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小中学校の教育課程へのアクティブ・ラーニング導入における課題

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1. はじめに

 次期学習指導要領の改訂に向けた議論1)の中で,

アクティブ・ラーニング(以下,AL)の推進とい うテーマに大きな注目が集まっている.もともと ALは,高等教育の分野における教育方法の改善の 中から出てきた学習の考え方であり,それが高等教 育において普及している流れの中で,初等・中等教 育においてもその重要性がにわかに指摘されるよう になっている.

 このような状況に関して本論文では,次の諸点に ついて整理し,今後次の学習指導要領が実際に施行 される段階において,ALを導入する際にはどのよ うな課題があるのかを明らかにする.まずは,AL の概念が提唱された高等教育の分野に関して整理す る.ALがどのような経緯から提唱されるに至った のか,またそもそもの定義はどのようになっている

のか,さらにはALの推進が具体的にはどのような 授業形態として普及しているのかについて検討す る.検討の中では,筆者らが実際に大学授業として 実践した内容の再検討も含める.

 次に,高等教育における状況に対比する形で,初 等中等教育においてALがどのように扱われている について整理する.ここでは,初等中等教育での ALが高等教育におけるそれとは若干異なる扱いを されていることに言及し,また,その概念としての 新しさがどのようなところにあるのか,例として,

総合的な学習の時間の導入と対比させながら検討 したい.また,ALの「アクティブ」という用語の とらえ方を狭めてしまわないことが重要であると考 え,学校放送番組の視聴における「アクティブ」の 概念を援用し,その重要性を検討する.

 さらに,これらの議論をふまえ,初等中等教育の 分野でALを推進していくという場合の課題を整理 する.その中でも特に重要であると考えられるの は,教師の持つ「学習観の転換」である.ALに限 らず,指導の枠組みに新たな要素が加わる事態に対 して,教師が既に持っている教授-学習に対する考 え方に関して問い直しを行い,枠組みを再構築する

小中学校の教育課程へのアクティブ・ラーニング導入における課題

細川 和仁・浦野  弘*  秋田大学教育文化学部   本研究では,高等教育分野で推進されてきた「アクティブ・ラーニング」(AL)につい

て取り上げ,現在,このアクティブ・ラーニングの概念を小中学校の教育課程に積極的に 導入していこうという流れの中で,どのような点に留意する必要があるのかを検討した.

この検討を進める上で,次の諸点について考察した.すなわち,ALに関連する筆者らの これまでの教育実践を再検討すること,そして,ALの定義を問い直し,アクティブとい う概念が意味するところについて考察することである.それらをふまえ,小中学校の教育 課程への導入の際に考慮すべきことを整理し,その中でも特に,教師の「学習観の転換」

と学習評価の在り方は大きな課題であり,これを少しずつ変えていくことが,ALの導入 に大きな影響を与えるであろうことを導き出した.

キーワード:教育課程,教育方法,アクティブ・ラーニング,学習観

 2016年 1 月 8 日受理

 † Problems and Considerations When We Develop Active Learning Approach to Curriculum Design in Primary and Secondary Education

 * Kazuhito HOSOKAWA and Hiroshi URANO, Faculty of Education and Human Studies, Akita University

(2)

必要がある.それは組織論でとりあげられる「ダブ ルループ・ラーニング」というスタンスも求められ る.ALの推進は,単に新しい学習形態が導入され るということにとどまらず,その前提となる学習観 の転換が必要であるという,外面的には見えにくい 課題が横たわっていることを考察する.

2. 高等教育におけるアクティブ・ラーニング

⑴ 高等教育における概念の広がり

 高等教育の研究,実践においてALという用語が 使われるようになったのは,それほど前のことでは ない.例えばCiNiiの論文検索によって,タイトル に「アクティブ・ラーニング」を用いている論文は 約620件抽出されるが(2015年12月末現在),最も 古い論文は1997年のものである(「宮崎国際大学で の教育随想:アクティブラーニングへの取り組み」,

宮崎国際大学『比較文化』3,pp.1-28).

