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<論説>訴因の研究--「訴因変更の必要性」について

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(1)訴因の研究. 訴因の研究 一一「訴因変更の必要性J について一一一. 辻. 本. 典. 央. 二三四、. 問題の所在 従来の判例・学説 最決平成 1 3 年 4月1 1日 まとめ. 問題の所在. 公訴提起に際し,検察官が起訴状の中で「訴因を明示して」公訴事実. 5 6条 2項 , (刑訴法 2. 3項)を記載するが, 公判の過程で,実際には(少な. くとも裁判所の心証において) これと異なる事実が真実であったことが判 明する場合がある O このような場合,裁判所が公訴事実とは異なる事実を 認定することは, I 審判の請求を受けた事件について判決をせず,又は審判 の請求を受けない事件について判決をしたこと J(刑訴法 3 7 8条 3号 ) ( [ ) , あ. っT こ , 7 9条) とL、 るいは当事者(特に被告人)に対する不意打ち(刑訴法3 訴訟手続の法令違反となる可能性がある。これに備えて,刑訴法上,検察. ( 1 ) 最決昭和 2 5年 6月 8日刑集 4巻 6号 9 7 2頁,最判昭和 2 9年 8月2 0日刑集 8巻. 8号 1 2 4 9頁。もっとも,これ以後は,訴因逸脱認定は,刑訴法 3 7 9条違反とされ る傾向にある。 1 31(6 8)一.

(2) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 l号. 官には, 1 公訴事実の同一性を害しない限度において」訴因の「変更」を 請求する権限が与えられており,また,裁判所にも,. 1 審理の経過に鑑み適. 当と認めるとき」に訴因の「変更」を命じることができる権限が与えられ. 1 2条 l項 ている(刑訴法 3. 2項)。もっとも,いったん訴因として記載さ. れれば,それが L、かなる微細な事実であっても,これと異なる事実を認定 するには常に訴因変更手続を必要とするならば,裁判実務に多大な負担を 課することになってしまう o そこで,訴因事実と認定事実との間でいかな る「ズレ」が生じた場合に訴因変更手続が必要となるかという点が,重要 な問題となる O この問題について,従来から,判例及び学説上多くの議論が積み重ねら れてきた。そして,近時,最高裁において,この問題を総括し,今後の実 訴因変更 務の指針となると思われる見解が示された。そこで,本稿では, 1 の必要性」に関する従来の議論を整理した上で,右最高裁判例の位置づけ 及びその射程を検討し,今後の議論の行方を展望する。. 従来の判例・学説. 1.訴因の意義・機能 訴因変更の必要性という問題を考えるにあたり,まず,その対象たる 「訴因」は刑事手続においていかなる意義及び機能を与えられているかを. 、. 明らかにしておかなければならな L 訴因とは,. 1 それについて検察官が審判を請求する,検察官の主張であ. るJ< 2 l 。そして,通説によると,このようにして検察官が主張する「訴因」 が,刑事訴訟における「審判対象」であるとされる ( 1訴因対象説J ) ' 3 l 。. ( 訪. 平野龍一『刑事訴訟法J1 3 1頁 ( 1 9 5 8年,有斐閣)。. -1 3 2(6 7)一.

(3) 訴因の研究. 従って,通説の理解を前提にすると,訴因により審判対象が画定され,そ の変更は, 1 審判対象の変更」という機能をもつことになる。 もっとも,訴因は,この「審判対象の画定」という機能に加えて,さら に被告人に対する「防御範囲の告知Jという機能も併せ持つことが承認さ れている ω 。すなわち,現行刑訴法の原則であるとされる「当事者主義」 の観点から,訴因制度の採用によって,検察官の訴追意思を尊重するとと もに, 1 被告人に対し事実を明瞭に示して事前告知をし,防御に便ならしめ ようとした」ものと理解されている ( 5 ) 。さらには,. 1 職権主義Jから「当事. 者主義」へという「旧法から新法への訴訟構造の変革を踏まえれば,訴因 [対象]説は,訴因を審判の対象と捉える前に,第一義的に訴因=防御の 対象であることを自覚すべきであった Jとして,被告人の防御範囲の告知 6 ) 。 という機能を第一次的なものととらえる見解もある (. このようにして,訴因は,審判対象の画定及び被告人への防御範囲の告 知という刑事手続において重要な役割を担う制度であるが,その変更の必 要性という問題を考えるにあたっては,訴因の本質は何かという点の検討 が不可欠となる O この訴因の本質如何という問題について,周知のとお り ,. 1 法律構成説」と, 1 事実記載説」の対立が見られる。法律構成説とは,. かつての「同一罰条説J( 1罰条同一説」と表記されることもある),つま り「訴因に示された行為の態様,行為の客体等に差異を生ずるに至った場 合においても,依然同一罰条に該当するものと認められるときは,訴因の. ( 3 ) 田口守一『刑事訴訟法・第 4版J2 0 2頁 ( 2 0 0 5年,弘文堂),田宮裕『刑事訴 9 0頁 0996年,有斐閣),平野・前掲注( 2 )W 刑事訴訟法J1 3 2頁 , 訟法・新版 J1 7 4頁 0999年,弘文堂),三井誠『刑事手続・ 松尾浩也『刑事訴訟法上・新版 J1 7 8頁 ( 2 0 0 3年,有斐閣)など。 法 IJ1 ( 4 ) 平野龍一『訴因と証拠 J1 1 3頁 0981年,有斐閣)。. 間宮・前掲注侶) W 刑事訴訟法 J1 8 6頁 。 3 )W 刑事手続法 l l J1 7 9頁 。 (的三井・前掲注( ( 日. -1 3 3(6 6)一.

