介護事業関連企業におけるガバナンスの課題
-アンケート調査を踏まえて-
石井 和彦
キーワード:介護事業 ガバナンス 非営利企業 非営利組織 企業統治 要旨 介護保険を利用したサービスを行っている企業を介護事業関連企業と本論文では定義する。 介護事業関連企業は 2000 年の介護保険施行後に増加し、高齢社会の深化により、必要性がま すます増大している。 一方、日本国内の社会保障財源が厳しい中、法改正を重ねるごとに事業所への報酬が減少し、 介護事業関連企業にとって厳しい局面を迎える時代になってきているのも事実である。その ために今後更なる効率化を持続的に高めていかなければならなく、介護事業関連企業のサス テナビリティの危機に直面しているといっても過言ではない。 介護事業関連企業の大きな特徴は、社会的弱者たるサービス利用者が最も重要なステーク ホルダーであることである。つまり、サービス提供の有無が利用者の生活を直撃するのである。 その視点においても介護事業関連企業のサステナビリティを担保するためのガバナンスの確 立が最重要課題になると考える。 介護事業関連企業においてガバナンスの問題が引き起こした問題点は大きく分けて 2 つに 分けることができる。1 つ目は 2007 年のコムスン事件が象徴しているような不正請求などに よる指定取り消し処分であり、2 つ目は近年マスメディアで頻繁に報道される、施設内職員 の利用者への虐待である。 では、介護事業関連企業においてこれらの問題を引き起こすガバナンスの問題は実際どの ような要因で生じるのであろうか。実際にアンケート調査を行っていく必要性を感じた。 本論文ではそのガバナンスを行っていく上での「意思決定」、「執行」、「監視」に関して、 ①経営方針・経営理念への明文化、②企業倫理綱領について、③ステークホルダー優先順位、 ④業績評価の目標・指標、⑤情報開示に関してのあり方、⑥コーポレート・ガバナンスの認知度、 ⑦ガバナンスのための組織、の項目を中心に全国 552 の介護事業関連企業に対してアンケー ト調査を行った。 このアンケート調査の結果を分析し、介護事業関連企業におけるガバナンスの特徴及び課 題点についての考察を行い、その問題要因を解決するための介護事業関連企業におけるガバ ナンスのフレームワークを提示していきたい。そして今後の介護事業関連企業のサステナビ リティのための示唆を行っていく。1. はじめに 世界においても類を見ない高齢社会を迎えている日本であるが、2013 年に高齢化率が 25.0%まで上昇し、団塊世代が 75 歳以上になる 2025 年には 30%を超えるといわれている。 それに対応すべく、介護保険制度が 2000 年から始まった。介護保険制度発足後、高齢問題を 解決すべく介護事業を行う企業が増加した。本論文では介護保険法に基づく介護事業を行っ ている企業を介護事業関連企業と定義する。高齢社会の深化により、介護事業関連企業の必 要性がますます増大する中、事業拡大に対する社会的要請が一層高まっている。その社会的 要請に対して適切に対応できることが重要であると考える。 一方、日本国内の社会保障財源が厳しい中、法改正を重ねるごとに事業所への報酬が減少し、 介護事業関連企業にとって厳しい局面を迎える時代になってきているのも事実である。その ために今後更なる効率化を持続的に高めていかなければならなく、介護事業関連企業のサス テナビリティの危機に直面しているといっても過言ではない。 社会的企業と呼ばれる企業の中に含まれると考える介護事業関連企業の大きな特徴は、社 会的弱者たるサービス利用者が最も重要なステークホルダーであることである。つまり、サー ビス提供の有無が利用者の生活を直撃するのである。その視点においても介護事業関連企業 のサステナビリティを担保するためのコーポレート・ガバナンス(以下、ガバナンス)の確 立が最重要課題になると考える。 ガバナンスについて菊池1)は、広義に理解すると企業がステークホルダーの要求や期待に 対応して適正な決定と執行活動が行われるように公正性・効率性の基準から経営者、組織構 成員をコントロールする機能およびシステムだと述べている。その「コントロール」につい ては、①特定の機関または組織が決定者や執行者を監視する、②決定者や執行者がみずから 自律的に自己規制を行う、ことの 2 つの意味が含まれている。 ガバナンスは、介護事業関連企業のサステナビリティにとって重要なのはいうまでもない。 コムスン事件などの不正請求は意思決定機関と執行機関が適正に活動を行えていなかったこ とが原因である。その結果、会社が解散する形となった。これらの背景から、本論文におい てガバナンスの定義を「意思決定機関と執行機関が適正に活動を行えるように公正性・効率 性の基準から経営者、組織構成員をコントロールする機能およびシステム」とする。この定 義の中には内部統制も含まれる。 近年介護事業運営において施設の火災や職員の利用者への虐待など事故や事件のニュース を目にするようになった。また、不正会計のコムスン事件などの問題も起きている。前述の 通り、介護事業関連企業においてステークホルダーに社会的弱者が含まれていることが特徴 の一つであるが、一般企業とは違う、それを踏まえた特別な経営方針を立ててそれを実行し ているかどうかの視点も必要であると考える。 これらを背景とし、本論文ではそのガバナンスを行っていく上での「意思決定」decision making、「執行」execution、「監視」supervising に関して、①経営方針・経営理念 business philosophy への明文化、②企業倫理綱領 Code of Ethics について、③ステークホルダー優先
