DNA修復と血液疾患
齋
藤
貴
之
私は, 平成 3年に群馬大学医学部を卒業後, 群馬大学 第三内科に入局し, 血液疾患の臨床と研究に従事し, 平 成 24年 5月から, 群馬大学大学院保 学研究科 生体 情報検査科学 血液研究室に在籍しております. 当研究 室は, 以前には故土屋純教授が, 現在は村上博和教授が 在籍し, 日本の多発性骨髄腫の臨床や研究を牽引して参 りました. 現在, 当研究室は, 検査技術科学専攻の大学生 や生体情報検査科学の大学院生とともに, 多発性骨髄腫 を中心とした血液疾患の研究を行っています. 今回は, 当研究室で研究しております DNA 修復と血 液疾患の関連についてお話させて頂きます. DNA は, 外 的刺激 (放射線,タバコなどの酸化ストレス等)や内的環 境 (ミトコンドリアの電子伝達系などにより生じた活性 酸素種等) により, 恒常的に損傷を受けています. DNA 損傷は, 一日に一細胞当たり数万から数十万塩基に生じ ると えられています. 細胞は, DNA 損傷に対して, 恒 常的な DNA 修復により対処していますが, 損傷が高度 な場合はアポトーシスや細胞老化などをきたします. DNA 損傷が修復されずに DNA 複製にすすむと, DNA 変異を生じる原因になります. この DNA 変異が重要な 遺伝子に蓄積すると, がん化につながると えられてい ます. 例えば, タバコなど過剰な酸化的ストレスは肺が んと喉頭がんなどのリスクになります. 生体は, これら の DNA 損傷に対して, 正常の DNA を保持させるさま ざまな修復系を持っています. DNA 修復には, 塩基除去 修復, ヌクレオチド除去修復, ミスマッチ修復, 組換え修 復系などがあります.8−ハイドロキシグアン (8-OG)は 酸化的ストレスで生じる代表的な損傷塩基です. この 8-OG を修復するのは, 塩基除去修復系と呼ばれる小さい DNA 損傷を修復する経路です. 正常のグアニンは, シト シンと相補的な結合により DNA 二本鎖を作りますが, 8−OG は, 反対側にアデニンが結合し, グアニン (G): シトシン (C) → チミン (T): アデニン (A) の transver-sion の塩基配列に変化が起こります. この塩基除去修復 系で働く酵素に OGG1があります.OGG1は,8−ハイド ロキシグアンと糖をつなぐ N-グリコシド結合を切断し, 損傷塩基を除去するグリコシラーゼ活性を持っていま す. この OGG1をコードする遺伝子には酵素活性の違う Single Nucleotide Polymorphism (SNP) があることが知 られています. SNPとは, ある生物種集団のゲノム塩基 配列中に一塩基に多様性が見られ, その変異が集団内で 1%以上の頻度で見られる場合を言います. ハリウッド の女優, アンジェリーナ・ジョリーさんが乳がん予防の ために両乳房を切除, 再 したというニュースで有名に なりましたが, BRCA1や BRCA2多型も DNA 修復の 組換え修復遺伝子多型の一つです. OGG1遺伝子は, 326 番目のアミノ酸 Serが Cysに変化すると in vitroで塩基 除去修復活性が低下することが知られています. また, OGG1-Se326Cys多型の症例対照研究においても, 修復 活性の低い Cys-326アレルのホモ接合体は, 肺がんなど のリスクを高めることが報告されています. 我々の研究 室では, 多発性骨髄腫, 骨髄異形成症候群, および急性骨 髄 性 白 血 病 で, 塩 基 除 去 修 復 系 に 関 与 す る OGG1, MUTYH, APE1, XRCC1の遺伝子多型について検討し ました. 多発性骨髄腫では OGG1多型や MUTYH 多型 が疾患の悪性度と関連していること, 骨髄異形成症候群 では XRCC1多型が放射線治療関連や多重がんで多い 217 Kitakanto Med J 2014;64:217∼218 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科生体情報検査科学講座 平成26年2月28日 受付 論文別刷請求先 〒371-8514 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科生体情報検査科学講座 齋藤貴之こと, 急性骨髄性白血病では APE1多型が発症に関与す る可能性が示唆されました. DNA 修復系は, がんの発生に関与しているだけでな く, がんの治療効果にも影響すると えられています. 抗がん薬の多くはがん細胞の DNA が標的になっていま す. がん細胞は, 生存を有利にするために薬剤耐性機構 などさまざまな戦略をとっています. その戦略の一つが DNA 修復機構の活性化です. がん細胞は外的刺激に自 の DNA を保持するために, DNA 修復系を活性させ ていることが推測されています. そこで, がんを効果的 に治療する方法として, がん細胞の DNA 修復系をコン トロールして, 抗がん薬が働きやすい状態にすることが 試みられています. 例えば, PARP阻害薬は, 塩基除去修 復系を抑えることが知られていますが,triple negativeの 乳がん患者において, 通常化学療法に PARP阻害薬を併 用した群は化学療法単独群に比べて生存期間が有意に 長すると報告されています. 以上のように, DNA 修復 系の異常は, がん化の原因になるだけでなく, がん細胞 の薬剤耐性にも関与していることが明らかです (図 1). しかしながら, がん細胞において, DNA 修復系のどの部 位が活性化されているか, どの部位が細胞の生存に重要 なのかは明らかになっていません. 正常細胞とがん細胞 の間で DNA 修復の差異が かれば, 効果的ながん治療 につながると えられます. 私たちの研究室は, 血液疾患における DNA 修復系多 型研究をベースにして, 今後は DNA 修復系発現プロ ファイルを作成し, 機能解析を行っていく予定です. そ して, 血液疾患の病態解明や治療に役に立つような研究 を続けていこうと えています. 文 献
1. Lord CJ1,Ashworth A. The DNA damage response and cancer therapy. Nature. 2012; 481: 287-294.
2. Marcie K. Weil, Alice Chen. PARP Inhibitor Treat-ment in Ovarian and Breast Cancer. Curr Probl Cancer. 2011; 35: 7-50.
DNA 修復と血液疾患
図1 DNA 修復とがん 218