DP
RIETI Discussion Paper Series 10-J-038
公的年金の税方式化の経済効果
橋本 恭之
経済産業研究所
木村 真
北海道大学
独立行政法人経済産業研究所 http://www.rieti.go.jp/jp/1
RIETI Discussion Paper Series 10-J-038 2010 年 6 月
公的年金の税方式化の経済効果
∗ 橋本恭之(経済産業研究所ファカルティフェロー/関西大学経済学部教授) 木村 真(北海道大学公共政策大学院特任助教) 要旨 本稿では、公的年金の税方式化に関する既存研究を整理した上で、税方式化の短期的、長期 的な経済効果をシミュレーションした。短期的な分析からは、基礎年金の消費税による税方式 化は、社会保険料による税源調達に比べて、家計の厚生水準を低下させる可能性が高いことが わかった。労働供給が固定的に近い場合には、労働に課税する社会保険料のほうが消費税より も超過負担が小さいためである。一方、長期的には、消費税による税方式化は、所得に課税す る社会保険料方式と比べると高い経済成長率を達成できるものの、それは現役世代が消費を抑 制するためであり、厚生水準は低下することになる。税方式化の財源を消費税だけに依存する ことは、逆進性の点からも避けるべきであろう。 キーワード:年金改革、税方式化、一般均衡、世代重複モデル JEL classification:H22,H31,H55 RIETI ディスカッション・ペーパーは、専門論文の形式でまとめられた研究成果を公開し、活発な議論を喚 起することを目的としています。論文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、(独) 経済産業研究所としての見解を示すものではありません。 ∗本稿は、(独)経済産業研究所のプロジェクト「社会経済構造の変化と税制改革」(代表・岩本康志東京大学教 授)における研究成果の一部である。本稿の作成にあたっては、主査の岩本康志教授をはじめとする研究会の メンバー、DP検討会での参加メンバーから貴重なコメントをいただいた。記して深く感謝したい。2 1.はじめに 2008 年 5 月 19 日に開催された社会保障国民会議においては、少子高齢化が進むなかでの今 後の社会保障制度のあり方を検討する材料として、「公的年金制度に関する定量的なシミュレ ーション結果」が提示された。そのシミュレーション結果では、税方式化による消費税の負担 の方が現行の社会保険料方式のもとでの負担を上回る可能性が高いことが示されている。しか し、この計測結果は、企業や家計行動の変化を無視したことにより得られた可能性もある。と りわけ、社会保障国民会議のシミュレーションでは、税方式化にともない廃止される基礎年金 に対する雇用主負担の廃止が家計に対して全く恩恵をもたらさないという仮定にもとづくもの となっている。経済学的には、保険料の雇用主負担部分は最終的には家計の負担となるという 見方もある。仮に、雇用主負担の廃止が家計に還元されなかった場合でも、長期的には、企業 の投資促進効果などにより、経済成長率を引き上げ、家計にとっても恩恵が生じる可能性もあ る。 そこで、本稿では、公的年金の税方式化に伴う既存研究の整理したうえで、税方式化の短期 的、長期的な経済効果をシミュレーションした。短期的な経済効果については、静学的応用一 般均衡モデルによるシミュレーションをおこなう。ここでは、2財、2部門、2消費者に簡略 化したモデルを用いて、税方式化が家計に対していかなる影響を及ぼすことになるかを整理す る。次に、長期的な影響に関しては、木村・橋本(2010)の多部門多世代型ライフサイクル一般 均衡モデルを利用したシミュレーション分析を行う。このモデルは、短期的なシミュレーショ ンで用いたモデルを、より現実的なデータ・セットを用いて拡張したうえで動学化したものと 位置づけられる。この多部門世代重複型ライフサイクル一般均衡モデルによるシミュレーショ ンでは、税方式化が経済成長に与える影響、各世代の厚生水準に与える影響などをみていくこ ととしたい。 2.先行研究 この節では公的年金の税方式化の先行研究をまとめることとする。まず、社会保障国民会議 の主な試算結果から紹介しよう。社会保障国民会議では、試算に際して公的年金の税方式化を おこなう場合について次の3つの移行パターンを想定している。 A.過去の保険料納付実績については、全く勘案せず、全員に税方式の基礎年金の満額給付を行う
3 B.過去の保険料未納期間に係る分については、その期間分の税方式の基礎年金給付を減額する C.過去の保険料納付期間に係る分については、その期間分を税方式の基礎年金に上乗せして給付 する これらの移行パターンのうち、パターン A は過去の拠出実績を無視するという問題があり、 パターン C は、必要とされる年金給付額が膨れあがってしまうという問題点を抱えている。そ こで以下では移行パターン B の計算結果についてのみみていこう。税方式化が実施された場合 には、基礎年金に充当されている保険料相当部分が廃止されることになる。この部分について は、「基礎年金分の保険料は、家計調査における勤労者世帯の公的年金保険料支払額に基礎年 金分の保険料割合(4.0%/14.996%)を乗じた額」とされている。さらに、この保険料引き下げ を消費税の引き上げで賄うには、「移行時点で追加的に必要な当面の消費税率は、ケースB:3 .5 %」としている。このような想定のもとで、所得階層別にみても、年齢階級別にみても、税方 式化による保険料軽減額よりも消費税負担の増加の方が上回るという結果を提示している。 この社会保障国民会議の試算への疑問点としては、まず社会保険料控除引き下げによる所得 税、法人税の増収を無視していることが指摘できる。現行制度のもとで税方式化にともない社 会保険料が引き下げられると、所得税における社会保険料控除の総額も減少することになる。 これは所得税収を増加させることにつながる。さらに、社会保険料の引き下げに伴い、企業の 雇用主負担も低下することになる。社会保障国民会議の想定では、企業の雇用主負担の低下に よる家計の賃金への影響は考慮されていない。かりにその想定が正しいならば、雇用主負担の 増加は法人所得を増加させ、法人税収を増大させることになるわけだ。すなわち、社会保障国 民会議の試算では、歳入中立での税方式と保険料方式の比較をおこなっていないことになる。 この点に着目した木村(2009)は、「個人所得課税において 2.2 兆円の増税が生じること、雇用 主負担の減少によって法人所得税が 0.8 兆円増え、政府の財政負担が 0.4 兆円減少することが 示された。よって、国民会議試算では合計 3.5 兆円の政府増収が捨象されていたことになる」 と述べている1)。 さらに、社会保障国民会議の試算は、経済学的なビヘイビアの変化を考慮していないという 問題点を抱えている。社会保険料引き下げに伴う企業の雇用主負担の引き下げは、経済成長率 の引き上げ、賃金の引き上げなど家計にも恩恵を生じる可能性もある。そこで以下では、経済 1)木村(2009)p.193 引用。
