奈良教育大学学術リポジトリNEAR
小学生におけるテレビ視聴時間の分析
著者 杉村 健
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 16
ページ 83‑92
発行年 1980‑03‑23
その他のタイトル An Analysis of the Length of Watching TV in Elementary School Children
URL http://hdl.handle.net/10105/6444
小学生におけるテレビ視聴時間の分析*
杉 村 健淋
(心理学教室)
昭和28年に、わが国でテレビ放送が開始されて以来、すでに25年以上の年月がたっている。
その間に、テレビはまったく日常化してしまい、われわれの生活様式をはじめとして、家族関係、
価値観、思考や認知の仕方・さらに教育の方法などにも大きな影響を与えてきた(読売新聞社婦 人部、1978)。たとえば、奈良県放送教育研究協議会(1979)によれば、奈良県下の小学校にお けるカラーテレビの普及率は99.6%であり、また、授業における番組の利用率も98.7%と極 めて高い値を示している。このように、学校教育においてテレビ番組の利用が盛んになり、放送 学習または放送教育とよばれる教授一学習の形態が確立されてきた。
ところで、NHK放送世論調査所(1976)によれば、昭和50年における小学5・6年生のテ レビ視聴時間の平均は2時間20分(平日)、54年版青少年白書では2時間33分であること が報告されている。さらに白書では、小学5・6年生で きまった時間しかテレビを見られない
と答えた者は、わずかに15%前後であったことが指摘されている。現代っ子はテレビっ子と いわれているように、平均して1日に2時間30分もテレビを見ているのであるが、これは平均 値であるので、ほとんど見ない子どももいれば、1日に4時間も5時間もテレビを見ている子ど
ももいることになる。一般に、テレビを見すぎた場合に何らかの悪い影響があるといわれている が、テレビ視聴時間の長短が、どのように具体的な影審を及ぼしているであろうか。本研究はそ の一端を探るために計画された。
本研究の目的は、テレビを長時間見ている小学生と短時間見ている小学生について、学習適応 性、学業成績、家庭学習時間、睡眠時間および遊びと勉強における人気度を比較検討することで
ある。
方 法
調査対象 奈良県下の小学校で、表1に示すように、3年生から6年生まで合計456名であった。
表1 調査対象の内訳
学 年
3
45
6 合計学級数 4 3
3
3 13男児数 落剞
73 U3
57 T0
58 T4
42 T9
230 Q26
合計 136 107112
101456
* An Ana』ysis of the Length of Watching TV in Elementary School Children 榊Takeshi Sugimura(影partment of Psychology,Nara University of Education)
調査内容 ω学習適応性検査(AAI,Academic Adjustment Inventory) 辰野
(1977)が作成したもので、3・4年周は次の7つの下位テスト、それぞれ15項目ずつ、合計 105項目からなっている。
①勉強の態度:自分からやる気をだし、進んで勉強しているか。計画的に勉強しているか。
②授業のうけ方:積極的に授業をうけ、それを生かすようにしているか。テストをじょうず にうけ、それを学力増進に役立てているか。
③勉強の技術:能率的に本を読み、ノートを活用しているか。じょうずな覚え方、考え方を しているか。
④家庭環境:家庭の物理的環境を活用しているか。家庭の雰囲気を勉強に役立たせているか。
⑤学校環境:学校の環境を積極的に活用しようとしているか。勉強に望ましい友人関係であ
るか。
⑥心の健康:自分のことは積極的に自分でするか。不安が大きいかどうか。
⑦からだの健康:神経過敏の程度・身体が健康であるかどうか。
