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<研究ノート>被差別部落女性が「まちづくり」運動に果たしてきた役割に関する一考察

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Academic year: 2021

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(1)●研究ノー ト. 被差 別 部 落女 性 が 「ま ちづ く り」 運 動 に 果 た して きた役 割 に関す る一 考 察. 近 畿 大 学 人権 問題 研 究所 講 師 1.は. 熊本. 理抄. じめ に. 昨 今 の 部 落解 放 運 動 に お け る 「人 権 の ま ち づ く り」 運 動 で は、 「『つ な が り』 と 『 排 除』 を 内包 して き た個 別 共 同体 が 、『 排 除 の 論 理 』 を 克服 して 『つ なが りの 論 理』 を継 承 して い くな らば 、 地 域 共 同 体 内 部 の 『温 も り』 を 回復 し、個 別共 同体 を越 え た 『 人 と人 との 豊 か なつ なが り』 を作 り出 して い くに違 い あ りませ ん 」*1と の 思 い が 打 ち 出 され て い る。 「今 日的 な 『つ なが り』 の 再 構 築 を 図 り、 全 て の 人 々 を孤 独 や 孤 立 、 排 除 や 摩擦 か ら援 護 し、健 康 で 文化 的 な 生 活 の 実現 につ な げ る よ う、 社 会 の 構 成 員 と して 包 み 支 え 合 う(ソ ー シ ャル ・イ ンク ル ー ジ ョ ン)た め の社 会 福 祉 を 模 索 す る必 要 が あ る 」*2と の 理 念 に 立 っ た社 会 政 策 の あ り方 も注 目 され て い る。 本稿 で は、 「ま ちづ く り」、 「部 落 解 放 運 動 」、 「女性 解 放 運 動 」 の1970年. 代以降の. 特 徴 的 な 経 緯 を 見 て い きな が ら、被 差 別部 落女 性 が 果 た して き た 「ま ちづ く り」 運 動 に お け る役 割 とそ の 意 義 を考 察 す る。. 2.]970年. 代以 降 の. 「ま ち づ く り」 「部 落 解 放 運 動 」 「女 性 解 放 運 動 」. の特徴 的な経 緯 田村 明 は、 日本 にお け る 戦 前 の 都 市 計 画 思 想 と し て、(1)帝 都 思 想 、(2)都 市 軽 視 の思 想 、(3)タ テ割 りの思 想 、(4)街路優 先 の思 想 、(5)住 宅軽 視 の思 想 、(6)お 上 の 思 想 、(7)画 一 化 の 思 想 、(8)量 優 先 の思 想 、(9)田 園 都 市 の 思 想 、 の9点 を紹 介 して い る*3。 戦 後 は、 戦 前 の富 国 強 兵 ・殖 産 興 業 を柱 とす る都 市 計 画 思想 を継 承 しつつ も、 産 一95一.

(2) ㌧. 人権問題研究所紀要. 第20号. 業 基 盤 整 備 へ と傾斜 して い く中 で、 量 と しての 住 宅 が 供 給 され 、 都 市 部 に労 働 者 が 吸 収 され て い っ た。 そ して 、1970年 代 に は 、 高 度 経 済 成 長 の 功 罪 の 下 で の 「まち づ く り」 が 模 索 され て い くこ とに な る。 主 流 は行 政 主 導 に よ る職 住 分 離 の 「ニ ュ ー タ ウ ン構 想 」 等 で あ るが 、 そ れ は 同時 に、 住 民 主 導 ・住 民 参 加 の 動 き な どの 「まち づ く り」 運 動 も台 頭 させ て い くこ とに な る。 田村 は、 「『ま ちづ く り』 とは、 一 定 の地 域 に住 む 人 び とが 、 自分 た ちの 生 活 を支 え、 便 利 に、 よ り人 間 ら し く生活 して ゆ くた め の共 同 の場 を如 何 につ くるか とい う こ とで あ る 。 そ の 共 同 の 場 こそ が 『まち』 で あ る。(中 略)市 民 の 一 人 ひ と りが 自 由 で豊 か に生 活 で き るか 否 か は 、 この共 同 の場 で あ る 『ま ち』 が で きて い るか ど う か、 にか か って い る」 と著 して い る*4。 1970年 代 は、 高 度 経 済 成 長 が 、 物 質 的 な 豊 か さ と同 時 に もた ら した 社 会 的 矛 盾 や ひず み に対 す る、 障 害 者 運動 、在 日 コ リア ン運 動 、 ア イ ヌ民 族 運 動 、 反 公 害 住 民 運 動 、 沖 縄 反 基 地 運 動 、 反 戦 ・平 和 運 動 等 々が 台頭 し、 マ イ ノ リテ ィの 運 動 や 市 民 運 動 が 高 揚 して くる時 期 で もあ っ た 。 部 落解 放 運動 に お い て は 、1965年 の 同 和 対 策 審 議 会 答 申、 及 び1969年 策事 業特 別 措 置 法(以 下 、 「特 措 法 」 と略 す)を 総 合 計 画 」 運 動 が1970年. の同和対. 法 的 根 拠 と しなが らの 「部 落 解 放. 代 半 ば よ り本 格 的 に 進 展 して い く。 低 位 劣 悪 な 生 活 環 境. 改 善 を 中心 に した 「にん げん の まち 」 づ く りへ の模 索 の始 ま りで あ る。 一 方 、 女 性 解 放 運 動 にお い て は 、1960年 代 後 半 以 降 の米 国 を中 心 とす る ウー マ ン ・リブ の影 響 を受 けた 第 二 派 フ ェ ミニ ズ ム が1970年. 代 に 日本 にお い て も登 場 し、. い くつ か の潮 流 に分 か れ て の 議 論 が 始 め られ て い く。 この よ う に、 「まち づ く り」、 「部 落 解 放 運 動 」、 「女 性 解 放 運 動 」 が 、 個 別 にで は あ る が 、1970年 代 を一 つ の 転 機 と して 、 社 会 矛 盾 に対 す る す る ど い告 発 とい う形 を持 っ た独 自的進 展 を見 せ て きた の で あ る。 1970年 代 は 、 直裁 的 な不 利 益 ・不 平 等 ・不 公 平 に 対 す る告 発 が 主 た る運 動 で あ っ た が 、1980年 代 に入 る と、 各 運 動 は さ ら に深 め られ て、 そ う した 問 題 が 生 じる背 一96一. て暇t・ 慧.

(3) 被 差 別 部 落 女 性 が 「まち づ く り」 運 動 に 果 た して きた役 割 に 関す る一 考 察. 後 にあ る個 人、 家 庭 、 地 域 社 会 、 国 家 な どの 、 そ れ ぞ れ の 関係 性 を 問 う模 索 が始 ま る。 ま ちづ く り運 動 にお い て は、1970年 代 ま で に進 め られ て きた 、 行 政 主 導 の 画 一 的 なハ ー ド中心 の まち づ く りに対 す る 限界 が 見 え始 め て い た。 そ の と き に、 「① 人 間 環境 の 思想 、② 市 民 自治 の 思想 、③ 総 合 的 主 体 性 の 思 想 、④ 地 域 個 性 確 立 の思 想 、 ⑤ 継 続 的創 造 性 の 思 想 、 ⑥ 実 践 の 思 想 」*5が 重 視 さ れ る 方 向 性 が 打 ち 出 さ れ て く る。 つ ま り、 地 方 自 治 で あ り、 市 民 自治 で あ り、 人 間 を基 軸 に した 「まち づ く り」 へ と、 問題 意 識 の転 換 が 始 ま っ た とい う こ とで あ る。 部 落 解 放 運 動 にお い て は、1980年 代 半 ば 以 降 、 特 措 法 に基 づ く同和 行 政 の 限 界 や 功 罪 に 関 わ る問 題 を克 服 しよ う との 試 行 錯 誤 が 始 まっ て い た。1985年 以 降 、 部 落 解 放 基 本 法 制 定運 動 が進 め られ、さ ら に、1990年 代 には 、地 方 自治体 にお け る 「条 例 ・宣 言 」 制 定 運動 が 開始 され た。 同時 に、 特 措 法 時 代 の 同 和 行 政 が 、 「地 域 内 の温 も りや つ なが り」 を希 薄 化 させ た こ とへ の危 機 意 識 か ら、 「地 域 内 の 温 も りや つ な が り」 再 生 へ の 問題 意 識 が 高 ま る こ と に な る。 女 性 解 放 運動 に お い て も、これ まで の 運 動 を踏 襲 しつ つ 、直接 的 な告 発 を超 え て 、 社 会体 制 や社 会構 造 、社 会 関係 の あ らゆ る分 野 に い た る力 関係 の不 均 衡 を読 み 解 く な ど、 論 争 が さ らに盛 ん に行 わ れ る よ う に な っ て い た。 また 、1980年 代 は 、 法 制 化 な ど を通 して 、社 会 シス テ ム の 中 に、 差 別 構 造 を是 正 す る制 度 を組 み 込 み 始 め た 時 期 で もあ っ た。 この よ うに 、個 別 に で は あ るが 、1970年 代 にそ れ ぞ れ独 自の進 展 を見 せ て きた3 つ の 運 動 が1980年. 代 半 ば 頃 か ら、 「に ん げ ん」 や 「つ なが り」 を基 軸 に して 運 動 を. 総 括 し、新 た な展 望 を 開 こ う とす る志 向性 を持 つ とい う共 通 の特 徴 を持 って い た点 に留 意 した い。. _g7_.

