1
観測によるオリオン座ベテルギウスの
半径の推定
明星大学理工学部総合理工学科 物理学系
14S1-050
中村 麻佑子
2
目次
要旨
第1章 ベテルギウスについて
第2章 観測方法
第3章 画像解析
第4章 観測結果
第5章 解析
第6章 まとめ
第7章 考察
参考
謝辞
3
要旨
本研究では、オリオン座のベテルギウスの半径を求めることを目的とし、大学構内にあ る40cm リッチー・クレチアン式望遠鏡と CCD カメラを用いて、ベテルギウスと標準星 の観測を行った。そこで撮影したベテルギウスと標準星のBバンドとVバンドのカウント 値をそれぞれ求め、ステファン・ボルツマンの式からベテルギウスの半径を求めた。 見かけの等級は0.769 等、絶対等級は-5.963 等であり、距離の文献値 222pc を用いる と、光度は 3110
9077
.
5
J/s であることがわかった。本研究では 2 種類の方法で半径を導 出した。 方法(1)ではウィーンの放射法則から、ベテルギウスの表面温度が 2693 K であり、ステ ファン・ボルツマンの式から、半径が 910
255
.
1
km ということが求められた。 また、方法(2)ではウィーンの放射法則からベテルギウスの表面温度が 3071 K であり、ス テファン・ボルツマンの式から、半径が 810
657
.
9
km ということが求められた。4
第1章 ベテルギウスについて
ベテルギウスの概要
ベテルギウスは、冬を代表する「オリオン座」の1等星で、太陽の約1400 倍もの大きさ の赤色超巨星であり、太陽以外では点ではなく球として見ることのできる数少ない星の 1 つ である。また、約6年の周期で 0.0 等から 1.3 等まで明るさが変化している変光星でもある。 ほとんどの星は点状にしか見えないため、表面の像を撮影することができないが、ベテルギ ウスは 1995 年にハッブル宇宙望遠鏡の微光天体カメラを使ってその表面が紫外線で初め て撮影された。その少し前から、望遠鏡数台を干渉計として使った赤外線による観測でベテ ルギウスの大きさの測定が行われている。 図 1-1 ベテルギウスの表面画像 「NASA」より https://apod.nasa.gov/apod/ap100106.html 星座:オリオン座 等級:0.0~1.3 等 スペクトル型:M2 質量:20 M☉ 距離:640 光年 年齢:1.0 × 107 年5
第2章 観測方法
使用機材
リッチー・クレチアン式反射望遠鏡 通称:RC(Ritchey-Chretien telescope)望遠鏡と呼ばれる天体望遠鏡 1920 年代、G.W.リッチー(アメリカの光学者・望遠鏡製作者)と H.クレティアン(フラ ンスの望遠鏡製作者)によって主鏡と副鏡の形状を高次非球面にした反射望遠鏡を考案。 広い視野を持ち、普通のカセグレン系望遠鏡に比べて明るい、球面・コマ収差が少なく、 像面湾曲が大きく焦点面が強い凹面鏡などが特徴である。観測は眼視の他に、冷却CCD カ メラによる天体撮影、恒星分光器による分光観測を行うことができる。 本研究では大学構内30 号館R 階に設置されている望遠鏡を用いて観測を行った。 口径 40cm 焦点距離 2800mm 集光力 3265 倍 分解能 0.29 秒 実視極限等級 14.78 等級 有効最高倍率 800 倍 表2-1 望遠鏡の仕様 図 2-1 明星大学 30 号館に設置されている望遠鏡6
冷却
CCD カメラ
CCD(Charge Couple Device)カメラとは、冷却することにより熱を原因とする雑音 (ノイ ズ)を減らし長時間の露光を可能にし、高感度・低ノイズの画像に仕上げることを目的にし たデジタルカメラの一種である。CCD は、光の強さを電気信号に変換するだけで色につい ては感知せずCCD の素子(光を溜めるもの)と明るさしか知ることしかできない。この場 合特定の色だけを透過するカラーフィルターを配置する。
7
使用フィルター
ND(Neutral Density)フィルター
