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<資料> 地方税法の非課税措置と地方自治 : 大牟田訴訟について

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(1)地方税法の非課税措置と地方自治(萩野). ︻資 料︼. 夫. 地方税法の非課税措置と地方自治     ー大牟田訴訟についてー. 芳. ることは、学者としての生命を自ら絶つかも知れない冒険であることも知らないわけではない。しかし、本稿における多. 性の限界を示したものになっており、 “三百代言”という批難が出されることも覚悟している。このような文章を発表す. けたいと考えたのである。事柄の性質上、体系的に私見を述べたものでないのはもちろんである。むしろ、論じうる可能. 大牟田市の事情から、これまで本稿を公表して大方の批評を受ける機会がなかったので、ここに全文を公表して批判を受. めることの非常識性のゆえに、九州在住の専門家たちが意見を述べることを敬遠したテーマにかかわっており、しかも、.  本稿は、そのための準備の意味もあるが、何よりも、伝統的立場からみれば当該間題を訴訟手続にのせて司法審査を求. この訴訟の間題点について論じる機会をもちたいと考えている。. た。すでに何回か公判が開かれ、準備書面の交換が行われて、争点がしだいに明確になってきている。遠くない将来に、. らかにするため、地方税法四八九条一項が定める企業の使用する電気に対する非課税措置の合憲性を争って訴訟を提起し.  大牟田市は、ことし︵一九七五年︶の四月二日に、同市が財政危機に陥ったことの責任の一半が政府にあることを明. 野. 数の問題点︵地方財政危機の原因と財政構造、地方自治の本旨の内容とその規範性、自治体の争訟適格性、国の行為と賠. 一71一. 萩.

(2) 償・補償の性質等︶は、現在、最もシ!リアスな問題であり、あるいは己成理論では解決しえないものであり、さらには. このような争訟が理論の発展のためにもどうしても必要であるとも考えられるのである。この訴訟の、問題提起としての 意味は、やはり大きいと思う。.  以下は、筆者が大牟田市山田亀一市長︵当時︶から依頼を受けて、旬日の後に同市長宛回答した﹁意見﹂の全文である。.     ﹁電気税 の 非 課 税 措 置 に 関 す る 意 見 ﹂ 大牟田市長 山 田 亀 一 殿   一九七五年二月二三日. 鹿児島大学教授 萩 野 芳 夫.  御依頼の趣旨は、危機的な状況にある大牟田市の財政にとって、地方税法四八九条叫項、二項の規定の存在の影響には. 甚大なものがあり、そのため諸行政需要を賄うことに困難が生じているので、この点につき、政府にも法的責任があると. 思えるが、その責任を明らかにするための法的手続があるかどうかの見解を示して欲しいということであります。.  このほど提出された﹁大牟田市行財政診断報告書﹂によると、大牟田市の行財政の基盤は、成長型ではなく、停滞型大. 企業を核とした企業都市であり、大牟田市財政は現行法規の大きな改善の見通しがない限り、構造的に赤字を回避するこ とはできないだろう、と指摘されております。.  また、資料によるとたとえば昭和四九年度︵見込︶の四八九条一項、二項による非課税相当額は九億九〇〇万円で、地 方交付税による填補を差引くと二億二、七二五万円が減収となっています。.  以上のような問題状況を前提にして、大牟田市長の﹁陳情から要求へ﹂という対国家姿勢に沿って、大牟田市として、. 一72一. 料 資.

(3) 地方税法の非課税措置と地方自治(萩野). 国に対してどのような法的な要求権があるのか、という間題につき意見を申し述べます。.                 記.  一 地方税法四八九条一項、二項によって生じた減収分のうち、地方交付税で埋められない金額は、大牟田市にとって. 何らかの意味の損失︵﹁得べかりし利益﹂︶であると考えられる。そこでこの損失を求償する法的な可能性について考え. てみると、法的に損失を求償することができるということは、大牟田市に損失を求償する請求権があって、国の側にそれ に 対応する法的義務 が あ る と い う こ と を 意 味 す る 。.  このような請求権として、四つの類型が考えられる。これらの請求権の成立要件を充たすかどうかを検討すれば上の間 題 に対する回答が与 え ら れ る は ず で あ る 。. 国家賠償法による賠償請求権. 一73一.  請求権の四つの類型とは、以下のものを意味する。.  ︶ 損失補償請求 権. 結果責任に基 づ く 国 家 補 償 請 求 権 民法上の損害賠償請求権 以下、それぞれについて検討する。. 国家賠償法にょる賠償請求権.  地方税法四八九条一項、二項により、電気税の非課税措置を定め、地方交付税法によって非課税金額の七五%相当. 1 ﹁公権力の行使﹂. によって違法に他人に損害を加えたという要件を必要とする。. 国家賠償請求権が成立するためには、国の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意、又は過失. (→二(4)(3)(2)(1.

