奈良教育大学学術リポジトリNEAR
カウンセラーの言語的応答の分類
著者 玉瀬 耕治, 大塚 弥生, 西川 知子
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 27
ページ 103‑114
発行年 1991‑03‑01
その他のタイトル Counselor Verbal Response Category URL http://hdl.handle.net/10105/6761
カウンセラーの言語的応答の分類*
玉 瀬 耕 治・大 塚 弥 生・西 川 知 子‥
(心理学教室)
要旨:本研究では、カウンセリングの技法訓練において有用と考えられるカウ ンセラーの言語的応答を分類し、それらを定義づけ、応答の例文を作成した。
研究1では、応答文を作成する手がかりを得るために、大学生を用いて5つの 悩みの刺激文を提示し、自由記述方式でそれらの悩みに応答させた。これらの 応答を手がかりにして、 6つの応答様式のそれぞれに対する応答文を作成した。
研究2では、これらの応答文を用いて、助産科学生に対するマイクロ技法訓練 の前後における応答の望ましさ評定の変化を査定した。その結果、技法訓練で 焦点を当てた反映的応答の望ましさ評定が訓練後において増加した。応答文の 利用についていくつかの方向が示唆された。
辛‑ワ‑ド:カウンセラーの応答の分類、質問、反映、解釈、マイクロ技法
カウンセリング過程を科学的に研究する上で、カウンセラーとクライエントの応答をそれぞれ どのように分類するかはきわめて重要である。それらの分類について、研究者間でおおよその一 致が得られるようにならなければ、カウンセリング過程に関する真の研究の進展は望めないと
いえよう。カウンセラーの応答様式については、従来さまざまな試みが行われてきているが、
Elliott, Hill, Stiles, Friedlander, Mahrer, and Margison (1987)の研究は、研究者間の分類 の不一致を埋めようとした注目すべきものであるo 彼らは6種類の、異なる研究者(Elliott, 1985 ; Friedlander, 1982 ; Goldberg, Hobson, Maguire, Margison, O'Dowd, Osborn, &
Moss, 1984 ; Hill, 1978; Stiles, 1978, 1979)の応答様式に基づいて、それらに共通する6つ の応答様式を示した。その6つの応答様式とは、質問、情報、助言、反映、解釈、および自己開 示である。これらを著名な治療者の応答に適用したところ、例えば、来談者中心主義のロジャー ズは反映を非常に多く用いており、論理療法家のエリスはもっぱら解釈を用い、行動療法家のプ
レイディは情報(提供)と質問および助言を多く用いていることが示された。
わが国で初めてカウンセラーの応答を分類したのは、おそらくロジャーズの理論を紹介した伊 秦(1959)であると思われる。彼は応答様式とはせず、カウンセラーの態度として5つの態度を 分類している。すなわち、評価的、解釈的、支持的、診断的、および理解的態度である。ある対 象者群についてカウンセリングに関する講習を行う前にこれら5つの態度を調べたところ、診断
* Counselor Verbal Response Category
‥Koii TAMASE, Yayoi OTSUKA, Tomoko NISHIKAWA, Department of Psychology,
Nara University of Education
‑103‑
的態度がもっとも多かったが、講習後では理解的態度がもっとも多くなっていた。鳴沢(1975) はPorter (1950)がすでにこの分類を用いているとして、評価的、解釈的、支持的、探索的 (伊東の診断的)、および理解的態度を紹介し、指示的態度を付け加えている。生月・原野・山[」
(1988)は、カウンセラーの応答を価値介入、指示、情報提供、援助、および中性に分類し、架 空の悩みについて実際のクライエントに、彼らがもっとも望む応答を選択させた。その結果、情 報提供と援助を求める者が多いことが示された。しかし、クライエントの中で、架空の悩みと同 様の悩みを経験している者はそうでない者よりも、情報提供を求める傾向が少なく、むしろ中性 な応答を求める傾向が見られた。ここで言う中性とは、 Elliott et. al. (1987)の反映、伊東 (1959)の理解的態度に相当する。また生月らの援助には、必ず質問が含まれており、探索的で あるといえる。
