子育て支援 にみる幼稚園教育の課題
†奥山 順子*
秋 田大学教育文化学部附属幼稚園
小論の目的 は,子育て支援事業 をめ ぐる問題を手がか りとして, 日本の幼稚園 における 保育者 の専門性 に関わ る課題 を考察す ることである.
今 日, 日本の幼稚園 は子育て支援 のためにその機能が拡大 し,保育者 にはより幅広 い専 門性 が要求 されている. しか し,主 に次 の4つの問題 に起因 して,保育者 の専門性 は十分 に育成 されて きたとはいえない. これ らの問題 の克服が, 日本 の幼稚園教育 にとって, ま た子育て支援事業が 目的を果たす上で も重要 な課題であるととらえ られ る.
1) 短期大学中心 の保育者養成
2) 保育者への期待の二面性 (「子守性」 と就学準備教育) 3) 私立中心 の幼稚園教育
4) 保育学 の末確立
キー ワー ド:幼稚園 子育て支援 保育者 の専門性
1. は じめに
2000年4月施行の 『幼稚園教育要領』 で は,「教 育課程編成上特 に留意す ること」 として,子育て支 援のために,① 「地域 の幼児教育のセ ンターとして の役割を果 たすよう努 めること」, ② 「地域 の実情 や保護者 の要請 によ り,教育課程 に係 る教育時間の 終了後 に希望 す る者 に対す る教育活動」 を実施す る ことの二点が掲 げ られて い る. 『幼稚 園教育要領』
において これ ら二点が幼稚園が果 たすべ き役割 とし て明示 された ことの背景 には,周知のように近年 の 少子化 に対応 した子育て支援や家庭や地域社会 の教 育力の低下 に対す る,幼稚園をは じめ とした学校教 育 の役割の再考が社会全体 の課題 として捉え られて いることが挙 げ られ る. また,中教審報告 「少子化 と教育 について」(2000年4月)では,「少子化 に対 応す るための具体的方策」として幼児教育 の専 門施
2001年1月22日受理
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設である幼稚園を中核 として,幼児教育全体 につい ての施策を総合的に展開す ることが必要であるとし て 「幼児教育振興 プログラム」等の新たな策定 ・推 進 の必要性が述べ られている.
本来幼稚園教育 は家庭 との連携 によってその機能 が果たされ るものであるが,上記 のように,現在の 幼稚園 には幼児 の集団施設教育 の場 としての従来か らの役割 に加えて,現代社会 や家庭 の実情 に対応 し た新たな役割を も求 め られ るようにな っている.
これ らの施策 に対 し,現在幼稚園では具体的 に各 種事業が推進 されつつあるが, それ らの内容や実施 形態 は,本来幼稚園教育 に求 め られているものであ るのか, あるいは現代社会 の火急 の課題 に対す る緊 急的措置 として既存 の保育施設である幼稚園に求め られているものであるのかを明確 に して考 える必要 がある. なぜな らば幼稚園における子育て支援施策 の実施 とそれに伴 う役割の拡大 は,幼稚園教育 の制 皮,保育内容,形態など,幼稚園教育本来 のあ り方
にかかわる問題 だか らである.
特 に,幼稚園 (保育者) に期待 され る専 門性 は, 事業 の推進 に伴 う役割や機能 の拡大 によって多様化
し, その質や育成 のあ り方が問われている.小論 は
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幼稚園における子育て支援事業をめ ぐる諸問題を手 がか りとして,今 日の幼稚園教育の課題,なかで も
「地域 の幼児教育 のセ ンターとしての役割」 を果 た すための保育者の専門性 にかかわる課題を中心 に考 察す る.
2. 地域の幼児教育セ ンターと しての役割 と保育者 の専門性
幼稚園に求められている地域の幼児教育のセンター 的役割 として,文部省が挙 げた事業 は, その目的に ょって,①保護者 の要求 に応 じた相談活動,②保護 者啓発 のための活動,③地域 との交流活動,④保護 者同士の交流活動 とに大別で きる.具体的な事業例 も示 されているが,実際 には,保護者や地域 のニー ズや課題 の把握か ら,事業 の展開までが各幼稚園 に 任 される形 とな っている. これ らの役割が 「特 に留 意す る事項」 として幼稚園 に求め られていることの 背景 には,幼稚園が全般 に上記 の役割を果たすべ き 機能を有 していること, あるいはそ うあるべ きもの であることを前提 としているもの と考え られ る.事 業が各園 に任 されていることは,それぞれの地域や 保護者 の実情 に応 じた独 自の実践を可能 にす るもの である, しか し,実際 に幼稚園がそのための機能を 有 しているか否かについては検討が必要 とされ る・
これまでにも幼稚園教育で は地域や個 々の保護者 の実情 に応 じて幼児への指導 のみな らず保護者や地 域社会を も視野 に入れた保育 の実践 がみ られ たが,
ここで要求 されているのは,単 に幼児の園生活 を軸 とした保育 にかかわるものだけで はない, より幅広 い専門性であると考え られ る.地域 の幼児教育 のセ ンター的役割を担 うために幼稚園に求め られている のはどのような ことなのか, またそのために保育者 に求め られ る資質,専門性 にかかわ る課題 にはどの ような ことがあるのかを,以下 に事業の4つの目的 ごとに考察す る.
(1) 保護者の要求 に応 じた相談活動
幼稚園 における相談活動 は,保育者が披相談者 と なる場合 と,他 の専門機関 との連携 によって行 うも の,すなわち保育者が コーデ ィネーター的役割 を担
うものとがある.何れ も個 々の状況や不安や悩みの 質 に応 じた多様 な内容や形態 による実施が必要 とさ れ,保護者側か らの要請 によるもの,保育者側か ら の協力や連携を求めるもの, あるいは保育者が予防
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介入的なかかわ りをす るものなどがある.