5・6年周は次の15の下位テスト、それぞれ10項目ずつ合計150項目からなっている。
以下に示す下位テストは、学習態度(A〜C)、学習技術(D〜F)、学習環境(G〜J)および び精神・身体の健康(K〜O)の4つにまとめられている。
A 勉強の意欲:自分からやる気を出し、進んで勉強しているか。
B 勉強の計画:計画的に勉強しているか・
C 授業のうけ方:積極的に授業をうけ、それを生かすようにしているか。
D 本の読み方・ノートのとり方:能率的に本を読み、ノートを活用しているか。
E 覚え方・考え方:じょうずな覚え方、考え方をしているか。
F テストのうけ方:テストをじょうずにうけ、それを学力増進に役立たせているか。
G 家庭の物的環境:家庭の物的環境を活用しているか。
H 家庭の心理的環境:家庭の雰囲気を勉強に役立たせているか。
I 学校の環境:学校の環境を積極的に活用しようとしているか。
J 友人関係:勉強に望ましい友人関係であるか・
K 自主的態度:自分のことは積極的に自分でするか。
L 根気強さ:ねばり強く最後までやりとおすか。
M 不安傾向:不安が大きいかどうか。
N 神経質の徴候:神経過敏の程度はどうか。
0 身体的健康:身体が健康であるかどうか。
12〕学業成績一5・6年生について、1学期末の国語、社会、算数、理科の成績(素点)を 調査校から借用した。
制 実態調査一テレビ視聴時間、睡眠時間、家庭学習時間、遊びと勉強における人気度など を調べるために、表2に示す調査用紙を作成した。
表2 調 査 用 紙
1.ふつうの日(土、日よう日いがい)に、1日にどれくらいテレビを見ますか。
見ない 30分 1時間 1時間半 2時間 3時間半 4時間より多い
2.ふつうの日に、ねる時間 時 分 起きる時間 時 3、ふつうの日に、1日に家でどれくらい勉強をしますか。
しない 30分 1時間 1時間半 2時間 3時間半 4時間より多い
4.勉強をやる気になったのは・どんなときですか。
家では
2時間半 3時間
分
2時間半 3時間
学校では
勉強をやる気がなくなったのは、どんなときですか。
家では 学校では
5.好きな科目 そのわけ きらいな科目 そのわけ 6.このクラスの中でいっしょに 遊びたい人(3人)
1 1
勉強したい人(3人)
2
3 7. くおけいこ〉く家庭教師>
<じゅく〉
* なぜ、
1 2 3 4
2 3
習字 ピアノ そろばん その他 国語 算数 理科 社会 週 回 国語 算数 理科 社会 週 回
じゅくに行っていますか。1つだけ○をつけてください。
自分で行きたいと思ったから 親にすすめられたから 友だちが行っているから
その他
手続き 調査は学級ごとに、心理学の教官および専攻学生によって実施された。まず、実態 調査用紙を配布し、調査者が質問を読みあげて内容を理解させてから、子どもに回答してもらっ た。記入ずみの調査用紙を回収してから学習適応性検査用紙を配布し、調査者が1項目ずつ読み あげ、理解されにくいと思われる項目には説明を加えてから、子どもに回答してもらった。調査 は昭和54年9月17日に行われた。
転 果
テレビ視聴時間 表3は、3年生と4年生、5年生と6年生をこみにしたテレビ視聴時間別 の人数を示したものである。3・4年、5・6年ともに中央値は2時間のところにあるが、3時 間30分以上が3・4年では60名であるのに対して、5・6年では30名であって、3・4年 生の方が長時間視聴者が多い。以下の分析においては、視聴時間が1時間以下の者、すなわち3
・4年生64名と5・6年生48名を短視聴群とし、3・4年生では4時間以上の者29名、5
・6年生では3時間30分以上の者30名を長視聴群として取り上げね
表3 テレビ視聴時間別の人数
030 101030 202030 303030 4o〜
3・4年生 五⊥ユ 土旦 32 45 23 19 31 旦旦 5・6年生 」」一L2 旦旦 35 41 24 35 五ユ _旦
(注) 下線を付した部分について視聴時間別の分析を行った。
