談話における確認表現の「じゃないか」: 『女性のことば』『男性のことば』のデータから
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(10) ④後続に、類似表現を用いて言い直す〔類似表現〕 例6: 出てるじゃん。出てたじゃん。. (『女性のことば』7340-7341). 例6は、同じ内容を説明する際、「出てる」「出てた」のように類似表 現で言い直している。これを〔類似表現〕とする。 ⑤直前の語の繰り返し〔繰り返し〕 例7: もー、ほんと、毎日じゃない、毎日ー、このごろは毎日飲まないですけ どー。. (『男性のことば』8679). 例7は、直前に発話した「毎日」を繰り返している。このようなものを 〔繰り返し〕と呼ぶことにする。 ⑥後続に、情報を付加して説明する〔説明付加〕 例8: (略)そのー、きちっとーお金をつかんでなかったってゆうことがやっぱ りあれじゃないのー、1番騒ぎ大きくしたんじゃないの。 (『男性のことば』2131) ⑥は、①~⑤以外のものである。①~⑤は、いずれも意味の上では「じゃ ないか」類に続き説明を加えており、なおかつ形式的な面で特徴が現れて いるものであるが、⑥は形式的な特徴から類型化ができなかったものとし た。例8は、「じゃないか」の後、そのまま前節に対して情報を付加して いる。これを〔説明付加〕と呼ぶことにする。 このように①から⑥に分類して、「じゃないか」類のデータを見た結果、 表4のようになった。. -82-.
(11) じゃないですか. じゃない. じゃん. じゃないか. じゃないの. じゃないんですか. 表4 「じゃないか」類の後続のパターン. ①指示詞. 11. 14. 7. 0. 0. 0. 32. ②接続詞. 11. 7. 7. 0. 1. 0. 26. ③倒置. 7. 14. 19. 1. 0. 0. 41. ④類似表現. 7. 4. 4. 0. 4. 0. 19. 後続の型. ⑤直前の語の繰り返し ⑥説明付加 計. 計. 0. 2. 0. 0. 0. 0. 2. 18. 28. 32. 2. 5. 1. 86. 54. 69. 69. 3. 10. 1. 206. 奥野他(2012)では後続発話により類型化はできたものの、それぞれの類 型がまとまった数で産出されたわけではなかった。しかし、表4からわか るように、本データの『女性のことば』『男性のことば』では奥野他(2012) 同様のパターンが観察され、しかもある一定数の用例が確認できた。 「じゃないか」類には「じゃないですか」「じゃない」「じゃん」「じゃ ないか」「じゃないの」「じゃないんですか」など複数の表現バリエーシ ョンが存在するが、例えば「じゃないですか」の場合、後続に①指示詞を 用いるものが11例、②接続詞を用いるものが11例、③倒置する場合が7例、 ④類似表現で言い換える場合が7例、⑥説明を付加する場合が18例見られ た。このことからも、奥野他(2012)で指摘した通り「じゃないか」類を用 い、話を続ける「ターン維持」の場合、その後続の表現にいくつかのパタ ーンがあることがわかる(注1)。 また、「じゃないですか」「じゃない」「じゃん」の三つの表現は、丁 寧に話す相手や親しみのある相手との会話で用いられるが、①~⑥の後続 のパターンがいずれも観察され、後続の型のバリエーションに差はないよ うである。例えば、「じゃないですか」「じゃない」「じゃん」のいずれ の表現においても、後続に①指示詞を用いる例が、「じゃないですか」の. -83-.
(12) 場合11例、「じゃない」の場合14例、「じゃん」の場合7例見られた。(「じ ゃないか」「じゃないの」「じゃないんですか」はもともとの用例数が少 ないので、①~⑥の全てのパターンを確認することができなかった。). 4.考察 本研究では、先に述べた図2の枠組みの中における「Ⅲ母語話者同士の 談話」の「じゃないか」類の使用を見た。ここで、以下、母語話者同士の データの考察を踏まえ、「Ⅰ学習者の縦断的な発話」「Ⅱ学習者と母語話 者との接触場面での談話」の結果とも合わせて、以下の三つの点から「じ ゃないか」類の特徴について述べる。 1)「じゃないか」類とターン維持の関係 2)「じゃないか」類の後続パターンの類型化 3)「じゃないか」類の使用と聞き手との関係 まず、1)「じゃないか」類とターン維持の関係について確認するため、 「じゃないか」類がターンを維持する際に使われているかどうかについて 見ることにする。前述の表3から分かるとおり、母語話者同士のデータで、 男女ともに「じゃないか」類の発話の後に、約半数の場合、ターンを維持 し、話を続けることがわかった。このことから、「じゃないか」類には ターンを維持するための機能を持つ可能性が高いと考えられる。「Ⅰ学習 者の縦断的な発話」(金庭他2011b)では、学習者の独自の文法である可能性 も考えられたが、母語話者同士の使用が多く見られたことから、「じゃな いか+後続発話」というパターンは学習者独自の文法ではなく、母語話者 からのインプットの影響が大きいのではないかと思われる。 次に、2)「じゃないか」類の後続パターンの類型化において、母語話 者同士のデータでは後続の発話のパターンを以下のように類型化できた。 ①後続に指示詞を用い、話を続ける〔指示詞〕 ②後続に接続詞(で、だから、例えば等)を用い、話を続ける〔接続詞〕 ③倒置文として発話を続ける〔倒置〕 ④後続に、類似表現を用いて言い直す〔類似表現〕 ⑤直前の語の繰り返し ⑥後続に、情報を付加して説明する〔説明付加〕. -84-.