(4) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 1号. 同一性の範囲に属し,訴因の追加又は変更を必要としないものと解する」 見解(7)のいわば発展型であり,. r 訴因とは,公訴事実の法律構成を明確な. らしめるためのものであって,その重要な意味は事実的特定の面よりもむ ,すなわち「公訴事実の法律構成のしかた しろその法律的評価の点にある J に重要な意味がある J[傍点原文 J ( 8 ),と主張する見解である O 従って,こ の見解によると,. r 法律構成」が変化しない限り依然として訴因の同一性は. 失われず,具体的事実,例えば,ナイフで刺殺したという事実から,ロー プで絞殺したという事実に変化した場合でも,. r 人を殺した JC 刑法 1 9 9条). という法律構成に変化が生じていない(つまり訴因の同一性は失われてい なLすため,訴因変更は不要であるということになる(但し,法律構成の 「しかた」に着目することから,例えば作為犯から不真正不作為犯へ,あ るいは過失犯における過失の態様に変化が生じた場合,訴因変更が必要で あるとする ) ω ) 。もっとも,この法律構成説は,そもそも審判の対象を訴因 ではなく,その背後にある社会的事実としての公訴事実と理解する立場. c r 公訴事実対象説J ) を前提にして主張されてきた見解であり ω ,現行刑訴 げ) 宮下明義『新刑事訴訟法逐条解説 IU1 6 2頁. ( 1 9 4 9年,司法研修所)。. ( 8 ) 岸盛一「刑事訴訟法の基本原理」団藤重光編『法律実務講座刑事編第一巻』 1 4頁 0953年,有斐閣)。 ( 9 ) 岸・前掲注侶) I 刑事訴訟法の基本原理J1 8頁,小野慶二「訴因・罰条の追 加,撤回及び変更」団藤重光編『法律実務講座刑事編第五巻~ 9 5 2頁 0954 年 , 有斐閣),横川敏雄「審判の範囲と訴因及び公訴事実」団藤重光編『法律実務講. 8 5 8頁 ( 1 9 5 4年,有斐閣)。 帥 岸・前掲注(司「刑事訴訟法の基本原理J1 5頁,小野・前掲注( 9 )I 訴因・罰条 の追加,撤回及び変更 J9 5 1頁。他方,横川・前掲注( 9 )I 審判の範囲と訴因及び 公訴事実 J8 5 2頁は, I 審理」と「判決」は不可分の関係にあるものではなく, 座刑事編第五巻~. 「審理できる範囲」と「審理しなければならない範囲」は区別されるべきと主張 する。但し,この見解も,公訴事実の同一性が認められる範囲で裁判所は審理 できると理解することから,審判対象に対する訴因の拘束力を否定する公訴事 実対象説に分類してよいだろう。. 1 3 4(6 5).

(5) 訴因の研究 法制定直後に実務家を中心として有力に主張されていたが,公訴事実対象 説が衰退するにつれて,この法律構成説を明確に主張する見解はみられな 。 ) 1 くなった 0 これに対し,現在支配的見解であるのが, 記載説とは,訴因を,. I 事実記載説」である. O. 事実. I 構成要件に該当する事実,すなわち『罪となるべ. き事実」の主張である」と理解する見解である Q 2 )。すなわち,検察官の主 張する具体的犯罪「事実」を訴因の本質と理解し,審判に際して一方当事 者である検察官の事実の主張に拘束力を認める点で訴因対象説にきわめて 親密的であり帥,ひいては現行法の建前である当事者主義の原則に適合す るというわけである O 最高裁判例も,例えば,法人税法違反事件において, ほ脱された科目の変更につき訴因変更なく認定することは違法であると し制,逆に,背任罪から詐欺罪への変更が問題となった事例(詐欺罪の事 実を認定しながら背任罪の罰条を適用した第一審の判断を誤りであるとし て,控訴審において事実の変更なく罰条のみ変更された事例)で,法律構 成が変化しても事実に変化がない場合は訴因変更を不要であるとしてい るωことから,現在では基本的に事実記載説にたつものと理解されてい るO. この事実記載説を前提とすると,訴因として記載された事実と異なる事 実を認定することは,基本的に許されないということになる O もっとも,. ω. 田宮・前掲注( 3 ) r刑事訴訟法~ 1 9 5頁によると, 1"今日では学説も判例も事実 [記載]説でかたまっており,この争いはほぼ終息じたものといってよ L、 」 。 ( 1 2 ) 平野・前掲注( 2 ) r刑事訴訟法~ 1 3 1頁など。 a 3 ) 田口・前掲注(司『刑事訴訟法J3 0 9頁は, 1"訴因対象説からは,訴因は犯罪事 実そのものを記載したものとなる(事実記載説(通説 ))J として,訴因対象説 と事実記載説は必然的関係にあるものと理解する。 最決昭和 4 0年 1 2月2 4日刑集 1 9巻 9号 8 2 7頁 。 q 日最判昭和 2 8年 5月 8日刑集 7巻 5号 9 6 5頁 。. ω. -1 3 5(6 4)一.

(6) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第. l号. 微細なズレであっても常に訴因変更が必要であるというのでは,. r 到底煩. にたえなしリ Q 6 ) ことになるため,この事実記載説からも,訴因事実と認定事 実との聞に一定の幅があることも承認されている O 従って,その幅がし 1か なる範囲であれば,依然として訴因の同一性が保たれているといえるか, という点が問題となる。この問題を検討するにあたっては,訴因制度に課 された前述二つの機能から検討するのが妥当であろう O その際,. r 訴因は. 本質的には審判の対象であり,その同一性の判断は僅かの食い違いである か否かによって決せられなければならないが,機能的には,被告人の防御 のためのものであるから,その僅かであるか否かの判断にあたっては,こ の点を考慮、すべきであ[る]J[傍点原文]仰という指摘が参考になると思わ れる。そこで,以下では,被告人の防御と,審判対象の画定というこつの 観点から,訴因変更の必要性に関する従来の議論を概観してみよう O. 2.被告人の防御の観点(具体的防御説と抽象的防御説) 被告人の防御という観点から訴因変更の必要性を検討する際,従来か ら ,. r 具体的防御説Jと「抽象的防御説」が対立してきた。具体的防御説. とは,訴訟における被告人の具体的防御態様に着目し,訴訟の経過におい て被告人の防御に具体的な不利益が認められない場合(例えば,被告人が 認定事実についてあらかじめ十分な弁解をしていたような場合)には,訴 因変更なく訴因外の事実を認定してよいとする見解である O これに対し, 抽象的防御説とは,訴訟における被告人の具体的防御態様を捨象し,訴因 事実と認定事実とを比較して抽象的・一般的に被告人の防御に不利益を及 ぼすようなズレが生じているかどうかという点を訴因変更の必要性の基準. 0 6 ) 平野・前掲注( 4 )r 訴因と証拠I J1 1 2頁o m 平野・前掲注(4) r 訴因と証拠I J1 1 3頁。 -1 3 6(6 3).

