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聴覚障害児の依存性について1)

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(1)

聴覚障害児の依存性について1)

相馬 壽明*・伊藤 幸子**

(1984年9月29日受理)

Dependency in Hearing Impaired Children

Toshiaki SOMA*and Sachiko ITO**

(Received September 29,1984)

問題と 目的

従来,わが国における聴覚障害児のパーソナリティに関する研究は,言語や聴力に関する研究と 比較して,それほど多いとはいえない。表1に示されるように,方法上の簡便さから,検査法を用 いた研究が多いが,それらの研究は一様に,対象児の聴覚障害に起因する方法上の制約,すなわち,

検査に必要な読解力,教示や反応における言語以外の伝達手段の必要性などを問題点としてあげて いる。そして,この方法上の制約が聴覚障害児のパーソナリティ研究を困難なものとしていること を指摘している。また,研究結果についても,聴覚障害児に特有のパーソナリティを認めるものも あれば,否定するのもあり,一致した知見はえられていない。これは,方法上の制約とも関連する が,健聴児によって標準化された検査を聴覚障害児に用いて単純比較することの問題,被験児の生 育歴,知能水準,障害の程度など,被験児を統制するための条件が多い問題,えられた結果を聴覚 障害に起因する一次的なものとするか,二次的に派生したものとみなすかなどの問題が十分に解決 されていないからである。

ところで,パーソナリティの特性の1つと考えられる依存性(dependency)に関しては,中野

(1972)が聴覚障害児を対象として,行動評定法を用いて研究しているが,それ以外にはみられな い。他の障害児と同様に,聴覚障害児にとっても,障害に起因する環境への依存から障害の克服を めざす自立への過程は,困難をともなうが重要な課題である。その意味で,聴覚障害児の依存性に ついて研究する意義は少なくないといえる。

高橋(1968a)は,従来の依存性に関する研究を総括し(江口,1966),依存性を「依存要求

(道具的な価値ではなく,精神的な助力を求める要求)を充足するためにひきおこされる依存行動の

1)本論文は伊藤の卒業論文(1983)を相馬の見解のもとに修正・加筆したものである。

*茨城大学教育学部障害児教育学科

**五軒小学校

(2)

パタンである」と定義している。そして,依     表1 聴覚障害児のパーソナリティ研究 存性は(a)依存行動の様式(依存の様式)とそ   研究者 発表年 方    法 のドミナンス,(b}依存要求が生じた際に依存   草薙 1967 Kouninの分類課題 行動が向けられる対象(依存の対象)の分化    杉之原 1967 打叩による精神テンポ

       小沢ほかとその数・種類,(c)各対象に対してむけられ       斎 藤 1967 P968

Rorschach, Baum,ほか る依存行動をひきおこす依存要求の強度(依    岡 本 1968 sAT

Y−G

存要求の強度)の3つによって記述しうる,   竹内 1972 Y−G,内田・Kraepelin としている。さらに,現象的には依存の対概   中野 1972 行動評定法

       中 村念として自立を重視しながらも,健康な成人       生 和 1976 P978

Y−G においても依存要求があり・それが内示的に    堀 1980 rD法Rorschach

(implicit)充足されることが自立のためには 必要なのだという連続性を仮定して,自立を

「依存要求の即時的な充足に対して,文脈に応じた統一的な自己の立場からの決定をくだすことを 優先させることができる状態である」と定義している。

本研究は,高橋(1968a)の観点に立って,自立を意識し,自立の課題に直面していると考えら れる思春期・青年期の聴覚障害児を対象として,その依存性について検討することを目的とする。

方    法

1.対象児:依存性の検査は,M聾学校の中学部生徒32名(男子16名,女子16名),高等部生 徒50名(男子21名,女子29名)を対象として実施された。

2.検査実施期間及び実施場所:検査は昭和58年10月29日から11月16日に実施された。実施 場所は教室で,集団形式によって所要時間45分で実施された。

a 依存性の検査:依存性の検査は,高橋(1968a)の用いた具体的な依存要求をあらわす24項目 から成る質問票を修正したものを使用した(質料1,2)。すなわち,5つの依存要求(①ともに在る

