九州工業大学研究報告(工学)No.57 1988年9月 29
エレクトロクロミック材料の圧力効果と電気的特性
(昭和63年5月31日 原稿受付)
電気工学科福岡憲昭
森 邦 彦 遠 山 尚 武
Stress Effect and Electrical Properties in an Electrochromic Material
by Noriaki FUKUOKA
Kunihiko MORI
Naotake TOYAMAAbstract
When a mechanical stress is applied to a metaLMoO3−metal structure, an electric field is origin−
ated in the sample, This phenomenon, however, cannot be explained by piezoelectric effect be.
cause the MoO3 crystal belongs to the point group(mmm).
We have investigated this stress effect in the samples for various kinds of metal.
As a result, we have found that the voltage is generated from the metal−MoO3 interface, and that the voltage changes in relation to the kind of contact.・metal. Furthermore the voltage suddenly starts to decrease at an annealing temperature of 150℃when the sample is annealed in an atomos−
phere including N2 and O2 at the rate of four to one.
From the result of I.V measurement, we conclude that the stress effect is attributed to the ex.
istence of an energy barrier at the inte㎡ace of the metal−MoO3 contact.
. また熱処理の温度や雰囲気を変えての発生電圧の変化
1.まえがき
や電流一電圧特性,光照射時の電流一電圧特性,直流抵 MoO3, WO3等は,エレクトロクロミック材料とし 抗の測定も行った。
て,表示素子等に利用されている。
2.実験方法 このMoO3を金属上に蒸着し,圧力を加えると,膜厚
方向に電界を発生することが報告されている;Dところ 測定用試料は図一1に示すような手順で作成した。十 が,MoO3の蒸着膜はアモルファスになっており,加熱 分に洗浄したガラス基板上に金属膜をスパッタリング装 して結晶化させても点群(mmm)に属しているので, 置によって約0.2μm堆積し,その上にMoO3をビーム 圧電性は有しないはずである。そこで,MoO3蒸着膜の 蒸着によって蒸着したものを基本試料とする。また,こ 電圧発生機構を調べるため実験を行った。 の上に直径3mmのAg(上側電極または上側金属と呼
本実験では,まず発生電圧の圧力依存性について調べ, ぶことにする。)をビーム蒸着したものが電流一電圧特次に電圧の発生源を調べるためMoO3の膜厚,下地金 性や,直流抵抗等電気的特性の試料である。
属(MoO3を蒸着する金属),接触金属(加圧棒先端の また,熱処理を行うものは,下地傘属上にMoO8を
金属)の変化による発生電圧の変化を測定した。 蒸着した状態で電気炉,オーブンまたは真空室内で1時
間加熱する。
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MoO3膜の蒸着 上側金属の蒸着 圧力による発生電圧を測定する計測装置のブロック図 (圧力特性用試料) (電気的特性用試料) を,図一3に示す。
(a)試料の作成手順 3.実験結果及び考察
6.0φ
一斗_ヨ←− 3.1 発生電圧の波形と極性
⊥1++接触…堆積
シールドボックス
下地
熨ョ Al、Cr、Pt、Cu mi、A9
接触
熨ョ Al、Cr、Pt、Cu mi、A9、MO
1.0φ
加
(b)加圧棒の作成手順 圧
装 図一1 試料及び加圧棒の作成手順 置
図一3 電圧測定のブロック図
加圧微調節ネジ
/
圧 0・5
;・ストッパ_力
(kgF)
、\圧力センサ 0・3
電圧 0.2
一加圧棒
(V)0.1
0
0 10 20 30 40
時間(sec)
図一2 加圧装置 図一4 圧カー電圧応答波形
エレクトロクロミック材料の圧力効果と電気的特性 31
属にはAlを用い,熱処理は行っていない。 3.4 発生電圧の接触金属依存性
図一4によって,電圧波形の特徴を以下に述べる。加 先の発生電圧の膜厚依存性がなかったという結果から,
圧以前においては加圧棒は試料に接しているだけである 電圧の発生源は,MoO3膜と金属の接触界面にあると推 が,電圧が発生している。これは接触しているだけでも 測された。そこでまず,金属とMoO3膜の接触面のう 試料には力がわずかながらにも加わっているためである。 ちの接触金属とMoO3膜との界面について発生電圧の
そして,圧力が加わった瞬間に,電圧は急激に上昇し, 変化を調べた。最大値に達すると指数関数的に減少していきOVに近 測定には接触金属をAl, Pt, Cr, Cu, Ag, Mo, Ni
ついていく。 と変えた加圧棒を用意し,下地金属にはCrを用いて測 また,発生電圧の極性は,必ず下地電極側が正で接触 定した。また,熱処理は行っておらず,加圧力は0.