(7) 訴因の研究. とする見解である。この両説は . 1もともと判例の分類・解説を試みた際 の道具概念である」ωと理解されていることから,ここでは,最高裁判例 における両説の具体例をみることにする。 最高裁判例は,当初は具体的防御説の観点から判断する傾向にあったと 理解されている。例えば,最判昭和 2 9年 1月2 1日刑集 8巻 l号 7 1頁(同旨. 9年 1月2 8日刑集 8巻 1号 9 5頁)では,共同正犯という公訴事実 最判昭和 2 法が訴因及びその変更手続を に対し帯助罪が認定された事例について. I 定めた趣旨は,……審理の対象,範囲を明確にして,被告人の防御に不利 益を与えないためであると認められるから,裁判所は,審理の経過に鑑み 被告人の防御に実質的な不利益を生ずる虞れがないものと認めるときは, 公訴事実の同一性を害しない限度において,訴因変更手続をしないで,訴 因と異る事実を認定しても差支えない」と判示され,審理の経過における 被告人の具体的防御態様に着目されている O しかし,その後,例えば,最判昭和 3 6年 6月 1 3日刑集 1 5巻 6号 9 6 1頁で は,収賄罪の訴因に対し審理の過程で贈賄罪が問題となり,現実に被告人 が贈賄罪の観点で防御していたことが認められる事例について. Iもとも と収賄と贈賄とは,犯罪構成要件を異にするばかりでなく,一方は賄賂の 収受であり,他方は賄賂の供与であって,行為の態様が全く相反する犯罪 であるから,収賄の犯行に加功したという訴因に対し,訴因罰条の変更手 続を履まずに,贈賄の犯行に加功したという事実を認定することは,被告 人に不当な不意打を加え,その防御に実質的な不利益を与える虞れがある といわなければならな L、。従って,本件の場合に,原審が訴因罰条の変更 手続を履まずに,右のような判決[贈賄罪を理由とする有罪判決]をした ことは,その訴訟手続が違法であることを免れない。」と判示され,また,. 側. 田宮・前掲注侶) ~刑事訴訟法 J 1 9 9頁 。. -1 3 7(6 2)一.

(8) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 1号. 最大判昭和 4 0年 4月2 8日刑集 1 9巻 3号 2 7 0頁では,公選法違反帯助罪の訴 因に対し同罪の共同正犯が認定された事例について,公判では裁判所によ る訴因変更命令が出されていた(つまり認定事実が手続に顕在化してい た)という事情の下,右訴因変更命令の形成力が否定された上で,. r 共同. 正犯を認めるためには,帯助の訴因には含まれていない共謀の事実を新た に認定しなければならず,また法定刑も重くなる場合であるから,被告人 の防御権に影響を及ぼすことは明らかであって,当然訴因変更を要するも のといわなければならない。」と判示され,さらに,最判昭和 4 1年 7月2 6 日刑集 2 0巻 6号 7 1 1頁では,当初業務上横領罪の訴因で起訴されたが,第一 審公判において商法特別背任罪に訴因変更され,同罪により有罪判決が下 されたが,控訴審では,訴因変更手続を経ることなく当初の業務上横領罪 の訴因とほぼ同一の事実が認定され,同罪により有罪判決が下されたとい う事例について,. r 本件において,一審で当初起訴にかかる業務上横領の訴. 因につき被告人に防御の機会が与えられていたとしても,既に特別背任の 訴因に変更されている以上,爾後における被告人側の防御は専ら同訴因に ついてなされていたものとみるべきであるから,これを再び業務上横領と 認定するためには,更に訴因罰条の変更ないし追加手続をとり,改めて業 務上横領の訴因につき防御の機会を与える必要があるといわなければなら な L、。従って,原審がこの手続をとらないで判決したことは違法であ [ る 。J Jと判示されたことから,最高裁判例は具体的防御説から抽象的防御 説に転換したものと理解されてきた ω)o もっとも,最決昭和 5 5年 3月 4日刑集 3 4巻 3号 8 9頁では,酒酔い運転罪 の訴因に対し酒気帯び運転罪が認定された事例(前者は構成要件上アル. ω 小泉祐康「訴因の変更J熊谷弘ほか編『公判法体系 I~ 257頁 評論社)。. 1 3 8 (6 1 )一. 0975年,日本.

(9) 訴因の研究. コール保有量の程度知何を要件としていないので,理論的には,両罪の聞 にいわゆる「縮小関係」は認められない事例)について,. I 道路交通法 1 1 7. 条の 2第 1号の酒酔い運転も同法 1 1 9条 1項 7号の 2の酒気帯び運転も基 本的には同法 6 5条 l項違反の行為である点で共通し,前者に対する被告人 の防御は通常の場合後者のそれを包含し,もとよりその法定刑も後者は前 者より軽く,. しかも本件においては運転開始前の飲酒量,飲酒の状況等ひ. いて運転当時の身体内のアルコール保有量の点につき被告人の防御は尽さ れていることが記録上明らかであるから,前者の訴因に対し原判決が訴因 変更の手続を経ずに後者の罪を認定したからといって,これにより被告人 の実質的防御権を不当に制限したものとは認められ」ないと判示され,他 方,最判昭和 5 8年 1 2月1 3日刑集 3 7巻 1 0号 1 5 8 1頁では,共謀共同正犯におけ る謀議の日時が争点となり,検察官が訴因において I1月 7日ころから犯 行時まで」と記載し,冒頭陳述においてこれを 3月1 2日から 3月1 4日の間. 3日夜の会談への被告人の参加の と釈明したが,さらに公判の過程で 3月 1 有無が重要な争点となったことから,被告人がその点をめぐって激しく防 御した結果,同日夜のアリバイの成立が認められたにもかかわらず,実際 に重要な謀議が行われたのはその前日の 3月1 2日であって,被告人もそこ に参加していたと認定された事例について,. I 原審が,第一審判決の認めた. 1 3日夜の第一次協議の存在に疑問をもち,右協議が現実には 1 2日夜に行わ 2日夜の謀議 れたとの事実を認定しようとするのであれば,少なくとも, 1 の存否の点を控訴審における争点として顕在化させた上で十分の審理を遂 げる必要があると解されるのであって,このような措置をとることなく,. 1 3日夜の第一次協議に関する被告人のアリバイの成立を認めながら,率然 2日夜であると認めてこれに対する被告人の として,右第一次協議の日を 1 関与を肯定した原審の訴訟手続は,本件事案の性質,審理の経過等にかん がみると,被告人に対し不意打ちを与え,その防御権を不当に侵害するも. -1 3 9(6 0).