(4) 人権問題研究所紀要. 3.被. 第20号. 差別 部落 女性 が. 「ま ち づ く り」 運 動 に 果 た し て き た 役 割. で は、1970年 代 か ら1980年 代 に か け て、 被 差 別 部 落女 性 た ち は 、 どの よ うな 思 想 を持 ち 、 どの よ うな実 践 を展 開 して い た の で あ ろ うか 。 国 連 レベ ル で は、「国際 婦 人 年(1975年)」 や 「国連 婦 人 の10年(1976年 の 設 定、 女 性 差 別 撤 廃 条 約 の 採 択(1979年)、. ∼1985年)」. そ して 、1975年 、1980年 、1985年. と3度 にわ た る世 界 女 性 会 議 の開 催 な どの取 り組 み が進 め られ て い た。 様 々 な レベ ル にお け る、 女性 の地 位 向上 と権 利 保 障 、 女性 差 別撤 廃 を 目指 す 女 性 解 放 運 動 の 国 際 的 な うね りが 日本 の女 性 た ち に も影 響 し、こ の時 期 、被 差 別 部 落 女 性 た ち も また 、 「女性 と して の」権 利 に 目覚 め、一 般 地 区 の 女性 た ち との共 同 闘争 を展 開 させ て い っ た。 1970年 代 以 降 に は、 同 和 対 策 事 業 も本 格 的 に展 開 され る よ うに な っ て い た た め 、 被 差 別 部 落 女性 た ち も部 落 解 放 運 動 に積 極 的 に 参加 し、幅 広 い実 践 を行 っ て い た。 以 下 、1970年 代 か ら1980年 代 に展 開 され た被 差 別 部 落 女 性 に よ る 「地 域 共 同 体 」 を基 盤 に した 闘 い の特 徴 を見 てい くこ と にす る 。. (1)部. 落産 業 や 農 業 の 共 同 化 ・協 業 化. 部 落 産 業 は、 「人 聞が 生 き るた め の 重 要 な 産 業 」*6で あ り、 「部 落 とい う共 同体 を 構 成 す る物 質 的基 盤 とな っ て い る もの」 で あ り、 「部 落 全 体 の 、 地 域 ぐるみ の生 存 権 の 保 障 の 問題 と して確 立 せ られ な け れ ば な らない 」*7も の で あ る 、 と規 定 され て い た 。 しか し、戦 後 の 資本 主 義 経 済 は、 被 差 別 部 落 の 生 活 を支 え て きた 部 落 産 業 に 大 きな打 撃 を与 え 、 部 落 産 業 を壊 滅 の 危 機 に追 い や っ て い っ た。 「二 重 構 造 」 とい わ れ る構 造 的特 質 を もつ 産 業 ・資 本 ・経 済 ・開 発 シス テ ム の 申 で駆 逐 され て い く部 落 産 業 は、 近代 化 ・合 理 化 の名 の 下 で 崩 壊 の 一 途 をた ど り、 そ れ は同 時 に、 部 落 の 生 活 を維 持 して い る生 活 様 式 や 生 活 基 盤 の 崩 壊 を もた ら した 。 部 落 産 業 と は、 代 表 的 な も の と して は、 竹 串 ・竹 籠 ・桧 笠 製 造 、 縫 製 業 、 建 設 ・ 土 木 業 、 運 送 業 、 毛 皮 革 や 食 肉産 業 、 瓦 、 潰 物 、 人造 真 珠 、 ヘ ップ サ ン ダ ル ・靴 ・ ・・.

(5) 被 差 別 部 落 女性 が 「まちづ く り」 運動 に果 た して き た役 割 に関 す る一 考 察. ス リ ッパ 、園芸 、再 生 資 源 、鼻 緒 、三 味線 、太鼓 等 が あ げ られ る。 被 差 別 部 落 の 人 々 に とっ ての 部 落 産 業 と は、 こ う した 「伝 統 産 業 に か ぎる の で な く、 被 差 別 部 落 民 が 生 活 を維 持 す るた め に営 ん で い る す べ て の 産 業 を さす もの と理 解 」*8さ れ て い た。 そ の部 落 産 業 の 改 善 と被 差 別 部 落 女性 の仕 事 保 障 の両 方 を 目的 と して、 当時 、 部 落 産 業 の 共 同 化 ・協 業 化 を進 め る た め の 共 同 作 業 所(場)建. 設 を求 め る取 り組 み が 、. 積 極 的 に推 進 され て い った 。 共 同作 業 所 と は、 「行 政 責 任 で 部 落 住 民 に仕 事 を保 障 し、 部 落 住 民 の 生 活 を高 め 、 部 落 を解 放 す る 目的 で 、 国 ・県 か ら多 くの 補助 金 を も らっ て 、市 町村 が 同和 対 策 事 業 の一 つ と して 設 置 」*9し た もの で あ る。 生 活 保 護 の受 給 率 が 高 く、 労 働 省 か ら も失 業 者 供 給 指 定 地 区 と され て い た 高 知 県 に お い て は、 「1966年 は じめ ご ろ よ り、 県 下17ヶ 所 に共 同 作 業 所 が 設 置 さ れ 、 縫 製 加 工 業 者 に事 業 を委 託 して 部 落 婦 人 を就 労 させ 、 操 業 を は じめ 」*10て い た 。 1969年 夏 頃 か ら は、 県 下 の 各 共 同作 業 所 で労 働 組 合 が 結 成 され 、 賃 金 や 年 末 手 当 の引 き上 げ 、 生 理 休 暇 や 産前 産 後 の 有 給休 暇 、休 憩 時 間延 長 や勤 勉 手 当 な どを獲 得 して い っ た。 こ う した 動 き は、 部 落外 地 域 の 零 細 企 業 の労 働 者 た ち を刺 激 し、 「一 般 婦 人 の 賃 上 げ の 足場 をつ くる こ と に役 立 っ た 」*ll。 共 同作 業所 は 、 全 国 各 地 に設 置 され て い き、 縫 製 の み な らず 、 食 肉、 再 生 資 源 、 民 芸 玩 具 、 グ ロー ブ 、 か ば ん 、 ベ ル ト、靴 、 園 芸 な どの 部 落 産業 の共 同化 ・協 業 化 が 進 め られ て い った 。 奈 良 で は、 共 同作 業 所 を、 「① 部 落 解 放 の と りで とす る、 ② そ こ を拠 点 と して 仕 事 保 障 の場 をつ くっ て い く、 ③ 共 同 で作 業 をす る こ とで 、仲 間作 りを し、 同一 労 働 同 一 賃 金 とす る、 ④ 行 政 に頼 らず 運 営 して い くこ とを め ざす 」*12と 位 置 づ け る こ と に よ って 、 運営 が 困難 に な っ て い く作 業 所 の再 建 に取 り組 ん だ。 個 人 の み な らず 、家 族 や地 域 共 同体 の生 活_ryaroの確 立 と、 地 域 共 同体 にお け る相 互扶 助 に よる仕 事 保 障 、地 域 に お け る 産業 や 企 業 の保 護 と育 成 な どの意 義 を持 つ も の と して 、 共 同作 業 所 に は、 大 い な る期 待 が か け られ て い たが 、 残 念 なが ら、 共 同. ・・.