最近、この領域でもっとも精力的かつ組織的に研究を進めている研究者の1人としてHill (例 えば、 Hill, 1978, 1986, 1989:Hill, Thames, & Rardin, 1979)を挙げることができよう。彼 女(Hill, 1986)のカウンセラーの応答の分類は、最小限の励まし、沈黙、承認・再保証、情報、
直接指導、閉ざされた質問、開かれた質問、言い換え、反映、解釈、対決、非言語的行動の指摘、
自己開示、その他の14種類である。彼女の関心は、実際のカウンセリングまたは心理療法にあり、
したがって、いわば上級のカウンセリング技法(解釈、対決、自己開示など)が含まれている。
また、彼女はクラスター分析や過去の経験に基づいて上記の14種類を統計的処理などの目的のた めに、より大まかな分類にまとめて併用している。これらは最小限の励まし、沈黙、指示(承認・
再保証、情報、直接指導)、質問(閉ざされた質問、開かれた質問)、解釈(解釈、対決)、自己 開示、その他である。
本研究は、初心者の訓練用に供することを目的として、予備的調査(研究1)に基づいてカウ ンセラーの応答のより一般的な分類基準を作成しようとしたものである。表1は、本研究での分 類と従来の研究者の分類との関係を示したものである。我々のものは、いまだ試案の段階であり、
実証的検討を通して改訂すべきものである。表1について、若干の説明が必要であると思われる。
まず、欧米の研究では重視されていないけれども、わが国の研究者によって取り上げられている ものがある。支持については、例えばHill (1986)では再保証として指示の中に含まれている。
評価または価値については、これに相当する応答は欧米の研究者には取り上げられていない。我々 はこれを意見としている。伊東(1959)は評価を"クライエントの発言の善悪や正しさ、適当で あるかどうか、効果的かどうかなどについてカウンセラー自身の判断を与えようとするもの′′ と 定義している。すなわち、この応答は聞き手の個人的見解を表明するものである。生月ら(1988)
は価値を"価値観への介入′′ としており、内容的には聞き手の意見を述べたものである。したがっ て、我々は先行研究における評価または価値に相当するものとして、その内容をより直接的に表 現する"意見′′を採用した。意見はいわゆる初心者や素人の応答であって、熟練したカウンセラー はほとんど用いないものである。しかし、初心者が技法訓練を受ける際に、いきなり高度な技法 を示されたり、難しい応答を要求されてもなかなかなじめないものである。むしろ、練習を始め る前の自分の応答様式を十分確認してからより望ましい応答技法へと進むべきであろう。その意
‑104‑
味で、、意見′′を応答様式の中に含め、そのような応答の消極的効果について十分説明を行うこと が有効であると考えている。最後に、表1の自己開示についてであるが、これは上級技法(Ivey
& Gluckstern, 1984)であって、分類の数を増やす場合にはわれわれも当然含めるべきものと 考えている。しかし、初心者について、必要最小限の分類を考えた場合、自己開示は除くことも 止むを得ないと考えて、これを除外した。解釈についても上級技法であるが、従来の研究者も共 通して取りしげており、これについては最近さまざまな視点での研究(Jones, & Gelso, 1988;
Olson, & Claiborn, 1990)や理論的論争(Claiborn, 1982 ; Spiegel, & Hill, 1989)がなされ ているので我々もこれを取り上げることにした。
研 究 1
本研究の目的は、先行研究における応答の分類に従って、学生の悩みに対する応答を分析し、
それらの応答を参考にして、新たな分類基準を設定し、その分類基準に従って貝体的な応答の例 を作成することである。
方 法
調査対象 大学生男子20名、女子25名、合計45名。平均年齢は20.22 (SD‑1.04)歳で、年 齢の範囲は18歳から22歳までであった。
材料 玉瀬・大塚・大谷(1990)によって作成された感情の反映刺激文の内、テスト用とし て用いられている5つの刺激文を用いた(表3)0
手続き 調査は2人の調査者によって2、 3人の小集団ごとに行われた。調査用紙を配布し て、用紙の冒頭に書かれている次の文を読み上げた。 "ここに、悩みの相談にやって来た人の悩 みが書いてあります。あなたは聞き役として、その悩みを聞いて、相手の気持ちをまくふまえて 応答して下さい。どのように応答するかを回答用紙に書いて下さい。こちらで合図をしますから、