金属側が負となり,極性が逆になる試料はなかった。 50kgFである。
3.2 発生電圧の圧力依存性 その結果が図一7である。この図によると発生電圧は 試料に0−0.40kgFの加圧に対する発生電圧のピーク 接触金属の種類によって明らかに変化しているのが判る。
値の測定結果を図一5に示す。 3.5 発生電圧の下地金属依存性
なお使用した試料は,下地はCrで,接触金属にはAl 次に下地金属とMoO3膜の接触界面について発生電
を用い,熱処理は行っていない。 圧の変化を調べた。この図によると,圧力が0・15kgFまでは発生電圧は 測定には,下地金属をCu, Ag, Ni, Pt, Al, Crと
圧力に比例して増加しているが,それ以上の圧力になる 変えたものを用意し,接触金属にはAlを用いて測定し
と電圧は一定となっているのが判る。0−0・15kgFまで た・また,熱処理は行っておらず,加圧力は0.50kgF
の範囲を遷移領域,それ以上の範囲を飽和領域と呼ぶことにする。
3.3 発生電圧の膜厚依存性
金属一M。・、接触系の電圧発生源がM。。、膜のどこ ゜・2° 縫::;
㌶㌶賜蕊慧懸三鞍1:1・正杢1至杢{至㌣∴
Cr,接触金属にはAlを用い,熱処理は行っていない。 −0・10 x
また,加圧力は0.50kgFである。その測定結果を図一
〇.05,
6に示す。この図を見ると発生電圧は膜厚に対する依存
性は見られないことが判る。0 1 2
このことから電圧の発生源はMoO3膜のバルク内で
MoO3の膜厚(μm)
はなく・金属とMoO3の接触界面であるということが 図_6 発生電圧の膜厚依存性 推測される。
0.5
発 0.4 生 電 圧 0.3 マ
) 0.2
0.1
下地金属:Cr,接触金属:Al
MoO3膜厚:7μm0.20
0.15 発 生 電 圧0・10 マ
)0.05
ド地金属.Cr MoO,膜II:7μm
加|}{ノ」:050kgFAg Cu Ni Pt Al Cr Mo
0 0
0 0.1 0.2 0.30.4
接触金属の種類
圧力(kgF)
図一5 発生電圧の圧力依存性 図一7 発生電圧の接触金属依存性
である。 図一9に示すMoO3の結晶状態の変化する温度と非常 その結果は,図一8に示すようになった。この図を見 に酷似している。このことを考えると発生電圧はMoO3
ると,それぞれの金属の平均値はほぼ一定になっている 膜がアモルファスから多結晶質に変化するときに減少し ことが判る。このことから電圧の発生には特に接触金属 ていくと考えられる。とMoO3膜との接触面が関連している可能性が強いと 3.6.2. 熱処理雰囲気による変化
思われる。 次に熱処理を行う雰囲気を変え,雰囲気による発生電
3.6 熱処理温度による変化 圧の変化を測定した。また同じ大気中でもオーブン内とMoO3には図一9に示すような熱処理温度による相変 電気炉内,そしてN2:02=4:1の雰囲気で発生電圧
化,色の変化があることが報告されている11)そこで, に差があるかどうかも調べた。MoO3膜の熱処理温度に対する変化による発生電圧の変 雰囲気は下の表一1のようにした。加熱時間はすべて 化を調べた。熱処理はN2:02=4:1の雰囲気で行っ 1時間で,ガスを流すものは窒素と酸素の流量の合計が た。また下地金属にはCr,接触金属にはAlを用い,加 2ε/minとなるようにした。また熱処理温度は150℃
圧力は0.50kgFである。 で行った。
その結果は図一10に示す。なお熱処理を行っていない また,下地金属にはCr,接触金属にはAlを用い,加 試料は,20℃としている。この図を見ると発生電圧は 圧力は0.50kgFである。