ことを求める,②注意をむけてもらうことを求める,③助力を求める,④保証を求める,⑤心の支え を求める)の各様式を示す項目を3項目ずつ,計15項目を選択した。選択に際しては,聴覚障害児の 言語能力を考慮し,理解が難しいと思われるものはできる限り避け,選択された15項目についても,

意味内容を変えない程度に簡単な言葉にいい換えた。さらに,高橋(1968a)の原法では,母親,

父親など8人の対象それぞれに対して,24項目について気持が「そうである」から「ちがう」まで の5段階評定を都合8回評定させているが,本検査では以下のように修正した。

「できることなら,いつも( )といっしょにいたい」などの項目の( )の中に,父,母,き ようだい,ともだち,先生,恋人の6人の中から,自分の気持にあてはまる対象を記入させた。そ して,15項目すべてに対象を記入したあとで,それらの項目の気持がそれぞれどの程度であるかを,

「強い」・「ふつう」・「弱い」の3段階評定で評定させた。

4.教示:教示内容は以下の通りである。

教示1 「今から簡単な質問をします。紙を配りますから,自分の気持ちをよく考えて( )の中

(3)

に,父,母,きょうだい,ともだち,先生,恋人の中からことばを選んで書いて下さい。もし質問の中 で意味のわからないことばがあったら手をあげてきいて下さい。」

教示皿 「次に質問の1から15でそれぞれそう思う気持が強いときは二重マル(◎),ふつうのと きはマル(○),弱いときは三角(△)を,1から15の番号の前に書いて下さい。(書き方の例を示 す。)では,自分の気持を考えて1から15に印をつけましょう。やり方のわからないときは手をあ げてきいて下さい。」

なお,対象児は聴覚障害児なので,教示の内容を十分理解させるために,教示と同一内容の文章 を模造紙に書いて,口頭と同時に呈示した。また,教示のあと,各個人にやり方が理解できたかを 確認し,理解できない場合には個別に説明を加えた。質問項目の意味に関する質問に対しても,口 話,筆談などによって説明を行った2)。

5.結果の処理:結果の処理に際して,15項目のうち1つでも対象が書き込まれていないものは 不備なデータとして除き,最終的に,中学部男子15名,女子16名,高等部男子20名,女子29名 の結果について処理を行った。

結果は,次の4つの点から処理された。

① 依存対象の出現頻度:各対象ごとに出現数を加算し,出現頻度とした。

② 依存対象の依存得点:◎印には3点,○印には2点,△には1点を与え,質問項目に記入さ れた対象の依存得点とし,各対象ごとに得点を加算して,合計値をその対象の依存得点とした。

③ 焦点化された依存対象:各依存対象の依存得点をもとに,得点の高い対象上位二者を比較し,

得点差が7点以上ある場合に,1位の対象を焦点化された対象とみなした3)。

④ 依存様式の依存得点:依存対象の依存得点の場合と同じ方法で,依存対象に関係なく,各様 式ごとの得点を合計した。各様式3項目ずつなので,理論的には最高値9点,最低値3点とな

る。

結    果

1.依存対象について

(1)依存頻度の結果

依存対象の出現頻度及び百分率を学部・男女別に示したのが表2である。なお,表中のMは母 親,Fは父親, Sはきょうだい, fはともだち, Tは先生, Lは恋人をそれぞれ示す。

表2から,どの群でも共通してfの出現頻度が他の対象に比べて高くなっていることがわかる。

また,中学部男女では,MとFの出現頻度が逆転していること,さらに中学部女子では, Lの出現 頻度が高くなっている。

(2)依存得点の結果

各対象の依存得点の平均と標準偏差を示したのが表2である。図1はそれを図示したものである。

図1からもわかるように,依存得点の結果は,依存頻度で示された結果とほぼ同じである。つまり 頻度の高い対象は,得点によって示される依存要求も強いことが示されている。個々の対象につい てみると,fが各群に共通して高い得点を示している。また, Fについては,中学部の男子の方が

