二重大学教育学部研究紀要 第 57巻 教 育科学 (2006)121‑133頁
大学生のクリティカルシンキング志 向性 と大学生活経験
廣岡 秀 一 D・横矢 規2).中西 良 文 D
Relationships between 'othe Orientation toward Critical Thinking" and ooDaily Experiencestt among tJniversity Students.
Shuichi Hrnoora. Tadasu Yorovl and Yoshifurni NlxANIsHr
本研究 は、大学でのク リティカルシンキ ング (以下 ク リシン)教 育 の可能性 として、大学生 のク リシン志向 性の発達 の個人差 に着 目し、 クリシン志向性 と関連す る大学生活経験 との関連性を分析す ることを目的 とした ものである。 クリシン志向性 は、「socialクリシン志向性」 と 「non socialクリシン志向性」の 2種 の ク リシン 志向性尺度を用 いて測定 された。卒業を目前 とした大学 4年 生を対象に質問紙調査を行 った結果、大学生活経 験 とク リシン志向性 との関係か ら、「議論」 を多 く経験 している学生 ほどク リシン志向性が高 い ことが明 らか にな った。また、文系学部 と理系学部別 に大学生活経験 とク リシン志向性 との関係を検討 したところ、文系 と 理系では経験 しやすい出来事に差異が認め られ、 さらに、大学生活での経験の種 とクリシン志向性 との関連性 について も、文系 と理系でかなり異なる結果を示 した。 さらに、大学生活の中でクリシンを意識す るきっかけ とな った出来事を自由記述で回答を求めたところ、socialクリシンでは 「議論」、「人 との関 わ り」、 nOn social ク リシンでは 「卒業論文」、「マスメデ ィア」、「レポー ト」 といった出来事が多 く回答 されていた。
Key words:ク リティカルシンキ ング志向性、大学生活経験、議論
﹄日
要
I . 問 題 と 目的
「ク リティカルシンキ ング (critical thinking:以下 クリシン)」とは、「適切な基準や根拠 に基づ論理的で 偏 りのない思考、および、 自分の推論過程を意識的に 吟味す る再帰的な (re■ective)な思考を伴 ったメタな 認知を含む思考」を指す (廣岡 ・小川 ・元吉,2000;
廣岡 ・元吉 ・小川 ・斎藤,2001;廣 岡 ・中西 ・横矢 ・ 後藤 ・福田,2005)。 ク リシンはアメ リカ教育、 特 に 高等教育 においては最 も重要な教育 目標の一つ とみな されてお り (Kuriss,1988)、50年近い教育 ・研究 の 歴史がある。
ところで心理学や医学のような確率論的な経験科学が 大学教育におけるクリシンの発達に大いに貢献する可能 性が十分に期待できるという主張がある (宮元,2000 など)。また、学習者を良き思考者や市民 に育てるため
に、 クリシンを教えることが必要 だ とす る楠 見 (1996) のような意見 もある。 実 際 に、 Lchman,Lempert,&
Nisbett(1988)は調査研究を行 い、 心 理 学 や医学 のよ うな確率論的な科学 は、科学的な問題だけではなく、 日 常 的な問題 に対 しても統計 的原 理 や方 法 論 的原 則 を正
しく適用する能力を高めることを見 いだ してもいる。
で は、大学生 が 「よ リク リテ ィカルに思考す ること」
がで きるよ うにな るための教育 的活動 と して、現在 の 日本 の高等教育 ・大学教育 はどの程度貢献 してい るの で あろ うか。 こうい った問題意識 の基 に、一連のク リ
シ ンに関す るわれわれの研究 は、論理的で誤 りの少 な い合理 的な処理、加 えて、 自分 の推論過程 を意識的 に 吟味す る再帰 的 (re■ective)な思考 を促進 させ る諸要 因 を探究 す る事 を 目的 と して い る。
ところで道 田 (2000)は 、特 に米国の大学教育 にお け るク リシ ンの効果 につ いて実証 的 に検討 した論文 を
1)二 重大学教育学部 mailtoshuhi■[email protected]―u.ac.jp 2)鈴 鹿市立石薬師小学校
一‑121‑―
T a b l e 2 s o c i a l t t ) i 2 L n o n s o c i a l
non social 2 t) V Y
廣 岡 秀 一 ・横矢 規 ・中西 良 文
丁able 8 ク リシン志 向性 と大学生活経験 の相関 (全体) 大 学 生 活 経 験 ク リシン志向性
〈social〉
人間多様性理解 他者に対す る真正性