幼稚園における相談活動では,幼稚園 という限定 された場 における人間関係 の特質 を考慮 しな くては な らない.第一 に,保育者が保護者 にとって は指導 者および評価者 として とらえ られ ることである.煤 育者 と保護者 とは直接的なかかわ り, および幼児を 介 したかかわ りのなかで信頼感を築 いてい くことの で きる関係であるが,幼児への指導 ・評価を通 して 保育者が保護者 の子育てに対 しての評価者 とな り得 る関係で もある. また一方では,保護者 と保育者 と の関係が,常 に子 どもを介 した関係であることか ら, 保護者 には常 に 「親であること」が要求 され, 自己 表現がある程度規制 され る面 もある. こうした関係 を基盤 とした活動 と,他 の専門機関や,匿名性の高 い相談活動 な どとでは,果た し得 る役割が異 なるこ とは明 らかである.保育者 には, こうした両者 の関 係が もつ傾 向を理解 した上で,個 々の保護者 とのか かわ りを築 いてい く人間性が求 め られているととも に,幼稚園外 の人材や施設等 の実情 を理解 し, その 活用 について コーデ ィネー トしてい く専門性が求 め
られ る.
一方,現代 の保護者 には, いわゆる育児不安,育 児困難 とい った傾向1)が指摘 されているが, そ う し た保護者 にとっての悩みや相談対象 となることが ら は,必ず しも幼児の生活や発達,育児 に関す るもの だけで はな く,保護者 の生 き方や家族のあり方など, 個々の保護者 のアイデ ンテ ィテ ィにかかわ るもので ある場合が少な くない. また,過保護,過干渉,過 期待 の傾向に見 られ るような,子育てを保護者 白身 が自己実現 の手段 とす る傾向 も指摘 されてお り,早 に保育者側か らの子育ての実践的な指導 のみにとど ま らない連絡,連携が求 め られ る. さ らに,子育て 支援事業で は,幼稚園に対 して,地域 の未就園児を も含めた親子への援助 も求 め られてお り,単 に幼稚 園内の直接的なかかわ りの中での,実践を通 した援 助だけで はない,内容,対象年齢 とも幅広 い相談 も 求 め られている.
以上のように,幼稚園の相談活動 の実施で は,早 に保育実践 のための保育技術 などの専門性 にとどま らず,保育者 の人間観,価値観が問われてい くこと となる.
(2)保護者啓発のための活動
前述 の育児困難,育児不安 の傾向に対 して,大 日
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
向 (1996)はそれが招 く看過で きない危機的な状況 として,第一 に,一見熱心 な親 として振 る舞 うこと が 自分 自身 の喜 びと化 し必要以上 にかか わ る傾 向, 第二 には子 どもに対す る自分 の行動 に嫌悪感や不安 を持 ち, それが育児忌避や苛立 ちとな って現われ る ことの二つの傾向を挙 げている2).
保護者 の こうした傾向に対 しては,従来 の幼稚園 と家庭 との関係 に多 く見 られた保護者への啓蒙,拷 導,あるいは園か らの協力要請3)だけでは, 成果 が 得 られないことは明 らかであろう.大 日向が指摘す る第‑の状況 を幼稚園 において考 えると,幼稚園の 教育方針や協力要請 に対 して熱心 に応 じ,我が子を 熱心 に育てよ うとす る姿勢 となって現れ る.保護者 にとっての幼稚園 は,我が子の初 めての学校教育 の 場であるばか りではな く, 自身 にとって は他児 との 比較 によって自 らの子育てを評価 される場 ともなる.
こうした保護者 と幼稚園 との関係 は,一見幼稚園 と 保護者 とが同一 の願 いを持 ってよ りよ く育てようと す るかに思 われ る姿勢 となって現れる場合が少 な く ない.
このように両者 の協力関係が矛盾 な く成立 してい るかに思 われ る状況 は,子 どもが家庭 において も幼 稚園において も同一 の期待 によって取 り囲まれ る状 況で もある.身近 な大人,愛着を持っ大人‑の依存 度の高 い幼児期 に, こうした状況 に取 り囲 まれ るこ とは,大人 の思 い通 りに育て られる傾向につながる.
それは 「幼児の主体的な活動」を促 して 「幼児期 に ふ さわ しい生活」 を実現す るとい う,「幼稚 園教育 の基本」(『幼稚園教育要領』)の実現 を困難 な もの とす る要因 となるもので もある.
他方,近年 の育児情報の氾濫や, 各種育児産業, 早期教育産業の隆盛 は,幼稚園以外 の場 に特定 の教 育の成果を求め る保護者や,情報 の選択 に悩む保護 者 の増加 とい う傾向を も生んでいるが, この傾向 は 特 に一見熱心、に子育 てに向か っている保護者 に多 く 見 られ る4). この場合 は,保護者 と幼稚 園 との期待 の方向が異 なる場合が多 く,幼児が 自己発揮 してい く上での戸惑 いや不安 につなが る.幼稚園か らの適 切な情報提供 も求め られるが,前述のよ うに保護者 自身が子 どもへの熱心 な教育 を自己実現の場 として いる場合,一方的な情報提供や指導では成果 は期待 で きない. その一方で,保護者 は保育者か ら, 日常 的保育場面での具体的な子 どもへのかかわ り方や態 度 について最 も影響 を受 けている傾向があると指摘
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されている5). さ らに,近年,地域社会 や家庭 内で は,具体的な育児 スキルを含めて子育てを体験的に 学ぶ場が失われている.以上 のよ うに,現在の家庭 は,幼児が幼児期 にふ さわ しい生活を送 ることので きる環境, また保護者が育児 を学 び喜 びを体験す る 環境が保障 されているとはいえない. したが って, 幼稚園における保護者啓発 のための活動 には,指導
や情報提供 にとどま らず,育児や幼児期の生活 につ いての保護者の体験 的な学 び,実感を適 した学 びを 可能 にす る工夫が求 め られ る.