(4)

表2 依存対象の出現頻度〔()内は百分率〕

GROUP

N F

M

S f T L

15 33(14.7) 26(11.6) 26(11.6) 80(35.6) 24(10.7) 36(16.0)

学部

16 10(4.2) 44(183) 24(10.0) 89(37.1) 17(7.1) 56(23.3)

20 28(9.3) 43(14.3) 37(123) 115(383) 46(15.3) 31(10.3)

等部

29 40(9.2) 75(17.2) 52(12.0) 157(36.1) 49(11.3) 62(14.3)

表3 依存対象の依存得点の平均〔()内は標準偏差〕

GROUP

N F

M

S f T L

15 5.3(4.01) 3.2(2.01) 3.5(3.84) 12.1(9.22) 3B(4.49) 5.6(3.67)

学部

16 1.4(1.90) 6.1(7.13) 3.3(4.06) 12。3(8.55) 2.3(2.77) 9.3(11.09)

20 2.7(2.35) 4.5(3.69) 3.8(3.11) 12.4(5.70) 4.9(3.60) 3.9(4.45)

等部

29 2.9(2.65) 5.4(2.68) 3.8(3.23) 12.4(4.76) 3.6(3.94) 4B(3,21)

(得点)

●一一●中男 O−一◎中女     ローロ高女H高男

P0

50

F    M    S    f    T    L  (対象)

図1 依存対象の依存得点(平均)

女子よりも有意に(t=3.39,p<.005)得点が高くなっており,中学部男子は高等部男子よりも 有意に(t=2.33,p〈.05)得点が高くなっている。これは,中学部男子にとって父親が依存対象 として重要であることを意味している。さらにLにおいては,中学部生徒の方が高等部生徒よりも 有意に(t=2.19,p<.05)得点が高くなっている。これは中学部女子の高得点によるものと考え

られるが,中学部女子にとってLの占める意味が注目される。

(5)

(3)各対象の依存得点順位の結果

各群ごとに各対象の依存得点を順位づけたのが表4である。これまでの結果と同様,fが1位と なっている。順位間の差と統計的に検定したところ,1位と2位の間に中学部男子(tニ4.07),高 等部男子(t=4.47),高等部女子(t=6.38)で有意な差(p〈.005)が認められた。また,中学部 では男女ともにLが2位であり,MとFはそれぞれ3位と6位で男女に逆転がみられる。さらに,

高等部男子ではTが,女子ではMが2位になっており,Fは男女ともに6位となっている。

表4 依存対象の依存得点による順位〔(}内は平均〕

1位 2位 3位 4位 5位 6位

f(12.1) L(5.6) F(53) T(3.8) S(3.5) M(3.2)

学部

f(12.3) L(9.3) M(6.1) S(3.3) T(2.3) F(1.4)

f(12.4) T(4.9) M(4.5) L(3.9) S(3.8) F(2.7)

等部

f(12.4) M(5.4) L(4.8) S(3.8) T(3.6) F(2.9)

(4>焦点化された依存対象の 表5 焦点化された依存対象をもつ生徒数

結果

GROUP

N F  M  S  f T  L Total囲 焦点化された依存対象をもつ 中学 15 0  0  0  4  1  0 5(33)

生徒を各群ごとに示したのが表 16 0  2  0  3  0  3 8(50)

5である。中学部女子を除けば, 20 O  l  O  4  0  0 5(25)

fに焦点化された対象が多いこ

等部

29 0  0  0  8  0  0 8(28)

