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市街化に伴う景観イメージの構造変化 : 甲府市北部3地点の比較考察 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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―甲府市北部3地点の比較考察―

6WUXFWXUDO&KDQJHVRIWKH/DQG6FDSH,PDJHV&RUUHVSRQGWRWKH8UEDQL]DWLRQ/HYHO

&RPSDUDWLYH6WXG\RI3SRLQWVLQQRUWKHUQ3DUWRI.RIXFLW\─

尾 藤 章 雄

$NLR%,72

第1章 本研究の目的  本研究では、市街化の程度が異なる3地点の景観イメージを、31種類の形容詞対からなる評定尺度 に基づいて分析し、形容詞で表される具体的な景観イメージが、その地点に存在するいかなる要素(こ こでは景観構成要素と呼ぶ)に基づいて作り出されているのかを明らかにする。地理的な観点から市 街化の程度が異なる地点を対象としたので、市街化に伴ってこの景観イメージの構造が如何様に変化 するかを中心に報告する。  対象としたのは甲府盆地北部の山裾に位置し、農村景観の残る日影集落(以下日影と略記)、相川 の流れる西向き斜面上に位置し、平成元年までの水田地帯が土地区画整理事業によって新しい住宅地 に変貌した古府中町土地区画整理事業地(古府中)、および甲府駅北西の緩やかな南向き斜面上に位 置し、日用品を中心とした約100件の商店が軒を連ねる朝日町商店街(朝日)である。調査は2009年9 月のよく晴れた日に山梨大学の学生2−3年次生22名に対して行い、上記3地点それぞれにおいて調 査用紙を配布し、景観イメージを把握するための3つの質問に回答させた(注1)。  既存の研究からも明らかなように、この種の調査では個人的な属性や嗜好はもとより、当日の天候 や調査時間、さらにはアンケート用紙のフォーマットなどが結果に大きな影響を与えることが知られ ており、得られた結果をそ の地点の景観イメージの一 般的傾向として分析する場 合には様々な注意が必要で ある。そこで学生たちには 事前には調査目的について 一切説明せず、また、地点 間の移動による疲労を避け るためバスを用いて短時間 で回る工夫をした上で、調 査用紙の質問も地点ごとに その配列様式を変えるなど、 回答の画一化や無効回答を 避けるための注意を払った。 このうち日影で配布した調 査用紙のフォーマットを図 1に示した。 図1 調査用紙

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第2章 景観イメージの評定からみた景観イメージの構造  2VJRRG(1967)の提唱した6'法(6HPDQWLF'LIHUUHQWLDO0HWKRG:意味 微分法)では、用意した形容詞対尺度上で被験者にコンセプト(例え ば本稿では各地点の景観)に対する評定を求め、その結果に基づいて 尺度間の相関係数を求め、因子分析を行って人々がその地点の景観に 認識している「情緒的意味」の枠組みを構成する次元を抽出するとい う流れで、人々の情緒的側面を把握できるとした。岩下(1983)は、 6'法を2VJRRGの言う意味論から切り離すことによって『一般の心理学 的研究の道具として、または、或るコンセプトに対して人々がもつイ メージの測定と操作のための道具として、有用性が高い』ことを主張し、 『或るコンセプトに対して人びとがいだくイメージの平均像を記述する 基準として』使われ得ると述べた。このように心理学的手法として始 まった6'法であるが、その後に土木工学の景観評価の分野では、『景観 に関わる各種の価値基準(快適性・安全性など)に対する人間社会集 団の意思選好を明確にしていく(土木工学 大系編集委員会編(1994)』手法と位置づ けられ、6'法は計量心理学的な研究におけ る評定尺度法の一つとして広く使われるよ うになった。  本研究において被験者は3地点を実際に 歩いて、その場所の景観に対する評価を6' 法と同様に形容詞対への評定尺度として回 答した。その後6'法のように因子分析によ る次元抽出には進まず、各地点の具体的な 景観構成要素と、その地点を代表する形容 詞句との関連から、当該地点の景観イメー ジの構造を析出した。  6'法に関連した多数の研究成果から、6' 法の因子分析によって求められる次元は、 (YDOXDWLRQ(評価;以下(と略)、3RWHQF\(力 量性;3)、$FWLYLW\(活動性;$)の3つに 集約されることがわかっている。本研究で はあらかじめこれを考慮し、評定を求める 形容詞対を、この(、3、$それぞれから15対、 6対、10対と偏りなく呈示することによっ て、各地点で異なる多様な景観イメージを 細かく抽出できるようにした。  調査用紙の質問1では被験者が着目した 景観構成要素を、質問2では上記の31対の形容詞対に対する評価尺度を、さらに質問3では総合評価 と被験者における両者の関連づけを回答させている。最初の調査地点である日影の質問1、質問2の 集計結果を示したのが表1、表2である。 表1 景観構成要素(日影) 表2 代表的な形容詞句(日影)

