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短期留学生のためのサバイバル日本語シラバスおよび実践報告 : マルチキャンパスにおける集中コース

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Academic year: 2021

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―マルチキャンパスにおける集中コース―

森 由卯子

要  旨  南山大学では「大学の世界展開力強化事業」ラテンアメリカプログラムの受入れ プログラムとして、日本語未習者を中心とした集中日本語コースを設置している。 このコースは、上智大学の正規課程の留学プログラムに参加する前に、南山大学で 3 週間の日本語コースに参加できるというマルチキャンパスプログラムである。こ の 3 週間は、サバイバル日本語を中心として、日本文化や社会、習慣を学びながら 日本の生活に順応し、上智大学での留学生活が快適に始められるための期間といえ た。シラバスは課題達成に重点をおいた can-do シラバスと継続学習に備えての構造 シラバスの複合シラバスとした。また文字については、料理名を読むために平仮名 導入に先行し、カタカナの導入をしたのが効果的であった。本稿では本コースのシ ラバス開発、および、授業実践について報告する。 キーワード:サバイバル日本語、シラバス、集中コース、短期留学生、マルチキャ ンパスプログラム

1.はじめに

 南山大学では 2015 年度より文部科学省「大学の世界展開力強化事業∼中南米等との大 学間交流形成支援∼1)」(Japan-Latin America Student Mobility Program)(以下 LAP)が始まっ た。LAP は国内の 3 大学(南山大学、上智大学および上智短期大学)と中南米諸国 6 か国 の 13 大学との教育連携プログラムである。LAP には、中南米からの学生(以下 LAP 生) が上智大学で 1 学期または 1 年間、正規課程の留学プログラムに参加するものがあるが、 希望者は上智大学でのプログラムの前に、約 1 か月南山大学の日本語集中コースに参加で きるマルチキャンパスプログラムがある。日本語ゼロ初級者を対象としたこのコース2)は、 主に生活に必要な最低限の日本語「サバイバル日本語」や日本文化や習慣について学ぶこ とを目的としている。本稿では、ゼロ初級を対象としたクラスのシラバスデザインと、 2016 年 3 月∼ 2019 年 9 月(全 8 回)の実践報告を行う。

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2.先行研究

 サバイバル日本語のコースを考えるにあたって、鹿嶋(2005)は、「シラバスとして何 が適当なのか、いわゆる初級日本語のシラバスと何が違うのか、という具体的な議論はこ れまでほとんど行われていない」と述べ、サバイバル日本語に必要とされるシラバスの特 性の一つとして「文法項目の限定と単純化の必要性」をあげている。また、シラバスに関 しては「個々のシラバスがコース・シラバスとして単独で用いられることはほとんどない。 (中略)ほとんどのばあい複合のシラバスの折衷あるいは併用になるのがふつうである」 との指摘がある(日本語教育学会編 1990:35―36)。近年、サバイバル日本語を必要とす る学習者も多様化してきているが、短期留学生3)のためのサバイバル日本語のあり方に関 して、國頭(2013)は、「日本語学習の「即効性」と「発展性」の両方を兼ね備えたシラ バスである必要がある」と述べ、「ある程度の応用や発展も視野に入れた上で刈り込んだ 構造シラバス」が適しているとしている。また、日本語の使用場面について、国立国語研 究所(2009)が全国各地の外国人・日本人を対象に行った「生活のための日本語:全国調 査」の「言語によらず頻度の高い行動」では、「自宅」の次に「買い物」「交通手段」「飲 食店」の項目が上位に挙がっている。短期留学生の日本語使用場所について行った調査、 國頭(2013)によると、学内では英語や母語などで対応できると考えられるため、学内よ りも学外が多く、1.寮、2.レストラン、3.デパート、4.銀行、郵便局、5.駅、電車、 6.コンビニなどとなっている。  そこで、LAP 生の日本語使用場所を調査しながら、即効性や発展性を念頭にどのような シラバスが有効であるかを検討し、サバイバル日本語コースのシラバスを考えていくこと にする。