(4)  の填補をしてもなおかつ、昭和四十九年度の例で二億二、七二五万円の実質的減収を大牟田市に強制している政府の  行為は、国家賠償法一条の﹁公権力の行使﹂と言い得るか。.   統治行為という概念を認める説にたてば、ある立法政策を国の不法行為として争うことはでぎず、損害を受けても  国側の裁量的救済を受けることができるだけということになる。.   統治行為を認めぬ立場からすれば、立法政策も、損害発生の原因行為として争う余地があることになる。今日、統.  治行為論に対する批判は非常に強くなっており、この理由から司法審査請求を取り止めにする必要はないと考える。.   国会での立法行為そのもの︵作為︶や、その後、不合理を指摘されるに至ったその法律の改正を怠る行為︵不作.  為︶によって、自治体に損害を蒙らせた例について裁判所が判断を下した例はないが、しかし、例えば、村会議員の.  除名の議決︵新潟地裁二五年九月一八日判決・下民集一・九・一四七二︶選挙管理委員会の審決︵福岡高裁三八年四.  月二六日判決・下民集一六・四・八六二、大阪高裁四二年五月三〇日判決・下民集一八・五∼六・五九一︶など議会.  や委員会の決定が公権力の行使とされた例はいくらもある。もっとも農業政策のような国の基本政策の決定を公権力.  の行使でないとした例がある︵東京地裁四六年一二月一三目判決・訟月一八・一・一︶。.   学説によれば、狭義説では、 ﹁公権力の行使﹂を国家統治権に基づく優越的な意思発動作用に限定しており、広義.  説では、権力作用と非権力作用を含むが、その中から純粋の私経済作用と国賠法二条関係を除いている。しかし、こ  れらに対して最広義説は国家活動全体を意味すると解している。.   最広義説を支持する考えは少数ではあるが、国賠法の要件はできるだけ緩やかに解していこうとするのが近時の傾  向であることを考慮すれば、それなりの説得力をもつ説といってよい。.   広義説にたてば本件の場合、公権力の行使があったものと解することがでぎる。. 2 公 務 員. 一74一. 料 資.

(5) 地方税法の非課税措置と地方自治(萩野).   地方税法四八九条一項、二項の制定行為︵作為︶及びその不合理性を知りながら改正をしなかった行為︵不作為︶.  について、直接権限と責任を有するのは、内閣を代表して議案を国会へ提出する権能を有する内閣総理大臣及び国会 議員である。総理大臣及び国会議員が、公務員であることはいうまでもない。. 3 職務を行うについて.   国会議員、内閣総理大臣の上記積極的、消極的立法過程関与行為は、職務行為自体を構成する行為であって、この  要件を充たしていることも問題ない。. 4 違 法 性.   違法とは、法の許きない法益侵害であるが、憲法・国賠法上の賠償請求権を発生させる原因行為たる不法行為概念.  は民法上の損害賠償請求権とは異なり、不当概念をも含み得る広義のものと解されている。.   また、近時、国家賠償法上の違法性は、﹁過失の客観化﹂の考え方から、国家活動によって、国民に対して損害を.  与えた場合に、一応客観的な過失要件に該当すれば、違法性あり、責任成立要件を充足するものと考える方向が打ち.  出されてきている。この考え方によれば、国家活動によって損害が発生した場合には、原則として、①違法あれば毅  疵がある。②故意又は過失があれば殺疵があるとされる。.   これまでに、条約締結行為の違法性を追求して国家賠償請求を提起した例は数多くある。例えば、平和条約の締結.  によって、その一九条a項で、国民が、占領軍兵士又は占領国に対して有していた請求権を放棄したことにより、損. 害を受けたとして提訴した例がいくつかある︵しかし、裁判所はいずれも違法性を否定している︶。.   最も注目すべき例は、いわゆる﹁原爆訴訟﹂の名で呼ばれた事件︵東京地裁三八年二一月七日判決・判時三五五︶.  である。原告側は、原爆投下は、実定国際法︵条約および慣習法︶に反する戦闘行為であって、それによる被害者は.  国際法上の権利主体として、米国に対し、損害賠償講求権を有すると主張し、平和条約一九条a項が、日本国民のす. 一75一.

