2014(平成 26)年 4 月から消費税率が 8% に 引き上げられ,その税収はすべて社会保障の財 源とされることとなった.これに先立ち,社会 保障と税の一体改革の議論が行われ,社会保障 財源の使われ方が,従来の年金・医療・介護 の「高齢者 3 経費」から,子ども・子育てを加 えた「社会保障 4 経費」に変更された.その考 え 方 は,2013(平成 25)年 8 月 6 日 に 公表 さ れた社会保障制度改革国民会議1)の報告書「確 かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋」 に詳しい.報告書では社会保障改革の方向性を 「1970 年代モデルから 21 世紀(2025 年)日本 モデルへ」と表現し,主として高齢者世代を給 付の対象とする社会保障から,「切れ目なく全 世代を対象とする社会保障への転換を目指すべ き」2)としている. 以下では,社会保障制度改革国民会議の報告 書に示された考え方を確認しながら,公的年金 に拠出建て制度を組み込むことを検討する.本 論文では高齢期の所得保障のトータルとしての 持続可能性を重視し,少子高齢化のもとでは従 来どおりの賦課方式による給付建ての公的年金 には限界があり,自助努力を組み込むことを提 唱する.最初に公的年金を中心とした現在の所 得保障制度を概観し,5 年に一度の公的年金財 政検証から示される将来の給付水準を確認した 後,公的年金給付を補完するものとしての拠出 建て制度の新設を提案する.検討に際し,諸外 国の制度改正を検証し,その考え方とわが国へ の示唆について考察する. 1 公的年金制度の概要 1―1.公的年金制度の誕生から国民皆年金制度へ わが国の老齢期の所得保障制度は,1 階部分 の基礎年金制度,2 階部分の被用者年金制度を 基本とし,上乗せ部分としての企業(職域)年 金部分を持つ 3 階建ての構造である.1 階部分 の基礎年金制度は 20 歳以上 60 歳未満の国内居 住者を対象とし,2 階部分の被用者年金制度は 報酬比例で拠出する厚生年金保険3)があり,3 階 1)社会保障制度改革国民会議は 2012 年に成立し た 社会保障制度改革推進法 に「法施行後 1 年以内 に 国民会議を設置して必要な法制上の措置を議論する」 ことを受けて内閣に設置された.同法は社会保障・ 税一体改革に関し,自由民主党,公明党,民主党の 3 党の合意を経て成立しているため,社会保障制度 改革国民会議は政権交代を間に挟む形で,2012 年 11 月 30 日から 2013 年 8 月 5 日にかけて開催された. 2)社会保障制度改革国民会議 報告書 7 頁. 3)公務員および私立学校教職員については,長 く共済組合が分立した形で存在していたが,2012 年 8 月の「被用者年金制度の一元化等を図るため の厚生年金保険法等の一部を改正する法律」によ り 2015 年 10 月からは厚生年金に統合され,被用 者制度は厚生年金保険に一本化される.
公的関与のある私的な拠出建て年金制度の
必要性に関する考察
──トータルとしての老後所得保障の持続可能性の確保の観点から──
津 田 弘 美
86 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 3 号(2014 年 9 月) 部分は企業年金制度に代表される.現在の高 齢者にとっての公的年金制度の位置づけを平 成 24 年国民生活基礎調査からみると,高齢者 世帯の平均所得金額は 303.6 万円4)で,このう ち公的年金・恩給が占める割合は 69.1% となっ ている.また,公的年金・恩給を受給している 高齢者世帯のうち,公的年金・恩給が総所得に 占める割合が 100% の世帯は 56.8% となってお り,公的年金制度は高齢期の生活を支える重要 な基盤として組み込まれているといえる. 社会保険としての年金制度5)は,1939(昭和 14)年に制定された船員保険法が最初であり, 疾病給付と年金給付を含む総合保険として成立 した.その 2 年後の 1941(昭和 16)年には労 働者年金保険法が制定され,翌 1942(昭和 17) 年から施行された.労働者年金保険制度は,工 場等の男子労働者を被保険者とし,養老・廃失・ 遺族年金を支給するもので,完全積立方式を採 用し,保険料率は 6.4%(労使折半)で設定され た(坑内夫 8%). その後,1944(昭和 19) 年 には,労働者年金保険法は厚生年金保険法へと 名称をあらため,被保険者の範囲を職員,女子 にも拡大するなどの改正が行われた. 第二次世界大戦後,厚生年金はインフレによ る積立金の減価や被保険者の減少などにより, 「凍結状態」6)となったが,1954(昭和 29)年に は養老年金の受給者が生じた7)ことを契機に全 面的に改正された.それまで報酬比例部分のみ であった老齢年金(改正で養老年金の名称から 改められた)を定額部分と報酬比例部分の 2 階 建てとし,男子の支給開始年齢を 55 歳から 60 歳に引き上げた.一方,急激な保険料の増加を 避けるため保険料率は当初 3% に据え置き,5 年毎の財政再計算によって保険料率を段階的に 引き上げることとした.その後,経済発展とと もに「1 万円年金」「2 万円年金」といった給付 拡大が行われ,1973(昭和 48)年には,給付 水準の考え方に「所得代替率」が取り入れられ るようになった.また,年金額の物価スライド 制(前年度の全国消費者物価指数が 5% を超え て変動した場合,その変動に応じて年金額を改 定する)の導入,年金額計算の基礎となる標準 報酬月額を現役世代の賃金の伸びに応じて再評 価する賃金スライドも法定された. こうした厚生年金の発展の一方で,国民年金 が創設されている.戦後の復興期を終えた8)昭 和 30 年代,自営業者・農業従事者 に も 年金制 度を準備することの世論が高まり,1961(昭 和 36)年には国民年金法が施行された(成立 は 1959(昭和 34)年).国民年金は,厚生年金 の適用対象外の 5 人未満事業所の従業員と自営 業者等を対象とし,定額拠出定額給付であり, 無業者など保険料の負担が困難な人については 免除制度が設けられている.また,高齢のため 受給に必要な加入期間を満たせない人等に対し て,無拠出の老齢福祉年金等を支給し,その費 用は全額国庫負担となった.これにより,わが 国年金制度の特徴である「国民皆年金」が成立 した. (238) 4)福島県を除く. 5)公的年金制度の変遷については,吉原健二『わ が 国の公的年金制度』(中央法規,2004 年)14 頁 以下,厚生省年金局監修『年金白書(平成 9 年度版) ─21 世紀の年金を「選択」する』65 頁以下を参照 してまとめた. 6)養老年金の給付水準を凍結する一方,保険 料を本来必要な料率の 3 分の 1 に引下げ,障害年 金や遺族年金の給付を増額した.吉原・前掲書(注 5)25 頁 7)坑内夫の特例で実際の加入期間に 3 分の 1 が 付加されたため,1953(昭和 28)年には最低 15 年 の加入期間に到達する者がいた.その数は 1953(昭 和 28)年 4 人,1954(昭和 29)年 1,313 人,1956(昭 和 31)年 3,254 人と記録されている(厚生白書 昭 和 31 年度版). 8)消費水準が昭和 9~10 年と同じレベルにもどっ たのは昭和 28 年度.終戦直後は食糧の確保が,そ の後は衣料の購入が消費の中心だったが,昭和 30 年には家財への消費が増えた.また家電(電気洗 濯機,電気冷蔵庫,電気釜)も発売され,人気を博 した(経済白書 昭和 31 年度版).
