山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)
数学科経営におけるカリキュラム・マネジメントの一考察
- 日常の事象に数理を見いだす力を育む単元構成 -
学校力開発分野(20822012)伊 藤 和 美
本研究は,日常の事象や他教科等で数学を活用できる力を育む数学科経営を,カリキュ ラム・マネジメントの視点から考察するものである。その基盤となる資質・能力を「日常の 事象に数理を見いだす力」とし,「題材」「発展学習」「他教科との関連」「総合的な学習の時 間との関連」に関する 4 つの取り組みを行う。今年度は,「発展学習」における問題づくり の実践を行った。その結果,問題づくりは,日常の事象を数学的に捉え,論理的に考察する ことが求められるため,数理を見いだす力を育むことに効果があることが示唆された。
[キーワード] 日常の事象に数理を見いだす力,問題づくり,カリキュラム・マネジメント
1 問題の所在と目的
数学は動物や人間,物の数を数えるところから 始まり,人間の歴史が積み重なっていくのととも に発展してきた経緯がある。そして,今日では,
数学は日常生活のあらゆる場面で活用されている。
しかし,現代の数学の授業においては,数学の世 界に閉じられた課題や問題が多い。現実の世界と 関連した題材が扱われるのは,単元の導入や利用 の場面が中心である。筆者のこれまでの授業実践 では,日常生活や他教科と関連させた課題を意図 的に扱ってきた。しかし,それは教師が見いだし た生活の場面であり,生徒からすれば与えられた 場面であった。また,これまで問題づくりを実践 したこともあったが,原問題を参考にして作るこ とはできるが,現実の世界に数理を見いだして問 題を作成することに困難を抱える生徒が多かった。
従来の数学の授業では,日常生活に数学が活用さ れていることは漠然と理解できても,生徒自らが 日常生活の中に数理を見いだしていくことは容易 ではないと捉えている。
国立教育政策研究所教育課程研究センターで実 施した,平成 31(2019)年度全国学力・学習状況調 査の生徒質問紙調査の結果によると,「数学の勉強 は大切だ」という質問項目に対する肯定的な回答 は 84.2%であった。また,「数学の授業で学習し たことを,普段の生活の中で活用できないか考え ている」という質問項目に対する肯定的な回答は 76.1%であった。このことから,生徒が生活の中 から数理を見いだしたり,学習したことを生活に 生かそうとしたりする意識を持っていることはわ
かる。しかし,先述の通り,普段の授業では,生 徒が日常生活に数理を見いだすような場面が与え られる機会は少ない。
中学校学習指導要領解説数学編(2018)において は,数学的活動における問題発見・解決の過程と して,「日常生活や社会の事象を数理的に捉え,数 学的に表現・処理し,問題を解決し,解決過程を 振り返り得られた結果の意味を考察する過程」,
「数学の事象から問題を見いだし,数学的な推論 などによって問題を解決し,解決の過程や結果を 振り返って統合的・発展的に考察する過程」の二 つの過程が相互に関わり合って展開される,と述 べられている。そして,それらのことについては,
図 1 のようなイメージで示されている。
図 1 算数・数学の学習過程のイメージ 図 1 より,数学の事象を数学の世界でのみ考察 したり解決したりするだけでなく,現実の世界に おいても,数学の舞台にのせて考察したり,数学 的に表現・処理したり,類似の事象にも活用した りすることが求められていることがわかる。
これは,日常の事象に関する数学の問題を解決
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していく力だけでなく,日常の事象に数理を見い だす力を育成することが大切なことを提示してい る。事象は常に総合的であり,数学の世界がわか りやすく存在しているわけではない。だからこそ,
事象の中に数理を見いだす力を育むことが大切で あり,その力があってこそ数学を生活に役立てて いくことができると考える。
そこで,本研究では「日常の事象に数理を見い だす力」を育むために,下記の 4 つの取り組みに よる教科横断的なカリキュラムを考え,その取り 組みの効果を考察することを目的とする。
Ⅰ 単元の利用の場面だけでなく,導入から継続し て生活と結びつくような題材を扱う。
Ⅱ 日常の場面にあてはめた問題づくりや自由研 究など,発展学習を取り入れる。
Ⅲ 他教科において,数学を活用してよりよい課題 解決ができるよう,教科間の連携を図りながら横 断的な取り組みを行う。
Ⅳ 総合的な学習の時間において,データの処理や 読み取り等,数学を活用する。
今年度は,単元の発展学習としての「問題づく り」を通して日常生活の中に数理を見いだす力を 育む単元構成を考え,図 2 に示すカリキュラム・