論理的な理解 柔 軟 性 脱 直 感 脱 軽 信
〈non social〉
探 求 心 証拠の重視 不 偏 性 決 断 力 脱 軽 信
ァィスカッション 子│])」̀
。352** .245**
。256** 。 146*
。224** .138 .105 .009 .225** .066 .058 .071
他 者 か ら の 指 摘
。204**
.164*
.009 .039
。169*
―.039
他 者 か ら の 影 響
。194**
。116 . 100 .087 .147*
.087
.163*
―.004 .222**
.044 . 170*
.247**
.180*
.198**
. 1 8 1 * . 1 3 7 . 1 0 1
教 育 実 習 ( N = 8 2 )
.118
‑.038
‑.152 .203 .252*
.045
自己学習 課 外活動
. 2 9 8 * * . 0 8 7 . 3 7 5 * * .191**
。 166*
.076 . 145*
.295**
.025 .230**
.180* .139 .030 ‑.018
。148* 。 124
。152* .068 .055 .033
.255** .005 .063 .031 .239** 。 209
。250** .014 .012 .013
ポp<.05 **p<.01
Table 9 ク リシン志 向性 と大学生活経験 の相関 (文系) 大 学 生 活 経 験 ク リシン志向性
〈social〉
人間多様性理解 他者 に対する真正性
論理的な理解 柔 軟 性 脱 直 感 脱 軽 信
〈non social〉
探 求 心 証拠 の重視 不 偏 性 決 断 力 脱 軽 信
ディスカッション子│]):̀ 讐鷲ゝ 島
。316** .133 .274**
。476** 。 353** .386**
.275** .273** .140 . 181 .123 .118 .396** 。 193 .344**
.173 .194 .201*
.189 。 105 .289** .039
。353** .335**
.262* .144
。344** .251*
自己学習 課 外活動
.103 .239*
。207*
.235*
。200 .092
.081 .178 .120 .072 .296** .167 .085 .190 .332** .123 他 者 か ら
の 影 響
。192 .225*
.143 . 173 .257*
。 123
.149 .029 .265**
。1 1 9 . 2 7 6 * *
。308**
.130 .488**
。280**
.367**
*p<.05 **p<.01
丁able10 ク リシン志 向性 と大学生活経験 の相関 (理系) 大 学 生 活 経 験 ク リシン志向性
〈social〉
人間多様性理解 他者 に対す る真正性
論理的な理解 柔 軟 性 脱 直 感 脱 軽 信
〈non social〉
探 求 心 証拠の重視 不 偏 性 決 断 力 脱 軽 信
ディスカッション子│])」多 瞥:iζゝ 亀
。358** .258* 。 115 .050 .090 .002 .205* .113 ‑.091 .026 ‑.098 ‑.032 .061 ‑.021 .031
‑.006 .105 ‑.185
瞥 凩夢 蜀 自 己 学 習 課 外 活 動
。199 .281** .297**
.010 .137 .206*
.060 。 222* .250*
.020 .018 . 142 .057 .084 .100 .060 . 166 .176
。280**
.065
。277**
。1 1 8 .054
。166
‑。 128 . 0 1 7 . 1 1 0
‑ . 0 1 0
。154
‑.047
‑.045 .016
‑.068
。1 7 5
‑ . 0 3 1 . 1 8 8
‑ , 0 1 7 .095
.058
。187 .303**
―.025
。199
‑128‑
*p(. os
大学生のク リティカルシンキ ング志向性 と大学生活経験
力 を持 つ もの にな る可能性 は高 い。 しか しまた一方で、
こういった自己管理 的な学習 を効果的 に進 めてい くた めには、 よ り豊かな ク リシン志 向性 を備 えて いること が前提条件 になる可育旨性も同時に指摘 で きる。そ ういっ た相互影響 的な関係 の存在、 もしくはそ うい った相互 影響 的 な効果 が何 を条件 に生 じて くるのか につ いて、
その メカニズムを探 ることがで きる縦断的なデー タを 収集 し、時系列 的な検討 を してみ る価値 は大 いにあ る
と考 え られ る。
5.ク リシン志向性 と関連がある授業 とは