87 公的関与のある私的な拠出建て年金制度の必要性に関する考察(津田) 1―2.人口高齢化への対応と給付の引下げ 1985(昭和 60)年改正 は 厚生年金 と 国民年 金を統合する大きな改正であり,基礎年金の導 入,給付水準の適正化,第 3 号被保険者制度の 導入,等が図られた.基礎年金の導入は,被用 者年金の定額部分を基礎年金として国民年金と 統合し,これによって財政的な危機に陥ろうと していた国民年金を援助する側面があった9). 1989(平成元)年改正では,完全自動物価スラ イド制(物価上昇率が 5% 以下でも年金額を自 動的に改定)の導入や,学生の基礎年金への強 制適用,国民年金基金制度の創設が行われた. 一方,厚生年金の支給開始年齢の 65 歳への引 上げも政府案には盛り込まれていたが10),60 歳定年制が定着してきたところでもあり,労働 団体をはじめとした強い反対もあって国会審議 において削除された.1980 年代は,予想を上 回る長寿化と,出生率の低下が話題になり始め たころであり,1989 年の 1.57 ショック11)以降, 合計特殊出生率は低下の一途をたどることとな る. 1994(平成 6)年改正では,支給開始年齢の 引上げにより実質的に給付総額の引下げが行わ れた.定額部分の支給開始年齢を男子は 2001 (平成 13)年度 か ら 2013(平成 25)年度 に か けて,女子は 5 年遅れで 65 歳に引き上げるこ とになった.また,可処分(ネット)所得スラ イド方式が採用され,年金額計算の基礎となる 受給者の過去の賃金の再評価にあたり,現役世 代の税・社会保険料控除後の手取り賃金の上昇 に変更した. 2000(平成 12)年改正は,給付水準を 5% カッ トする一方,将来にわたり裁定時には現役の年 収の約 6 割を確保することとし,最終保険料率 は年収の 20%(従来は月収の 30%)とした.ま た,既裁定年金における賃金スライド制の廃止, 報酬比例部分の支給開始年齢の 65 歳への引上 げが盛り込まれ,給付抑制の方向が明確に示さ れた. 1―3.2004 年改正 2004(平成 16)年 の 年金改正 は,制度 の 持 続可能性を高めるための長期的視点に立った改 革として評価できるものであり,主な改正点は 次の 6 点に整理できる. ①計画的に毎年保険料を引き上げ12),2017(平 成 29)年度以降は 18.30%(国民年金は 2004(平 成 16)年度価格 で 16,900 円)に 固定(収入増 加策). ②マクロ経済スライドによる実質的な給付水準 の引下げ(支出削減策). ③ 100 年程度の将来時点で給付費用の 1 年分相 当の積立金を残す形で財政均衡を図る. ④モデル年金の給付水準を現役労働者の可処分 所得の 50% 以上とする(65 歳時). ⑤ 5 年毎 に 財政検証 し,④ の 所得代替率 50% が維持できない時は制度を見直す. ⑥基礎年金への国庫負担割合を段階的に 2 分の 1 に引き上げる. ①の収入増加策と②の支出削減策を同時並行 で実施し,積立金も③で示した一定水準まで取 り崩して財政を維持しつつ,一方で給付水準 の低下に一定の歯止め(④の所得代替率 50%) を設けて,老後の所得保障として機能する年金 制度を持続的に継続していくという考え方であ り,さらに 5 年毎の財政検証で,この計画の点 検を行う仕組みがつくられた.しかし②につ いては,デフレ経済下では発動しない仕組みと (239) 9)阿部和光「社会保険の形成と展開」河野正輝・ 良永彌太郎・阿部和光・石橋敏郎編『社会保険改 革の法理と将来像』(法律文化社 2010 年)16 頁. 10)1980(昭和 55)年改正時は政府案には支給 開始年齢の引上げが示されていたが,自民党内の 議論で削除されている.吉原・前掲書(注 5)126 頁. 11)1966(昭和 41)年の「丙午」年の合計特殊出 生率が 1.58 だったが,それを下回ったことで「1.57 ショック」と呼ばれている. 12)改正前 13.58% だった 厚生年金 の 保険料率 を毎年 9 月に 0.354% ずつ引上げ,2017(平成 29) 年度に 18.30% とする.
88 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 3 号(2014 年 9 月) なっており,10 年経過した現時点においても 発動はしていない. 1―4.小 括 公的年金は幾多の変遷を経て,老後の所得保 障の中核的役割を担うようになった.人口構成 の高齢化や少子化に伴う年金財政の悪化が危ぶ まれた時期もあったが,2004(平成 16)年改正 によって制度の持続可能性が高まり,5 年毎の 財政検証によって,制度の安定性をチェックし ていく仕組みが確立した. 2 企業年金制度 公的年金以外の高齢期の所得の準備方法とし ては,①企業年金制度,②民間の個人年金,③ 貯蓄の 3 つがあり,①企業年金制度と②③とは 税の優遇度合に違いがある.②にも税の優遇が あるものの近年縮小されていて効果は限定的で あり,高齢期の所得の準備方法としては①の活 用が有利といえる.①の代表的な制度には,厚 生年金基金,確定給付企業年金,確定拠出年金(企 業型)の 3 種類があるほか,中小企業退職金共 済や特定退職金共済などの共済制度もあり,そ れぞれ特別の法律に基づき支給される.また, 加入者資格は企業によって定められ,加入・非 加入の任意性がないことから13),準公的年金と もいえる性格がある14).いずれも企業の退職金 準備の方法として活用されていることから,掛 金拠出は企業のみが行い15),対象者は正社員16) に限定され,「年金」としてよりも「一時金」 での受取が主流といった特徴がある. 2―1. 企業年金制度の変遷 高度経済成長が始まる 1960 年ごろから,自 己管理方式の自社年金制度は普及していたが, それらは税制上の措置もなく,法的保護もな されていなかった17).その後,1962(昭和 37) 年に日経連の強い働きかけ18)により法人税法お よび所得税法の一部改正が行われ,適格退職年 金制度が創設された.適格退職年金は,法人税 法に規定された条件を満たし国税庁長官の承認 を受けた適格退職年金契約であれば,その掛金 を損金算入できるというもので,これにより自 社年金から適格退職年金への移行が行われた. しかし,適格退職年金は受給権保護の仕組みに 弱い面(積立義務,受託者責任,支給要件,情 報開示等)があり,2001(平成 13)年 6 月に確 定給付企業年金法が成立したことから,10 年 の経過措置(他の制度への移行期間)を経て 2012(平成 24)年 3 月末 に 廃止 と なった.実 際には他の制度に移行せず企業年金制度を廃止 した企業も多く,企業年金のカバー率減少の一 因となっている. 適格退職年金制度とともに企業年金の柱とさ れていた厚生年金基金制度は,厚生年金保険の 大幅な給付改善に伴い,保険料率の引上げが必 要となったことに端を発して誕生した.厚生年 金保険の保険料率の引上げに強硬に反対した経 営者側の意向を入れて,厚生年金と退職一時金 の負担を調整するために厚生年金の一部を代行 し,独自給付を上乗せする制度として厚生年金 基金が創設された19).厚生年金基金は厚生年金 の給付を代行する部分があるため,他の企業年 13)江口隆裕『変貌する世界と日本の年金』(法 律文化社,2008 年)223 頁 14)ほかに非被用者を対象とする国民年金基金, 個人型確定拠出年金も同様に特別の法律に基づく 制度として存在する. 15)企業型確定拠出年金は 2011 年 8 月公布の年 金確保支援法による改正を受けて,2012 年 1 月より 労使合意に基づく規約に定めることで加入者本人が 自身の給与から掛金を拠出できる仕組みができた. 16)厚生年金基金は公的年金を代行する制度の ため加入事業所に雇用される厚生年金の被保険者 全員を対象としているが,厚生年金基金は実質的 に廃止されることが決まった(後述). 17)山口修「わが国の企業年金の現状と課題」 『横浜国際社会科学研究』第 15 巻第 3 号(2010 年) 10 頁. 18)厚生団『厚生年金保険制度回顧録』(社会保 険法規研究会,1988 年)156 頁. 19)厚生団・前掲書(注 18)157 頁. (240)
