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映画プロデューサー研究から見る創造的個人の組織化戦略

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Academic year: 2021

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 1960年代から40年にもわたって景気が低迷していた日本の映画産業は2000年代以降にV字回復を 見せるようになった(若林他,2015)。その背景のひとつは、優秀な映画プロデューサーの台頭である。

 例えば、アルタミラピクチャーズ株式会社を経営する映画プロデューサーの桝井省志氏は1990年 代後半からヒット作を世に送り出してきた(山下,2014)。かつて桝井氏は大映という大手映画会 社にずっと勤めてきた。そこでビデオテープの行商、アダルトビデオの制作といった下積みを経 て、映画プロデューサーとなった苦労人である。テレビドラマの製作を手がけているときに演出家 の周防正行氏と出会い、『シコふんじゃった。』(1992年)を作ったことが彼の大きな転機となった。

桝井氏は周防監督と映画を作るために大映を退社し、アルタミラピクチャーズをつくった。『Shall we ダンス?』(1996年)を手がけたときには、資金繰りに苦しみ、制作下請けという構造的課題 に直面した。 2 本目の制作ラインとして磯村一路監督、 3 本目の制作ラインとして矢口史靖監督の プロジェクトを立ち上げると、自社から出資を行うようにし、フジテレビとの共同製作体制を構築 した。こうして、桝井氏は『ウォーターボーイズ』(2001年)などをヒットさせながら、アルタミ ラピクチャーズを一流の制作プロダクションに仕立て上げた。

 映画プロデューサーとしての桝井氏に見られるのは、その役割遂行の巧妙さである。プロデュー サーには大きく分けて 3 つの役割がある(山下,2014)。ひとつは企画開発であり、そこには仕様

「映画プロデューサー研究から見る創造的個人の組織化戦略」

Creative Individuals’Organizing Strategy In a research of Film Producers

講師  山   下       勝

(青山学院大学教授)

高崎経済大学論集 第58巻 第 2 号 2015 77〜79頁 平成27年度第1回学術講演会(講演抄録)

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高崎経済大学論集 第 58 巻 第 2 号 2015

について責任をとることが求められている。つぎは制作であり、品質と納品についての責任が求め られる。さいごは興行であり、利益に対する責任が求められる。多くの映画プロデューサーはこれ らの役割を分業しながら進めていくが、通常は役割遂行の質は著しく低くなってしまう。というの も、形式上の責任こそ問われているものの、実際には仕様責任は監督に丸投げしていたり、利益責 任も営業部隊に引き受けさせていることが多いからだ。その一方で、桝井氏のように本当に優秀な プロデューサーはすべての責任を形式だけでなく実質的にも引き受けている。

 役割の引き受け方に関連して、プロデューサーは 4 つの類型に分類できる。もっともオーソドッ クスな類型はF型である。F型は制作現場に強く、品質責任と納品責任をもっとも重視している。

つぎにB型がある。主に製作委員会に参加しているスポンサー企業の代表者であり、出来上がった 映画のマーケティングを主導している(利益責任)。D−F型は自ら企画し(仕様責任)、それを現 場で生産する(品質・納品責任)。前述の桝井氏は基本的にはこのD−F型プロデューサーに分類 できる。さいごにD−B型は自ら企画を探し開発しながら(仕様責任)、スポンサー企業を組織化 して製作委員会を構成してマーケティングも押し進めていく(利益責任)。

 F型やB型は単能プロデューサーであり、D−F型やD−B型は多能プロデューサーである。プ ロデューサーが単能であるということは、それだけ分業への依存度が高いことを意味しているが、

この分業が最終的にプロデューサーの役割遂行の質を低下させる最大の要因となっている。開発、

生産、販売がそれぞれプロフェッショナル化の程度が高い場合、それぞれのセクションにおいて部 分最適を目指す傾向が強くなってしまうからである。例えば、開発パートが革新的なコンセプトを 作り上げたとしても、それが製品化され、販売されるときには販売パートは従来通りのベスト・プ ラクティスを用いようとするだろう。その結果、コンセプトの持っていた革新性は阻害されてしま うかもしれない。

 これらを回避するため、優秀なプロデューサーたちは革新的なコンセプトに最適な独自の分業体 制を取れるように組織化を個別に行っている。簡潔に言えば、分業の相手を気心の合う者に限定す るということだ。組織化の程度は、Alvarez and Svejenova(2005)によれば、異なるタスクをた だ分業して行っているだけという関係性レベル 1 、イキとウマが合って効率的に協働ができる関係 性レベル 2 、そして新しい価値を共創できる関係性レベル 3 の 3 段階に分類できる。革新的なコン セプトを生み出すためには関係性レベル 3 が、そしてそれを実行していくためには関係性レベル 2 以上が必須となっているのである。

 この組織化にはさらに 2 つの方向性が存在する(山下・山田,2010)。内的組織化と外的組織化 である。内的組織化は革新的な企画を開発していくためのチームを構成するものであり、外的組織 化はそれを実現していくための支援者づくりである。この 2 つの方向性を意識的に区別することが 肝要である。

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「映画プロデューサー研究から見る創造的個人の組織化戦略」(山下)

参考文献

Alvarez, J. L. and Svejenova, S.(2005)Sharing Executive Power: Roles and Relationships at the Top, Cambridge University Press.

山下勝(2014)『プロデューサーシップ:創造的組織人の条件』、日経BP。

山下勝・山田仁一郎(2010)『プロデューサーのキャリア連帯:創造的個人の組織化戦略』、白桃書房。

若林直樹・山下勝・山田仁一郎・野口寛樹(2015)「凝集的な企業間ネットワークが発展させた映画製作の実践共同 体:製作委員会方式による日本映画ビジネスの再生」、『組織科学』、Vol.48(4)、pp.21-34。

平成27年 6 月29日(月) 於 図書館ホール

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