■研究会再録
中 国 の 対 外 政 策 形 成 に 関 与 す る 国 内 要 素
時段弘このような場で皆様と討論し交流する機会が持てましたこ
とを︑大変光栄に存じますし︑愛知大学現代中国学部や加々
美教授︑砂山教授に非常に感謝しております︒実際のところ
私は︑愛知大学大学院中国研究科での授業において直接的に︑
また間接的に日本の各教員方︑学生諸君から多くのことを学
ぶことが出来ました︒これは非常にありがたいことだと感じ
ております︒
本日︑私は私たちがみな関心をもち︑また世界にとっても
重要な問題︑すなわち中国の対外政策の形成に関与する国内
要因についてお話ししようと思います︒ここでお話しするの
は︑私自身の中国における観察と思考の経験にもとついて︑
中国の対外政策の形成に関与する国内要因を分析したもの
で︑比較的系統的かつ抽象的な分析です︒この成果として一
つの認識枠組み︑つまり広義の国内政治という背景の下で︑ この研究会は︑二〇〇四年七月三日︑愛知大学車道キャンパスにおいて︑愛知大学COEプログラム﹁国際中国学研究センター﹂(ICC
S)の研究会活動の一環として行われたものである︒報告者の時股弘氏は二〇〇二年末から翌年にかけて日中両国の論壇を賑わした対日﹁新思考﹂論の主唱者の一人であるが︑もともと中国におけるアメリカ外交史︑国際政治史研究の中心人物の一人として知られていた︒I
CCSは同氏を大学院中国研究科博士課程における中国外交論の講義担当者として二〇〇四年四月から四か月間招聰した︒﹃中国21﹄物.
21には︑氏の論文﹁中国大陸の台湾戦略の有効性と方向﹂が掲載されている︒研究会で時氏は︑最近の中国外交の影響を及ぼしている国内
の様々な要因を整理し︑一般化して論じている︒これ自体︑かなり貴重な内容であるが︑さらに︑これを対日﹁新思考﹂論をめぐる論議の
背景として理解すれば︑各所に興味深い指摘を見出すことができるように思われる︒なお︑時氏の報告に続いて活発な討論が行われたが︑
ここでは紙幅の関係から討論のかなりの部分を割愛せざるをえなかった︒また時氏の英語の語句を多用する発言スタイルは︑研究会の
雰囲気を残す意味もあり︑適宜英文のまま記すことにした︒(編集部)
中国の対外政 策形成 に関与 する国内要素
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中国対外政策を観察し理解する上での︑特に鄙小平から江沢民
を経て胡錦涛現政権に至る対外政策の変化を観察し理解する上
での認識枠組みを提示することができます︒
この枠組みには︑四セットの要素を考慮する必要があると思
います︒あらかじめお断りしておかねばなりませんが︑最も重
要な要素についてはお話ししません︒最も重要な要素とは何で
しょうか︒それは︑中国が改革開放政策を始めて以来ここ二十
数年間の︑中国の基本的な経済変化︑社会変化︑政治思想・文
化の変化です︒これらは最も重要な要素のセットです︒こうし
た変化により中国と国際社会との関係は変容し︑中国と西側諸
国︑近隣諸国との関係︑並びに諸関係上の多くの事柄も多方面
にわたり姿を変えました︒改革開放以来の中国国内の各領域の
変化については︑加々美先生や砂山先生の方がご専門の研究を なさっていて︑私よりも深くご理解されていることでしょう︒
このようにお断りした上で︑主に四セットの要素についてお話
し申し上げます︒第一セットの要素は︑中国の最高指導者層の
特徴です︒第ニセットは︑彼らの共通認識と意見の分裂です︒
第三セットは︑いわゆる官僚機構を含む中国政府のさまざまな
部門が対外政策に与える影響です︒最後に︑エリートの世論や
大衆世論を含めた︑半官製および非官製のメディアです︒
最高指導者層の特徴
まず第一セットの要素群である中国の最高指導者層の諸特徴
についてお話ししましょう︒この要素のなかでも︑私が特に強
調したいことは以下のいくつかの点です︒第一にイデオロギー
です︒二点目に︑彼らが圧倒的な歴史経験や体験を有している