89 公的関与のある私的な拠出建て年金制度の必要性に関する考察(津田) 金制度とは異なる特徴がある.たとえば,加入 対象者は厚生年金の被保険者であるため正社員 に限定されず20),給付が厚生年金同様に終身給 付となっている.また運営を特別公法人である 厚生年金基金が担い,基金の職員はみなし公務 員に位置づけられている.設立母体の違いに よって「総合型」「連合型」「単独型」の 3 種類 があり,総合型は業界団体が中心になって設立 し,加入企業には中小企業が多い.一方,「連 合型」「単独型」は人数要件としての 1,000 人以 上を満たす必要性から,大企業の制度として位 置づけられてきた.いずれの設立形態であって も,厚生年金基金には以前は「代行メリット」21) があり,昭和から平成にかけて多くの企業・団 体によって導入された.最盛期の 1996(平成 8) 年度には 1,888 の厚生年金基金が存在し,加入 員数 は 1997(平成 9)年度 1,225 万人 と,厚生 年金被保険者の 3 分の 1 を占めていた22).しか し,1990 年代のバブル崩壊から後,株式市場 の低迷や低金利が長引き,厚生年金基金の予定 利率 5.5% との間に「逆ざや」が生じ,積立不 足の補てんが必要な状態が続いた. その後,企業年金の積立状況を企業の財務 諸表に反映させる国際会計基準の導入が 2001 (平成 13)年 3 月期から実施されることが決ま り,厚生年金基金の代行部分の積立不足もその 対象とされた.その結果,多くの単独型,連合 型の厚生年金基金が代行部分を国に返上して資 産規模を縮小し,確定給付企業年金(基金型・ 企業型)や確定拠出年金へと制度の姿を変えて いった.一方で,総合型の厚生年金基金の多く が そ の 財政構造(独自給付 が 薄 い)や 意思決 定(業界団体の代表者など多くの関係者による 意思決定が必要で加入各社の合意を得る必要が あり時間がかかる)の難しさから23),厚生年金 基金として存続していた.しかし,2012(平成 24)年 の AIJ 事件24)を きっか け に 厚生年金基 金の資産運用のあり方や財政運営の問題点につ いて注目が集まり,当時の与党であった民主党 が「財務金融部門年金積立金運用のあり方及び AIJ 問題等検証 WT」で「厚生年金基金は一定 期間後に解散の方向」を示し,厚生労働省は「厚 生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有 識者会議」を設置して議論した.それを受けて 社会保障審議会年金部会の下に「厚生年金基金 に関する専門委員会」が設置されて 2013(平 成 25)年 2 月 8 日 に「10 年間 で 厚生年金基金 制度を廃止」とする最終意見を提示した.その後, 2013(平成 25) 年 の 法律改正 に よって,厚生 年金基金は年金資産の積立比率に応じて,早期 に解散するか,他の制度に移行して存続するか, の選択を迫られることとなり,事実上の廃止が 決定している. 21 世紀に入ってから,企業年金には二つの 新たな法律(確定給付企業年金法と確定拠出年 金法)に基づく制度が登場した.双方ともに, 厚生年金基金と比較すれば「身軽な」制度であ る.確定給付企業年金制度は給付建てではある が,終身給付が強制されない点が「身軽」だ. 厚生年金基金の財政基盤が危うくなった理由の 一つが終身給付であり,死亡率の改善による予 期せぬ債務の発生が企業に重くのしかかってい た.もう一つの確定拠出年金制度は,拠出額の 23)社会保障審議会年金部会厚生年金基金 に 関 する専門委員会「厚生年金基金制度の見直しについ て(試案)」に関する意見 2 頁. 24)AIJ 投資顧問が多額の年金資産(74 件の厚 生年金基金を含む 84 の企業年金から委託された資 産)を消失していた事件. 20)正社員以外も加入者となるが,正社員以外 は加算適用加入員でないことが多く,給付の厚み という点で正社員と区別されている. 21)免除保険料率が本来必要な料率よりも高く, その分が厚生年金基金に蓄積されたため,予定利 率(当時は 5.5%)以上の運用収益が期待できる中 で,代行部分の資産があることによる規模のメリッ トが働いた.山口修「転換期を迎えた企業年金」 『証券アナリストジャーナル』Vol. 51 No. 7 (2013. 7 月号)7~8 頁. 22)第 1 回社会保障審議会厚生年金基金制度 に 関 す る 専門部会 資料 2「代行制度 に つ い て」17 頁. (241)
90 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 3 号(2014 年 9 月) みを企業が約束し,給付額は加入者個人の運 用次第で決まるため,運用の悪化による企業の 追加拠出もなく退職給付債務が発生しない点が 「身軽」である.しかし,確定拠出年金制度は, 資産運用の責任を加入者が負う仕組みであるこ とから,企業側には資産運用に必要とされる知 識(株式市場や投資の考え方)を提供する義務 が生じる.確定拠出年金法施行から 10 年超が 経過したが,資産運用に必要とされる知識が 加入者に定着したとはいえず,2011(平成 23) 年 8 月に成立した年金確保支援法では事業主が 継続的に投資教育を行うことの実施義務が明文 化されるなど,投資教育の必要性が改めて確認 されているのが現状だ. 2―2.小 括 上記のような変遷をへて企業年金の加入者数 は大きく変化し,2012(平成 24)年度末では 民間被用者(こ こ で は 厚生年金 の 被保険者数 を用いる)に占める企業年金加入者の割合は, 47.7%(制度の重複も含めてカウント)と半数 以下に留まっている. 私的な自社年金からスタートした企業年金 は,次第に必要な法的規制と保護の枠組みを獲 得して公的な色彩を強めながら,拠出建て制度 も法制化されるなど種類も多様なものとなっ た.一方 で,企業年金加入者割合 は 低下 し て おり,企業年金からの給付がない層の増加が予 測される.税の優遇が企業年金制度を運営する 余裕のある大企業の正社員に偏在する状況であ り,高齢期の所得保障の課題の一つといえる. 3 公的年金の財政見通し 2004(平成 16)年の年金改正により,公的年 金は 5 年毎の財政検証を行うこととなってお り,今年は第 2 回目の財政検証が行われる.財 政検証は,経済動向や人口動態に関する一定の 前提の下で概ね 100 年程度の年金財政の将来見 通しを示し,制度の持続可能性を検証していく ものである. 図 1 企業年金の制度区分毎の加入者数推移グラフ(2001 年度末~ 2012 年度末) 出所: 第 1 回社会保障審議会企業年金部会「参考資料 1」「参考資料 1─2」,厚生労働省「平成 26 年度年金制度のポイント」等から 筆者作成 (242) 25000 20000 15000 10000 5000 0 70% 60% 50% 40% 30% 20% 2001 年度末 2006 年度末 (単位:千人) 2011 年度末
津田弘美 図表
(単位:千人)
出所:第1 回社会保障審議会企業年金部会「参考資料1」「参考資料 1-2」,厚生労働省「平成26 年度年金 制度のポイント」等から筆者作成図
1 企業年金の制度区分毎の加入者数推移グラフ(2001 年度末~2012 年度末)
表1 2009 年財政検証時の前提
合計特殊出生率(2055年) 平均寿命(2055年) 低位 1.06 男:84.93 女:91.51 中位 1.26 男:83.67 女:90.34 高位 1.55 男:82.41 女:89.17 (注)2005年の実績は,合計特殊出生率は1.26、平均寿命は男78.53,女85.49 出所:厚生労働省「平成21年財政検証結果レポート」21頁より筆者作成表2 2009年財政検証時の経済前提