4 学的にみて公的年金の税方式化が家計に如何なる影響をおよぼすことになるかを先行研究から あきらかにしよう。 2.1 税方式化に関する既存研究 表 1 ライフサイクル一般均衡モデルによる既存研究 モデルの特徴 主な結果 本間・跡田・ 岩本・大竹(1987) 労働供給内生 1部門モデル 消費税への代替は、資本蓄積を促進 上村(2001) 労働供給内生、流動性 制約あり、合理的期待 形成、1部門モデル 消費税の増税は経済効率性の観点からは望ま しいが、世代間の利害対立を顕在化 島澤(2004) 労働供給内生、1部門 モデル 税方式化は、引退世代の効用を低下させるも のの、経済を活性化させ、将来世代の効用を 上昇させる。 佐藤・上村(2006) 意図せざる遺産と意 図的な遺産の双方が 発生 年金財源を消費税で賄うことで、2004年改正 より高い厚生水準を達成できる 橘木他(2006) 公共支出を効用関数 に組み込んでいる、労 働供給外生、一部門 社会保険料から消費税への移行は、厚生水準 を改善する 金子・中田・宮里( 2006) 世代内格差を考慮、1 部門モデル、労働供給 外生 完全税方式化よりも部分的税方式化の方が高 い厚生水準を達成可能 表 1 は、世代重複(OLG)型のライフサイクル一般均衡モデルを用いて税方式化に関する影 響を調べた先行研究をまとめたものである。ライフサイクル一般均衡モデルでは、家計、企業、 政府の各経済主体の相互依存関係を考慮したうえで、税方式化による長期的な影響を調べるこ とができる。我が国でのライフサイクル一般均衡モデルでの先駆的な研究としては、本間・跡 田・岩本・大竹(1987)が存在する。彼らは Auerbach and Kotlikoff (1983)型のライフサイク ル一般均衡モデルを利用して、高齢化社会における財源調達手段としての年金消費税導入の効 果を分析している。モデルの特徴としては、労働供給を内生化した55期間モデルとなってい るところになる。生産部門に関しては Auerbach and Kotlikoff (1983)と同様に1部門に簡略
5 化されている。彼らは、年金の財源調達方式としての比例所得税と消費税の比較をおこなって いる。厚生年金の保険料は、所得を基準として比例的に徴収されており、この想定は税方式化 にともない社会保険料を引き下げ、消費税で代替するケースと経済学的には同じと考えてよい。 分析の結果としては、「高齢化社会における消費税の導入は資本蓄積を促進し、高い負担のも とで高い厚生水準を実現する可能性がある」とされている2)。
表 1 に示されているその他の研究においても、基本的には Auerbach and Kotlikoff (1983) 型のライフサイクル一般均衡モデルが利用されている。上村(2001)は、本間・跡田・岩本・大 竹(1987)と同様に、労働供給を内生化したうえで、死亡確率、流動性制約の導入などの拡張を おこなっている。また年金制度についてもより精緻化をはかり、老齢基礎年金と老齢厚生年金 を明確に区分したモデルとなっている。彼は、老齢厚生年金の縮小と国庫負担比率の引き上げ を分析し、「将来世代にとって公的年金の縮小化や国庫負担率の引き上げにともなう消費税の 増税は、経済効率性の観点からは望ましいが、改革時の現役世代にとってあまり好ましいもの ではなく、その意味では将来世代と現役世代の利害が対立する」と結論づけている3)。さらに 佐藤・上村(2006)は、上村(2001)のモデルをベースとして、死亡確率を導入したままで、効用 関数にも遺産を導入することで、意図せざる遺産と意図的な遺産の双方が発生するというモデ ルへの拡張をおこない、一般会計と年金会計、労働所得税、利子所得税、消費税、相続税、年 金保険料、年金所得税、年金消費税を想定することで制度面での精緻化をおこなっている。彼 らは、「年金財源の一部を消費税、あるいは年金課税によりまかなえば、2004 年改正以上に年 金収益率や高い経済厚生の確保を実現できる」と指摘している4)。島澤諭(2004)も Auerbach and Kotlikoff(1987)型のライフサイクル一般均衡モデルを利用したシミュレーション分析をおこな っており、「年金財源を消費税に求める制度改革は、引退世代や現行の年金制度下においてあ る程度年金負担を行っている世代の効用水準を低下させはするものの、労働供給を増加させる など経済を活性化させ、将来世代の効用水準を増加させる」と述べている5)。 橘木他(2006)は、労働供給は外生として簡略化しているものの Alftig et al.(2001)のモデル に、細分化された公共支出を効用関数に組み込むことで拡張をおこなったものだ。彼らは、公 2)本間・跡田・岩本・大竹(1987)P169 引用。 3)上村(2001)p.224 引用。 4)佐藤・上村(2006)p.170 引用。 5)島澤諭(2004)p.9 引用。
6 的医療保険と公的介護保険の財源調達手段としての社会保険料、利子所得税と消費税を比較し、 「人口構造の高齢化の程度に注目して、2005 年時点の定常状態と 2050 年時点の定常状態を比 較すると、消費税への財源シフトによる社会厚生の改善度は 2050 年時点で遥かに大きいもの であった。したがって、パラメータ設定に注意を払うべきであるものの、高齢化が進行した社 会においては、社会保険料や利子所得税から消費税へのシフトがより望ましいものになると結 論付けることができる。」と述べている6)。
以上のような Auerbach and Kotlikoff(1987)型のライフサイクル一般均衡モデルを利用したシ ミュレーション分析のほとんどが、各世代に代表的家計を仮定しているのに対して、同一世代 内に世代内格差を想定しているものが金子・中田・宮里 (2006)である7)。同一世代内に所得格 差を想定することで、消費税の持つ逆進性の影響を意識した分析が可能となっている。彼らは、 「基礎年金の財源をすべてまかなう場合には、消費税率上昇の影響が大きく、社会的厚生は、 ベースケースや国庫負担の引き上げを追加的な消費税の引き上げでまかなう場合よりも低下す る」とし、消費税の税方式化よりも国庫負担を2分の1に引き上げ、その財源を消費税でまか なうことで、「2020 年より後の将来世代の社会的厚生がもっとも高くなる」と述べている8)。 以上のようなライフサイクル一般均衡モデルによる分析では、財源調達手段としての消費税 導入に肯定的な結果を導き出している研究が多い。ただし、宮里・金子(2001)などでは、消費 税の逆進性についての懸念が表明されている。また、これらのシミュレーションモデルでは、 保険料の雇用主負担と保険料の本人負担を明確に分離した分析はおこなわれていない。 このようなライフサイクル一般均衡モデルでのシミュレーションに対しては、賃金税と消費 税の等値性の観点からの批判も存在している。ライフサイクルモデルにおいては、生涯の予算 制約にもとづき、生涯の消費を決定するために、消費税と賃金への比例課税は税収中立のもと では生涯の予算制約に全く同じ効果をもたらすことになるというのが等値性の考え方だ。麻生 (2009)は、「賃金税と消費税は基本的に等価だが、移行の際に一時点での税収中立の制約を課 すと、これが世代間移転を発生させ、資本蓄積を促進する」と述べている9)。さらに高山(1998) 6)橘木他(2006)p16 引用。 7)彼らのシミュレーションは、宮里・金子(2001)のモデルを使用している。世代内の格差は考慮されているものの、労働供 給に関しては外生的に取り扱われている。 8)金子・中田・宮里 (2006)p137 引用。 9)麻生(2009)p.319 引用。なお、賃金税は、経済学的には年金保険料の本人分に相当している。
