浅い湖沼における吹送風が湖沼内環境に与える影響
A Study on the Effect of Wind to Shallow Lakes and Marshes
土木工学専攻 19 号 越田翔子 KOSHIDA Shouko
図-1 高崎川(高岡橋地点)における全窒素、
溶存態窒素,懸濁態窒素の実測濃度の時系列
0 20 40
0 2 4 6 8
0 1 2 3 0
10
20 高崎川流域(77.9km2)
時間〔h〕
全窒素・溶存態窒素・懸濁態窒素濃度〔mg/l〕 流出高〔mm/h〕 降雨強度〔mm/h〕
(2005.7.25〜7.28)
総降雨量:77mm
:流出高
:全窒素濃度
:溶存態窒素濃度
:懸濁態窒素濃度
手繰川(無名橋地点)における全リン、
リン,懸濁態リンの実測濃度の時系列 図-2
溶存態
0 20 40 60
0 0.2 0.4 0.6
0 0.5 1 1.5
0
5
10 手繰川流域(16.7km2)
全リン・溶存態リン・懸濁態リン濃度〔mg/l〕 流出高〔mm/h〕 降雨強度〔mm/h〕
時間〔h〕
(2003.9.20〜9.22)
総降雨量:98mm
:流出高
:全リン濃度
:溶存態リン濃度
:懸濁態リン濃度
0 10 20 30
0 10 20 30 40
50 20
15 10 5 0 高崎川流域(77.9km2)
時間〔h〕
COD濃度〔mg/l〕 降雨強度〔mm/h〕
(2002.7.16〜7.17) 総降雨量:42mm
実測濃度 計算濃度 計算濃度
:河道末端での
:斜面末端での
:河道末端での
図-3 高崎川流域(77.9km2)における出水時の COD濃度の変化
3
4 2
1.はじめに
湖沼は上水道水源,漁業,レジャースポーツ等の場として人々の生活に 重要な役割を果たしている.このような場所で富栄養化が起こればアオコ の発生や貧酸素化が起こり人々の生活に悪影響を与える.富栄養化の原因 として底泥からの栄養塩の溶出等の内部生産,流域から流入してくる外部 流入が挙げられる.著者らは湖沼の水質汚濁原因の解明及び浄化手法の提 案を目指す.具体的には降雨時に流域から面的に発生する窒素, リン等の汚 濁負荷物質の流出特性について明らかにする. また,湖盆形状の違いが湖沼 内流動に及ぼす影響を明らかにするため印旛沼における 2 次元不定流解析 及び水深差を有する浅い湖沼を想定した仮想プールにおける風洞実験,再 現計算を行い考察した.
2.印旛沼流域概要
千葉県の北部に位置する印旛沼(11.55 km
2)図-1 は総流域面積が約 541.1km
2あり, COD濃度でみると全国の湖沼の中でワースト 1(平成 19 年度,
出典:環境省公共用水域水質測定結果)である.印旛沼の水は上水道水源,
農業・工業用水として人々の生活に広く利用されている.また,印旛沼は 西沼と北沼に分かれ,捷水路で繋がっている.西沼へ流入する主な河川は 鹿島川,高崎川,手繰川,神崎川,桑納川,師戸川であり.北沼へは江川 が流入している.また,利根川と北沼を結ぶ長門川があり,平水時は印旛 沼の水位が利根川より高く自然流下し長門川を通り利根川に放水するが,
渇水等で印旛沼が維持管理水位を下回った場合は利水用の水を確保するた めに利根川から長門川を通し酒直揚水機場で利根川の水を汲み上げ,印旛 沼へ導水する.