長期経済前提
物価上昇率
賃金上昇率
運用利回り
備考
経済低位
1.0%
名目
2.1%
名目3.9% 全要素生産性上 昇率0.7%実質
1.1%
実質2.9%経済中位
1.0%
名目
2.5%
名目4.1% 全要素生産性上 昇率1.0%実質
1.5%
実質3.1%経済高位
1.0%
名目
2.9%
名目4.2% 全要素生産性上 昇率1.3%実質
1.9%
実質3.2%出所:厚生労働省「平成21年財政検証結果レポート」22頁より筆者作成 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 0 5000 10000 15000 20000 25000 2001年度末 2006年度末 2011年度末 適格退職年金 厚生年金基金 確定給付企業年金 確定拠出年金(企業型) カバー率 適格退職年金
津田弘美 図表
(単位:千人)
出所:第1 回社会保障審議会企業年金部会「参考資料1」「参考資料 1-2」,厚生労働省「平成26 年度年金 制度のポイント」等から筆者作成図
1 企業年金の制度区分毎の加入者数推移グラフ(2001 年度末~2012 年度末)
表1 2009 年財政検証時の前提
合計特殊出生率(2055年) 平均寿命(2055年) 低位 1.06 男:84.93 女:91.51 中位 1.26 男:83.67 女:90.34 高位 1.55 男:82.41 女:89.17 (注)2005年の実績は,合計特殊出生率は1.26、平均寿命は男78.53,女85.49 出所:厚生労働省「平成21年財政検証結果レポート」21頁より筆者作成表2 2009年財政検証時の経済前提
長期経済前提
物価上昇率
賃金上昇率
運用利回り
備考
経済低位
1.0%
名目
2.1%
名目3.9% 全要素生産性上 昇率0.7%実質
1.1%
実質2.9%経済中位
1.0%
名目
2.5%
名目4.1% 全要素生産性上 昇率1.0%実質
1.5%
実質3.1%経済高位
1.0%
名目
2.9%
名目4.2% 全要素生産性上 昇率1.3%実質
1.9%
実質3.2%出所:厚生労働省「平成21年財政検証結果レポート」22頁より筆者作成 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 0 5000 10000 15000 20000 25000 2001年度末 2006年度末 2011年度末 適格退職年金 厚生年金基金厚生年金基金 確定給付企業年金 確定拠出年金(企業型) カバー率
津田弘美 図表
(単位:千人)
出所:第1 回社会保障審議会企業年金部会「参考資料1」「参考資料 1-2」,厚生労働省「平成26 年度年金 制度のポイント」等から筆者作成図
1 企業年金の制度区分毎の加入者数推移グラフ(2001 年度末~2012 年度末)
表1 2009 年財政検証時の前提
合計特殊出生率(2055年) 平均寿命(2055年) 低位 1.06 男:84.93 女:91.51 中位 1.26 男:83.67 女:90.34 高位 1.55 男:82.41 女:89.17 (注)2005年の実績は,合計特殊出生率は1.26、平均寿命は男78.53,女85.49 出所:厚生労働省「平成21年財政検証結果レポート」21頁より筆者作成表2 2009年財政検証時の経済前提
長期経済前提
物価上昇率
賃金上昇率
運用利回り
備考
経済低位
1.0%
名目
2.1%
名目3.9% 全要素生産性上 昇率0.7%実質
1.1%
実質2.9%経済中位
1.0%
名目
2.5%
名目4.1% 全要素生産性上 昇率1.0%実質
1.5%
実質3.1%経済高位
1.0%
名目
2.9%
名目4.2% 全要素生産性上 昇率1.3%実質
1.9%
実質3.2%出所:厚生労働省「平成21年財政検証結果レポート」22頁より筆者作成 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 0 5000 10000 15000 20000 25000 2001年度末 2006年度末 2011年度末 適格退職年金 厚生年金基金 確定給付企業年金確定給付企業年金 確定拠出年金(企業型) カバー率
津田弘美 図表
(単位:千人)
出所:第1 回社会保障審議会企業年金部会「参考資料1」「参考資料 1-2」,厚生労働省「平成26 年度年金 制度のポイント」等から筆者作成図
1 企業年金の制度区分毎の加入者数推移グラフ(2001 年度末~2012 年度末)
表1 2009 年財政検証時の前提
合計特殊出生率(2055年) 平均寿命(2055年) 低位 1.06 男:84.93 女:91.51 中位 1.26 男:83.67 女:90.34 高位 1.55 男:82.41 女:89.17 (注)2005年の実績は,合計特殊出生率は1.26、平均寿命は男78.53,女85.49 出所:厚生労働省「平成21年財政検証結果レポート」21頁より筆者作成表2 2009年財政検証時の経済前提
長期経済前提
物価上昇率
賃金上昇率
運用利回り
備考
経済低位
1.0%
名目
2.1%
名目3.9% 全要素生産性上 昇率0.7%実質
1.1%
実質2.9%経済中位
1.0%
名目
2.5%
名目4.1% 全要素生産性上 昇率1.0%実質
1.5%
実質3.1%経済高位
1.0%
名目
2.9%
名目4.2% 全要素生産性上 昇率1.3%実質
1.9%
実質3.2%出所:厚生労働省「平成21年財政検証結果レポート」22頁より筆者作成 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 0 5000 10000 15000 20000 25000 2001年度末 2006年度末 2011年度末 適格退職年金 厚生年金基金 確定給付企業年金 確定拠出年金(企業型)確定拠出年金(企業型) カバー率
津田弘美 図表
(単位:千人)
出所:第1 回社会保障審議会企業年金部会「参考資料1」「参考資料 1-2」,厚生労働省「平成26 年度年金 制度のポイント」等から筆者作成図
1 企業年金の制度区分毎の加入者数推移グラフ(2001 年度末~2012 年度末)
表1 2009 年財政検証時の前提
合計特殊出生率(2055年) 平均寿命(2055年) 低位 1.06 男:84.93 女:91.51 中位 1.26 男:83.67 女:90.34 高位 1.55 男:82.41 女:89.17 (注)2005年の実績は,合計特殊出生率は1.26、平均寿命は男78.53,女85.49 出所:厚生労働省「平成21年財政検証結果レポート」21頁より筆者作成表2 2009年財政検証時の経済前提
長期経済前提
物価上昇率
賃金上昇率
運用利回り
備考
経済低位
1.0%
名目
2.1%
名目3.9% 全要素生産性上 昇率0.7%実質
1.1%
実質2.9%経済中位
1.0%
名目
2.5%
名目4.1% 全要素生産性上 昇率1.0%実質
1.5%
実質3.1%経済高位
1.0%
名目
2.9%
名目4.2% 全要素生産性上 昇率1.3%実質
1.9%
実質3.2%出所:厚生労働省「平成21年財政検証結果レポート」22頁より筆者作成 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 0 5000 10000 15000 20000 25000 2001年度末 2006年度末 2011年度末 適格退職年金 厚生年金基金 確定給付企業年金 確定拠出年金(企業型) カバー率カバー率(右目盛り)
91 公的関与のある私的な拠出建て年金制度の必要性に関する考察(津田) 3―1.財政検証の方法 財政検証では,予測(Forecast)という言葉 は使わない.100 年もの先を一定の信頼性を もって予測できる手法が存在しないからであ り,投影(Projection)という表現で,一定の 前提に基づいて,年金財政の将来の姿を映し出 すという考え方を採っている.これらの経済前 提の推定作業には,コブ・ダグラス型の生産関 数にもとづく成長モデルを用いている25).