学習i応性 表4は3・4年生について、表5は5・6年生について、長視聴群と短視聴群 の学習適応性検査における索点の平均と標準偏差、および群差の≠検定の結果を示したものであ る。表4を見ると、最下行の適応性偏差値は短視聴群53.1、長視聴群44.9であって、後者の 方が明らかに低く、学習適応性が劣ることを示している。下位テストでは、 からだの健康 だ けに両群の差がなく、これ以外はすべて短視聴群の方がすぐれている。表5においても、適応性 偏差値は短視聴群が52.7であるのに対して、長視聴群は4Z9と著しく低い値を示している。
下位テストでは 不安傾向 、 神経質の徴候 、 身体的健康 以外は、すべて短視聴群の方 がすぐれている。
表4 3・4年生の学習適応性検査の平均(8D)
下位テスト 短視聴群 長視聴群 差
(仏91)
勉強の態度
18.7(4.8) 14.3(6.0)
443.72**
授業のうけ方
17.4(4.2)
13.7(40) 3.7 402榊勉強の技術
17.6(5.0) 15.3(5,4)
2.32−04*
家庭環境
19−3(3.9) 17.5(4.8)
1.82.O1*
学校環境
19.2(4.2) 15.8(4.9) 3.4 3.32**
心の健康
19.2(4.4) 15.6(3.9)
3.6 3.69榊からだの健康
18.8(5.1)
18.9(56) 一〇一1O−1O
適応性偏差値 53.1(10.4) 449(1O.8) 8−2 3.45州*戸<.05 **戸<.01
表5 5・6年生の学習適応性検査の平均(∫D)
領域 下位テスト 短視聴群 長視聴群 差 サ(ψ=76)
学
勉強の意欲
12.3(2.6)91(3.0)
3.2 4.92榊習
態
勉強の計画
12.8(2−2) 10.5(3.3) 2−3 3.56淋度 授業のうけ方 11.3(2.6)
8.4(2.8)
2,9 6.06榊学 本の読み方・
o乏}惜顯
12.6(2.6) 10.7(2,4) 1.9 3.27榊
習
技 10.5(3.0)
8−1(2.9)
2.4 3.52榊 術 テストのうけ方 10.5(2.5)7.6(2.8)
2.9 544**学 家庭の物的環境
140(2.O)
10.6(2.4) 3.46.69**
習 家庭の心理的環境 12.6(2.7) 10.6(2.8) 2.0
3.10**
環
学校の環境
13.7(3.4)11.9(3.ユ)
1.82−31*
境 友人関係 12.9(2,5) 11.5(2.6) 1.4
2.37*
精
神
自主的態度 13.1(2.7) 11.6(2.7) 1.52.32*
■ 根気強 さ 13.2(2.1) 10.6(3.3)
2.6
4.14榊身
体 不 安傾 向 12.4(3.1) 11.9(2.5) 0−5
0.84
の
健 神経質の徴候 13.5(2.9)
13−0(Z5)
0.5 0177康 身体的健康
15.0(215)
14.7(2.7)O−3 0.43
適応性偏差値 5Z7(6.8)
42.9(&9)
9.8 5−42榊*P<.05 **P〈二、01
図1は3・4年生について、図2は5・6年生について、表4と表5に示した素点の平均をパ ーセンタイルに変換してプロフィールに描いたものである。この検査では5年生の尺度と6年生 の尺度が別々に作成されているので、両学年で一致していない箇所については、両方の目盛の中 間点のところに位置づけることに 図1 3・4年生の学習適応性検査のプロフィール
した。図1を見ると、3・4年生 5融着課仁 の長視聴群は 勉強の態度 、 パー{ノタイル
的 学校環境 および 心の健康 に
おいて、問題ありのところに位置 づけられている。図2から、5・
6年生の長視聴群は 勉強の意欲
、 eストのうけ方 、 学校 の環境 および 根気強さ にお いて問題があり・短視聴群は 授 業のうけ方 と 家庭の物的環境 においてよい状態にあることが
わかる。
勉強の態度 侵業のうけ方
勉強の技術
家産須錆
学校環境一一
心の○業
からだの賃隣
■課仁 1.11 3 1415 問■あり l l よい状■仁島るンタイル 1
@工「Io30;卵6o竈。oo}lol I l ■ 1 一 一 .