順位、④業績評価 performance appraisal の目標・指標 performance indicator、⑤情報開示 に関してのあり方、⑥コーポレート・ガバナンスの認知度、⑦ガバナンスのための組織、の 項目を中心に全国 552 の介護事業関連企業に対してアンケート調査を行った。 このアンケート調査の結果を分析し、介護事業関連企業におけるガバナンスの特徴及び課 題点についての考察を行い、今後の介護事業関連企業のサステナビリティのための示唆を行っ ていきたい。 2. 介護事業関連企業の特徴と特徴 介護事業関連企業が介護保険下において行う介護事業には、居宅サービス 15 種類、施設サー ビス 3 種類、介護予防サービス 14 種類、地域密着型介護サービス 6 種類、地域密着型介護予 防サービス 3 種類が定められている2)。 また、介護保険サービス事業の特性に基づき再分類すると、①訪問型居宅サービス 5 種類(訪 問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導)、②居宅介 護支援サービス 1 種類、③通所・滞在型居宅サービス 4 種類(通所介護、通所リハビリテーショ ン、短期入所生活介護、短期入所療養介護)、④在宅生活支援型居宅サービス 2 種類(認知症 対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護)、⑤在宅生活支援型居宅サービス 3 種類(福 祉用具貸与、福祉用具購入費の支給、住宅改修費の支給)、⑥施設サービス 3 種類(介護老人 福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)に分けられる(図 1)。 図 1 介護保険サービスの種類 出所:宣賢奎「介護保険サービス事業の市場性」『共栄大学研究論集』第 7 号,2009,p67 介護事業関連企業についての大きな特徴は、営利企業と非営利企業共に居宅サービスにつ いては同様のサービスを行うことができるということである。また、施設サービスについて は非営利企業しか行うことができないという特徴もある。
3. 介護事業関連企業の問題背景 介護事業関連企業においてガバナンスの問題が引き起こした問題点は大きく分けて 2 つに 分けることができる。1 つ目は 2007 年のコムスン事件が象徴しているような不正請求などに よる指定取り消し処分であり、2 つ目は近年マスメディアで頻繁に報道される、施設内職員 の利用者への虐待である。 1 つ目に関して象徴的な事件はコムスン事件であるが、コムスンは当時、訪問介護事業を 中心に展開を行っていた。積極的な展開に人員の確保が追い付かず、虚偽の人員登録や不正 請求を行っていたことが問題となった。そして不正の結果としての指定取消処分となった。 このような背景に各介護事業の競合度を含めた事業の特性がある。平成 18 年度~ 22 年度の 指定取り消し処分の理由と年次推移は図 2 のように示される。 図2 指定取消事由の年次推移(平成 18 年度~ 22 年度) 出所:厚生労働省資料 また、指定取消処分のあった事業所数もコムスン事件以降も減少傾向にはなっていないの も明らかである(図 3)。
図3 指定取消処分のあった介護保険施設・事業所内訳(年度別、平成 12 年度~ 22 年度) 出所:厚生労働省資料 もう 1 つの問題点である、施設職員等の虐待の問題背景要因として認知症介護研究・研修 仙台センター3)は、図 4 のように組織運営(理念とその共有の問題、組織体性の問題、運営 姿勢の問題)、チームアプローチ(役割や仕事の範囲の問題、職員間の連携の問題)、ケアの 質(認知症ケアの問題、アセスメントと個別ケアの問題、ケアの質を高める教育の問題)、倫 理観とコンプライアンス(“非”利用者本位の問題、意識不足の問題、虐待・身体拘束に関す る意識・知識の問題)、負担・ストレスと組織風土(負担の多さの問題、ストレスの問題、組 織風土の問題)の 5 つに分けて示している。これらの問題背景はガバナンスの欠如の結果に より発生する要因が多いことが考えられるが、実際にどのようにガバナンスを効かせていけ ば良いのかという記述は少ない。今後ガバナンスの視点から虐待を考えていくことも必要で あると考える。
図4 養介護施設従事者等による高齢者虐待の背景要因 出所:認知症介護研究・研修仙台センター『平成 19 年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金(老人 保健健康増進事業分)事業 高齢者虐待を考える 養介護施設従事者等による高齢者虐待防止のための 事例集』p17 このように介護事業関連企業のガバナンスの欠如により、不正請求や指定基準違反、施設 職員の利用者への虐待などが引き起こされることが理解できるが、介護事業関連企業におい て実際にガバナンスの問題はどのような要因で生じるのであろうか。実際にアンケート調査 を行っていく必要性を感じた。そしてその問題要因を解決するための介護事業関連企業にお けるガバナンスのフレームワークを提示していきたい。 4. アンケート概要・特徴 (1)アンケート基本設計 本論文においてのアンケート調査の目的は、日本国内における介護事業関連企業のガバナ ンスの体制・取り組みを把握し、そのガバナンスを行っていく上での「意思決定」、「執行」、 「監視」機能の現状と問題点を把握するとともに、分析フレームワークを提示し、介護事業関 連企業のサステナビリティ確保のための示唆を追究することである。アンケートの目的を踏 まえ、本アンケート調査の質問票について、全国の介護事業を行っている全国各都道府県の 介護保険適用事業所を所有している 552 の企業の経営者に対して、各都道府県ごとに大・中・ 小規模の企業を営利企業・非営利企業それぞれ各 1 ~ 2 ずつ厚生労働省「介護事業所検索」
システムから無作為抽出し、質問票を送付した。 事業規模に関しては大:8 事業所以上(又は 301 人以上)、中:4 ~ 7 事業所(又は 51 ~ 300 人) 小 1 ~ 3 事業所(又は~ 50 人)人 とした。但し、居宅介護支援事業所に関しては多数が事 業所の規模が小さいことから 1 つに数えないこととした。また、同一建物で違う事業所が組 み込まれている場合は 2 つで 1.5 ~ 2 事業所の換算を規模により行った 送付した 552 のうち、 2 つは所在地不在で届かず、1 つは事業所廃止とのことで未記入のまま返送された。返送され た数は 82 であった。回収率は 14.8%であった。 全国で介護保険適用サービスを提供している法人数を調査しているものが存在していない が、事業所数は 2014 年 5 月末現在4)、居宅サービス事業所数が 122,217(介護予防は併用し ている事業所がほとんどなので除いた)、施設サービス数が 12,394 である。1 つの法人で複数 のサービスを行うことが多いので、法人数はその数の数分の 1 であると考える。 