とがわかる。また,中学部と高

等部を比較してみると,中学部の方が比率が高くなっている。

ところで,焦点化された対象の選択基準を7点から5点(理論的には総得点の10%にあたる)に 下げると,中学部では男女それぞれ1名ずつ増加するだけであるが(中学部男子,n=6,40%。中 学部女子,n=9,56%),高等部では男子が6名増加し(n=11,55%),女子では5名増加する

(n=13,45%)。特にfにおいて,男女とも4名増加している。これは依存対象の構造化が中学部 生徒と高等部生徒では異なることを示唆している。

2.依存様式について

(1)各様式の依存得点の結果

各様式の依存得点の平均と標準偏差を学部・男女別に示したのが表6である。図2はそれを図示 したものである。中学部で様式②の得点が低くなっているのを除けば,ほぼ全体に様式①から⑤へ と得点が低下している。また様式③では,中学部の方が高等部よりも有意(t=2.47,p〈.02)に 得点が高くなっている。さらに,中学部男子の方が高等部男子よりも有意(t=2.28,p<.05)に 得点が高くなっている。

(2)各対象における依存様式の得点順位の結果

各対象ごとに各様式の得点をもとに順位づけをしたのが表7である。統計的な検定は行ってい

(6)

ないが,各群において,それぞれの対象にみられる様式の順位は一様ではなく,必ずしも同じ対象 が同じ様式で選択されているとはいえないことがわかる。

表6 依存様式の依存得点の平均〔(}内は標準偏差〕

GROUP

N

15 7.6(L31) 6.1(1.71) 7。2(1.22) 6.5(1.45) 6.1(1.53)

16 7.5(LOO) 6.1(1.20) 7.3(1.39) 6.9(1.35) 6B(1.51)

20 7.4(1.15) 6,3(0.99) 6.3(1.04) 6.0(1.16) 6.3(0.94)

等部

29 7.1(1.04) 6B(1.07) 6.7(1.18) 6.4(1.28) 5.9(1.39)

(得点)

@ 7

65   ●聰一●中男

O−O中女

H高男ロトロ高女

0    ①    ②    ③    ④    ⑤(様式)

図2 依存様式の依存得点(平均)

表7−1 依存対象ごとの依存様式の順位(中学部)

中学部男子 中学部女子

順位

F  M  S  f  T  L F  M  S  f  T  L 1位 ③ ② ① ③ ④ ⑤ ④ ⑤ ① ① ④⑤ ④ 2位 ① ⑤ ④ ① ② ② ③ ③ ③ ③    ⑤ 3位 ⑤ ④ ③ ④ ③ ① ① ① ④ ② ③ ② 4位 ④ ③ ②⑤ ⑤ ① ④ ② ② ⑤ ⑤ ① ① 5位 ② ①    ② ⑤ ③ ⑤ ④ ② ④ ② ③

(7)

表7−2 依存対象ごとの依存様式の順位(高等部)

高等部男子 高等部女子

順位 F  M  S  f  T  L F  M  S  f  T  L

1位 ④ ⑤ ② ① ④ ① ④ ② ⑤ ① ④ ②

2位 ③ ② ⑤ ③ ③ ② ③ ⑤ ① ③ ③ ④

3位 ⑤ ④ ① ⑤ ② ④⑤ ⑤ ④ ② ⑤ ② ①

4位 ② ③ ④ ④ ⑤ ② ③ ③ ④ ⑤ ⑤

5位 ① ① ③ ② ① ③ ① ① ④ ② ① ③

考    察

1.依存対象について

(1}出現頻度について

表2に示されているように,中学部,高等部いずれにおいても性差がなく,「ともだち」が他の 対象に比べて高頻度で依存対象として選択されている。高橋(1970)は,同性の親しい友人は高校 生では重要な対象であるが,中学生ではそれほど重要な位置を占めないとしている。本研究では,

親友も友人も一括して「ともだち」として対象を選択させたので,同列には論じがたいが,中学部 と高等部との間に差異は認められない。つまり,思春期から青年期にかけて,聴覚障害児にとって は,友人が依存要求を向ける重要な対象であるといえる。ただ,聴覚障害児の場合,小学部から高 等部まで一貫して聾学校に在学するものが多いので,友人関係において集団成員にあまり変動がな いこと,さらに,同じ障害をもつという同質性から,依存対象として「ともだち」の出現頻度が著