7 は「各世代の各時点における消費行動は、生涯所得の変化だけでなく、その世代の余命にも依 存し、余命の長い世代ほど、生涯所得の変化を残された人生の期間に広く薄く拡散させる。し たがって、消費税移行時からしばらくの間、負担増となった世代の消費の抑制が負担減となっ た世代の消費の拡大を上回ることになる」と述べている10)。これは、定常状態の比較のみのシ ミュレーションでは、移行期の資本蓄積の効果を正しく捉えられないことを示唆するものだ。 表 2 税方式化に関する既存研究 データ 主要な結果 高山(1998) 全国消費実態調査 夫婦ともにサラリーマンならネットで負担減 橋本(2000) コーホートデータ (家計調査) 基礎年金を税方式化した場合、 給付負担比は現行制度よりも悪化 呉(2009) コーホートエフェク ト (全国消費実態調査) 税方式化は、生涯公的負担を増大させるが、保 険料引き下げが賃金に還元される場合には、生 涯可処分所得が増加する。 次に、ライフサイクル一般均衡モデル以外の公的年金の税方式化に関する数量的な分析につ いてもまとめたものが表 2 である。高山(1998)は、『全国消費実態調査』を使用し、基礎年金 給付の3分の2を年金消費税でおきかえた場合の負担の増減を試算(1998 年度)、している。 この際の年金消費税の税率は 3.2%に設定している。彼は、「夫婦ともに被用者の場合、年金保 険料本人負担減1万 1600 円(2人分)、年金消費税分1万円となり、ネットで月額 1600 円の 負担減が見込まれる。事業主負担減の一部が賃金増につながればネットの負担減はサラリーマ ン本人にとってもっと多くなる。」と述べている。彼は、社会保障国民会議とは異なり、消費 税の優位性を指摘していることになる。一方、橋本(2000)は、各年の『家計調査年報』の年齢 階級別のデータを加工し、出生年次別のコーホート・データを作成し、各世代の過去の給付と 10)高山(1998)p.126 引用。
8 負担も考慮したうえで、1997 年に厚生省(当時)が発表した「2 1 世紀の年金を選択する― 年金改革・5つの選択肢― 」に関する世代別の公的負担を比較している。5つの選択肢とは A 案: 現行制度の給付設計を維持する B 案: 厚生年金保険料率を月収の30%以内にとどめる案 C 案: 厚生年金保険料率を年収(ボーナスを含む)の20%程度にとどめる案 D 案: 厚生年金保険料率を現状程度に維持する案 E 案: 厚生年金の廃止(民営化)案 というものであった。橋本(2000)は、E 案については基礎年金部分を税方式化するものとして 試算し、「給付公的負担比を各世代について A 案と E 案を比較すると、・・・中略・・・やは りすべての世代について、E 案は現行制度よりも悪化している。」と述べており、税方式化が かえって負担を重くするという社会保障国民会議と同様の結果を導き出している。橋本(2000) の分析が代表的家計についての分析にとどまっているのに対して、単身者世帯、共稼ぎ世帯な ど世帯類型別の分析をおこなっているのが呉(2009)である。その分析では、コーホートエフェ クトを利用した生涯公的負担の計測が行われており、社会保障国民会議では無視された社会保 険料控除廃止にともなう所得税増収と雇用主負担廃止による法人税収増大も考慮している11)。 また、雇用主負担廃止が賃金増加につながるケースも試算されている。分析の結果としては、 「保険料の税方式化は保険料の減少分が賃金として勤労者に還元されようがされまいが,生涯 の公的負担合計で増大をもたらす。しかし,保険料の減少分が賃金に還元された場合,生涯で の可処分所得が増大をもたらす。」としている12)。 2.2 雇用主負担の帰着に関する先行研究 以上でみてきたように、ライフサイクル一般均衡モデルによる分析では、雇用主負担に関す る議論はほとんどおこなわれていない。社会保障国民会議の分析に代表される数量的な分析に おいても雇用主負担に関する議論はほとんどおこなわれていない。そこで以下では雇用主負担 の帰着に関する先行研究をみておくことにしよう。 11)呉(2009)では「税方式化にともなうマクロレベルでの所得税と法人税の増収分を税方式の財源である消費税率を抑える と,消費税率は 0.4%程度抑えることができる。」とされている。 12)呉(2009)p.16 引用。
9 表 3 雇用税の帰着に関する主な理論分析 分析手法 主な結果 岩本・濱秋(2009) 部分均衡 労働供給が完全に非弾力的な場合、 負担はすべて労働者に帰着する 本間(1982) 一般均衡 (労働供給外生) 一般雇用税は労働者に完全に帰着 木村(2008) 一般均衡 (労働供給内生) 雇用税は労働者に帰着(帰着の程度 は弾力性に依存) 表 3 は、雇用税の帰着に関する理論分析をまとめたものである。岩本・濱秋(2009)は、社会 保障給付の便益が考慮されるケースとされないケースについてサーベイをおこなっている。社 会保障給付の便益が考慮されない場合は、「労働供給が完全に非弾力的な場合、あるいは労働 需要が完全に弾力的な場合、負担はすべて労働者に帰着する」と指摘している13)。労働者が社 会保障給付を便益と意識する場合は14)、「社会保険料の変化は雇用を変化させず、労働者の手 取り賃金が保険料分だけ変化」と述べている15)。さらに、「社会保険料負担の一部が給付の便 益と感じられる場合には、労働需要と労働供給の賃金弾力性に応じて、事業主と労働者に負担 がおよぶ」として、「帰着の結論は労働需要と労働供給の賃金弾力性に依存するので、理論的 な考察だけでは最終的な負担は決められない。」としている16)。雇用税の帰着に関して、一般 均衡分析の枠組みで理論分析をおこなっているものが本間(1982)、木村(2009)である。本間 (1982)は、2財2要素の静学的租税帰着モデルを利用し、代表的家計、労働供給外生の仮定を おいたうえで、全産業に共通の税率が適用される一般雇用税の場合17)について、「一般雇用税 は、その税率の上昇を丁度相殺するように賃金・利潤比率を下落させ、労働に対して全税負担 13)岩本・濱秋(2009)p.39 引用。 14)労働者が社会保障給付を便益と感じるケースについての分析については Summers(1989)を参照されたい。 15)岩本・濱秋(2009)p.41 引用。 16)岩本・濱秋(2009)p37 引用。 17)一部の産業にのみ雇用税が課税されるケースでは、別の命題が導き出されている。詳しくは本間(1982)を参照されたい。
10 をかける。」としている18)。この命題が、企業の雇用主負担は最終的には家計の負担となると いう考え方の根拠となっている。この本間命題を直感的に説明すると、企業が利潤最大化行動 をとっている場合には「雇用税込み賃金率=労働の限界生産物価値」が成立しており、雇用税 の引き上げは賃金率を下落させることになるわけだ。ただし、本間命題は、家計は代表的家計 を想定という仮定に依存しており、労働供給も外生的に取り扱われている。これに対して、年 金受給者と勤労所得者の2つのタイプの家計を想定し、労働供給を内生化して、静学的租税帰 着分析をおこなったのが木村(2008)である。木村は、雇用税は労働者に帰着するものの、そ の程度は弾力性に依存するとしている。ただし、木村の分析では生産部門は1部門に簡略化さ れたものとなっている。 以上のように雇用税の帰着に関する理論分析では、雇用税は労働者に帰着する可能性が高い ものの、その帰着の程度は弾力性に依存するとされており、その意味では実証分析の重要性の 高さがわかる。 表 4 わが国における雇用税の実証研究 データ 主な結果
