• 検索結果がありません。

保険と老後設計

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "保険と老後設計"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

保険と老後設計

佐々木 一 郎

■アブストラクト

国民年金は,保険の1つである終身年金を,国が強制加入させるものであ る。現在のわが国の高齢者にとって,国民年金は非常に重要な老後準備手段 となっている。だが周知のとおり,国民年金をめぐっては若年世代を中心に,

未加入・未納が社会問題化している。若年世代の国民年金未加入・未納理由 を明らかにすることは,人々の老後基盤を強固にするうえで重要な研究課題 の1つである。本研究では,国民年金未加入・未納理由のうちこれまで未知 であった要因として,加入義務意識に着目した。若年世代(大学生)を対象 にしたアンケート調査データに基づく分析の結果,加入義務意識は国民年金 加入・未加入行動に影響を及ぼしていること,さらに,年金不信による未加 入誘発効果を抑止していることが示唆された。

■キーワード

老後設計,年金未加入・未納問題,加入義務意識

1 保険(国民年金)と個人貯蓄―老後への備え―

老後に対する主な経済的準備としては,保険と個人貯蓄の2つがある。個 人貯蓄で老後に備えた場合,人の寿命は不確実であるので,現実の寿命が予 想寿命よりも短いときには,貯蓄を使い切ることができない。また,現実の 寿命が予想寿命よりも長いときには,貯蓄不足になってその後の消費が大き

*平成17年10月29日の日本保険学会大会(小樽商科大学)報告による。

/平成18年10月23日原稿受領。

(2)

く落ち込み,生涯消費を平準化させることができなくなってしまう。個人貯 蓄で老後に対応すると,寿命不確実性の影響から,貯蓄の過不足が生じ,生 涯消費は変動の大きいものとなる。

一方,保険の1つである終身年金で老後に備えた場合,終身年金は定額の 年金を生涯にわたり受給することができるので,寿命の長短にかかわらず生 涯消費を平準化させることができる。このように寿命不確実性を効率よく処 理する保険である終身年金を,国が強制加入させるのが国民年金である。

国民年金は,生涯消費を平準化させる効果に加え,現在わが国の高齢者に とって,最も重要な収入源となっている。さらに,国民年金受給権の有無が 老後経済生活の安心感を大きく左右することも各種世論調査から示されてい る。

だが現実には,老後準備における国民年金の有用性や重要性に反して,若 年世代を中心に,未加入・未納が社会問題化している。このままの状況が継 続すると,現在20代,30代の人々が遠い将来にいっせいに老後を迎えたとき,

多数の無年金者が発生し,老後の備えを確保できない人々が多数出ることが 懸念される。よって,若年世代の国民年金未加入・未納の原因を明らかにし,

その原因へ働きかけることは,人々の老後基盤を固めるうえで重要な意味が ある。

これまで多くの先行研究では,若年世代の国民年金未加入・未納の主原因 について, 年金制度への信頼感の揺らぎ に着目することが多かった。若 年世代であるほど,年金不信が強く,しかも未加入・未納率が高い。これら の事実から,年金不信が若年世代の未加入・未納理由であるとみなすことに ついては,これまで当然視されることが多かったのである。

しかし,個票データに基づく最新のいくつかの実証分析結果から,年金不 信は若年世代の年金未加入・未納の原因ではないことが示唆されてきている。

これらの研究成果が意味することは,若い人々を中心に年金不信が高まって きているのは事実であるが,年金不信が高いことと,年金未加入率が高いこ ととは,必ずしも直接的な関係があるといえないということである。もし仮

(3)

に最新の実証分析結果が妥当であるならば,年金不信は未加入・未納率を引 き上げる直接の原因ではないことになる。年金不信があるのに,そのことが 未加入・未納率に影響していないというのは,不思議である。なぜであろう か。

本研究では,年金不信があるのにそのことが未加入・未納率に影響してい ない構造の背景には,人々の加入義務意識が効いているのではないか,とい う問題意識に立つ。そのうえで,アンケート調査データに基づき,加入義務 意識は加入・未加入に大きな影響を及ぼしていることを分析する。さらに,