CCD カメラに取り付け、使用する。直訳すると「中立な濃度のフィルター」と言う意味 である。目で見える範囲の光を均等に吸収するよう設計されており、発色に影響を与えるこ となく、光量のみを少なくするフィルターである。また、入射する光が抑えられる分、ND フィルターがない状態で撮影するときと比べ、絞りをより開いて、またはシャッタースピー ドをより遅くして撮影することが可能になる。ベテルギウスは 0.0~1.3 等という明るさに より直接CCD カメラで撮影できないため、このフィルターを用いて撮影する。 図2-3 ND フィルター http://www.kenko-tokina.co.jp/imaging/filter/nd/4961607149232.html8
観測用星図
Aladin Sky Atlas を用い、標準星とベテルギウスの B、V バンドの等級について、それぞ れ何等級であるかを参照した。 ベテルギウス:B バンド:2.849 等 :V バンド:0.769 等 標準星:B バンド:1.468 等 :V バンド:1.629 等 図2‐4 ベテルギウスの等級を参照する 「Aladin Sky Atlas」より
9
撮影の手順
・ND フィルターを冷却 CCD カメラに取り付け、撮影する。 ・すべて0.1 秒角で撮影し、ベテルギウスの B バンドは 100 枚、V バンドと標準星の B、 V バンドはそれぞれ 50 枚ずつ撮影した。また、ダークフレームは 10 枚撮影した。 図2-5 Bバンドで撮影したベテルギウス 「ステライメージ8」より 観測日時 2017 年 12 月 6 日 19:00~22:0010
第3章 画像解析
ダークフレーム処理
CCD カメラで撮影するとノイズが現れる。これらのノイズはダークと呼ばれ、正確な分 析の邪魔になる。また、ダークノイズは露出時間が長いほど大きくなるため、ライトフレ ームを同じ露出時間でダークフレームを撮像する。これによりダークのみの画像を撮影す ることができ、このダークのみ画像をダークフレームといい、ダークフレームは加算平均 したものを使用する。ライトフレーム(ベテルギウスまたは標準星を撮影した処理前の画 像)からダークフレームを引くことでダーク処理をすることができる。 図 3-1 観測の際に撮影したダークフレーム11
光度測定方法
使用ソフト ステライメージ8
ダーク・フレーム処理済みの画像を測光する。
12
第4章 観測結果
ステライメージ7を使用し測光を行い、カウント値を求める。 ベテルギウス Bバンド 図4-1 光度測定の画面(ステライメージ8) ベテルギウス Vバンド 図4-2 光度測定の画面(ステライメージ8)13 標準星 Bバンド 図4-3 光度測定の画面(ステライメージ8) 標準星 Vバンド 図4-4 光度測定の画面(ステライメージ8) カウント値 ベテルギウス Bバンド: 307091 Ⅴバンド: 1140874 標準星 Bバンド: 721930 Ⅴバンド: 577102
14
第5章 解析
本研究では、(1)プランクの黒体放射の式を用いて T を求める。 (2)B-V の近似式を用いて T を求める。 の2 種類の方法で温度 T を求め、半径を導出した。方法
(1)
(1)-1 求めたカウント数N
B(Bバンド)、N
V(Vバンド)からT を求める。・
V BN
N
から
T を求める
星から受け取る全エネルギーEは、
t
d
s
I
R
2 24
4
N
・・・① R:星の半径 I:強度 d:星の距離 t:露出時間 :波長幅 N:カウント数 上式より、15 ・・・②
1
V B
より、カウント数の比が強度の比になる。 強度Ⅰは、プランクの黒体輻射の式より、1
1
2
5 2
kT hc B B Be
hc
I
kT hc B Be
hc
2
52 ・・・③1
1
2
5 2
kT hc V V Ve
hc
I
kT hc V Ve
hc
2
52 ・・・④ ②、③、④式より比をとると、
kT B V hc B V V B V Be
I
I
N
N
5 1 1 ・・・⑤ この式にそれぞれの値を代入し、Tを求める。 (1)-2 光度 L を求める。 ・見かけの等級m
Vから輻射等級 mbol を求める。 輻射等級=見かけの等級+輻射補正 ・ポグソンの式より、輻射絶対等級 Mbol を求める。d
mbol
Mbol
5
5
log
10 ・・・⑥ d :距離 (pc) (文献値d
222
48
22
(pc) ) 「Harper ら(2017)」より16 ・ポグソンの式より、輻射絶対等級 Mbol から光度 L を求める。
L
L
Mbol
2
.
5
log
・・・⑦ L:光度 (W) L:光度 (W)L
:輻射絶対等級Mbol0のときの星の光度 (文献値 2810
97
.