(6) 人権 問題研究所紀要. 第20号. 作 業 所 は、 ほ とん ど成 功 を収 め な か っ た。 そ の原 因 と して は、 共 同 作 業所 が 、福 祉 対 策 と して位 置 づ け られ て 、 厚 生 省 の 管 轄 と され た ため 、 仕 事 保 障 対 策 と して の位 置 づ けが 労 働 省 に はな か っ た こ と、 設 置 に 関す る保 障 は国 か ら得 られ た が 、作 業 所 の運 営 や 販 路 開 拓 に対 す る 保 障 、 及 び情 報 収 集 能 力 や 企 業 経 営 能 力 を 育 て る 人材 育 成 へ の保 障 が なか っ た こ と、 さ らに 、 被 差 別 部 落 住 民 が 相 互 扶助 と行 政 依存 か ら脱 却 で きず 、 個 々人 が 労 働 に 対 す る責任 と 自覚 を持 て る よ うに な る た め の取 り組 み が 十分 に な され なか っ た こ と、 な どが あ げ られ て い る。 仕 事 保 障 にお け る 人 材 育 成 、 公 的 責任 の 追 及 と行 政 依 存 との 関 連性 、 タテ 割 行 政 の 弊 害 、 自助 と共助 の 関係 な ど、 今後 の 「人権 の ま ちづ く り」 運動 に お い て 、 教 訓 と した い 点 で あ る 。 成 功 に は至 らな か った が 、 「共 同 作 業 場 は、 自分 た ち の教 育 の場 で あ り、 解 放 運 動 の 中 心 的 な場 で あ り、子 供 た ち の教 育 をす るた め に働 く場 で あ り、 家庭 の経 済 の 足 しに す る場 で あ り、婦 人 の仕 事 保 障 の 場 で あ る。 部 落 解 放 運動 の た め の解 放 セ ン ター 的 な役 割 を果 た す 場 で あ る 」*13と い う位 置 づ け が な され て い た こ と は、 共 同 作 業所 が 地域 に お け る共 同化 ・協 業 化 に よ る生 活 基 盤 の確 立 を 目指 して い た もの と して 、 重 要 な 意義 を含 ん で い た と考 え られ る。 また 、 当 時 、 農村 部 落 で も、 共 同 化 ・協 業 化 の 動 きが起 こ っ て い た。 全 国 の被 差 別 部 落 の80%が. 農 漁 村 に存 在 して い る が 、1970年 代 の 農村 部 落 の 生 活 実 態 につ い. て は 、 次 の よ う に記 さ れ て い る 。 「農 業 の 経営 規 模 に お い て 零 細 で あ り、 山 聞部 で は 、傾 斜 地 利 用 の わず か の 農 地 に しが み つ い て い る 。 農村 に住 み なが ら、 農業 所 得 に よ っ て生 活 を支 えて い る農 家 は、 きわ め て 少 数 で あ る。 大 部 分 の部 落 農民 は、 劣 悪 な 条 件 の も とで 、 兼 業 農 家 を しい られ て い る 。 農 業 所 得 以 外 の収 入 を求 め て 働 き、 不 安 定 な就 業 状 況 の も とで よ うや く生 活 を 支 え て い る のが 実 態 で あ る。(中 略) …最 近 にお け る貧 農 切 り捨 て 政 策 と農 業 の 近 代化 な どに よ っ て、 これ ら の仕 事 す ら 周 囲 か ら奪 わ れ 、 と りわ け 長 び く構 造 不 況 に よる倒 産 と合 理 化 は、 圧 倒 的 に部 落 の 一100一.

(7) 被 差 別 部 落 女 性 が 「ま ちづ く り」 運 動 に果 た して きた 役 割 に 関す る一 考 察. 労働 者 を 失業 に追 い や り、 ます ます 農 村 部 落 の失 業 者 群 は増 大 しつ つ あ る 。(中 略) こ う した状 況 に た い し、 政 府 の農 漁 村 『同和 』 対 策 事 業 は① 基 盤 整 備 事 業② 農機 具 や 施 設 の 導 入 の み で あ り、根 本 的 な施 策 は打 ち 出 され て い ない 」*14。 こ う した状 況 を打 開す る た め に、米 、青 果 、茶 、海 草 や 茸 、漬 物 な どの 製造 ・加 工 ・ 販 売 の 共 同化 ・協 業 化 が 、 各地 域 の実 状 にお い て進 め られ て い た。 た と え ば、 京都 で の 「婦 人漬 物 グ ル ー プ 」発 足 や、 東 京 で の 「荒 川 なす 生 産 組 合 」 の 発 足 な どが あ げ られ る。 「零 細 農 家 の 協 業 化 ・共 同 化 、 ま た花 卉 栽培 、 複 合 経 営 、 養 殖 事 業 な ど を と りい れ 、地 域 の実 態 に即 した暮 ら しの 道 を切 りひ ら く闘 い 」*15が進 め られ 、「部 落 農 家 の マ イ ナ ス 面 とい わ れ る 点 を逆 手 に と り、少 量 多 品 目生 産 の有 機 農 業 、 外 部 資 金 に あ ま り依 存 しな い、 共 同 体 を大 事 に す る農 業 」*16の あ り方 が 提 起 され て い た。 環 境 と健 康 に 配慮 した 持 続 可 能 な 農業 を追 求 す る 中 で 、 日本 の 農 業 の あ り方 や 、 「職 と食 」、 「環 境 と暮 ら し」 の つ なが りを見 直 す 必 要性 を訴 え て い く よ うに な る。. (2)自. らの社 会的 立場 や 権利 の 自覚 ・意 識化 か ら組 織 化 に よる権 利保 障 の取 り組 みへ. 被 差 別 部 落 住 民 の 要 求 を掘 り起 こ して い くた め に実 施 され た実 態 調 査 に基 づ い て 、 各 地域 の 実状 と要 求 別 に応 じた仕 事 保 障要 求 者 組 合 が 結 成 さ れ て い っ た。 仕 事 保 障 要 求 者組 合 は 、 「個 人 給 付 の 多 い社 会 保 障 の 闘 い は、 と もす れ ば 要 求者 同志 に、 断 面 を作 る恐 れ が あ り、 そ れ は 、要 求 の実 現 を、 こ わす もの とな ります 。 で あ るが ゆ え に 、要 求 者組 合 の確 立 が重 要 」*17で あ る、 との 意 義 を持 って い た 。 後述 す る よ うに 、 マ イ ノ リテ ィ当事 者 運 動 や 人権 運 動 が 、 対 立 や 敵 対 状 況 な ど に よっ て もた ら され る分 断 を 回避 す る た め に は、 地 域 で生 じる課 題 を 自 らの 手 で 掘 り 起 こす 中 で 、 共 通 の課 題 を設 定 し、 課 題 解 決 の た め の 組 織 化 や ネ ッ トワー ク化 を 図 っ て い くこ とが必 要 で あ る との認 識 を深 め て い く際 に参 考 とな る取 り組 み で あ ろ う。 被 差 別 部 落 女 性 た ち が 自分 た ちの 社 会 的立 場 や 権 利 を 自覚 し意 識 化 して い く と、 一101一.

(8) .ご・:r. 人権 問題研究所紀要. 第20号. 彼 女 た ち の取 り組 み は、 仕 事 保 障 と さ ま ざ ま な分 野 と をつ な げ る横 断 的 な組 織 化 の 動 きへ と発 展 して い くよ う に な る。 大 阪 で は、 部 落解 放 同盟 大 阪 府 連 合 会 を中 心 に労 働 組 合 や さ ま ざ まな 団体 が結 集 して 、1975年 、 「い の ち と く ら し を守 る 会 」 が 結 成 さ れ る 。 「こ の 会 は全 て の 抑 圧 され た 人 々 の生 活 と権 利 を守 っ て ゆ くこ と を 目的 に 、社 会 保 障 の対 行 政 交 渉 、 生 活 保 護 者 の手 続 に 関す る相 談 、住 宅 ・就 労 の 相 談 、ね た き り老 人 をは じめ とす る問 題 、 年 金 ・健 康 保 険 、 難 病 対 策 、 教 育 問 題 等 を細 か く取 り上 げ て地 域 で の一 定 の 闘 い を す る なか で 、 社 会 保 障 の 完 全 実 施 をめ ざ し全 国 的 に広 げ て 国 の制 度 の改 革 にせ まろ う とす る もの で 、 解 放 同 盟 が 先 進 的 な役 割 を果 た して」*18い た 。 「い の ち と く ら しを守 る 会 」 は、 義 務 教 育 就 学 援 助 金 の 受 給 、 国民 健 康 保 険 料 や 市 民 税 の 減 免 、 そ の 他 、 既 存 の福 祉 制 度 や教 育 制 度 の充 実 、 地 域 改 善 な どで 成 果 を あ げて い った 。 そ の 他 、 「妊 産 婦 を守 る 会 」 の 結 成 に よ っ て、 子 ど も と母 親 の 命 や 身体 に 関 す る 学 習 会 の 開催 や 巡 回 訪 問 指 導 ・ 診 察 、妊 産 婦 対 策 費 な どが保 障 され る よ うに な っ た 。 さ ら に、 「保 育 を守 る会 」 も結 成 され 、 保 育 労 働 者 の労 働 条件 の 改 善 や 公 営 保 育 所 の建 設 や保 育 料 減免 な どを勝 ち取 っ て い っ た。 こ う して 、被 差 別部 落女 性 の仕 事 保 障要 求 闘争 は、 子 ど も と母 親 の 健 康 保 障 や 就 学 前 教 育 保 障 の要 求 、 さ ら に は、 労 働 者 全 体 の仕 事 保 障 要 求 へ と発 展 して い っ た。 また、 権 利 要 求 の た め の組 織 化 を 図 り、 組 織 に よ る要 求 闘 争 を実 現 して い くこ と に よっ て、 個 人が 抱 え る 問題 を社 会 問題 と して 提 起 して い く中 で 、 新 しい 基 準 を作 り 出 して い っ た の であ る。 「個 人 的 な こ とは 政 治 的 な こ と」 とい う女 性 解 放 運 動 の ス ロー ガ ンを、 日常 生 活 レベ ルで 実 現 してい っ た成 果 で あ る。. (3)自. らが 直 面 して い る現 実 と社 会構 造 や 歴 史 と の 関係 性 に関 す る認 識 の 深 ま り. 「女性 差 別 の 構 造 と部 落 差 別 の 構 造 は似 て い る。 女 性 に対 す る賃 金 差 別 の 闘 い を 一102一.