しく高くなったことが考えられる。

(2)依存得点について

依存得点は依存頻度の差異を拡大した結果となっている。もし,依存対象の出現頻度と依存得点 との間に違いがみられれば,出現頻度が高いからといって必ずしも依存の対象として重要な存在と はいえないが,表3,図1の結果は,依存頻度の高い対象は,依存要求のむけられる程度も強いこ とを示している。

ところで,「ともだち」での共通した高得点を除けば,「恋人」と「父親」に差異が認められる。

まず,「恋人」では,中学部の方が高等部よりも有意に得点が高く,特に中学部女子で得点が高く なっている。ただ,言葉としては「恋人」であるが,それが実在する恋人を意味するかどうかにつ いては,判定の資料を欠いているので断定はできない。高橋(1970)は中学生女子では恋人と親し い友人が必ずしも明確に区別されていないことを示しているので,本研究での「恋人」は,異性の 友人,または憧れている異性の対象を含むものと考えられる。しかし,中学部生徒,特に女子で異 性への関心が高く,依存対象として重要な意味をもつということは,思春期の特徴の現われと考え

ることができる。

次に「父親」に関して,中学部では男子の方が女子よりも有意に高い得点を示し,中学部男子は 高等部男子よりも有意に得点が高くなっている。高等部の男女及び中学部の女子では,「母親」の

(8)

方が「父親」よりも得点が高いという結果と比較すれば,中学部男子における「父親」の意味が注 目される。女子を対象とした高橋(1970)の研究では,一般に「父親」は依存の対象となりにくい こと,中学生では「母親」と対になって「父親」が依存対象として選択されることが指摘されてい る。しかし,本研究では,中学生,特に男子にとって父親は,同一化(identification)の対象とし て重要な意味をもつことが示唆されている。

(3)依存得点の順位について

これまでの結果と同様,各群において「ともだち」が1位を占め,中学部女子を除いて1位と2 位の間に有意な差がみられた。ただし,中学部生徒の場合,「恋人」が共通して2位となっており,

中学部男子においても「恋人」が依存対象として重要となっている。これは,中学生の性的成熟に ともない異性への関心の現われとみることができる。さらに,中学部では男子において「父親」が 3位,「母親」が6位となっているのに対し,女子では「母親」が3位,「父親」が6位となって,

逆の関係を示している。自立の課題に直面していると考えられる中学生にとって,同性の親が同一 化のモデルとして重要な役割を担っていることが,この結果からうかがえる。ところで,高等部生 徒の場合,男子では「先生」が2位,「母親」は中学部の6位から3位になっており,女子では「母 親」が中学部の3位から2位になっている。高等部男子における「先生」の意味は,「父親」が6 位になっていることから,父親の代理機能を果たしていると考えられる。また,高等部男子では,よ

り社会化された対象として,先生が同一化のモデルとして選択されているのかもしれない。

全体としてみると,女子では「恋人」と「母親」の順位が変動しているだけで,他の対象の順位 に変化がみられない。つまり,女子では依存対象に発達的変化があまりなく,順位が安定している ことを示している。高橋(1970)は,女子の場合,母親との結合が強く,母親が上位を占め,父親 は依存対象となりにくいことを示しているが,本研究も同様な結果を示しているといえる。それに 対して,男子の場合,「ともだち」と「きょうだい」以外の対象の順位が変動しており,依存対象 が発達に応じて変化することを示唆している。この男子にみられる順位の変動は,高橋(1970)の いう再中心化,すなわち,それまで中心化していた依存対象が脱中心化された後に,青年期になっ て再中心化することを意味しているとも考えられる。このような順位の変動は,依存対象の発達的 変化に性差がみられることを示唆しているといえる。