Komamura and Yam ada(2004) 健康保険組合の現勢、 健康保険組合事業年 報 健康保険の雇用主負担の大部分は従業員に 後転 酒井・風神(2006) 賃金構造基本統計調 査 介護保険導入時の賃金下落を確認したもの の、原因については確定できず Tachibanaki and Yo koyama(2008) 1972年から1998年の 産業データ 従業員への後転はない、雇用主負担引き上げ 時に賃金上昇あり 岩本・濱秋(2009) 毎月勤労統計月報 雇用主負担の賃金へ部分的転嫁の可能性あ り そこで、我が国における雇用税に関する最近の実証分析をまとめたものが表 4 である。まず、 健康保険の雇用主負担の従業員への帰着を主張しているのが Komamura and Yamada(2004)で ある。彼らは、健康保険組合連合会編『健康保険組合の現勢』と健康保険組合連合会編『健康 保険組合事業年報』を利用し、健康保険と介護保険の雇用主負担が賃金に与える影響を分析し、 「日本では、健康保険の雇用主負担の大部分は、賃金の減少という形で従業員に後転されてい る」と述べている19)。ただし、彼らは介護保険については「一方、介護保険の雇用主負担につ 18)本間(1982)p.38 引用。
11 いては同様の証拠は見いだせなかった」としている20)。酒井・風神(2006)は、介護保険の事業 主負担の帰着に関する実証分析を試みていている。彼らは、介護保険導入時の 40 歳以上とそれ 以下のグループの賃金の変化を検証している。介護保険の保険料は 40 歳以降に適用されるため に、介護保険実施前後で賃金率の変化を測定すれば、介護保険の雇用主負担による賃金への影 響が測定できると考えたわけだ。彼らは、介護保険導入時点での賃金下落は観察できるが、そ の下落が雇用主負担の増加によるものかどうかを特定することはできなかったとしている。 このような雇用主負担の引き上げが賃金の下落をもたらすという実証研究の結果に対して、 正反対の見方を示したものが Tachibanaki and Yokoyama(2008)である。1972 年から 1998 年の産 業データを用いた賃金関数を推計することで、社会保険料の労働者への帰着に関する実証分析 をおこなっている。その結果として彼らは、「従業員への後転は観察されない」としている21)。
このように実証研究において正反対の結果が生じた理由は、雇用主負担の引き上げによる影 響とその他の経済環境による変化を分離することが難しいためである。Tachibanaki and Yokoyama(2008)の結果は、推計期間における賃金の上昇傾向を分離できていないと指摘したの が岩本・濱秋(2009)である。彼らは、Tachibanaki and Yokoyama(2008)の分析手法を改善した結 果として、「Tachibanaki and Yokoyama(2008)の推定式にトレンド変数を加えて賃金の時系列的 な上昇をコントロールすれば、保険料率の係数の値は優意に正とならず、理論と整合的な負の 値が得られる」と述べている22)。さらに、労災保険の保険料を事業主負担に含めた推定、鉱業 と不動産業の標本を除外した推定により、「単に推定式にトレンド項を加えるだけの場合より も事業主保険料率の係数は理論的に予想される範囲に近い値をとる。」と述べている23)。 雇用主負担の帰着に関しては、企業アンケートによる分析もおこなわれている。酒井(2009) は、「企業が事業主負担増に応じて賃金を調整する場合には、賞与について調整することがわ かった。その一方で福利厚生によって調整することは少なかった」と述べている24)。また、「雇 用を調整する場合には、採用を手控えるということがもっとも多いものの、正規雇用から非正
20)Komamura and Yamada(2004) p.579 引用。 21)岩本・濱秋(2009)p.44 引用。
22)岩本・濱秋(2009)p.57 引用。 23) 酒井(2009) p86.引用。 24)酒井(2009) p86.引用。
12 規雇用への代替ということも多く考えられている」としている25)。 3.静学的応用一般均衡モデルによるシミュレーション この節では、静学的応用一般均衡モデルによるシミュレーション分析をおこなう26)。そのシ ミュレーション分析では、最終的な影響がどのような経路を通じて生じたものかを解明するこ とに役立つであろう。 3.1 シミュレーションモデルの概要 まず、家計行動のモデルを構築していこう。社会には2期間生存する家計m(m=1,2)が存在し ている。家計の効用関数には以下のような nested CES 型効用関数を仮定する。
[
(
β)
μ β(
)
μ]
μ1 1− − + − − − = H L LS U (1)(
)
[
α η α η]
η 1 1 − − − + − = CP CF H (2) j j P j P X C λ 2 1 = Π = (3) j j F j F X C λ 2 1 = Π = (4) ここで、(1)式は家計の効用U が合成消費 H と労働の初期保有量 L から労働供給L を差し引いs た余暇に依存することを示している。(2)式は、 H が現在消費CPと将来消費CFを選択する合成 消費に関する効用関数であることを示している。CPは現在の 2 個(j=1,L,2)の個別消費財需要 j P X から構成される現在消費である。C は将来の 2 個の個別消費財需要F j F X から構成される将 来消費である。(1)式のβ はウェイト・パラメータ、(2)式のα
はウェイト・パラメータ、(3)(4) 式のλjは消費に占める第 j 消費財のウェイト・パラメータである。また1(
1+μ =)
ε は H と余暇 ) (L−LS の代替の弾力性、1(
1+η =)
σはC とP C の代替の弾力性となる。なお、各家計の添え字F は煩雑化をさけるために省略している。 25)酒井(2009)p86 引用。 26)本稿で用いるモデルは、橋本(2009)をベースとしたものである。13 家計の予算制約は pHH =
(
1−τy−τS)
wLS +τyG+(
1−τr)
rK+B (5) とする。ただし、p は消費に関する効用関数 H の合成価格、H wは賃金率、wL は給与収入、S τy は所得税の限界税率、 τsは社会保険料率(本人分)、Gは所得税の課税最低限、τrは利子所得 税率、K は家計が保有する資本、r
は資本価格、 B は家計が受け取る社会保障給付である。この 式では、各家計は一定の限界税率と課税最低限から構成される線形所得税に直面しているという 仮定にもとづいている。 (1)と(5)に関する効用最大化問題を解けば、次のような労働供給関数を得ることができる。(
)
{
}
( )(
)
(
)
{
(
)
}
( ) ε ε ε ε ε β β τ τ τ τ τ τ τ τ ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ − = − − + − − + − − − − − = − − 1 , 1 1 1 1 1 1 k p w k w B K r G p w L k L H l y l y r y H l y S (6) 効用関数 H に関する予算制約式は以下のようになる。 pPCP +pFCF =(
1−τy −τl)
wLS +τyG+(
1−τr)
riK+B (7) ただし、p
Pは現在消費に関するC
Pの合成価格、p
Fは将来消費に関するC
Fの合成価格である。 (2)と(7)に関する効用最大化問題により以下が成立する。(
)
(
)
{
}
( )(
)
( ){
σ σ σ σ}
σ σ α α τ τ τ τ α − − + − + − + + − − = 1 1 1 1 1 F P P r y S l y p p p p B K r G wL C(8)
(
)
{
(
)
(
)
}
( )(
)
( ){
σ σ σ σ}