上から順番に答えて下さい。 1事例あての応答時間は3分とします。′′応答者の応答の様子を見 表1 カウンセラーの応答様式:本研究の分類と従来の研究の分類の関係
本研究 Elliott Hill 生月(3) 伊東(4) 鳴沢(5)
拝見釈示 間 映支 意解指質 反
支持 価値 評価 解釈 解釈
指示 助言・情報 指示・情報 解釈 質問 質問 援助 診断 反映 言い換え 中性 理解 自己開示 自己開示
持価釈 示 索解
支 評 解 指 探 理
註(1)Elliott et al. (1987) 、 (2)Hill(1986) 、 (3)生月・原野・山口(1988) 、 (4) 伊東(1959) 、 (5)鳴沢(1975)
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ながら、はぼ3分ごとに合図をして、次の刺激文に移るよう促した。
分類 応答を分類するために、鳴沢(1975, p.73‑74)の分類を参考にして次のような分類 基準を設定した。評価的応答:自分の価値基準でクライェントの悩みを評価しようとするもの。
解釈的応答:クライエントの心理や置かれている状況を推測し、その意味を教えようとするもの。
支持的応答:クライエントに安心感を与えたり、保証を与えたりするもの。指示的応答:クライ エントの悩みを早急に解決するための助言を与えようとするもの。探索的応答:もっと情報を得 よう、知ろうとするもので、質問がこれに含まれる。理解的応答:クライエントの述べた内容、
感情、考え方をフイ‑ドバックするもの。
分類は2人の評定者によって独立に行われた。 2人の分類の全分類に対する一致率は85.3%で あった。不一致であった分類については、合議によって最終的な分類を決定した。
結果と考察
分類は男女によって異なる傾向が見られなかったので、全体を込みにして分析した。表2は、
各刺激文に対する応答の実数と出現率を示したものである。ここでの実数は重複回答を含んでい るので応答全体の数は調査対象者数を1‑.回っている。この表で明らかなように、全体として評価 的応答がもっとも多く、次いで指示的応答が多かった。多くの応答者は、刺激文の悩みに対して、
"考え方が甘い′′、 "私はこんなことで悩まない〝、 "自分で解決できる′′ などの厳しい評価的応答 (個人的意見)を示している。指示的応答は刺激文2と4において多くなっている。刺激文2は クラブにおける問題であり、刺激文4は学業に関する問題であるが、ともに身近な問題で具体的 解決策を示しやすかったものと患われる。刺激文2では、指示的応答の他、解釈的応答もかなり 見られている。刺激文1では支持的応答が多くなっている。この刺激文は就職に関するもので、
表2 鳴沢の応答様式に基づく応答の頻度と割合 刺激文 評価 解釈 支持 指示 探索
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身近で、かつ情緒的側面が注目されたものと思われる。
本研究で得られた応答の記述の中から、それぞれの応答の特徴をもっともよく表わしていると 思われるいくつかの具体例を取り出し、さらに長さや表現を多少改めて、それぞれの応答の例文
を作成した。表3は、刺激文とともにこれらの応答文を示したものであるo その際、応答の分類 についても、従来のものとは多少異なる基準に改めた(表3)。従来の分類とわれわれの分類の 対応関係は表1に示されているとおりである。 、、解釈′′に関しては、クライエントが述べた内容 を"越えで′、新しい意味や、クライエントとは異なる視点を付加したものとした。これはHill (1986)にならったもので、従来の洞察的な解釈の定義とは若干異なるものである。このような 応答は、実際には研究1で得られた応答の中にはほとんど含まれていなかったが、技法習得の段 階がある程度進めば必ず扱わねばならない応答様式であり、理論的にも検討していく必要がある (claiborn, 1982 ; Spiegel, & Hill, 1989)と思われるのでこれを含めた。 "理解〟を"反映′′と したが、ここでは、いわゆる感情のみの反映ではなく、より広い、内容の反映、感情の反映、要 約などを含め、クライエントが述べた範閲を"越えない′′応答の意味で用いている。従って、こ れは一般的な意味での言い換えや反復と置き換えることもできよう。
研 究 2