アンケートの調査項目については、各企業の開設主体、開設年次、施設数役員数、従業員数、 総売り上げ高に対する介護事業の売上高の割合、役員数などの情報に加えて、コーポレート・ ガバナンスの認知、経営理念の明文化、企業倫理綱領の明文化、ステークホルダーの優先順位、 業績評価、情報開示、ガバナンスのための組織の設置、理事会・取締役会で頻繁に取り上げ られた議題、中小規模のガバナンス対策、ガバナンスに関する制度上の問題などを中心とし たものにした。 (2)本アンケートの特徴 このような営利企業を含めた介護事業関連企業に関するガバナンスに関してのアンケート 調査は過去にほとんど行われておらず、関連した以下の 3 つの調査が行われているのみであ る。 1 つ目の調査は、社会福祉法人を対象とし、過去に平成 20 年に社団法人シルバーサービス 振興会が行った「介護サービス分野における経営品質とコンプライアンスに関するアンケー ト」5)があるが、コンプライアンスに焦点を絞っているアンケートである。 2 つ目の調査は、尾形らが行った「医療機関のガバナンスに関する調査研究」6)があるが、 地域が九州地域限定であり、対象が医療機関である。 3 つめの調査は、社会福祉法人に対してみずほ情報総研株式会社7)が行った『特別養護老 人ホーム等を経営する社会福祉法人のガバナンスの強化方策に関する調査研究事業報告書』 がある。これは社会福祉法人も施設運営から法人経営への転換が求められている中で、情報 開示や、経営理念から経営ビジョン、そして経営戦略へつなげていくために PDCA サイクル を回すための分析をアンケートと事例調査にて行っている。営利企業に関しての調査はされ ていない。 このように過去に介護事業関連企業において、ガバナンスに関連して行動規範・倫理綱領、 業績評価についての質問を非営利・営利企業に対して行ったアンケート調査が本アンケート 以外にはなく、本アンケートの独自性の高さを示している。
5. アンケート回答企業について 当アンケート調査に回答された介護事業関連企業は 82 であった。それらの企業の開設年次、 ②常勤総数、③総売上高に対する売上高の割合についての結果をこの項で示す。 ①開設年次 表1 開設年次 母 数 開設年次 1950 年代 1960 年代 1970 年代 1980 年代 1990 年代 2000 年代 2010 年代 無回答 82 3 1 6 13 10 40 6 3 100.0 3.7 1.2 7.3 15.9 12.2 48.8 7.3 3.7 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 回答企業の開設年次の内訳は表 1 のような結果となった。2000 年以降の企業が半数を超え ているが、これは介護保険制度が 2000 年より施行された背景があると考える。 ②常勤総数 表2 理事や取締役、監査役、監事など役員を除く従業員の総数 母 数 常 勤0 ~ 10 人 11 ~ 20 人 21 ~ 50 人 100 人51 ~ 150 人101 ~ 151 ~200 人 201 ~250 人 251 ~300 人 1006 人 無回答301 ~ 82 20 11 12 12 5 5 2 1 9 5 100.0 24.4 13.4 14.6 14.6 6.1 6.1 2.4 1.2 11.0 6.1 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 回答企業のうち、常勤 100 人以下が全体の 67.0%、300 人以下の企業が全体の 82.9% を占 めており、中小規模の企業が多数を占めていることを示している。 ③総売上高に対する売上高の割合 表3 総売上高に対する介護事業の売上高の割合 総売上高に対する介護事業の売上高の割合 母 数 10% 未満 10 ~20% 未満 20 ~ 30% 未満 30 ~ 40% 未満 40 ~ 50% 未満 50 ~ 60% 未満 60 ~ 70% 未満 70 ~ 80% 未満 80 ~ 90% 未満 90 ~ 100% 未満 100% 無回答 82 5 2 5 1 2 2 7 2 12 18 19 7 100.0 6.1 2.4 6.1 1.2 2.4 2.4 8.5 2.4 14.6 22.0 23.2 8.5 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014)
総売上高に対する介護事業の売上高の割合が 80%以上の企業は全体の 59.8%を占めており、 介護事業の主たる事業としている企業の割合が高かった。 以上の結果より、本アンケートの回答企業に関して介護保険制度施行以降設立し、介護事 業を主たる事業としている中小規模の企業が多くの割合を占めていることが明らかになった。 6. アンケート結果・分析 本項では、ガバナンスに直接かかわる 7 つの質問項目①経営方針・経営理念への明文化、 ②企業倫理綱領について、③ステークホルダー優先順位、④業績評価の目標・指標、⑤情報 開示に関してのあり方、⑥コーポレート・ガバナンスの認知度、⑦ガバナンスのための組織 に対しての回答結果と分析を行っていく。 ①経営方針・経営理念への明文化 介護事業関連企業においての経営方針や経営理念の明文化について、「貴法人では社会福祉・ 介護事業についてのお考えを経営方針・経営理念などの中に明文化しておられますか」とい う質問に対して、表 4 のような結果が出た。 表4 経営方針・経営理念への明文化 母 数 経営方針等の明文化 明文化している 明文化はしてないが、 検討中である 明文化はしていない 82 74 5 3 100.0 90.2 6.1 3.7 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 介護事業関連企業には様々な利害関係者が存在している背景もあり、ミッションを遂行す る為には、価値前提での意思決定の明確化が必要であり、そのためには事業目的や信頼性を 経営理念や経営方針等を明文化し、計画を立てる必要性があると考える。 本アンケート調査の結果から明文化している企業が 90.2%を占めており、高い割合である ことが明らかになった。 ②企業倫理綱領について 企業倫理綱領の明文化・教育、基づいた人事評価について、「望ましい従業員像・行動規範 (企業倫理綱領)といわれるものについて、貴法人では次のいずれを実施しておられますか。 該当する番号に○をつけてください。(複数回答可)」という質問に対して、以下の結果を得た。