(6) べての請求権を放棄することを定めた結果、原告は、米国に対する損害賠償請求権を法律上喪失せしめられたのは国. の不法行為であるから、国は損害賠償責任を負うと主張した。本件は﹁戦争災害﹂という特殊な事例なので、必らず しも先例とはならないが、国家活動の違法性を考える上で興味深いケースである。.  さて、本件の場合には、地方税法四八九条一項、二項の制定について、次のような点が違法性を根拠づける理由と して考えられる。. ① 非課税規定は歴史的経過からみても著しく不合理であること。.   電気税の非課税は、戦争による破壊から産業を復興させる段階においては、それなりの理由があったと思える  が、今目では合理性を失い、かえって不合理な結果を多く生じさせている。.   電気を多く使用する重要基幹産業を非課税にする論拠は、原料課税になる、物価上昇の因となる、製品の競争力.  を弱めるなどであるが必ずしも十分な理由づけとはなっていず、極論すれば人件費を多額に必要とする企業には、.  国が人件費補助をしなければならぬという主張にもつながるもので十分に合理性のあるものとはいえない。.   非課税は個人と企業との間に不当な差別をもち込むだけでなく、財界からも主張されているように利用度の高い.  産業が非課税となり、利用度の低い産業が課税対象となっており、企業相互間においても税の不公平が生じている.  のであって、したがって全産業を課税対象として税の公平な分担をはかるべぎだという議論も出ているのである。.   税制調査会等においても、以前からくり返し、その不合理性の指摘と改革への試みが提言されてきたほか、国会.  においても、整理の方向が打ち出され、自治省も、昭和五〇年度から非課税措置を大幅縮少する方向にある。.   いずれにしろ、不合理、不均衡が指摘されながら、長年の間放置してきた行為は、国︵公務員︶の理疵ある行為  と言い得る。. ② 納税義務の平等性を侵していること。. 一76一. 料 資.

(7) 地方税法の非課税措置と地方自治(萩野).   ある自治体の住民は、相互に平等な納税義務を負担するべきことが憲法上の要請である。.   憲法一四条の要求する平等は、実質的でかつ相対的平等であるとするのが定説であるが、実質的、相対的平等と.  いうのは、この場合、個々の住民、又は企業に対する電気税の賦課の理由及びその額、ならびにそれらが非課税と.  される住民ないし企業についてのその理由及び額が合理的でなければならないことを言う。①でみたようにこの非.  課税措置は、不合理な差別を大企業とそれ以外の企業及び住民との間にもち込んでおり、不合理な差別であって、  憲法一四条違反であるといいうる。. ⑧ 自治体の課税権の侵害.   租税法律主義は、地方税と関税を例外とすることは学界の定説である。憲法八四条の法律には条例を含むと解さ  れている。.   地方税が租税法律主義の例外とされる根拠とその範囲は以下のように考えられる。.  ① 地方自治の本旨と租税法律主義.    地方自治の本旨とは、法律をもってしても侵しえぬ自治の核心をいうが、それを侵す例を考えてみると例え.   ば、地方公共団体の事務について制限列挙主義をとる法律、自治体の課税権を否定する法律、予算、条例を認可.   制にする法律、強制予算などがある。これらの事項を侵す法律は侵しえない自治の核心を侵害するもので違憲だ   とされている 。.    租税法律主義というのは、国会の法律ですべてをきめる趣旨ではなく、地方自治の本旨を侵さない範囲で法律   で定めうると い う 意 味 を も っ て い る 。.  ②自治体の課税権.    法律をもっても侵しえない自治の核心としての課税権は、原則として税目、課税客体、課税標準、税率、賦課. 一77一.

(8)   徴収に及ぶ。これらの事項について自治体は権能をもつものであって、地方自治法二条三項一二号、二二三条、.   地税法三条、四条三項、五条三項の規定はこの趣旨のものである。課税権は条例という地域住民の代表によって   制定される法規範によって行使されることになる。.  ③自治体の課税権の実態.    地方税は、地方団体の自主財源であるから、地方団体が自主的に課税物件、税率等を決定し得るようにするべ.   きなのだが、現行地方税制においては、法定外独立税について地方団体の選択の余地を認め、法定税目について.   も税率の決定についてある程度の幅を認めているけれども、法定外独立税を起こすに当っては、自治大臣の許可.   が必要であり、税率についても、たばこ消費税、電気ガス税等かなりのものが一定税率とされている。税率につ.   いて地方団体にある程度幅を認めているものも、大部分が制限税率を設けて、税率の上限を抑えている。しかも.   地方税法の非課税によって、地方団体の課税権が奪われているものが少なくないのである。今日の地方税制は、   自主制が著しく制約を受けている。.    地方税の非課税措置等による減収見込額は、昭和四七年度で一、七六一億円、これに国税の租税特別措置にょ.   る減収見込額一、四五八億円を加えると減収見込額の総額は、三、二↓九億円にもなる︵石原他﹁地方財政制   度﹂一八三頁︶。.  ④ 現行地方税制は、憲法の精神に反した方向にあり、とりわけ、地方税法四八九条一項、二項は、憲法の保障す   る自治の核心を奪うものであって違憲といわざるをえないのではないか。. ④ 非課税措置と住民意思.   憲法九二条以下とりわけ九五条は、自治体に適用される法規範が住民自身の意思に合致すべきものであることを.  定めている。電気・ガス税の非課税は、全国的に適用される一般法によるものであるが、実際には、特定地域に. 一78一. 料 資.