 ALという概念自体は米国から導入されているも のであるので,米国の状況を確認すると,高等教育 においてALが求められるようになった背景には,

教授学習パラダイムの転換があるとされている(溝 上2014).「教えるから学ぶへ」(from teaching to learning)というパラダイム転換が求められるよう になった背景には,突き詰めれば,高等教育の大衆 化がある.マーチン・トロウの高等教育の発達段階 モデル(トロウ 1976)を持ち出すまでもなく,人々 にとっての高等教育がエリート,マス,ユニバーサ ルと拡張していくにしたがって,大学に進学するこ とそのものに対するとらえ方,すなわち,エリート 段階では限られたごく少数の人にとっての「特権」

として捉えられていたのが,マス段階では多くの 人々に開かれた「権利」として捉えられ,ユニバー サル段階ともなれば,進学すること自体が「義務」

のように感じられてしまう,といった変化がもたら される.トロウのモデルでは,そこで用いられる教 育方法についても各段階によって異なると分析され ている.学生数の少ないエリート段階においては,

ゼミナール形式等の少人数の授業が行われるが,マ ス段階に拡大することで,より効率的な学習形態が 求められる.

 このような高等教育における教育方法の転換に は,実践の現場における課題意識が背景にあったと 考えられる.すなわち,これまでの教育方法では授 業がうまくいかない,学生の学習が促されない,目

標に到達させることができない,といった状況が多 くなってきたのではないかと推察される.

 日本においては,2012年の中央教育審議会の答申2)

に「アクティブ・ラーニング」という用語が用いら れるようになってから,その概念に注目が集まるよ うになった.それまでは筆者も含めて,大学教員の 間ではALという用語は知ってはいるものの,抵抗 感を持つ人も少なくなかった.それは,ALという ときの「アクティブ」とは,活発な,活動的な状態 を表すと想像できるが,学生が「活発,活動的では ない学習」というものをどう考えれば良いのか.す なわち,学習が成立しているということは,身体の 動きを伴うかどうかは別にして,それは活動的な状 態だと言って良いのではないか,といった発想であ る.ALの定義づけが浸透しない中で,ALという 概念が気には掛かるが,どのようなことを指してい るのかイメージしにくいという時期が一定期間あっ たと思われる.

⑵ 概念の定義

 このような新しい概念が導入されるときには,そ の定義づけが重要となる.教育学の分野ではしばし ばカタカナの用語が使われるが,どのような点で新 規性があるのかが不明確なままの場合もある.AL の概念の最初の定義としてしばしば引用されるの は,ボンウェルとエイソンの定義で,次のようなも のである(Bonwell & Eison 1991).ボンウェルら によれば,ALを「活動およびその活動についての 思考に学生を巻き込む」ことと定義した上で,アク ティブ・ラーニングの特徴を,次の 5 つにまとめて いる(溝上2014).

・ 学生は聴く以上のことをおこなう.

・ 情報の伝達よりも学生の技能の発展のほうに力 点が置かれる.

・ 学生は高次の思考を働かせる.

・ 学生は活動に従事する.

・ 学生自身の態度や価値の探求がより強調され る.

 またフィンクによる定義においては,ALを「受 動的学習」と対比させ,「経験」と「省察」が重要 であるとしている.フィンクの場合は,いかに意 義ある学習経験(significant learning experiences)

をさせるような授業デザインをするか,という点 に重きが置かれており,その授業デザインの中で,

ALの重要性が位置づけられている.溝上(2014)

(3)

によれば,上記の「経験」と「省察」のそれぞれに ついて,経験には「行動する」と「観察する」が含 まれ,省察の方には「何を学習しているか,どのよ うに学習しているか」「一人で行うのか,他者と行 うのか」が含まれる.学習者自身が自らの学習を振 り返り,それを今後の学習活動のデザインに生かす reflectionの精神が重要視されている.

 溝上(2014)はこれらの定義をふまえた上で,日 本の高等教育の文脈にあった形での定義を次のよう に定めた.

 この定義の特徴は,最後にある「認知プロセスの 外化」という点である.認知プロセスの外化とは,

「認知心理学の枠組みに基づく,「知覚・記憶・言 語,思考(論理的/批判的/創造的思考,推論,判 断,意思決定,問題解決など)といった心的表象と しての情報処理プロセスを指す」(溝上 2014,p.10)

としている.

 これに関わって,鈴木(2002)は,今後の教育に おいて情報活用の実践力の育成が重要となることを 述べる文脈の中で,大学における教育方法について 言及している.それは,大学において,講義形式の 授業が成立するのは,学生の側に情報活用の実践力 が備わっていることが前提である,という主張であ る.講義形式の授業が学習として成立するためには,

教師から発せられる様々な情報を,学生が選択した り,考察したりすることが必要となる.単純に考え ても,板書されたものをただ書き写すだけでは,深 い学びにはつながっていかない.その情報を取捨選 択し,自分の体を一度くぐらせることによって,自 分の知識としていく.講義形式の授業が成立するに は,学生のこのような能力がある程度身についてい ることが,学習として成立する要件だというのが,

鈴木(2002)の主張である.