表5 企業倫理綱領について 企業倫理綱領を 明文化している 企業倫理綱領につ いて定期的に教育 を行っている 企業倫理綱領に基づ いて定期的に人事評 価を行っている どれも行って いない 事業規模小 15 8 8 3 事業規模中 18 15 7 6 事業規模大 14 9 8 0 計 47 32 23 9 100.0 42.3 28.8 20.7 8.1 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 前項の「経営理念の明文化」を行っている企業が 74 に対して、企業倫理綱領の明文化を行っ ている企業は 47 という結果となった。更に、企業倫理綱領についての教育やそれに基づいた 人事評価についてはそれぞれ 32 企業、23 企業となり、経営理念の明文化を行っていながら、 企業倫理綱領に関して従業員への浸透を行っている取り組みが少ない結果となった。 前述の通り、施設職員が利用者への虐待が問題視されている状況において、企業倫理綱領 の明文化やそれに基づいた教育や評価が重要であると考えるが、現状として取り組みを行っ ている介護事業関連企業の割合が少ないのは問題であると考える。 事業規模別ではどれも行っていないと回答した企業は事業規模小が 3 で、中が 6、大が 0 であった。規模が大きい介護事業関連企業については倫理綱領について取り組んでいること が示された。 ③ステークホルダー優先順位 介護事業においての利害関係者に関しての優先順位について、「介護事業経営は誰のために 行っているとお考えになりますか。次の選択肢について優先する順位をつけ、( )内に 5 つ まで順位をご記入ください」という質問に対して、以下の結果を得た。そしてそれぞれの利 害関係者について集計を行った。 表6 利害関係者優先順位(利用者) 母 数 利用者 1位 2位 3位 4位 5位 82 61 15 4 2 0 100.0 74.4 18.3 4.9 2.4 0.0 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 利用者に関しては 1 位の割合が 74.4%と極めて高いことが明らかになった。介護事業関連 企業において利用者重視ということを示している。
表7 利害関係者優先順位(従業員) 母 数 従業員 1位 2位 3位 4位 5位 77 11 24 32 8 2 100.0 14.3 31.2 41.6 10.4 2.6 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 従業員に関しては、2 位と 3 位が高く、合わせて 72.7%を占める結果となった。 表8 利害関係者優先順位(地域社会) 母 数 地域社会 1位 2位 3位 4位 5位 81 22 27 23 9 0 100.0 27.2 33.3 28.4 11.1 0.0 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 地域社会に関しても上位を占めている。1 位が 27.2%、2 位が 33.3%、3 位が 28.4%であった。 上位 1 位、2 位、3 位を合わせて 88.9%となっており、地域社会を重視していることが明らか になった。 このように介護事業関連企業における利害関係者の上位優先順位 3 つは、利用者、地域社会、 従業員という結果となった。 ステークホルダーに社会的弱者である利用者が含まれる特徴のある介護事業関連企業にお いて、このような結果がでたことは事業本来の目的をしっかり把握した上で事業を行ってい ることが言えるのではないか。 アメリカの代表的な企業である、J&J社のクレド(Our Credo)についても菊池(6)が述 べているように、同社の経営が「第一に」患者とその家族、医師、看護師など同社の顧客(医 薬品メーカーであることから)のために行われることを明らかにしており、「第二に」従業員 および家族、「第三に」地域社会、「第四に」株主のためにというように優先順位を明確にし た方針を示しており、本アンケート調査の介護事業関連企業における上位 3 つに関しては(2 位と 3 位が逆であるが)全て一致しているということも注目したい。 表9 利害関係者優先順位(行政・政府) 母 数 行政・政府 1位 2位 3位 4位 5位 26 1 0 1 7 17 100.0 3.8 0.0 3.8 26.9 65.4 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014)
表 10 利害関係者優先順位(理事長・経営者本人) 母 数 理事長・経営者本人 1位 2位 3位 4位 5位 24 2 0 3 5 14 100.0 8.3 0.0 12.5 20.8 58.3 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 表 11 利害関係者優先順位(法人自身) 母 数 法人自身 1位 2位 3位 4位 5位 61 7 4 7 32 11 100.0 11.5 6.6 11.5 52.5 18.0 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 表 9 から表 11 については、行政・政府の 4 位と 5 位を合わせて 92.3%、理事長・経営者本 人の 4 位と 5 位を合わせて 79.2%、法人自身の 4 位と 5 位を合わせて 70.5%であった。それ ぞれ 4 位と 5 位に高い割合があることが明らかになった。 表 12 利害関係者優先順位(出資者・投資家) 母 数 出資者・投資家 1位 2位 3位 4位 5位 6 0 0 0 1 5 100.0 0.0 0.0 0.0 16.7 83.3 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 表 13 利害関係者優先順位(取引先銀行) 母 数 取引先銀行 1位 2位 3位 4位 5位 4 0 0 0 1 3 100.0 0.0 0.0 0.0 25.0 75.0 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 表 14 利害関係者優先順位(取引先企業) 母 数 取引先企業 1位 2位 3位 4位 5位 3 0 0 0 1 2 100.0 0.0 0.0 0.0 33.3 66.7 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014)