(9) 地方税法の非課税措置と地方自治(萩野).   非常に不合理な結果をもたらしており、大牟田市の場合には、明らかに住民意思に合致しない結果となっている。.    このような結果をもたらす立法は、憲法九五条違反ではないとしても少なくともその趣旨に反することは明らか   である。.  ⑤ 自治体相互間の不平等.    憲法九五条は自治体相互問の平等をはかることをも趣旨としている。しかし、電気・ガス税の非課税措置は、自.   治体相互間に大きな不平等を生じさせている。この意味でも九五条の趣旨に反している。. 5故意、過失.   国家賠償法上の国の責任は、国家の自己責任と考えられており、公務員の主観的故意過失ではなく、公務運営にお.  ける客観的蝦疵を要件とするものと解されている。国会の立法行為そのものの理疵を直接の理由として、損害賠償請.  求訴訟の提起が認められた事案はないが、学説としては、国会の立法行為についても違憲立法が制定されたことは、.  その立法に関与した議員全体に過失があったものとして国家の責任を肯定する有力な説が存在する︵古崎慶長﹁国家.  賠償法﹂︶。この説は、具体的には抽象的法令審査権を認めることになるので、学説、判例上少数説の立場であるこ.  とは否定できない。しかし、法律という形式をとりながらその内容が具体的な処分に等しい場合には、より説得力の  ある意味で損害賠償請求訴訟を提起することができるということができるであろう。.   そこで地方税法四八九条一項、二項を制定し、これらの条項が不合理な結果を発生させていることを知りながら、.  改正の努力をせず、立法義務に違反しているということは、国︵公務員︶の故意過失の責任要件を充たしており、損.  害賠償請求訴訟の提起が可能だということができるであろう︵参考、広島高裁四一年五月二日判決・訟月一二・  七・一〇五〇、最判四三年四月一九日訟月︸四・七・七六五︶。. 6 加害行為. 一79一.

(10)   加害行為には、作為、不作為、行為の遅滞の三つを含む。地方税法を制定した行為︵作為︶を加害行為とすること.  は困難であるが、少なくとも上記違法性においてみたようなさまざまな批判が、この制度に向けられているのに、そ.  れを改めるための努力︵法律の改正︶をせず、大牟田市に大きな損害を加えている不作為は加害行為ということがで  きると思われる。行為の遅滞の範聴に含まれるということもできるだろう。 7 損   害.   大牟田市が蒙った二億二、七二五万円の﹁得べかりし利益﹂が、国家賠償法一条にいう損害であるか、は問題であ.  る。本法は公権力の作用によって生じる個人の損害を国家の責任において賠償しようとするものである。大牟田市が.  地方税法四八九条﹃項、二項に制約されないで課税権を行使したならば得るはずであった税収を得られなかったこと.  を損害とするのは、本制度の本来の趣旨とするところではないといわなければならない。しかし、大牟田市の場合、.  電気税の課税額と非課税相当額との比較における非課税歩合が極端に高く、このことは、財政診断で指摘されている.  ように住民生活のための財政需要に大きな影響を与えており、住民に損害を与えている事実を承認せざるをえないの.  である。実質的に考えれば、大牟田市の得べかりし税収が得られなかったことは、住民の損害であって、当事者適格  の有無の間題はとにかく、国賠法上の損害と解し得る余地はあると考える。. 8 国家賠償請求権の主体.   この請求権を自然的基本権と解すると自治体ないしその首長を享有主体とすることに難点がある。しかし、法人も.  性質上の制約を受けない限り、人権の享有主体であるとされており、自治体も人権の享有主体たり得る場合がある。.  憲法一七条の﹁何人も﹂、国賠法一条の﹁他人に﹂の文言には法人も含むと解されるから、地方公共団体もこの請求.  権の享有主体となりうる、ということができる。さらに本件の場合は、実質的には損害を蒙ったのは住民であり、そ.  のために生じた賠償請求権を自治体の首長が代位して訴求するのだという考え方も成り立ち得る。. 一80一. 料 資.