そのために保育者 には,幼稚園 において幼児期 に ふ さわ しい生活を実現す る保育実践 の専門性 が必要 とされるが,個々の家庭や保護者 を取 り巻 く状況 を 把握 し,必要 とされ る援助を主体的に考えてい く力 も求 め られ る. また,大 日向が指摘 した第二の傾向 のように,育児忌避 や苛立 ちといった状況 に対 して は,一方的な指導や啓蒙 は不安感や忌避感 を増幅 さ せ る場合 も考え られ る.個々の実情 を捉 えた適切 な 援助 壱,個 々の保育者 としてだけではな く,園全体, 他 の保育者, あるいは他の施設や人材などと幅広 く 連携 を持 ちなが ら模索 していく,いわばコーディネ‑
ターとしての専門性 や共同体 の構成者 としての姿勢 が必要である.
(3)地域 との交流活動
現在幼稚園 における子育て支援 としての地域 との 交流活動 の事業例 と しては,第一 に幼児の活動 を地 域 に広 げてい くもの,第二 に未就園児 をは じめ とす る地域内の乳幼児および親子 に幼稚園を開放 しよう とす るもの,第三 に地域内の施設や人材 の活用,第 四に地域 の保護者 に対 しての相談活動や啓蒙活動 な ど,幅広 い活動が挙 げ られている.
幼児の生活圏 としての地域 の意味が変化 している 現在,幼児が従来地域内で体験す ることので きた自 然 とのかかわ りや,異年齢児 を含む子 ども集団の中 で 自分 たちで展開す る遊 びの体験 を,幼稚園以外で は体験す ることので きない幼児 も少 な くない. その 意味か らも第‑ に挙 げた,活動を地域へ と広 げる体 験や,第三 の地域内の施設や人材 の活用 は,幼児の 発達 に必要 な経験 の保障 とい う意味か らも重要 な も のであるととらえ られ る.地域 とのかかわ りを もっ た保育活動 には,教育課程 との関連 を考慮 した計画 が必要であることはい うまで もない. これまで,幼 稚園 における保育 の計画では,保育者主導 の活動の
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配列, あるいは行事中心の保育 などの問題 も指摘 さ れて きた6).幼児の発達の見通 しを持 ち, 活動 にお ける幼児の経験 と発達 との関連を捉えた保育 の計画 が必要 とされ る.
また,幼児 の活動 を地域へ と広げていくためには, 幼児が安定 して過 ごす ことので きる幼稚 園生活 や, 保育者および子 ども集団の中での安定 したかかわ り を築 くことが基盤であ り, 日常 の保育活動の充実や, 個 々の幼児 に とっての安定 した園生活が第一 に求め
られる.つ ま り,保育者 には,幼児の発達を客観的 に とらえて保育を計画 していく理論的専門性 と,日々 の生活で幼児 との信頼関係を結 び, ともに園生活 を 作 り上 げる実践的専門性 とが要求 されている.
一方,地域 との交流活動 として報告 されている活 動例 には,地域の伝統行事への参加,老人施設への 訪問,園行事 の地域住民への開放などが多 く報告 さ れている. それ らは日常の家庭および幼稚園での生 活 では体験で きない活動, あるいは日常 はかかわる
ことのない多様 な人 々とのかかわ りの提供, といっ た意義が認 め られ る. しか し, これ らの活動 で は, 幼児の日常 の生活圏外 の人や出来事 を幼児が活動以 前 にはイメージす ることが難 しく,幼児が活動 の主 体 とはな りに くいとい う問題 もある. また,地域行 事への参加や老人施設‑の訪問などは,大人 の求 め る特定の幼児の姿,例えば,愛 らしさや拙 さを大人 が一方的に求めて感動 の対象 とした り,大人 の期待 に応えることだけが幼児 の満足感 とな った りす るな ど,単 に個々の行事のあ り方のみな らず大人 と子 ど もとの関係 自体 に もかかわる問題を含んでいる. こ れ らの活動 を進める上で は保育者 は,幼児期 にふ さ わ しい活動, あるいは個 々の活動が幼児 の発達 にも た らす意味を周囲 に伝え ることので きる力,すなわ ち理論 ・理念 に裏付 け られた実践力が要求 される.
他方,地域内の乳幼児および親子を対象 とした事 業, および相談活動,啓蒙活動 は,前述の 「保護者 対象 の相談活動」 と同様,保育者 の人間性や価値観 が問われると同時 に, 3‑ 5歳期の発達 に限 らない よ り幅広 い子 どもの発達理解が求め られ ることとな る.
(4)保護者同士の交流の場の提供
地域 の人間関係が希薄化 した現代, 幼稚 園 には, 地域内での子育ての伝え合 いや,他の親子 との交流
を通 した自分の子育ての確認,親 とい う立場を超 え
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た友人作 り,保護者 自身の リフレッシュのための活 動の仲間作 りなど,従来 は地域 が有 して いた機能, すなわち無意図的な教育力 も求 め られている7).
