﹃九 真 中 経 ﹄ 考
石 井 昌 子
はじめに
『九真 中経』考
(1)本稿は六朝期道教上清派の経典研究の一環である︒これまで︑﹃三洞奉道科誠儀範﹄(略称﹃科誠儀範﹄)の﹁経目﹂に
著録されている経典と︑現行道蔵本所牧の同名或は類似していると考えられる経典との関係を経典目録作成の作業として
(2)進めてきた︒本稿はその﹁経目﹂に著録する﹃上清九真中経黄老秘言一巻﹄(略称経目本﹃九真中経﹄)についての考察で
ある︒
まず︑相当する現行道蔵本について︑その内容を概説し︑次に古道経の引用文と現行本の関係を明らかにし︑それらを
ふまえて︑古道経引用経典名とその相互関係を考察するといった順序で論を進める︒
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相当する現行本
経目本﹃九真中経﹄に相当すると考えられる経典は︑以下の現行道蔵本の四経典といえる︒
ω上清太上帝君九真中経(略称道蔵本﹃九真中経﹄)
②上清九真中経内訣(略称﹃九真中経内訣﹄)
㈹上清太上九真中経緯生神丹訣(略称﹃緯生神丹訣﹄)
ω上清八道秘言図(略称﹃八道秘言図﹄)
以下道蔵本の四経典について概説する︒
道蔵本﹃九真中経﹄は︑﹃道蔵﹄既字号︑第一〇四二冊所牧の上下二巻より成る経典である︒巻上は十六紙より成り︑
﹁太虚真人南嶽上仙赤松子伝﹂とある︒﹁太上帝君九真中経内訣﹂の副題があり︑牧めてある内容は以下の四項目である︒
九真法(第一真法から第九真法)
太上帝君九真宝符文(原閾符)
中央黄老君八道秘言章
太素上清致帝君五神気法
﹁九真法﹂は﹁九真内訣﹂﹁太上飛文﹂﹁外国放品﹂﹁神州霊章﹂という四つの名称があるが一つの宝書である︑と説く︒
﹁九真宝符文﹂については︑この符を八節の日に朱書して服すことを記す︒﹁八道秘言章﹂は﹃八道秘言図﹄と同内容のも
のである︒﹃八道秘言図﹄の紹介のところで︑その相違については述べる︒﹁五神気法﹂はその実践方法を説き︑修めるこ
と十八年にして白日昇天する︑という︒
『九真 中経 』 考
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巻下は二十五紙から成り︑以下の七項目を牧める︒
太上玉農諺儀奔日赤景玉文︑太上玉農結燐奔月黄景玉章(奔日月隠道)
太上八景四蘂紫漿五珠緯生神丹方経序(一名三華飛丹経︑張道陵護井註)
太上八景四蘂紫漿五珠緯生神丹方経
太一餌塊飽雲屑神仙上方
太一玄水雲華漿法
太一大四鎮円方
太一胎精菖蒲円散方
﹁太上玉農欝儀奔日赤景玉文︑太上玉展結燐奔日黄景玉章﹂は﹃緯生神丹訣﹄に相当する個所がある︒﹃九真中経内訣﹄は﹃道蔵﹄似字号︑第五八九冊所牧の六紙から成る経典で︑﹁太虚真人南嶽上仙赤松子述﹂とある︒道
蔵本﹃九真中経﹄は﹁赤松子伝﹂とあったが︑赤松子によるものであることは確かである︒牧める﹁法﹂は以下の六種の
法である︒
餌丹砂法
又法
蕪太一法(図有り)
蕪青龍白虎朱雀玄武諸符法
蒸萱勝法
与素女蒸胡麻法﹃縫生神丹訣﹄は﹃道蔵﹄既字号︑第一〇四二冊所牧の二十二紙から成る経典で︑内容は以下の五項目を牧める︒
携童之道(五神及二十四神之法)
南極元君玉経宝訣
太上廻元隠道用除罪籍内篇
帝君九陰之道
太上玉展諺儀奔日赤景玉文︑結燐奔月黄景玉章(奔日月之道)
最後の﹁奔日月之道﹂は︑道蔵本﹃九真中経﹄巻下の﹁奔日月隠道﹂に相当する︒そのうちーb8から3a4までの部
分を欠くが︑他の部分は文字の相違︑それも誤写によるものと思われ︑内容は一致するといってよい︒﹁奔日月之道﹂の
二経は︑西玄山洞台中にあって︑玉簡に刻み金字で書いてある︑という︒内容は﹁太上欝儀日中五帝誰字服色﹂﹁太上結
燐月中五帝夫人諦字服色﹂について記し︑﹁奔日月之道﹂の実践方法を述べる︒