l態度一 1 一 一
@1 1 ■ 一 一 一
、け方 l 1一
@ ,
@一 , 一
@1 ■ 1 1
d術一十一一一一一_4. ■ 一
@11 11 1 j須錆 1 ;ノ 1 ;
一員慣●働 ほ握■課
図2 5・6年生の学習適応性検査のプロフィール
5服●課■
11
2■I●お〇一
9{^tンタイル
^.1o富越ψ酌 凹描
学 触螢の意欲
習
I勉強の計画
懸
度 量業のうけカ
■一 学
一 I■w万・ 一雌。万習
覚え方・考えカ
技術
テストのうけカ
1素鰍環
学 ㌧
習
資□の心■ω,場1
学校の標境 1
環 I
境 友人真篠 I
構 自主的念度
η
鼻
標気強さ i不安調向 1 j
体
の η羅賃の徴候
○
真 身体的○順
▲ 1一●●●
]■●●●鵠
H員標●口 H電電●口
学業成植 学業成績については、5年生と6年生を分けて取り扱った。したがって、5年生 では短視聴群24名と長視聴群13名、6年生では同じ順に24名と16名の資料に基づいてい る。表6は、短視聴群と長視聴群の国語、社会、算数、理科の平均点と標準偏差、および群差の 検定の結果を示したものである。5年生では4教科とも短視聴群の成績がよいが、国語と社会 で統計的に有意であった。6年生では4教科すべてについて短視聴群の成績が有意によかった。
以上のことから、少なくとも5,6年生については、テレビの視聴時間が著しく長い者は学業成 績が良くないといえる。
表6 学業成績の平均(∫D)
学年 教科 短視聴群 長視聴群 差
国語
85.5(1O−2) 76,0(14.9)
9−52,22*
5 社会
79.0(14−5) 65−9(16.3)
13.1 2145‡年 算数
77.0(17.0) 65,8(20.O) 11,2
1,75 理科78.0(12.2)
72.5(158) 5.51.14
国語78.4(12.0) 61.2(17.8)
17.23.56**
6 社会
76.0(13.9) 64.9(18.1)
11.12−12*
年 算数
70.5(17.8) 57,3(19,4) 13.2 2−17*
理科
79.9(10.9) 7αO(17,5)
9−92.15*
(注) 5年の6∫=35,6年のa/I=38叩<、05榊P<.01
家産学習時間、睡眠時間、人気度 表7は、短視聴群と長視聴群について、家庭学習時間、
睡眠時間および人気度の平均と標準偏差、および群差の7検定の結果を示したものである。なお、
人気度は次のようにして算出した。表2からわかるように、クラスの中でいっしょに遊びたい人 と勉強したい人をそれぞれ3名ずつ選択させている。人気度は級友から選択される程度であって、
1位に選択された場合は3点、2位は2点、3位は1点という得点を与え、それを個人ごとに合 計したものである。したがって、この得点が高い者ほど遊びまたは勉強で学級内の人気がある.と
いえる。
表7 家庭学習時間、睡眠時間および人気度の平均(∫D)
学年 項 目 短視聴群 長視聴群 差
3
家庭学習時間1.12 (43 )
43 (46つ29
2.87州● 睡眠時間 9.30 (37 )
9.11 (53つ 19 1.97+
4 遊び(人気度) 6.2(5.9) 4.2(4.0) 2.0 1.59 年 勉強(人気度) 6.5(5.5) 4.3(3.5) 2,2
1.99+
5
家庭学習時間1.35 (43 ) 1.14 (44つ 21 2.13*
● 睡眠時間 8.51 (48 )
8.46 (47つ
5O−45
6 遊ぴ(人気度)
5.7(46)
5.O(4.6) O−70.69
年 勉強(人気度)τ4(&3)
4.2(a7) 321.95+
十.05<P<.10 *戸く,05 非ホP<.01
3・4年生では、短視聴群は長視聴群に比べて家庭学習時間が有意に長く、睡眠時間も長い頃 向を示した。5・6年生では、家庭学習時間は短視聴群の方が長かったが、睡眠時間ではほとん ど差がなかった。また、遊びでの人気度についてはほとんど差がなかった狐勉強での人気度で は短視聴群が高い傾向を示した。