(13) 母語話者は、これらのパターンで「じゃないか」類を使用しているという ことになる。 この①~⑥のような使用は、奥野他(2012)の「Ⅰ学習者の縦断的な発話」 や「Ⅱ学習者と母語話者との接触場面での談話」においても観察されてい る。したがって、ターンを維持する際に用いられる「じゃないか+後続発 話」には一定の類型が存在すると言える。 さらに、3)「じゃないか」類の使用と聞き手との関係について見るこ とにする。 本研究では、母語話者のデータの中で、前述の表4のような「じゃないか」 類(「じゃないですか」「じゃない」「じゃん」「じゃないか」「じゃな いの」「じゃないんですか」の六つのバリエーション)の後続発話がどの ようになっているかについてみた。母語話者同士の場合、丁寧に話す相手 との発話では「じゃないですか」を用い、親しみのある相手との会話では 「じゃない」「じゃん」を用いることで、相手に確認するという形をとり ながらターンを維持し、会話を継続している。丁寧に話す相手や親しみの ある相手等、聞き手との関係が異なっても、ターンを維持していることに 違いがないことが明らかとなった。聞き手との関係という観点から、「Ⅰ 学習者の縦断的な発話」(金庭他2011b)や「Ⅱ学習者と母語話者との談話」 (奥野他2012)を見ると、学習者も、ある程度フォーマルなインタビュー形 式であれ、親しい日本語母語話者の友人との会話であれ、後続発話として 指示詞、類似表現、説明付加などの同様のパターンを用いていた。このこ とから、「じゃないか」類のどの表現を使用するかということを除いて、 聞き手との関係が「じゃないか」類のターンを維持するという機能に影響 を及ぼすということはないと考えられる。 ここで、再び「Ⅰ学習者の縦断的な発話」のデータに戻って、学習者の変 化について見ることにする。 学習者が母語話者からのインプットを得た際、言語形式のインプット中の 卓立性が習得に影響を与えると考えられ、特に、インプットの頻度や珍し さが関係すると言われている(Doughty & Williams 1998)。前述の①から⑥ の類型化のうち、①の指示詞や②の接続詞を置くというパターンは、指示 詞や接続詞は頻度の高い表現で、他の形式に比べ卓立性が高いと思われる。 より長い談話を維持しようという段階の学習者にとってこれらのパターン. -85-.
(14) は、取り入れやすいものとなっているのではないだろうか。 実際にそれらの表現の使用を試み、習得していく過程の学習者Nの例を見 てみたい。例9と例10は来日一年半後、二年半後の「じゃないか」類の使 用例で、後続として指示詞を用いている場合である。 例9の例はNの来日前の出来事であり、初対面のテスターが知りえない情 報について、話している。そのため、「じゃないですか」の後、聞き手Tは 相槌を打てず、「え(上昇イントネーション)」と聞き返している。学習 者が共有できると考えた認識、「選抜テストで大学が決まった後は来日前 みんな勉強しない」ということを、聞き手Tが共有できなかったためであろ う。そのような場合、学習者Nは聞き手Tの疑問に応じた対応が必要である。 それにもかかわらず、学習者Nがさらに指示詞「そう」で続けており、聞き 手Tは指示詞が指すことについてももちろん知らないことであるため、「え (上昇イントネーション)」ともう一度聞き返している。「じゃないか」 類は確認要求表現として使われるが、もし聞き手が共有できる認識がなけ れば、話し手はそのままターンを維持して後続を話すのではなく、聞き手 にわかるような説明に変更しなければならない。しかしながら、例9の場 合、単純に「じゃないか+指示詞」というパターンだけを取り込んで使用 し、不自然な発話となっている。 例9:. 指示詞を用いる(来日1年半後)(違和感あり). N:テスト、せんぱつテストの結果だけで大学が全部、きめ、大学は全部 決めるって、ってふうに、ふうになって、やっぱり大学が全部決ま ったわけですからみんな勉強しないじゃないですか(T:え、)、 僕もそうだったし、(T:え、)、で、やっぱり僕が、まぁ、言い たいのはそれですよね、 (日韓共同理工系学部留学生の縦断的な発話の分析のデータより 学習者N. 来日1年半後). 一方、来日2年半後には、同様に「じゃないですか」の後に指示詞を使う というパターンを用いているものの、聞き手が「はい(了解した)」と相 槌を打てるような、聞き手にも共有できるような内容とともに使用してい る。その結果、聞き手は指示詞の指すものが理解でき、話し手はターンを. -86-.