2
L
(W) ) 「理科年表」より引用 (1)-3 温度 T と光度Ⅼから半径 R を求める。 ステファン・ボルツマンの法則より、 強度I
T
4・・・⑧ σ:ステファン・ボルツマン定数(5
.
667
10
8
Wm
2K
4
) ・・・⑨ この式にL、T を代入し、R を求める。17
結果
(1)-1 求めたカウント数N
B(Bバンド)、N
V(Vバンド)からT を求める。 ⑤式より、 1 2 2 23 1 8 1 2 34 9 910
308064
.
1
10
99792
.
2
10
62607
.
6
10
550
10
440
1140874
307091
K
kgs
m
k
ms
c
kgs
m
h
m
m
N
N
V B V B
それぞれの値を代入し、
K
T
2693
(1)-2 光度L を求める。 ・見た目の等級m
V
0
.
769
から輻射等級 mbol を求める。 輻射等級=見かけの等級+輻射補正 より、求めた温度に対応した輻射補正値を知るため、超巨星の「温度T と B-V」、「輻射補 正値と B-V」のグラフを作成し、近似曲線より、より精度の高い輻射補正値を使用する。 表 5-1 温度 T と B-V 表 5-2 輻射補正値と B-V B-V 温度T 0.7 5700 1.06 4850 1.39 4100 1.7 3500 1.94 2.14B-V
輻射補正値
0.7
-0.1
1.06
-0.3
1.39
-0.7
1.7
-1.2
1.94
-1.9
18 図5-1 超巨星の「温度 T と B-V」のグラフ 図5-2 超巨星の「輻射補正値と B-V」のグラフ ・
B
V
2
.
08
を「図5-2」の近似曲線BC1.086
BV
2 1.4534
BV
0.5985 に代入し、輻射補正値BC を求める。 BC=-2.273919 よって、輻射等級 mbol は、
5149
.
1
)
2739
.
2
(
769
.
0
mbol
・⑥式に輻射等級 mbol の値と距離 d を代入する。d
mbol
Mbol
5
5
log
10 より24666
.
8
Mbol
・⑦式
L
L
Mbol
2
.
5
log
にそれぞれ値を代入しL を求める。31
10
9077
.
5
L
(W)
(1)-3 温度 T と光度Ⅼから半径 R を求める。 ・⑨式にそれぞれ値を代入し半径R を求める。 より、 ベテルギウスの半径は、9
10
25516
.
1
R
(
km)
20
方法
(2)
(2)-1 B-V の近似式を用いて表面温度Tを求める。 図5-2 色指数 B-V と温度の関係 「東京大学 宇宙科学実習」 より 上グラフより、以下の近似式が求められる。85
.
0
9000
T
V
B
(K) ・・・⑩ B:B バンドフィルター (等) V:V バンドフィルター (等) T:温度 (K) (2)-2 光度 L を求める。 (1)-2 と同様に求める。 (2)-3 温度T と光度Ⅼから半径 R を求める。 (1)-3 と同様に求める。21
結果
(2)-1 B-V の近似式を用いて表面温度Tを求める。
9000
0
.
85
T
V
B‐
B=2.849 V=0.769 より、T
3071
(K)
(2)-2 光度 L を求める。 (1)-2 と同様にして導出すると、5
.
90773
10
(
)
31
W
L
(2)-3 温度 T と光度Ⅼから半径 R を求める。 強度I
T
4 ・・・⑧
5
.
667
10
8
Wm
2K
4
T
3071 K
(
)
より、5
.
040
10
6
(
2
)
Wm
I
よって⑩式L
T
4
4 R
2 より、)
(
10
65759
.
9
8
km
R
22
第6章 まとめ
・見かけの等級は0.769 等であり、絶対等級を求めたところ−5.963 等となった。 ・色指数(B-V)の値は 2.08 であり、近似式を用いて表面温度を 3071K と導出した。 ・求めた温度、光度、半径の値は以下の表の通りである。 本研究 (1) 本研究 (2) 文献値 温度 (K) 2693 3071 3500 光度 (W) 3110
907
.
5
5
.
907
10
315
.
184
10
31 半径 (km) 910
255
.
1
9
.
657
10
88
.