本研究では、マイクロカウンセリングの技法訓練を通して、望ましいと考えられる応答がどの ように変化するかを検討した。先にTamase (1988)は、助産科の学生にカウンセリングの授業 の中で、カウンセリングの歴史と理論の講義(2時間)の後、質問技法(2時間)と感情の反映 技法(2時間)を訓練し、その習得状況を査定した。技法訓練の前後で2人1組の参加者の双方 に3分間ずつの面接を行わせたところ、事後テストにおいて、開かれた質問の使冊が有意に増加 したが、感情の反映は増加しなかった。このことは、質問技法の訓練よりも、感情の反映技法の 訓練の方が難しいことを示唆している。本研究では、研究1で作成された応答文を用いて、実際 にその技法が使えるようになったかどうかではなくて、参加者がどのような応答をより望ましい ものとして受け取っているかに焦点をあてて、技法訓練の前後における応答の望ましさの変化を 調べることにした。
方 法
参加者 看護専門学校助産科学生15名。平均年齢23.5歳、範囲21‑31歳。これらの参加者は、
看護学校の心理学の授業でわずかに講義を聞いている以外に、カウンセリングの実習経験はない。
測定材料 研究1で用いた5つの刺激文のそれぞれに対して、研究1で作成された6つの応 答文を用いた。これらの応答文をランダムな順序に並べ換え、それぞれの応答の望ましさについ て5段階で答えさせるようにした調査用紙を作成した。調査用紙の冒頭には、次のような教示が 書かれている。 "ここに悩みの相談にやって来たクライエントの悩みと、それに対するカウンセ
ラーの6つの応答が書いてあります。どの応答が正しいということはありませんが、あなたはカ ウンセラーの応答として、それぞれの応答がどの程度望ましいと思いますか。各応答について、
( )内に次の5段階の内、もっともあてはまる数字を書いて下さい。 "評定の段階は、、非常に望
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表3 研究1の結果に基づいて作成された応答様式の定義と応答文 応答様式の定義
1 支持:クライエントの立場を是認し、なぐさめたり、不安を和らげたりしようとするもの。
2 意見:クライエントの問題を自分の価値基準で判断し、意見を述べているもの。
3 解釈:クライエントが言ったことを越えて、解釈したり、新しい意味を付加するもの。
4 指示: 解決に導くための助言を与えるもの。具体的にどうすればよいかを示すもの。
5 質問:クライエントからさらに事実や情報を得ようとするもの.質問形式でないものも含む。
6 反映:クライエントが言った事実や感情を繰り返したり、言いかえたり、要約したりするもの.
刺激文と応答文
1. 最近、何をしても心から楽しいとは患えないのです。原因は、就職のことなんです。私は不安な んです。就職しても、ちゃんと働けるかどうか、厳しい社会の中で生き残っていけるかどうか、自 信がないのです。
(1)そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。まじめにやればきっとやっていけますよ。
(2)就職する前から悩んでいても仕方がありません。
(3)あなたには、まだ就職したくないという気持ちがあるのかもしれませんね.
(4)情報誌で情報を集めたり、先輩や友人に聞いてみなさい。
(5)就職について、具体的にどんなことを考えているのか話してくれませんか。
(6)就職のことが心配で、何をしても楽しくないんですね。
2. 野球部でキャプテンをやってきました。その責任上、人から、冷酷だ、倣億だと言われても、部 のために必死でやってきました。しかし、今誰も人がついてきません。全くの四面楚歌です。好き 好んでリーダーシップをとってきたわけではないのに もう、やりきれない気持ちでたまり migm
(1)気持ちは分かります。でもあなたならきっと最後までがんばれますよ。
(2)あなたのやり方に問題があるようです。厳しいだけではだめなんじゃないですか。
(3)あなたは苦労して自分をみがくことよりも、人に良く見てほしいという気持ちの方が強いのかも しれませんね。
(4)誰か=^でも部内に話せる人を見つけなさい。
(5)誰もついてこないというのはどういうことなのか具体的に話して下さい。
(6)キャプテンであなたとしては必死になってやってきたのに、誰もついてこないのですか.
3. 兄はとても優秀な人で、俗にいうエリートです。私はいつも兄と比較されます。もちろん、優秀 な兄には勝てるわけがありません。父や母は、私にはいつも冷たく、私はそれに耐え、言われるま
まにやってきました。でも、もう限界です。私は疲れてしまいました.