3.水質ハイドログラフの特徴及び斜 面・河道部における水質ハイドログラ フの予測
高崎川流域 手繰川流域
北印旛沼
西印旛沼 場所:千葉県北西部
全流域面積:約490km2(11市2町2村) 湖面積:約11.6km2
湛水量:約2770万m3 平均水深:1.7m
図-1 印旛沼流域概要 印旛沼流域にある異なる土地利用形
態の高崎川流域(山地流域)・手繰川流 域(都市流域)における出水を溶存態・
懸濁態ごとに水質ハドログラフに示し,
比較を行った.高崎川流域における実
測の降雨強度,流出高,窒素濃度を図-2
に示す,全窒素濃度は降雨開始後上昇
し,降雨強度ピーク直前で初期濃度付
北印旛沼
西印旛沼
上水道取水口下
印旛沼捷水路 至 利根川
手繰川 桑納・神崎川
鹿島・高崎川 江川 北印旛沼
西印旛沼
上水道取水口下
印旛沼捷水路 至 利根川
手繰川 桑納・神崎川
鹿島・高崎川 江川
:
取水口(16箇所):流入河川
:方向・流速
:
取水口(16箇所):流入河川
:方向・流速
風速 5m/s
北印旛沼
西印旛沼
上水道取水口下
印旛沼捷水路 至 利根川
手繰川 桑納・神崎川
鹿島・高崎川 江川 北印旛沼
西印旛沼
上水道取水口下
印旛沼捷水路 至 利根川
手繰川 桑納・神崎川
鹿島・高崎川 江川
:
取水口(16箇所):流入河川
:方向・流速
:
取水口(16箇所):流入河川
:方向・流速
風速 5m/s
図-5 印旛沼における湖沼内流動(風速 0m/s) 図-6 印旛沼における湖沼内流動(風速 5m/s)
近まで下がり,降雨強度ピーク時には再び上昇し,濃度ピークを示した.溶存態窒素の初期濃度は全窒素の初期濃度 とほぼ等しい,降雨強度ピーク直前から下降し,流出高ピークを過ぎた当たりで最低値を示した.懸濁態窒素濃度は 降雨強度ピーク時に懸濁態窒素濃度もピークを示し,その後は下降した. 出水時に上昇する濃度は懸濁態がほとん どを占めているが,溶存態の濃度が降雨に伴い希釈されていることがわかる.手繰川流域における実測の降雨強度, 流出高,リン濃度を図-3 に示す.全リン濃度は降雨開始直後に大きい値を示したが,その後はすぐに元の初期濃度に 収束した.溶存態リンの初期濃度は全リンの初期濃度とほぼ等しい.降雨開始直後少し上昇したが,その後は初期濃 度よりも低い値を示した.懸濁態リン濃度は降雨開始直後に上昇し,その後は下降した.降雨開始直後に全リン濃度 が上昇したのは手繰川流域が都市流域であるために,降雨が地中にあまり浸透せずに流れ,ファーストフラッシュ現 象を表現するものである.
高崎川流域における出水時の COD 濃度の変化の実測値,計算値を 図-4 に示す.降雨強度及び河道末端で観測され た COD 濃度,流量から発生項としての巻き上げられた析出量を逆推定により求め,斜面末端及び河道末端での水質 ハイドログラフの予測を行ったものである.
降雨に伴って面源から発生する汚濁物質の流出特性について述べてきた.次章からこれらが湖沼へ流入した際に どのような挙動を示すかについて,湖盆形状が吹送流の流動に与える影響について述べる.
4.湖盆形状が湖沼内流動に及ぼす影響 4.1 印旛沼における 2 次元不定流解析
2 次元不定流解析手法として,連続式及び x,y 方向の 2 次元不定流基礎式を水位及び x , y 方向の単位幅流量につ いて差分し,陰解法を用いた.計算条件として実測の印旛沼の水深データ,年平均化した流出入河川流量及び取水 量のデータを基に数値解析を行った.
解析結果として 図-5 に印旛沼における各地で取水を行った場合の沼内流動(風速 0m/s)を示す.図-5 より鹿島 川・高崎川からの流れは南側の上水道取水口へ引き寄せられ北側は北印旛沼へ向かう.また,平均的な流速は約 0.004m/s である. 図-6 に印旛沼における各地で取水を行った場合の沼内流動(北東の風,風速 5m/s)を示す.図 -6 より沼内での流動は 図-5 の無風状態と比べ大きく変化しており流速も全体的に速くなっている. 平均的な流速は 約 0.03m/s である. 無風時と風速 5m/s 時の湖沼内の平均流速を比較すると約 8 倍の差で風速を与えたほうが流速が でることがわかり,このことから風速・風向が湖沼内流動に及ぼす影響は大きいといえる.
4.2 流出入のない水路における風洞実験 4.2.1 実験概要
著者らは, 水を貯めた水路の上空に風が流れる風洞施設(写真−1 )にて実験を行い, 風速を熱線式電磁風速計(FUSO
製)にて計測した.また,水素気泡発生装置(KENEK 製)にて水路内の流動を可視化し,撮影した.
WIND 水路
写真-1 実験施設外観 実験を行った風洞は全長 8.0m,幅 0.3m,高さ
0.3mである. 風洞の真下に全長 8.0m, 幅 0.3m,
高さ 0.3m,水路床勾配 0 の直線水路がある.風 上側最上部から風下 4.0mと 6.0m地点に遮壁を 入れ水の流出入を止め,高さ 10cm のコンクリート ブロックと厚さ 2cm の塩ビ板を設置し,底上げし た水路内で実験を行った.熱線式電磁風速計は風 上側から 7.8m,水面 0.1m上空の風を観測した.
ここで,風上側をX側,風下側をXʼ側,風下方向 に向かい左側を Y 側,右側を Yʼ側と定義する.
2.0m の水路内を Y 側が水深 7.0cm,Yʼ水深 2.0cm になるよう水深差をつけるため図-7 に示す横断 面形状になるように河床材料を設置し水を張った.
実験では A 断面から E 断面の方向へ平均約 5m/s の風を時空間的に一様に与え,風を吹かせた 10 分後より観測を行った.水路 2.0m の風上側から 0.2m,0.6m,1.0m,1.4m,1.8m をそれぞれ A 断面,B 断面,C断面,D断面,E断面とし,各断面での流況及 び流速を計測するため,水素気泡発生器で河床か ら 1cm 上で水素を発生させ,ビデオカメラで撮影 した.