(15) 維持しそのまま発話を続けていることがわかる。 例10:指示詞を用いる(来日2年半後)(違和感なし) N:水曜は実験なんで。〈ええ〉実験は、なんだろう。実験というか、手 順とかあんじゃないですか。〈はい〉それをちゃんと読まないと、実 験の時、なんか、結構時間かかって、〈はい〉で (日韓共同理工系学部留学生の縦断的な発話の分析のデータより 学習者N. 来日2年半後). 5.まとめ 筆者らは一連の研究において、「Ⅰ学習者の縦断的な発話」や「Ⅱ学習 者と母語話者との接触場面での談話」から「じゃないか」類の学習者の使 用傾向、その学習者と親しい日本語母語話者との会話の分析を行ってきた。 そして本研究において、「Ⅲ母語話者同士の談話」から「じゃないか」類 の後続部分を含め分析した。母語話者同士の談話分析の結果から、「じゃ ないか」がターンを維持する機能があるということ、「じゃないか」類と その後続発話のパターンは六つに類型化ができること、さらに聞き手との 関係において、親しい間柄の相手にとどまらず目上に対してもターンを維 持するために「じゃないか」類を用いることが明らかになった。さらに、 これらの結果をもとに、学習者への母語話者によるインプットの可能性が 示唆され、学習者の使用傾向の要因を指摘することができた。これらは「Ⅰ 学習者の縦断的な発話」、「Ⅱ学習者と母語話者との接触場面での談話」、 「Ⅲ母語話者同士の談話」三つのデータを通してみることで明らかになっ たと言える。このことから、Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの3種のデータを用いた研究手法 は、今後の研究方法としても非常に有効ではないかと思われる。. 注 1 奥野他(2012)で〔説明付加〕としたもののうち、本研究では③〔倒置〕 と⑥〔説明付加〕に分けた。また、〔指示詞〕としたもののうち、本研究 では①〔指示詞〕と②〔接続詞〕に分類した。発話のいくつかは、「で、. -87-.
(16) それは…」のように指示詞と接続詞を同時に使うものも見られたが、最初 に発話した「で、」の部分を〔接続詞〕として数えた。例11の場合は〔接 続詞〕でカウントする。 例11: N:僕があれを、中学校二年を三年に、やって、で、結構タカセっていう ところは、ほんーーとに、ふるさとっていますか、そんなところだっ たんですけど、結構印象的で、やっぱふるさとですから、やっぱり、 いえ、おいえとか結構てんとうできじゃないですか、で、あれは、 あ、結構印象的で、あ、後で、日本で勉強すればいいなって感じはち ょっとしたんですけど、(1年半後) (奥野他2012より). 参考文献 奥野由紀子・金庭久美子・山森理恵(2010)「日韓共同理工系学部留学生の 縦断的な発話分析―繰り返し・言い換えに注目して―」『日本語OPI研 究会20周年記念論文集・報告書』148-159,日本語OPI研究会 奥野由紀子・金庭久美子・山森理恵(2012)「「じゃないですか」「じゃな い」 「じゃん」の確認要求表現を用いた段落形成」Nineteenth Princeton Japanese Pedagogy Forum PROCEEDINGS, 157-168. 金庭久美子・奥野由紀子・山森理恵(2011a)「日韓共同理工系学部留学生の 縦断的な発話分析―終助詞を含む表現に注目して― 」『横浜国立大学 留学生センター教育研究論集』第18号, 5-32. 金庭久美子・奥野由紀子・山森理恵(2011b)「日韓共同理工系学部留学生の 縦断的な発話分析―「終助詞」の習得と話題の広がり―」『韓国日語教 育学会第20回国際学術発表会予稿集』, 53-57. 現代日本語研究会(1998)『女性のことば』ひつじ書房 現代日本語研究会(2002)『男性のことば』ひつじ書房 張興(2004)「「ではないか」の用法について」 『世界の日本語教育』14,193-205, 国際交流基金.. -88-.
(17) 張雅智(2004)「「ではないか」の用法」『言語科学論集』第8号, 37-48, 東 北大学. 蓮沼昭子(1995)「対話における確認行為」『複文の研究(下)』 389-419, くろしお出版. 三宅知宏(1996)「日本語の確認要求的表現の諸相」『日本語教育』(89), 111-122. メイナード・泉子・K (2005) 『日本語教育の現場で使える談話表現ハン ドブック』くろしお出版. 山森理恵・金庭久美子・奥野由紀子(2012)「 中級 停滞 者の 縦断的 発話 の 分析―動詞語彙・単文・複文に着目して―」『横浜国立大学留学生セン ター教育研究論集』第20号, 115-136. 劉雅静(2008)「「デハナイカ」の用法間の関連性について」『言語学論叢 オ ンライン版』創刊号(通巻27号), 86-102, 筑波大学. Doughty, C., & Williams, J. (1998). Pedagogical choices in focus on form. In C. Doughty & J. Williams (Eds.), Focus on form in classroom second. language. acquisition,. 97-261,. Cambridge:. Cambridge. University Press. 付記 本稿は,日本語教育国際研究大会(2012年8月18日,於名古屋大学)に おけるポスター発表の内容を修正・加筆したものである。. -89-.
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