表 15 利害関係者優先順位(系列企業集団) 母 数 系列企業集団 1位 2位 3位 4位 5位 4 0 0 0 0 4 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 100.0 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 表 12 から表 15 から、出資者・投資家、取引先銀行、取引先企業、系列企業集団に関して 重視している企業はほとんどないことが明らかになった。 表 16 利害関係者優先順位(その他) 母 数 ※その他 1位 2位 3位 4位 5位 6 1 4 1 0 0 100.0 16.7 66.7 16.7 0.0 0.0 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 表 16 から、その他に関しては全て利用者の家族という回答であった。 以上の介護事業関連企業における利害関係者の優先順位から、他の一般的な企業とは違う 介護事業関連企業の利害関係者に対する考え方の特性が明確になったのではないかと考える。 特に上位の 3 つの利用者、地域社会、従業員となり、4 位と 5 位は行政・政府、理事長・経 営者本人、法人自身の何れかという傾向が明らかになった。 ④業績評価の目標・指標 介護事業関連企業においての業績評価指標について、「貴法人では、社会福祉・介護事業の 業績評価としてどのような目標・指標を利用しておられますか。該当する番号に○をつけて ください(複数回答可)」という質問に対して、以下の結果を得た。 表 17 業績評価の目標・指標 利益目標のみ 売上目標のみ 利益・売上 目標の両方 利益・売上目標 では不十分 独自の指標を 利用している 事業規模小 0 0 10 11 8 事業規模中 0 1 22 8 3 事業規模大 0 3 11 4 6 計 0 4 43 23 17 100.0 0.0 4.6 49.4 26.4 19.5 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014)
介護事業関連企業における業績評価については売上、利益と売上両方と回答した企業が全 体の 54.0%を占めていた。半数超の企業が利益や売り上げを業績評価において最も重視して いることが明らかになった。また、独自の指標を利用している企業も 17 企業あることが明ら かになった。 この結果は、前述のアンケート結果から介護事業関連企業が重視している利用者と地域社 会と従業員に対しての取り組みを評価する仕組みや姿勢が少ないことを示しているのではな いかと考える。事業継続のためには当然売り上げや利益が重要ではあるが、介護事業関連企 業に関してはそればかり重視することは問題であると考える。しかし、事業規模別では事業 規模が小さい企業の方が利益・売り上げ重視ではない傾向が中・大規模に比べて見られた。 業績評価を売り上げや利益以外で独自の指標を行っている介護事業関連企業も 20%弱見ら れたが、その独自の指標に関しての自由記述については、以下の通りになった。 表 18 業績評価の独自の指標(自由記述) 顧客満足、サービスの質 :14 自己評価、従業員評価 :11 地域への貢献度、認知度 :8 人材の定着率、離職率 :3 施設入居率、利用率、稼働率 :3 外部評価、第三者評価 :2 従業員満足 :2 売上・利益 :1 地域住民の就職者数 :1 次世代の育成 中高年の働く場の提供 :1 理念に基づいた目標に対し、業務監査を受けながら事業をすすめています:1 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) これらの記述から、大きく分けて顧客満足・サービスの質と自己評価・従業員評価の 2 つ が多いことが明らかになった。前述の通り、重要視している利害関係者に関係する評価項目 と一致していることを示している。重要視している 3 つの利害関係者に対しての取り組みを 業績評価として行っている介護事業関連企業とそうではない介護事業関連企業が分かれてい るということも明らかになった。 ⑤情報開示に関してのあり方 介護事業関連企業における経営情報の開示について、「経営情報(財務諸表等)を開示する ことについて、経営者としてのあなたのお考えに最も近いものはどれですか。該当する番号 に○をつけてください」という質問に対して、以下の結果を得た。
a) 開示のあり方について 表 19 情報開示に関してのあり方 積極的に開示 すべきである 開示すべきである 開示はやむを得ない 開示すべきではない 分からない 事業規模小 5 15 3 2 2 事業規模中 11 9 8 3 4 事業規模大 5 8 5 1 1 計 21 32 16 6 7 100.0 25.6 39.0 19.5 7.3 8.5 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 「積極的に開示すべきである」と「開示すべきである」を合わせると 64.6%となった。一方、 「開示すべきではない」は僅か 7.3%であった。また、「わからない」が、8.5%あり、「開示は やむを得ない」が 19.5%あった。開示すべきである企業が半数を超えるものの、積極的では ない企業も一定割合あることが明らかになった。事業規模別においては、中規模の企業が積 極的に開示すべきでるという割合が高かった。この結果はそれぞれの介護事業関連企業によっ て、情報開示の意識が違っていることを示していると考える。 b)開示すべき対象について a)の回答の「積極的に開示すべきである」か「開示すべきである」、「開示はやむを得ない」 の何れかを選ばれた企業のみに対して、「開示すべき対象について(複数回答可)」という質 問に対して、以下の結果を得た。 表 20 経営情報を開示すべき対象について 母 数 すべての 経営情報を開示すべき対象について 利害関係者 地域の住民 利用者とその家族 施設・法人の全従業員 施設・法人の管理職 わからない 142 33 17 26 35 29 2 100.0 23.2 12.0 18.3 24.6 20.4 1.4 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 「すべての利害関係者」が 33 企業、「地域の住民」が 17 企業、「利用者とその家族」が 26 企業、 「施設・法人の全従業員」が 35 企業、「施設・法人の管理職」が 29 企業と経営情報を開示す べき対象については回答が分かれた形になった。介護事業関連企業において、現状として経 営情報の開示対象について企業によって違うことが明らかになった。施設・法人内の従業員 や管理職に対してという割合は合わせて 45%になり、内部での情報開示に関心がある割合が 高いということも言えるのではないかと考える。