(11) 地方税法の非課税措置と地方自治(萩野).   国家賠償法はもともとは近代的な個人責任主義の思想に基礎を置くもので団体主義的思想にたつ社会的公平負担主義.   の実現を目指すものではなかったが、しかし今日では、被害者の損害填補に重点をおく公平負担の見地から問題を解.   決するものと理解されている。国賠法輔条が民法七輔五条と別個に制定されたのは、民法七一五条によってはカバー.   できない側面をこの規定の適用によって補なおうとしたためである。したがって、本条は団体責任の傾向を最大限に   押し進めたものと指摘されている。.     結   論.  以上論じてきたように大牟田市が国家賠償請求権を取得し得るかどうかについてその要件を細分してそれぞれにつき検. 討するときは、それを積極に解する余地があるということができる。しかし、制度の趣旨からすれば、本条は公権力の担. い手である自治体の国に対する権利を定めたものでなく、非課税分の実質減収額の回復を国家賠償として求めるのには無. 理がある。しかし、以上に述べたような考え方からすれば不可能ではないと考えられる。ただ立法行為を請求権発生の原. 因行為と解して、理論構成するのは、後述の国家補償請求権の理論による方がより自然である。.  ⇔ 損失補償請求権.    ここで損失補償請求権というのは、国の適法な活動によって生じた損失も、輔定の場合には、国が補償しなければ.   ならないという考え方から認められる請求権である、憲法二九条三項や四〇条によって認められる補償請求権をい   うo.    憲法二九条三項によると、私有財産が公共のために用いられ、その所有者が損失を蒙ったときは、正当な補償が必    要である。.    大牟田市の電気税実質減収分につき、国に対して、補償請求ができるためには次の要件を充たす必要がある。   1 電気税実質減収分が﹁私有財産﹂といえるか。. 一81一.

(12)   憲法二九条三項の﹁私有財産﹂は私法上、公法上のあらゆる財産権を含むと解されている。権利以外の利益も法的 保護に値するも の は す べ て 含 ま れ る 。.   大牟田市が課税権を行使することにつき、地方税法四八九条一項、二項の制約がなければ、大牟田市は二億二、七.  二五万円の税収を得ることができたはずである。このような﹁得べかりし利益﹂も﹁私有財産﹂にあたるといってよ  い。. 2 ﹁公共のために﹂用いること。.   ﹁公共のために﹂とは、広く﹁社会全般の福祉を含む広い意味﹂に解されている。非課税措置の根拠として、国民.  経済の配慮すなわち、電気を重要な生産原料とする重要基幹産業に課税することは、生産コストを高め、製品の競争.  力を弱めるので産業の発展を阻害するという理由が掲げられているが、国民経済のために、一定の財産的利益を犠牲  にすることは、 ﹁公共のため﹂に用いることである、といってよい。. 3 公共のために﹁用いる﹂こと。.   ﹁用いる﹂という概念も、広義に解されており、権利の剥奪︵例えば、既存漁業権の消滅、変更、取消その他︶や  強制譲渡なども含むものである。.   課税権の剥奪によって、大牟田市が得べかりし利益を国民経済の発展という国の必要に廻すことは、公共のために  ﹁用いる﹂という要件に該当していると言える。 4 ﹁損失﹂が生じたこと。.   ﹁損失﹂は、消極的なものも含むと解されている。消極的損失とは、権利の行使の自由が制限されることによって生.  ずべき損失、換言すれば、不作為義務を課せられることにょる損失である。大牟田市が法律によって課税権の行使の制.  限という不作為義務を課せられたことによって生じた非課税分の減収は、補償の対象となる損失であるといってよい。. 一82一. 料・. 資.

(13) 地方税法の非課税措置と地方自治(萩野). 5 大牟田市の﹁特別の犠牲﹂と言えるか。.   損失補償は、公平負担の見地から認められるものなので、財産権に制限が加えられても、一般的制限であるかぎり.  負担の均等化のために特別な措置︵補償︶をする必要はないとされている。そこで、大牟田市に補償請求権があると.  言い得るためには、非課税措置という財産権制限が、大牟田市に受忍させることが公平負担の原則に反する場合、つ.  まり、大牟田市が特別の犠牲を蒙っているかどうかにある。特別の犠牲であるかどうかは、形式的標準、実質的標準.  からみて決定される。形式的標準とは、財産権を侵害されているものの数の全体の中における割合、つまり、大牟田.  市のように、多額で高い比率の電気税非課税減収分がある市町村の数が、全市町村の中で、少数であるかどうかとい.  う標準である。提供された資料によると、非課税額が、課税額の三倍から四倍近くになっているのは特殊な例であっ.  て、形式的標準からみて、大牟田市は特別の犠牲を受けていると言い得る。なお形式的標準にあてはまらなくとも、  以下の実質的標準にのみ適合すればよいという説が有力である。.   実質的標準というのは、侵害行為が本質的に強度なものかどうか、換言すれば社会通念上その侵害が財産権に内在.  する制約として承認され得る程度のものかどうか、という標準である。大牟田市の二億二、七二五万円に上る当該非.  課税減収額は、市財政に大きな打撃を与える程度のものであって、実質的標準を充たしていると言い得る。 6 正当な補償.   上記の諸要件を充たす場合には、 ﹁正当な補償﹂を受ける権利が発生する。 ﹁正当な補償﹂とは何を言うかは間題.  である。 ﹁完全な補償﹂を意味するとする説は少数で、 ﹁相当な補償﹂が必要である場合のあることを否定するもの  ではない。.   非課税減収分に対する補償が、完全な補償でなければならないか、相当な補償でよいかは、この損失が、ある程度.  まで社会公共の利益のための共同の負担として各自治体が受忍しなけれぼならないという社会的拘束が認められるも. 一83一.