 講義の内容を書き写すのではなく,自分なりのま とめ方でノートをとることが,「認知プロセスの外 化」(もっといえばアクティブ・ラーニング)に含 まれるのかどうか,筆者らにはまだ判断がつかない が,人間の情報処理のプロセスを取り上げている点

は興味深い.

 さらに,2012年の中央教育審議会の答申2)では,

ALは次のように定義されている.

 この定義づけの前提には,これまでの高等教育に おける教育方法上の問題が,「教員による一方向的 な講義形式の教育」にあるという認識があることが うかがえる.「そうではないもの」として,ALが 想定されている.学生の能動的な参加が重要であり,

また,能動的な参加によって身に付けることが期待 される能力が想定されている.これらの能力がいか に身に付いたかを判断することが,ALの大きな課 題の一つになると考えられるが,その点については 後述したい.

 また,講義形式の授業と学生の情報活用能力の関 係について述べたことと関わって,ALの推進が意 味していることは,学生の学習を促す学習形態のこ とであるとともに,学習が成立するために学生が身 に付けておくべき能力についてもよく考えなければ ならないということになる.すなわち,学習形態と してのALの導入が進んだとしても,そこから学生 が何を身に付けるか,講義形式の授業に情報活用能 力が求められるのと同様に,AL型の授業というも のを想定するならば,どのような能力が前提として 必要となるのかについても検討しなければならな い.これも,AL推進の大きな課題の 1 つであろう.

3.高等教育におけるAL実践の再検討

 以上に見てきたとおり,高等教育におけるALと いう概念の浸透が近年進んでいるが,筆者らのこれ までの大学における授業経験を考えたとき,ALと いう用語は使っていないものの,同様の問題意識を 持って実践の改善に取り組んできている.それらを 再検討することで,授業実践へのALの導入にどの ようなポイントがあるか探ってみたい.

⑴ 教養教育におけるゼミナール形式の授業  一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学

習を乗り越える意味での,あらゆる能動的な学習の こと.能動的な学習には,書く・話す・発表するな どの活動への関与と,そこで生じる認知プロセスの 外化を伴う.

 教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり,

学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・

学習法の総称.学修者が能動的に学修することによっ て,認知的,倫理的,社会的能力,教養,知識,経 験を含めた汎用的能力の育成を図る.発見学習,問 題解決学習,体験学習,調査学習等が含まれるが,

教室内のグループ・ディスカッション,ディベート,

グループ・ワーク等によっても取り入れられる.

(4)

 秋田大学では,教養教育の質の向上の一環とし て,平成18年度から「教養ゼミナール」という科目 を新たに導入している.教養ゼミナールの授業は,

「少数の学生が集まって研究し,文章表現,情報収 集,プレゼンテーション,グループ討論,論文執筆 等を行い,社会に出てからも必要なスキルを身に付 けることを重視」(「秋田大学教養基礎教育学習ガイ ド」による)した科目として設定されている.前述 の2012年の中央教育審議会の答申において,「教員 による一方向的な講義形式」として想定されている のは,(実態がどうであるかはここでは検討しない として)主に教養教育における授業に対する問題意 識だと考えられる.もちろん専門教育は専門教育で,

問題がないわけではもちろんないが,やり玉に挙げ られているのは教養教育における大人数の講義形式 の授業であることは推察できる.そういった,教養 教育の改善という視点から,少人数の授業科目を,

比較的低年次の教育課程に配当することが行われた わけである.秋田大学では「主題別科目」の一部と して,選択科目となっているが,他大学には 1 年生 の必修科目と位置づけ,必ず何らかのゼミナール形 式の授業を受講するようになっている例もある(例 えば,北海道大学の「一般教育演習」).

 秋田大学における平成18年度の導入当初から,筆 者も教養ゼミナールを担当し,教育文化学部以外の 学生の受講も視野に入れた「教養ゼミナール:『授 業』を考える」(その後,副題を変更し現在では「学 びの評価と設計」となっている)を開講した.この 教養ゼミナールでは,インストラクショナル・デザ イン論や,学力・能力論の基礎を学ぶことを目指し,

座学だけでなく,学生による制作活動,グループワー ク,プレゼンテーション,レポート執筆と相互評価,

などを導入している(資料参照).

 この授業科目については,平成20年度に学外から 視察を受け,報告書が作成されている3).このとき は,ALという用語も使われていたが,メインに用 いられていたのは「学生主体型授業」という用語で あり,その一例として参観してもらったものである.