(10) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 l号. のであって違法である」と判示されたことから,具体的防御の観点も一定 。 程度取り込まれている,と分析する見解もみられる ω 右見解に従い,具体的防御説と抽象的防御説は,判例上いずれか一方で はなく,両者の観点が判断に取り込まれているとみるならば,両者の関係. 5 をいかに理解すべきかが問題となる。この点について,例えば,右昭和 5 年決定の評釈において, I 双方の見地から,あるいは,双方の見地が相補う ことによって,訴因変更の手続を経ることを要しないと判断された事例で 具体的防御説 ある」と分析する見解がある ω。しかし,これに対しては, I の観点をあまりに強調しすぎると,ほとんどの場合防御が尽くされている として訴因変更を不要とする判断になりかねず,それでは訴因制度が根幹 原則的,基本的には訴 から覆されてしまいかねな Lリと批判した上で. I 因事実と認定事実とを抽象的類型的に対比することにより,事案によって は具体的な審理の経過を考慮することにより,被告人に対し不意打ちを与 え不当に防御権を侵害することがな L、かどうかを十分配慮して判断すべ き」であるとして,具体的防御の観点は L、わば被告人に有利な方向でのみ 考慮、されるべきである,と主張する見解もみられる仰。このように,被告 人の防御という観点が訴因変更の必要性にどのように作用するかという問 題は,なお未解決の問題である O. 3 . 審判対象の画定の観点 ( 1 ) 上述のとおり,従来,訴因変更の必要性という問題に関して,被告. 人の防御の観点からの検討が中心であったが,他方で,審判対象の画定と. 。 。. 大谷直人「判例評釈」刑事訴訟法判例百選第 7版 1 0 0頁(19 9 8年)。. ω 石井一正「判例評釈」刑事訴訟法判例百選第 5版 86頁 0986年)。 ω 松本芳希「訴因・罰条の変更」大阪実務研究会編著『刑事公判の諸問題J43 頁(19 8 9年,判例タイムズ社)。. -1 4 0(5 9)一.

(11) 訴因の研究. いう観点を重視する事例もみられる O この類型は,従来から主に過失犯の. 3年 1 0 事案において見受けられたが,その代表的なものとして,最決昭和 6 月2 4日刑集4 2巻 8号 1 0 7 9頁が挙げられる。この事件は,当初公訴事実にお いて「石灰の粉塵が路面に堆積凝固したところに折からの降雨で路面が湿 潤したという事実」が記載され,公判の過程でこれが「降雨によって路面 が湿潤したという事実」に訴因変更されたところ,裁判所は変更前の事実 を認定し有罪判決を下したという事例について,最高裁は, 1"過失犯に関 し,一定の注意義務を課す根拠となる具体的事実については,たとえそれ が公訴事実中に記載されたとしても,訴因としての拘束力が認められるも のではないから,右事実が公訴事実中に一旦は記載されながらその後訴因 変更の手続を経て撤回されたとしても,被告人の防御権を不当に侵害する ものでない限り,右事実を認定することに違法はないものと解される。 Jと 判示し,訴因として記載された事実の中でも「訴因としての拘束力」を持 つもの ( 1絶対的要変更事項」という意味で)と,そうでないものがある ことを認めている(もっとも,本件では当初の訴因が予備的に追加されて おり,この判示部分は直接の意味を持たないものと思われる)。 また,犯罪の動機や経緯が公訴事実に記載された場合も,その事実につ いて訴因としての拘束力が否定された事例がある。例えば,大阪高判平成. 1 2年 7月2 1日判時 1 7 3 4 号1 5 1頁では,原判決が恐喝罪に際し公訴事実とし て記載された動機原因と異なる動機原因を認定して有罪判決を下すことは できないとしたのに対し,. 1 恐喝の動機原因は,恐喝罪の構成要件要素では. なく,訴因を特定する上での必要的記載事項でもな L、。恐喝の動機原因に 食い違いが生じても,それだけで社会的事実としての同一性が失われるこ とはなく,それが被告人の防御に実質的な不利益をもたらすものでない限 り,検察官が主張する恐喝の動機原因と異なるそれを認定することについ て必ずしも訴因変更の手続を経る必要はな L、。」と判示されている。. -1 4 1(5 8)一.

(12) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 I号. ( 2 ) これらの裁判例は,構成要件要素ではなく,また訴因の特定にとっ て不可欠なものでもない事実(例えば,過失の注意義務の前提となる事実 や,恐喝罪における動機・原因の事実)について訴因としての拘束力を否 定したものであるが,これは,訴因及び罪となるべき事実の必要的記載事 項及び特定性の程度に関する,いわゆる「識別説」につながる見解である と思われる O この識別説は,最高裁判例でも従来から見られる見解である が,その概要は次のとおりである。すなわち,そもそも訴因及び罪となる べき事実とは,. I 犯罪構成要件に該当する具体的事実であって,法令適用の. 基礎となるべき事実」であるが倒,その特定性の程度は,. I 各本条の構成要. 件に該当すべき具体的事実を該構成要件に該当するか否かを判定するに足 る程度に具体的に明白にし,かくしてその各本条を適用する事実上の根拠 を確認し得られるようにするを以って足るものというべく,必ずしもそれ 以上更にその構成要件の内容を一層精密に説示しなければならぬものでは な ~'Jω。従って,例えば,犯罪の日時,場所,方法は,. I 主として犯行の. 同一性を特定する事項たるに止り,罪となるべき事実に属しな ~'J から,. それらの摘示は,. I 犯行の同一性を特定するに足る程度を以て足り,必ずし. も数学的の正確を要するものではな」く夙共同正犯における役割に関する 記載についても,. I 共謀の事実を明確にさえすれば,共犯者の何人が実行行. 為の際,その知何なる部分を分担したかは,これを特に明示しなくとも,. ω 最大判昭和 24年 2月 9日刑集 3巻 2号 141頁。 ω 最判昭和 24年 2月 10日刑集 3巻 2号 155頁。 ω 最判昭和 23年 12月16日刑集 2巻 13号 1816頁。なお,最大判昭和 37年 11月28日 刑集 1 6巻 1 1号 1 6 3 3頁「白山丸事件J ,広島地判昭和 5 5年 3月1 2日「吉田町覚せい 5巻 3号 1 2 4頁に掲載)参照。その他,犯行日時について最判昭 剤事件 J(刑集 3 4年 4月1 4日刑集 3巻 4号 5 4 7頁,犯行態様について最判昭和 2 3年 8月1 1日 和2 1 5 0頁,最判昭和 2 4 年 2月1 0日・前掲注 ,最決昭和 2 6年 1月2 5 刑集 2巻 9号 1 日集刑 3 9 号6 8 5頁,最決昭和 5 8年 5月 6日刑集3 7巻 4号 3 7 5頁,最決平成 1 4年 7 月1 8日刑集 5 6巻 6号 3 0 7頁 。. ω. -1 4 2(5 7)一.

