Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
AI とシンギュラリティ,そして医療人である我々の存在
価値
Author(s)
穴澤, 卯圭
Journal
歯科学報, 117(4): 4i-4i
URL
http://hdl.handle.net/10130/4355
Right
Description
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AI とシンギュラリティ,
そして医療人である我々の存在価値
穴 澤 卯 圭
1997年,チェス世界チャンピオンに IBM のコンピュータ「ディープ・ブルー」が勝利。2011年,IBM
の質問応答システム「ワトソン」が米国のクイズ番組で最高金額を獲得。2013年,将棋ソフト「ポナ
ンザ」がプロ棋士に,2015年,囲碁プログラム「AlphaGo」がプロ囲碁棋士に勝利。そして,2017
年,現役将棋名人がポナンザに敗北,世界最強とされる囲碁棋士・柯潔(カ・ケツ)も AlphaGo に完
敗した。AlphaGo は約3,000万のトップ棋士の打ち手を集め,プログラムが自分で囲碁を打てるよう
に訓練され,さらに,ソフト同士で戦い,自ら学習,進化していた。
機械学習は膨大なデータ(ビッグデータ)から規則性や判断基準などを抽出して分析を繰り返し,洞
察や予測の精度を上げていく。しかし,機械学習のみでは汎用性は得られない。上述のソフトはいず
れも,クイズ,将棋,囲碁以外には全く使えない。すなわち“汎用性のある人間の知能そのものを持
つ機械”である強い AI(artificial intelligent:人工知能)とは一線を画している。
それでは人間を超える「強い AI」は実現するのか? Google で AI 開発の総指揮者であるレイ・
カーツワイルは,「強い AI」が人間を超えることを,技術的特異点:シンギュラリティと定義した。
ひとたび優れた知性が創造された後,再帰的に更に優れた知性が創造され,人間を超えた知性が誕生
するという仮説である。では,AI がシンギュラリティのために必要なことはなにか?それは,「創
問」:自力で問題を作ること,と多くの AI の専門家は述べている。今のところ,回答,あるいは回
答に達するプログラムがない限り,どんなに優れた AI でも1+1を解くことさえ不可能である(人
間の歴史でも,1910年代の数学原理という書物では,1+1=2を証明するのに700ページあまりを
要した)。そして,プログラムで動くという AI の性格上,どんなに AI が進歩しても AI が創問する
ことは不可能と考えている専門家も多い。
しかし,ビックデータを活用する AI の登場で,私たちを取り巻く環境は劇的に変化している。
2015年,東京大学医科学研究所は人工知能「ワトソン」に,2000万件以上の生命科学論文,1500万件
以上の薬剤関連情報を学習させ,がん患者の遺伝子や治療薬の候補を提示させる臨床研究を始めた。
その結果,標準的な抗がん剤治療が合わない「急性白血病」と診断された患者が,わずか10分で「二
次性白血病」と診断され,数か月で回復,退院した。しかし,適切なデータの入力,得られた結果の
妥当性の判断,そして患者への説明と患者の立場に立った治療を行うのは人間である。また,どんな
に優れた AI でも過去のデータの活用しかできない。
過去は変えることはできず,過去は我々になんら直接的に物理的影響を与えることはできない。未
来のみが我々にとって選択可能である。よって,未来の選択のみが我々に直接的に影響を与えること
となる。また,アップルの創始者であるスティーブ・ジョブスは,「点を結ぶことはできない。過去
を振り返って点を結ぶだけだ。だから,いつかどうにかして点は結ばれると信じなければならない」
と述べた。人間は,今,自由に選択することができ,その過去の選択に価値をあたえるのは人間だけ
である。すなわち,われわれ医療人にとっての AI とは,膨大な情報の中での自分自身の選択を確認
し,新しいアイデアや発想のヒントや種を得,そしてその選択に価値をあたえるための手段に過ぎな
い。
知識の収集,分類は AI に任せましょう。今後は,知っていることより,わからないことが重要に
なると感じています。AI は,わからないことに価値を創造することはできません。我々は,わから
ないからこそ臨床,研究から疑問を感じ,創問に達することができるのだと思います。AI が急激に
進化している今日,常に未来を見据え創問し,わからないことを明確化し,独創性,革新性のある新
たな治療,研究を行い,さらに,結果に対する価値を創造することこそが,われわれの存在価値と考
えます。 (東京歯科大学市川総合病院整形外科 教授)
巻 頭 言 ④