(14)   のであるかどうかによるであろう。そうしてみると、非課税減収分発生のしくみは、前述の国家賠償請求権の違法性.   要件のところでみたように、はなはだ不合理なものであって、社会公共の利益のために各自治体が負担しなけれぽな.   らない共同負担とは言えないものである。それ故、大牟田市の非課税減収分の二億二、七二五万円は総額補償される   べき金額だと言ってよい。.  7 請求権の主体について.    この損失補償制度も、基本的には、国民が国又は公共団体の行為によって損失を受けた場合の救済制度である。し.   たがって、自治体がその請求権の享有主体となりうるかは疑間なしとしない。しかし、この制度は、損失の社会全体.   の公平負担ということに趣旨があるのであって、自治体に損失補償請求権の主体性を認めることも不合理とは言えな. 一84一.   い。自治体は、公法人として財産権の享有主体性を認められている。.  8 憲法二九条三項の性質.    本件のような場合に自治体が国に対して損失補償請求をなし得ることを定めた特別立法はない。そこで、当該の問.   題で大牟田市が損失補償請求をなし得ると結論づけるためには、個別的具体的立法がなくとも憲法二九条三項から直.   接にかかる請求権が発生すると解することがでぎなければならない。この点については、有力な学説によって、積極   に解されている。.     結    論.  憲法二九条三項に基づく損失補償請求権を大牟田市がもつかどうかという問題も、かなり、困難な問題を伴うが、理論. 以上に述べた国家賠償及び損失補償の類型にあてはめて、 国に対する請求権を構成することがムリと考えられる場. 結果責任に基づく国家補償. 的には、可能であると解し得る。. ㊧. 料 資.

(15) 地方税法の非課税措置と地方自治(萩野). 合には、さらに、結果責任に基づく国家補償請求権の考え方によって理論構成してみることができる。.  結果責任に基づく国家補償というのは、原因行為を違法な行為とみることができないが、結果としては、不法に国. 民に損失を生じさせたと認められる場合に、国に対して賠償の請求をなしうることである。国家賠償が違法な行為に. よって不法な結果︵損害︶を生じた場合の損害賠償の制度であり、損失補償が、適法な行為によって、合法的な結果. ︵損害︶を発生させた場合の損失補償制度であるのに対して、結果責任に基づく国家補償は、適法行為によって不法 な結果︵損害︶が生じた場合の損害補償の制度である。.  この分野は、研究の遅れている分野であって、結果責任に基づく国家補償の観念そのものにも理解のちがいがあ. り、とりわけ違憲立法による損害のような法律行為に関する損害填補については、実例も乏しく、学説の展開にも見 るべきものが少ない。.  しかし、全体の傾向としては、国家活動に基づいて、国民に損害を及ぼした場合には、従来の国家賠償、損失補償. の考え方にとらわれず、社会的公平負担の見地に立って被害者の損害填補という観点から、被害者の救済に欠次がな. いように統一的に体系的に法理論を構成しょうという試みが進んできている。ただ一方では、実務においては、結果. 責任に基づく国家補償の概念を認めず、国家賠償、損失補償によって救済されないものは、例外的に特別立法によっ. て救済されない限り、補償の余地はないものとされる傾向が強く残っているようである。.  しかし、このような谷間の分野についても、国民の生活権保障という具体的要請を媒介にして、さいきんとくに国. 家補償の必要性が説かれるようになったことが指摘されてよい。従来﹁政治的解決﹂ですまされてきたものが、その. 恣意性に対する批判から法的次元で解決されるべきことが、強調されるようになったのである。そこで、国家活動に. よる被害については、全体として填補否定に正当事由がある場合以外は填補されるべぎであるという主張が有力に展 開されるようになっている。. 一85一.