この報告書において,調査者が 2 名の受講学生(教 育文化学部,工学資源学部各 1 名)に対してインタ ビューを行っており,両学生とも授業の感想として,

「自分で調べる,考えてくることが多い授業である.」

「人に説明することも多く,言葉遣いも身につく.」

と述べている.

 また,参観者は,この授業の参観を通じて,次の ような点が参考になったとしている(下線は引用 者).

① 学生の活動を中心に構成し,かつ学生にその活 動(発表,質疑応答)を任せていることが,学 生の主体的な学習の意識と態度を生み出してい る.

② 適時,資料を配布し解説をおこなう,板書した 内容をうまく残して次の概念とのつながりを見 せるなどにより,授業にメリハリ,流れ,リズ ムができるとともに,学生の理解を支援する.

③ 「考える」時間,「読む」時間をしっかりと保証 するとともに,考える視点,読む読み方などを 何度も明示し伝え,学生のよりよい「考え」,「読 み」を支援している.

④ グループ内,グループ間で学生同士の意見を交 わさせることで,学生が相互に各自の考え・意 見をブラッシュアップさせ合っている.

⑤ Moodle を用いて授業外学習をおこなわせるこ とで,よりよい学習の支援をおこなっている.

 これらの指摘を振り返ると,ALが目指すところ と重なる部分が大きいことに気づく.例えば,①の 指摘は,講義を聞く以外の学生の活動に焦点を当て て授業展開を構成しているという指摘であり,また,

そのことが学生の主体的な学習への意識,態度の形 成に結びついているという指摘は示唆的である.ま た,筆者にとって,読む時間や考える時間をどう確 保するのかというのは常に難しい課題であるが,学 生に高次の思考を展開することを期待するならば,

それ相応の時間を確保することが重要であると考え る.⑤の指摘は,当時コース管理システムの一つで あるMoodleを用いて,授業の振り返りや課題提出 などに利用していたものである(細川,林,姫野,

2010).授業時間内に思考の時間を十分確保すると ともに,授業時間外の時間も利用して,学習内容を 深める機会を設けることも重要であると考える.

 なおこの授業科目は,平成26年度「教養基礎教育 学生からの授業評価が高い授業」に認定され,一定 の評価を得ている.

⑵ 教職課程における授業改善

 筆者らは,教職課程の授業科目を担当する中での 授業改善に取り組んでおり,その中でもALに関わ る実践が見られる.

①教師と学生間のコミュニケーションを図る

(5)

 ALの定義においては,学生が「高次の思考を働 かせ」,「活動に従事する」とともに,「学生自身の 態度や価値の探求がより強調される」とされており,

それらを可能にするツールとして,教師と学生の間 でのシャトルカードが実践されてきた.筆者らもこ れに取り組み,教員からの一方向の情報提示にとど まりがちな多人数の授業において,学生とのコミュ ニケーションを図ることを目指して,全受講生との

「大福帳」のやりとりを行っている(南部,浦野  2008).その成果として,「大福帳」のやりとりによっ て,受講生が学びの連続性を認識したこと,受講生 の理解状態の把握に基づく授業内容の改善を行うこ とができたこと,さらにそれによって受講生の学習 内容の理解が促進され,学習意欲にもつながったこ とが報告されている.さらには,そのような形の授 業方法の改善が,教師と受講者間の信頼関係を生み,

授業自体を教師と受講者が協働してつくりだしてい るという風土を醸成することができた,としている.

加えて,教職課程の科目であることから,このよう な教師と受講者間の関係性の構築,風土の醸成など は,受講者が教職につくときのことをイメージし,

どのような関係性,授業方法が望ましいのかについ て振り返る機会を作っている.

 このような多人数の授業における授業改善につい ては,西之園・望月(2006)などの実践研究があり,

ALという用語は用いていないものの,それまでの 大学授業における課題をいかに克服するかという問 題意識がある.

 以上のように,教師と受講者間のコミュニケー ションをいかに図るかという課題は,ALを成立さ せる上で一つの鍵を握るものであると考える.それ は講義形式の授業においても考えるべき課題であ る.