c)経営情報の開示について a)の回答の「積極的に開示すべきである」か「開示すべきである」、「開示はやむを得ない」 の何れかを選ばれた企業のみに対して、「経営情報の開示の現状について(複数回答可)」と いう質問に対して、以下の結果を得た。 表 21 経営情報の開示の現状について 母 数 経営情報の開示の現状について すべての利害 関係者に開示 している 地域の住民に 開示している 利用者とその 家族に開示し ている 施設・法人の 全従業員に開 示している 施設・法人の 管理職に開示 している 開示して いない 120 27 10 15 27 37 4 100.0 22.5 8.3 12.5 22.5 30.8 3.3 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 経営情報の開示の現状について、「すべての利害関係者」が 27 企業、「地域の住民」が 10 企業、 「利用者とその家族」が 15 企業、「施設・法人の全従業員」が 27 企業、「施設・法人の管理職」 が 37 企業と b)で回答された企業の数より「施設・法人の管理職」以外は少なくなった結果 となった。実際の経営情報の開示の現状としては「すべき」に対して少ないことが明らかになっ た。 さらに、前述のb)に対して、施設・法人内の開示については合わせて 53.3%と半数を超 えており、8%以上高い結果となった。この開示の現状についても実際には内部にて行ってい る介護事業関連企業の割合が高いことが明らかになった。 ⑥コーポレート・ガバナンスの認知度 コーポレート・ガバナンスに関する経営者の認識について、「コーポレート・ガバナンス」 という言葉をご存じでいらっしゃいますか。該当する番号に○をつけてください」との質問 に対して、以下の結果を得た。 表 22 コーポレート・ガバナンスに関する経営者の認識について 十分理解している ある程度理解 している 聞いたことがある 聞いたことはない 事業規模小 1 10 12 4 事業規模中 8 15 7 5 事業規模大 5 9 2 4 計 14 34 21 13 100.0 17.1 41.5 25.6 15.9 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 「十分理解している」と「ある程度理解している」を合わせると 58.5%であるが、「十分理
解している」企業は 17.1%であった。また、「聞いたことがある」が 25.6%、「聞いたことはない」 が 15.9%という結果となり、コーポレート・ガバナンスに関する経営者の認識は決して高く はないということが明らかになった。更に事業規模別では、小規模の企業が顕著に認識が低 いということが示された。介護事業関連企業において、ガバナンスの欠如が問題視されてい る現状の中、経営者へのガバナンスについての認知度を早急に高めていく必要性があると考 える。 ⑦ガバナンスのための組織 企業内にガバナンスのための特別の組織設置の有無について、「理事会・取締役会等の他に、 法人全体のガバナンス(事業運営上のチェック機能)のための組織を何か設けておられますか。 該当する番号に○をつけてください」という質問に対して、以下の結果を得た。 表 23 コーポレート・ガバナンスのための特別の組織設置について 設けている 設けていない 事業規模小 6 21 事業規模中 10 25 事業規模大 10 10 計 26 56 100.0 31.7 68.3 出所:経営行動研究所研究プロジェクト「社会福祉・介護事業に関するアンケート調査」(2014) 68.3%の介護事業関連企業においてガバナンスのための特別の組織は設けていないという 結果であった。事業規模別では規模が小さいほど組織の設置が少ない傾向が見られた。 一方設けているのは 31.7%であったが、具体的な名称及びメンバー、権限等についての自 由記述は以下の通りであった。 表 24 ガバナンスのための特別な組織について(自由記述) • 第三者委員会、機関、コンサルタント:11 • 内部監査、監事監査、企業内会議、役員会:8 • コンプライアンス委員会:3 • 運営推進会議:(利用者と家族、自治会長、行政当局、同業者、民生委員、専門的知見者等):2 • 家族会:2 ガバナンスのための特別な組織の具体的な名称等については、第三者委員会やコンサルと んとなど外部によるものが 11、内部監査など内部によるものが 8 であった。また、コンプラ イアンス委員会が 3、運営推進会議が 2、家族会が 2 という結果となった。 ガバナンスのための特別な組織を設置している介護事業関連企業はそれぞれの形でガバナ
ンスに取り組んでいることが明らかになった。 7. 介護事業関連企業におけるガバナンスの課題 これらのアンケート調査の結果から、介護事業関連企業におけるガバナンスの課題は大き く分けて①ガバナンスの認識が高くない、②企業倫理綱領の浸透が低いことと、③業績評価 が売り上げ・利益重視傾向であることの 3 つであると考えた(図 5)。 図5 介護事業関連企業におけるガバナンスの課題(筆者作成) ①ガバナンスの認識が高くない ②企業倫理の浸透低い ③業績評価:売り上げ・利益重視傾向 介護事業関連企業でも数多くの非営利企業が介護事業を行っているが、非営利企業のガバ ナンスに関して馬場8)は、理事等による管理体制が十分に整備されていない団体も少なくい ないと述べている。これは本アンケートから導き出された課題に直接つながっていると考え る。 また、武智9)は介護事業を行っている NPO のアカウンタビリティについて、しばしば現 場の人びとから「私たちはいいことをやっているんですから」「評価することは何事ですか」 という言葉が語られる。このような合理性の欠落した組織風土が成立した原因は、ヒューマ ン・サービスが動機づけを重視し、良好な人間関係のもとに組織運営されているからに他な らないと述べている。