加入義務意識が加入・未加入に影響しているという分析結果を受け,年金不 信が年金未加入を直接的には誘発しないのは,加入義務意識による抑止効果 が強く効いている可能性があることを考察する。

2 老後準備における国民年金の重要性

2−1 高齢者世帯の老後準備の実態

退職後の高齢期には,勤労所得は見込みにくくなる。退職後の高齢期は,

どのような老後準備手段によって支えられているのであろうか。内閣府の

(注) 主な収入源 は,最も重要な収入を1つだけ回答。

(出所)内閣府 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査 (2001年) 図表1 老後生活費の主な収入源

(4)

第5回 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果の概要 (2001年)

は,60歳以上の高齢者世帯を対象に,主な収入源を調査している。なお,主 な収入源については,もっとも重要な収入を1つだけ回答するという形式を とっている。

図表1を参照されたい。同調査によると,主な収入源として,公的年金は 67.5%と最も多くを占めている。つづいて,仕事による収入は20.8%,子供 などからの援助は3.4%,財産収入は2.3%,預貯金などの引き出しは1.6%

などとなっている。

2−2 経済面と安心面での国民年金の役割

上記のように,老後の経済面において,国民年金(公的年金)は非常に重 要な役割を果たしている。さらに国民年金は,老後における経済面だけでは なく,老後の安心面でも重要な役割を果たしている。

内閣府の 国民生活に関する世論調査 (2005年)によると,現在わが国 では,日常生活での悩みや不安を感じている人々の割合は,66.4%にものぼ っている。さらに,悩みや不安の内容として最も大きな割合を占めているの が,老後準備にかかわる不安であるという。

老後準備にかかわる不安の高まりの背景としては,国や企業や個人の経済 的基盤が揺らいできていることの影響が考えられる。水島[2006]の研究に よると,一般に生活保障は,三層構造から成っている。この生活保障の三層 構造とは,国の社会保障がナショナル・ミニマムの水準までをカバーし,次 に企業の職場保障が付加され,さらにそのうえに個人保障が位置づけられる というものである。同研究の分析によると,国の社会保障は,低成長経済の もとではそれを十分に行うだけの財源調達は容易ではない。また,企業の職 場保障についても,現在の企業をとりまく厳しい経営環境の下では,それに 期待することは難しくなってきている。同研究の分析結果を踏まえると,個 人は,縮小傾向にある国や企業の保障を所与としたうえで,自らの老後設計 を構築する必要に迫られているといえる。

ただし縮小傾向にあるとはいえ,老後設計においては依然として,国の保

(5)

障である国民年金が大きなウェイトを占めている。図表2を参照されたい。

金融広報中央委員会の 家計の金融資産に関する世論調査 (2006年)によ ると,老後の暮らしについて経済面で安心できる理由としては, 年金(公 的年金,企業年金,個人年金)や保険があるから が最も高く,61.0%に達 している。 貯蓄などをしているから は28.1%, 退職一時金があるから は21.0%と続いている。また, 子供などからの援助が期待できるから も,

7.7%を占めている。老後の安心について最も影響が大きいのが年金であり,

これが失われたとき,老後不安へとつながることが示されている。年金のな かでは国民年金(公的年金)の占める割合が最も高いことを踏まえると,国 民年金受給権の有無が老後の安心を大きく左右することがわかる。

3 国民年金未加入・未納問題

3−1 国民年金の未加入・未納実態

前節では,老後の経済面,安心面において,国民年金は非常に重要な役割 をもっていることを考察した。換言すると,国民年金がなければ,老後の経 済力,安心感を得ることは難しくなってきている。

にもかかわらず,現在,国民年金をめぐっては,未加入・未納の高まりが 図表2 老後の安心を左右する年金―老後を心配しないですむ主な理由―

(注)複数回答可のもとでの回答。

(出所)金融広報中央委員会 家計の金融資産に関する世論調査 (2006年)