②学生に「考えさせる」

 学生に高次の思考をさせることが,ALの特徴の 一つに挙げられているが,教師が「考えなさい」と 指示すれば,学生に考えさせられるというものでは ない.授業デザインとしてどのような工夫をするこ とが有効であるのか,学生の大学授業の評価観点の 分析から検討した(細川,2004).この実践研究を 通じて,「教育課程論」の授業において学生がどの ような授業評価観点を持っているのかを抽出し,大 学授業ならではのポイントと教職課程ならではのポ イントを整理した.前者は,「考えるきっかけ」の

提供である.学生に考えさせることを実現するため には,何を考えさせるのか,何をどこまで考えるこ とを求めるのかを明確化しておく必要がある.また それに関わって,学生間の意見交流や発表などが,

授業評価を左右する観点となっていることもわかっ た.

 一方,教職課程の科目としては,受講者にとって

「身近な問題」として考えさせることが重要なポイ ントであることを明らかにしている.教育学の場合,

受講者の被教育体験といかに結びつけるか,その体 験をいかに客観視できるかが,内容の豊かな理解へ と結びつく.

4. 高等教育におけるAL実践が意味するもの:「深 い理解」「深い関与」に関する検討

⑴ 学習指導要領の改訂に向けた議論

 前章で高等教育におけるアクティブ・ラーニング の進展について述べたが,この概念が初等中等教育 に影響を及ぼすようになったのは,中教審の答申 にALが用語として使われるようになったからであ る.しかしながら,そこで用いられているALは,

高等教育分野におけるそれとは,若干定義の異なる ものである.

 まずその定義とは,次のようなものから読み取れ る.新しい学習指導要領の改訂に向けた文部科学大 臣の「諮問」の中では,次のようにアクティブ・ラー ニングに関する言及がある.

「そのために必要な力を子供たちに育むためには,

『何を教えるか』という知識の質や量の改善はもち ろんのこと,『どのように学ぶか』という,学びの 質や深まりを重視することが必要であり,課題の発 見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわ ゆる『アクティブ・ラーニング』)や,そのための 指導の方法等を充実させていく必要があります.こ うした学習・指導方法は,知識・技能を定着させる 上でも,また,子供たちの学習意欲を高める上でも 効果的であることが,これまでの実践の成果から指 摘されています.」

 この諮問文からは,ALが,「課題の発見と解決 に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる『ア クティブ・ラーニング』)」と表現されており,高等 教育において示されてきたALの定義とは若干趣を 異にする.溝上(2014)の定義や2012年の中教審答 申と比較してみても,それらには課題発見,解決と

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いった表現や,協働性については触れられていない.

当然そういった学習も含まれるが,定義として示さ れているわけではない.

 つまり初等中等教育において重視しようとしてい るのは,課題の発見と解決に向けて主体的・協働的 に学ぶ学習である.このことは特段新しいことでは ない.例えば,1998年の学習指導要領の改訂におい て導入された「総合的な学習の時間」は,まさにこ のようなねらいをもって導入されたものである.

 現行の学習指導要領では,「総合的な学習の時間」

の目標として,「横断的・総合的な学習や探究的な 学習を通して,自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら 考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資 質や能力を育成するとともに,学び方やものの考え 方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創 造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生き方 を考えることができるようにする」となっている.

答申において,「課題の発見と解決に向けて主体的・

協働的に学ぶ学習」をあえて「いわゆるアクティブ・

ラーニング」と表現しているが,総合的な学習の時 間の目指すところと同じ方向であることは間違いな いであろう.違った見方をすれば,「総合的な学習 の時間」は導入後の「学力低下論」にあおられる形 で批判の的となり,現行の学習指導要領の改訂にお いては時間数を削減されるに至ったが,ALへの着 目によって,むしろ今後重視されるべき学習スタイ ルとして,再び注目すべきなのかもしれない.

⑵ ディープ・アクティブ・ラーニング

 では,ALの実践を進めていこうとするときに,

どのような点に注意を払わなければいけないのだろ うか.前述の溝上(2014)の定義に見られるように,

ALは「(受動的)学習を乗り越える意味での,あ らゆる能動的な学習」であり,「能動的な学習」に は,「書く・話す・発表するなどの活動への関与と,

そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」ことがポ イントであると言えるが,その一方でALが抱える 課題というのも示されつつある.例えば松下(2015)

は,ALの抱える問題として 3 つの調査結果を挙げ ている.1 つは,学生対象に実施した調査を通じて,

AL型の授業科目が増えているにもかかわらず,学 生の意識として「あまり興味がなくても,単位を楽 に取れる授業がよい」と考える学生の割合が近年増 えていること,学生生活も学生の自主性に任される より「大学の教員が指導・支援するほうがよい」と

考える学生が急増していることである.もう 1 つ は,マサチューセッツ工科大学におけるAL型の授 業に対して賛否両論があり,「アクティブだけれど 気が散りやすい騒がしい教室より,熟練の教員に指 導を受けアイディアを展開してもらいながら,自分 で静かに思慮にふけることのできる環境の方が学び やすいという人もいる」という意見を紹介している.