マネジメント表に基づいて取り組み,その効果を 検証していく。
2 先行研究の検討
(1)日常生活との関連について
髙橋(2020)は,算数の学習を日常生活で活用 できる力を高めるために,課題解決を意識した教 材づくりと問題づくりを関連づけることが効果的 であると考え,小学 6 年の比例の単元において,
問題づくりの実践を行った。髙橋は,児童の作る 問題をまとめ,「オリジナル問題集」を作ることを 単元のゴールとし,単元を通して問題づくりを行 った。実践による児童の変容は以下の通りであり,
児童が日常生活に数理を見いだせたことがわかる。
①「算数の問題が日常生活と結びついたことが あるか」,実践前 54.9%→実践後 94.2%
②「算数の学習が日常生活で役立ちそうか」,実 践前 83.1%→実践後 94.2%
髙橋の研究は小学校での実践だが,比例に関し て中学 1 年でも扱うため,同様の成果が期待でき ると考える。小学校と中学校の実践の違いはある かもしれないが,問題づくりは日常の事象の中に
数理を見いだす場合には有効であると考える。
図 2 中学校 第 1 学年 数学科 短期カリキュラム・マネジメント表
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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)
3 授業実践と考察
今年度は先述 1 の教師の取り組みⅡの問題づく りに焦点を当て,教職専門実習校での実践を行っ た。問題づくりをすることによって,生徒が自ら 経験・想像したことをもとに問題を作成し,さら にどのような数学が使われているのかがわかるよ うに解答・解説も作成することによって,日常の 事象に数理を見いだす力の育成を試みた。
実施校 :山形市内 A 中学校 学年・学級:1 年 A 組 29 名 単元名 :比例と反比例
実施期間 :2020 年 10 月 6 日(金)~12 日(木) 授業者 :伊藤和美(執筆者)
(1)授業実践
①事前ガイダンス
生徒に問題づくりの経験がなかったため,事前 ガイダンスを行った。4 時間の学習計画を提示し,
問題づくりを行うことを伝え,日常の事象に目を 向けて,比例・反比例の関係が利用されている場 面を探してくるように指示した。
②生活の事象についての課題解決(1/4 校時) 問題づくりの参考例として,図 3 のような,日 常生活の場面を取り上げ,比例・反比例を利用し て解決する問題に取り組んだ。
図 3 コンビニ弁当の W 数と温める時間(反比例)
③問題づくり(2/4 校時)
日常生活を振り返り,比例・反比例を利用して 解決できるような問題づくりを行った。具体的な 場面をなかなか想定することができない生徒には,
図 4 のような日常生活で比例・反比例が利用でき そうな資料を配布したが,29 名中 7 名しか問題を 完成させることができなかった。
図 4 スーパーのチラシ
④問題づくりと問題演習(3/4 校時)
前半は,問題づくりの続きを行った。すでに完 成している 7 名がスモールティーチャーとして個
別支援を行った。後半は,完成している 7 名の中 から 2 名が作成した問題を全員で解き合い,作っ た生徒による解説を行った。
⑤問題演習とアンケートの実施(4/4 校時) 前半は,生徒が作った問題の中から,2 名が作 成した問題を全員で解き合い,作った生徒による 解説を行った。後半は,4 時間の問題づくりの授 業を振り返ってアンケートを実施した。
(2)考察
①授業実践から
問題づくりを予定していた時間で完成させた生 徒は,29 名中 7 名だった。このことから,実習校 でも日常生活に数理を見いだすことに困難を感じ ている生徒が多いことがわかった。また,生徒へ の個別支援も時間的に難しいことを予想していた ので,図 4 のような問題づくりのヒントを与えた。
それでも比例・反比例を見いだせない生徒がいた。
6 名はヒントを参考にして問題を作成したが,そ れ以外の生徒はそれを参考にして自分で場面を想 定して問題を作成した。これは,生徒に生活を見 る視点を与えたという点で効果があった。
②生徒の問題づくりの事例から
以下は,生徒が日常生活の場面を想定して作成 した問題である。
①では,1 日 2 枚ずつ 31 日間使用するので,マ スクは月に 62 枚必要だということがわかる。これ は,マスクの枚数は日数に比例していることから 求めることができる。
一方②を,数学の世界のみで考えてしまうと,
20 枚で 300 円となるから,1 枚あたり 300÷20=
15(円)となることがわかる。マスクが 62 枚必要な ことから,代金は,15×62=930(円)となる。しか し,実際にはマスクを箱で買うため,比例を利用 して代金を求めるだけでは現実の世界に対応でき ていない。マスクが 62 枚必要なことから,4 箱買 わなければならないので,マスクの代金は,300×