幼稚園 における保護者同士 のかかわ りは,同年齢 の子 どもを育て る親同士 とい う共通項で結 ばれたか かわ りであ り,悩みや喜 びを共有 し,共感 しあ うこ とので きる関係 とな り得 る. しか しその一方 で は, 特定 の場で共通の体験 をす る者同士であることか ら, 集団の中で同質化 を指向す る傾向 も指摘 される. 日 本の学校 と家庭 との関係では,専 ら家庭が学校 に対 して奉仕的であると指摘 されてい るが8), 幼稚 園で の保護者参加 の活動 あるいはPTA活動が,園か ら の参加要請や協力要請, あるいは指導中心の啓発活 動が中心である場合,保護者 の同質化指向の傾向 は 助長 され ると考 え られ る. また, 幼児 に とって は, 周囲の大人,すなわち最 も身近な愛着の対象である 親 と保育者,そ して 日常的 にかかわ ることの多 い他 の保護者が同質化 して幼児を取 り囲む とい う状況 を も生む ものであ り,幼児の自己発揮 を規制 して しま う可能性を も学んでいる.
育児 における外部委託 の傾 向, あるいは必ず しも 幼児の発達要求 に即 さない早期教育 へ の指 向な ど,
マスメデ ィアによる多様 な情報の影響 もみ られ る現 代 の保護者9)に対 して,幼稚園が前述のよ うな無意 図的な教育機能 を要求 され るな らば,第一 に幼稚園 を保護者 にとって も生活圏の一部 として開放 してい くことが必要 とされる. しか し, そ こで は,幼児 の 発達 を的確 に伝え ることので きる保育者の専門性 と, 必要 とされる経験や具体的な育児 スキルを も含 めた 情報 を,保護者が体験的 に理解 してい くことので き る場 としてい くこと,すなわち幼児 にとっての充実 した保育展開を可能 とす る保育者 の実践が第‑ に要 求 され る.
また,保護者同士 の交流 の場 としての幼稚園の活 動で は,保護者 との実際のかかわ りを通 して,保護 者や地域 の幼稚園 に対す るニーズを理解 し,共 に必 要な活動 を模索 してい くことが求 められる.それは, 地域や保護者 のより適切 なニーズを引 き出 してい く
ことともな り,前述①〜③ の目的 にも共通 して求め られ る姿勢で もある.
3.保育者 に求められる専門性
幼稚園に対 して 「地域 の幼児教育のセ ンター的役 割」が求 め られていることは,幼稚園が人材および
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施設 ともそのための専門性 を持っ ものとして捉え ら れていることを示 している.
現在幼稚園には,地域の幼児教育 のセ ンターとし て,保護者を対象 とした諸事業,地域 との交流活動, および在園幼児 に限定 しない地域内の乳幼児やその 保護者 を も対象 とした活動が求め られている. それ を実現す るための機能 は,当然幼稚園教育本来 の目 的である保育実践 を基盤 としな くてはな らない. ま た,幼稚園教育 は本来家庭や地域 との連携 の中でそ の目的を果 た してい くものであ り,諸事業 は子育て 支援 と しての行政か らの要請 によっては じめて実施 されよ うと しているもので もない. しか し,現在 の 家庭や地域 の中では,幼児期 にふ さわ しい生活が実 現 されない例 も少 な くな く,幼稚園が幼児 の発達を 保障 し,幼児期 に必要 な経験を保護者や地域 に示 し てい く役割,すなわち幼稚園教育本来 の目的を果た す保育実践 の充実がよ り一層求 め られている. さ ら に子育 て支援事業 として求 め られているのは,前述 のように従来 よ りも幅広 い専門性であり,保育者は, その専門性 の質 を問われているということができる.
で は,幼稚園が当然有す るもの と考え られ る従来 か らの幼児教育の専門性,地域の幼児教育のセ ンター 的役割 を担 うために も基盤 となる専門性 はこれまで 適切 に育成 されて きた といえ るのであろうか.
保育者 の専門性 について諏訪 (1997)は,保育者 に対す る 「女性 な ら誰で もで きるものとす る社会通 念」がその専門性の確立 を阻んでいるとし,保育者 を 「専門職 として確立 しているとはいえない状況」
であると指摘 している10).諏訪 は保育者の専 門性 に ついて は, 田中 (1980)が挙 げた 「専門性 を性格づ けるもの」 としての8項 目11) す なわ ち, ①公共性 の高 さ,②人間へのかかわ り,③高度の専門的知識 ・ 技術の必要性,④独 自の理論体系の保持,⑤免許 ま
たは資格 の必要性,⑥ 自由裁量 の高 さ,⑦倫理綱領 の保持,⑧高 い社会的価値, に拠 っている.
田中の挙 げた 「専門性を性格付 けるもの」 は,質 格や社会的評価などの外的な条件を除 くと,④保育 者個 々人の人間性 にかかわること,⑧理論的専門性 および論理性,⑥実践的な力,保育技術を含めた実 践力の三つの側面か ら考えることがで きる.
一方,鯨岡 (2000)は,保育者 の専 門性 は,「保 育者 の人間性 に発 し, またそ こに収赦する」と述べ,
④知的専門性 と⑧実践的 ・感性的専門性の二面があ るとした上で,①保育 の計画 ・立案 にかかわ る,煤
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育者 の理論的 ・理念的専門性,②幼児理解 を含めた 保育実践 の専門性,③反省的 (省察的)吟味や評価 の厳 しさを含む反省的専門性, の三側面 を保育者 の 専門性 として挙 げている12).
両者 に共通す るように,保育者 の専門性 は,豊か な人間性 に支え られ,知的側面 としての幼児の発達 や保育 についての理論,保育 を展開 してい く的確な 実践力, そ して実践や幼児を取 り巻 く状況 について の的確な評価,判断 と論理性 と言 うことがで きる.
諏訪 は保育者 は専門職 として確立 していないと述 べているが,大場 (1977)は,保育者 には歴史上 イ ンテ リ女性 の進歩的職業 として とらえ られた一時期 はあ った ものの, その後 は専 ら「子守性」のみが求め られて きた と指摘 している13). さ らに,それ は社会 一般 の認識のみな らず,幼児教育界の内部 に見 られ る 「望 ま しい保育者像」 の中に も見 られ るとい う.