ALが万能ではないことをあらためて示している.

3 つめは,ALにおいても講義形式の授業で問題と なってきた「学生の学びの質の格差」は改善されて いないという見解である.

 このようなALの課題を考える上で,松下(2015)

は学びの「深さ」に関する検討を行っている.そこ では,深い学習,深い理解,深い関与という 3 つの 系譜をたどりながら,ALが外的活動における能動 性のみに焦点が当てられることに警鐘を鳴らしてい る.内的活動の能動性にも十分着目する必要がある.

⑶ 深い学びのために:Active Viewingの実践 から

 上記のような「深い学び」の実現を考える際に参 考になるものとして,Active Viewing(能動的視 聴4))という概念を取り上げたい(南部,赤堀,浦野,

2006).この能動的視聴という概念は,米国におけ る教育番組の制作と視聴に関わって提出された概念 である.米国のボストン公共放送局において,教育 番組を制作するに当たって能動的視聴を促進するよ うな番組を制作している.では,ここでの能動的視 聴とはどのような意味が含まれているのか.南部ら

(2006)の分析によれば,元々メディアリテラシー の能力の育成においては,①メディアに対する批判 的理解,②メディアへの能動的(Active)参加(利 用,検索など)に関する教育,③メディアの制作能 力の育成が重要であるとしている.このような視 点に立てば,番組を能動的に視聴するということ は,番組視聴においてCriticalな解釈をすることと 類似している.つまり,Active ViewingはCritical Viewingと読み替えることができる,としている.

ただし,就学前の子どもの場合はCriticalに番組を 解釈するというより,視聴しながら活動するという 側面が前面に出てくる.

 この点は,ALを考える上でも重要な視点である と考えられる.つまり,ALの学習の特徴には,学 生が高次の思考をするということが含まれている が,それはある側面でCritical Thinkingを含むと

(7)

いうことである.ALが外面的な能動性にとらわれ すぎることなく,内面的な能動性にも着目すべき ことと重ね合わせると,学習者の高次の思考には Critical Thinkingも含んでいると考えるべきであ る.よって,教育課程にALを導入する際にも,そ のようなCritical Thinkingの要素を取り入れること を一つのポイントとすべきであろう.

5. 初等中等教育のカリキュラムデザインへの示唆

⑴ 前提とする学習観の問い直し

 小中学校教育課程にALを導入していくことは,

教育政策の一つの方向になっている.これまでの高 等教育におけるALの推進の動向をふまえると,小 中学校のカリキュラムデザインを検討する際には,

次のような点に留意することが必要であると考えら れる.

 まず前提として,政策として用いられているAL という概念は,高等教育と初等中等教育においては ズレがあることを理解する必要がある.既に指摘し た通り,初等中等教育におけるALは拡張された概 念であるといえる.

 その上で,このALが推進される背景には,学習 そのものに対する考え方の問い直し,すなわち学習 観の転換が含まれていることをふまえる必要があ る.ALを単なる学習形態として取り込むのではな く,ALが想定している学習とはどのようなもので あるのかを問い直し,既に持っている学習観とどの ような違いがあるのかを考え直すことが求められ る.

 そのような教師の側の学習観だけでなく,子ども の学習観の転換も重要である.子どもの学習観とい う側面を自覚するに至ったのは,前述の「教養ゼミ ナール」の視察報告の内容からであった.報告者は,

授業参観を通じて今後検討するべきこととして次の ような内容を取り上げていた5)

 それは「学生の活動が活発にならないことをどう 考えるか,あるいはそれ自体をどう活かすか」とい う課題である.この指摘によれば,授業の中ではし ばしば,学生からの質問が出ずに,意見交換が活性 化しないことがある.その状況がなぜ「良くない」

のかを考えさせることが,学習観,学習スタイルの 転換につながる,としている.そもそも,「質問が できない」ことが「良くない」ことだと捉えるのは,

そのような学習観,学習スタイルの前提があるから

であり,その前提そのものを問い直す必要がある.

 この指摘は,ALというものを導入することその ものに対して,我々がもっておくべき姿勢を示して いると考えられる.組織論におけるアージリスの

「ダブルループ学習」がまさにこのようなスタンス だと言える.ALをはじめとして,新たな概念が教 育の世界に持ち込まれることは,教師と学習者双方 に,学習活動そのものを成り立たせている前提を問 い直す機会を提供しているのかもしれない.