(9) 被 差 別 部 落 女 性 が 「ま ちづ く り」 運 動 に果 た して きた 役 割 に 関 す る 一 考 察. 考 えて み る と、差 別 して よ り男 よ り低 い 賃 金 に した 分 、企 業 が も うか る とい う こ と。 そ して 男 と女 を分 裂 させ 、 男 に優 越 感 を もたせ て、 自分 も搾 取 され 支 配 され て い る こ と を忘 れ させ る」*19と い う被 差 別 部 落 女 性 の 発 言 の よ うに、 部 落 解 放 運 動 へ の 積 極 的 な参加 や 、女 性 解 放 運 動 との 共 同 闘 争 に よ って 、自 らが 直 面 して い る現 実 と、 女性 差 別 や 部 落 差 別 を生 み 出 し、 そ して そ れ らを支 え続 け る社 会 構 造 との 関 係性 を 読 み 解 く力 も深 ま りを見 せ て い く。 こ う した 認 識 が 深 ま る中 で 、 「一 般 対 策 の 拡 充 も我 々 に と って 重 要 な もの で あ り ます 。 この 社 会保 障 制 度 の拡 大 の た め に は 、 同 じ要 求 を もつ 一 般 地 区 住 民 との 共 同 闘 争 の組 織 化 が 必 要 で あ ります 」*20と の認 識 の 上 に立 っ た 共 同 闘 争 に よ っ て 、 既 存 の 基 準 の 改 善 ・拡 充 ・整 備 と新 た な人 権 基 準 づ く りが 展 開 され て い くよ うに な る。 た と え ば、 大 阪 を中心 に展 開 され た最 低 賃 金 闘争 で は、 低 賃 金 ・未 組 織 労 働 者 を運 動 の 基礎 にす え て 、 女性 団体 な ど と 「家 内労 働 対 策委 員 会 」 を結 成 し、 内 職 工 賃 引 き上 げ の 署 名 活動 や 内職 者 の実 態 調 査 を行 い 、最 低 工 賃 の設 定 と労 働 条 件 改 善 の 闘 い が 進 め られ て い っ た。 生 活 保 護 費 の 男女 差 是 正 を求 め る取 り組 み も展 開 され て い っ た。 生 活 保 護 費 に つ い て は、 「30数年 来、 カロ リー摂 取 量 の 男 女 差 とい う名 目の上 に女 性 差 別 が残 され て 」*21おり、「15歳以上 に な る と、2,800円 ∼3,000円. の 格 差 」*22がつ け られ て い た。. こ う した実 態 が 、1977年 の 部 落解 放 同 盟 全 国 婦 人活 動 者 会 議 にお い て提 起 さ れ る と、厚 生 省 交 渉 な どが進 め られ る よ う に な り*23、そ の 結 果 、1985年 に生 活 保 護 の 男 女基 準 差 は完 全 に撤 廃 され た。 被 差 別 部 落 女 性 が 、 自 らが 置 か れ て い る 社 会 的 立場 を 自覚 し意 識 化 して い く中 で、 自 らが直 面 す る課 題 とそ の 背 景 にあ る政 治 的 経 済 的 構 造 と、 部 落外 の 女性 た ち が抱 え る課 題 や そ れ を生 み だ し支 え る社 会 の 仕 組 み に は共 通 点 が あ る こ とに気 づ い て い っ た。 そ の 契 機 と な っ た の が 、1975年 の 「国 際 婦 人 年 」 で あ り、 そ の 後 、 部 落解 放 運 動 と女 性 解 放 運 動 が 協 働 して 、 共 通 の 課 題 解 決 に向 け た取 り組 み が進 め ら れ て い っ た こ とは重 要 な点 で あ る。 一103一.

(10) 人権問題研 究所紀要. (4)生. 第20号. 活 の 中 に現 れ る具体 的 ・個 別 的 ・複 合 的 課 題 の 解 決. 1970年 代 か ら1980年 代 にか け て、 被 差 別 部 落 女 性 の就 労 実 態 や 健 康 状 態 に 関す る実態 調 査 が 、 自 らの 手 で 、 あ る い は 行 政 に要 求 す る 中 で 、 次 々 と実現 され る よ う にな る。 そ の後 は、 全 国 各 地 で 行 わ れ た 実態 調 査 を使 い な が ら、 地域 の現 状 に あ っ た 政 策実 施 を行 政 に対 して 要 求 す る よ うに な っ て い っ た。 「被 保 護 世 帯 に 集 中 的 に表 れ て い る今 日の福 祉 行 政 の 矛 盾 を 明 らか に し、 身 障 対 策 、 児童 対 策 、 老 人 対 策 、 母 子 対 策 、 妊 産婦 対 策 な ど、今 日の行 政 の も とで ば らば らに進 め られ てい る諸 施 策 を総 点検 し、 部 落解 放 を め ざす 総 合 的 な福 祉 行 政 を確 立 させ る具 体 的 な政 策 と運 動 の 形 成 」棚 の必 要性 が 訴 え られ る な ど、 対 象 者 ご と の 個 別 タテ割 りに よ る行 政 対 策 の 問題 点 と、総 合 的 かつ 横 断 的 な社 会 福 祉 行 政 の必 要 性 と重 要 性 につ い て の 指 摘 は 注 目に値 す る。 「『 厚 生 省 は婦 人』 とい う枠 か ら一 歩 出 て、 労働 省、 文 部省 、 法務 省 な ど、他 の省 に も婦 人の声 を反 映 させ る ことが課 題 」*25 で あ る、 と認 識 され る よ うに な っ て い っ た。 環 境 改 善 中 心 で あ った 同和 対 策事 業 を、 社 会 保 障 、 識 字 教 育 ・ 教 育 ・保 育 、 医療 ・ 保 健 な どの 問 題 も含 め て 、 生 活 の 中 に現 れ る具 体 的 ・個 別 的 ・複 合 的 な課 題 を解 決 す る た め に 、 「生 活 闘争 」 と して 展 開 し、 総 合 的 に把 握 す る こ との必 要 性 を、 被 差 別 部 落 女 性 た ち は認 識 し、 実践 して い た。 高 齢 者 ・障 害 者 ・女 性 ・子 ど もの 権 利 保 障 の ため の 同 和 対 策 事 業 と して 、 同和 対 策 事 業 の 対 象 と 中 身 を深 化 ・拡 大 させ る と と もに、 そ の 質 を発 展 させ て い っ た こ とに対 す る、 被 差 別 部 落 女 性 が 果 た した 役 割 は大 きい 。 被 差 別 部 落 女性 の こ う した実 践 は、次 の よ うな 認 識 に基 づ い て 行 わ れ て い た 。「健 康 や 教 育 、 仕 事 等 、 差 別 の実 態 が 複 雑 に絡 み 合 って お り、 ま さ に、 蓄 積 され た 部 落 差 別 の 実 態 が 存 在 して い る。だか ら こそ 、部 落 の 生 活保 護 ひ とつ取 り上 げ て み て も、 『同 対 審』 答 申が 指 摘 して い る 『 社 会 福 祉 計 画 』 に基 づ く総 合 的 、 計 画 的 な 施 策 の 実 態 が 必 要 な の で あ る。(中 略)… そ の 実現 は 、 部 落 の福 祉(健 康 で 文化 的 な生 活) と人 権 を保 障 す る こ との み な らず 、 我 が 国 の 社 会 保 障 ・社 会 福 祉 の民 主 的 改 革 につ 一104一.