(6)

社会問題化している。 平成14年国民年金被保険者実態調査の結果(速報) によると,国民年金第1号被保険者数が約2207万人であるのに対して,未加 入・未納者は約390万人もいる。

とくに,20代,30代の若年世代において,未加入・未納率が高いことが顕 著である。国民年金が経済面と安心面の両面において重要な役割を果たして いる実態を踏まえると,現在20代,30代の年金未加入・未納者がいっせいに 老後を迎えたとき,老後不安が顕著に高まることが予想される。

そのため,若年世代の未加入・未納の原因を明らかにし,その原因へ働き かけることは,人々の老後基盤を固めるうえで重要な意味があるといえる。

3−2 先行研究のアプローチ― 年金不信 の影響への着目―

そもそも国民年金は強制加入であり,2つの役割を果たしている。1つは,

保険としての終身年金を提供する役割である。いま1つは,そのときどきの 若年世代がそのときどきの高齢世代のために拠出するという,相互扶助的な 役割である。

だが,既存の団体を基礎としたフラターナル保険に着目した田村[1990]

の研究によると,もともと何らかの強固なつながりをもつ人々から成る保険 集団であっても,個人的利益が相互扶助精神よりも優先されやすいというこ とが,保険の歴史から示唆されるという。

田村[1990]の分析結果を踏まえると,国民年金の場合は20歳以上の全国 民が対象であり,相互のつながりは薄いので,強制加入や相互扶助を強調し ても,皆加入はより難しいと考えられる。国民年金の未加入・未納者は,何 を最も優先した結果として,未加入・未納行動をとっているのであろうか。

先行研究ではいくつかのアプローチがあるが,まず第1に,保険料未納の 認識面に関する藤田[2004]の研究がある。同研究は,サンプリング・サー ヴェイに基づき, 仕方ない と認識している構造,理由を問わず 払うべ き であるという構造, 何ともいえない という構造の3つから接近する というユニークなアプローチを展開し,保険料未納の認識面について基底構 造にまでさかのぼった分析を行っている。

(7)

第2は,具体的な未加入・未納理由が何かを明らかにする研究アプローチ であり,鈴木・周[2001]にはじまる研究蓄積がある。注目されてきた主な 要因は,①経済的理由,②短命予想,③年金不信の3つである。

第1の経済的理由については,失業者やフリーターの増大などによる経済 力の低下から,国民年金の掛け金を負担することが困難であるという理由で ある。第2の短命予想については,国民年金は終身年金であるので,短命の 人ほど給付総額は小さくなり,加入のメリットが小さいという理由である。

第3の年金不信は,国民年金に加入・納付しても,給付が負担を下回るので はないか,年金制度そのものが維持できないのではないかなど,年金制度へ の信頼感の揺らぎに関する理由である。

とくに学術的な実証研究においては,若年世代に特徴的な年金未加入・未 納原因として,第3の 年金不信 に着目した実証研究がこれまで精力的に 行われてきた。その1つの根拠は,国民年金制度への信頼度について,若年 世代でその割合が顕著に低いことである。

ここで,年金制度に対する信頼について考えてみよう。まず,信頼一般の 定義については,山岸[1998]が詳しく分析している。同研究は,信頼には 能力についての信頼 と 意図についての信頼 の2つがあるとしている。

前者の能力についての信頼とは, 社会関係や社会制度の中で出会う相手が,

役割を遂行する能力をもっているという期待 である。後者の意図について の信頼とは, 相互作用の相手が信託された責務と責任を果たすこと であ る。

山岸[1998]を参考にすると,国民年金制度への信頼とは,現行制度下で 定められた給付・負担バランスなどの重要事項を国が実行することについて,

人々がその能力と意図を信じることである。よって,国民年金制度への不信 感とは,国の能力と意図を人々が信じることができないことである。

では実際,人々が国民年金制度に対してどの程度,信頼を寄せているのか については,2001年に読売新聞社が実施した世論調査結果が参考になる。同 調査によると,若い世代ほど,国民年金制度への信頼度が低いことが示され

