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病院情報システムのデータを用いた看護必要度の推定

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Academic year: 2021

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医療情報学会・人工知能学会AIM 合同研究会資料 SIG-AIMED-007-09

病院情報システムのデータを用いた看護必要度の推定

○生土 博之

1

木村 知広

2

津本 周作

3 1

島根大学医学部附属病院看護部

2

島根大学医学部医療サービス課

3

島根大学医学部医療情報学

Abstract: 病院情報システムに蓄積されたデータを用いてクリニカルパス毎で重症度、医療・看 護必要度Ⅰの A 項目・B 項目の詳細を時系列で可視化し,幾何ブラウン運動モデルを仮定した 重症度判定による必要度の推測を行うシステムを開発した。

1. はじめに

病院情報システムは,基幹業務系データベースシ ステムであり,業務に適切な形式でデータを蓄積し ており,これらを診療の支援に用いるデータに変換 し,そのデータを可視化,解析することは難しい。 今回,我々は様々なデータベースで蓄積された基幹 業務系から情報系データベースを構築しつつ,可視 化・解析・シミュレーションを試みる統合的なシス テムを試作したので報告する。

2. 背景

平成30 年度診療報酬改定に伴い、入院基本料の施 設基準はより厳しいものとなってきている。施設基 準とは、診療行為の中には、保険医療機関が一定の 人員や設備を満たす必要があり、その旨を地方厚生 局に届け出て初めて点数を算定できるもので、この 満たすべき人員や設備を施設基準という。入院基本 料は、基本的な入院医療の体制を評価したもので、 医学的管理、看護、寝具類等を所定点数の中で包括 的に評価している。病院は一般病棟、療養病棟、結 核病棟、精神病棟、特定機能病院(一般病棟、結核 病棟、精神病棟)、専門病院、障害者施設等、診療所 は有床診療所、有床診療所療養病床の各入院基本料 がある。 今回の改定では入院基本料の施設基準の一つであ る重症度、医療・看護必要度の評価票が新たに見直 され、従来通りに日々、評価する方法を重症度、医 療・看護必要度Ⅰとし、新しくDPC 評価項目の診療 実績に基づいて重症度、医療・看護必要度の評価を 行う方法を重症度、医療・看護必要度Ⅱとして、各 医療機関がいずれかの評価方法を選択できる。 表1:重症度、医療・必要度Ⅰの評価票 (注)重症度、医療・看護必要度Ⅱでは A-8「救急搬送後の入院」は評価対象外

(2)