(11) 被 差 別 部 落 女性 が 「まちづ く り」 運 動 に果 た して きた 役 割 に 関 す る 一 考 察. なが る もの で あ る」*26。 既 存 の 制 度 の 中 で は、排 除 され周 縁 化 さ れ無 視 され て き た被 差 別 部 落 女性 の 生 活 実 態 を調 査 す る こ とか ら始 め 、 そ こ か ら見 え て きた複 合 的 で 重 層 的 な課 題 や ニ ー ズ を解 決 して い くべ く、 同 じ要 求 を持 つ 一般 地 区住 民 との 組 織 化 を図 って い くこ と に よ って 、 要 求 を一 つ ず つ 実 現 させ て い っ た 。 そ れが 、 被 差 別 部 落 の み な らず 、 日本 社 会 全 体 の 人 権 基 準 の 改 善 ・充 実 ・発 展 へ とつ なが っ て い っ た。 こ こ に、 被 差 別 部 落 女 性 が 実 践 して きた 「まち づ く り」 運動 の意 義 が あ っ た。 大 阪 で は、 「社 会 保 障 拡 充 の 闘 い 、 部 落 解 放 総 合 計 画 の 中 に位 置 づ け て 、環 境 整 備 で は、 老 人 セ ン ター 、 老 人 ホ ー ム、 総 合 病 院、 障 害 者 解 放 会 館 等 々 の 諸 施 設 や ホー ムヘ ル パ ー 、 ケ ー ス ワー カ ー の増 員 、保 健 婦 の専 従 、 生 活 ・老 人 ・保 健 ・障 害 者 相 談 員 の 人 的 体 制 、生 活 保 護 者 、老 人、障 害 者 、母 子 家 庭 等 に対 す る 夏冬 一 時 金 、 妊 産 婦 対 策 費 、 老 人 ・乳 幼 児 ・学 童 に対 す る 医療 給 付 、 生 活 保 護 家 庭 に対 す る大 学 進 学 対 策 等 々 、 非 常 に 高 い水 準 の対 策 を勝 ち と り、 … 周 辺 市 民 労 働 者 との 共 闘 の な か で 、 国 民 健 康 保 険料 の減 免 や 障害 者 の保 育 所 入 所 をか ち と り、 … 障 害 者 解 放 セ ン ター 建 設 闘 争 や救 急 医療 確 立 の た め の運 動 が 展 開」*27さ れ て い っ た 。 社 会福 祉 サ ー ビス の提 供 、 仕 事 保 障 、 対 象 者 の 権 利 意 識 の 向 上 、教 育 、 地域 共 同 体 に お け る 人 のつ な が りづ く り、 公 的 責 任 の追 及 、 育 児 ・家 事 ・介 護 の社 会 化 な ど を 連携 させ て取 り組 ん で きた もの に,ホ ー ムヘ ルパ ー 制 度 を例 と して あ げ る こ とが で きる。 被 差 別 部 落 の 人 々が 従 事 して き た職 業 の 性 質 や 健康 保 障 の 欠如 な どか ら、 高齢 に な っ て、 介 護 を必 要 とす る人 が 多 く出て きて い た 。 しか し、 これ まで の被 差 別体 験 に よ っ て、 一 般 の ホー ムヘ ルパ ー に は、 介 護 を頼 む こ とが で きな い。 そ こで 、 共感 で きる ホ ー ム ヘ ルパ ー を 同 じ地 域 か ら育 て よ う と す る が 、 被 差 別 部 落 の 女 性 た ち は、 ホー ムヘ ルパ ー の 仕 事 に就 くた め に必 要 な字 の 読 み書 きが で きな い。 差 別 との 闘 い の中 で 培 って きた 地域 共 同 体 にお け る相 互扶 助 に よっ て、 育 児 や 介 護 を担 っ て きた 歴 史 が あ った が 、鉄 筋住 宅建 設 の 中 で 、 そ う した共 同体 的つ なが りが 希 薄 化 さ 一105一.

(12) 入権問題研 究所紀要. 第20号. れ て きた 。 そ う した 問題 が顕 在 化 して くる中 で 、無 償 労 働 か らの 女 性 の 解 放 と女性 の 仕 事 保 障 とを 結 合 させ た 闘 いが 、 ホ ー ム ヘ ル パ ー制 度 の 確 立 を求 め る闘 い へ とつ な が っ て い っ た 。 そ れ は 同時 に、 地 域 共 同体 を基 盤 に した 闘い で もあ っ た こ とが 、 次 の よ う な 発 言 に もあ らわ れ て い る。 「貧 困 や重 労 働 に よ る健 康 破 壊 、 部 落 差 別 に よ る 家庭 崩壊 が 今 なお 現 存 す る 部 落 に とっ て 、 部 落 の事 情 、 生 活 習慣 に精 通 し、部 落 の実 態 を理 解 した 出 身 婦 人 に よる 地 区専 従 ホ ー ム ヘ ルパ ー は、 要 求 が あ りな が ら 『 家 の中 を見 られ る』 『 恥 ず か しい』 とい う こ とで敬 遠 しが ち な対 象 者 の 掘 り起 こ しを促 進 し、 対 象 者 の 権 利 意 識 の 低 さ を克 服 す る 指 導 を よ り有 効 に行 う こ とが で きる 。 部 落 婦 人 の 仕 事 保 障 に もつ な が る 」*28。 「ヘ ル パ ー は 、 一 人 一 人 の 老 人 の置 か れ て い る状 況 を踏 ま え た上 で 、 か か わ っ て い か な け れ ば 、役 目を果 たせ ない 。 出 身 の ヘ ルパ ーで あ る限 り、 今 、 部 落 の 老 人 た ち に何 が必 要 で あ る のか を、 知 ら なけ れ ば な らな い。 老 人 と共 に生 きて い く地 域 づ く りを 考 え た い」*29。 また 、 生活 の 中 に現 れ る具 体 的 ・個 別 的 ・複 合 的 な課 題 を解 決 す るた め に は、 マ イ ノ リテ ィ当事 者 の 自立 や 地 域 にお け る 共助 のみ な らず 、 公 助 が 不 可 欠 で あ る との 認 識 を持 っ て い た こ とが 、 次 の 発 言 か ら見 る こ とが で きる。 「部 落 住 民 は 差 別 の 結 果 、 『自立 』 の 手段 を奪 われ 、 家 族 や 地 域 に お け る 『 扶助』 能力 を奪 わ れ て きた。 こ こ に行 政 の 果 た すべ き、 公 的 責 任 が あ るの で あ り、 そ の 責 任 を個 人 の 自助 努 力 や 家 族 、 地 域社 会 の相 互 扶 助 等 に押 し付 け る こ と は断 じて 許 す こ とが で きな い」*30。. (5)地. 域 の 実情 と受益 者 本 位 を基 盤 に した基 準 づ く りと具体 化 の た め の課 題. 既 存 の基 準 の引 き上 げや 、 新 た な 人権 基 準 づ く りにお い て 、 被 差 別 部 落 女 性 た ち が 重 要 視 した の は、 住 民 当事 者 参 加 とい う視 点 で あ っ た。 「わ れ わ れ の 運 動 は、 一 一lfl6一.