⑵ 内的活動の能動性への着目

 以上のような前提の問い直しをふまえた上で,

ALが外的に捉えられる学習者の活動性,能動性だ けを志向しているのではなく,「内的活動の能動性」

を重視していることは,これまで見てきたとおりで ある.

 では内的活動の能動性がわき起こる状況を,どの ように担保するか.本稿のこれまでの指摘を整理す ると,次のようにまとめられる.

①学習者が思考するための時間を十分に確保すると ともに,思考するための視点を明示すること

②学習者が思考するためのきっかけの提示

③学習者の思考として「批判的思考」をするという 視点を取り入れること

④学習者の思考の成果を評価する方法論を持つこと  特に④についてふれると,ALはあくまで手段で あり,このような学習スタイルによって,学習者に 身に付けさせたい能力とは何なのかを整理し,その みとりをすることが重要である.そしてそれは,能 力をどのように評価するかということと表裏の関係 にある.つまり,学習者の評価をどのように行うの かが,学習者にどのような能力を身に付けさせたい のかを表していることになる.

 ALの実践において,子どもたちに身に付けさせ たい能力を明確化し,それはどのような評価によっ て測ることができるのか,子どものどのような姿が 目指す望ましい姿だと言えるのか,予め整理してお くことがやはり重要になると言える.

⑶ 学習を成立させる基盤の構築

 最後に,ALを成立させる基盤として,児童,生 徒,学生と教師の間の信頼関係を構築するためのコ ミュニケーションツールの重要性を指摘しておきた い.これはALが,学習者自身の態度や価値の探求 ということと密接につながっていることにも関わっ ており,学習活動の中で価値の探求を進めるとすれ

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ば,教師との信頼関係が構築されていることが前提 になるといえよう.そのツールとして,いわゆる「大 福帳」や「リフレクション・ノート」があるが,内 的活動の能動性を確認するツールともなる.これら のツールを有効に活用し,学習者の内的活動の能動 性を把握しつつ,相互理解を図っていくことが重要 ではなかろうか.

 今後,初等中等教育においても「アクティブ・ラー ニング」ということばに基づいた実践,研究が増え るものと考えられるが,この項で示した点に留意し ながら,学習成果を把握していくことが今後の課題 である.

1)2014年11月の,文部科学大臣からの「初等中等 教育における教育課程の基準等の在り方について

(諮問)」にも,「アクティブ・ラーニング」という 語が用いられ,「課題の発見と解決に向けて主体的・

協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニ ング」)」や「『アクティブ・ラーニング』などの新 たな学習・指導方法」といった表現が見られる.

2)2012年 8 月の中央教育審議会答申「新たな未来 を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学 び続け,主体的に考える力を育成する大学へ~」.

3)平成20年度・山形大学基盤教育改善充実特別事 業報告書『教養教育 授業改善の研究と実践』,「第 5 章・学生主体型授業」において,杉原真晃氏(当 時,山形大学高等教育研究企画センター)によって 報告されている.

4)引用元においては「行動的視聴」と訳されてい るが,Active Learningが能動的学習と訳されるの に合わせ,本稿でも「能動的視聴」として扱う.

5)3)の報告書において,参観者が学生主体型,学 生参加型の授業の課題について次のようにまとめて いる(下線は引用者).

 一方,本授業を参観することで自らが山形大学で 実践している授業も含めて,学生参加型授業の持つ 課題について,改めて考えることもできた.その課 題とは「学生の活動が活発にならないことをどう考 えるか,あるいはそれ自体をどう活かすか」につい ての次の 3 点である.

① 学生から質問が出ない理由にはいくつかの要素 が絡み合っている.質問をおこなえるようにな ることは,主体的な学び,より深い学びにつな

がると考えられるため,質問をおこなえるよう になることをいかに支援していくかが教員に問 われる.

② 「質問ができない」という状況に学生を向き合 わせるとともに,その状況がどのように・なぜ

「良くない」のか,考えさせることが,学習観,

学習スタイルの転換につながるのではないだろ うか.

③ 「質問ができない」ことは本当に「良くない」

ことなのだろうか.あるいは,口頭でなくても,

紙に書くスタイルなら質問するかもしれない.

しかし,やはり口頭でその場で対面で質疑応答 をおこなうことに意義があるのかもしれない.