029
10
8 表 6-1 本研究データをもとに計算した値と文献値をもとに計算した値の比較23
第7章 考察
・2つの方法から観測データを基に半径を求めたが、それぞれ文献値との相対誤差が 方法(1)は0.563、方法(2)は 0.208 となった。 この原因として、測光をした際のポインターの誤差、地球からの距離 d の理論値の誤差 などが挙げられる。 ・それぞれで求めた半径の正確性を確認するために、理科年表に記載されている文献値と、 実測値との誤差がベテルギウスの変光の範囲内にあるのか確かめてみる。 本研究では、方法(1)と方法(2)で B-V と見た目の等級は同じ値を使っている。 また、(1)と(2)の B-V を差別化するため理科年表から以下のようなグラフを作り、近似 曲線から求めた数値「近似値①」「近似値②」を作った。 表7-1 温度 T と B-V 図7-1 超巨星の「温度 T と B-V」のグラフ24 表7-2 近似値①、近似値② ・参考文献の「ベテルギウスの色指数の観測報告」より、この観測結果をもとに誤差の範囲 を確かめる。 図7-2 色指数の変化 http://hikariao.la.coocan.jp/Betelgeuse-5.htm この観測によると、近年のB-V の変化幅は約 1.7~1.9 である。 実測値のB-V の値 2.08 は変化幅より大きく出ている。 ・元々の画像の精度に原因があると思われる。望遠鏡でベテルギウスのB バンドは 100 枚、 V バンドと標準星の B、V バンドはそれぞれ 50 枚ずつ撮影したが、その際に雲などが入 ってしまうと画像解析する際に、撮影した画像を加算平均して1 枚の画像を求めるので、 カウント値と実視等級に誤差が生じたからだと考えられる。
近似値と比較して考えられること
① ・近似式に代入した温度T=2693(K)がずれている可能性がある。 ・近似式自体がずれている可能性がある。プロットする超巨星のデータ数を増やせば より信ぴょう性のある値が得られると考える。 ② ・数値が範囲内であり、比較的、文献値に近いため信ぴょう性の高い値だと考える。実測値
近似値①
近似値②
文献値
B-V(等級)
2.08
2.00774
1.84348
1.85
見た目の等級(等級)
0.769
0.4
25 ・参考文献の「ベテルギウスの光電測光」より、ベテルギウスの実視等級(V 等級)の変光 幅をもとに誤差の範囲を確かめる。 図7-3 V 等級(見た目の等級)の変化 http://hikariao.la.coocan.jp/alphaori.html ・元々の画像の精度に原因があると思われる。 ・ステライメージ8 で、カウント値を求めるときのカーソル合わせを手動で行うため、誤 差が生じてしまったと考えられる。
2 つの考察から分かったこと
・過去のベテルギウスの周期状況によって予測したが、ベテルギウスの周期状況も観測によ って求めることが、現在の半径を知る上で必要になり、課題が残る結果である。 ・観測の正確性の欠けるところがあり、観測量を増やすことが課題である。 ・方法(1)で求めた温度よりも、方法(2)で求めた温度の方が文献値により近い値となった。 この事より、ベテルギウスは、黒体放射のスペクトルではないと思われる。26
参考
宇宙科学入門 第2版 尾崎 洋二
理科年表 国立天文台
データベース Aladin Sky Atlas
データベース ベテルギウスの距離 「Harper ら(2017)」
Harper, G. M.; Brown, A.; Guinan, E. F.; O'Gorman, E.; Richards, A. M. S.; Kervella, P.;Decin, L.
”An Updated 2017 Astrometric Solution for Betelgeuse” The Astronomical Journal, Volume 154, Issue 1, article id. 11, 6 pp. (2017)
B-V の近似式 東京大学 「宇宙科学実習 I」より http://ea.c.u-tokyo.ac.jp/astro/Members/yoshida/jisshu1/2017/NO4/no4.pdf#search=%27%E5%AE%8 7%E5%AE%99%E7%A7%91%E5%AD%A6%E5%AE%9F%E7%BF%92+BV%27 2015 年度 卒業論文 漆原拓未 熊沢寛明 「脈動変光星 X Cyg の観測」 ベテルギウス JAXA 宇宙情報センター http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/betelgeuse.html 赤色巨星 JAXA 宇宙情報センター http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/red_giant_stars.html アルマ望遠鏡がとらえたベテルギウス 国立天文台 https://www.nao.ac.jp/gallery/weekly/2018/20180123-alma.html SAO/NASA ADS http://adsabs.harvard.edu/abstract_service.html
27 ベテルギウスの色指数の観測報告 http://hikariao.la.coocan.jp/Betelgeuse-5.htm ベテルギウスの光電測光 http://hikariao.la.coocan.jp/alphaori.html