制度は、 イギ リスの制度 と大 きく異なるものであ る。 この点に関 しては、生活スタイルやその国の 文化水準では大 きな変化 はないであろう。同一の 世帯で生活 をしていないに も関わらず扶養 とい う かな り個人的問題 に還元 され易い要素 を法で規定 してい るのは、公的扶助制度に対す る根本的な と られえか たに違 いがあ ると解釈 できよう。確かに、 一定の年齢 を過 ぎると親か ら独立 してい くとい う イギ リス的な生活習慣 と日本のそれ とは 自ずか ら

(9)

142 長野大学紀要 第13巻 第2・3号合併号 1991 異なって こようが、少 な くとも個人 レベ ルの生活 とい う視 点が強調 され る必要性 を考慮す る方法が 考 え られて も不思議 ではない ように思 われ る。 ま た、資産 の問題 につ いては、 イギ リスの場合預貯 金 な どを含め資産が従来 も認め られてお り、その 範囲は拡大の方 向にあ る。 これに対 して、わが国 は、む しろ資産 に対す る厳 しさの側面が強調 され ているとい うところに着 目すれば、現実 の生活状 況の考 え方に大 きなギャップ を感 じざるを得 ない。 わが国の場合 は、資産 といって も土地 な どの よう に、社会経済的要 因によって変動す るといった特 殊性 を考慮 にいれた として も、 イギ リスの ような ある程度簡略化す る方向での必要性 を念頭に、少 な くとも手持 ち金の レベルでの積極的な対応 をそ ろそろ考 える時期 に きてい るのではないだろ うか。 最後 に、社会保障制度 との関係 では、 イギ リス においては、単独 でナ シ ョナル ミニマム を保障 と す るとい うよ りも、公的扶助 と一体化 した形 での それ を保 障 しよ うとす る形態が定着 していると考 えて間違 いでは なか ろ う。 しか し、 わが国では、 明確 に社会保 険 と公的扶助 とは区分 されてい る点 に違 いが あ る。 その一方で、 わが国では、社会扶 助 といった範噂 で無拠 出の年金制度 に代表 され る 制度が存在 し、全体 としては十分 な制度の整理が なされていない と考 えるこ ともで きよう。 いずれ に して も、 この ような問題 は、社会保障制度全体 に関わ る問題 として、今後の検討課題 とい うこ と になろ う。

4

.終 りに これ まで、 イギ リスの公的扶助制度の中心 であ る所得補助 と生 活保護法 との比較 を通 じて、わが 国の制度 の課題 を述べ て きたが、生活保護法が制 定 されて きてか ら40年以上 を経過 した現在、生活 困窮の状態は、 当時 とはかな り趣 を異に してい る 事 は明かである。時代 の変化や生活スタイルの変 化 は、新 たな形 での生活保護制度の必要性が求め られてい るように思われ る。確かに、 イギ リスの 社会保 障の制度改革に対す る実施動 向は、今後 を 得 たねば 多 くを議論す る事 は困難であろ うし、 そ の改革の是非について多 くの議論が あ る事 は確 か である。 しか しなが ら、世紀末 を迎 え制度改革が 議論 され る中で、生活保護制度 についての現代 的 視 野か らの議論の必要性が、今 ほ ど重要 な時期 は ないのではないだろ うか。 この ような点で、 イギ リスの公的扶助 をあ らた めてわが国のそれ と比較す る事 の意味は重要 であ る。 (ろ くは ら しろ う 助教授) (1991.10.15受理) (近) 1 いわゆるホワイ トペーパー として、改革の内容は 次の文献に提示されている。本稿において も参照 し た。

Reform ofSocialSecurityvol.1-3 1985.6 HMSO,Comnd95187-9519 なお 日本語の文献及び翻訳は次の ものがある。 (1) 樫 原 朗 「イギリス社会保障の改革に関するグ リーン・ペーパー とホワイ ト ペーパー

F神戸学 院経済学論集』18巻1号 (2)同 「イギリス社会保障に関する白書

F神戸学 院経済学論集j18巻2号∼4号 (3) 白沢久一 「英国の所得関連給付 ・社会基金(1986 年法)の実施について

『北星論集』北星学園大学 第26号 1988 (4)-囲光輝 「サ ッチャー政権 と社会保障制度改 革」宇都宮深志編 Fサッチャー改革の理念 と実践』 三嶺書房 1990.9 (5)木戸利秋「イギ リスの公的扶助改革