(13) 訴因の研究. 罪となるべき事実の判示として,間然するところはな L 」 、ω。さらに,実体 共謀中の或る 法レベルで共謀共同正犯理論が肯定されることを前提に, I 者」が実行したという旨の摘示も, I 強盗の共謀共同正犯の判示として差支 えのないものである」ω。このように,識別説は,審判対象の画定にとって 不可欠とはし、えない事実については,訴因及び罪となるべき事実において 特定される必要がない(さらには,必ずしも記載される必要すらな Lサ と する見解であり,これは,訴因のもつ機能のうち,審判対象の識別・明確 化という側面に重点をおく見解であるといえよう O そして,このような考 え方は,上述のとおり,訴因変更の必要性の問題についての判例の見解に 反映されているともいえよう O このような判例の見解に対し,学説上,訴因及び罪となるべき事実とは, 構成要件に該当する具体的事実であり, 日時,場所,方法などの記載は, 右具体的事実としての必須事項であると理解した上で,それ自体の特定性 。この点について,例えば,平野龍一は, I 罪 を求める見解が有力である ω となるべき事実は現実の事実であると共に具体的な事実である O したがっ て日時,場所もまたその要素をなすといわなければならな L、。方法に至っ てはなおさらである O 罪となるべき事実から方法を抜き去ってしまったの では,罪となるべき事実は全く抽象的な事実となってしまうであろう。」仰 と述べている O 平野は,その根拠として「わが法が,……検察官の申立の 内容を,換言すれば検察官が審判の対象たらしめようとしている事柄を, 裁判所および被告人に提示することを要求したものに外ならな L、。〔原文 側 最 判 昭 和2 3年 1月 1 5日刑集 2巻 l号 4頁 。 仰 最 判 昭 和2 5年 4月初日刑集 4巻 4号 6 0 2頁 。. ω 高田卓爾『刑事訴訟法・二訂版I J4 8 1頁. 0984 年,青林書院),平野・前掲注 位) r 訴因と証拠I J1 0 2頁,松尾浩也『刑事訴訟法下・新版補正第二版I J1 4 6頁 0999年,弘文堂)。 ω 平野・前掲注( 4 )r 訴因と証拠I J1 0 4頁 。 -1 4 3(5 6)一.

(14) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 l号. 改行〕訴因が右のようなものである結果,それはその存在が確定されれば 直ちに有罪を認定しうるような事実の記載でなければならな L、。換言すれ ば,いずれかの構成要件を充足する事実が掲げられていなければならな L、 。 」ωという点を挙げていることからみると,彼の見解は,審判対象の識. 別・明確化という側面に重点をおく見解,すなわち識別説の一つで、あり, ただ要求される識別の程度が異なるに過ぎないともいえよう 平野自身,. O. もっとも,. r わが法は,訴因が審判の対象であるという立場を完全に貫いて. はいないので,訴因の持つ,被告人防禦の便宜というその機能的側面は, より重視されなければならない。」ωとも述べており,少なくとも,判例の ように審判対象の識別・明確化という観点のみを強調する見解とも異なる ものと思われる。また,三井誠は,共謀共同正犯における謀議の事実につ いて,審判対象の識別・明確化という観点(識別説)からはその記載は必 ずしも必須ではないといえようが,. r 訴因は被告人・弁護人にとって防禦. の対象である点にこそ真の意義がある O そうであれば,共謀共同正犯の場 合,実行行為者と目された被告人はともかく,共謀のみに関与したとされ る被告人にとって,防禦を全うするには共謀の日時,場所,内容等の明示 は必須であることになる。」と述べ,自身の見解を「防禦説J(防御権説) であると明言している ω。このようにして,判例との対比において,審判 対象の識別・明確化という機能を超えた,被告人の防御の保障という機能 から重要となる事項をも訴因及び罪となるべき事実にとって必須の記載事 項と理解し,それ自体の特定性を求める見解を防御権説と位置づけること ができょう O そして,この見解を前提とすると,審判対象の識別・明確化 にとって不可欠な事実にとどまらず,被告人の防御にとって重要な事実 側平野・前掲注(4) W訴因と証拠 J1 0 2頁 。. ω 平野・前掲注(4) W訴因と証拠J113頁。 ω 三井・前掲注(3) W刑事手続法 llJ 164頁。 -144(55)一.

(15) 訴因の研究. I 訴因としての拘束力」が認められるべきこと,すなわち絶対的要変. も ,. 更事項に該当することになるものと思われる。. 三 最 決 平 成1 3年 4月1 1日. 上述のような議論の状況において,近時,最高裁において,訴因変更の 必要性という問題について従来の議論を総括する意味で注目される判例が 現れた。本件の概要及び決定要旨を概観した上で,検討を加えることにす るO. 1.事実の概要 本件は,被告人が, A, B両名と共謀の上, Aの知人宅に火災保険を掛 けた上でこれに放火し,保険金を詐取したほか,口封じのため, の上. Aと共謀. Bを殺害し,その死体を遺棄した,という事案である O このうち,. Bに対する殺人罪について,問題となった。 殺人罪の公訴事実は,当初,. r 被告人は,. Aと共謀の上,昭和 6 3年 7月. 2 4日ころ,青森市大字合子沢所在の産業廃棄物最終処分場付近道路に停車 中の普通乗用自動車内において, Bに対し,殺意をもってその頚部をベル ト様のもので絞めつけ,そのころ窒息死させて殺害した」というもので あった。しかし,検察官は,証拠調の結果を受けて,. r 被告人は,. A と共. 謀の上,前向日午後 8時ころから午後 9時 3 0分ころまでの問,青森市安方. 2丁目所在の共済会館付近から前記最終処分場に至るまでの閣の道路に停 車中の普通乗用自動車内において,殺意をもって,被告人が. Bの頚部を. 絞めつけるなどし,同所付近で窒息死させて殺害した」という事実に訴因 変更を請求し,裁判所は,これを許可した。以上の経緯を経て,第一審(青. 1月3 0日刑集 5 5巻 3号 1 6 8頁に掲載)は, 森地判平成 7年 1 -1 4 5(5 4)一. r 被告人は,. Aと.