150℃ぐらいまではほぼ一定で,それ以上の温度では発 この測定結果を図一11に示す。この図からN2=100%
生電圧は小さくなり,250℃近辺で最小となっている。 や真空中など酸素がほとんどない雰囲気中では発生電圧
ところがそれ以上の温度では温度の上昇と共に発生電圧 は小さくなるが,酸素が少しでも雰囲気中に存在するとは徐々に大きくなっていき,500℃近辺でほぼ一定と
なっていることが判る。この発生電圧の変化の様子は,
0.5
0.20
0.15 発 生 電 圧0・10
マ
)0.05
0
接触金属:Al MoO3膜厚:7μm 加圧力:0.50kgF
Ag Cu Ni Pt Al Cr
0.4 発 生 電0.3 圧
V O.2
)
0.10
下地金属:Cr 接触金属:Al MoO3膜厚:7μm 熱処理雰囲気 N2:02ニ4:1
0 加圧力:0.50kgF
0 100 200 300 400 500 600 熱処理温度(℃)
下地金属の種類 図_10 発生電圧の熱処理温度依存性 図一8 発生電圧の下地金属依存性
状態__アモルフ。ス_「多結晶_ 表一1熱処理雰囲気
T・i 窒素(%):酸素(%)
透明 i 不透明
色light Green :
or dark green i dark blue white
熱処理なし 100 200 300 400
熱処理温度(℃)
図一9 熱処理温度とMoO3の色の変化と結晶 状態の変化
100 ・ 0 90 ・ 10
80 1 20 60 1 40
50 ・ 50
0 1 100
真空中 大気中 大気中
]
電気炉内 ガスの流量合計2ε/min
スパッタ・チャンバ内 オーブン内
電気炉内
エレクトロクロミック材料の圧力効果と電気的特性 33
0.14
0.12
発
生 0.10電 圧
_ 0.08
x
O.060.04
0.02
0
下地金属:Cr l 接触金属:Al l
! 巨至
1 真
1 空 1 中
2.0
1.5
1,0
竃…
9。
一〇.5
0 20 40 60 80 100
−1.0
熱処理雰囲気中の
N2に対する02の比率(%)
図一11発生電圧の熱処理雰囲気依存性 一1・5
一2.0
−0.3−0.2−0.1 0 0.1 0.2 0.3
発生電圧に影響はなく_定の値を示すことが判る。 印加電圧(v)
図一12 電流電圧特性
3.7 MoO3蒸着膜の電流一電圧特性
MoO3蒸着膜に外部から電圧を印加して電流一電圧特
性を調べた・電圧は接触金属が正・下地金属が負の電圧 1。・
を加える方向を正方向とし,その反対を逆方向とした。
106
試料の下地金属にはCr,上側金属にはAgを用い・熱 直 処理はN、・・,−4・1の雰囲気中で2・・℃,・時間 纏1°
行った。 着1・・
その測定結果を図一12に○印で示す。この図を見ると 6103
電流一電圧特性は非線形な形となってし ることが判る・ 1。・
これにより金属とMoO3蒸着膜の接触界面に障壁が存在
しているのではないかということが考えられる.そこで 1°1。 1。。 、。。 3。。 4。。 5。。
実際に光を照射して電流一電圧特性を調べた。その結果 熱処理温度(℃)
を図_12に△印で示す。光源にはスライドプロジェク 図一13直流抵抗値の熱処理温度依存性
ターを用いた。この図より光を照射した時の方が電流が流れやすいことが判る。計算では約1.5倍の電流の増加
が認められた。これにより,金属とMoO3との接触界 から150℃まではほぼ一定であるが,その後は急激に減 面に障壁が存在する可能性が強くなったと考えられる。 少している。しかも発生電圧のように250℃付近で最小
3.9 直流抵抗値の熱処理温度依存性 とはならずに熱処理温度が上がるにつれて徐々に減少し前項で測定した電流一電圧特性よりMoO3膜の直流 ている。200℃付近で抵抗値が急激に減少するのは次の