一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の評価票 (表1参照)は、A 項目・B 項目・C 項目から構成 されている。A 項目は、病棟における「創傷処置」 「シリンジポンプの管理」等の看護業務や、「心電図 モニターの管理」「専門的な治療・処置(抗悪性腫瘍 剤の使用)」「呼吸ケア(喀痰吸引のみの場合を除く)」 「救急搬送後の入院」等の看護職員等によるモニタ リング・管理を評価する8項目からなる。B 項目は、 病棟において、「寝返り」といった患者のADL の状 況や、「食事摂取」「衣服の着脱」といった療養上の 世話の内容から、各病棟内で患者が日常生活を送る 上で必要な看護業務量の程度を評価する7項目であ り,C 項目とは、自院の医療機関内において実施さ れた「開頭手術」「開胸手術」「開腹手術」等の手術 等の医学的状況を評価する7項目で構成される。 これを看護記録や看護実践の実施データを根拠に 日々評価していく方法が重症度、医療・看護必要度 Ⅰであるのに対して、A 項目及び C 項目に対応する 診療報酬請求区分について、診療実績データを用い て、重症度、医療・看護必要度のB 項目と併せる方 法が重症度、医療・看護必要度Ⅱである。 島根大学医学部附属病院が算定している特定機能 病院(一般病棟)の入院基本料の施設基準では、重 症度、医療・看護必要度Ⅰの基準を満たす患者割合 が28%以上もしくは、重症度、医療・看護必要度Ⅱ を満たす患者割合が 23%以上であることが求めら れ、基準を満たすとは、重症度、医療・看護必要度 の評価項目において、次のいずれかに該当する患者 のことである。 ① A 得点2点以上かつ B 得点3点以上 ② A 得点3点以上 ③ C 得点1点以上 ④ A 得点1点以上かつ B 得点3点以上で、「B14 診療・療養上の指示が通じる」又は「B15 危 険行動」に該当 島根大学医学部附属病院は現在、重症度、医療・ 看護必要度Ⅰで施設基準を満たしているが、重症度、 医療・看護必要度Ⅱでは満たしていない。重症度、 医療・看護必要度Ⅰでは、日々看護職員が評価して いるが、「評価の手引き」を理解していなかったり、 思い込みで評価したり、評価者によって評価に差が 生じてしまう可能性が高く、安定した重症患者割合 を担保していくことは簡単ではない。また、入院期 間の短縮化に伴い、めまぐるしく変化していく患者 状況を予測し、どのように重症患者割合が変化する ことを推測することは容易ではなく、入院基本料の 施設基準を満たさなくなってしまうことは、病院経 営の根源を失うことになる。 入院してくる患者が基準を満たすかどうか、経時 的変化を即時的に分析できることは、診療・病院経 営の支援のために重要である。 そこで、病院情報システムより必要なデータをさ まざまな基幹系データベースから抽出し,クリニカ ルパス適応患者の重症度、医療・看護必要度Ⅰの変 化を時系列に可視化することで、将来の重症度、医 療・看護必要度Ⅰを推定する方法を考案した。 この推定法を用いることで,クリニカルパス終了 時の重症度、医療・看護必要度Ⅰの情報から、適応 期間の妥当性や、退院時の患者のADL の状況がわか り、退院を見据えた医療提供の質改善を支援でき, 重症度、医療・看護必要度のA 項目がどのように変 化していくかを確認すること診療実績データの一つ である処置オーダーをクリニカルパスの構築が支援 できる。例えば,重症度、医療・看護必要度Ⅰで「心 電図モニターの管理」を「あり」として1点加算し ている日に、処置オーダーの「呼吸心拍監視」設定 する事で、診療実績データがより正確になり、重症 度、医療・必要度Ⅱの上昇も期待できる。

3. 方法

3.1 DWH の構築

本システムの構築に必要なデータは,病院情報シ ステム内に分散的に蓄積されている。これらを統合 し,解析に必要なDWH の構築を試みた。 3.1.1 クリニカルパスに関係するデータ抽出 (1) 抽出対象期間の開始日、終了日を入力 (2) パス開始日が処理(1)で指定した抽出対象期間内 のデータを対象として、HIS の【クリニカルパス登 録DB】から、患者 ID、クリニカルパスコード、ク リニカルパス名、パス開始日、パス終了日、パス基 準日、基準日からの日数(最大値・最小値)、アウト カムに”退院”の文字が含まれる情報を抽出 (3) 処理(2)で抽出した患者のパス基準日が入院期間 にかかる入院データを対象として、HIS の【入院 DB】 から 入院日、退院日を抽出 (4) 処理(3)で抽出した入院日、退院日の間にある手 術データを対象として、HIS の【手術実施情報 DB】 から 手術日を抽出 (5) 抽出したデータをクリニカルパス DWH として 出力 3.1.2 看護必要度の抽出 (1) 抽出対象日として抽出処理する日の前日を指定