(16) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 1号. 共謀の上,前同日午後 8時ころから翌 2 5日未明までの聞に,青森市内又は その周辺に停車中の自動車内において, A又は被告人あるいはその両名に おいて,拒殺,絞殺又はこれに類する方法で Bを殺害した」という事実を 認定し,罪となるべき事実としてその旨判示した。 これに対して,被告人は,①罪となるべき事実の判示が特定性を欠く, ②実行行為者について訴因変更が必要であったのにこれを行うことなく訴 因に摘示された事実と異なる事実が認定された,と主張して控訴したが, 原審(仙台高判平成 1 1年 3月 4日高刑集 5 2巻 1頁)は,これを棄却した。 そこで,被告人は,さらに上告を提起したが,最高裁は,以下のように判 示してこれを棄却した。. 2 . 決定要旨 ①. 罪となるべき事実の特定'性について. 罪となるべき事実についての判示は, I 殺害の日時・場所・方法が概括 的なものであるほか,実行行為者が. r A又は被告人あるいはその両名』と. いう択一的なものであるにとどまるが,その事件が被告人と Aの 2名の共 謀による犯行であるというのであるから,この程度の判示であっても,殺 人罪の構成要件に該当すべき具体的事実を,それが構成要件に該当するか どうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにしているものというべ きであって,罪となるべき事実の判示として不十分とはいえな Lリ 。 ②. 実行行為者に関する訴因変更の要否ついて. 「殺人罪の共同正犯の訴因としては,その実行行為者がだれであるかが 明示されていないからといって,それだけで直ちに訴因の記載として罪と なるべき事実の特定に欠けるものとは L、えないと考えられるから,訴因に おいて実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても, 審判対象の画定という見地からは,訴因変更が必要となるとはいえないも. 1 4 6(5 3)一.

(17) 訴因の研究. のと解される。とはいえ,実行行為者がだれであるかは,一般的に,被告 人の防御にとって重要な事項であるから,当該訴因の成否について争いが ある場合等においては,争点の明確化などのため,検察官において実行行 為者を明示するのが望ましいということができ,検察官が訴因においてそ の実行行為者の明示をした以上,判決においてそれと実質的に異なる認定 をするには,原則として,訴因変更手続を要するものと解するのが相当で ある。しかしながら,実行行為者の明示は,前記のとおり訴因の記載とし て不可欠な事項ではないから,少なくとも,被告人の防御の具体的な状況 等の審理の経過に照らし,被告人に不意打ちを与えるものではないと認め られ,かっ,判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告 人にとってより不利益であるとはいえない場合には,例外的に,訴因変更 手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではな Lリ 。. 3.本決定の検討 本決定は,上述のとおり,大別して二つの部分で、構成されているが,ま ず①の部分における罪となるべき事実の特定性に関する判示事項をみる と,本決定は,基本的に,訴因の機能について審判対象の画定という観点 を重視する識別説を支持するものと理解してよいと思われる O これを前提 に,本稿では,判示事項②の部分を中心に検討を加える O 本件では, I 被告人が……殺害した」との訴因事実(変更後の訴因)に 対し,裁判所は, I A又は被告人あるいはその両名において……殺害した」 と認定した。この点について,訴因において共同正犯における実行行為者 が特定されている場合,訴因変更手続を経ることなく,訴因と異なる実行 行為者を認定すること,又は訴因において特定された者も含めて実行行為 者を択一的に認定することの可否が問題となった。その際,本決定は,こ -147(52).

(18) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 l号. の判示事項②の部分において, (1)審判対象画定の観点, ( 2 )被告人の防御の 観点という二つの側面から検討を加えている O 以下,順に検討する O ( 1 ) 審判対象画定の観点 本決定は,まず,. r 審判対象の画定という見地」から,当該事項が「訴. 因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえな Lリ 場 合 には,. r 訴因において[当該事項]が明示された場合にそれと異なる認定. をするとしても,……訴因変更が必要となるとは L、えない」と判示し,例 えば,本件で問題となった殺人罪の共同正犯における実行行為者は,この ような事項にあたると判断している。すなわち,訴因に記載された事実の 中で,審判対象の画定のために不可欠といえるか否かという基準により, 訴因事実と認定事実とでズレが生じた場合に常に訴因変更が必要となる事 項(絶対的要変更事項)と,そうでない事項とに区別されるというのであ るO このように,訴因として摘示された事実の中で,絶対的要変更事項と, そうでない事項とがあることは,すでに前掲昭和 6 3年決定でも指摘されて いたところであるが,そこでは,絶対的要変更事項に該当するのは具体的 にどのような事項であるかという基準は,明確に示されていなかった。本 決定は,この問題について,最高裁として初めて具体的な基準を示した点 に,意義が認められる O 訴因変更の必要性という問題に関して,上述のとおり,従来から,被告 人の防御の観点及び審判対象画定の観点から検討が行われてきたが,各々 の観点が L、かなる関係にあるかという点は,これまで明確に示されてこな かった。この問題は,訴因の本質及びその機能にさかのぼって検討される べきものであるが,本決定は,訴因の中核的機能を「審判対象の画定」と いう観点に認めた上で,そこから絶対的要変更事項に該当するか否かを判 断したものである O このような見解は,上述のとおり,まさに識別説の観 点から,絶対的要変更事項に該当するのは審判対象の画定にとって不可欠 -1 4 8(5 1)一.