考 察
本研究の主な結果は次のとおりである。小学3・4年生、5・6年生ともに、視聴時間が長い 者は短い者に比べて、学習適応性、学業成績ともに有意に悪く、家庭学習時間が有意に短く、そ
して勉強についての人気度が低い傾向を示した。さらに3・4年生では、視聴時間が長い者は睡 眠時間が短い傾向を示した。この研究に先立って、視聴暗闘が長い者は何らかの悪い影響を受け ているのではないかという漠然とした予想を立てていたのであるが、上述のような多くの側面に ついて、統計的に明確な形での差が生じたことは予想外であった。
一般に、 テレビの影響を受ける という表現が用いられている狐厳密に言えば、何かの影 響を受けるという表現は、その何かが原因となりて結果が生じる場合に用いられなくてはならな い。すなわち、原因→結果の因果関係が明確である場合に テレビの影響 といえるのである。
本研究の場合、テレビ視聴時間の長いことが原因で、学習適応性や学業成績が悪くなったといえ
るであろうか。本研究では、テレビ視聴時間の長短によってグループ分けをし、学習適応性や学 業成績などを比較したので、視聴時間が原因のように考えられやすい。しかし、学習適応性や学 業成績などによってグルーブ分けをして、テレビの視聴時間を比較することも可能であり、この 場合でも学習適応性や学業成績が悪い者は視聴時間が長いという結果が得られるであろう。この
ように、テレビ視聴時間→学習適応性・学業成績ともいえるし、学習適応性・学業成績→テレビ 視聴時間ともいえるのであり・両者は因果関係ではなく相関関係である。
たとえば、テレビを見すぎるために、学習意欲が乏しく、根気強さがなくなり、成績が悪くな る子どもがあるし、何らかの原因で学習意欲が乏しく、根気強さがなく、成績が悪くて学校が楽
しくないために、テレビに逃避している子どももいるであろう。したがって、テレビの視聴時間 を減らすことだけを子どもに強制しても効果が少なく、同時に、学習適応性や学業成績を良くす るような指導を行わなくてはならない。学習意欲を高めるとか成績を上げるという指導は根気の いる仕事であるので、とかく テレビを見すぎるな というだけの、子どもの心を無視した説教 に終りてしまいがちである。
近藤(1979)は小学4年生について、次のような報告をしている。成績が上位で積極的な子 どもは、テレビ視聴時間が長くて番組数も多く、読書でも質量ともに多方面にわたっているが、
成績が下位で消極的な子どもは、テレビ視聴時間はそれほど長くなくてマンガや幼児番組が多く、
読書もマンガがほとんどで量が少ない。視聴時間だけに焦点を当ててみると、本研究とは逆の結 果を示していることになる。しかし、詳細な資料が手元にないので、ここでは上述のような結果
もあるということを指摘するだけにとどめておきたい。
放送教育の立場からは、テレビの視聴によって学習意欲が高められ、学習内容の理解が容易に なり、学習の仕方が身につくと考えられている。つまり、テレビの視聴によって学習適応性や学 業成績も良くなることが期待されるのであるが、本研究ではまったく逆の結果が得られた。放送 教育において用いられるのは主として学校放送番組であり、子どもたちは教師の指導の下に学習 的態度で視聴している。これに対して、家庭で視聴されるのはマンガをはじめとする一般番組で あって、子どもたちは娯楽的態度で視聴していると考えられる。したがって、単に視聴時間だけ でなく、番組の内容とそれに関連する視聴態度について調べることにより、テレビ視聴と学習適 応性・学業成績の関係を詳しく知ることができるであろ㌦
次に、家庭学習時間についてみると、短視聴群が長視聴群に比べて3・4年生では29分、5