3.学習目標とニーズ

 LAP では、中南米の留学生、日本人学生、世界の諸地域からの留学生との学びあいを通 じて日本および中南米社会における経済活動や相互間の文化交流を担う人材の育成に努め ている1)。マルチキャンパスプログラムは、まず南山大学で 3 週間の日本語集中コースを 受講しながら、当地で企業や外国人学校でインターンシップに参加した後、東京へ移動し、 上智大学の正規課程での学修を開始する。留学生は、上智大学で国際教養学部または理工 学部に所属し、専攻分野に応じた科目を英語で履修する。一方、上智大学でも外国人留学 生のための日本語コース4)が設けられているので、希望者は引き続き日本語の勉強を続け ることができる。留学生の大半が日本語未習者であることから、日本で短期的(1 学期ま たは 1 年)に生活する上で必要最低限の日本語、インターンシップでの自己紹介、そして、

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日本文化や習慣などを学習することが早急に求められた。このような LAP の短期留学生 にあった日本語集中コースの目標を以下のように設定した。 1)生活に必要最低限の日本語を習得する。 2)発展性、および継続学習に繋がるための文法知識を得る。 3)生活に必要な文化知識、習慣を習得する。

4.日本語集中コース概要

期間:年に 2 回、3 月上旬から下旬までの 3 週間と 8 月下旬から 9 月中旬までの 3 週間。 対象者:中南米 6 か国 13 大学からの交換留学生で母語はスペイン語かポルトガル語である が、英語で授業を受けられる英語力を有している。人数は 4 名から 10 名程度。  このコースに与えられた全時間数は 49.5 時間(3 週間)で、南山大学留学生別科の時間 割りに倣い、36 時間(1 コマ 90 分の週 8 コマで全 24 コマ)をサバイバル日本語にあて、 13.5 時間(1 コマ 90 分の週 3 コマで全 9 コマ)を Japanese for Practical Use(以下 JPU)と して、週 1 コマ「日本人学生との会話」、「インターンシップのための準備」「プロジェク トワーク」の 3 コマが行われた。紙面の都合上、本稿では、この 36 時間のサバイバル日本 語の部分についてのシラバスデザインおよびテキスト開発と授業実践について報告する。

5.テキスト開発

5.1.既存教材の検討  南山大学留学生別科の初級 1 で使用している『げんきⅠ』および、サバイバル日本語に 適していると判断した 3 冊『まるごと入門 A1 かつどう/りかい』『はじめのいっぽ』『に ほんごだいじょうぶ』の計 4 冊を比較した。(表 1) 表1 教科書の特徴比較 教科書 『げんきⅠ』 『まるごと入門 A1』 かつどう/りかい 『はじめのいっぽ』 スペイン語版 『にほんごだい じょうぶ』 対象者 主に大学生 成人学習者一般 成人学習者一般 成人学習者一般 シラバス 構造シラバス 場面シラバス Can-do シラバス 場面シラバス 場面シラバス 構造シラバス 場面シラバス 構造シラバス 文字 学習 ひらがな カタカナ 漢字 145 字 ひらがな カタカナ 漢字 58 字 なし ひらがな カタカナ