(1)あなたにもきっと良いところがあると思います。自信をもって頑張って下さい。
(2)兄さんは兄さん、あなたはあなたです。頑だけで人間の価値が決まるわけではありません。
(3)そんなに兄さんを意識するのは、兄さんに勝ちたいという気持ちがあなたにあるからです。
(4)一度、自分の思っていることを家族に話してみましょう。
(5)どんなことで兄さんと比較されるのか讃してくれませんか。
(6)いつも優秀な兄さんと比較されて耐えがたい気持ちなんですね。
4. 大学に入ったら、好きなことをしようと思っていました。しかし、現実は単位に追い回される毎 日です。もう耐えるのは苦痛です。こんな状態なので、だんだん勉蛍にも身が入らなくなって成鼓 も下がり始めています。
(1)よく分かります。でもそんなに成演を気にする必要はありませんよ。
(2)大学で好きなことをするというのは、勉強をした上でのことですから、少し考えが甘いようです ね。
(3)あなたは大学では好きなことをしたいという漠然とした目棲しかもたなかったために今の状況に 置かれているのです。
(4)スポーツやアルバイトなど、自分のやりたいことを何かひとつ見つけましょう.
(5)大学に入ったらどんなことをしたいと思っていたんですか。
(6)大学に入ったら思い通りにできると患ったら、実際は毎日単位に追い回されている‑.
5. 私は失敗することが怖いのです。たとえ些細なことでも、行動に移すとき、不安と緊張に包まれ ます。失敗した自分の姿を想像するだけで、恥ずかしくて涙が出そうになります。こうしてお話し ている今でも、私は失敗のことばかり考えて落ち着けません。
(1)失敗は誰もがするのだからそんなに心配しなくても大丈夫ですよ.
(2)失敗を怖がっていたら何もできません。失敗のことばかり考えすぎです。
(3)失敗がそんなに気になるのは自分を良く見せたいという気持ちが襲いからです.
(4)一番いいのは、失敗を恐れず、一度思い切って失敗してみることです。
(5)今までに実際にどんな失敗をしたのか話してくれませんか。
(6)失敗が怖くて、そのことばかり考えて何もできないんですね。
‑108‑
ましい′′ (5)、 "かなり望ましい′′ (4)、 "望ましい′′ (3)、 、、あまり望ましくない′′ (2)、 、、全く 望ましくない′′ (1)の5段階であった。
手続き カウンセラーの応答の望ましさの評定は、カウンセリングに関する授業におけるマ イクロ技法訓練の前後で行われた。表4はマイクロカウンセリングの授業内容と2回の評定が行 われた位置を示したものである。実習の内容として大きく取り上げているのは質問技法と感情の 反映技法である。われわれはこれらを6つの基本的傾聴の技法(最小限の励まし、開かれた質問、
閉ざされた質問、言い換え、感情の反映、および要約)の中ではもっとも重要なものと考えてい 表4 マイクロカウンセリングの授業内容と応答の望ましさの測定
第1日(3時間)
(1)授業全体についてのオリエンテ‑ション (2)第1回応答の望ましさの測定
(3)カウンセリングの歴史(講義) (4)カウンセリングの理論(講義)
(5)非言語的手がかり(手引書による解説)
(6)閉ざされた質問と開かれた質問(手引書による解説) 練習問題
第2日(3時間)
1 2種類の質問についてのまとめ
(2) 2人1鮭で質問の練習: 「最近のこと」について(テープに発音)
・各組より発表させ、 2種類の質問の数を調べ、訓練者よりフィードバック。
(3)質問技法モデルテ‑プ(アイビイ作、約3分)によるモデリング、コメント(2 回モデリング)
(4)最小限の励まし、言い換え(手引書による解説)
(5)訓練者が1人の参加者と面& (現実モデリング) : 「助産実習のこと」について (約5分) 、面接老および被面接者よりコメント、観察者よりフィードバック。
第3日(3時間)
(1)感情の反映、要約(手引書による解説)
(2)感情の反映技法モデルテープ(アイビイ作、約1 5分)によるモデリング (3)種々の例題(感情の反映と内容の反映の違いなど)による解説
(4) 2人1社1で感情の反映の練習: 「中学校時代のできごと」について(テ‑プに ォ*)
・各組より発表させ、感情の反映について訓練者よりフイ‑ドバック。
(5)看護場面における事例(資料について解説)
(6) 「助産実習で困ること、悩むこと」について例文作成
(7) 2人1鮭で、全技法を使用して面接(被面接者は自作の例文を使用) 0 訓練者によるコメント
(8)第2回応答の望ましさの測定 (9)全体のまとめ
‑109‑
る。
結果と考察