F日本福祉 大学研究紀要』82号 1990.7 2 本稿は、イギリスの資料 として以下の文献及びパ ンフレットを参考 とした。

(1) A guidetolncomeSupport"LeafletSB20 from April189"HMSO

(2) ibid"SB20supplementfrom Oct1989 (3) A guideto Family Credit"LeafletNI261

from April1989"HMSO

(4) AnnualReportbytheSecretaryofStatefor SocialSecurityontheSocialFund1988/89"

PresentedtoParliamentbyCommandofHer MajestyJuly1989"

3 本稿の内容は、文献によるものの他に、直接、イ ギ リスの社 会保 障省 の担 当者 か らの聞 き取 り

(10)

巨「

六波羅詩朗 イギ リスと日本の公的扶助制度の比較

(

A

nnualReportbytheSecretaryofStateforSocialSecurityontheSocialFund 1988/89)

表 1 所得補助の支給基準の推移 1- 1 個人的手 当 (週 当 り、 ポン ド) 1988 1989 1990 1.単身者18歳未満 19.40 20.80 21.90 18-24歳 26.05 27.40 28.80 25歳以上 2.1片親8歳未満 139.3.4400 234.0.8900 231.6.9700 18歳以上 3.夫婦2人 とも18歳未満 333.8.8400 431.4.6900 433.6.8700 〝 18歳 以上 51.45 58.40 57.60 4.扶養す る児童 (1人あるいは2人) 11歳未満 10.75 11.75 12.35 ll-15歳 16.10 17.35 18.25 16-17歳 19.40 20ー80 21.90 1- 2 プレミアム 1988 1989 1990 1.家 族 6.15 6.50 7.35 2.片 親 3.年金者単 身 (60-79歳) 13.0.7650 11.3.9200 11.4.8100 夫 婦 4.年金者単 身 (80歳以上) 116.3.2055 113.7.7005 117.7.9055 夫 婦 5.単重度障害者身 218.4.7650 216.9.2500 228.4.2250 夫婦 (1人が有資格者) 24.75 26.20 2畠.20 夫婦 (2人 とも有資格者) 49.50 52.40 56.40 143

(11)

144 長野大学紀要 第13巻 第2・3号合併号 1991 表2 社会基金の申請 ・裁定篇果 (暫定的数字)1988/ 89 出産給付 葬祭給付 コミュニティケア給付 予算貸付け 緊急時貸付 け 1. 申請受理件数 212 53 315 933 501 2.処理件数 211 50 296 850 432 3.裁定数 170+ 40+ 153 505 379 4.比 率 77% 74% 52% 59% 88% 5.却 下 49 13 146 330 45 6.総支 出額 15 20 41 108 17 (注) 1.2. 3の数字の関係 は、デー タの とった時期 によ り変動す るため必ず しも一致 しない (全体 が暫定的 なデー タである と思われる) 表3 所得補助及び家族 ク レジ ッ ト受給者が受 けた出産 費 と葬祭費の内訳 (1988/89) 3- 1 出産費 裁 定 数

合 _捻額 (単位1000)

合 所得補助受給者 150,500 92.8% £12,958 92.8% 家族 クレジッ ト受給者 ll,700 7.2% £ 1,004 7.2% 3- 2 葬祭費 裁 定 数 割 合 給額 (単位1000) 割 合 住宅給付受給者 8,900 24.0% £ 4,294 23.3% 所得補助受給者 27,500 74.3% £13,818 75.1% 家族 クレジッ ト受給者 600 1.6% £ 287 1.6%

(12)

六披羅詩朗 イギ リス と日本の公的扶助制度の比較 表

4

対象集団別支 出

(

1

98

8

年の月の概算)

1

45

コ ミュニティケア給付 予算貸付 け 緊急時貸付 け 総 額 割 合 (単位

1

0

0

0

)

(単位総

1

0

0

0

)

割 合 (単位総

1

0

0

0

)

割 合 1.年金生活者

£ 7,

2

1

7

1

7.

4

% £ 4,

6

1

2

4.

3

%

1

4

9

0.

9

%

2.

障害者

£ 5,

6

3

9

1

3.

6

% £ 8,

5

6

0

7.

9

%

4

4

6

2.

6

%

3.

家族プレミアムのある失業者

£ 3,

2

6

6

7.

9

% £ 2

1,

4

4

3

1

9.

8

%

£ 3,

1

3

7

1

8.

3

%

4.

家族プレミアムのない失業者

£ 6,

3

8

0

1

5.