(13) 被 差 別部 落 女性 が 「ま ちづ く り」 運 動 に果 た して きた 役 割 に関 す る 一 考 察. 般 施 策 の 活 用 が で き きれ て い な い。 不 十 分 な ものや 、 福 祉 攻 撃 に な りか ね ない 施 策 も あ るが 、 そ の ま ま活 用 す る と、 地 域 の実 情 に あ わ ない もの もで て くる。 そ れ を、 運 動 の 力 で 受益 者 本位 の もの と し、 地 域 社 会 にふ さ わ しい事 業 と して 、 実 施 させ て い か ね ば な ら ない 」*31と して 、 常 に、 「地 域 の実 情 」 と 「受益 者 本 位 」 を 基 盤 に し た基 準 を作 り、 具体 化 し よ う と して い た。 同 和 対 策事 業 の 成 果 の 一つ は、 地 区住 民 の生 活 向上 を はか る ため の 地 区 内 公 共 施 設 の 整備 が 進 め られ 、 そ れ が、 地 域 施 設 にお け る仕 事 保 障 、 仕 事 創 出へ とつ なが っ て い った こ とにあ る。 ① 地 区住 民 の 自主 活 動 の拠 点 、② 高 齢 者や 障 害 者等 を支 え る地 域 づ く りの拠 点 、③ 地 区 住民 の 実態 とニ ー ズ に応 え る行 政 サ ー ビス の拠 点 、 と して の 機 能 を果 た す 地 区 内福 祉 関係 施 設 の運 営 と事 業 の あ り方 が 整 備 され て い った*32。 地域 に密 着 した福 祉 サ ー ビス の提 供 と、 被 差 別 部 落 女 性 の 仕 事 保 障 を連 携 させ て 展 開 した こ と、 こ う した取 り組 み が 、 行 政 ・企 業 ・地 域 の ネ ッ トワー ク に よ って 展 開 され て い た こ とに は、 学 ぶ ものが 多 い。. (6)地 域共 同体 を基 盤 に した被 差別 部落女 性 のエ ンパ ワー メ ン ト・ア プ ロー チの 可能性 同和 対 策 事 業 を地 域 社 会 の実 態 に即 した 形 へ と発 展 させ て い った の は、 地 域 共 同 体 にお い て、 ま た、 生 活 に根 ざ した 中で 、 権 利 保 障 を求 め た 取 り組 み を進 め た 被 差 別部 落 女 性 た ち の多 大 な る貢 献 が あ った 。 そ れ は、 マ イ ノ リテ ィの 視 点 に立 っ た 人 権 基 準 づ く りや マ イ ノ リ テ ィ を包 摂 した 社 会 づ く りを行 って い くこ とが 地 域 社 会 に とっ て も有 益 で あ る、 とい う視 点 に立 った 取 り組 み で あ った 。 被 差 別 部 落 女 性 自身 が 自分 の 歴 史 的 ・社 会 的 立 場 を認 識 し、 自分 や 地域 が抱 え る 問 題 を社 会 構 造 や 歴 史 との つ な が りで 読 み 解 く。 人 問性 を回 復 し人 間 と して解 放 さ れ るた め に、 自己 変 革 と社 会 変 革 に向 け た 力 や 生 きる 力 を 得 て い く。 そ の と き、 地 域 共 同 体 にお い て 、 生 活 に 密 着 した 、 仲 間 た ち との協 働 の 学 び の場 で あ る 識 字教 育 を は じめ とす る 教 育 が 重 要 な役 割 を 果 た して い た 。 部 落 差 別 と女性 差 別 の結 果 、 文 字 が奪 わ れ て い る こ とに よっ て 、不 安 定 な 内職 に 一107一.

(14) 人権問題研 究所紀 要. 第20号. す が りつ か ざる を え な い。 生 活 保 障 の た め の 仕 事 保 障要 求 は、 文 字 を勝 ち取 る 闘 い で もあ っ た。識 字 学 級 で は、就職 に必 要 な基 礎 学 力 を身 につ け る た め の 識字 活 動 や 、 各種 の 資格 ・技 能 の習 得 の ため の 研 修 活 動 が 行 わ れ た。 定職 を持 つ ため の 免 許 取 得 に 向 け た識 字 教 育 は、 仕 事 保 障 と同 時 に、 被 差 別 部 落女 性 た ちの 自尊 感 情 を高 め て いった。 被 差 別部 落 女 性 た ちが 、 人 聞 と して の 誇 り を獲 得 して い っ たの も、 地 域 共 同体 に お け る他 者 との協 働 の 取 り組 み の 中 で 、 自信 や 自尊 感情 を 身 につ け てい っ たか らで あ っ た。 被 差 別 部 落 女 性 の エ ンパ ワー メ ン トを 考 え て い くに あ た って 、 地 域 共 同体 を抜 くこ とはで き ない 。 地 域 共 同体 を基 盤 に し、 地 域 共 同 体 にお い て 、他 者 と共 に 「生 き る」 こ と を志 向 し実 践 す る こ とが 、被 差 別 部 落女 性 た ち に とっ ての 「まちづ く り」運 動 に お け る 「共 同 の場 」 づ く りだ った の で あ る 。. 4.横. 断 的 反 差 別 ・人 権 運 動 創 出 の 喫 緊 性. 1990年 代 初 頭 に、 東 西 冷戦 構 造 が 終 焉 を迎 え る と、 これ まで 述べ て きた よ う な、 1970年 代 か ら1980年 代 に培 っ た 問 題 意 識 や 成 果 を踏 襲 しつ つ 、 新 た な社 会 の あ り 方 へ の 模 索 が 始 まる 。そ れ は、二 項 対 立 的価 値 観 か ら多 様 な価 値 観 へ の 模 索 で あ り、 「顔 の 見 え る」 自立 的 人 問観 へ の 志 向 と新 た な 「共 生 社 会 の あ り方 」 へ の 試 行 で も あ る。 同 時 に 、 「複 合 差 別 」、 「マ イ ノ リテ ィ当事 者 主 権 」、 「自助 ・共 助 ・公 助(「 新 た な公 」)」とい っ た 、新 た な社 会 を再 構 築 す る にあ た って の キ ー ワー ドも生 まれ て く る。 人 権 思 想 につ い て も、 普 遍 性 を言 いつ つ 、 人 権 そ の もの が 、実 は 、制 限 を もっ て きた の で は な い か、 排 除 の論 理 が あ っ た ので は ない か 、 との議 論 が盛 ん に行 わ れ る よ うに な り、人権 思 想 の 深 化 ・豊富 化 に 向 け た取 り組 み が 行 わ れ る よ うな って きた 。 人権 思 想 の深 化 ・豊 富 化 に果 た した女 性 解 放 運動 の 貢献 は大 きか っ た。 こ れ まで は、 人権 と女 性 の権 利 は別 の も のの よ う に扱 わ れ 、 女性 の権 利 は 人権 とい う範 躊 か 1:.

(15) 被 差 別 部 落 女 性 が 「まちづ く り」 運動 に 果 た して きた役 割 に関 す る一 考 察. ら周 縁 化 され て い た。 しか し、 「女 性 の 権 利 は 人 権 で あ る」 を ス ロー ガ ン に、 人 権 の 中で も女 性 の 権 利 を主 流 にす る こ とが確 認 され る よ うに な っ た 。 そ して、 私 的 領 域 を含 む、 社 会 の あ らゆ る分 野 にお け る あ らゆ る 形 態 の 「女性 に対 す る暴 力 」 が 人 権 侵 害 で あ る との 認 識 が 確 立 して い っ た 。 こ う した潮 流 を受 け て 、1995年 に は、 「与 党 ・人 権 と差 別 問 題 に関 す る プ ロ ジ ェ ク ト中 間報 告 」 が 出 され 、 人 権 政 策 にか か わ る国 政 の 歴 史 的 転 機 を迎 え る こ とに な る。 つ ま り、 省 庁 タ テ割 の 弊 害 に よ る人 権 政 策 の 分 断 化 を人 権 の 不 可分 性 ・総 合 性 が 損 な われ て い る現 状 とす る認 識 が 確 認 され た の で あ っ た 。 マ イ ノ リテ ィ当事 者 運 動 や 人権 運 動 も、 行 政 にみ られ る タテ 割 弊 害 か ら 自由 で は な く、 そ れ らの 運動 が分 断 され 、 時 に は対 立 ・敵 対 状 況 な ど に も遭 遇 して きた 。 現 在 は、 総 合 的 な 「人 権 の 法 制 度 体 系 」 の 確 立 をめ ざす 官 民 パ ー トナ ー シ ップ に 基 づ くネ ッ トワー クの 創 出 が 急 務 だ との 指 摘 が な され る よ うに な り、 た とえ ば、 大 阪 府 高 槻 市 にみ られ る、 「人 権 施 策 を総 合 的 に推 進 す る た め の 高槻 市 行 動 計 画 」 策 定 の よ う な取 り組 み も始 ま って い る*33。 2002年3月. 末 日を も っ て、33年 間 に 及 ん で展 開 され た特 措 法 時代 が終 焉 す る こ. とを見 据 えて 、 自立 支 援 ・住 民 参 加 ・総 合 対 策 を うた っ た 人 権 行 政 の必 要 性 も重 視 され て きた 。 一 切 の 差 別 撤 廃 、 す べ て の 市 民 の 自己 実 現 の 支 援 、 差 別 的 な制 度や 風 習 ・慣 行 の 是 正 、 憲 法 ・国 際 人 権 諸 条 約 の 生 活 圏域 で の 実 現 な どが 、 人権 行 政 の柱 と して 掲 げ られ て い く。 「人 権 の ま ちづ く り」 運 動 は 、 横 断 的 反 差 別 ・人権 運 動 を 実 践 す る 「共 同 の 場 」 で あ る。 部 落 解 放 運 動 が 他 の マ イ ノ リテ ィ当事 者 運動 に 学 び 、 マ イ ノ リテ ィ当事 者 運 動 が 部 落 解 放 運 動 に学 ぶ 。 互 い に 学 び 合 い 、 実践 す る場 と して の 「共 同 の場 」 づ く りを展 開 させ て い くと き、 「人 権 の ま ちづ く り」 運 動 が 意 味 を持 っ て く るの で あ る。. 一109一.