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(2) 処理(1)で指定した日付を対象として、HIS の【日 別病棟別患者DB】から、患者 ID、入院病棟を抽出 (3) 処理(2)で抽出した患者を対象として、HIS の【入 院DB】から 入院診療科、入院日、退院日、外泊情 報を抽出 (4) 処理(2)で抽出した患者を対象として、HIS の【患 者DB】から 患者氏名、年齢を抽出 (5) 処理(3)で指定した日付、処理(2)で抽出した患者 を対象として、【看護必要度データファイル】から指 定日付が評価日となっている看護必要度の各項目の 値を全て抽出 (6) 処理(5)で抽出した看護必要度の値で、各項目そ れぞれの最高値を算出 (7)抽出したデータを必要度 DWH として出力

3.2 可視化プログラム

以下のようなプロセスで可視化するプログラムを開 発した。 (1) クリニカル DWH:入院日とクリニカルパスの 適応開始日が一致し、退院日がクリニカルパスの適 応期間に一致した典型的なクリニカルパスと、どち らか一方もしくは両方がことなる特異的なクリニカ ルパスとに分類。 (2) クリニカルパスの入力から、該当する患者 ID, 入院日から退院日までの日付でユニークコードを自 動作成。 (3) データ必要度 DWH:365 日分のデータを一つ にまとめ、患者ID 日付で共有できるユニークコード を自動作成。 (4) 共通したユニークコードを Key として、入力 させた重症度、医療・看護必要度の項目のデータを 出力。それを入院日から退院日の順に並べ、x軸を クリニカルパスの適応期間に合わせ,棒グラフで出 力。 (5) クリニカルパスと表示したい重症度、医療・看 護必要度Ⅰの項目を入力することで、時系列でのグ ラフ表示、クリニカルパス適応期間、抽出した期間 内のクリニカルパスの適応患者数、手術がある場合 は入院後何日目に手術があるのかを出力。A 項目は 総合点の平均値,B 項目はベースラインからの差分 の平均値の時系列を表示した。 図1 と図 2 は口蓋扁桃腺摘出術の A 項目(総合) の入力と出力した結果である。プロットは総合点の 平均値を用いた。 B 項目は、入院時の ADL のベースラインが一定で ないことから,今回の入院によってADL がどう変化 したのかがわかるように、入院時のB 項目と比較し た差分の平均値も可視化した (図 3)。 図 1 入力画面 (口蓋扁桃腺摘出術) 図2: A 項目の時間的推移 (口蓋扁桃腺摘出術) 図3:B 項目の差分

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3.3 シミュレーション

以上の可視化プログラムによって得られたA 項目, B 項目の平均値をベースラインとして,クリニカル パス適応日数の重症度の推定値を以下のように算出 した。 (1)あるポイントで【基準を満たす】かどうかのグラ フの実の値の平均の得点を抽出。 (2) 各患者に1:基準を満たす重症患者, 0: 基準を満 たさない非重症患者を割り当てる。 (3) 各患者に0~1の乱数(RAND)を与え、その結 果が平均値以下であれば1(重症患者),それ以上で あれば0(非重症患者)として,次のポイントの平 均値を求める。 (4) (1-3)をポイントの数だけ繰り返す。

4. シミュレーションの結果

以下では,シミュレーションの結果を示す。島根 大学医学部附属病院の病院情報システムにおいて, 2018 年 1 月 1 日~12 月 31 年の全入院患者のデータ から,クリニカルパス・必要度のDWH を構築した。 構築したデータから,各疾患の必要度の時系列デ ータを抽出し,そのうち,3 つの DPC についてシミ ュレーションと実データとの平均一致率を見た。 図 4 は 口 蓋 扁 桃 腺 摘 出 術 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン (Sim)と実際(Real)との比較結果である。パス適 応期間は8日間でパス適応患者数は 42 人で各ポイ ントでの平均一致率は93.75%であった。 図4:口蓋扁桃腺摘出術 図5は腹腔鏡下手術クリニカルパス(午前手術) のシミュレーション(Sim)と実際(Real)との比較 結果である。パス適応期間は5日間でパス適応患者 数は51 人で平均一致率は 93.73%であった。 図5:腹腔鏡下手術クリニカルパス(午前手術) 図6は肺切除術(月曜入院・木曜手術)のシミュ レーション(Sim)と実際(Real)との比較結果であ る。パス適応期間は14 日間でパス適応患者数は 5 人 で平均一致率は80.00%であった。例数が少ないため, 一致率が低くなった。今後例数を増やして,シミュ レーションの評価を行いたい。 図6:肺切除術(月曜入院・木曜手術)