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 テキストは表 1 に挙げた教科書を検討した結果、36 時間分(1 コマ 90 分の週 8 コマが 3 週間分)のサバイバル日本語に焦点をあてたものを開発して使用した。 5.2.シラバス  先行研究、既存の教材比較、LAP の目標を総合的に検討し、以下のことができるように なること(Can-do)をシラバスの目標とした。 1)インターンシップ先で自己紹介ができる。 2)レストランで注文ができる。 3)場所が聞ける。交通機関を使って行きたいところに行ける。 4)買い物ができる。 5)印象が言える。 6)生活に必要な文化知識、習慣を習得する。  一方で、上智大学での正規課程がはじまった後も希望者は日本語コースが受講できるた め、コース目標の 2)で挙げた発展性と継続学習を踏まえて、文法を積み上げていくこと も考慮した。従って、Can-do シラバスと構造シラバスの複合シラバスとすることにした。  導入する文法項目は「限定と単純化」、「ある程度の応用や発展も視野に入れた上で刈り 込んだ構造シラバス」を考慮した。(表 2)  文法項目の導入の順番としては、『げんきⅠ』と『にほんごだいじょうぶ』は名詞文、 動詞文、形容詞文の順になっており、『まるごと』と『はじめのいっぽ』は名詞文、形容 詞文、動詞文となっている。本シラバスでは名詞文、動詞文、形容詞文の順に導入するこ とにした。それは、形容詞は日本人学生との交流でなんらかの印象を言えると会話がスムー ズになるのではないかと思い導入するが、生活上のひっ迫性はないと考えたためである。 5.3.テキストの構成  テキストは 5 課で構成されているが、各課の構成は、1.単語表(スペイン語、ポルト ガル語訳)、2.会話 3 つ(5 課のみ 2 会話)3.グラマーノート(スペイン語)、4.練習(指 示はスペイン語とポルトガル語)である。会話は 5 発話∼ 8 発話のもので can − do にそっ たものである。  その他にカルチャーノートを載せている。カルチャ−ノートには、おじぎ、日本人の名 前、五円(ご縁)、オノマトペ、天気、ごみの捨て方の 7 つのテーマについてスペイン語 で説明をつけ、課のテーマにあったものをその都度紹介した。また、巻末に文字学習とし て、ローマ字表、ローマ字の表記の仕方、カタカナ練習、ひらがな練習を載せた。

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表 2 シラバス表

Can-do 導入文法項目、表現等

L1-1 Exchange greetings あいさつ表現

Give a simple self introduction. N1 は N2 です N1 の N2(所属) Write your name and country in Katakana. カタカナ(国名、名前) L1-2 Ask/say briefly about you and your friend. N1 は N2 ですか

はい、そうです/いいえ、ちがいます L1-3 Say your phone number, room number. 数字

Ask about opening and closing time. N1 は〇時から△時までです  時間の言い方(∼時、時半のみ) L2-1 Read a menu. カタカナ

Ask what this is. これ/それ/あれは何ですか N です 

Ask prices. いくらですか

Order food and drinks in a restaurant. (これ、お水、メニュー、別々に)お願いしま す 等レストランで必要な表現

L2-2 Ask where it is. N はどこですか。 ここ/そこ/あそこです Ask what you say in Japanese. これは日本語で何ですか。 Ask what it means. これはどういう意味ですか。

L2-3 Do some shopping. N1(物名、色、サイズ、大きいの)はありま すか。これください。

L3-1 Talk about your daily routine. ∼時に場所で N を V ます。 Say your birthday and ask your friend's birthday. 月日/曜日

L3-2 Say where you want to go, what you want to do in

Japan. V たいです。

L3-3 Ask how to get to a particular destination by train.

(交通手段)で N に行きます/来ます/帰ります。 ∼に行きますか。∼に停まりますか。

L4-1 Ask how to get to a particular destination .

位置詞(右、左、前、近く等)

まがってください。まっすぐいってください等 (て形は導入しない)

L4-2 Talk about the schedule for this week. 日時に場所でイベントがあります Say what are there in the place. 場所に物があります

L4-3 Say what you did on your day off. V ました

L5-1 Say some impressions. 形容詞、∼ですね。N はどうですか。 L5-2 Say what your favorite Japanese dish is. ∼が好きです。