(19) 訴因の研究. な事項に限られる,と理解するものである o この見解によると,絶対的要 変更事項に該当するか否かというレベルでは,被告人の防御という観点 は,審判対象の画定という観点の背後に隠れ,単に反射的に考慮されるに とどまるといえよう O. ( 2 ) 被告人の防御の観点 もっとも,本決定は,さらに,絶対的要変更事項に該当しない事項で あっても,被告人の防御という観点から,殺人罪の共同正犯において, I 実 行行為者がだれであるかは,一般的に,被告人の防御にとって重要な事項 であ」り,実行行為者が訴因において摘示された場合にそれと異なる事実 を認定するには, I 原則として,訴因変更手続を要する J [傍点辻本]と判 示した。すなわち,本決定によると,被告人の防御という観点は,いわば 第二次的に訴因変更の必要性の問題に取り込まれることになる(相対的要 変更事項)。しかし,本決定は,さらに「実行行為者の明示は,前記のと おり訴因の記載として不可欠な事項ではないから,少なくとも,被告人の 防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし,被告人に不意打ちを与える ものではないと認められ,かつ,判決で認定される事実が訴因に記載され た事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には, 例外的に,訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定す ることも違法ではない」と判示し,本件は,裁判所が判決のとおり認定し たのはまさに被告人の防御が成功した結果であるから,訴因変更を要しな い場合にあたると結論づけた。 本決定の見解は,この相対的要変更事実というレベルにおいて,被告人 の防御の観点から,上述の「抽象的防御説」と「具体的防御説」の考え方 をいわば折衷的に取り込んだものであると思われる O すなわち,罪となる べき事実の特定にとって不可欠とは言えない事実であっても,訴因と異な 原則として J ,すなわち,一般的・抽象的観点か る認定を行うためには, I -1 4 9(5 0).

(20) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 l号. ら被告人の防御にとって重要である事項については訴因変更を要するが, 被告人の具体的防御状況等審理の経過に照らして,被告人にとって不意打 ち等の不利益が存在しない場合には,. r 例外的に」訴因変更を要しないと. することで,被告人の防御の観点に着目する両説を,いわば原則・例外の 関係に位置づけたのである O 上述のとおり,判例上, るが,. r 抽象的防御説J の観点が重視される傾向にあ. しかし「具体的防御説」の観点も排斥されているとはいえず,この. 両説の関係をいかに理解すべきかが問題となっていた。本決定は,このよ うな議論状況において,一定の結論を示したものといえよう O すなわち, 判例の見解を前提とすると,この場面で問題となっている訴因変更は,審 判対象の識別・明確化という観点からではなく,争点明確化という被告人 の防御利益の観点から求められるものであるから,訴因と異なる事実を認 定する場合には,原則として訴因変更を要するとしても,それに変わる方 法(従って,訴因変更に匹敵するだけの明確な手続でなければならない) で防御の利益が確保されるのであれば,必ずしも訴因変更を要しない,と いうのである O ( 3 ) 検討. 本決定は,以上のように,訴因変更の必要性の問題について,審判対象 の画定という観点と,被告人の防御という観点をいわば段階的に考慮、に取 り入れ,絶対的要変更事項に該当するかという点は前者の観点から判断し つつ,それ以外の事項についても後者の観点から一定の範囲で訴因変更の 必要性を認めるものである O 本決定のこのような考察に対して,すでに 様々な評価が行われている。 例えば,大津裕は,. r 抽象的防御説」は,従来,訴因としての拘束力に. 起因する防御利益の保護という観点から主張されたものであり,本決定で も,その主張するところは,審判対象画定の観点で満たされていることか. -1 5 0(4 9)一.

(21) 訴因の研究. ら,それを超える「訴因において明示された一定の防御上重要な事項につ いても,訴因変更が必要となる可能性を認めた点で,むしろ,従来よりも 。そのような評価は,確 防御の利益に手厚い配慮をしたもの」と評価する ω かに,識別説の観点から,絶対的要変更事項を審判対象の画定にとって不 可欠な事項に限定する見解を前提とすると,的確であるといえよう O しか し,従来,そもそも絶対的要変更事項をいかに理解するかという点が問題 とされてきたのであり,抽象的防御説を主張する論者らが絶対的要変更事 項を大津の主張するような狭い範囲に理解していたかは疑問もある O むし ろ,防御権説の立場から,審判対象の画定にとって必ずしも不可欠とはい えないが,被告人の防御にとって重要な事項についても絶対的要変更事項 に該当するものと理解するならば,本決定は,むしろ,被告人の防御の観 点から絶対的要変更事項に位置づけられるべき事項を相対的要変更事項に 格下げし,例外的ではあれ訴因変更を不要とすることを認めた点で,大津 の評価とは逆に,防御の利益が配慮されるべき範囲を狭めたものともいえ ょう O. 次に,田口守ーは,基準の明確性を理由に識別説を支持することを明言 した上で,審判対象の画定の観点より「被告人の防御権の基本的な部分を 保障し,それ以外の防御権の保障は訴因論とは別の方法によるものと構成 する方が防御権の保障にとっては有益と思われる J ,そして,本決定判示事 項②後段における被告人の防御の観点からの訴因変更の必要性の考察は, 「争点顕在化手続を意味するのであって,本来の訴因変更手続とは異質の ものであることに注意すべきであろう O ……平成 1 3年判例の[当該]判示 事項……は,. r 拘束力のない訴因事実』については争点顕在化手続の一つの. 方法としての訴因変更手続が考えられる,ということを判示したものと理. ω 大津裕「訴因の機能と訴因変更の要否」法学教室 256号32頁 -1 51 C4 8)一. ( 2 0 0 2年 ) 。.

(22) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第. 1号. 解すべきであろう。」と述べ,審判対象の画定にとって不可欠といえない事 項について,. r 訴因論J(訴因変更の必要性の問題)から切り離すべきこと. 。確かに,基準が明確であることは望まし L、。しかし,明確 を主張する ω 性を追求するために絶対的要変更事項が限定され,そこから外された事項 を「訴因論」から「争点論」へいわば格下げすることは,田口のいう「防 御権の保障にとって有益」であるといえるかは疑問である O さらに,池田修は,本決定は「識別説を前提として,実行行為者の明示 が不可欠なものではないとしつつ, [争点明確化に向けた]実務の一般的運 用をも積極的に評価している」と分析した上で,相対的要変更事項につい ても,. r 確かに,訴因として明示された事項については,それが犯罪の非本. 質的部分であっても,訴因と異なる認定をするためには何らかの不意打ち 防止の措置をとる必要があり,通常は,同等の手続によるのが望ましい。」 [傍点辻本]と述べ,具体的には,当該事実が訴因に明示されていた場合. r しかし,不意打ち防止の措置は 結 必ずしも同等の手続によらなければならないわけではない」とも述べ, r には訴因変更手続が必要であるとするが,. 果として不意打ちが防止できれば必ずしも同等の手続による必要はない。」 。しかし,この見解が分析するように,仮に相対的要変更事 と主張する ω 項は不意打ち防止の観点から検討されるべき問題であるとしても,池田自 身が述べているように,当該事項が訴因に明示された場合の「同等の手続」 とは訴因変更手続そのものであり,また訴因が被告人への告知機能を有し ていることをも考えると,少なくとも防御にとって重要な事項について訴 因変更を行うことなく訴因と異なる事実を認定することは,およそ不意打. ω 田口守一「争点と訴因 j 佐々木喜寿記念『刑事法の理論と実践~ 735頁 (2002 年 ) 。 伺. 池田修「本件判例評釈」最高裁判所判例解説刑事篇・平成 1 3年度 5 7頁 ( 2 0 0 4. 年 ) 。. -1 5 2(4 7)一.