σ σ α α τ τ τ τ α − − + − + − + + − − − = 1 1 1 1 1 1 F P P r y S l y F p p p B K r G wL C (9) (8)式、(9)式はそれぞれ現在消費と将来消費の需要関数である。現在消費C と将来消費P C のF 選択に関する予算制約式をそれぞれ次のように与える。(
)
wL G(
)
rK B S X q r j y S l y P j j = − − + + − + −∑
= τ τ τ τ 1 1 10 1 (10)(
)
{
}
∑
= − + = 10 1 1 1 j r F jX S r q j τ(11)
14 た だ し 、 q は 税 込 み 財 価 格 で あ り 、j τC を 間 接 税 率 、 p を 生 産 者 価 格 と す れ ば 、j
(
Cj)
j jp
q
= 1
+
τ
(12) が成立する。また、Sは家計の貯蓄を示し、pFCFは将来消費の価値であるので、貯蓄Sに等し くなる。よって次式が成立する。S
C
p
F F=
(13) (3)式、(10)式および(4)(11)に関する効用最大化問題をそれぞれ解くと、次のような現在と将 来の需要関数XP,XFがそれぞれ得られる。(
)
(
)
{
}
j r y S l r j P q S B K r G wL X i − + − + + − − =λ 1 τ τ τ 1 τ (14)(
)
{
}
j r j Fq
r
S
X
iτ
λ
+
−
=
1
1
(15) さらに、合成価格については以下のような関係が成立している。∏
= ⎪⎭ ⎪ ⎬ ⎫ ⎪⎩ ⎪ ⎨ ⎧ = 2 1 j j i P j q p λ λ (16)(
)
{
}
∏
= ⎪⎭ ⎪ ⎬ ⎫ ⎪⎩ ⎪ ⎨ ⎧ − + = 2 1 1 1 1 j j j r F j q r p λ λ τ (17) ( )(
)
[
ασ −σ + −α σ −σ]
(−σ) = 1 1 11 1 F P H p p p (18) 次に、生産 Q を産出する第 j(j=1,2,3)産業に関しては、次のような資本 K と労働 L を投入する CES 型の生産関数を想定する。なお、煩雑化をさけるために、産業を示す添え字は省略する。 ( )(
)
( 1) ( 1) 11
− − −⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎝
⎛
−
+
Φ
=
ϕ ϕ ϕ ϕ ϕ ϕδ
δ
L
K
Q
j (19) Φ は効率パラメータ、δ
は分配パラメータ、ϕは代替の弾力性を示すパラメータである。なお、 第 3 産業は公共財産業であると想定する。産出 1 単位あたりの費用最小化要素需要を求めると以 下のようになる。15
(
)
(
(
) (
)
)
( ) ( ϕ) ϕ ϕ τ δ τ δ δ δ − − ⎥ ⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎢ ⎣ ⎡ ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ + − + − + Φ = 1 1 1 1 1 1 1 l k w r Q L(20)
(
) (
)
(
)
( )(
)
( ϕ) ϕ ϕ δ τ δ τ δ δ − − ⎥ ⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎢ ⎣ ⎡ − + ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ + + − Φ = 1 1 1 1 1 1 1 k l r w Q K(21) ただし、τkは資本税の税率、τlは雇用税の税率(社会保険料の雇用主負担分)である。これらを 用いれば、利潤ゼロ条件により生産者価格 p を要素価格の関数として表すことができる。
(
)
Q K r Q L w p=(1+τl) + 1+τk (22) 最後に、政府行動を定式化しよう。政府は、消費税、勤労所得税、利子所得税、資本税、およ び社会保険料により財源を調達し、公共財供給ないし社会保障給付へ支出するものとした。政府 の一般会計における予算制約式は次のようになる。∑
∑ ∑ ∑ ∑
∑∑
= = = = = = = + + + + − + = 2 1 2 1 3 1 2 1 2 1 2 1 2 1 ) ( m m j m s m l S s k r s y m j p j CpX wL G rK K L L R j j τ τ τ τ τ τ (23) このようにして調達された総税収は、家計への社会保障給付、政府の財サービスの購入、公共 財供給に支出されるものとした。(
)
3 3 1 p R Q = −γ −κ (24) ただし、γ
は一般会計予算における社会保障給付のシェア、κ
は一般会計予算における政府の 財サービス購入のシェア、p3 は公共財価格、Q は公共財の供給量とする。社会保障給付の総額3 と各家計の社会保障給付受取額の間には以下の関係が成立するものとする。TR
B
m=
γ
mγ
(m=1,・・・,10) (25) ただし、γm は第m家計の社会保障給付のシェアであり、Bmは第m家計の社会保障給付受取 額、TR は政府の予定税収である。政府の税収 R でなく予定税収 TR を使用しているのは、家計 の労働供給は社会保障給付の受取額に依存しているので、均衡以外では政府税収 R と予定税収16 TR が一致しないためである。 財市場と生産要素市場において需要と供給が一致することで一般均衡が成立する。 j I X を企業 の投資需要、 j G X を政府の財・サービス購入とすると、以下の式が成立する。 J j j I G m P j X X X Q =
∑
+ + = 2 1 ただし、投資需要 j I X は、 j m m j I p S X j∑
= = 2 1 η という関係が成立するものとして求めた。ここでηjは第j産業の投資配分パラメータである。 また政府消費需要は j j G p TR X j κ Ω = という関係が成立するものとして求めた。ここでΩj は第 j 産業の政府の財サービス購入の配分 パラメータである。 労働、資本および政府の集計的超過需要関数ρl,ρk,ρRは以下のように表される。 TR R K K L L R j m j k m S j j l − = − = − =∑
∑
∑
∑
= = = = ρ ρ ρ 3 1 10 1 10 1 3 1 したがって、このモデルの均衡解は、これらの式で示される超過需要関数をゼロにするような w、 r 、TR の組み合わせを求めることで得られる。17 3.2 短期的な効果 表 5 標準ケースでの家計のパラメータ 家計1 家計2 労働保有(L) 100 2500 資本保有(K) 0 5000 消費財1へのシェア(λ) 0.7 0.6 消費財2へのシェア(λ) 0.3 0.4 貯蓄のシェアパラメータ(α) 0.5 0.5 労働供給のシェアパラメータ(β) 0.01 0.01 貯蓄の代替パラメータ(σ) 0.2 0.2 労働の代替パラメータ(ε) 0.1 0.1 社会保障給付配分比率 (γm ) 1 0 上記で提示したモデルに数値例を設定することで、企業の雇用主負担の帰着に関するシミュ レーション分析をおこなうことにしよう。表 5 は、標準ケースでの家計のパラメータをまとめ たものである。本稿では、家計1を貧困層、家計2を富裕層と想定し、家計1は資本を全く所 有せず、労働保有もわずかしか保有しないものと設定した。消費財については、第1財、第2 財のみが存在するとし、第1消費財は食料品など生活必需品であり、第2財はそれ以外の消費 財をイメージして、第1消費財の消費シェアの方が高いものとし、かつ貧困層の方が第1消費 財の消費シェアが高くなるものと想定した。社会保障給付の配分については、貧困層にのみ社 会保障給付が配分されるものとし、γ1 を1とし、γ2をゼロにしている。 表 6 は、標準ケースでの政府関連パラメータをまとめたものである。ここで賃金税は、社会 保険料の雇用主負担に相当するものである。