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会話例 3 課 会話 3(テキストではひらがなとローマ字で表記) A: すみません。ちゅうおうせんはどこですか。 B: 1 ばんせんですよ。 A: ありがとうございます。 A: すみません、これはよつやにいきますか。 B: はい。 A: ありがとうございます。 A: すみません、これはせいじょうがくえんまえにとまりますか。 B: いいえ、とまりません。つぎのきゅうこうはとまりますよ。 5.4.語彙  約 220 語をスペイン語、ポルトガル語訳を付して導入した。一般的に必要だと思われる 語彙の他に、1 課では、学部名、専攻名、中南米の国名を加えた。2 課では、食べ物の名 前が多い。3 課では、基本動詞 13 を導入した。交通機関名は、特に留学生が使う JR、中央 線、小田急線や学生に関係がある駅名も導入し東京に行く前に耳になじむようにした。4 課では位置名詞の他に建物の名前、イベント名などが導入されている。5 課では、形容詞 15 を導入している。

6.文字の導入

 サバイバル日本語では、限られた時間の中で、文字学習はどこまで必要であるか考えて みると、言葉のやりとりだけを学ぶのであればローマ字だけでもよいかもしれない。最近 はオリンピックに備えて東京では道路案内標識もローマ字から英語表記に変わり、新地図 記号も導入が進んでおり、町中の標識なども外国人にもわかりやすいものが徐々に整備さ れている5)。英語話者ではない学習者にとっては、ローマ字表記の発音の仕方を勉強する 必要がある。スペイン語はローマ字読みをすればほぼ同じであるが、g や y の音などいく つかスペイン語とちがう発音をするものを、かな導入の前に練習した。かなに関しては、 カタカナを最初に導入することにした。第 1 日目に国と名前をカタカナで書いてモチベー ションを高め、2 日目以降はア行から 10 個ずつ 1 日 20 分∼ 30 分かけ導入していったが、 主に食べ物の名前を使って練習しメニューが読めるようになることを目標とした。それは、 学生食堂でも学外のレストランでもカタカナでのメニューの名前は多く、ひらがなとち がって、カタカナだけで語の意味がわかる場合が多いからである。復習を含め 9 日間でカ タカナの導入を終了する。カタカナ導入後、ひらがなを同じペースで導入した。カタカナ、

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ひらがなはスペイン語話者のために筆者が開発した「連想法カード」6)を使って導入し、 書きの練習も行った。これは、書けるようになるためではなく、あくまで読めるようにな るための書きの練習である。漢字については、テーマにあったもの中から学生に必要だと 思われるもの丼、牛肉、豚肉、鶏肉、男、女、無料、半額、学割、消費期限、危、などを それぞれの課で紹介した。ただし意味の理解が主である。

7.授業の流れ

7.1.1 コマの流れ  授業のはじめの約 10 分を用いて単語クイズ、文字クイズ、会話チェックを行った。授 業中に単語の定着をはかる時間があまりないので、単語は宿題として暗記させ、予習単語 5 問、復習単語 5 問の計 10 問、カタカナ、ひらがなは文字クイズとして 10 問、そして、会 話暗記のチェックを行った。  テキストの最後には表 2 シラバス表の can-do の部分のみを表にしたものを付けた。can-do 表は『まるごと』にならって can-の部分のみを表にしたものを付けた。can-do の横に星印をつけ、3 段階で評価するものであるが、 クイズの後に「今日できるようになること」を確認し、前の日に習った can-do についてど の程度できるようになったのか自己評価を行った。これは、学習目標の明示化(トムソン 2008)と自己評価によって到達度を客観的にみつめ、次のステップへの意欲と方向付け(梶 田 2010)を行うためである。  その日の目標を確認した後、具体的な場面について学生がすでに体験した場面について 聞いた。例えば、どんな飲食店に行って、どうやって注文したか。どこで買い物をしたか、 旅行に行ったときどうやって行ったか、必要な表現、困ったこと、わからなかったことは どんなことだったかなどを聞き、目標を具体化した。  次に必要な単語(宿題として意味を暗記してきたもの)を単語リストや絵カード、画像 などを使って確認した。  その後、必要な文型、表現を導入し、練習をした。練習は、文型によって多少異なるが、 代入練習や、インフォーメーションギャップやロールプレイなどを行った。また、文法を 整理するために書く練習問題も行った。最後に会話を読み、意味を確認し暗記を宿題とした。  文字の導入は毎日 10 文字ずつで、読みの練習は、カタカナの料理名、食品名などを主 に行った。  授業は主にスペイン語を使用した。学生はスペイン語母語話者が多く、ブラジル出身の ポルトガル母語話者の学生がいる場合でも、ほとんどのブラジル人学生がスペイン語を理 解したし、必要に応じて英語で補足説明も行った。