(4)焦点化された対象について

表5にみられる通り,焦点化された対象は,中学部女子を除いて,「ともだち」に集中している。

これは,これまでの結果で示されたように,依存対象として重要な意味をもつ「ともだち」が,中 核的な存在であることを意味している。ただ,中学部女子の場合は,焦点化された対象が分散して おり,「恋人」と「ともだち」が同程度に重要であることを示している。高橋(1970)は,発達に 従って,焦点化された対象が増加するとしているが,本研究ではそのような結果はえられなかった。し かし,ほぼ50%のものが焦点化された対象をもつということは,依存対象が構造化されていること を意味している。しかも,焦点化の基準を下げた場合,中学部より高等部において焦点化された対 象が増加しているということは,高等部生徒の依存対象の分化を意味しており,発達に応じた構造 化と分化という依存行動の発達的変化を示唆している。

(9)

2.依存様式について

(D依存様式の依存得点について

表6,図2から明らかなように,中学部で様式②の得点が低下しているのを除けば,ほぼ様式① から⑤にかけて依存得点が漸減している。また,様式②以外の様式では中学部の方が高等部よりも 高い得点を示している。高橋(1968a)によれば,自立に従って依存性は,その様式において,身 体的・直接的なもの(様式①〜③)から,象徴的・間接的なもの(様式④・⑤)へと変化するので あるが,本研究では逆の傾向がみられた。しかし,依存対象については,健聴児とほぼ同じ結果が えられていることを考えると,これは聴覚障害児が依存性のより未発達な段階にあるというよりは,

聴覚障害児の依存要求表出の特徴ととらえた方が妥当であろう。つまり,聴覚の障害というハンデ イキャップをもつ聴覚障害児は,コミュニケーション手段が制限され,直接的・具体的な伝達手段 を用いなければならない。そのため,依存要求の求め方も,より具体的・直接的・身体的にならざ るをえないのではなかろうか。また,直接的な形で表出しないと依存要求が充足されにくいという ことも考えられる。

ところで,様式③では中学部の方が高等部より有意に得点が高く,中学部男子の方が高等部男子 より有意に得点が高くなった。これは,自立への意識がたかまり,意欲が活発化してくる中学生に とって,その意欲を支持し,行動を援助してくれる対象が必要とされるため,様式③の「助力を求 める」依存要求が強くなっていると考えられる。それに対して,様式②では,有意ではないが,中 学部男女ともに得点の低下がみられる。これは,単にこの様式の依存要求が弱いというよりは,様 式③の結果を考え合わせると,自立への意欲のたかまりによって助力を求めるが,同情的な注目や,

否定的な注視は拒否,忌避するということを示しているのではないだろうか。また,全体的に,中 学部生徒の方が高等部生徒より依存要求が強い傾向がうかがえる。

(2)各依存対象の依存様式の順位について

表7にみられるように,依存対象と依存様式の相互関係は必ずしも各群において同じとはいえな い。各対象ごとに様式の1位と2位の組み合わせで,その特徴をみてみると,以下のことがわかる。

まず,「ともだち」についてであるが,いずれの群においても,①一③の様式が1・2位を占めて いる。各群に共通してみられる様式の組み合わせは,「ともだち」だけであるから,この様式は友 人に対する依存要求の特徴を明示しているといってよい。①一③の組み合わせは,いずれも直接的 な依存様式であり,道具的なものであるから,聴覚障害児にとって友人が重要な依存対象であるこ とにかわりはないが,その意味は直接的・具体的依存要求に基づくものである。つまり,相互に助 け合うものとして友人が重要な位置を占めていると考えられる。

次に,「恋人」であるが,3群に共通してみられるのが様式②である。これは,異性の友人,恋 人のもつ魅力と関係があろう。ただ,中学部女子では④一⑤の様式になっており,他の群とは異な る。これはいずれも間接的な様式であり,依存要求が間接的な形で示されている。このことは,中 学部女子においては,心の支え,精神的な依存対象として「恋人」が選択されているともいえるし,