18 表 6 標準ケースでの政府関連パラメータ 消費税率(tc) 0.05 利子所得税 0.2 給与所得税限界税率 0.1 所得税課税最低限 10 社会保険料本人分 0.0915 賃金税(tl) 0.0915 資本税 0.3 社会保障給付対税収比 0.15 政府の財サービス購入比率 0.6 表 7 標準ケースでの企業のパラメータ 産業1 産業2 産業3 効率パラメータ(φ) 2 1.5 2.2 シェアパラメータ(δ) 0.7 0.1 0.4 代替パラメータ(ψ) 0.4 0.4 0.4 政府消費の配分パラメータ 0.7 0.3 - 表 7 は、標準ケースでの企業のパラメータをまとめたものである。本稿では、産業3は、公 共財生産産業と想定している。政府消費については、消費財を生産している産業1、産業2の みから政府が購入するものと想定した。以下では、このようなパラメータのもとでのシミュレ ーション結果についてみていくことにしよう。 [保険料の引き下げのみの影響] まず、保険料率のみを 1%減少させた場合の各変数の動きをまとめたものが表 8 である。保 険料率を1%減少させた場合には、第1階級の労働所得は増大していることがわかる。まず、 保険料率の引き下げは、課税後賃金率を上昇させる。課税後賃金率が上昇した場合には、代替 効果と所得効果が相反する方向で働くことになる。代替効果としては、課税後賃金率の上昇に より労働供給は増加する。所得効果としては労働供給が減少する。第1階級の場合には、賃金 率の上昇により労働供給が増加する。さらに所得効果としては課税後賃金率の変化による所得
19 効果により労働供給が減少する効果を、保険料率低下による税収低下が社会保障給付の減少を 生じることで、マイナスの所得効果が働き、労働供給増加の効果が生じている。つまり、第1 階級では、自らの賃金率増加による労働供給増加効果と、社会保障給付削減により生活水準を 維持するための追加的な労働供給増加の効果が生じているわけだ。 表 8 保険料1%減の影響 基準ケース 保険料1%減 変化率 階級 1 2 1 2 1 2 労働所得 40.3 1,818.9 41.0 1,815.0 1.76% -0.22% 資本所得 0.0 769.9 0.0 769.3 - -0.08% 合成消費量 86.0 978.6 85.1 985.6 -1.07% 0.71% 余暇 59.7 681.1 59.0 685.0 -1.19% 0.59% 効用 83.8 954.6 82.9 961.1 -1.09% 0.69% 所得税 3.0 180.9 3.1 180.5 2.34% -0.22% 利子所得税 0.0 154.0 0.0 153.9 - -0.08% 消費税 4.4 52.0 4.4 52.4 -1.09% 0.69% 社会保険料 3.7 166.4 3.3 147.9 -9.36% -11.12% 社会保障給付 144.8 0.0 141.9 0.0 -2.02% -可処分所得 178.4 2,087.5 176.5 2,101.9 -1.09% 0.69% 一方、第2階級では、保険料率の低下にともない、労働所得が減少していることがわかる。 第2階級では、代替効果による労働供給増大を所得効果による労働供給減少効果が上回ってい ることになる。つまり、賃金率の上昇と社会保障負担の低下により、これまでよりも少ない労 働供給でより高い満足度が得られているわけだ。 このように第1階級と第2階級では、保険料引き下げにより全く異なる影響を受けることに なる。第1階級は、労働所得が少なく、基準ケースにおいてほとんど保険料を負担しておらず、 主として第2階級が負担している税収からの社会保障給付に所得の大部分を依存している。現
20 実の世界に置き換えて考えれば、保険料の引き下げは、現役労働者に対して恩恵をもたらし、 年金生活者に対してはメリットを生じないということになる。 [雇用税のみの引き下げ] 表 9 雇用税1%減の影響 基準ケース 雇用税1%減 変化率 階級 1 2 1 2 1 2 労働所得 40.3 1,818.9 40.9 1,816.2 1.35% -0.15% 資本所得 0.0 769.9 0.0 762.7 - -0.94% 合成消費量 86.0 978.6 85.3 983.5 -0.83% 0.49% 余暇 59.7 681.1 59.1 683.8 -0.92% 0.41% 効用 83.8 954.6 83.1 959.1 -0.85% 0.48% 所得税 3.0 180.9 3.1 180.6 1.80% -0.15% 利子所得税 0.0 154.0 0.0 152.5 - -0.94% 消費税 4.4 52.0 4.4 51.8 -1.73% -0.42% 社会保険料 3.7 166.4 3.7 166.2 1.35% -0.15% 社会保障給付 144.8 0.0 141.4 0.0 -2.39% -可処分所得 178.4 2,087.5 175.4 2,079.5 -1.69% -0.38% 表 9 は、雇用税(社会保険料の雇用主負担)の1%減の影響を示したものである。雇用税の引 き下げによる各変数の影響についての符号は、社会保険料の引き下げの場合と全く同じである。 雇用税の引き下げも社会保険料の引き下げと同様に、課税後の賃金率を上昇させる効果を持つ。 ただし、雇用税の引き下げの場合には、課税後の賃金率の上昇の多くは、課税前の賃金率の上 昇によるものとなる。第1階級の労働所得増加効果は、社会保険料の引き下げのときよりも小 さく、効用の減少率も小さくなっている。第2階級の労働所得減少効果は、社会保険料引き下 げ時よりも小さく、効用増大の増加率が小さくなっている。
21 表 10 雇用税・社会保険料引き下げによる相対価格の変化(ε=0.1) w/r 社会保険料1%減 0.0805% 雇用税1%減 0.9451% 表 10 は、雇用税・社会保険料引き下げによる相対価格の変化を示したものである。雇用税の 1%の引き下げにより賃金率は1%近く上昇することがわかる。一方、社会保険料の1%引き 下げた場合には、直接的には課税前賃金率に影響が及ばないために、相対価格の変化も小さく なっていることがわかる。つまり、雇用税の引き下げと社会保険料の引き下げは、課税後賃金 率をともに上昇させるものの、社会保険料の引き下げではその上昇は税率の引き下げによるも のであり、雇用税の引き下げの場合には、課税前の賃金率の上昇によるものとなるわけだ。 [消費税率引き上げのみの影響] 表 11 は、消費税率引き上げのみの影響をまとめたものだ。この表によると、消費税を引き上 げた場合には、家計1の効用は増加、家計2の効用がマイナスになっている。家計1の効用が 増加するのは、消費税率の引き上げにより、社会保障給付が増大するためである。社会保障給 付の増大により、家計1は労働供給を減少させ、余暇が増加し、結果として効用水準が増大す ることになる。一方、家計2は、消費税があがると、労働供給を増大させ、余暇が減少し、効 用は減少することになる。 このシミュレーション結果は、本稿のモデルでは家計1は、所得に占める社会保障給付の比 率が高く、消費税率の引き上げは、社会保障給付の増大につながると想定したこと生じたもの だ。このことは、消費税率の引き上げは、社会保障給付の拡大へ結びつく場合には、高所得層 よりもむしろ低所得層に有利となることを示唆している。