ことです︒三点目としては︑最高指導者個人の特質です︒イデ
オロギーに関して私が強調したいのは︑中国指導層のイデオロ
ギーは内容が複雑であるということです︒思うに︑西側の多く
の研究者たちは︑現代中国の最高指導者のイデオロギーを︑い
とも簡単にマルクス主義︑マルクス・レーニン主義︑もしくは
毛沢東思想に帰結させてしまうようです︒しかしその実︑彼ら
のイデオロギーは非常に複雑です︒このきわめて複雑なイデオ
ロギーとは︑何を意味するのでしょうか︒それはイデオロギー
に内在する緊張であり︑イデオロギーのさまざまな構成要素の
間の矛盾を意味しているのです︒
中国最高指導層のイデオロギーの複雑さには少なくとも四つ
の要素を含みます︒一つ目は︑最もよく議論されるものですが︑
伝統的な共産党のイデオロギーであり︑対外政策から言うとマ
ルクス・レーニン主義および毛沢東思想の基本的な国際政治の
パースペクティブや国際政治観です︒それがある種の信条とし
てか︑世界を考察する手段としてであるかに関わらず︑この要
素は潜在的かつ重要なものです︒もう毛沢東時代ほどの重要性
はなくなり︑今では潜在的なものになったとはいえ︑依然とし
て重要です︒特に中国の置かれた国際環境が重大な危機に陥っ
たならば︑例えば一九九九年の米国による中国大使館爆撃事件︑
このような場合に中国の最高指導者層や多くのエリートらは︑
自然に自己の心理から元来の伝統的イデオロギーを持ち出し︑
自覚的であるか否かにかかわらず米国の動機を分析するでしょ
う︒伝統的イデオロギーであるマルクス・レーニン主義の国際
政治観は︑中国の最高指導者層の認識にとって有利にも不利に
も作用しました︒有利な点とは︑多くの場合マルクス・レーニ
ン主義の国際政治観が非常にはっきりしていることで︑不利な
点は︑それがしばしばあまりに単純化されていることです︒
中国最高指導層のイデオロギーを構成する第二の要素とは︑
中国の政治言説で言えぼ中国愛国主義︑国際的な常用語によれ
ばChinesenationalism︑中国民族主義です︒これは非常に重要な
もので︑事実︑一九二〇年代に中国共産党が設立されたときに
すでに重要なものになっています︒マルクス主義が中国共産党
にもたらした重要性は︑ある面︑民族主義が中国共産党にもた
らした重要性ほどのものではありませんでした︒毛沢東から郡 小平を経て今日の最高指導者たちにいたるまで︑この点におけ
る彼らの目的は不変かつ共通するものです︒この不変かつ共通
する目的とは︑西側の用語を用いるならば︑〇三ロo︒︒oづ註8巴
greatness︑つまり中国の民族的偉大さの達成と呼べましょう︒し
かし︑現在の私たちの観察から見てさらに重要なことは︑〇三器・︒①
nationalgreatnessという目的は同じですが︑しかし毛沢東から現
在の指導者たちまで︑どのような方法をもってこの目標を実現
するか︑どのような道を行くか︑どのような手段を用いるか︑
これらは特に毛沢東から郵小平までの期間に非常に大きな変化
を見せました︒同時に︑目的に関しても全く変化がなかったわ
けではありません︒目的は$●QnationalgreatnessQ追求であ
りますが︑追求の巨oロ︒︒芽︑その強さに変化が生じてきました︒
総じて言えば︑郡小平から現在に到る間︑その強さは減少して
きたと言えるでしょう︒終始心を離れることなきOま器・︒︒
nationalgreatnessへの思いの強烈さ︑切迫度は下降してきている
と考えます︒ただしそこには重大な例外があります︒何が重大
な例外なのか︒それは'$QQnationalgreafiessを追求すると
いう目的が台湾問題や中国辺境の領土保全の問題にある時︑そ
の程度は現在も過去と同様に強烈で︑同様に非妥協的になるこ
とです︒
中国指導者のnationalismに関してですが︑この点については
ある著名な米国の中国系研究者彼は中国で生まれ米国で教
授となった方ですが彼の論文のある分析を引用したいと思
います︒それによりますと︑中国の民族主義について議論する