(16)   このような近時の国家補償論の見地からすれば、違憲立法による損害や、経済政策に基づく規制措置による損害の. 如ぎも、損害填補の法的請求権の可能性を否定することができなくなっているといってよいであろう。.   それでは大牟田市が蒙った電気税の非課税減収分を、結果責任に基づく国家補償請求として、国に填補要求するこ.  とはできないだろうか。国家活動によって、不法に国民に生活権侵害的な損害を与え、その損害が、被害者の受忍限. 度を越えていると認められる場合には、大牟田市は、国家補償請求権をもつといってよい。 1 国家活動.   地方税法四八九条一項、二項を制定し、この条項の不合理性が厳しく批判されているのに、法改正の措置をとら.  ず、その結果大牟田市に著しい財政上の損害を与えるという結果をもたらした行為は、作為、不作為の国家活動とし  ての法律行為であるから、この要件を充たしていることは多く論じる必要はない。. 2 結果︵損害︶の不法性.   大牟田市の受けた損害は、提供された資料によると、他の市町村と比較してみた場合にも、又大牟田市の財政収入.  の中における割合からしても、さらには住民生活のための行政需要への影響という点からしても、受忍限度を越えて  おり、不法性の要件を充たしていると言い得る。.   この点については、国家賠償請求権論の﹁4 違法性﹂においてみたような側面からみれば、大牟田市が損失を受.  忍しなければならない理由は全くないと言うことができるのであって、結果︵損害︶の不法性は、明瞭である。. 3 国民の生活権侵害.   この国家補償は、国民の生活権侵害に対する填補の意味をもつので、自治体の租税減収が、この要件を充たすかは.  問題である。今目までの実務では、自治体が租税減収分を国家補償請求権の行使により直接補償を受けるとすること  には、賛成を得る可能性はきわめて低いといわねばならない。. 一86一. 料 資.

(17) 地方税法の非課税措置と地方自治(萩野).   しかし、大牟田市の本件減収は市の税収四九年度見込四四億四、四〇〇万円に比して五・二%と非常に大ぎな割. 合を占めており、住民生活への影響には絶大なものがある。一般に自治体は国家と行政事務を分ち合うが、住民の生. 活配慮は基本的に自治体が負担することになっている。今日、自治体は、国民の生活と人権の保塁であり、侵害者に.  対する抵抗体であると言われている。大牟田市の二億二、七二五万円の減収は、住民の生活権侵害的な意味を濃厚に  もっていると解せられる。. 4 補償請求権の主体.   減収分の性格が住民の生活権侵害的なものであるとしても、大牟田市当局がその填補を請求することは可能かとい.  う問題が残される。3と4の要件は当事者適格ないし訴の利益論の問題として困難な課題である。.   憲法上の争点を提起する当事者適格とは、一般にいえば、まず当事者が、国家行為によってその者の法律上の利益  を侵害されることが要件となる。.   ここで﹁その者﹂には、個人も法人も含むであろうが、公法人を含むかは間題である。法律上の利益の侵害という.  のは、憲法上保障された権利・自由に対する直接かつ特別の侵害でなければならないとされている。大牟田市の非課.  税減収がこれに当るとすることはかなリムリがある。しかし、憲法上保障された権利には財産権を含んでおり、自治. 体も財産権の享有主体であることは明らかで、もし、自治体がこのような権利を保障されなければ、その存立が危く.  なりひいては、住民の人権が保障されなくなることを考慮すると、ここにいう﹁当事者﹂から公法人を排除しなけれ  ばならない理由 は な い 。.   かりに自治体には独自の権利侵害の主張をすることができないとしても、住民の権利侵害を理由に、自治体が填補.  請求権を代位行使することができるのではないか、という問題がある。第三者の憲法上の権利侵害を理由に国家行為.  を攻撃する当事者適格を肯定することがでぎるのは、最高裁の判例ともなっている。そのさい、ある団体が、その加. 一87一.

(18) 盟員の権利を侵害から守るために、訴訟の当事者となることができる、とするのは、今日、多くの支持者を得ている 考え方である︵アメリカでは判例法として確立︶。.   このように解すると大牟田市は、国家補償を法律上請求し得る当事者適格を有すると結論づけることができる。 5 補償の範囲.   填補されるべぎ範囲は、地方交付税によっても填補されない実質減収分である。.   すなわち、電気税の非課税措置は、国民経済的観点からも租税体系の観点からも不合理であるだけでなく、納税義.  務者相互間に合理的でない不平等をもたらし、自治体の課税権を奪って地方自治の本旨を侵しており、住民意思を尊.  重しない立法であり、自治体相互間に不合理な不平等を押しつけている。従って、非課税減収分は、自治体として受.  忍する必要のない損害である。填補されるべき金額は、実質減収分の全額ということになる。 6 適用法規.   特別法が制定されない限り、直接にこの請求権の根拠となる法規は存在しない。法の一般原理を主張するだけで.  は、一般の承認、とりわけ裁判所による承認を得ることは困難である。慣習法として形成されてもいない。本件の如  き例は前例がないので、判例法としても存在するに至っていない。.   しかし、広義の国家補償法の体系を構想する立場︵今日、有力になってきた立場︶からは、憲法、国賠法、民法そ.  の他の実定法を統一的に把握して、補償を受け得ない谷問の部分をなくして行く試みが行われている。この立場から.  すれば、この請求権は、憲法二九条三項、四〇条の類推適用、同一七条や国家賠償法の趣旨の拡張的理解、さらには.  住民の生活権保障規定としての憲法ニニ条、二五条の実質化、類似する事例に適用される特別法の類推解釈、無過失.  責任を肯定する方向で、体系的理解が深められてきている民法不法行為法の規定などに基づいて構成されることにな  るだろう。. 一88一. 料. 資.