﹃八道秘言図﹄は﹃道蔵﹄国字号︑第一九六冊所牧の十紙から成る経典である︒道蔵本﹃九真中経﹄巻上の﹁中央黄老
君八道秘言章﹂に相当する︒相違する点は︑﹁秘言﹂ごとに図があり︑その説明文が付いていることと最後の一紙分が多
いことである︒次に図の説明文を記しておく
一道秘言⁝⁝碧蒼冠浅緑帳紅騰衣紅旗五色雲童子取宜装
二道秘言⁝⁝青冠紅砲青縁五色雲外取宜装
三道秘言⁝⁝碧冠浅緑雲鶴被紅旗外並取宜装
四道秘言⁝⁝帝金冠経服青縁紅旗五色雲外取宜装
五道秘言⁝⁝金冠緯服青縁紅旗五色雲外取宜装
六道秘言⁝⁝冠問金緯服青縁五色雲外取宜装後同
七道秘言⁝⁝(図あるも説明文なし)
八道秘言⁝⁝(図あるも説明文なし)
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『九真 中経』考二古道経の引用文と現行本の関係
(3)(4)(5)(6)引用文のある古道経は︑﹃紫陽真人内伝﹄﹃真詰﹄﹃無上秘要﹄(略称﹃秘要﹄)﹃三洞珠嚢﹄(略称﹃珠嚢﹄)﹃上清道類事
(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)相﹄(略称﹃事相﹄)﹃道典論﹄﹃斎戒錬﹄﹃至言総﹄﹃要修科儀戒律抄﹄﹃雲笈七籔﹄(略称﹃七籔﹄)﹃太平御覧﹄(略称﹃御
覧﹄)の十一経典である︒引用文と現行本との比較対照はすべておこなってあるが︑紙数の都合もあるので︑長文の引用
については︑双方の相当する個所を示し︑問題点を指摘するにとどめる︒所在の表記は︑巻・紙数・表裏・行とし︑巻五
第二紙表一行は︑5/2a1のように示し︑引用文の出典名は所在を示した後に﹁右出九真中経﹂の如く示す︒経典名の
みの引用の場合は︑その前後の文を示しておく︒
︽紫陽真人内伝︾
①10b3
むむ乃登景山遇黄台万畢先生受九真中経︒
紫陽真人周君が所受した経典の一つである︒経典名のみの引用である︒
②16b5
むむむ 万先生九真中経(在景山黄台中)︒
①において所受した経典の目録が﹁周君所受道真書目録﹂として後にまとめて記してあるものの一部分である︒経典名
のみの引用である︒
﹃紫陽真人内伝﹄の引用は以上の二個条である︒①と②は同内容のものと考えてよい︒
︽真詰︾
①5/2a1
君日︑老君者太上之弟子也︑年七歳而知長生之要︑是以為太極真人︒
君日︑太極有四真人︑老君処其左︑侃神虎之符︑帯流金之鈴︑執紫毛之節︑巾金精之巾︑行則扶華農蓋乗三素之雲
む むむ(此二条事出九真中経即是論中央黄老君也︑黄老為太虚真人︑南岳赤君之師斐既師︑赤君所以崇基本始而陳其徳位也)︒
道蔵本﹃九真中経﹄巻上1a4から2a2に相当する文あり︒即ち︑冒頭からの﹁中央黄老君者太上太微天帝君之弟也︒
1略1︒年七歳傍自知長生之要︑1略1︒道成受書為太極真人﹂に相当し︑二条目はーb9から2a2までで文字の
相違が多少あるだけである︒
②5/2a4
む 君日︑道有九真中経︑老君之秘言也︑在世︒
経典名の引用であるが︑①に相当すると同様の個所に﹁於是太上授以帝君九真之経八道秘玄之章﹂(1a7)の文があ
る︒﹁在世﹂とあるから世に流布していたと思われる︒
﹃真詰﹄の引用は以上の二個条である︒﹃真詰﹄の引用する﹃九真中経﹄は現行本と大差ないものと考えてよいであろう︒
︽秘要︾
①5/3a1〜3b3
(人品)
右出洞真九真中経
『九真 中経』考
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道蔵本﹃九真中経﹄上/2a10‑b9までに相当する︒文字の相違が多少あるのみである︒
②5/9b8〜11a7
(身神品)
右出洞真九真中経
道蔵本﹃九真中経﹄上/3a7〜8b8までに相当する︒第一真法から第九真法までの最初の三行或は四行を引用し︑