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第1節 日影  最初の調査地点である日影は、史跡の武田神社北 方に位置する典型的な農村集落で、市街化の程度は 3地点中最も低い。質問2において中間値40との差 が10以上(すなわち評価尺度に対する回答の平均値 が50以上か30未満)となる平均値を示す形容詞対 は25にも及び、3地点中最も多い。被験者は日影の 景観イメージとして、多くの形容詞句に反応したの である。このうち上位7つ(表1で黄色で枠取りし た形容詞句)について、スチューデントW 検定(異 分散W 検定)を行い、古府中や朝日と平均値に有意 (1%水準または5%水準)な差があると判断され るものを、日影を代表する形容詞句とした(注2)。 その結果、「田園的、人が少ない、健康的、自然的、 古い」の5つが抽出された。しかし、「落ち着いた、 癒やされる」は古府中との間で有意な差が認められ なかった(表3)。  景観構成要素の中で多く挙がったのは、田 畑、山、家蔵、道、農具、空、木である。そ こで、質問3の回答を手がかりに、景観構成 要素と上で抽出された代表的な形容詞句との 関係を図示するとすれば、田畑が「健康的、 自然的、田園的」に、山が「田園的」に、家 蔵が「人が少ない、古い」に関係づけられる ことがわかった。一方で「落ち着いた、癒や される」に関係づけられる景観構成要素は特 定できなかった(図2)。  質問3では日影の総合評価を回答させてい るが、日影は568と3地点中最も高い(注3)。 この評価をもたらしたと考えられる肯定的な 形容詞は上記5つのうち「健康的、自然的、田園的」の3つに絞られる。つまり、近景の田畑、背景 となる山という景観構成要素が、この3つの肯定的な形容詞句に代表される日影の景観イメージを醸 成し、これが結果として景観イメージが568という高い総合評価をもたらしているというのが、日影 の景観イメージの構造と考えられる。 第2節 古府中  2つめの調査地点である古府中町土地区画整理事業地は平成6年3月に事業を終えたばかりの新し い住宅地である。甲府市郊外の南向きの水田が300区画を超える住宅地に変わったが、まだ造成地が 目立ち、住宅自体の建設は進んでいないという点から、市街化の程度は他の2地点の中間に位置する。  質問2において中間値40との差が10以上となる平均値を示す形容詞対は18あり、3地点中2番目 の多さである。このうち上位6つについては、スチューデントW検定により古府中や朝日と平均値に 有意な差があると判断された、古府中を代表する形容詞句は、「暖かい、健康的、気楽、広い、暇な」 表3 平均値の有意性の検定 図2 日影の景観イメージの構造