アカウンタビリティについては、本アンケート調査において、明らか にすることができてはいない。利害関係者についても地域社会を重視している結果がでてお り、この研究の結果からそこまではいえないのではないかと考える。 さらに河島10)は NPO 法人において、「社員」が構成する「総会」がガバナンスの最高機 関にあたり、「社員」は総会において議決権を行使できる人々を指すが、社員総会が法人の定 款変更、合併についてのみであり、他にはこれといった規定はないため、ガバナンスの最高 機関としての機能が働いていないことや、理事から社員総会へのアカウンタビリティは構造 上発生しないことについても述べている。 社会福祉法人のガバナンスの課題として、武居11)は理事の構成に地域の福祉関係者を入れ る要件や職員の理事数の制限があったことから、実質的なマネジメント機能を有した理事の 存在が少ない傾向にあり、規模が小さい法人が多い社会福祉法人において理事の構成が同族 の割合が高い場合が多く更に監事の機能が果たされていなく、いわゆる一つの施設の運営の 延長で行われている可能性も高いことを挙げている。更に監事に関しても監事の報酬が少な いため、法人内部でのチェック機能が十分にはたらかないことを挙げている。さらに学校法
人のような外部監査をすでに導入している法人はごく少数であるため、外部監査の活用の必 要性について述べている。河島10)、武居11)ともに図 5 の①ガバナンスのための組織設置が 少ないという原因がガバナンスに問題が起きるという結果と一致していると考える。 介護事業関連企業における営利企業のガバナンスについて、山口12)は、介護ビジネスに 起こりうる問題は、それが有する特殊性と密接に関連し、一方では介護サービスの供給主体、 他方では営利企業であるという、二つの側面を有することであり、この点において他の介護 サービス供給主体と目的・行動の面で異なる。それは、営利企業が利益の創出を存立基盤と することから、過度に経済性と効率性を重視することに対する懸念と関連すると述べている。 これは、図 5 の③の業績評価が売り上げ・利益重視傾向にあるという結果と一致しているこ とが理解できる。 また、2006 年に会社法の改正が行われたが、株式会社を取締役 1 人で開設を行うことができ、 資産要件もなくなったことから、小規模の会社においては前述のような NPO 法の問題と同 様の問題が起こりうると考える。 これらの課題から、介護事業関連企業において実際にどのようにガバナンスを行っていけ ばよいのかを次項で考える。 8. 介護事業関連企業のガバナンスのフレームワーク 介護事業関連企業のミッションは、高齢問題の解決に寄与していくことであると考える。 介護事業関連企業には様々な利害関係者が存在している背景もあり、ミッションを遂行する 為には、価値前提の明確化が必要ではないかと考える。そのためには事業目的や信頼性を明 文化し、計画を立てる必要性がある。そしてその計画が意識され計画通り実行できるかどう かの監視を行っていくことが重要であると考える。また、そのための業績評価をどのように 行っていくのかも重要である。具体的な数値化された目標についてもどう評価するのかも必 要であり、そもそも介護事業関連企業の業績評価はどうあるべきであろうか、財務中心で良 いのかという視点も忘れてはならないと考える。 アメリカでは Ahmed13)が非営利企業のガバナンスについて、経営幹部が行っていた伝統 的なものから、みなそれぞれが責任をもった役割をもちガバナンスを行っていくようになっ てきていることや、コンプライアンスや意思決定、投資、ミッション、ビジョン、バリュー の重要性、経営戦略、CEO や経営幹部のリーダーシップなど営利企業で実践されているガバ ナンスの取り組みの重要性についても述べられている。 これらの先行研究や本アンケート調査の結果より、介護事業関連企業におけるガバナンス のフレームワークを図 6 のように示す。
図6 介護事業関連企業のためのガバナンスのフレームワーク
意思決定
機関
執行機関
①経営者の参画
②情報開示
③倫理綱領の浸透
(計画・実行
←監視)
④業績評価
(利用者調査・業務評価)
介護事業関連企業は前述の通り、中小規模が多数を占めるため、大企業のようなガバナン スの仕組みをつくるのは難しいと考える。 組織を意思決定機関と執行機関に分け、それぞれの機関に対して「ガバナンスのための組織」 が監視をしていく仕組みが必要であると考えた。 そのガバナンスのための組織は、介護事業関連企業において問題が明らかになった、倫理 綱領の浸透や業績評価に対してのチェックを中心に行う。 倫理綱領の浸透については、倫理綱領の計画に対して実行が適切に行われているかどうか の監視を行っていく事が重要であると考える。 業績評価に関しては、重要な利害関係者に対しての評価である、利用者調査や事業評価を ガバナンスのための組織が行っていき、売り上げ・利益重視傾向に傾かないような監視を行っ ていくことが必要であると考える。そしてこれらを含め、地域社会に向けた情報開示をすす めていく。 このガバナンスのための組織のメンバー構成で重要であると考えたのは、経営者自らの組 織への参画である。これは、中小規模の企業において、大企業のようなガバナンスの仕組み をつくれないからということもあるが、介護事業関連企業という社会的企業のひとつである 役割を考えると、経営者自ら自己統治していくことで、利用者や地域社会、従業員に対して 有益になることができるからであると考える。藤井14)も社会福祉法人のガバナンスについて ガバナンス以前に経営の意思がない中で、チェックの仕組みだけがあっても意味がないとい う点、すなわち「意思をもった経営」の姿勢が問われている点が重要であると述べている。社会に信頼される企業をキー・コンセプトに経営者自己統治論を展開している平田光弘教 授のコーポレート・ガバナンス論15)を参考にしながら、筆者なりにアンケート調査の結果と 重ね合せて、介護事業関連企業に適切なフレームワークを図 6 のように考えた。(1)意思決 定機関と(業務)執行機関の区分が重要である。(2)意思決定機関として、取締役会あるい は理事会が位置づけられる。(3)介護事業関連企業においては、利用者が重要な利害関係者 であるが、利用者代表を意思決定機関に参加させることは困難である。そのために、別の機 関が必要である。(4)現在、十分に行われていない情報開示を積極的に進めていく必要があり、 それを推進していく部門が必要である。