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7.2.サバイバル日本語に取り入れた要素  サバイバル日本語に必要である「即効性」および「単純化」を考慮し、取り入れた要素 を次に何点か挙げる。 ①否定形は練習しない。 名詞文、形容詞文については、グラマーノートに否定形も紹介しているが、文法項目の「単 純化」を念頭に練習はほとんどしていない。「いいえ」と答えてから、正しい肯定文を言 うという練習をした。   例 A:コロンビア人ですか B:いいえ、メキシコ人です。 各学生が否定形を使う興味と余裕があれば使っている。形容詞も過去形を紹介しているが、 「どうでしたか」と聞かれた場合でも現在形で答えても意味は通じるので、あえて練習は していない。 ②ストラテジーをいれる。 スーパー、コンビニ、ハンバーガーショップやファミリーレストランなどでは、接待マニュ アルが決まっているので、どのような場面でどのようなことを聞かれているのかがわかっ ていれば、日本語が全部理解できなくても対応が可能である。積極的にこのような場面を とりいれた練習をした。例えば、スーパーでポイントカードを持っているか、コンビニで 袋は必要か、温めるか、ハンバーガーショップで店内で食べるか、持ち帰るか、ファミリー レストランなどで、何名で来店したか、煙草を吸うかなどである。 ③生活、習慣について、中南米とのちがいを説明しながら行う。 例えば、レストランでの料金を支払う場所は中南米ではテーブルにウエイターが来て清算 するが、日本ではキャッシャーでするところが多いことやチップはいらないこと、ごみの 捨て方や電車などでの携帯電話の使い方など、折に触れて話すようにした。 ④ 課題達成型のテストを行う。 コースの半ば(2 課まで)と最後にテストを行ったが、文法や文字の他に課題達成型のテ ストも行った。例えば、「あなたの姪のために服を買いたいです。S サイズがあるか聞い てください。また値段も確認し、買うかどうか決めてください。」指示はスペイン語と英 語である。 ⑤ なるべく一つの言葉で色々な場面で応用の聞く表現を取り入れる。 例えば、「お願いします」「∼はありますか」「わかりません」「すみません」などである。

8.フォローアップ調査

8.1.日本語集中コースについて  日本語集中コースを終了し、上智大学の正規課程の留学プログラムに参加しはじめてか

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ら 1 ∼ 2 か月後にフォローアップ調査を行った。Can-do 表に関して、1 から 4 のスケール でそれぞれの can-do を使う頻度について調査を行った。(1 が使う頻度が最も低く 4 が一番 高い)対象者は 2018 年 3 月、9 月、2019 年 3 月、9 月のコースに参加した 28 名である。ま たどんな場面でどんな日本語をよく使うか、授業で習ったこと以外に特に日本語が必要と なった場面と表現について「場面」、「だれに対して」、「どのような表現」が必要かをスペ イン語か英語で自由に記述してもらった。その他、日常生活について、日本語使用に関し てインタビューをした。