平井 (1983)は, 日本 の幼児教育 に戦後様 々な保育 内容や形態 についてのいわば 「流行」があ った こと は,保育者 の主体性が乏 しい ことの現れであ り,そ うした状況では幼児の発達を捉 え ることも困難であ ると指摘す る14).
幼稚園が本来 の役割を果た し,現代社会 の要請 に よる子育て支援の役割を も果 たすためには,諏訪や 大場 らが指摘す るような保育者 に対す る課題の克服 が第‑ に求 め られ る.次 にこのよ うな当面す る課題 が何 に起因 しているものであるのかを考察す る.
4. 保育者の専門性育成 における課題 (1)保育者養成 と若年保育者中心 の幼稚園
文部省の教員異動調査 (1998)によれば,1997年 度間の幼稚園就職者の88.3%は,短期大学 お よび指 定養成機関の卒業者であ り,新規採用者が全教員数 の 1割以上 を占めている.必然的 に幼稚園教諭 の平 均年齢 は低 く,1998年度学校基本調査 によると30歳 未満 の者 が全体 の56.2%を 占め, 私立幼稚園教諭 (園長,教頭等 を除 く) の平均年齢 は27.7歳で あ る.
また,1997年度間の離職者 の うち,78.9%は30歳未 満の者で占め られている. このよ うに,幼稚園教員 のほとん どは短期間の教育 によって現場 の保育 にあ た り,短期間で離職 している.つ まり各幼稚園 にお いては若年保育者が中心 とな って実践 を行 っている ことになる.
幼稚園就職者が卒業す る短期大学のほとんどでは, その保育者養成課程の多 くで,幼稚園教諭,保育士
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双方の免許取得が可能である. したがって短期間に, 幼稚園,保育所,その他社会福祉施設での複数の実 習を含む教育を行 うこととなる.教育内容 は学校 ご とに異なるが,具体的,実践的なものが多 い傾向に あり,教育 に対 しての幅広い見識 や基礎 的な理論, あるいは教育 に限 らない教養などを身 につ けるもの とはな りに くい.
先に述べた保育者の専門性の三つの側面によれば, 現在の短期間の養成では,専 ら実践の専門性の育成
に重点がおかれているということができる15). 養成機関の教育内容の問題だけでな く,若年保育 者 は,その意欲や潜在的能力のいかんにかかわらず, 大局的な見地での保育の考察や発達の見通 しを持 っ た保育計画の立案が困難である傾 向にあ る. 「保育 者の発達段階モデル」 として秋田 (2000)が示 して いる5段階の保育者の成長過程 16)によれば,若年保 育者 は発達の見通 しを持っ ことが困難で,「徒弟制 の中での学 び」を中心 としている時期である. しか し,秋田が 「段階4」「段階5」 として示 している,
「子 どもの人格をより深 く力動的に」読み取 ったり, 保育の 「システムづ くりをデザイ ン」 したりで きる 段階や,「子 どもや家庭 に影響 を与 え る社会 的なさ まざまな問題」 についての働 きかけがで きる段階の 保育者を含む職員集団が構成 されていることが,保 護者や地域を も視野 に入れた幼稚園教育 の計画や, 保育だけにとどま らない地域の乳幼児やその保護者 への支援,保護者の保育困難の状況への対応を可能 なものとしてい くと考え られる.
若年保育者中心の問題 には,第一 にその養成制度 の未整備に起因 して個々の保育者 に十分な専門性が 育成 されていないこと,第二 には多様な発達段階の 保育者 によって構成 される職員集団が形成 されない
こと17)の二点を指摘することがで きる.
(2) 「子守性」の強調 と就学前教育
大場の指摘 によれば,保育者 にはこれまで,教育 の専門家 としての資質よりも 「子守性」のみが要求 されてきた面がある.その一方では,就学前教育 と して,知識や技能の習得や,伝統的学校観 に基づ く 集団に対 しての一斉指導重視の教育への期待 も見 ら れる.
幼稚園教育‑の方向を異 にする二つの期待 は,同 一の保護者 にも二面の期待が共存 していると考え ら れる一方で,その期待 によって保護者層が明 らかに
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異なる場合が少な くない.それは目的の異なる幼稚 園が並存 してきた日本の幼稚園教育の歴史 に深 くか かわ っている課題で もある.
日本の幼稚園 はその創生期には,①保育 に欠 けた 幼児の保護,②幼児のための教育,③小学校への準 備教育,④幼児の兄姉の就学促進,の4点が設立の 理由とされていた18). しか し, これ らの何れを重点 化す るかによって,幼稚園の目的 は二分 して い く.
一方 は,就学前教育 としての期待や,先進的教育へ の期待に応 じた,一部富裕層の子 どもを中心 とした 幼稚囲,一方 は家庭教育 も不十分な貧困家庭の子 ど もへのいわば慈善的な要素 も含んだ保育施設 として の幼稚園 という二者である.
一方,国による初めての幼稚園教育の手引き書で ある 『保育要領』が作 られたの は,1948年で ある.
それは,家庭や地域社会で幼児期の教育への関心が 低いことを踏 まえ,保護者や保育所の保母の啓蒙を も目的 とした ものである.その中で保育者について は,幼児の特質の理解,それに応 じた 「教育や世話 の しかた」,それに必要な設備 ・道具 ・材料への理 解,幼児 にふさわ しい環境づ くり,「生長 と発達 を 助 ける実際の方法」 とが求 め られてい る. また,
「教育心理学的見地か ら」幼児期 の教育 の重要性 を 述べ,家庭教育 との連続性の重要性や,幼児期の遊 びの重要性が強調 されている. この 『保育要領』 に は,先 にみ られた就学前教育 とは異なり,幼児期の 発達保障や幼児期にふさわ しい環境整備 という姿勢 が一貫 して うかがわれる19).