表5は、マイクロ技法訓練前後における応答の望ましさ評定の平均と標準偏差を示したもので ある。これらの値について、被験者内2要因の2 (訓練前後) ×6 (応答様式)の分散分析を行っ た。その結果、訓練前後の主効果は有意にならなかったが(F<1)、応答様式の主効果がF (5/70) ‑45i 、 p<.001、訓練前後と応答様式の交互作用がF (5/70) ‑5.45、 p<.01でそ れぞれ有意になった。応答様式の主効果は、反映(M‑4.96)と質閉(M‑3.96)の評定値がもっ とも高く、指示(M‑3.22)と支持(M‑2.74)が中位で(質問と指示の間で」‑3.93、 rf/‑70、
p<.01)、解釈(M‑2.13)と意曳(M‑1.96)の評定値がもっとも低い(支持と解釈の間でt‑
3.24、 df‑70、 p<.01)ことを示している。有意な交互作用については、反映において訓練 前(M‑3.67)よりも訓練後(M‑4.47)の方が評定値が高くなっている(」‑3.91、 rf/‑70、
p<.01)ことを示している。逆に、意見においては訓練前(M‑2.23)よりも訓練後(M‑1.68) の方が評定値が低くなっている(」‑2.69、 df‑70、 p‑COl)ことを示している。これらの結果 について以下に考察する。
訓練前における評定では、質問と反映はより望ましい応答として評定され、意見と解釈はより 望ましくない応答として評定された。とりわけ解釈は評定値がもっとも低かった。この段階での 評定は、参加者がカウンセリングについて全く実習を経験していない段階でのものである。しか
し、一般の大学生などに比べると、参加者は看護教育の中で、面接の基本的な心構えについてか なり身につけてきているものと恩われる。質問と反映がもっとも望ましい応答として捉えられて いることは、参加者の基本的態度がすでに形成されていることを示唆している。
訓練期間におけるマイクロカウンセリングの実習では、質問技法と感情の反映技法に焦点を当 てて訓練を行った。質問技法については、練習問題によって全ての参加者が完全に開かれた質問 と閉ざされた質問を正しく識別できるようにした後、練習を行わせ、 2種類の質問を使い分ける ことの難しさを体験させた.その後で、モデルテープを見せて実際の使い分け方を理解させた。
さらに再度参加者に練習をさせることが望ましいが、今回は質問に関する実習をここで終了した。
感情の反映技法については、手引き書による説明の後、まずモデルテープを見せ、その後で練習 を行わせた。さらに、参加者が自作したクライエントの問題(妊婦の訴え)について、基本的傾
表5 マイクロ技法訓練前後における応答の望ましさの評定
式 様 答 応
支持 意見 解釈 指示 質問 反映
L O o D r
‑ t O e O L O O O L C
C>3 O C‑3 0
〃 5 3
〃 5 3
前 後
・^
^^
^^ H^ 討 li ra
2.23 2.15 3.32 3.93 3.67 0.57 0.45 0.57 0.70 0.75 1.1 2.11 3.11 3.99 4.47 0.43 0.50 0.65 0.92 0.44
‑110
聴の全技法を応用するように教示して、数組の参加者に相互に面接を行わせた。残りの参加者に はそれを観察させた。
このような訓練の後で応答の望ましさについて第2回目の評定をさせたところ、反映について は訓練前よりも訓練後の方が評定値が高くなり、意見については訓練前よりも訓練後の方が評定 値が低くなった。反映については、訓練前から評定値が高かったが、訓練によってこのような応 答がより望ましいものであることを認識するようになったと言える。意見については次のように 考えられる。研究1で示されたように、カウンセリングについての知識が十分でない一般の人
(ここでは大学生)が悩みの相談に応じる場合、意見的(評価的)応答がもっとも多くなる。こ のことは、相手に対して、何か参考になる自分の考えを述べなければならないと考えてしまうか らだと思われる。本研究の参加者は、大学生とは異なり、初めから意見についての評定は低かっ たが、訓練によってさらにこのような応答については好ましくないと考えるようになったと言え る。
反映に次いで質問の評定値が高かったが、本研究の刺激文のような短い文章で悩みが提示され た場合、あいまいで不明な点が多いので、さらに相手に発言を促してより的確に相手を理解しよ うとすると考えるのが自然であろう。質問の応答例がいずれも開かれた質問の形式を用いている ので、望ましいものとみなされやすかったと考えられる。