「恋人」か非現実的な憧れの対象として選択されているとも考えられる。中学部では男女ともに「と もだち」と「恋人」が依存得点で上位を占めたが,その依存要求のあり方は異なっていることが示 唆される。

「母親」については,各群に共通しているのが様式⑤である。また,中学部女子を除けば,様式

(10)

②が共通しており,母親に対して注目されたいという具体的な依存要求と同時に心の支えを求める というように,母親の存在がもつ特徴を示している。

「父親」については,様式③が共通しており,助力を求めるという道具的な依存要求が強い。ま た,様式④が3群にみられることから,父親は経済的な保証や道具的な援助を与える存在として意 味づけられている。高橋(1970)のいうように,父親は母親よりは道具的な依存要求の対象として 位置づけられているといえる。ところで,中学部男子においては,「父親」に様式①が含まれる。

これは,中学部男子の同一化の対象としてもつ父親の役割と関連している。さらに,「ともだち」

でも「父親」でも様式③が共通してみられたが,「ともだち」では様式①が,「父親」では様式④が 優位であることから,依存要求のあり方に違いがみられる。つまり,友人は具体的な場面で直接的 に依存要求をむけられる対象であるが,父親はいざという時に頼れる対象として意味をもつのであ

ろう。

「先生」については,様式④が共通してみられる。特に高等部では「父親」と同型である。家族 関係において父親が果たす役割を,学校では先生が代理機能として果たしているものと考えられる。

最後に「きょうだい」であるが,これは3群に共通して様式①がみられる。同胞は家族の成員と してともにいてほしいという依存要求がむけられる対象であるといえるが,高等部で様式⑤が男女 に共通してみられるということは,発達するにつれて,単なる身近な存在というより,心の支えと

して重要な意味を担うようになることを示している。

以上のように,各対象によって依存様式の強さは一様でないことがわかる。しかし,中学部の男 女でも,高等部の男女でも,1位と2位の組み合わせに必ず共通した様式がみられること,また,

「きょうだい」を除けば,男子の中学部と高等部の間にも,女子の中学部と高等部の間にも必ず1 つの様式が1位と2位の組み合わせに共通してみられる。このことは,全体として,それぞれの依 存対象にむけられる依存要求の様式には一貫性があることを示している。

これまでの考察から,聴覚障害児の依存性は,依存対象については健聴児とほぼ変わらないこと,

依存様式については聴覚の障害に起因する特徴がみられることが明らかにされた。つまり,聴覚障 害児は,従来の研究が示すような画一的,否定的な特徴をもつのではなく,ある側面においては健 聴児と変わらない面をもち,他の側面においては聴覚障害児特有の面をもつことが示された。本研 究においても方法上の問題点や制約は認められるが,従来から指摘されている方法上の問題が改善 されれば,画一的でない聴覚障害児のパーソナリティの把握が可能であることを,本研究は示唆し たものといえる。

〔付記〕本研究をすすめるにあたって,御協力をいただいた聾学校の中沢武夫先生はじめ諸先生 方,ならびに生徒の皆さんに感謝いたします。

2)質問項目の検討と教示の補助については,聾学校の先生の協力をえた。

3)焦点化された依存対象とは,依存対象のうち特にその個人の存在を支える中核的な対象を意

(11)

味し,高橋(1968a)は,上位二者の得点差10点を基準としている。高橋の場合,理論的な最高得 点96点に対する基準10点の比率は10%である。本研究の場合,理論的な最高得点45点に対する 基準7点の比率は15%である。

引 用 文 献

江口恵子 1966「依存性の研究」『教育心理学研究』14,p.45−58.

草薙進郎 1967「ろう児のパーソナリティーの硬さについて」『ろう教育科学』8,p.148−155.

堀  暁 1980「ロールシャッハ法に現われた聴覚障害者(ろう)の実態(1,江)」『聴覚障害』35,10,p.