Y = AK
βL
(1-β) ここで,Y:GDP,K:資本ストック,L:労 働力,β:資本分配率 競争的市場において,実質賃金 w,実質利子 率 r の下で最適化行動が採られていると仮定し て,労働成長率,全要素生産性(TFP)成長率, 資本分配率,さらに資本減耗率および総投資率 を外生的に与えることで,将来の GDP,資本 ストック,利子率,利潤率の推計が可能となる. 3―2.前回の財政検証 2009(平成 21)年の第 1 回目の財政検証は, 以下の前提により算定された.将来推計人口(少 子高齢化の状況)の前提は,「日本の将来推計 人口(平成 18 年 12 月推計)」を使用し,合計特 殊出生率および死亡率は表 1 の低位,中位,高 位の 3 通りが設定された. また,経済前提については,社会保障審議会 年金部会経済前提専門委員会の検討結果および 内閣府「経済財政の中長期方針と 10 年展望比較 試算」をもとに,経済中位,経済高位,経済低 位の 3 つのケースが表 2 のとおり設定された. 以上の前提を踏まえて,図 2 で総括される給 付水準の将来見通しが導出された.基本ケー ス(出生中位,経済中位)では,50.1% と 50% をかろうじて超える結果が示されたものの,9 ケースのうち,約半分の 4 ケースでは所得代替 率 50% を下回ってもマクロ経済スライドを継 表 1 2009 年財政検証時の前提 合計特殊出生率(2055 年) 平均寿命(2055 年) 低位 1.06 男:84.93 女:91.51 中位 1.26 男:83.67 女:90.34 高位 1.55 男:82.41 女:89.17 (注)2005 年の実績は,合計特殊出生率は 1.26,平均寿命は男 78.53,女 85.49 出所: 厚生労働省「平成 21 年財政検証結果レポート」21 頁より筆者作成 25)第 20 回社会保障審議会年金部会資料 2 3 頁. 表 2 2009 年財政検証時の経済前提 長期経済前提 物価上昇率 賃金上昇率 運用利回り 備考 経済低位 1.0% 名目 2.1% 名目 3.9% 全要素生産性 上昇率 0.7% 実質 1.1% 実質 2.9% 経済中位 1.0% 名目 2.5% 名目 4.1% 全要素生産性 上昇率 1.0% 実質 1.5% 実質 3.1% 経済高位 1.0% 名目 2.9% 名目 4.2% 全要素生産性 上昇率 1.3% 実質 1.9% 実質 3.2% 出所:厚生労働省「平成 21 年財政検証結果レポート」22 頁より筆者作成 (243)92 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 3 号(2014 年 9 月) 続しないと財政均衡しないことが判明してい る.なお,基本ケースでは,マクロ経済スライ ド の 適用 は 2012(平成 24)年開始,2038(平 成 50)年終了の 27 年間と,2004(平成 16)年 の 年金改正時 の 見込 み(2004(平成 16)年開 始 2023(平成 35)年終了の 20 年間)と比較し て,大幅に延長される結果になった.あわせて, 基礎年金部分と報酬比例部分の給付調整の終了 時点の差の拡大が顕在化した.基礎年金部分は 上記のとおり,2038(平成 50)年まで給付調 整が行われるが,報酬比例部分についてはそれ より 19 年も短い 2019(平成 31)年に給付調整 が終了することが明らかになった. 3―3.2014(平成 26)年の財政検証 第 2 回目の財政検証結果は,6 月に開催され た第 21 回社会保障審議会年金部会において公 表された.検証にあたっての前提条件は,長 期 の 経済成長率等 は 2009(平成 21)年財政検 証における設定方法と同様の手法を用いている が,一部以下の点が改良された. ①需要側の要素を考慮する観点から,「稼働率」 に着目し,マクロ経済に関する試算の初期値と して用いる足下の GDP を潜在 GDP に置き換 えることで間接的に組み込む. ②海外経済との関係を考慮するという観点か ら,「総貯蓄率」と「総投資率」の 関連性 に 着 目して総投資率の設定を行う. さらに既婚女性・高齢者の労働市場への参加 の程度も加味し,前回よりもきめ細かいケース 設定をした結果,2024 年度以降の長期の経済 前提については,ケースA~Hの 8 パターンが 示された(表 3). これらの経済前提のどれを採るのかによって, 検証結果(最終的な給付水準の到達水準とその 年度)は異なるが,運用利回りの見込みに関し ては,対賃金のスプレッドでみるといずれのケー スでも 1.7% 以下となっている.したがって運用 ポートフォリオの目標値としては,この 1.7% を 上回ることができるかどうか,が課題となる. なお,経済前提以外の人口統計等に関する基礎 的な前提条件を,前回の 2009(平成 21)年検証 と比較すると以下のとおりとなっている. ①計算の前提条件としての出生率は,前回の 1.26 か ら 1.35 と 若干増加 し て お り(2012(平 成 24)年 1 月の将来推計人口),財政上プラス 出所:厚生労働省「平成 21 年財政検証結果レポート」25 頁より抜粋
図
2 2009 年財政検証における給付水準の将来見通し
表
3 2014 年財政検証の経済前提
出所:第 21 回社会保障審議会年金部会資料 1-1 5 頁より抜粋 出所:第 21 回社会保障審議会年金部会資料 1-1 11 頁より抜粋図
3 所得代替率の将来見通し
出所:厚生労働省「平成 21 年財政検証結果レポート」25 頁より抜粋 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/gaiyou.pdf 図 2 2009 年財政検証における給付水準の将来見通し (244)93 公的関与のある私的な拠出建て年金制度の必要性に関する考察(津田) の方向に働く. ②一方,足下の死亡率は引き続き低下し,第 20 回生命表(2005(平成 17)年)と第 21 回生命表 (2010(平成 22)年)の 65 歳時点の平均余命で 比較すると,男女とも 0.6 年程度(男子:18.13 年 ⇒ 18.74 年,女子:23.19 年⇒ 23.80 年)伸びてお り,財政上マイナス要因と考えられる.しかし, 将来の死亡率低下は一定程度織り込まれている ため,ほとんど影響がないものと思われる. ③ 2009(平成 21)年検証ではマクロ経済スライ ドが直ちに実施されるものと見込まれていたが, 実際にはデフレ経済が続いた結果,この 5 年間 一度も発動されていない.また特例水準の解消 (2012(平成 24)年 の 法律改正 で,2013(平成 25)年 10 月,2014(平成 26)年 4 月および 2015 (平成 27)年 4 月に段階的に年金額の 2.5% の特 例水準26)を解消すること)が優先されることに なるため,マクロ経済スライドの開始がさらに 遅れ,それが財政的にはマイナス要因となる. ④過去の運用成績については,名目賃金上昇率 との相対的な関係では目標をクリアしている. 財政検証による所得代替率の将来見通しは図 3 の通りであり,前回のように基本ケースは明 示されていない.そのため比較はし難いが,仮 にケース D と前回の基本ケースを比較すると, 着地点の所得代替率は 50.1% から 50.8% へと改 善していることが分かる.これは,前記②の出 生率の改善によるものといえる. しかし,マクロ経済スライドによる調整の終 了時期は大幅に後ろ倒しとなった.2004(平成 16)年改正時においては,マクロ経済スライド は 2023(平成 35)年には終了することとなっ ていた.これが 5 年前の前回検証時は 2038(平 成 50)年に伸び,今回はさらに伸びて 2043(平 成 55)年となっている.一方,報酬比例部分の 調整終了 は 2019(平成 31)年 と 前回検証時 と 変わらず,基礎年金部分と報酬比例部分の給付 調整の終了時点の差はさらに拡大することと なった.この結果,調整終了時の基礎年金と報 酬比例部分の割合は相当変化することが予測さ れ,年金額に占める基礎年金の比率は現状の 59% から 51% に減少する(表 4).これは,被 用者年金の受給者にとっては内訳の変化に過ぎ ず問題はトータルの年金額の水準変化(所得 代替率で 62.7% から 50.8% へと 11.9% の水準減 少)ということになるが,基礎年金だけの受給 者にとっては,絶対額の低下を意味する. 3―4.小 括 給付水準から考えると,マクロ経済スライド 出所:第 21 回社会保障審議会年金部会資料 1─1 5 頁より抜粋 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf 出所:厚生労働省「平成 21 年財政検証結果レポート」25 頁より抜粋
図
2 2009 年財政検証における給付水準の将来見通し
表
3 2014 年財政検証の経済前提
出所:第 21 回社会保障審議会年金部会資料 1-1 5 頁より抜粋 出所:第 21 回社会保障審議会年金部会資料 1-1 11 頁より抜粋図
3 所得代替率の将来見通し