しか し,幼稚園教育が学校教育 として認め られた 後 に告示 された,『幼稚園教育要領』(1956)で は,
後 に自ら作成 に当たった坂元 白身が悔恨 しているよ うに,小学校教育に倣 った指導計画,教科 と同一 に 捉え られがちな 「領域」の設定, あるいは 「望 ま し い経験や活動 の選択や配列」 といった保育者の役割 の強調など,小学校的な一斉指導や,教科学習的に 選択 された保育内容など,幼児期の発達 には必ず し も即 さない内容や形態が見 られるようになっていっ
た 20).
その一方で,保育者 に関 しては,前述のように短 期大学や特定の養成機関が中心の養成であった上に, 幼稚園設置基準 に示 される職員数は十分 とは言えず, 各幼稚園において教育課程や指導計画についての研 究的姿勢が見 られたとは言 いがたい.前述の平井が 指摘 した保育者の主体性の欠如 は,保育者対象の保
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育雑誌 にみ られ る指導計画の具体例にも現れており, 実際の幼児 の発達 を とらえた計画ではな く,季節 ご
との活動や行事を配列 した画一的な保育が多 く見 ら れた21).
そ うした流れの中で,幼稚園の教育課程が各幼稚 園に任 されていること,1960年代の幼稚園就園率 の 上昇 と幼稚園の増加, それに伴 う園児獲得 をめ ぐる 幼稚園間の競争 などにより,特定 の知識や技能 の獲 得を目指す教育を行 う幼稚園 も増加 した.
このよ うに,幼稚園の保育 自体 に対 す る期待 は, 伝統的学校観,授業観 に影響を受 けた ものであ った が,それを行 う保育者 には,発達 に即 した保育 を計 画,組織 してい く理論的専門性 は養成 において も実 践 において も育成 されず,保育者 に対 しての期待 も また,教員 としての専門性 よ り,幼児を預 るものと しての 「子守性」へ と傾斜 したと考え られ る.
一方,幼児期の発達 に即 した遊 びを中心 とした保 育 は,一般 には教育 として認識 されに くか った とい う点 も,保育者へのニーズ形成 に影響を与えている.
加えて,幼稚園教育 の養護 と教育 の一体 という特質 が,保育者 に対 して母性的保育を求めたこともまた, 教育 の専門性 よ り 「子守性」へのニーズにつなが る 要因 として考え られ る.
以上 のよ うに,幼稚園教育で は,創設当初 は施設 によって二分化 していた目的やニーズが,やがて同 一の幼稚園の中で揮然 とした形で見 られ るようにな り,保育内容や形態 に関 して は就学前教育 としての 機能を求めなが らも,保育者 に対 してはその専門性 が認め られなか ったのである.
(3)私立中心の幼稚園教育
日本の幼稚園教育 は,明治期か らそのほとん どを 私立幼稚園が担 って きた22).その背景 には, 幼稚 囲 教育 に対 しての国や地方 自治体 による整備が十分 に 行 われなか った ことが大 きな要 因 とな って い る.
1960年 には,幼稚園教育 に対 しての関心 が高 ま り, 5歳児就園率が ほぼ50%に達 し,幼稚園の設置 も急 速 に進め られてい く. その多 くが私立幼稚園であり, 私立幼稚園の全幼稚園数 に対す る割合 は当時 は約64
%,現在 も約59%と高率である.
私立幼稚園 は, それぞれの建学の精神 に基づ いた 教育 の創造が可能であるが, その保育内容 には経営 効率が深 くかかわ っていることは否めない現状 であ る.平井 (1983)は,それに対 し 「わが国の幼児教
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青 に汚点 を作 っている」㌶)と厳 しく批判 している.
経営優先の幼稚園 に多 く見 られ る課題 としては次 の三点が考え られ る.第‑ には前述のよ うに,保育 者が若年層 に偏 り,一般 に在職期間が短 いという点 である.第二 には保護者 ニーズに対応 したサー ビス 提供が,保育の必要性で はな く,経営上 の必要か ら 行われ,逆 にそれが保護者 の幼稚園に対す るニーズ を生んでいるとい う点である. さ らに第三 には,煤 護者 ニーズが保育内容,幼児 の経験 さえ もゆがめて
しまうとい う問題である24).
第一 の問題 は先 に述べた通 りであるが,これには, 保育者 の待遇 など身分保障が不十分である25)とい う
ことが大 きくかかわ っている. それによって,保育 者 には奉仕的精神 に支え られた熱心 な姿勢の者が多 い傾向 も見 られ るが,全般 に在職期間が短 く,個々 の保育者,保育者集団の双方 にとって専門性を育成 す る上での重大な問題 とな っている.
第二 の問題 は,俗 に "幼稚園経営三種の神器" と 形容 され る,給食,通園バス,延長保育が園児獲得 の必要条件 といわれ るように,保育 にかかわ る事業 が幼児への保育 の必要性か らで はな く,保護者への サー ビス提供 を優先 して実施 されていることに象徴 されている.女性 の就業率の上昇や,通園域の広 さ など,実施が必要である例 も少な くないが,地域 の 要請や個々の家庭 の実情 を とらえた援助 で はな く, 幼稚園側か らの積極的なサー ビス提供 は,保護者 の サー ビス依存傾向を容認す るもので あ ると同時 に, 地域や家庭での人 とのかかわ りを通 した幼児 の経験 の質 にも影響を与え る.