22 表11 消費税率引き上げのみの影響 基準ケース 消費税率引き上げ 変化率 階級 家計1 家計2 家計1 家計2 家計1 家計2 労働所得 40.3 1818.9 40.2 1823.4 -0.25% 0.24% 資本所得 0.0 769.9 0.0 773.5 - 0.47% 合成消費量 86.0 978.6 86.0 971.2 0.06% -0.76% 余暇 59.7 681.1 59.8 676.6 0.17% -0.65% 効用 83.8 954.6 83.9 947.6 0.09% -0.74% 所得税 3.0 180.9 3.0 181.3 -0.34% 0.24% 利子所得税 0.0 154.0 0.0 154.7 - 0.47% 消費税 4.4 52.0 5.3 62.0 16.83% 16.15% 社会保険料 3.7 166.4 3.7 166.8 -0.25% 0.24% 雇用税 3.7 166.4 3.7 166.8 -0.25% 0.24% 資本税 0.0 231.0 0.0 232.1 - 0.47% 社会保障給付 144.8 0.0 146.9 0.0 1.42% [税方式化の影響] 最後に税方式化による経済効果を見るために、保険料率引き下げと消費税率引き上げの差別 的帰着をおこなう。すなわち、税収一定を達成するような、税率の組み合わせのもとでシミュ レーションをおこなうこととしよう。差別的帰着においては、改革前の税制と改革後の税制に おいて価格体系が変化することに注意しなければならない。消費税率の引き上げは、消費者価 格を上昇させるために、改革前と同じ水準の公共財・サービスを提供するためには、より多く の名目税収が必要となるわけだ。実質税収を一定にするために、どのような価格を採用するか についてはさまざまな考え方がある27)。本稿では、Shoven and Whally(1992)にしたがい、ラ
イスパイレス指数を用いて実質税収を定義した。
27)橋本(1998)は、政府が公共投資のみをおこなうモデルにおいて、公共財価格を用いて実質税収一定のシミュレーション をおこなっている。
23 ラスパイレス指数は、 と示される。ここで、xj m0 は第 m 家計の基準年次0時点における第j消費財の数量であり、 qj0 は、基準年次0時点における第 j 消費財の消費者価格、qj1 は比較年次1時点における第 j 消費財の消費者価格である。実質税収は、基準年次の税収をラスパイレス指数で割ることで求 められることになる28)。本稿では、社会保険料(雇用主負担と本人負担分の合計)を 1%ポイ ント低下させ、実質税収を一定に保つような消費税率を求めた。 表 12 税方式の影響 改革後 改革前 変化率 階級 家計1 家計2 家計1 家計2 家計1 家計2 労働所得 40.46 1,839.67 40.33 1,818.94 0.31% 1.14% 資本所得 0.00 785.81 0.00 769.88 - 2.07% 合成消費量 85.39 944.30 85.97 978.62 -0.68% -3.51% 余暇 59.54 660.33 59.67 681.06 -0.21% -3.04% 効用 83.32 921.99 83.81 954.56 -0.58% -3.41% 所得税 3.05 182.97 3.03 180.89 0.41% 1.15% 利子所得税 0.00 157.16 0.00 153.98 - 2.07% 消費税 9.38 106.70 4.45 52.01 111.02% 105.16% 社会保険料 3.50 159.13 3.69 166.43 -5.17% -4.39% 雇用税 3.50 159.13 3.69 166.43 -5.17% -4.39% 資本税 0.00 235.74 0.00 230.97 - 2.07% 社会保障給付 153.04 0.00 144.84 0.00 5.66% 28)本稿では、基準年次の税収を固定し、社会保険料を引き下げた場合に実質税収を調達可能な消費税率を反復計算によっ て求めた。
∑
∑
∑
∑
= = = = = 2 1 2 1 0 0 2 1 0 2 1 1 j m m j j m m j j j x q x q LAS24 表 12 は、税方式化が家計1と家計2に与える影響をまとめたものである。社会保険料を引き 下げて、消費税率を引き上げた場合には、家計1、家計2の労働所得が増加する。これは社会 保険料の引き下げにより、賃金率が上昇するためである。家計1の労働所得の上昇が小さいの は、家計1の労働の初期保有量が小さいからだ。家計1の社会保障給付が増加しているのは、 消費税率の引き上げにともない、消費者価格が上昇し、実質税収一定の想定のもとで、名目税 収が増加し、社会保障給付が増大するからだ。税方式にともない、保険料をさげて消費税率を あげると消費者の効用は低下する。労働供給の弾力性を現実と同様に小さいと仮定したので労 働へ課税したほうが超過負担は小さくなる。したがって、短期的には税方式化は効率面でのメ リットが生じないこととなる。 4.多部門世代重複モデルによるシミュレーション この節では、税方式化による資本蓄積を通じた経済効果について、多部門世代重複モデルを 用いたシミュレーションをおこなう。シミュレーションモデルには、木村・橋本(2010)を拡張 したモデルを使用する。 4.1 モデルの概要 本稿で用いたモデルの概要は、以下のようなものである。家計部門は、83 世代の平均家計を 想定し、近視眼的な予想形成を採用する。さらに生存確率を導入し、意図せざる遺産を考慮す る。生産部門については、12 部門とし、政府部門は、一般会計と社会保険会計(年金・医療・ 介護)から構成されるものとする。各部門の詳細について、以下で説明していこう。 [家計部門] 経済には0 歳から 105 歳までの人が存在し、その中で家計部門は、世帯主、世帯主と同年齢 の被扶養配偶者、子供からなる複数の世帯で構成される29)。このとき、j 年生まれの s 歳の人 口と世帯主の数(=世帯数)をそれぞれ j s pop
と
Nsjとし、各世帯の平均的な被扶養配偶者数と 世帯人員数をそれぞれ j s Spouse、
Mensjとする30 )。各世帯の世帯主は 23 歳で労働市場に参入し、 29) 以下、世帯の集合ないし世帯一般を、家計部門もしくは単に家計とよぶ。 30) このとき年次と生年の関係はt = j + s で表せる。25 被用者年金に加入して 59 歳まで働き、60 歳から引退生活をして、最長 105 歳まで生存する。 このとき、世帯主が j年生まれの s 歳の世帯は、以下の効用関数と予算制約の下で効用最大化 問題に直面するものとする。 効用関数:
(
)
∑
(
)
( ) = − − − − − + = − 105 1 1 80 1 1 , 1 s i j i s i j i j j i C S C U γ δ π γ (26)( )
∏
= = 10 1 k j ki j i k X C λ ; 1 10 1 =∑
= k k λ (27) 予算制約: ・23~59 歳 :(
)
{
(
)
}
(
)
yj t s j s t mh t ph t j j s t r j s j s c t C S r S A wL , , 48 1 1 1 1 1+τ + = + −τ − + + −τ −τ −τ (28) ・60~105 歳:( )
{