(19) 地方税法の非課税措置と地方自治(萩野).     結    論.  以上に考察した三つの類型の中では、ここに述べた補償請求権の考え方が、最も実態にあっていると考える。実際に. は・まだ直接根拠となる法規もなく理論も固まっていない分野なので困難は伴うが、判例法の前進が期待できないわけで はないと考える。.  四 民法に基づく損害賠償請求権.    国家賠償法の適用を受けない分野においては民法の不法行為法の規定が適用されることになる。国賠法と民法と.   は・特別法と一般法の関係にあるので、まず国賠法が適用され、それが適用されない場合に民法が適用されることに   なるのである。.    国賠法が適用されるためには、公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、他人に損害を加えた場合.   であることが必要である。もし、この要件を充たさないとしたら、民法によるほかない。.    しかし・民法の適用に関しては、国賠法と民法の異質性を主張する立場から国賠法四条の規定は、国賠法一条の事.   項には適用がなく・ただ・賠償の範囲、相殺、時効等の国賠法に規定がない事項についてのみ民法を適用する趣旨だ.   とする説がある。多数説は、これとは異なり、国賠法四条の趣旨は、同法一条の適用事項についても補充規定として   民法が適用されるという趣旨だと解している。判例もそうである。.    公権力の行使の概念については、狭義説から最広義説まで種々あるので、立場によっては、大牟田市に損害を与え.   た国家行為を・国賠法一条に当らぬという解釈になる。そこで、この場合には、民法の適用を考慮することになる。   民法の規定としては、七一五条によることになる。.    同条は﹁或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ使用者力其事業ノ執行二付キ第三者二加ヘタル損害ヲ賠償スル責二任   ス﹂と規定している。. 一89一.

(20) 資.  本条は、﹁公権力の行使﹂を要件とせず、無過失責任を使用者︵国︶に認めていこうとするものであるが、次の要 件を充たしている必要がある。. 1 或事業に他人を使用する場合であること。.   ﹁事業﹂とは広く解されているので、本件の場合、さして間題はない。﹁他人﹂は前述の﹁公務員﹂と同義にな  ろう。. 2 被用者が第三者に損害を加えたこと。.   ﹁被用者﹂はいうまでもなく、前記の﹁公務員﹂である。.   大牟田市は、財産権を享有し得る法人であるから、国家からみて﹁第三者﹂である。損害は、積極、消極両方の.  意味をもっているから、国が大牟田市の課税権を侵害して、得べかりし利益を剥奪したことは、ここにいう損害に  当るといってよ い 。. 3 被用者の故意・過失を必要とする。.   地方税法四八九条一項、二項を制定し︵作為︶、その後批判のある同条項を改正せず︵不作為︶、そのことによ.  って大牟田市に損害を加えたことを当該公務員が認識していたことは否定できない事実であろう。一応責任要件を. 充たしていると言える。しかし、ここでの故意・過失は、国賠法におけるそれよりも厳密な立証を要することにな  ることを留意する必要がある。. 4 違法 性.   地方税法四八九条一項、二項を制定して、自治体に財産上の損害を与えている行為は、前にも考察したように、.  自治体の課税権を侵しており︵憲九二、九四違反︶、納税義務者間の平等原則を侵しており︵憲一四違反︶、住民.  意思の尊重に欠けるところがあり︵憲九五の趣旨背反︶、自治体相互間に不平等を生じさせている︵憲九五趣旨違. 一90一.

(21) 地方税法の非課税措置と地方自治(萩野).    反︶のであって、違法な行為であって、権利侵害の要件を充たしている。しかし、国賠法より厳格な立証を要す    るQ.   5 因果関係については論じるまでもなく肯定し得る。.   6 民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権は、公法人もその享有主体となりうることは明らかである。.     結    論.  民法上の不法行為概念は、国賠法のそれよりも厳格に定められているので、立証上困難を伴うことが予想されるが、他. の請求権に比べて・特別の要件が要求されないこと、とくに権利の享有主体性の点で問題がない点で、すぐれていると二一、。. えよう。しかし、立証上の困難が伴うので、必ずしも有利な請求原因ではないといわなければならない。. 一91一.

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