 結果は、表 2 の Can-do の中で平均値が 3 以上あったものは、Exchange Greetings、Give a simple self introduction、Read a menu、Ask prices、Order food and drink in a restaurant、 Ask where it is、Do some shopping、Ask how to get to a particular destination by train、Ask how to get particular destination、Say some impressions、Say what your favorite Japanese dish is であった。自由表記から「あいさつ表現」で多く使われるのは「すみません」「あ りがとう」であった。「買い物の表現」でよく使うものとしては、「他 の色があるか」「他 のサイズがあるか」を半数以上が挙げていた。また「場所を聞く」もトイレ、駅、お寺、 バス停、コンビニなどの場所を聞くと記述していた学生が多かった。これは旅行に行った ときに特に使われたようである。最近では Google Map などの使用で場所を人に聞くこと はあまりないのではないかと想像していたが、特に聞く必要性があるものはトイレや出口、 駅の乗り場(番線)、バス停などであった。つまり、建物内の場所や施設を聞く必要があ るということがわかった。また、聞いた後の日本人の答えを理解するために、「まっすぐ」、 「まがって」、位置詞などは必要であるようだ。そして、交通機関を使ってどこかに行くと きに「〇〇駅に止まりますか」という表現が自由表記で多かった。電車の快速などに乗る 時にこの表現が使われるのであろう。また、インタビューでは、旅行の時にバスに乗ると きに「∼に行きますか」「∼行きのバス停はどこですか」の表現も必要であったという声 が多かった。そして、Say some impressions も平均値が高かったが、コース受講時の早い 段階から「暑い」「寒い」「すごい」「かわいい」「高い」などは使われており、導入時期と しては動詞の後にしたが、もっと早い段階での導入を考えてもよかったようだ。

  逆 に 平 均 が 2 点 以 下 で あ っ た の は、Say your phone number、room number、Say your birthday and ask your friend's birthday であった。これらは数字や月日の導入として can-do を考えたものであったが、あまり必要なかったかもしれない。また、Talk about your daily routine、Talk about the schedule for this weekも平均値が低かった。これらは、サバイバル において直接関係がないが、話すのであれば英語や母語で友人と話すということが考えら れる。また、Say where you want to go、what you want to do in Japan について、「V たい形」 を導入しているが、平均値は 2.8 で高くも低くもない。このように動詞はサバイバルには必

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8.2.マルチキャンパスについて  東京の上智大学での正規課程のプログラムに参加する前に、名古屋の南山大学で日本語 集中コースを受講するというこのプログラムについて、その必要性や意義について、集中 コース終了 1 ∼ 2 か月後に意見、感想を記述してもらった。必要性については全員が必要 であると答えており、学生の意見、感想は次のようなものであった。(筆者訳) 「日本語の学習だけに集中することができた。」「上智大学の日本語コースに参加している が、南山大学の集中コースで習ったことが大変役立っている。」「上智大学で専門科目の履 修と時間帯が重なったため日本語コースを受講できない人にとっては、南山大学の集中日 本語コースは欠かせないものである。」「この集中コースのおかげで東京でもサバイバルで きている。」  日本語集中コースの必要性とともに、短期集中というプログラムの学習の効率化を実感 しているようだ。上智大学へ行ってから日本語学習を続けられなかった学生については 「can-do シラバス」が効果を示しており、「サバイバルできる」という目標が達成された。 日本語学習を継続している学習者には「構造シラバス」の効果がその後の学習にも役立っ ているといえそうだ。  また、「名古屋という東京ほど大きくない町において日本語を習いながら日本に順応で きる時間がとれたことで、東京の生活がスムーズに始められた。」「日本語だけでなく、日 本の文化や習慣についても知る機会があってよかった。」「日本人の友達ができる機会が持 ててよかった。」「受講者同士で友好な関係が築け、上智大学でもその関係は続いていて留 学生活をより豊かなものにしている。」  などの意見から、マルチキャンパスという試みにおける名古屋滞在の期間は、日本語を 学ぶだけでなく、文化や習慣についての理解も深まり、日本人学生のみならず中南米学生 間の友人関係を築くことができ、その後の留学生活においてもよい効果がでていると言え そうだ。