大学 の授業 において、 どのよ うな授業 をす ることが 学生 の ク リシ ン志 向性 を刺激す るのか につ いて検討 す るために、「考 え させ られ る授業」、 「ゼ ミな どの少 人 数課題探求型 の授業」、「実習 を と もな う授業」 とク リ
シ ン志向性 の各 下位 尺度 につ いて相 関分析 を行 った (Table H、Table 12)。その結果、「人 間多様 性 理 解 」 は 「考 え させ られ る授業」 と 「ゼ ミなどの少人数課題 探求型 の授業」 との間で有意 な正 の相関がみ られた。
「脱直感」 は 「考 え させ られ る授業」 との間 で正 の相 関がみ られ た。「不偏性」 は 「考 え させ られ る授業」、
「ゼ ミな どの少人数課題探求型 の授 業」 との間 に有 意 な正 の相関がみ られた。
これ らの結果か ら、考 え させ られ る授業 やゼ ミなど の少人数課題探求型 の授業 を受 けることが、人 間多様 性理解 や脱直感、不偏性 とい った志 向性 を高 める可能 性 が高 い ことが明 らか にな った。 この結果 は、大学生 活経験 でのデ ィスカ ッションやアカデ ミックアサーシ ョ
ンが これ らの志向性 と正 の相関があ った こととも一致 して い る。考 え させ られ る授業 やゼ ミな どの少人数課 題探求型授業で は、 デ ィスカ ッシ ョンや アカデ ミック
アサー シ ョンが行 われやす い状況 だ と考 え られ るが、
特 に、少人数 のゼ ミではディスカ ッションやアカデ ミッ ク ・アサ ー シ ョンが行 われやす い状況 であ り、 ゼ ミで これ らの経験 をす ることが、人間多様性理解や脱直感、
不偏性 どい った志 向性 を高 めていることが示 されてい ると解釈 す ることが可能 であ る。
文系学部 の学生 は、考 え させ られ る授業 やゼ ミな ど の少人数課題探求型 の授業 を多 く経験すればす るほど ク リシ ン志 向性 が高 まって いることがわか る。 また、
その よ うな授業 の中でデ ィスカ ッシ ョンや アカデ ミッ ク ・アサー シ ョンを経験す ることで ク リシン志向性 を 高 めて い る こと も示 されている。一方、理系学部 の学 生 は、 どの授業形態 とク リシ ン志 向性 とも関係がみ ら れず、授業 が ク リシ ン志 向性 を高 め る結果 とはな って いない。 それ は、大学生活経験 の課外活動 が ク リシン 志 向性 と最 も関係 して いることか らもわかる。つまり、
理系学生 の ク リシン志 向性 は、授業 よ りも課外活動 に よ って影響 を受 けてい る可能性 を指摘す ることがで き る。
ただ し、 こうい った結果が析 出 された一つの可能性 と して、本調査で用意 された大学生活経験 の項 目が、
理系学部 の特徴 にマ ッチ して いなか った とも考 え られ る。 しか し、学部 による特徴 の違 いが明確 に現 れ る結 果 とな って い る ことは確 かで あ り、大学授業 とク リシ ン志 向性 の関連 を分析す る上で も、 よ り効果的な大学 教育 を考 えてい くために も、理系学部 の特徴 を補完 し た生活経験尺度 にバ ー ジ ョンア ップ して い くな ど、 い ずれ に して も今後 の最重要検討課題 とな る問題で あろ
う。
Tablell ク リシン志 向性 と授業形態 の相関 (全体) 授 業 形 態 ク リシン志向性
〈social〉
人間多様性理解 他者 に対す る真正性
論理的な理解 柔 軟 性 脱 直 感 脱 軽 信
〈non social〉
探 求 心 証拠の重視 不 偏 性 決 断 力 脱 軽 信
考 え さ せ られ る授 業
.203**
。120 .049 .137 .166*
.022
.151*
.055
。2 1 5 * * .028 .087
ゼ ミな ど の 少 人 数 授 業
.167*
.070 ,057 .033 .105
‑.028
.049 .051 .199**
.054 .021
実 習 を と も な う 授 業
. 0 7 9 . 0 5 7
‑ . 0 1 3 .051 .120 .021
.048 .079 .071 .008 .085
一‑129‑―
*p<.05 **p<.01
2 7 ( 1 8 . 5 ) 2 6 ( 1 7 . 8 ) 2 3 ( 1 5 . B ) 2 2 ( 1 5 . 1 ) 1 e ( 1 3 . 0 ) 1 9 l 7 ( l 1 . 6 )
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