4−9, 35, 11, p.4−9.

中村 秀 1976「聾学校生徒のY−G性格検査結果について」『追手門学院大学文学部紀要』10,p.17−26.

中野善達 1972「聴覚障害幼児の性格特性」『ろう教育科学』14,p.119−133.

岡本稲丸 1968「高等部ろう生徒にY−G性格検査(質問紙による性格検査)を実施した結果と考察」『ろう 教育科学』9,p.143−157.

小沢 勲・加藤典子・高木隆郎 1967「難聴児のパーソナリティについて」『児童精神医学とその近接領域』

8,P.342−352.

斎藤繁 1968「ろう児のパーソナリティーTATに依る1つの試み一」『ろう教育科学』10, p.34−37.

生和秀敏 1978「聴覚障害児の自我構造に関する研究」『ろう教育科学』20,p.68−33.

杉之原正純 1967「特殊児のパーソナリティーに関する基礎的研究:1  打叩による精神テンポの型の相違 について一」『教育心理学研究』15,p.174−180.

高橋恵子 1968ar依存性の発達的研究:1一大学生女子の依存性一」『教育心理学研究』16,p.7−16.

高橋恵子 1968br依存性の発達的研究:皿一大学生との比較における高校生女子の依存性一」『教育心 理学研究』16,p.216−226.

高橋恵子 1970「依存性の発達的研究:皿一大学・高校生との比較における中学生女子の依存性一」『教 育心理学研究』18,p.65−75.

竹内裕信 1972「心理検査から見た聴覚障害者のパーソナリティ(1,2)」『聴覚障害』27,1,p.4−10,27,

3,P.13−16.

(12)

資    料

資料1 高橋(1970)の用いた質問表

①②③④⑤①②③④③①③⑤②④⑤③④②⑤④⑤⑤④

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 ④ ④

なら ゆつ かに 悲し なら 時や 仕事 心が ζ 思い です ζ 心の きに 態度 も理 生き なに な立

L

らいた たい すを 1き行 わ奪 ④立 したが したい 寒馨 に娃 藷賞 じられ くれる 安心し はみす 隻て ことを

蘇てもら

いたい

そうである

にあ どちらかという とそうである

どちらとも

い え な い

どちらかという

る程

と ち が う ち  が  う

註項目中の④に各対象を入れかえて評定する。表の上の番号(①,②など)は依存の様式をしめす。

(13)

資料2 本研究で用いた質問票

質   問   票

学年  組 氏名 性別 男・女

なんにん

家族は何人ですか。      ( )人

次のうち自分の家族に○をつけて下さい。

        にん      にん      にん

メE母・兄( )人・姉( )人・弟( )人

にん      1ζん

妹( )人・その他( )人

1〜15の( )に自分の気持ちを考えて,あてはまることばを下の[:コの中から選んで書

いて下さい。

父・母・きょうだい・ともだち・先生・恋人

 1一 できることなら,いつも(   )といっしょにいたい。

びようき      どうじよう

_2 病気のときやゆううつなときには(   )に同情してもらいたい。

みかた

かな       おも  だ

_4 つらいとき,悲しいときに(   )のことを思い出す。

       い

Q5 できることなら,どこへ行くにも(   )といっしょに行きたい。

ζま      かな       き もち

_6 困っているときや,悲しいときには(   )には気持ちをわかってもらいたい。

しごと

_7 むずかしい仕事をするときには,できることなら(   )といっしょにいたい。

       き      い

Q8 ひとりで決められないときには, (   )の言うとおりにしたい。

たの       ほうこく

あんしん

おも  だ       きもち

じぷん こころ ささ

りかい    あい

みと

じぶん        しん

_15 (   )にはどんなときでも,自分のことを信じていてほしい。

注 各様式を示す項目は,様式①(1,5,10),様式②(2,6,13),様式③(3,7,9),

様式④(8,14,15),様式⑤(4,11,12)となっている。

参照

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