一方,通園バスの運行で は,少数のバ スで複数回 の送迎 を行 うため,幼児 の登園時刻 に大 きな幅が生 じる場合が少 な くない. また,早朝 と保育終了後 ま で,保育者がバ ス運行 にかかわ り,保育者集団の園 内での研修や,個 々の研修時間の確保 にも影響 を与 え る. この課題 は,現在,教育時間の終了後 に希望 者 に対 して行 う保育,すなわち 「預 り保育」 の実施 が奨励 されていることによってより深刻な問題 となっ ている26).
第三の問題 は,先 に保育者への期待 の二面性 に関 して述べたよ うに,保護者の就学前教育へのニーズ が大 きくかかわ っている.特定の知識や技能などの 目に見える成果への期待 に応え る保育が,園児獲得 のための手段 とされ,俗 に "目玉保育" といわれ る よ うに幼児の発達 という視点か らではな く,保護者
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ニーズや園経営が保育内容を決定 している例 も見 ら れ る. そ こでは,特定 の活動 に対す る実践のノウハ ウは求め られて も,鯨岡や田中が述べているよ うな 保育者 としての専門性 は必要 とされない.
保育 のね らいは,幼児の心情 ・意欲 ・態度 の育 ち と して とらえ られ るが, それは,保護者 にとって理 解 が難 しい面 もある. また, 日本 の社会一般 には, 幼稚園教育 の中心である 「遊 び」が 「教育」 とは相 入れない概念 として捉え られ る傾 向 もあ る. 一方, 保育者 にとって も,幼児の具体的行動,行為の意味 を読み取 った り,個 々の幼児 と周囲の環境 とのかか わ りの中で考察 した りす ることは,鯨岡が挙 げた保 育者の専門性の三つの側面が幼稚園の中で総合的に 発拝 されなければ困難である. また,前述 のように これまでの幼稚園教育で しば しば見 られた活動配列 型 の保育では,保育者 白身 にその必要性が自覚 され ていない傾向 も指摘で きる.
以上のように,一部私立幼稚園 に見 られるような 経営先行の保育 は,幼児期の発達 を保障す る保育 と な らないだけでな く,保育者 にとって も,前述の秋 田が述べ るような, ライフステージに応 じた保育者 としての発達段階を経て専門性 を育ててい く場 とし ての機能を果たさない ものである.
(4) 「保育」の多様性 と保育学の課題
これまでに述べたように,幼稚園教育すなわち保 育 のあ り方 は,社会的な要請,幼稚園教育や保育者 に対 しての漠然 としたイメージ,幼稚園経営 のあ り 方,保育者集団の質 など,幼児 の発達理解や保育理 論以外 の要因によって左右 されて きた. それは,覗 場保育者 に適切 な 「理論的 ・理念的専門性」および 実践を厳 しく評価す る 「反省的専門性」 とが育成 さ れて こなか った ことを表す もの といえ る.
幼稚園において保育者 の専門性が育成 されて こな か った背景 には,先 に挙 げた諸課題が考え られるが, 一方 には,保護者 ニーズの二面性か らも考え られる
よ うに,唆味な面 のある保育 の本来の意義やあ り方 が,適切 に説明されて こなか ったという問題がある.
保育者 によって,保育現場か らの幼稚園教育 の本来 のあ り方の主張がなされなか ったといえるが,一方 で はそれを理論的に支え る保育学が確立 していない
ことも指摘で きる.
柴崎 (1997)は保育学 自体が学問領域 として確立 していないのは,諸科学 の寄せ集め的性格を持 って
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いること, そ して客観性を追究す ることが人間現象 としての保育か ら離れてい くことによる, と述べて いる27). その傾向は,保育学 自体が保育実践 や行政 への実体的な貢献 の乏 しさを示す ものであ り, また 一方では保育者 白身 の研究的姿勢を失わせ る要因 と なると考え られ る.
一方,森上 (1999)は1948年以来 の日本保育学会 における研究発表を分野 ごとに整理 した上で, その 傾向について次 の点を指摘 している.すなわち,煤 育内容 にかかわる研究の多 くに,保育内容を領域 な どによって分断 して考え る傾向が見 られ,幼児 の発 達 に即 した追及がなされていないことである. さ ら
にそれ らの発表の大部分が保育者養成校の教員によっ て行われていることか ら,それは,研究 のあ り方 自 体 の問題であると同時 に,保育者養成 カ リキュラム
の課題で もあるとの指摘である2B).
両者 の指摘のように,保育学の課題 は,幼稚園教 育 の基本理念,保育内容や保育形態 といった保育実 践の基本的枠組, および保育実践 の質的向上,保育 者養成 など,保育者 の専門性 の育成 にかかわる大 き な課題である.
5.むすび
幼稚園における子育て支援 の役割 は,幼稚園本来 の役割で もある家庭や地域 との連携 の重点的実施 を 求めているだけではな く,地域 における幼稚園の役 割 の拡大 を目指 しているもので もある.幼稚園の役 割 の拡大 は, これまでに述べたように,保育者 にも その専門性 の拡大を求 めている.
幼児教育 の振興 に関す る調査協力者会合中間報告
「幼児教育 の充実 にむけて」 (2000)では, これまで 実技指向であ った保育技術 に対 し,主体的な判断力 や省察,状況 に応 じて保育 を構想 し実践す る力が求 め られ る, と述べ る一方で,幼児 を取 り巻 く環境 の 変化 に応 じて保育者 の専門性 の うち次の3点 の研修 が必要であるとしている.すなわち,①3歳児や障 害のある幼児等特別な教育的ニーズを有す る幼児 に 応 じられ る専門性,②幼児の健康や医学 にかかわる 知識,保護者 とのかかわ りにおけるカウンセ リング マイ ン ドなど教育相談 に応 じられ る専門性,③学校 教育や生涯発達の見通 しを持 った幼児期 の教育 の専 門性, の3点である.