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の5つであった(表5)。一方で、「庶民的、明るい」 は他の2地点と有意な差が認められなかったので 以下の分析から除外した(表3)。  質問1の景観構成要素の中で多く挙がったのは、 川、山、公園、田、住宅、子どもである(表4)。 そこで、質問3への回答を手がかりに景観構成要 素と代表的な形容詞句との関係を図示すると図3 のようになる。景観形成要素のうちの山という地 形条件と田の2つだけが、「健康的、広い」という 2つの肯定的な形容詞句に代表される古府中の景 観イメージを醸成し、これが結果として総合評価 55の高い評価をもたらしている。ただ、日影と比 べて関連づけられるものは少なく、例えば田が景観要素に挙げられ ていながら、「田園的」という形容詞句はなく、また、川と山が景観 要素に挙げられているが、「自然的」という形容詞句もない。一方で、 相川によって視界が大きく開けていることが「広い」につながって いる。新しい住宅地として公園や住宅が景観要素に挙げられながら、 その景観イメージをもたらしたと考えられるものが山や田など、日 影と類似の傾向が見られるのは興味深い。 第3節 朝日  3つめの調査地点である朝日 町商店街は甲府駅にも近く、周 辺は第2次世界大戦以前から住 宅密集地である。市街化の程度 は最も高い。質問2において中間値40との差が10以上となる 平均値を示す形容詞対は9あり、3地点の中では最も少ない。日影、古府中と比較すると市街化の程 度が高まるにつれて、代表的な形容詞句が少なくなるという傾向が明らかである。このうち上位7つ 写真1 日影の代表的景観 表4 古府中景観構成要素 (古府中) 表5 古府中の代表的な形容詞句 図3 古府中の景観イメージの構造

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については、スチューデントW 検定によって古府中や日影と平均値に有意な差があると判断された、 朝日を代表する形容詞句は、「人工的、狭い、健康的、便利、近代的」の5つであった(表7)。一方で、 「暖かい、都会的」は他の2地点と有意な差が認められなかった(表3)。  質問1の景観構成要素の中で多く挙がったのは、商店(街)、木、車、人、道、音楽であった(表6)。 そこで、質問3への回答を手がかりに景観構成要素と代表的な形容詞句との関係を図示すると図4の ようになる。景観形成要素のうちの商店、車、人、道の4つが、「人工的、狭い、便利」という3つの 形容詞句に代表される朝日の景観イメージを醸成し、これが結果として総合評価46をもたらしたの である。日影、古府中と比べて関連づけられる景観要素は多く、特に「狭い」という形容詞句に関連 づけられるものは多い。「人工的で狭いけれども便利」という商店街に典型的な景観イメージが作り出 されていることがわかる。 写真2 古府中の代表的景観 表6 景観構成要素(朝日) 表7 代表的な形容詞句(朝日) 図4 朝日の景観イメージの構造

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第3章 景観イメージの構造変化  各地区の景観イメージの構造を、 被験者の挙げた景観構成要素と代表 的形容詞句との関連づけから明ら かにすると、図2から図4のように なった。この分析から、市街化のレ ベルと景観イメージについて以下の 3点が明らかになった。  まず第1に、総合評価と、関連づ けられた肯定的な形容詞句の数との 関係である。日影は「田園的、健康的、 自然的」の3つ、古府中は「健康的、 広い」の2つ、朝日は「便利」の1 つであり、この順に総合評価は低く なる。景観構成要素と関連づけが可 能な、肯定的な形容詞句の多少こそが、総合評価を決定づけている可能性がある。  特に日影のみに特徴的な「田園的、自然的」、そして日影と古府中に現れる「健康的」の形容詞句は、 高い総合評価に繫がっている可能性がある。これらの形容詞句は一般に年配者の高い評価と関係する 例が多い。被験者の年齢が20歳前後であることから考えると、日影のような「田園的で自然的な」農 村集落よりも「便利」な朝日の商店街の方がなじみ深く、総合評価は高まると予想したが、景観イメー ジという抽象的な用語を提示して質問したため、年配者と共通な傾向を呈したのかもしれない。  第2に、代表的な形容詞句の数と市街化の程度との関係である。市街化の程度が高まるにつれて、 すなわち、日影、古府中、朝日の順に、代表的な形容詞句の数は、25 →18→9と少なくなり、総合 評価も同様に、568→55→46と低下している。市街化の程度が低い、例えば日影のような景観に 対しては、被験者は数少ない事物から多くの景観構成要素を拾い出そうとし、そこから多数の形容詞 句に代表される多様な景観イメージを醸成するのに対して、市街化の程度が高い、朝日のような景観 に対しては、被験者の拾い出す景観構成要素は少数の事物に集中し、それに関連づけられる形容詞句 も少数に限定されてしまうからかもしれない。  そして第3に、(YDOXDWLRQ(評価)、3RWHQF\(力量性)、$FWLYLW\(活動性)の観点からみた、各地区 を代表する形容詞句の比率である。各地区において、「中間値との差が10以上となった形容詞句の個 数」を「最初に用意した形容詞句の総数=31」で除してその比率を算出してみると、日影では(、3、 $の各分類とも80%を超えているが、古府 中と朝日では3の力量性、次いで$の活動 性が高くなっている。また、古府中から朝 日へと市街化の程度が高まると、3に分類 される形容詞句の比率が、他の2つに比較 してより大きくなっていることがわかる。  すなわち、市街化の程度が低い地区では、 被験者の回答は(、3、$に分類される形容 詞句にバランスよく分散している一方で、市街化の程度が高まると、評価(()よりも、その景観の 持つ力量性(3)や活動性($)といった、本来の景観のもつポテンシャルが重視されてくることが 写真3 朝日の代表的景観 表8 形容詞句のEPA分類