4

% £ 1

9,

1

7

9

1

7.

7

%

£ 6,

3

4

0

3

7.

1

%

5.

障害プレミアムのか 1単身者

£1

4,

7

8

7

3

5.

7

% £ 4

9,

1

8

9

4

5.

5

%

£ 3,

2

7

7

1

9.

2

%

6.

家族プレミアムのあるその他の人 £

7

2

1

1.

7

% £ 1

,

2

2

5

1.

1

%

2

1

7

1

.

3

%

7.

その他

£ 3,

3

9

6

8.

2

% £ 3,

9

8

3

3.

7

%

£ 3,

5

8

3

2

0.

7

%

5

申請 目的別貸付総額及び平均額 5- 1 コ ミュニテ ィケアの給付 総額 (単位

1

0

0

0

)

割 合 受給者数 平均受給額 1.家具 .家財

3

1,

9

8

5

7

7.

2

%

7

4,

8

0

0

4

2

5

2.

洗濯機 、家の修繕

1,

2

5

7

3.

0

%

5,

0

0

0

2

5

0

3.

引っ越 し費用

8

8

6

2.

1

%

3,

0

0

0

2

9

3

4.

旅行 の費用

1,

0

8

9

2.

6

%

7,

6

0

0

1

4

2

5.

衣類 .は きもの類

1,

7

6

3

4.

3

%

3

1,

6

0

0

5

5

6.

その他

2,

7

3

2

6.

6

%

1

9,

7

0

0

1

3

7

1,

6

9

5

4.

1

%

1

0,

8

0

0

1

5

6

7.

合 計

4

1.

4

0

6

1

0

0.

0

%

1

5

2,

6

0

0

2

7

1

5 5- 2 予算貸付 け 総額 (単位

1

0

0

0

)

割 合 受給者数 平均受給額 1.家 具

8

7,

3

1

3

8

0.

7

%

3

7

0,

1

0

0

2

3

6

2.

洗濯機

4,

0

8

7

3.

8

%

2

0,

5

0

0

2

0

0

3.

寝 具

2,

4

1

8

2.

2

%

1

8,

1

0

0

1

3

4

4.

衣類 .は きもの類

7,

0

3

6

6.

5

%

5

3,

3

0

0

1

3

2

5.

その他

7,

3

6

5

6.

8

%

4

2,

6

0

0

1

7

3

(13)

146 5- 3 緊急時貸付 け 長野大学紀要 第13巻 第2・3号合併号 1991 総額 (単位1000) 割 合 受給者数 平均受給額 1.家具 .家財 3,225 18.9% 16,300 198 2.前払 い家賃 558 3.3% 4,700 118 3.生活費 (一般的) 6,868 40.2% 193,800 35 4.生活費 5,016 29.3% 143,800 35 5.その他 1,437 8.4% 20,300 71

表 6

社会基金の再 申請受理型別件数 コミュニティケア給付 予算貸付け 緊急時貸付け 合 計 1.再審査 申請数 払) 25,382 71,131 9,824 106,337 2.再審査 による認定数 (B) 8,412 21,465 4,402 34,279 (B)/(A) (C) 33% 30% 45% 32% 3.監査官-の再審査請求数 (D) 1,023 1,769 162 2,954 4.却 下 (E) N/A N/A N/A 259 5.再審査決定数 (F) 815 1,555 129 2,499 6.審査 の正式承認数 (G) 372 846 76 1,294

(

G

)

/(

F) n) 46% 54% 59% 52% 7.監査 官の認定数 (Ⅰ) 53 35 8 96 (I)/(F) (J) 7% 2% 6% 4% 8.再●決照会数 ㈲ 399 674 45 1,109 9.継続裁定 (i) N/A N/A N/A 470 10.再審査の結果の認定数

M)

N/A N/A N/A 34,815

表 1 所得補助の支給基準の推移 1‑ 1 個人的手 当 ( 週 当 り、 ポン ド) 1 9 8 8 1 9 8 9 1 9 9 0 1.単身者18 歳未満 1 9. 4 0 2 0

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○金本圭一朗氏

今回、新たな制度ができることをきっかけに、ステークホルダー別に寄せられている声を分析

雇用契約としての扱い等の検討が行われている︒しかしながらこれらの尽力によっても︑婚姻制度上の難点や人格的

行ない難いことを当然予想している制度であり︑

 今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ

災害復興制度を研究しようという、復興を扱う研究所と思われる方も何人かおっしゃ