(8)

ている。国民年金制度へ信頼感をもつ割合は,60代では約64%,70代では約 76%と高いのに対して,20代では約20%,30代では約23%にしか満たない。

このように,若年世代の年金不信の高さを背景に,これまで先行研究では 年金不信に着目し,それが未加入・未納原因であることを明らかにしようと する実証分析が行われてきた。そして,鈴木・周[2001],塚原[2004]など の研究から,年金不信が未加入・未納理由であることが示唆された。

3−3 本研究のアプローチ― 加入義務意識 の影響への着目―

さて, 平成16年公的年金加入状況等調査結果 速報のポイント (社会保 険庁)は,国民年金未加入の理由を調査している。図表3−1を参照された い。主な未加入理由としては, 保険料が高く,経済的に収めるのが困難だ から が24.2%, 制度のしくみを知らなかったから が23.2%, 加入の届 出をする必要はないと思っていたから が8.9%である。

また,年金不信に直接関連した未加入理由としては,図表3−2で示され

(出所)社会保険庁 平成16年公的年金加入状況等調査結果 速報のポイント 図表3−2 年金不信と直接関連する国民年金未加入理由

図表3−1 主な国民年金未加入理由

(9)

るように, 年金制度の将来が不安だから は4.0%, 納めた保険料がどの ように使われているのかよくわからないから は2.5%, 納める保険料に比 べて,もらえる年金額が少ないと思うから は2.5%であり,それらの割合 の合計はわずか10%程度でしかない。年金不信は年金未加入の主原因とはい えないことが示唆されている。

さらに,年金不信が未加入・未納に及ぼす影響を分析した学術的な先行研 究のうち,阿部[2003],鈴木・周[2006]などの最新の研究から,年金不信 は国民年金未加入・未納に影響を及ぼしていないことを示唆する実証分析結 果が得られてきている。

このように,社会保険庁の調査結果,および最近の学術的な実証分析結果 から,年金不信が高いことと,年金未加入率が高いこととは,必ずしも関係 があるといえないことが示唆されている。なぜ,年金不信があるのに,その ことが未加入・未納率に影響していないという分析結果が示されたのであろ うか。

本研究では加入・納付への未知の影響要因として加入義務意識に着目し,

若年世代(大学生)対象のアンケート調査から,その影響の有無について分 析を行う。それにより,加入義務意識は未知の影響要因の1つであるという こと,そして,年金不信が未加入・未納に影響しない理由の1つとして加入 義務意識が抑止効果として強く効いている可能性があることを分析する。

4 データ

4−1 調査の概要

本研究では,国民年金の加入義務意識の高さと,加入・未加入との関係を 分析するに際して,若年世代,とりわけ大学生を対象としたアンケート調査 を実施した。

アンケート調査については,筆者が独自に実施した。調査期間は2005年1 月である。調査対象は,関東〜九州に所在する大学の大学生であり,総計10 大学である。回収総サンプル数は1284,使用サンプル数は889である。サン

(10)

プルの採用基準については, 給付<負担 になる世代に該当すること,ア ンケートのすべての質問項目に答えていること,の2つとした。

アンケートの主な調査内容について,第1は,回答者本人の年齢や性別,

世帯人員数など,人口統計学上の基本属性に関する質問項目である。

第2は,任意加入を想定した場合の国民年金への加入意思に関する質問項 目である。 もし,大学卒業後,国民年金(または厚生年金,共済年金)の 加入が強制ではなく,自由に選べるならば,どうすると思うか をたずねる 質問項目を設定した。

第3は,国民年金の加入義務意識に関する質問項目である。 国民年金に 加入するのは義務だと思うか をたずねる質問項目を設定した。

4−2 標本属性

第1に,人口統計学上の基本属性に関して,回答者の学年は,1年生は 2.9%,2年生は28.6%,3年生は41.8%,4年生は25.1%,5年生以上は 1.6%である。世帯人員は,2人は2.0%,3人は10.0%,4人は41.7%,5 人は30.3%,6人以上は16.0%である。