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わかる。この点についてはしかし、用意した31の形容詞対の個数に最初に用意した段階から15、6、8 と大きな違いがあったので、必ずしも一般的な傾向であるかどうかについては再考を要しよう。 第4章 景観イメージの構造からみた代表的景観  本研究で明らかになった景観イメージの構造において、代表的な形容詞句と関連づけられた景観構 成要素がもれなく含まれるように、各地区の代表的な景観を切りとったものが、写真1−3である。 被験者は各地点において様々な場所からいろいろな方向の景観を注意深く観察しながら回答していた が、集計結果からみると、各地点の景観イメージの回答は、この写真のような画角の景観に基づくも のと推定することができる。  日影、朝日については、挙げられた景観構成要素を含めた写真を撮ることはどの方向でも可能であ るが、古府中に関しては、土地区画整理事業が行われて新しい住宅地が含まれる画角と、写真2のよ うにその事業地の端に位置する公園から区画整理事業地外の方向をみた画角では、景観は大きく異な る。被験者はもちろん新しい住宅地を見て、それを住宅、公園といった景観構成要素にも含めていな がら、代表的な形容詞句との関連づけは行っていない。つまり、土地区画整理の行なわれていない典 型的な農村風景だけを切り取って、景観イメージを醸成しているのである。  これは先にも述べたように、景観イメージという抽象的な用語を提示して質問したことにより、被 験者たちが無意識に景観の一部を取捨選択して切り取っている…ここでは何となく人工的な住宅地よ りも、山や川といった自然的なものを含んだ方が景観という用語に合致するかのように考えてしまっ た可能性があろう。質問に用いる用語を変えるなどして、結果の如何を検討することも必要かもしれ ない。  同じ3地区について、冬期に同様の調査を行って結果を得ているが、挙げられた景観構成要素も、 また代表的な形容詞句についても大きく異なることがわかってきている。本研究における結果との比 較考察については、今後の課題としたい。 参考文献 2VJRRG&(6XFL*- 3HUF\77KH0HDVXUHPHQWRI0HDQLQJ36038QLYHUVLW\RI,OOLQRLV3UHVV1967 岩下豊彦,6'法によるイメージの測定−その理解と実施の手引き−,2043,川島書店,1983. 土木工学大系編集委員会編,土木工学大系13 景観論,3333,彰国社,1977. 注 1)被験者は3地区とも同じ顔ぶれの22名であるが、質問によっては無回答が含まれているため、必ずしも 各形容詞対に対して22の回答を得ていない。分析では平均値算出などにおいてこの点を考慮している。 2)スチューデントt検定は、0LFURVRIW([FHO2010の分析ツールに用意されている、「t検定 分散が等しく ないと仮定した2標本による検定」を利用した。 3)総合評価は質問2と同様の形式で回答させた結果を集計して平均値を求めたものである。中間値は40であ り、これよりも大きいほど総合評価は高く、逆に小さいほど総合評価は低いことを意味する。

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