最後に、解釈については、意見に次いで望ましくない応答とみなされているが、これについて ももっともな評定であるとみなされる。なぜなら、この応答はもともと意見と区別されにくいも のであり、われわれが意図している"クライエントが述べた内容を越えて新しい意味や視点を付 加する′′ ものとは受け取られていない可能性があるからである。解釈は、もともと精神力動的な 理論において、クライエントに洞察を得させるために必要なものと考えられてきたが、カウンセ リング領域では、クライエントの考え方とは異なる考え方や、異なる視点を提供するものとみな されるようになってきている(Claiborn, 1982 ; Spiegel, & Hill, 1989)c 実際にこの技法が使 用される数は、反映などに比べてはるかに少なくてよいと考えられるが(Hill, 1986, p.148)、
タイミングがよければ(Olson, & Claiborn, 1990)かなり有効な技法になると思われる。いず れにしても、解釈については、本研究のような簡便的な方法によらないより実際的な方法によっ て、さらに検討していく必要があろう。
結 論
本研究では、カウンセリングにおける6つの基本的な応答様式、すなわち支持、意見、解釈、
指示、質問、および反映を取り上げ、玉瀬・大塚・大谷(1990)によって作成された悩みの5つ の刺激文に対するそれぞれの応答文を作成した(研究1)。また、これらの応答文を用いて、助 産科の学生に対するマイクロ技法訓練前後における応答の望ましさの評定の変化を検討した。そ の結果、訓練後において反映的応答の評定はより高くなり、意見的応答の評定はより低くなった
(研究2)0
われわれの取り上げた応答様式は、あくまでも初心者を念頭においたものである。自己開示、
‑Ill‑
対決などのより高度な応答様式については取りLげていない。研究1で提案された応答様式の定 義および応答文は、初心者にカウンセリング技法を習得させる際に、さまざまな方法で用いるこ とができると思われる。例えば、個々の刺激文を提示して、自由に参加者に応答を考えさせた後、
応答文を提示して、各自の応答がどの応答に近いものであったかを検討させたり、また、個々の 応答例についてその長所や短所を説明し、どのような場合にどのような応答が適切であるかを論 じさせるなどである。それぞれの応答様式について説明し、いくつかの刺激文について応答例を 示した後、別の刺激文や参加者が自作した刺激文について、応答例を考えさせることも有意義で あろう。それぞれの応答文は極めて短いものであり、実際のカウンセリング場面における応答は 必ずしもこのようなものではないと言えよう。われわれの意図は、このような例文によって、そ れぞれの応答の差異を明確にし、基本的な違いがどこにあるのかを識別しうるようにすることで ある。
研究2は、実際のマイクロ訓練において、われわれが作成した応答文を使用した1つの例を示 したものである。今回の訓練は、質問技法と反映技法の習得に焦点が当てられた。とりわけ、反 映的応答の望ましさの評定が訓練後において高くなり、意見的応答の望ましさの評定が低くなっ たことは、マイクロ訓練の効果が見られたことを示唆している。ただし、この効果がTamase (1988)が試みたような実際の技法の使用頻度の変化にまで及ぶものであるかどうかは確かでは ない。また、今回得られた結果は、カウンセリングにおいて、常に反映的応答や質問的応答が望 ましいということを意味するものではない。用いられているすべての応答は、それぞれその使い 方の如何によって有効性が異なってくるものである。
今後の研究においては、本研究で提案した応答様式の定義および応答文を用いていくつかの問 題を検討することができると思われる。例えば、熱達したカウンセラーはこれらの応答様式をど のように受け止めているのか。実際のカウンセリング過程において、これらの応答はどのように 用いられているのか。タイミングや頻度はどうか。カウンセラーが望ましいと考える応答は、ク ライエントにも望ましいと受け止められているのか。これらの応答を与えられた時、クライエン トはどの程度それに満足し、あるいは役立ったと思うのか。刺激文をどのように捉えたかによっ て、応答はどの程度異なってくるのかなどの問題である。これらの点について今後の研究で明ら かにしていく必要があろう。
付記:研究1の資料収集と整理にあたり、心理学専攻生三好義則君、木村美奈さんの協力を得ま した。記して感謝の意を表します。
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