第2に,任意加入を想定した場合の国民年金への加入意思については,加 入するは62.8%,加入しないは37.2%である。

第3に,国民年金の加入義務意識に関しては,加入するのは義務だと思う と回答したのは62.1%,義務だとは思わないと回答したのは37.9%である。

5 分析

本節では,前節のデータから,クロス集計表とロジット・モデルに基づき,

加入義務意識が任意加入を想定した場合の国民年金加入・未加入に及ぼす影 響を分析する。

5−1 クロス集計表に基づく分析

①学年

図表4−1は,学年と加入率との関係を図示している。任意加入を想定し た場合に加入すると回答した割合は,1年生は50.0%,2年生は65.0%,3

(11)

年生は60.5%,4年生は65.5%,5年生以上は64.3%である。1年生が低く,

2年生〜5年生については,おおむね65%前後である。

②世帯人数

図表4−2は,世帯人数と加入率との関係を図示している。任意加入を想 定した場合に加入すると回答した割合は,世帯人数が2人は61.1%,3人は 64.0%,4人は63.6%,5人は59.9%,6人以上は65.5%である。どの世帯 人数とも,おおむね60%前後である。

図表4−1 学年と加入率

図表4−2 世帯人数と加入率

(注) 加入率 は,任意加入を想定した場合に加入すると回答した人々の割合。

(12)

③通学区分

図表4−3は,通学区分と加入率との関係を図示している。任意加入を想 定した場合に加入すると回答した割合は,自宅通学では65.0%,自宅外通学 では58.8%である。自宅通学者は,自宅外通学者よりも,任意加入を想定し た場合の加入率が6.2%,より高いことが示された。

④加入義務

図表4−4は,加入義務意識と加入率との関係を図示している。任意加入 を想定した場合に加入すると回答した割合は,加入は義務だと思うと回答し た人々の場合は73.4%,加入は義務だとは思わないと回答した人々の場合は

(注) 加入率 は,任意加入を想定した場合に加入すると回答した人々の割合。

図表4−4 加入義務意識と加入率 図表4−3 通学区分と加入率

(13)

45.4%である。加入義務意識がある人は,加入義務意識がない人よりも,任 意加入を想定した場合の加入率は28.0%も高いことが示された。

5−2 ロジット・モデルに基づく分析 5−2−1 ロジット・モデル

クロス集計表に基づく分析から,加入義務意識は,任意加入を想定した場 合の加入・未加入に影響することが示唆された。

さて,国民年金加入決定に対してはさまざまな要因の影響が考えられる。

そこで,それらの様々な要因を同時に考慮した場合においても加入義務意識 の影響が示されるかどうかを明らかにするため,以下ではロジット分析を行 う。分析で用いたロジット・モデルは以下のとおりである。

y=β+Σ β・X+u y=1 y>0の場合 

y=0 y≦0の場合

ただし,yは,任意加入を想定した場合の国民年金への加入意思(加入は 1,未加入は0のダミー変数),uは誤差項,X〜X は説明変数,βは定数 項,β〜βは説明変数X〜X の係数である。

説明変数として用いたのは,学年X〜X(それぞれ1年〜4年に該当す るときはそれぞれ1のダミー変数,それ以外に該当するときはそれぞれ0の ダミー変数),世帯人員数X〜X(それぞれ2人〜5人に該当するときは それぞれ1のダミー変数,それ以外に該当するときはそれぞれ0のダミー変 数),通学区分X(自宅通学は1,自宅外通学は0のダミー変数),加入義 務意識X (あるは1,ないは0のダミー変数)である。