4.2.2 実験結果と数値解析の比較
風洞実験における流動を再現するために 2 次元 不定流及び連続式を用いて 2 次元不定流計算を行 った.仮想プール形状は実験と同様に与えた.時 間差分間隔を 1 秒,空間差分間隔 ⊿x, ⊿y を 0.01m
とした.風向は A 断面から E 断面の方向へ毎秒 5m の風を時空間的に一様に与えた.
0.4m 0.4m 0.4m
0.4m 0.2m
0.2m
2.0m
A断面 B断面 C断面 D断面 E断面
5cm 7cm2cm A〜E断面 横断面形状
縦断面形状 風速5m/s
8.0m
4.0m
2.0m 2.0m
0.3m0.3m
WIND
水路
風速計 風洞
赤線部詳細
風速5m/s 風速5m/s 立体形状
X X’
X X’
Y Y’
Y’
Y X’
X
図‐7 風洞実験施設概要
図-8 に再現計算として風速 5 m/s を与えた 10 分後の流速及び水深コンターを示す.流況は実験,再現計算共に, 横断面形状の水深が相対的に浅い場所,Yʼ側では風向きと順ずる方向へ,Y 側の深い場所では風向きと逆方向への 流れが生じた.風下側境界付近では水深の浅い場所で風向きと順ずる方向への流れが風下まで到達すると水深の深 い方へ流れ風向きと逆方向へ循環する.一方, 風上側境界付近では水深の深い場所で風向きと逆方向への流れが風 上まで到達すると水深の浅い方へ流れ風向きと順ずる方向へ循環する. 流速については,一様に A から E 断面方向へ 風速 5m/s を与えた場合の実測値と再現計算の流速分布を 図‐9 に示す.A 断面では流下方向の境は実験値と再現計 算でほとんど一致しているものの,流速が再現計算に比べ実測値の方が小さい.B 断面では流下方向の境は実験値が
0 . 0 0 . 2 0 . 4 0 . 6 0 . 8 1 . 0 1 . 2 1 . 4 1 . 6 1 . 8 2 . 0
0 . 0 0 0 . 1 0 0 . 2 0 0 . 3 0
M z R e s u l t V i e w 1
0 1 / 0 1 / 9 0 0 0 : 1 0 : 0 0 , T i m e s t e p 6 0 0 o f 8 9 9
H W a t e r D e p t h m [ m ] A b o v e 0 . 0 6
0 . 0 5 - 0 . 0 6 0 . 0 4 - 0 . 0 5 0 . 0 3 - 0 . 0 4 0 . 0 2 - 0 . 0 3 0 . 0 1 - 0 . 0 2 B e l o w 0 . 0 1 U n d e f i n e d V a l u e 0 . 1
0 . 0 0 . 2 0 . 4 0 . 6 0 . 8 1 . 0 1 . 2 1 . 4 1 . 6 1 . 8 2 . 0
0 . 0 0 0 . 1 0 0 . 2 0 0 . 3 0
M z R e s u l t V i e w 1
X’ X Y Y’
図‐8 風速 5m/s を与えた 10 分後の流速及び水深コンター
水深の深い Y 側からおよそ 14.5cm であるのに対し,再 現計算ではおよそ 12.0cm であった.流速が再現計算 よりも実測値の方が小さい ものの定性的には一致して いる.C 断面では流下方向 の境は実験値が水深の深い Y側からおよそ14.5cmであ るのに対し,再現計算では およそ 12.0cm であった. ま た, 流速は実測値と再現計 算でほぼ一致している.し かし, 水深の深い Y 側の壁 面付近での流速は実測値の 絶対値より大きい値を示し た.D 断面では流下方向の 境は実験値が水深の深い Y 側からおよそ 17.5cm であ るのに対し,再現計算では
およそ 11.0cm であった.また,流速は実測値を再現計算で定性的には良好に表現できている.しかし,水深の深い Y 側の壁面付近での流速は実測値の絶対値より大きい値を示した.E 断面では流下方向の境は実験値が水深の深い Y 側からおよそ 14.0cm であるのに対し,再現計算ではおよそ 11.0cm であった. また, 流速は実測値と再現計算でほぼ 一致している.
0 10
1 2 3 4 5
:風速
風速[m/s]
時間 [分 ] 風洞実験において与えた風速の時系列
0.03 0 –0.03 0
10 20 30
0.03 0 –0.03 0
10 20 30
0.03 0 –0.03 0
10 20 30
0.03 0 –0.03 0
10 20 30
0.03 0 –0.03 0
10 20 30
一様にAからE断面へ風速5m/sを与えた場合の実験値と再現計算の流速分布
風下方向左側からの距離
[cm ]
流速[m/s]
A断面 B断面
C断面 D断面
E断面
(風上から0.2m) (風上から0.6m)
(風上から1.0m) (風上から1.4m)
(風上から1.8m)
:再現計算
:実験値 (2次元不定流解析)
(河床から1cm)
図‐9