(16) 人権問題研 究所紀要. 5.「. 第20号. 人 権 の ま ち づ く り」 運 動 と. 「女 性 解 放 運 動 」. 被 差 別 部 落 女 性 が 、 人 権 の まち づ く り運 動 に果 た した 中心 的 役 割 を ふ ま え な が ら、 今 後 の 課題 と して2点 、 問題 提 起 を した い。 1点 目は 、 人権 の ま ちづ く り運 動 を女 性 解 放 運 動 の 理 念 や 実 践 か ら問 い 直 す とい う こ とで あ る 。 そ の際 、3つ. の視 点 を置 く必 要 が あ る と考 え て い る 。. 一 つ に は 、1970年 代 か らの ま ちづ く りが 、ハ ー ドの 箱 物 づ く り中心 で 行 き詰 まっ た 時 、前 述 した よう に、 福 祉 分 野 や 地 域 で の 活 動 、 教 育 ・保 育 分 野 な ど、 人 の つ な が りとい うソ フ ト面 で の ノ ウハ ウ を持 っ て いた の が 、 女性 で あ っ た とい う視 点 で あ る 。 近 年 、全 国各 地 で紹 介 され て い る 「人 権 の まち づ く り」 運 動 の取 り組 み に お い て 、女 性 か らの 報 告 に 多 く見 られ る の は、 介 護 ・福 祉 、 教 育 ・保 育 、 手 編 ・生 花 ・ 料 理 ・裁 縫 な どの各 種 教 室 の 開催 な どで あ る こ と に留 意 した い 。 二つ に は、 人 権 の ま ちづ く り運 動 にお い て 、 多 大 な る役 割 を 果 た して い る女 性 自 身 が、 自 らが 内面 化 して い る力 関 係 や 社 会 意 識 ・社 会構 造 を 読 み解 い て い く作 業 を す る必 要 が あ る とい う視 点 で あ る。 被 差 別 部 落 女性 た ち は 、 運動 や地 域 を 支 え る役 割 を果 た しなが ら、 同 時 に、 家 事 労 働 や 賃 労 働 を一 身 に担 っ て きた。 ま た、 理 論 は 男 性 中心 、 実 践 は女 性 中心 、 とい う意 識 を内 面 化 して い る側 面 もあ る。 女 性 解 放 運 動 との 「共 同の 場 」 を作 って い くこ と に よっ て 、被 差 別 部 落 の女 性 も、 部 落 外 の女 性 もb一 人 の 人 間 と して 生 き る こ との 意 味 や 自 らの社 会 的役 割 や 社 会 的 立 場 につ い て、 そ して 、 他 者 や 社 会 との 関 係 につ い て 、 多 面 的 に 追求 して い く とい う共 同作 業 を行 え るの で は ない だ ろ うか 。 三 つ に は、 女 性 が リー ダー 的 役 割 を 果 た して い く とい う視 点 で あ る。 被 差 別 部 落 女 性 の 実 践 か ら、 人 権 の まち づ く り運動 の理 論 や実 践 を捉 え直 す 必 要 が あ る。 そ の た め に も、 意 思 決 定 の場 に 女性 が 参加 す る仕 組 みづ く りを、 意 識 的 に行 って い くこ とが 必 要 で あ る 。 今 後 の 課 題 の2点. 目は 、 人権 の まち づ く り運 動 か ら女 性 解 放 運 動 の 理 念 と実 践 を. 問 い 直 す とい う こ とで あ る。 一110一.

(17) 被 差 別 部 落 女 性 が 「ま ちづ く り」 運 動 に果 た して きた役 割 に 関す る一 考 察. 1995年 、 北 京 で 開催 され た 第4回 世 界 女 性 会 議 に お い て 、 先 住 民 族 女性 か ら出 され た 「北 京 先 住 民 族 女 性 宣 言 」 で は、 「(北京 行 動)綱 領 案 が提 案 す る 『 戦略 的 目 的』 お よ び行 動 は、 決 定 過 程 へ の 平 等 の ア クセ ス と完 全 参 加 、 平 等 の地 位 、平 等 賃 金 、 さ らに ジ ェ ンダ ー の視 点 ・分 析 を完 全 に し、 主 流 に盛 り込 む こ とに焦 点 が 当 て られ て い る。 これ らの 目標 は国 家 、 人 種 、 階 級 、 ジ ェ ン ダー 観 の 差 別 問題 と同 時 に 取 り組 ま な い 限 り、空 虚 か つ 無 意 味 で あ る。(中 略)綱 領 案 は ジ ェ ン ダー 差 別 、ジ ェ ン ダー の平 等 を過 度 に強 調 して お り、 結 果 、 先 住 民 族 女 性 が 直 面 す る 問題 の政 治性 が 閉 脚 され て し ま っ て い る 」*34と 、 痛 烈 に批 判 され た 。 また 、 先 住 民 族 女 性 の ビ ク トリア ・コ ルパ ス は、 先 住 民 族 女 性 ネ ッ トワー クが 北 京 会 議 で 発 表 した 「男 女 平 等 か 自己決 定 か 」 と題 す る声 明 か ら、 次 の よ う に引 用 して 、 北 京 女性 会議 を批 判 し て い る。 「『 男 女 平 等 とい う前提 』 は単 に先 進 工 業 国 の 今 の 権 力構 造 を長続 き させ る の に役 立 つ だ け です 。(中 略)『 男 女 平 等』 は人種 主 義 ・経 済 格 差 ・環 境 差 別 な どが あ る こ とを認 め な い し、 そ れ ら に対 し異 議 申立 て も して い ませ ん 。 女性 が 自分 の取 り分 の権 力 と富 を手 に入 れ る とい う意 味 なの で す 。」*35 吉 田 光 宏 は、 ジ ェ ン ダー 研 究 に お け る 「80年 代 後 半 か ら登 場 し た よ り新 しい ア プ ロ ーチ 」 の 中 で 、 次 の よ う な流 れ が あ る こ と を紹 介 して い る 。 「『 搾取』 『 生 産 手 段 』 『私 的 財 産』 とい っ た概 念 は 、 すべ て 欧 米諸 国 の歴 史 と文 化 の なか か ら生 まれ て きた もの で 、他 の社 会 を研 究 す る に あ た っ て、 こ う した理 論 的 道 具 を 使 う のが 妥 当 な の か ど うか とい っ た根 本 的 な 問 題 も問 わ れ て い る。(中 略) つ ま り、 『自然/文 化 』 『 公 的/家 庭 内領 域 』 とい っ た二 項 対 立 的 カ テ ゴ リー も また 西 欧 的 な概 念 で あ り、 同様 の概 念 が 他 の 文化 に普 遍 的 に 当 て は め る こ とが で き ない と、 コ リア ー とヤ ナ ギ サ コ、ヘ ン リエ ッ タ ・ム ー ア 、 マ リ リ ン ・ス トラサ ー ン らが 指 摘 し て い る。(中 略)こ. の さ ま ざ ま な角 度 か らの 分 析 で は、 従 来 の カ テ ゴ リー の. 前 提 で あ っ た、 『男性/女. 性 』 は相 反 す る存 在 で あ る とい っ た と らえ方 は して い な. い 。 む し ろ、 『 男 性/女 を とる。(中 略)…. 性』 は相 互 に 関 係 しあ い、 補 完 しあ って い る と い っ た 立 場. 近 年 の ア プ ロー チ で は、 人 々の 日常 生 活 で の 経 験 や 感 情 を浮 き 一111一.