5−2−2 ロジット・モデル推計

ロジット・モデルによる推計結果については,図表5に示している。第1 に,学年については,1年生,2年生,3年生,4年生に関して,係数はそ れぞれ,−0.655,−0.062,−0.324,−0.095であり,学年の高さと加入率 との間には特徴的な関係はみられなかった。いずれも統計的に有意ではない。

第2に,世帯人数については,2人,3人,4人,5人に関して,係数は

(14)

それぞれ,−0.081,−0.169,−0.133,−0.294であり,世帯人数が多いほ ど,加入率が低くなる傾向が若干みられた。だがいずれも統計的には有意で はない。

第3に,通学区分については,係数は0.255であり,自宅通学者のほうが 自宅外通学者よりも加入率が高い。10%水準で統計的に有意である。自宅通 学者と自宅外通学者とでは,親とのふだんの接触頻度に差があることが考え られる。学生本人の国民年金加入・納付意思については,親からの影響も考 えられる。そのため,親とのふだんの接触頻度の差は,親から子への影響の 強さに作用して,その結果として,任意加入を想定した場合の加入意思にも 差が出てきていることが考えられる。

第4に,加入義務意識については,係数は1.218であり,加入義務意識を 持つ人ほど,加入率が顕著に高い。しかも1%水準で統計的に有意である。

さまざまな要因を同時にコントロールしたうえでも,やはり,加入義務意識 をもつことは,加入率を高くするように作用することが明らかにされた。年

図表5 任意加入を想定した場合の国民年金加入率に関する推定結果

⎜ロジット分析⎜

説明変数

被説明変数:任意加入を想定し た場合の国民年金への加入意思 (加入:1,未加入:0)

係数 標準

偏差

学年

1年生 −0.655 0.720

2年生 −0.062 0.605

3年生 −0.324 0.600

4年生 −0.095 0.608

世帯人員数

2人 3人 4人 5人

−0.081

−0.169

−0.133

−0.294

0.543 0.301 0.221 0.227

通学区分 自宅通学 0.255* 0.155

加入義務 義務と思う 1.218*** 0.147

定数項 0.004 0.622

(注)***,*は,それぞれ1%,10%水準で有意である。

(15)

金不信が年金未加入の原因ではないことがいくつかの最新の先行研究から示 された背景の1つとして,加入義務意識による抑止効果が効いている可能性 が示唆された。

6 まとめと今後の研究課題

各種統計データによると,現在わが国では,老後準備不足に関する将来不 安が広がってきている。老後準備手段としては,国民年金や私的年金,個人 貯蓄,家族内扶養などがある。

これらのうちとりわけ重要な役割を担っているのが国民年金であり,寿命 不確実性を効率よく処理する保険である終身年金を,国が強制加入させると いうものである。さらに国民年金は,65歳以上の高齢者世帯にとって,主な 収入源の半数以上を占めている。

だが周知のとおり,このような重要性にもかかわらず,国民年金をめぐっ ては若年世代を中心に,未加入・未納が社会問題化している。老後準備にお ける国民年金の重要性を踏まえると,若年世代の国民年金未加入・未納の原 因を明らかにし,その対処法を分析することは重要な研究課題である。

これまで先行研究では国民年金未加入・未納理由について,若年世代ほど 年金不信が強いこと,さらに,若年世代ほど未加入・未納率が高いことなど を根拠に,年金不信が主な未加入・未納理由であるとみなされることが多か った。

だが,社会保険庁の調査では,年金不信は未加入・未納理由としては小さ なウェイトしかないこと,さらに,最新の学術的な研究によると,年金不信 は未加入・未納理由ではないことを示唆する実証分析結果が複数提出されて きている。若年世代で年金不信が強く,年金未加入・未納率が高いことは事 実であっても,年金不信が年金未加入・未納の直接的な原因ではないことが 示されているのである。なぜであろうか。

本研究では,加入義務意識に焦点を当て,任意加入を想定した場合の国民 年金加入・未加入への,加入義務意識による影響を分析した。若年世代(大

(16)