以下を省略しているので︑﹃秘要﹄の各最初の部分を記し︑その部分が相当する現行本の個所と﹁真法﹂を示しておく︒
正月本命日⁝⁝上/3a7〜9(第一真法)
三月本命日⁝⁝上/4a2〜4(第二真法)
四月本命日⁝⁝上/5a4〜7(第三真法)
六月甲辰日本命日⁝⁝上/5b7〜9(第四真法)
七月三日及本命日⁝⁝上/6a8〜10(第五真法)
八月十五日及本命日⁝⁝上/6b9〜7a1(第六真法)
九月十九日及本命日⁝⁝上/7a10〜b3(第七真法)
十月二十日及本命日⁝⁝上/9a3〜5(第八真法)
十一月二十八日本命日⁝⁝上/8b6‑8(第九真法)
本命日の相違が一個所(十月二十日が現行本は十二日とある)と文字の相違が多少あるのみで︑﹁二十日﹂と﹁十二日﹂
の相違は︑﹃秘要﹄の誤写ではなく︑道蔵本の誤りと思われる︒
③17/‑b9
(衆聖冠服品上)
中央黄老君侃龍玄之文神虎之符︑帯流金之鈴︑執紫毛之節︑巾金精巾或扶華展冠︒
右出洞真九真中経
道蔵本﹃九真中経﹄上/1h9以下に相当する︒脱句︑脱字︑誤写と思われる文字がそれぞれ一個所あるが︑﹃秘要﹄
の﹁衆聖冠服品﹂所牧ということから考えると︑かかわりのある部分のみを引用したということになろうか︒
④18/1a4〜5a4
(衆聖冠服品下)
右出洞真九真中経
﹃秘要﹄のこの個所に牧めるものは﹁日帝冠服﹂﹁月夫人冠服﹂﹁九星君冠服﹂﹁九星内妃冠服﹂の四項目である︒現行本
に相当するのは﹁日帝冠服﹂﹁月夫人冠服﹂が︑道蔵本﹃九真中経﹄下/4a1以下と﹃緯生神丹訣﹄17a5以下である︒
﹁九星内妃冠服﹂は﹃緯生神丹訣﹄11a10以下に相当する︒﹁九星君冠服﹂は相当するものが見当たらないが︑﹃秘要﹄18
/5a5に﹁九星夫人冠服﹂を︑﹁五星帝君冠服﹂﹁五星夫人冠服﹂とともに﹁右出洞真廻元九道飛行羽経﹂として引用し
ている︒﹃洞真廻元九道飛行羽経﹄は﹃鉄経目録﹄に﹃上清廻元九道飛行羽経﹄と著録されるものと思われる︒対照する
ことはできないが︑﹃秘要﹄の引用文から考えて︑﹁九星君冠服﹂は﹁九星夫人冠服﹂と同じ経典に収めるものであろう︒
相当する個所で︑引用文と現行本の相違点は︑引用文は﹁日帝冠服﹂﹁月夫人冠服﹂﹁九星内妃冠服﹂とそれぞれの﹁冠
服﹂の個所のみを引用していることである︒﹁冠服﹂の個所は現行本とほとんど一致し︑文字の違いが多少あるのみであ
る︒参考までに︑各冒頭の部分を以下に記す︒
(九真中経)
太上諺儀日中五帝誰字服色
日中有青帝諌円常元字照龍輻衣青玉錦被蒼華飛羽裾首建翠蓉扶展冠
37『 九 真 中経 』 考
(秘要)
日帝冠服
日中青帝衣青玉錦被蒼羽飛華裾翠容扶農冠
また︑﹁九星内妃冠服﹂が現行の道蔵本﹃九真中経﹄に相当する個所がなく︑﹃緯生神丹訣﹄にのみ相当する個所がある
のは︑この項目は﹁帝君九陰之道﹂の中にあり︑﹁奔日月之道﹂には相当しないからである︒こうみてくると④の引用文
中に﹁九星内妃冠服﹂が入っていることも不自然といえる︒これは﹃緯生神丹訣﹄と道蔵本﹃九真中経﹄の関係をみてい
く点でも重要である︒引用文と現行本を対照していく過程で︑少しはその関係が明らかになるかもしれない︒
⑤19/1b8
(天帝衆真儀駕品)
真皇所乗三素之輿左御縫驚右轡霊烏︒
中央黄老君駕欝華飛龍乗三素之雲︒
右出洞真九真中経
最初の一行は道蔵本﹃九真中経﹄上/11a5以下の﹁玄母所乗三素之輿︑元父所控赤羽飛車︑左御縫鶯右轡烏﹂に相当
する︒次の行は同上/1a9以下の﹁中央黄老君︑1⊥踏1︒駕欝華飛龍乗三素之雲﹂に相当し︑完全に一致する︒
⑥30/3a5・8
(経文出所品)
洞真中央黄老君八道秘言経
太虚真人南嶽赤松子日︑此経或名九素上書︑或名太極中真玉文︑或名八道金策︒
右出洞真中央黄老君八道秘言経