4=1200(円)となる。これは,日常の世界に繰り広
①A さんは 12 月のマスクをまとめ買いしようと しています。A さんが 1 週間に使用するマスクは 14 枚です。12 月は 31 日間です。A さんが 12 月 に使用するマスクは何枚ですか。
②また,ドラッグストアでは,20 枚 1 箱で 300 円 でマスクを売っています。①の答えを利用して,
12 月のマスクにかかる値段を求めなさい。
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げられる数理を見いだした例である。この問題と 同様に,買い物の場面を想定して問題を作成した 生徒が 2 名いた。
③生徒アンケート結果から
選択式アンケートでは,「数学の勉強は大切だ」
という質問項目に対する肯定的な回答は 93.2%
であった。また,「数学の授業で学習したことを,
普段の生活の中で活用できないか考えている」と いう質問項目に対する肯定的な回答は 79.3%で あった。実習校の生徒においても,全国学力・学 習状況調査同様,生活の中から数理を見いだした り,学習したことを生活に生かそうとしたりする 意識を持っているが,普段の授業においてそのよ うな場面が与えられる機会が少ない様子が窺えた。
また,記述式アンケートについてテキストマイ ニングを行った。
図 5 自由記述のテキストマイニング 図 5 から,「問題」「作る」「解く」「楽しい」の 言葉を同じ文章の中に書いていた生徒が多いこと がわかる。その中でも,「楽しい」と書いた生徒は 13 名だった。一方で,「難しい」と書いた生徒が 7 名いた。これは,楽しければ難しい課題でも頑張 ってクリアするといった,学びに向かう力が身に ついた結果だと思われる。また,「生活」「数学」
「使う」を同じ文章の中に書いていた生徒が 7 名 いた。今回は,図 2 に示したカリキュラムの中の 発展学習の場面での実践であったが,数理を見い だす活動に喜びや意義を感じる生徒がいたことが わかる。しかし,問題づくりが思うように進まな かった生徒が多かったことからも,日常に数理を 見いだす力を育成するためには,継続して取り組 んでいくことが必要だと感じた。
4 到達点と今後の課題
今年度は,比例・反比例の単元において,生徒 が問題を作るという発展的な学習を行った。生徒 は問題づくりに難しさを感じながらも,意欲的に チャレンジし,一部の生徒は日常生活に数理を見 いだすことができた。しかし,問題づくりだけで は,日常生活に数理を見いだすことに困難さもあ った。そこで,先述 1 の教師の取り組みⅠ~Ⅳに ついて,年間を通して意図的・計画的・継続的に 実践していく必要があると考える。
次年度は,勤務校での年間の授業実践を通して,
生徒に「日常の事象に数理を見いだす力」を育む ことを目指していく。そのために,年間指導計画 や単元構成について再検討するなど,数学科経営 におけるカリキュラム・マネジメントを通して意 図的・計画的・継続的に授業実践を行っていく。
その中で,4 つの取り組みⅢにおける他教科の教 員と連携しての教科横断的な取り組みや,Ⅳにお ける総合的な学習の時間での取り組みについては,
数学科経営の考え方だけで実践するのは難しい。
教科を超えた学年経営の中で他の教員との連携を 図っていきたい。
引用文献
教育課程研究センター(2019)『平成 31(令和元)年 度全国学力・学習状況調査 調査結果資料【全国 版/中学校】質問紙調査の結果』,
https://www.nier.go.jp/19chousakekkahoukoku /factsheet/data/19m_411.xlsx( 最 終 閲 覧 日 2021 年 1 月 27 日)
文部科学省(2018)『中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 数学編』,日本文教出版株式会社,
pp.22-24
髙橋朋彦(2020)「算数の学習を日常生活で活用で きる力の育成-課題解決を意識した教材づくり と問題づくりを関連付けた単元構成-課題解決 を意識した教材づくりと問題づくりを関連づけ た単元構成-」,『千葉大学大学院人文公共学府研 究プロジェクト報告書』,第 357 集,pp.85-94.
A Study of Curriculum Management in Mathematics Management: Unit Structure that fosters the Ability to Find Mathematics in Everyday Events
Kazumi ITO
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