9.最後に

 毎回、学生からのフィードバックを参考に細かいところを修正したり、付け加えたりし てコースを実施してきた。短期間で効率的に日本語を学べるというだけでなく、日本に興 味が湧くような授業を心がけてきたつもりである。うれしいことに学生からはこの日本語 集中コースを受講したおかげでサバイバルできたという意見が殆どであった。このように 中南米から日本という距離的にも文化的にも遠いと感じている学生が正規課程のプログラ ムの前の準備段階として、日本語や日本文化、社会について学ぶ時間が取れたこと、日本 人学生との人間関係を構築できる期間があったことは、その後の留学生生活を豊かなもの

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にしたのだと考えられる。「大学の世界展開力強化事業」LAP の南山大学、上智大学間の マルチキャンパスプログラムは、学生からよい評価をもらうことができており、文部科学 省の支援終了後も継続が決まっている。 (注) 1) 平成 27 年度大学教育再生戦略推進費「大学の世界展開力強化事業」計画調書 ∼中南米等との大学間交流形成支援∼ https://www.jsps.go.jp/j-tenkairyoku/data/shinsa/h27/h27tenkai_chousho_L7.pdf 2) 2016 年 3 月実施の第 1 回日本語集中コースはゼロ初級者を対象としたクラスのみでスタート したが、第 2 回以降はゼロ初級以外からの応募者もあったため、2 クラスを設置し一つをゼ ロ初級者対象、もう一つのクラスを初級者を主にしたクラスとなった。 3) 國頭(2013)は「日本語学習を第 1 目的としない、滞在期間が概ね 1 年以内の留学生」を短 期留学生」としている。 4) 上智大学日本語コース https://www.sophia.ac.jp/jpn/program/UG_policy/curriculum_policy_UG/ gogakukamoku.html 5) インバウンドらぼ(2017)「【記号・表記】東京オリンピック・パラリンピックに向け、着々 と進んでいるインバウンド対策」:https://inbound.coread.jp/2017/04/13/201155/(2019 年 5 月 30 日) 6) 社団法人 在亜日本語教育連合会 発行「カタカナ連想カード」 参考文献 梶田叡一(2010)『教育評価 第 2 版補訂 2 版』 有斐閣双書 pp.183―190 鹿島恵(2005)「初級準備段階としてのサバイバル・ジャパニーズのシラバ検討」『三重大学留学 生センター紀要』7, pp. 35―48 國頭あさひ(2013)「短期留学生のためのサバイバル日本語教育」『創価大学大学院紀要』35, pp. 243―263 国立国語研究所(2009)『「生活のための日本語:全国調査」結果報告<速報版>』https://www. ninjal.ac.jp/archives/nihongo-syllabus/research/pdf/seika_sokuhou.pdf(2016 年 2 月 1 日) トムソン木下千尋(2008)「海外の日本語教育の現場における評価―自己評価の活用と学習者主 導型評価の提案―」『日本語教育』136, pp. 27―37 日本語教育学会(編)(1990)『日本語教育ハンドブック』大修館書店

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Survival Japanese syllabus and practice report

for short-term international students

―Intensive Course at Multicampus―

Yuko MORI

Abstract

  This paper is a report on the Intensive Elementary Japanese Course for the Latin American Students Mobility Program at Nanzan University. This is a multi-campus program in which students attend a three-week Japanese course at Nanzan University before participating in a regular study abroad program at Sophia University. It can be said that these three weeks are a period in which students can adapt to life in Japan, not only studying survival Japanese but also culture, society, and customs and to feel comfortable in starting the program at Sophia University.

  We use a Can-do syllabus with an emphasis on achievement and a structural syllabus in preparation for continuous learning. As for letter learning, it was effective to introduce katakana prior to the introduction of hiragana so that the names of food can be understood. This paper reports the syllabus development and the implementation of the course.

KeyWords: Survival Japanese, Syllabus, Intensive Course, Short-term International Student, Multi-campus program

表 2 シラバス表

参照

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