論文審査の結果の要旨
氏名:齋 藤 五 月
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:口腔扁平上皮癌細胞におけるウアバインのシグナル伝達について 審査委員:(主 査) 教授 鈴 木 直 人
(副 査) 教授 浅 野 正 岳 教授 飯 沼 利 光 教授 松 村 英 雄
口腔癌(oral squamous cell carcinoma; OSCC)の大部分は扁平上皮癌であり,恒常的な転写因子の活 性化により種々のサイトカインが構成的に産生されている。これらのサイトカインは腫瘍の進展・増 殖に関与するため,その産生を抑制することは,OSCCの浸潤増殖を抑止する有効な手段となりえる。
強心配糖体は,構造的に共通のステロイド骨格を有する物質であり,様々な生物学的効果を発揮す る。ウアバインは強心配糖体に属し,強心作用に加え抗癌作用があることが報告された。この報告以 後,様々な癌細胞への感受性が検討されてきたが,OSCCに対する効果は未だ明らかにされていない。
本研究では,OSCC に対するウアバインの抗癌作用について検索する前段階として,そのシグナル 伝達経路について検討を行った。
ヒト口腔扁平上皮癌由来株化細胞であるHSC3を0,30,60および120 μMのウアバイン存在下で1 時間培養し,培養上清中のIL-8およびIL-1α濃度をenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)によ り測定した。また,カルシウムキレート剤であるBAPTA-AM(10μM)及びreactive oxygen species(ROS) 阻害剤であるL-glutathione(10μM)により1時間前処理することにより,カルシウムイオンおよびROS の IL-8 産生への関与について検討した。遺伝子発現の変化については real-time polymerase chain reaction(PCR)により検討した。Luciferase assay 用の reporter vector は,IL-8 遺伝子の非翻訳領域
(untranslated region: UTR)(TATA box上流1.3 kb)をPCRにより増幅し,pGL4 vectorにサブクロー ニングしNF-κB-long vectorとした。この領域に含まれる上流のNF-κB結合部位を欠失したNF-κB-short vectorをsite-directed mutagenesisにより作製した。HSC3細胞に5時間transfectionし,30 μMのウアバ イン存在下または非存在下で1時間培養後,細胞溶解液を回収し,Dual-Luciferase Reporter Assay System にてルシフェラーゼ活性測定を行った。Western blottingはHSC3細胞をウアバインで1時間刺激後,
細胞溶解液を0,15,30および60分後に回収し行った。免疫蛍光染色は細胞をウアバイン30 µMの 存在下または非存在下で6時間培養した後に行った。蛍光顕微鏡で画像を撮影すると同時に,蛍光強
度をImage Jを用いて測定した。
その結果,以下の結論を得ている。
1.
HSC3によるIL-8産生は,ウアバイン濃度依存的に抑制されたのに対し,IL-1α産生は増強した。2.
ウアバインによるIL-8産生抑制は遺伝子レベルで調節されており,カルシウムイオンとROSが 関与していることが明らかとなった。3.
IL-8遺伝子調節領域のTATA box上流約1 kbに存在するNF-κB結合部位が発現抑制に深く関与し ていた。4.
ウアバイン刺激15 ~ 30分後にc-Junおよびc-Fosのリン酸化が有意に増強した。5.
ウアバイン刺激によりNF-κB p65サブユニットは細胞質に移行する傾向を示した。本研究の結果は,ウアバイン刺激のシグナル伝達経路の一端を解明したものである。癌治療におけ る強心配糖体の使用は細胞特異的な反応を考慮し,その効果を事前に充分検討することが必要である ことを示唆するものであり,歯科医学の進展に寄与するものと考えられた。
よって本論文は,博士(歯学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上 平成31年3月12日