表 3 2014 年財政検証の経済前提 26)2000(平成 12)年から 2002(平成 14)年の マイナスの物価スライドによる年金給付額の引下げ を凍結したことによるもの. (245)94 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 3 号(2014 年 9 月) の実施による経年変化の影響も指摘する必要が あろう.マクロ経済スライドは受給中の年金額 の実質価値を徐々に減じていくものであり,所 得代替率は受給開始後にさらに 8 割程度まで減 少する.つまり,受給開始時の所得代替率が財 政検証によって 50% に保てたとしても,受給中 に 40% 程度の水準になる可能性が大きい.また, これらの試算はいずれも専業主婦世帯の夫婦 2 人の有利なモデルの計算の場合であり,未婚化・ 非婚化が進む現在の状況を反映すれば,ひとり 暮らし世帯の増加が予測されるが,そうしたひ とり暮らし世帯ではさらに所得代替率は低下す る.また,非正規雇用の増加は,報酬比例部分 のない基礎年金のみの受給者の増加を意味して おり,公的年金給付だけでは暮らせない層が増 えていくことが想定される. 社会保障制度改革国民会議の報告書では,2004 (平成 16)年改革の年金財政フレームを「基本 的に年金財政の長期的な持続可能性は確保され ていく仕組み」と評価している27).しかし財政 の持続可能性が保たれても,給付が最低生活費 に足りないレベルであっては意味がなく,年金 表 4 マクロ経済スライドによる所得代替率の変化(ケース D の場合) 基礎年金部分 報酬比例年金部分 合計 2014 年度の開始時 36.8% (59) 25.9%(41) 62.7%(100) 2043 年度の終了時 26.0% (51) 24.8%(49) 50.8%(100) (注)( )内の数値は合計を 100 とした場合の各部分の内訳 出所:第 21 回社会保障審議会年金部会資料 1─1 19 頁より筆者作成 27)社会保障制度改革国民会議 報告書 40 頁. 出所:第 21 回社会保障審議会年金部会資料 1─1 11 頁より抜粋 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/dl/h26_kensyo.pdf 図 3 所得代替率の将来見通し (246)
95 公的関与のある私的な拠出建て年金制度の必要性に関する考察(津田) 制度の存在意義にもかかわってくる問題といえ よう. 4 英独の年金制度設計の変革 社会保障制度改革国民会議 の 報告書 で は, OECD の「Pensions at a Glance 2011」の 記述 を下記のように紹介している28). ①年金政策は常に「給付額の十分性」と「制度 の持続可能性」という相矛盾する要請を抱え, そのディレンマの中での舵取りがより困難に なっていること. ②このディレンマから抜け出すルートとして, 「就労期間の長期化」「公的年金の支給努力の対 象の中心を最も脆弱な人々とすること」「進行 中または今後必要となる公的給付の削減を補完 するために,退職後のための貯蓄を奨励するこ と」の 3 つが挙げられること. また,欧州連合の政策執行機関である欧州委 員会の社会的保護と社会的包摂に関する報告書 (2007 年)では,公的年金の今後の給付水準低 下を「就労期間の伸長」と「積立方式の私的年 金(職域年金,個人年金)からの給付」で補う イメージが示されている29). ここでは,退職後のための貯蓄を公的関与に よって推進しようとしているイギリスとドイツ を取り上げ,公的年金制度の変遷および考え方 とともに検討する30). 4―1.イギリスの年金制度 イギリスでは,出生率は緩やかに上昇し,将 来推計においても人口減少は予測されていな い.しかし,平均余命の伸びへの対応を急ぎ, 政権交代などにより年金制度を含む社会保障制 度が頻繁に見直されてきている. ⑴ 公的年金制度の概要31) イギリスの社会保険制度は,働けないことに よる所得の減少(もしくは無所得になる)リス クを単一の保険制度によってカバーしている という特徴がある.つまり国民保険制度(NI: 28)社会保障制度改革国民会議 報告書 44 頁. 29)清水信広「私的年金の方向性と課題」駒村 康平編著『年金を選択する』(慶応義塾大学出版会・ 2009)182 頁. 30)以下で使用する英独の各種数値は 2013 年 のもの. 31)イギリスの年金制度の概要については,武 川正吾・塩野谷祐一編『先進諸国 の 社会保障① イ ギ リ ス』(1999 年)131 頁以下〔堀勝洋〕,嵩 さ やか『年金制度と国家の役割』(2006 年)49 頁以下, 厚生労働省『 2011~2012 年海外情勢報告』255 頁 以下,厚生労働省『英国公的年金 の 長期推計 に つ い て』(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/ bunya/nenkin/nenkin/nenkinzaisei/dl/uk_201304. pdf), Bozio, A., Crawford, R., Tetlow, G. (2010), “The history of state pensions in the UK; 1948 to 2010”, Briefing Note BN105, Economic & Social Research Council. を参照してまとめた. 出所:厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku-england.pdfより筆者作成 図 4 イギリスの年金制度の概観 (247)
表4 マクロ経済スライドによる所得代替率の変化(ケースEの場合)
基礎年金部分
報酬比例年金部分
合計
2014 年度の開始時
36.8% (59)
25.9%(41)
62.7%(100)
2043 年度の終了時
26.0% (51)
24.8%(49)
50.6%(100)
(注)( )内の数値は合計を100 とした場合の各部分の内訳 出所:第 21 回社会保障審議会年金部会資料 1-1 19 頁より筆者作成出所:厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku-england.pdf
図
4 イギリスの年金制度の概観
出所:厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku-germany.pdf
図
5 ドイツ年金制度の概観
基 礎 国 家 年 金96 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 3 号(2014 年 9 月)
National Insurance)が,老齢,死亡,障害, 疾病,失業による労働の中断といった幅広いリ スクに対応し,給付の種類には基礎国家年金 (BSP:Basic State Pension), 国家第二年金 (S2P:State Second Pension)の二つの年金制 度のほか,雇用および生活支援手当,遺族関連 給付(遺族一時金,有子遺族手当,遺族手当), 求職者手当があり,すべて賦課方式で運営され ている.なお,国民保険が対象としていない医 療については,税による国民健康保険(National Health Service)がある. 国民保険制度は,16 歳以上年金受給開始年齢 以前の全国民を対象とし,対象者は 3 層に分類 (①被用者,②自営業者=非被用者,③働 い て いない者・低所得者)され,それぞれに保険料 や給付が異なる32).基礎国家年金は一定以上の 所得のある全居住者を被保険者とした基礎的な 部分であり,国家第二年金(S2P)は被用者を 強制加入対象者33)と し た 所得比例方式 の 上乗 せ年金に位置づけられるが,将来的には基礎的 給付に一本化される方向となっている.なお, 給付額は毎年 4 月(4 月 6 日から翌 4 月 5 日が 税年度)に改定され,物価スライドか賃金スラ イド,もしくは 2.5% のうち大きい数字が適用 さ れ る34).支給開始年齢 は,男性 が 65 歳,女 性は 2010 年以降 2018 年にかけて 60 歳から 65 歳まで引き上げられ,女性が 65 歳に達した後, 男女ともに 2018 年から 2020 年にかけて 2 ヶ 月に 1 ヶ月分ずつ引き上げて 66 歳に,2034 年 から 2036 年にかけて35)67 歳に,2044 年から 2046 年にかけて 68 歳に引き上げられる. ⑵ 職域年金制度と適用除外制度 イギリスの職域年金制度は,1810 年の公務 員年金までさかのぼることができる.その後, 19 世紀中ごろには鉄道,ガス,銀行,保険会 社などが職域年金を取り入れている.第二次世 界大戦後,定額給付の公的年金が生活水準の上 昇に追いつけなかったこと,職域年金制度に税 優遇があったことから,職域年金制度は 1950 年代に急速に普及した. 1978 年の SERPS36)導入に際し,一定の要件 を満たす職域年金制度は適用除外が認められる ようになった.適用除外は,SERPS に収める分 の保険料から一定率(リベート)を差し引いて 職域年金制度に収めることができる制度で,公 的年金の改正とともにリベート率や対象となる 制度が拡充されてきた.特に 1980 年代のサッ チャー保守党政権 は SERPS の 所得代替率 を 25% から 20% に引き下げ,満額年金の拠出期間 を 20 年から 49 年に延長する一方で,適用除外 の対象を確定拠出年金や個人年金にも拡大した. ⑶ 労働党政権下での年金改革 サッチャー,メージャーと 18 年間続 い た 保 守党政権は,公的年金を縮小させる一方,職域 年金や個人年金の役割を拡大させた.それに対 し,ブレア労働党政権は,年金受給世代で所得 の不平等が拡大している点を問題視し,すでに 貧困状態にある受給者に対しては,公的扶助制 度を改革して最低所得保障の充実を図る一方, 将来の年金受給者のためには,長期的視点から 年金制度について下記 2 点の見直しを行った. ①所得比例年金制度の改革(2002 年度施行) 所得比例年金(SEERPS)は低所得者ほど給 付が少額になるという問題があり,実際,年金 32)自営業者は国家第 2 年金(S2P),保険料拠 出を条件とする失業給付,労災給付は支給されな い. 33)所得のない者に拠出義務はないが任意拠出 が可能. 34)2011 年年金法.それ以前は物価スライドで 改定していたが,低所得者の給付が著しく低下し, 受給者の格差が開きつつあったために,変更された. 35)67 歳への引き上げを 2026~2028 年に前倒 しすることも提案されている.OECD “Pension at a Glance 2013” P. 40. 36)国家第二年金の前身の所得比例年金制度で 国家報酬比例年金(State Earnings Related Pension Scheme)の略.1978~2001 年度の保険料拠出記録 に基づく部分は SERPS によって計算され,国家第 二年金は 2002 年度以降の拠出記録に基づき計算さ れる.