授業で「質問」を通して何を目指すのかによっ て価値観は異なるのであろうが,授業で目指し ているわけでもないのに,口頭で「質問する」

ことが「良い」とされる文化が成立すれば,「質 問ができない」ことが「ダメなやつ」を生み出 し,学生の学習意欲の低下,劣等感の増大を生 み出す恐れもある.(以下略)

参考文献

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松下佳代(2015)『ディープ・アクティブラーニング:

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育メディア関連授業改善の試み-授業者と受講生 の意思疎通を図るためのコミュニケーションカー ドの活用-,『教育メディア研究』14⑵,23-32 トロウ,マーチン(天野郁夫・喜多村和之訳)(1976)

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Summary

 This paper will examine the points of attention when we develop Active Learning approach to curriculum or learning unit design in primary

and secondary education. We investigated about definitions of Active Learning Approach, and some practices what we did in higher education. Some points of curriculum design what we investigated from various practices as follows:

1)rebuilding the conception and view of learning what teachers and students have,

2)focusing internal learning activity of students, 3)building trust between students and teachers for Active Learning.

Key Words

: curriculum, educational methods, active learning, views on learning

(Received January 8, 2016)

(10)

資料:平成27年度の「教養ゼミナール」シラバス(抜粋)

項目 内容

授業の目的 「独学を支援するツール」の作成や課題研究を通じて,学習の設計・評価の基本的な方法を身に付 ける.

授業の到達目標 1)「独学を支援するツール」の作成を通じて,インストラクショナル・デザインの基礎的知識・技 術を身につける.

2)学びの設計や評価に関連する「問い」を立て,データや材料を収集・整理して,論理的に述べ ることができる.

3)授業で取り扱う課題に関して,他の受講者と建設的な意見交換ができる.

4)受け手を意識した発表,説明ができる.また,良い聞き手として他の受講者の説明を聞くこと ができる.

5)授業を通じて得た知識・技能・経験に対して自分なりに意味づけできる.

カリキュラム上の

位置付け 分野:教育工学(75),水準:基礎(20)の主題別科目です.受講者は全学部,全学年を想定しています.

授業の概要 この授業では,学びの設計と評価について研究していきます.教育・学習の営みは,学校教育に限 らず社会のあらゆる場面に存在します.知識や技術を伝える方法や,他者の学習を促進する技術に ついて様々な研究が積み重ねられてきました.その研究をふまえ,教育・学習の営みを設計・評価 する方法について,実際の作業を通じて考えていきます.また,学習の成果として表れる「学力」

という概念についても考察しましょう.

授業の進行予定

及び進め方 1.オリエンテーション,アイスブレーキング(第 1 回)

2.しみ込み型の学びを考える

・しみ込み型と教え込み型(第 2 回),手習塾と学校教育システム(第3回)

3.教材作成

 1)教材づくりをイメージする(教材の企画)(第 4 回)

 2)教材の目標を設定する(目標の種類)(第 5 回)

 3)教材の構造化と工夫(第 6 回)

 4)学習を促す戦略(第 7 回)

 5)教材の形成的評価 (第 8 回)

4.教育と学習の評価

・教育評価の基礎:指導要録,通知表(第 9 回),形成的評価と総括的評価 (第10回)

5.学力論・能力論

 1)「新しい能力」とは(第11回),2)「学力」再考(第12回)

 3)測定する学力,「学力」を測るものさし(第13回)

 4)スポーツ指導にみる学び(第14回)

6.研究・発表,授業のまとめ(第15回)

・研究の企画,問題の設定,発表・レポート作成 授業に関連する

キーワード 学習  学力  教師  評価  インストラクショナル・デザイン

成績評価の方法 成績評価は100点を満点とし,次の 4 つの課題に配点します.(参考:クラスGPA H25年度 2.18)

⑴小リポート(10点)……文献を読んでレジメにまとめる.(到達目標 1,4)

⑵口頭発表(30点)……授業内容に関連するテーマについて,研究した内容を報告する.(到達目標 2,5)

⑶最終リポート(30点)……口頭発表の内容を文章にまとめる.(到達目標 2)

⑷リフレクション・ノート(30点)……各回の授業終了時に記入し提出する.(到達目標 3)

教科書 『教材設計マニュアル』/鈴木克明/北大路書房/ 2002

教科書はあらかじめ入手し,授業開始時に持参してください.参考書は授業内容の理解を深めるの に役立ちます.

自由記述欄 学びの設計・評価に関連する文献の講読,受講者間での意見交換,図書館等でのリサーチを必要と するリポートの作成の 3 つの活動を中心に進めていきます.学部・学年に関わらず,「教える」「学 ぶ」という営みに関心を持っている人の受講を期待します.

参照

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