5. 考察

5.1 クリニカルパス実施の評価

重症度、医療・看護必要度Ⅰの詳細項目が、全て のクリニカルパスを選択することで可視化できるよ うになったことで、クリニカルパスは4つの群に分 類できた。1つは医療処置等のA 項目がまだ残って いる群。2つめは患者ADL の状況が入院時と比較し ても、低下しているB 項目が残存している群。3つ めは、A 項目も B 項目も残像している群で、4つめ はA 項目も B 項目もない群である。1つめの群に属 しているクリニカルパスにおいては、そのA 項目に 該当している処置が本当に必要な処置であるかを吟 味し、状況によってはクリニカルパスの適応期間の 延長も考慮していく必要である。2つめの群は、ADL が入院時と比較し完全に回復しないことを意味して おり、そのことを念頭に置きながら患者との関わり

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を行っていく必要性が有り、場合によっては転院調 整も必要である。また1つめの群同様に、クリニカ ルパスの適応延長も考慮していく。3つめの群は、 A 項目の必要性を再考していくと共に、クリニカル パスの適応期間延長する必要性が最も高い群である。 最後の4つめの群は、クリニカルパスがもっとも有 効な群であるが、同時にクリニカルパスの短期化が 考えられる群でもある。 A項目とB項目の詳細が可視化されることで、今 後、クリニカルパスをより質の高いレベルへとステ ップアップできる一つのツールとして活用できるの ではないかと考える。また、重症度、医療。看護必 要度ⅠとⅡのA 項目を比較し、必要な処置はオーダ ーをクリニカルパスに登録することへも活用できる と考える。 今回はクリニカルパスによって重症度、医療・看 護必要度Ⅰを可視化したが、今後はDPC による分類 や、レセプト電算コードから重症度、医療・看護必 要度Ⅱでの時系列の変化を可視化・解析することも 検討していく予定である。

5.2 シミュレーション

シミュレーションはデータから推定できる推定値 にランダムな効果(ブラウン過程)を加えて,次の平 均点を推定しており,幾何ブラウン過程を仮定した 推定値を仮定している。このような確率微分方程式 の形は,伊藤の確率微分方程式の理論[1]のうち,金 融で用いられたブラックショールズ方程式[2]の離 散近似となっている。ブラックショールズの解が対 数正規分布に従うことが知られており,これは以前 より津本らが論じてきた入院日数の対数正規分布モ デル[3]に通じるものがあり,興味深い。今後,この ような確率過程をさらに精査する予定である。

謝辞

本 研 究 は , 日 本学 術 振 興会, 科学研究費基盤 (B) 18H03289 の補助を受けた。

参考文献

[1] 伊藤清. 確率論, 岩波書店 (1991), 5.15-16 章. [2] Black, Fischer; Scholes, Myron, “The Pricing of Options

and Corporate Liabilities”, Journal of Political Economy 81 (3): 637-654, doi:10.1086/260062, JSTOR 1831029 (1973)

[3] Yuko Tsumoto, Shusaku Tsumoto: Exploratory Univariate

Analysis on the Characterization of a University Hospital: A Preliminary Step to Data-Mining-Based Hospital Management Using an Exploratory Univariate Analysis of a University Hospital. The Review of Socionetwork Strategies 4(2): 47-63 (2010)

[4] Shusaku Tsumoto, Haruko Iwata, Shoji Hirano, Yuko Tsumoto: Similarity-based behavior and process mining of medical practices. Future Generation Comp. Syst. 33: 21-31 (2014)

参照

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