97 公的関与のある私的な拠出建て年金制度の必要性に関する考察(津田) を受給しつつも所得扶助が必要な層が多かっ た.そ こ で,SERPS の 給付算定方式 を 大幅 に 見直 し,名称 を 国家第二年金(S2P:State Second Pension)に 変更 し た.具体的 に は 給 付額計算時の給付率を SERPS では一律 20% と していたが,段階的に,第一区分までは 40%, 第二区分は 10%,第三区分は 20% という方法 に変更した37).これにより国家第 2 年金(S2P) の機能は,主に低所得者への保障に特化される 方向となった. ② ステークホルダー年金の創設(2001 年度実施) ステークホルダー年金は適用除外が認められ た拠出建ての制度で,従来の適格個人年金と比 較して要件(下記)が明確に定められ,手数料 が低く抑えられているという特徴がある. ・ 年間の運用手数料は資産の 1% を超えてはな らない38) ・ ステークホルダー年金制度間の移転に際して 追加手数料を課してはならない ・ 保険料の積立が中止できる(失業期間中など 拠出できないとき) ・ 掛金 は 全額所得控除(拠出時非課税)・運用 時非課税で,給付時課税 ・ 資産額の 25% までは一時金で受け取りが可能 ・ 50 歳39)から 75 歳までの間に積立金で保険会 社から終身年金を購入する また,職域年金を提供していない事業主40) に対し,ステークホルダー年金の提供義務を課 した.義務の内容としては,従業員がステーク ホルダー年金にアクセスできる環境を整備する ことであり,従わない場合は最高 5 万ポンドの 罰金が科されることとなった. ⑷ 2008 年年金法の新たなスキーム41) ブレア労働党政権による改革の後,年金制度 にはさらに見直しが加えられ,職域年金への政 府の関与がより強くなる方向に変わっている. この背景には,ステークホルダー年金の普及が 進まなかったことに加え,2007 年以降の金融 危機により閉鎖される職域年金が続出し,職域 年金でカバーされない被用者が増加したことが ある42). 新たなスキームでは,すべての事業主が一定 の 要件(22 歳以上年金支給開始年齢以下,年 収 9,440 ポンド以上,英国内で就労している) に該当する従業員を,職域年金に自動加入させ なければならず,さらに事業主には最低限,給 与の 3% の拠出が義務づけられる.この場合の 職域年金は国家第二年金の適用除外が認めら れる確定給付型年金,国家第二年金の適用除外 は受けないが一定の要件を満たす確定給付型年 金,新たに設立された個人貯蓄勘定である国家 雇用貯蓄信託(NEST : National Employment Savings Trust)となっている.職域年金への 自動加入の仕組みは,いったん全員(正社員に 限らず,パートタイマーや契約社員も対象とな る)を加入者にした後,本人が加入を希望しな い場合は脱退できる43)もので,従業員の規模 に応じて 2012 年 10 月から 2017 年 10 月にかけ て段階的に義務化される. NEST は拠出建ての制度で,従来,職域年金 の提供がなかった中小規模の事業所のために設 立され,公的機関である NEST コーポレーショ 37)2010 年からは第三区分が廃止され,第二区 分と同じ扱いとなっている. 38)2005 年度から最初の 10 年間は 1.5% に引き 上げられた. 39)2010 年以降は 55 歳に引き上げ. 40)5 人以上の従業員を擁している場合で,2001 年 10 月から開始された.
41)Emmerson, C. and Wakefield, M. (2009), “Amounts and Accounts: Reforming Private Pension Enrolment”, Commentary C110, Institute for Fiscal Studies. PP. 5─7.
42)全体の約 40% にあたる 1,100 万人が退職後 に望ましいとされる収入に見合うだけの貯蓄をし ていないという調査結果がある.Department for Work and Pensions “Reinvigorating workplace pension” (2013)P. 7.
43)脱退を選択した後も 3 年後にはまた加入者 となる.
98 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 3 号(2014 年 9 月) ンが運営主体となっている(サービスは民間企 業に委託).NEST への掛金拠出は加入者本人の 4% 以上の拠出に対し,事業主は 3% 拠出するも ので,国は税額控除の形で 1% の補助を行う44). 給付については,退職前の口座資産の出し入れ はできず,55~75 歳の間の任意の年齢で終身年 金を購入する(残高の 25% までは一時金で受け 取っても非課税扱い). なお NEST の導入により,適用除外が認め られていたステークホルダー年金や確定拠出型 の企業年金,個人年金は適用除外の対象から外 れた45).今後,確定給付型の職域年金について も適用除外ではなくなり,適用除外の対象とし ては公務員年金が残されるのみとなる.イギリ スの年金制度は公私年金のつながりを適用除外 という形で強めながら発展してきたが,ここに きて公私年金が切り離されていく方向に転換し た.一方で,NEST には国からの税優遇という 形での補助があり,いままでにない公私ミック スの形が生まれている. 4―2.ドイツ46)の年金制度 ドイツは,日本と同様,少子高齢化が進展し, 人口減少が予測されており,年金財政へ与える 影響が憂慮されている.ドイツの社会保険制度 は,世界で最初に社会保険制度を制度化したビ スマルクの疾病保険法(1883 年)に端を発し, 現在では,年金保険,医療保険,介護保険,労 働災害保険,失業保険の 5 つの社会保険制度が ある.このように,リスクに応じて保険制度が 分立し,さらに職種単位で運営がなされている 点が特徴的である. ⑴ 公的年金制度の概要47) 年金制度 は,一般年金保険 と 鉱山労働者年金 44)国からの 1% 分は還付されるので,実質的な 掛金率は 8% となる.Emmerson, C. and Wakefield, M・前掲論文(注 41)P. 5. 45)前田俊之「欧米諸国の年金事情 イギリス 編」『保険・年金フォーカス』ニッセイ基礎研究所, 2012 年 10 月 15 日,6 頁 46)本論における「ドイツ」とは東西ドイツ分 立時代は西ドイツを,その後は統一ドイツを対象 とする. 47)ドイツの年金制度に関しては,古瀬徹・塩野 谷祐一編『先進諸国の社会保障④ ドイツ』(1999 年) 107 頁以下〔下和田功〕および 363 頁以下〔同〕,小 椰治宣「ドイツ年金制度の変容」『日本大学経済科学 研究所紀要』36 号(2006 年)183 頁以下.土田武史・ 田中耕太郎・府川哲夫編著『社会保障改革─日本 と ドイツの挑戦』(2008 年)168 頁以下〔府川〕および 202 頁以下〔田中〕および 218 頁以下〔駒村〕,渡邊 絹子「ドイツ企業年金改革の行方」『日本労働研究雑 誌』504 号,2007 年.ドイツ年金制度についてのホー ム ペ ー ジ http://www.deutsche-sozialversicherung. de/en/index.html を参照してまとめた.