学生)対象のアンケート調査に基づく分析の結果,国民年金加入・未加入に 対して加入義務意識は顕著に影響していることが示された。さらに,年金不 信が年金未加入に影響しない1つの理由としては,加入義務意識による抑止 効果が作用している可能性が示唆された。

今後の研究課題としては,さらなる未知の国民年金未加入・未納理由を明 らかにすることである。高尾・山崎[2005]は,わが国における人々の保 険・年金加入行動をめぐっては,有用性の高いはずの掛け捨て保険が敬遠さ れるなど,合理的ではない傾向が複数存在していることを指摘している。そ のうえで,プロスペクト理論など,行動経済学の研究成果を保険学の領域へ 応用することで,これまで説明困難であった保険・年金加入行動の説明可能 性が大きく広がることを分析している。同研究の分析結果を踏まえ,説明力 の高いと考えられる行動経済学の研究成果を国民年金未加入・未納行動の分 析にも応用することによって,未知の未加入・未納動機を明らかにしたい。

(本研究は,広島経済大学の特定個人研究助成(平成15年度)による成果の一部で ある。)

(筆者は広島経済大学助教授)

参考 献

阿部彩,2003, 公的年金における未加入期間の分析⎜パネル・データを使って⎜

季刊社会保障研究 ,第39巻第3号,pp.268‑280

.

金融広報中央委員会,2006, 家計の金融資産に関する世論調査

.

社会保険庁,2004, 平成16年公的年金加入状況等調査速報のポイント

.

社会保険庁,2002, 平成14年国民年金被保険者実態調査の結果(速報)

.

鈴木亘・周燕飛,2006, コホート効果を考慮した国民年金未加入者の経済分析

季刊社会保障研究 ,第41巻第4号,pp.385‑395

.

鈴木亘・周燕飛,2001, 国民年金未加入者の経済分析 日本経済研究 第42巻,

pp.

44‑60

.

高尾厚・山崎尚志,2006, 行動保険学 再考 国民経済雑誌 ,第193巻第3号,

pp.

1‑10

.

田村祐一郎,1990, 保険は公平か −保険における公平の原理− 社会と保

(17)

険−社会・文化比較の鏡としての保険− ,千倉書房,pp.193‑209

.

塚原康博,2004, 年金における未納・未加入問題の経済学的評価 年金と経済

Vol.

23

. No.

2

, pp.

46‑50

.

内閣府,2005, 国民生活に関する世論調査(平成17年6月調査)

.

内閣府,2001, 第5回 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果の概要

.

田達夫・小口登良,1999 年金改革論⎜積立方式へ移行せよ⎜ ,日本経済新聞 社,pp.10‑17,pp.41‑60,pp.300

.

藤田楯彦,2004, 国民年金未納 のエピステーメ 同志社商学 ,第56巻第2・

3・4号,pp.328‑356

.

水島一也,2006, 福祉社会と保険産業 現代保険経済 (第8版),千倉書房,

pp.

203‑240

.

山岸俊男,1998, 信頼概念の整理 信頼の構造⎜こころと社会の進化ゲーム⎜ , 東京大学出版会,pp.31‑53

.

参照

関連したドキュメント

金額規模としては融資総額のおよそ 3 分の1にあたる 1

本章の最後である本節では IFRS におけるのれんの会計処理と主な特徴について論じた い。IFRS 3「企業結合」以下

(とくにすぐれた経世策) によって民衆や同盟国の心をしっかりつかんでい ることだと、マキァヴェッリは強調する (『君主論』第 3

日中の経済・貿易関係の今後については、日本人では今後も「増加する」との楽観的な見

飲食サービス業 …… 宿泊業、飲食店、持ち帰り・配達飲食サービス業 7 医療、福祉 ………

に関連する項目として、 「老いも若きも役割があって社会に溶けこめるまち(桶川市)」 「いくつ

さらに, 会計監査人が独立の立場を保持し, かつ, 適正な監査を実施してい るかを監視及び検証するとともに,

関係会社の投融資の評価の際には、会社は業績が悪化