抵抗値を求め,その値の熱処理温度による変化を測定し ように考えられる。た。 MoO3が結晶を生成する過程において(熱処理や還元 試料は下地金属にCr上側金属にAgを用い, N2:02 作用に伴う場合なども含む)
;1:㌶醸㌶鷺二㌶㌶竺::麗 吻仏≒[M・、一ノ・M㎡弧丑+丁・… (1)
を求め,零点近似から傾きより求めた。 という反応により酸素点欠陥を生じる12)(3)((1)式中の
その結果を図一13に示す。この図を見ると熱処理なし 口は酸素点欠陥を表す。)この点欠陥が電子1個を拘束
光源:250Wのハロゲン ランプ 光源からの距離:30cm 試料位置における
光強度:2mW/cm2O:光を照射しない場合
△:光を照射する場合
下地金属:Cr
上側金属:Ag
M・03膜厚:7μm熱処理条件
N2:02;4:1,200℃して(2個の電子のうち1個だけ放出して)イオン化す スの物質の特徴で,これによりMoO3蒸着膜が200℃以
ることによりアクセプターレベルを提供する。これによ 上でアモルファスから多結晶質に相変化していることがりMoO3はn型半導体的電気伝導を示すため, MoO3 実証されたといえる。
蒸着膜がアモルファスから多結晶質に変化する温度,す 次に(a),(b)を比較するとN2=100%とN2:02−4 なわち200℃で直流抵抗値が急激に落ちると考えられる。 :1と雰囲気が違うのにも関わらず両者に大差は見られ
3.10 X線回折によるMoO3蒸着膜の検査 ない。従って, X線回折では発生電圧の減少する理由を MoO3の結晶は図一9に示されるような相変化がある 解明するには至らなかった。
という報告の検証するため,また酸素がない状態で熱処
4.まとめ
理を行うと発生電圧が減少する理由を結晶構造に起因すると考えたためX線回折によってMoO3蒸着膜の検査 今回の実験から判明あるいは推論された事を以下に箇 を行うことにした。 条書にして示す。
試料はCr下地のものをN2:02=4:1の雰囲気中 (1)電圧の発生源はMoO3膜のバルク内ではなく,接 で150℃と300℃で熱処理したものと,N2ニ100%の雰 触金属とMoO3の接触界面にあると考えられる。
囲気中で150℃で熱処理したものの3種類を用いた。そ (2)発生電圧,直流抵抗値はMoO3がアモルファスか の結果が図一14である。 ら多結晶質に変化する温度付近で大きくその値は変
先ず図一14の(b),(c)を比較すると300℃で熱処理 化する。を行ったものは急峻なピークが見られるが,150℃のも (3)MoO3膜の電流一電圧特性は非線形で光を照射する
のはなだらかなピークとなっている。これはアモルファ と電流が増加する。このことから金属との接触界面 に障壁の存在する可能性が考えられる。(4)MoO3蒸着膜の直流抵抗値が200℃付近で急激に減
識 鱗 少するのは・酸瓢陥により⑭が・形半導
強 体的電気伝導を示すためと考えられる。
度 〜
1° 2° 3° ° 5° 6° 7° 8° 9° 5.謝 辞
回折角2θ(deg)
(a) 本研究を行うにあたり渓験に協力された大森勇氏
(現日本航空電子),佐藤伸祐氏(現東芝)に厚くお礼 を申し上げます。また,日頃ご指導頂く澤本教授に対し
回折角(2b)θ(由9) (1)h』・・一・副一伽・ゆPエApP・P・帥・
24Suppl.24−419(1985)
(2)田部,清山,笛木:金属酸化物と複合化合物,講談社 (1978)
(3)河口 :半導体の化学,丸善株式会社(昭49)
X 熱処理条件
線 N・:0・=4:1
強 300℃度
10 20 30 40 50 60 70 80 90
回折角2θ(deg)