( )
} ( )
j s lc j s t r j s j s c t C S τ r S τ Z τ + = + − + − + 1 1 − 1 1 1 (29) 合成消費:∑
= =10 1 k j ks kt j ks tC p X q(30) ここで、Xは第1~10 産業までがそれぞれ生産する個別消費財への需要、Cはこれら個別消費 財需要を合成した合成消費財需要、S は資産を表す。δは主観的割引率、γ は異時点間の代替 の弾力性、π は累積生存確率、 λ は個別消費財支出のシェア・パラメータである。すなわち、s 家計は個別消費財価格pi、合成消費財価格q、利子率r、賃金率wを所与として、時間に関し て分離可能な生涯効用関数Uを最大化するように、通時的な予算制約のもとで消費と資産形成 の意思決定を行う31)。なお、本稿ではこのとき家計は価格 i p 、q、r、wに関して近視眼的な期 待形成をすると仮定する32)。 予算制約は退職年齢である60 歳を境に収入面で大きく二つに区分できる。60 歳までの収入 は、非弾力的な労働供給Lsから得た労働所得と資産収入、遺産受取A からなる。また遺産は、 親世代が死亡した時点の資産を翌年48 歳になる世代が利子をともなって受取るものとした33)。 一方、60 歳以降の収入は年金給付と資産収入からなる。各世帯の年金給付額Zは、60 歳から 支給される世帯主の老齢厚生年金と 65 歳から支給される世帯主と配偶者の老齢基礎年金 31)以下、価格はすべて全生産財価格の加重平均(一般物価)に対する相対価格を表す。 32) 先行研究の多くは完全予見を仮定しているが、本稿では木村(2010)と同様にシミュレーション期間を厚生労働省「平 成 21 年財政検証」と同じに限定していることもあり、近視眼的な期待形成を採用した。 33) このとき遺産額と遺産受取額の関係は
{
(
)
}
∑
(
)
= − − − + − − = + − 105 − 23 1 47 48 47 48 1 1 i 1 i t i i t i i t i t r t t N r S N A τ π と表せる。26 KISOからなる34)。このうち老齢厚生年金は、総報酬の生涯累計に生年別の給付乗率θjを乗じ て計算した報酬比例部分と、世代によってはこれに特別支給の定額部分 j s TEIGAKU の合計が新規 裁定の給付額となる。既裁定については物価スライドによって年金額が改定されるため、新規 裁定時の給付額が死亡するまで維持されるものとしている。このほか、給付調整期間中はマク ロ経済スライドが適用される。 家計には租税公課として、労働所得税τy、利子所得税(税率τr)、消費税およびその他の間 接税(税率τc)、年金保険料(雇用者負担分、料率τph)、医療保険料(雇用者負担分、料率τmh)、 介護保険料(料率τlc)が課される。ただし、介護保険は、簡単化のために65 歳以降の制度と し、64 歳までの保険料率はゼロとしている。また労働所得税については、保険料控除後の労働 所得に実際の税制を適用して税額が計算される。 以上の最大化問題を解いた結果、オイラー方程式と個別消費財需要関数は以下のように導出 される。
( ) ( )
(
)
s s C q q r C s s c s s c s s r s γ π π τ τ δ τ ⎪⎭ ⎪ ⎬ ⎫ ⎪⎩ ⎪ ⎨ ⎧ + + + − + = + + + + 1 1 1 1 1 1 1 1 1 (31) j s s i j is isX qC p =λ (32) 最終的には、以上の個別消費財需要とフローの貯蓄を集計したものがそれぞれ各消費財市場 と投資財市場における家計からの総需要となり、資産残高と労働供給を集計したものがそれぞ れ資本市場と労働市場への家計からの総供給量となる。 ・家計の総個別消費財需要: ; 1, ,12 105 23 L = =∑
= − − N i X AX s s t s s t is i t (33) ・家計の総投資財需要 :∑
(
)
= − − − − − =105 23 1 s s t s s t s s t s t S S N AI (34) ・総資産(資本供給) :∑
= − − =105 23 s s t s s t s t S N KS (35) 34) 老齢厚生年金の支給開始年齢は 60 歳から段階的に 65 歳へと引上げられることになっている。男女によって引上げの 時期は異なるが、本稿では男性の場合に従っている。27 ・総労働供給 :
∑
= − − = 59 23 s s t s s t s t L N LS (36) [生産部門] 生産部門は、消費財産業10 部門、政府サービス産業、投資財産業の合計 12 部門で構成され る。各産業部門の生産技術は次のような一次同次のコブ・ダグラス型に特定化する。( ) ( )
1 ; =1,L,12 = LD KD − i Q i i t i t i t i i t α α φ (37) ここでQは生産、LDは労働需要、KDは民間資本需要、φは全要素生産性、αは労働分配率 を表し、それぞれ産業ごとに異なる。 各産業部門では、労働に対し賃金と社会保険料(雇用主負担分)を、資本に対してレンタル 料と資本税をそれぞれ支払う。賃金率、社会保険料率、レンタル料、資本税率はいずれも部門 間で同一である。雇用主負担分の年金保険料率と医療保険料率をそれぞれ pf t τ と mf t τ 、資本税率 をτ 、産業部門別の資本減耗率をk i η とすると、各産業部門の利潤最大化問題は次式で表せる。(
)
{
( )
}
i t i t t k i t t mf t pf t i t t i i t p Q 1 τ τ wLD 1 τ r p12η KD max Π = − + + − + + (38) ここから第i産業の生産 1 単位当たりの費用最小化要素需要を求めたものが以下である。(
)
{
}
(
)
(
)
( i) t mf pf i t i t t k i i t i t i t w p r Q LD α τ τ α η τ α φ − ⎥ ⎥ ⎦ ⎤ ⎢ ⎢ ⎣ ⎡ + + − + + = 1 12 1 1 1 1 ; i = 1,···,12 (39)(
)
(
)
(
)
{
}
i i t t k i t mf pf i i t i t i t p r w Q KD α η τ α τ τ α φ ⎥⎥⎦ ⎤ ⎢ ⎢ ⎣ ⎡ + + + + − = 12 1 1 1 1 ; i = 1,···,12 (40) これら費用最小化需要と利潤ゼロ条件より、各産業で生産される財の価格 p を要素価格の関i 数として次式のように表すことができる。(
)
{
(
)
}
i t i t i t t k i t i t t mf pf t i Q KD p r Q LD w p = 1+τ +τ + 1+τ + 12η ; i = 1,···,12 (41) [政府] 政府は、社会保障部門と一般会計部門で構成される。28 社会保障部門には年金、医療、介護の3 つの会計がある。年金会計では、保険料収入と積立 金の運用収入、国庫負担を財源に給付を行い、給付より収入が多ければ積立金を積み増し、逆 に少なければ取り崩す。医療保険と介護保険の両会計では、給付の一定割合を公費で補填し、 残りを保険料収入でまかなう。医療と介護の給付は家計の正常な日常活動を支えるために必要 な政府支出であるとし、年齢別1 人当たりの医療給付と介護給付をそれぞれms、h とし、伸びs 率ρm、ρhで毎年単価が上昇すると仮定した。各会計の予算制約は次のようにまとめられる。 【年金会計】 ・予算制約 : Ft+1=