・6年生では21分長く、また、睡眠時間でも3・4年生で19分、5・6年生で5分長くなって いる。一方、テレビ視聴時間についてみると、短視聴群が長視聴群に比べて3・4年生では約3 時間、5・6年生では約2時間30分短い。これらの時間から、家庭学習時間と睡眠時間におい て短視聴群が長くなっている時間(3・4年で48分、5・6年で26分)を引いてみると、3
・4年では2時間12分・5・6年では2時間4分にな孔つまり、テレビをあまり見ない子ども は見すぎる子どもに比べて、1日の内で2時間あまり(食事時間を除いても約1時間半)の余裕 があることになる。この時間が何に使われているか明らかでないが、テレビ視聴以外の読書、遊 び、おけいこなどに使われていると考えられ、この時間における子どもの活動が学習適応性や学
業成績に影響を及ぼすといえよ㌔
参考のために、習字、そろばん、ピアノなどのおけいこに行っている者の数を調べてみると、
3・4年生では短視聴群83%、長視聴群69%、5・6年生では同じ順に75%と50%であ って短視聴群の方が多くなっている。一方、学習塾に通っている者の数では3・4年生が10%
と16%、5・6年生が24%と21%であって、両群の問にほとんど差がなかった。このこと から、短視聴群と長視聴群のちがいは、学習塾通いよりもおけいこ通いに関係していることがわ
かる。
最後に、人気度について考察してみよう。3・4年生も5・6年生もともに、短視聴群の方が 高い人気度を示し、特に勉強では1O%水準で有意差があった。短視聴群の者は学習適応性や学 業成績が良いことはすでに述べたとおりであるが、これらは一般に、勉強での人気に結びつきや すいものであろう。テレビを見ていないと級友との話題がなく、仲間はずれになりやすいといわ れたことがあった。しかし、本研究の結果は遊びでの人気でも短視聴群がよい傾向を示している ので、テレビの番組を多く見ていることと遊びでの人気とは直接関係がないといえるであろう。
要 約
小学3・4年生でテレビ視聴時間が1時間以下の者64名と4時間以上の者29名、小学5・
6年生で1時間以下の者48名と3時間30分以上の者30名について、学習適応性、学業成績、
家庭学習時間・睡眠時間および人気度を比較しね主な結果は次の通りであ乱
ω 学習適応性一3・4年生、5・6年生ともに、視聴時間が短い者は長い者に比べて学習 適応性がすぐれていた。視聴時間が長い者については、3・4年生では 勉強の態度 、 学校 環境 、 心の健康 に問題があり、5・6年生では 勉強の意欲 、 テストのうけ方 、 学校の環境}、 根気強さ に問題があった。
12j学業成績一5年生、6年生ともに、視聴時間が短い者は長い者に比べて、国語、社会、
算数、理科の成績が良く、5年生では国語と社会について、6年生では4教科すべてにおいて有 意差があった。
㈹ 家庭学習時間と睡眠時間一3・4年生で視聴時間が短い者は家庭学習時間と睡眠時間が 長かった。5・6年生では家庭学習時間に有意差があったが睡眠時間では大差なかった。
ω 人気度一3・4年、5・6年ともに、視聴時間が短い者は長い者に比べて、勉強での人 気度が高かったが・遊びでの人気度については有意差がなかった。
引 用 文 献
近藤大生 1979 子どものテレビ視聴の問題的状況とその要因分析 大阪国際シンポジゥ ムーテレビと子どもの文化を考える一全国放送教育研究会連盟
奈良県放送教育研究協議会 1979 奈良県学校放送利用実態調査
NHK放送世論調査所 1976 日本人の生活時間 日本放送出版協会 辰野千寿 1977 新学習適応性検査 日本図書文化協会
読売新聞社婦人部編 1978 テレビっ子 文化出版局
<附記〉 資料の蒐集にあたり、結崎小学校の村田校長先生をはじめ諸先生および児童の御協力 を得、また、資料の蒐集、集計と統計的分析にあたり、本学心理学専攻生胡内妙美、西松由里、
松本育子、伊与田ゆり子、その他心理学専攻生の協力を得たことに対し、厚く感謝します。