表4 マクロ経済スライドによる所得代替率の変化(ケースEの場合)
基礎年金部分
報酬比例年金部分
合計
2014 年度の開始時
36.8% (59)
25.9%(41)
62.7%(100)
2043 年度の終了時
26.0% (51)
24.8%(49)
50.6%(100)
(注)( )内の数値は合計を100 とした場合の各部分の内訳 出所:第 21 回社会保障審議会年金部会資料 1-1 19 頁より筆者作成出所:厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku-england.pdf
図
4 イギリスの年金制度の概観
出所:厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku-germany.pdf
図
5 ドイツ年金制度の概観
出所:厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku-germany.pdf 図 5 ドイツ年金制度の概観 (250)99 公的関与のある私的な拠出建て年金制度の必要性に関する考察(津田) 保険,官吏恩給制度48),自営業者相互扶助制度, 農業者老齢保障の 5 種類がある.このうち一般 年金保険の規模がもっとも大きく,就業者の 8 割が加入しており,対象となる職種は民間被用 者を中心に特定の職業グループ(教師,看護・ 介護職,芸術家,手工業者,ジャーナリスト等) となっている(以下では制度の中核をなす一般 年金保険を「公的年金」として扱う).被用者は 基本的に一般年金保険への加入義務があり,保 険料は所得に一定率(18.8%)49)を乗じた額で, 被用者の場合は労使折半となっている.老齢年 金の受給には,満 65 歳に達し,かつ一定の待期 期間50)(原則として 5 年)を満たす必要がある51). ただし 2012 年から支給開始年齢の引き上げが 始まり,2029 年までに 67 歳からの支給となる. 給付は被保険者期間中の各被保険者の報酬に基 づいており,全被保険者の可処分所得の伸び率 に応じて改定される. 年金月額= 個人報酬点数×年金種類係数×年 金現在価値・・・・式① 式①中,個人報酬点数は,加入期間中の相対 的報酬水準(個人の年間報酬を全被保険者の平 均年間報酬に対する比として各年で算定した 値)に応じて与えられる点数の合計に支給開始 係数をかけて算出される.たとえば,ある年 の報酬が平均年間報酬に等しければ,報酬点数 は 1 となる.この点数を全期間合算して支給開 始係数(通常は 1 で,繰上支給では 1 月あたり 0.003 が引かれ,繰下支給では 1 月あたり 0.005 が加算される)をかけることで個人報酬点数が 求められる.年金種類係数は,老齢年金であれ ば 1,部分的稼得能力の減少による年金(障害 年金)では 0.55 等と定められている.年金現 在価値は全被保険者の平均所得に相当する年金 保険料を 1 年間支払い続けた場合の年金相当額 で,旧東西ドイツで賃金格差があることから, 二つに分けて設定され,旧西ドイツ地域適用 レートは 28.14 ユーロ,旧東ドイツ地域適用レー トは 25.74 ユーロとなっている(計算方法は後 述)52). ⑵ 2001 年年金改革 ドイツの年金制度は,ビスマルク以来の長い 歴史を有しさまざまな改正が行われてきたが, 21 世紀に入ってからは特に大きな変更を行っ て い る.2001 年年金改革 は,保険料率 を 抑制 し(2020 年 ま で は 20% 以下,2030 年 ま で は 22% 以下),それに伴う給付水準の低下(所得 代替率53)は 2030 年までに 70% から 67% まで段 階的に引き下げる)を補うために,企業・個人 年金であるリースター年金54)を導入した.リー スター年金は拠出建ての制度であり,2002 年 1 月 1 日から施行されている.提供形態は企業・ 個人年金だが,公的年金を補完するという位置 づけにあることから,対象者は公的年金保険の 加入者55)で,本人の積立金拠出に対して国の補 助が行われる.補助には,助成金の支給と特別 48)任官公務員(いわゆる官僚)が対象.一般 公務員は一般年金保険に加入することになる. 49)毎年 1 月に変更される.2012 年の保険料率 は 19.6% だったが,制度の準備金が給付額の 1.5 カ 月分を超えた場合に保険料率を下げる規定があり, 2013 年には 0.8% 下げられた. 50)待期期間とは,保険加入期間の最低年数の ことで,保険料納付期間(保険料を納めた期間,3 歳未満の子の養育期間),保険料免除期間(疾病・ 妊娠・失業や就学によって保険料を納付しなかっ た期間,加算期間),配慮期間(10 歳未満の子の養 育期間,在宅介護期間)がある. 51)繰上支給が活用され,実際の受給開始年齢 は 63.2 歳(2009 年). 52)年金現在価値は現役世代と受給世代のバラ ンスをとる観点から,総保険料の増減や現役世代と 受給世代の人数比率などを組み込んで計算される. 3 月 31 日までにその年の 7 月から適用する数値が 決定する. 53)現役世代の平均手取り賃金に対するモデル 年金(45 年間,平均的な報酬の収入で就労)の割合. 54)導入時の担当大臣の名前から「リースター 年金」と呼ばれている. 55)夫婦のどちらかが対象であれば,配偶者名 義の口座開設も可能. (251)
100 横浜国際社会科学研究 第 19 巻第 3 号(2014 年 9 月) 支出控除(所得控除)の 2 種類がある56). 助成金には,基本手当と児童加算があり,基 本手当 は 154 ユーロ,児童加算57)は 子 ど も 1 人 に つ き 185 ユーロ(2008 年 1 月 1 日以降 に 誕生した子どもに対しては 300 ユーロ)となっ ている.この助成金の額は,自己拠出する金額 に応じて減り,最低自己拠出額(前年の社会保 険料算定所得の 4%)を支払わない場合,その 割合に応じて助成金額が減額される.なお,子 どもの人数や所得額によっては,助成金額のみ で最低自己拠出額に達する(または超える)こ ともありうるが,その場合でも 60 ユーロ58)は 自己拠出する必要がある.たとえば,母親と子 ど も 3 人 の 世帯 で,前年 の 社会保険料算定所 得 が 15,000 ユーロ で あった 場合,助成金額 は 709 ユーロ(基本手当 154 +児童加算 185×3) であり,最低自己拠出額(600 ユーロ)を超え てしまう.この場合,709 ユーロの助成金を受 け 取 る と と も に,60 ユーロ を 自己拠出59)し, 拠出総額 769 ユーロとして資産が形成されるこ ととなる.このように助成金の支給は,低所得 者層や子どもの人数が多い世帯にとって魅力60) ある措置になっている.一方,高所得者や独身 者に対しては,特別支出控除による助成措置も 講じられている.所得額に関係なく,リース ター年金に支出した費用(自己拠出額および助 成金)については年間 2,100 ユーロまでが控除 できることとなっている. リースター年金の主な要件は,①満 60 歳 (2012 年以降の契約締結では満 62 歳)または 老齢年金の受給開始前に支給が行われないこ と,②元本(自己拠出額および助成金額)を保 証すること,③終身年金を保証すること(た だし支給開始時に積立金の 30% までは一時金 受取可能),④老後保障契約 の 締結・販売費用 は少なくとも 5 年かけて均等償却61)すること, ⑤保険料拠出の中断,移行のための解約が認め られること,等だ. このように,リースター年金は任意加入の拠 出建て制度だが,別の側面がある.前述の式① 「年金現在価値」の変数として組み込まれ,公 的年金の給付抑制の役割も担っている(式②). 年金現在価値= 前年の年金現在価値×(1 + 前年の所得上昇率) × リース ター係数×持続可 能係数62)・・・・式② ドイツの既裁定年金は物価スライドに加えて 賃金スライドがあり,現役世代の所得の伸びに 応じて,年金額が増額される.式②のリースター 係数は,被保険者全員が拠出限度額まで拠出し たと仮定した金額を給付算定式の総所得から控 除するもので,これにより賃金スライドの伸び が抑制される.その結果,賃金スライドは既裁 定者にもかかるため,財政上の効果を発揮する. 言い換えれば,リースター年金を活用しなけれ ば,実質的な給付の引下げになる.このように リースター年金は,加入自体は任意でも,公的 年金の給付抑制という機能があるために,間接 61)2004 年以前の契約では最低 10 年とされて いた. 62)人口の増減や僅少労働者や失業者等の労働 市場の影響によって年金スライドを抑制する仕組 み. 56)リースターの契約者には,まず助成金が支 給され,その後,税務局が助成金と特別支出控除 のいずれが有利かを機械的に判断し,特別支出控 除のほうが有利である場合,助成金との差額を還 付する. 57)児童加算は原則として母親に付与される. 58)子どもが 2 人以上の場合.子どもがいない 場合は 90 ユーロ,子どもが 1 人の場合は 75 ユー ロ. 59)60 ユーロの自己拠出額を拠出できない場 合,その金額に応じて助成金額も減額される.た とえば半額の 30 ユーロを拠出した場合は助成金額 も半額となる. 60)若年者に早い時期から老後保障に対する 関心を持ってもらうために,2008 年 1 月からリー スター年金に加入する 25 歳未満の者に対して 200 ユーロのボーナス給付(1 回限り)が支給されてい る. (252)