(5)企業倫理綱領の成文化を進めるとともに、それ が浸透していくための方策が重要であり、それが実現されているのかを監視する必要がある。 (6)最も重要な利害関係者である利用者の満足度を高めていくことが重要であるが、それが 実現されているのかをチェックすることが必要である。(7)(4)~(6)のことについて、経 営者が自ら責任をもって、対処する必要がある。(8)介護事業関連企業は中小規模の企業が 多数を占めるため、ニチイ学館のような上場企業で構築されている厳格な組織を作ることは 困難である。規模に応じた適正な組織づくりが求められる。 9. 研究結論と今後の研究の課題 本研究において、介護事業関連企業のガバナンスにおける課題は大きく分けて①ガバナン スの認識が高くないことと、②企業倫理綱領の浸透が低いことと、③業績評価が売り上げ・ 利益重視傾向の 3 つであることが明らかになった。 この 3 つの課題を解決すべく、図 6 のようなフレームワークを提示し、ガバナンスのため の組織を設置することや、その組織に経営者自ら参画する必要性を考察した。 今後このフレームワークに基づいて、ガバナンスが上手くいっている介護事業関連企業の 事例調査が必要と考えている。 今回の報告においてコーポレート・ガバナンスが有効に機能しているかについて、設問を 設けなかったために、自由記入で断片的に拾うしかなかったことや、業績評価の基準として、 利用者や従業員の視点の重要性を指摘し、「売り上げ・利益重視」を批判的に指摘したが、経 営が不安定で、黒字と赤字の間をさまよっている状況を反映している可能性がある。実際の 財務状況と結び付けて、考慮する必要性がある、という 2 つの課題が考えられる。今後詳細 な分析を行っていく必要性がある。 *謝辞 本論文の作成にあたり、アンケート調査を行うにあたってアンケート用紙の作成や調査に つい経営行動研究所研究プロジェクトの菊池敏夫先生、金山権先生、桑名義晴先生、土屋勉 男先生に助言や指導を頂き、心よりお礼を申し上げます。 2014.9.30 受付 2014.11.29 受理
注 1) 菊池敏夫/金山権/新川本(編著)『企業統治論-東アジアを中心に-』税務経理協会,2014 2) 宣賢奎「介護保険サービス事業の市場性」『共栄大学研究論集』第 7 号,2009,pp66 ~ 70 3) 認知症介護研究・研修仙台センター『平成 19 年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金(老人保 健健康増進事業分)事業 高齢者虐待を考える 養介護施設従事者等による高齢者虐待防止のための 事例集』p17 4) http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service13/dl/kekka-gaiyou_01.pdf(厚生労働省資料) 5) 社団法人シルバーサービス振興会『介護サービス分野における経営品質とコンプライアンスに関する アンケート調査票』2008 年 1 月 6) 尾形裕也/高木安雄/左座武彦「医療機関のガバナンスに関する調査研究」『医療と社会』14 巻 2 号, 2004,pp27 ~ 54 7) みずほ情報総研株式会社『特別養護老人ホーム等を経営する社会福祉法人のガバナンスの強化方策に 関する調査研究事業報告書』,2014 年 3 月 8) 馬場英朗「非営利組織のガバナンス - 市民主体によるモニタリングの理念と現実 -」『地域社会デザイ ン研究』第 1 号,2013,pp9 ~ 19 9) 武智秀之「公的介護保険と NPO」『総合都市研究』第 71 号,2000,pp21 ~ 32
10) 河島伸子「NPO ガバナンスの日米比較 -NPO 法人法における構造と課題 -」『The Nonprofit Review』 Vol.5,No1,2005,pp1 ~ 11 11) 武居敏『社会福祉施設経営管理論 2013』社会福祉法人全国社会福祉協議会,2013,pp12 ~ 13 12) 山口厚江「高齢者介護ビジネスと企業倫理」『経営学論集』第 74 号,2004,pp222 ~ 223 13) Shamima.Ahmed(2012)”Effective non-profit management”, CRCpress 14) 藤井賢一郎「社会福祉事業と経営(下)」『月刊福祉』90 巻 13 号,2007,p50 15) 平田光弘『経営者自己統治論』中央経済社,2008,pp3 ~ 4 および pp358 ~ 364 参考文献 石田道彦「社会福祉事業における第三者評価の意義と課題」『季刊社会保障研究』第 35 巻 3 号,1999, pp285 ~ 294 尾形裕也/高木安雄/左座武彦「医療機関のガバナンスに関する調査研究」『医療と社会』14 巻 2 号, 2004,pp27 ~ 54
河島伸子「NPO ガバナンスの日米比較 -NPO 法人法における構造と課題 -」『The Nonprofit Review』 Vol.5,No1,2005,pp1 ~ 11 菊池敏夫 / 太田三郎 / 金山権 / 関岡保二(編著)『企業統治と経営行動』文眞堂,2012 武居敏『社会福祉施設経営管理論 2013』社会福祉法人全国社会福祉協議会,2013 谷本寛治(編)『ソーシャル・エンタープライズ』中央経済社,2006 東京都社会福祉情人経営適正化検討会『社会福祉法人の経営適正化に向けて - 社会福祉法人が提供する福 祉サービスを利用者が安心して、持続的に利用できるために -』東京都福祉保健局指導監査部指導 調整課,2011 認知症介護研究・研修仙台センター『平成 19 年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金(老人保健健 康増進事業分)事業 高齢者虐待を考える 養介護施設従事者等による高齢者虐待防止のための 事例集』 藤井賢一郎「社会福祉事業と経営(下)」『月刊福祉』90 巻 13 号,2007,pp48 ~ 51 平田光弘「日本のコーポレート・ガバナンスを考える」『星城大学経営学部研究紀要』第 3 号,2007, pp5 ~ 26 P.F. ドラッカー(著)上田惇生(訳)『非営利組織の経営』ダイヤモンド社,2007 森宮勝子「介護ビジネス研究(Ⅶ)- コムスンの介護報酬不正請求 -」『経営論集』第 17 巻第 1 号,2007, pp109 ~ 125