(18) 人権問題研 究所紀要. 第20号. 彫 りに して い きな が ら、 ジ ェ ン ダー を分 析 しなお す よ う にな っ て きて い る 。 そ れ ぞ れ の 人格 や 地位 や 力 が どの よ うに形 成 され て い るか を分 析 す る た め に、 画 一 的 な カ テ ゴ リー か ら探 る の で は な く、 そ の地 域 にお け る諸事 情 か ら生 まれ る 固有 の価 値 観 か ら分析 す る よ うに な っ て きて い る。」*36 被 差 別 部 落 に は、 部 落 とい う地 域 共 同体 にお い て 、生 き延 び るた め に培 って きた 、 男 女 の 関係 や そ れ ぞ れ の役 割 が あ る。 複 合 的 ・重層 的差 別 構 造 や 、 歴 史的 背 景 や 政 治 的経 済 的社 会 的構 造 の分 析 を行 い なが ら、 被 差 別 部 落 にお け る男 女 関係 や 男 女 の 役 割 を、 被 差 別 部 落 の人 び と 自身 が 読 み 解 い て い く必 要 が あ る。 前 述 の先 住 民 族 女 性 の批 判 を敷 街 す れ ば、 被 差 別 部 落 が 抱 え て い る複 合 的 ・重 層 的 問 題 を、 「ジ ェ ン ダ ー の視 点 の 主 流 化 」 や 「男 女 平 等 」 を外 部 か ら持 ち 込 ん で 、 「女 性 の 問 題 」、 「女 性 差 別撤 廃 」、 「性 差 別 の 問題 」 と倭 小 化 す る の で は な く、 被 差 別 部 落 女 性 た ち が 、 問題 を全 体 的 に捉 え、 考 え、 実 践 して きた よ うに、 彼 女 た ちの 取 り組 み か ら、 女 性 解 放 運 動 の 理 念 と実 践 を問 い 直 す 必 要 が あ る。 こ う した 問 い 直 しの作 業 を行 う こ とに よっ て、 個 別 に展 開 され て い た 「まち づ く り」、「部 落 解 放 運 動 」、「女性 解 放 運動 」 が 、「人 権 の まちづ く り」 とい う 「共 同 の場 」 づ く りを協 働 で き るの で はな い か 、 と考 え て い る。. *1「. 入権 の ま ちづ く りガ イ ドブ ック」編 集 委 員 会 『人 権 の まち づ く りガ イ ドブ ック』解 放 出 版 社 、2003年 、 28頁. *2厚. 生 省 社 会 ・援 護 局 『「社 会 的 な 援 護 を 要 す る 人 々 に 対す る社 会 福 祉 の あ り方 に関 す る 検 討 会 」報 告 書』 平 成12年12月8日. *3田. 村 明 『ま ちづ く りの 発 想 』 岩 波 書 店 、1987年 、102-109頁. *4上. 掲 註3、52-53頁. *5上. 掲 註3、122頁. *6川. 口 正 志 ・前 田俊 政 「部 落 産 業(企 業 ・農 業 等)の 現 状 と要 求 」『部 落 解 放』103号 、解 放 出 版 社 、1976年 、 73頁. *7上. 田 一 雄 「部 落 産 業 が 現 在抱 え て い る 問題 」 『部 落 解 放』25号 、 部 落 解 放 研 究 所 、1972年. *8師. 岡佑 行 「大 阪 府 下 部 落 産 業 の現 状 と対 策」 『部 落 解 放』2号. 一112一. 、124頁. 、 大 阪部 落 解 放 研 究 所 、1969年. 、82頁.

(19) 被 差 別 部 落女 性 が 「まちづ く り」 運 動 に果 た して きた 役 割 に関 す る 一 考 察. *9『. 第15回. *10上. 掲 註9. *11上. 掲 註9. *12『. 第26回. 部 落 解 放 全 国 婦 人 集 会 報 告 書 』 部 落 解 放 同 盟 中 央 本 部 、1971年. 部 落 解 放 全 国婦 人集 会 報 告 書. 解 放 を め ざす 婦 人 活 動 』 部 落 解 放 同盟 中央 本 部 婦 人 対 策 部 、. 1982年 *13『 *14前 *15『. 第30回. 部 落 解 放 全 国 婦 人 集 会報 告 書. 解 放 を め ざす 婦 人 活動 』 部 落解 放 同盟 中央 本 部 、1986年. 田俊 政 「農 漁 村 部 落 の 現 状 と課 題 」 『部 落解 放 』123号 第33回. 部 落解放全 国婦 入集 会報告 書. 、 解 放 出 版 社 、1978年 、46-47頁. 解 放 を め ざす 婦 人 活 動 』 部 落 解 放 同 盟 中 央 婦 人 対 策 部 、. 1988年 *16谷. 本 た か し 「農 山漁 村 部 落 の 現 状 と課 題 」 『 部 落解 放 』256号. *17藤. 沢喜 郎 「部 落 解 放 と社 会 保 障 」 『部 落解 放』107号. *18部 *19『. 、 解 放 出 版 社 、1987年 、90頁. 、 解 放 出 版 社 、1977年. 、119頁. 落解 放 同盟 大 阪 府 連 合 会 「部 落 解 放 と社 会 保 障 」 『部 落解 放』88号 、 解 放 出版 社 、1976年 第25回. 部 落 解 放 全 国婦 人 集 会報 告書. 、98頁. 解 放 を め ざす 婦 人 活 動 』 部 落 解 放 同盟 中央 本部 婦 人対 策 部、. 1979年 *20野 *21『. 本勝 彦 「生 活 ・労 働 の 現 状 と仕 事 保 障 ・社 会 保 障 の 闘 い 」 『部 落解 放』103号 第24回. 部 落 解 放 全 国婦 人 集会 報 告 書. 、1977年 、53頁. 解 放 を め ざす 婦 人 活 動 』 部 落 解 放 同盟 中央 本 部 婦 人対 策 部、. 1980年 *22い *23「. の ち と く ら しを守 る会 「部 落 解 放 と社 会 保 障 」 『部 落解 放』107号 部 落 の 生 活 の現 状 と社 会 保 障 」 『部 落 解 放』224号. *24前. 掲 註12. *25前. 掲 註12. *26北. 山誠 一 「部 落 の 生 活 の 現 状 と社 会 保 障 」 『 部 落解 放 』224号. *27森. 田益 子 「部 落 解 放 と社 会 保 障 」 『部 落解 放 』107号. *28『. 第27回. 部 落 解 放 全 国婦 人 集 会 報 告 書. 、 解 放 出 版 社 、1977年 、119頁. 、 解 放 出 版 社 、1985年. 、137頁. 、 解 放 出 版 社 、1985年 、127頁. 、 解 放 出 版 社 、1977年. 、109-110頁. 解 放 を め ざす 婦 人 活 動 』 部 落 解 放 同盟 中央 本 部 婦 人 対 策 部、. 1983年 *29『. 第33回. 部落 解放全 国婦 人集会 報告 書. 解 放 を め ざす 婦 人 活 動 』 部 落 解 放 同 盟 中 央 婦 人 対 策 部、. 1988年 *30北. 山誠 一 「『同対 審 』 答 申20年. *31『 第32回 *32部. と部 落 解 放 の福 祉 」 『部 落解 放』240号. 部 落解 放 全 国婦 人 集 会報 告 書. 、解 放 出 版 社 、1986年 、113頁. 解 放 をめ ざす婦 入活 動』 部 落 解 放 同盟 中 央婦 人 対 策 部、1987年. 落 解 放 同盟 大 阪府 連合 会 「部 落解 放 総 合 福 祉 計 画 実 現 に 向 け て」 『部 落 解 放 』224号 、 解 放 出 版社 、 1985年 、131-132頁. *33北. 建 夫 「『人 権 施 策 を総 合 的 に推 進す る た め の 高槻 市 行 動 計 画』 策 定へ の 取 り組 み 」 『ヒ ュー マ ン ラ イ ツ」212号. 、 部 落 解 放 ・人権 研 究 所 、2005年 、44-53頁. *34「 北 京 先 住 民族 女 性 宣 言(抜 粋)」『女 た ちの21世. 紀 』編 集 委 員 会 編 『ア ジ ア に生 き る 「女 た ちの21世. 一113一. 紀」.

(20) 人権 問題研究所紀要. 第20号. 11号 』 ア ジア 女性 資料 セ ン ター 、 ア ジア 女 性 資 料 セ ン ター、1997年. 、78頁. *35ビ. ク トリ ア ・コ ルパ ス 「政 治 化 され な か っ た ジ ェ ン ダ ー」 上 掲 註34、82頁. *36吉. 田光 宏 「ジ ェ ン ダー 」 「DVD-ROM版. ス ーパ ー ・ニ ッポ ニ カ2002」 小学 館 、2002年. 一114一.

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参照

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