しか し,前述 のように現在 の幼稚園 はこれ ら新た な役割 を担 うための基盤 となる,本来の専門性 の育
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
卜 戒 において も課題 が多 い.保育者養成 のあ り方,莱
学 び,保育者 の研修機会 の確保 な ど,専門性育成 を 可能 にす る環境 はきわめて脆弱 な体制 にある.幼稚 園が新 たな役割 を担 い,保育者 に対 して上記 のよ う ' な専門性 を求 め るためには,教育 の専 門家 と しての 保育者 の育成 を可能 にす る養成制度, 身 分 の保 証, 幼稚園教育本来 の 目的を追求す ることので きる幼稚 園経営 の安定 に対す る保障 と適切 な指導体制 などの 条件整備が第‑ に求 め られ る.
それがな されないままに子育 て支援 と しての各種 事業の実施 が推進 され ることは,事業 の実施 自体 が 目的化 して しま う傾 向につなが る.それはすなわち, 実際の地域 や家庭 の実情 を的確 に捉 えて必要 な支援 を模索 して い く姿勢 に欠 け,各種事業 の意義 につ い ての検討 をせず に実施 自体が当初 か ら望 ま しい もの であることを前提 と して行 われ る傾向である.結果 的にそれは幼稚園側か ら保護者‑ の安易 なサ ー ビス 提供や,幼児 の発達 の要求 よ り保護者 や園経営が保 育内容 を決定す る要因 とな るな どの問題へ とつなが
る危険性 を持 つ.
以上 のよ うに,子育て支援事業 の実施 は,幼稚囲 教育本来 のあ り方 や保育者 の専門性 の質 を問 うもの であ り,役割 の拡大 はこれ までの幼稚 園教育 が長期 間抱 えて きた問題 を顕在化 させ るもので もあ る. ま たその一方 で,現在 の地域 や保護者 に対 して必要 と され,「子育 て支援」と して実施 されている諸事業が, 幼稚園が担 う役割 であ るのかを検討 し,既存 の施設 にとらわれず に実践 のあ り方 を探 ってい くべ きであ る.
子育 て支援,特 に地域 の幼児教育 セ ンター として の幼稚園の役割 を手 がか りと して幼稚園教育 をめ ぐ る課題 を考察 して きた.現在進 め られてい る諸事業 例 には,地域 や個 々の家庭 の実情 に応 じた優 れた実 践 も報告 されている. ともすれば行政 による事業推 進が先行 しがちな子育 て支援事業 に関 して,今後 は
このよ うな現場実践 が適確 に評価 され, それぞれの 活動 の意味が幼児 や幼児 を取 り巻 く具体的な状況 に 応 じて検討 されて い くことが求 め られ る. それ は先 に挙 げた保育学 の課題 であ ると同時 に保育現場 か ら 保育学 に求 め られ る方 向を示 してい くもので もあろ
う.
今後 は,実践 の検討 を通 して,幼稚園の役割 や子 育て支援 の意義 を見 なおす ことを筆者 の課題 と した
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い.
《註》
1)牧野 は,子育 て不安 とは 「子 どもや子育 てに対 す る蓄積 された漠然 と した恐 れを含む情緒の状態」
と定義 し,「疲労感 や気力 の低下,い らい ら,不安, 悩 み等が解消 されず に蓄積 されたままにな ってい
る状態」 で あ る と して い る. (牧野 カ ツ子 1982
「働 く母親 と育児不安」家庭教育 研 究所 『家 庭教 育研究所紀要No.4』pp.67‑76.)
2)大 日向雅美 1996「子 どもを愛 せ な い最近 の母 親 たち」『現代 のエスプ リ』No.324,pp.55‑61.
3)広 田は,地域 の教育力 の低下 に伴 って,学校 と 家庭 との養育責任が増 し,家庭 内で学校教育 につ なが る 「教育」 が大 きな目的 と化 した ことを指摘 してい る. (広 田照之 1996「家族 一学校の社会史」
井上 ・上野他編 『こどもと教育 の社会学』岩波書 店,pp21‑38.) また,天野 は日本 の学校 と家庭 と の関係 の特徴 を 「家族 が学校 の 目的達成 に奉仕 さ せ られ る関係」 であ ると述 べて い る. (天野 正子
1998「子 どもを映す 『文化 と社会』‑ あいまいな 空間の創生‑」佐伯 ・浜 田他編 『ゆ らぐ家庭 と地 域』岩波書店,pp.3‑27.)
4)汐見,船橋 な ど,家庭 の教育力の低下 と指摘 さ れ ることについて は,単 に保護者や家庭 の課題 と してで はな く,社会 の中で育児 の 目標 が 「教育 」 へ と歪 曲 され,達成水準が 「べ らぼ うに上昇」 し ていることが背景 とな って いるとす る意見がある.
(船橋恵子 1998「変貌す る家族 と子育 て」佐伯 ・ 浜 田他編,前掲書pp.28‑49.,汐見稔 幸 1996『幼 児教育産業 と子育 て』岩波書店,p.9.)
5)藤崎待知代 1997「子 どもの コ ンピテ ンスを育 む保育の分析一母親を介 した保育者の間接的影響‑」
日本保育学会編 『保育学研究』第35巻2号,フレー ベル館,pp.94‑101.
6)関 口はつ江 1997「幼児 の発達 を保 障 す る保育 内容」 日本保育学会編 『わが国 における保育 の課 題 と展望』世界文化社,pp.184‑192.
7)汐見 は, かつて地域 の中で保 障 されていた多様 な人間関係 の中で多様 な生活経験 を繰 り返す とい う,成長 に必要 な経験 が失 われた ことが,学校の 役割 を増大 させてい ると述べて い る. (汐見稔幸
1996「子 どもと教育 の社会学的研究 のための原状 と課題」井上 ・上野他編,前掲書 pp.223‑229.)
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