(23) 訴因の研究. ちにあたるのではないかと思われる。 以上から,本決定は,識別説の観点から,絶対的要変更事項を審判対象 にとって不可欠の事項に限定し,上述田口の分析によると,被告人の防御 の観点を訴因論から切り離すことで,訴因変更の必要性という問題につい て明確な基準を示しえたことから,裁判実務上「訴因変更の要否を判断す る際に参照すべき基本的な判例」ωとなるであろう O しかし,そもそも絶 対的要変更事項に該当するか否かという問題を審判対象の画定にとって不 可欠といえるかという観点,すなわち識別説の観点から考察することに は,上述のとおり疑問がある O なぜなら,従来,被告人の防御の観点から 訴因変更の必要性が検討されるとき,判例も基本的にこの立場にたってい ると評価されてきた「抽象的防御説」は,まさに被告人の防御の観点から 「普通この程度ならサプライズ(不意打ち)にはならず,そう認定しても 不測の事態とはいえない範囲」的にあたるかという点を基準に,もはやサ プライズとなる事項について訴因と異なる事実を認定するためには,被告 人の防御態様如何にかかわらず,いわば絶対的に訴因変更手続を要すると 考えていたものと思われるからである。その意味では,本決定は,かつて の抽象的防御説にたつと評価されてきた一連の判例の流れとは明らかに一 線を画するものであると理解すべきであろう O. 四まとめ. 以上の検討から,訴因変更の必要性という問題に関して,訴因の本質及 びその機能をいかに理解すべきかによって,個別具体的場面における結論. (3~. 池田・前掲注伺「本件評釈J71 頁 。. 師. 団宮・前掲注侶) 刑事訴訟法I J1 9 9頁 。. r. -1 5 3(4 6)一.

(24) 近 畿 大 学 法 学 第5 3巻第 1号. に差異が生じることがわかった。そして,平成 1 3年決定にみるように,判 例実務の考え方は,訴因の本質的機能を審判対象の画定という観点に求 め,絶対的要変更事項に該当する事項をこの観点から限定しつつ,他方で, 被告人の防御という観点をいわば二次的に取り込んで,従来の抽象的防御 説と具体的防御説の観点を相対的要変更事項のレベルで,いわば原則・例 外の関係に位置づけている o この考え方は,上述のとおり,. r 識別説」に. つながるものである O この識別説の考え方からは,例えば,殺人罪におい て,ある人が一定の方法で殺されたという事実が確定すれば(つまり,他 の犯罪事実から識別されれば),犯罪の日時,場所,方法などは,そもそ も「犯行の同一性を特定するに足る程度の」摘示で足りる以上,他の犯罪 事実から識別されうる限り,訴因及び罪となるべき事実にとって必須の記 載事項ではなく,また,訴因事実と異なる事実を認定するためには必ずし も訴因変更を要するものではないということになる。共謀共同正犯におけ る謀議の事実なども,これと同様に扱われることとなるであろう O もっとも,この識別説がそもそも事実記載説と直ちに調和するかは,疑 わしいように思われる O 上述のとおり,事実記載説の有力な論者による と,訴因及び罪となるべき事実とは構成要件に該当する具体的事実であ り,犯罪の日時,場所,方法などの記載はこれに必須の事項である(した がって,それらの事実自体の特定性が求められる)と理解されている倒。こ の見解を前提にするならば,右各事項は訴因に必須の記載事項であり,そ れゆえ,微細なズレはともかく,訴因事実と異なる事実を認定するには, 常に訴因変更を要するものと理解すべきことになるのではないだろうか。 例えば,平成 1 3年決定で問題となった殺人罪の共同正犯における実行行為. 側. 高田・前掲注(28) r 刑事訴訟法J4 8 1頁,平野・前掲注( 4 )r 訴因と証拠 j 1 0 2頁 ,. 4 6頁 。 松尾・前掲注側『刑事訴訟法下j 1 -1 5 4(4 5)一.

(25) 訴因の研究. 者などは,まさにこのような事項に該当すると理解すべきであろう O つま り,事実記載説を前提とするならば,訴因は,審判対象の画定,とりわけ 他の犯罪事実との識別という機能にとどまらず,さらに,それが両当事者 の攻防にとって重要な事項であるか否か,すなわち被告人の防御の保障と いう機能も本質的なものであると理解すべきである(防御権説)ように思 われる ω。識別説は,これを理論的に徹底するならば,訴因に記載される べき事実は非常に抽象化され,実際に記載された事象の多くはその中核部 分から捨象されることになるため,具体的結論において,もはや法律構成 説と径庭なきものとなるのではないだろうか。 また,平成 1 3年決定で明確に示された裁判実務の見解を前提にしても, 具体的にどのような場合に訴因変更が必要であるかという点は,個別の犯 罪類型ごとに詳細な検討を要する O 例えば,いわば聞かれた構成要件であ る過失犯においてそもそもどのような事実が審判対象の画定にとって不可 欠な事項であるかという点は,従来から議論があり, I 訴因変更の要否に関 する一般的基準を定立しただけではあまり意味がない……これを適用する 具体的な方法こそが重要であるが,それがまた非常にむつかし L、」帥とい う指摘もなされている O 他方,審判対象の画定の観点から不可欠とはいえ ない事項についても,当該事実が被告人の防御にとって重要であるか否か は,犯罪類型ごとに,さらには個別の具体的審理状況によっても異なりう るものである。これらの点の検討は,具体的事例の詳細な分析を必要とす るが,次の機会を期すことにした L 。 、. ( 3 ) 9 三井・前掲注侶) ~刑事手続法 llJ 働. 1 7 9頁 。. 石井一正「過失犯における訴因変更-判例の総合的研究」判例評論 2 0 2号 7 9 2 頁 0 975年 ) 。 一 1 5 5(4 4)一.

(26)

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