コモンマーモセットにおける腎線維化モデルの確立と
ヒト TGF-β1 に対する遺伝子制御化合物
ピロール・イミダゾールポリアミドの基礎的検討
日本大学大学院医学研究科博士課程 内科系腎臓内科学専攻
大月 正理
修了年 2018 年
指導教員 阿部 雅紀
目次
第1章 研究の概要 ... 1
第2章 研究の背景 ... 4
2-1.慢性腎臓病(CKD)の病態 ... 4
2-2.ピロール・イミダゾール(Pyrrole-Imidazole : PI)ポリアミド ... 5
2-3.TGF-β1に対するPIポリアミドの創薬開発 ... 5
2-4.コモンマーモセット ... 7
2-5.腎線維化モデルの作製 ... 7
第3章 研究の目的 ... 9
第4章 研究の材料と方法 ... 10
4-1.実験動物 ... 10
4-2.コモンマーモセットの腎線維化モデルの作製 ... 11
4-2-1)シクロスポリン腎症モデル ... 12
4-2-2)UUO水腎症モデル ... 12
4-3.ヒトTGF-β1 PIポリアミドの効果 ... 13
4-4.ヒトTGF-β1 PIポリアミドの溶解とコモンマーモセットへの投与方法... 14
4-5.コモンマーモセットの腎組織採取と保存方法 ... 14
4-6.病理組織学的評価 ... 14
4-6-1)Hematoxylin Eosin(HE)染色、Masson Trichrome(Masson)染色 . 15 4-6-2)Glomerular injury score(GIS)、Tubulointestitial injury score(TIS) ... 15
4-6-3)免疫組織学的染色 ... 16
4-7.コモンマーモセット腎組織からの RNA 抽出と cDNA 作製、リアルタイム RT-PCR ... 20
4-8.統計処理 ... 21
第5章 研究の結果 ... 22
5-1.コモンマーモセットの腎線維化モデルの作製 ... 22
5-1-1)シクロスポリン腎症モデル ... 22
5-1-2)UUO水腎症モデル ... 24
5-2.コモンマーモセットのUUO水腎症モデルに対するヒトTGF-β1 PIポリアミ ドの効果 ... 25
第6章 小括 ... 27
第7章 考察 ... 28
第8章 結論 ... 35
第9章 謝辞 ... 36
第 1章 研究の概要
現在の高度医療を持ってしても進行性腎障害の治療薬は存在しない。進行性 腎 障 害 の 病 態 の 中 心 で あ る 腎 線 維 化 は 尿 細 管 の 上 皮 間 葉 化 (Epithelial Mesenchymal Transition : EMT)、細胞外基質の増生、線維芽細胞の浸潤で、
transforming growth factor - beta1(TGF-β1)が責任分子である。
ピロール・イミダゾール(PI)ポリアミドは、DNA認識抗生物質から見いだ された中分子ペプチド化合物で、DNAの塩基配列に特異的に結合することがで きる。日本大学医学部ではこれまでTGF-β1のプロモーター領域を標的とした PI ポリアミドを分子設計・合成し、特に線維性疾患の治療薬の創薬開発を目的 としてマウス及びラットを用いた血管狭窄モデルや、皮膚肥厚性瘢痕モデル、
腎障害モデルでの薬物効果確認や、薬物動態、毒性、副作用などについて検討 し、その有効性を確認してきた。しかし、ヒト TGF-β1 に対する PI ポリアミ ドの創薬開発に向けて、前臨床試験として、よりヒトゲノムに近い霊長類を使 用して検証する必要がある。そこで、ヒトのゲノム構造に相同性の高いコモン マーモセットを用いた検証を、公益財団法人・実験動物中央研究所との共同研 究として行うこととした。コモンマーモセットを用いた先行の研究として、線 維性疾患の一つである皮膚肥厚性瘢痕に対するヒト TGF-β1 PI ポリアミドの 局所投与による検討が行われ、その有効性が確認された。次ぐ本研究では、新 たな腎線維化モデルとしてコモンマーモセットのシクロスポリン腎症モデルと 片側尿管結紮術(Unilateral ureteral obstruction : UUO)水腎症モデルを作製
し、ヒトTGF-β1 PIポリアミドが腎線維化を抑制する可能性があるかどうかを
検討した。
シクロスポリン腎症モデルでは、まず腎症作製のためのシクロスポリンの投
与量を検討することとした。シクロスポリン投与開始の 1 週間前より飼料を低 塩・低マグネシウム(Mg)食とし、シクロスポリンは4週間連日皮下投与を30
mg/kg/day の低用量で行ったが、腎臓に組織学的な変化は認められなかった。
次いで行った35 mg/kg/dayの4週間連日皮下投与でも腎臓に組織学的変化は認 められなかった。そこで、50 mg/kg/dayに増量して4週間連日皮下投与を試み たが、横紋筋融解症や高血糖などのシクロスポリン投与によると思われる副作 用が試験終了までに出現し、実験を中断せざるを得ない個体も出現したため、
モデル作製に適切な用量ではないと判断した。50 mg/kg/dayでは過量と判断し たため、40 mg/kg/dayの4週間連日皮下投与としたが、シクロスポリン投与に よる副作用と思われる所見は認められないものの、腎臓の組織学的変化は乏し かった。さらに、シクロスポリン投与による副作用の出現には個体差があった が、腎臓の組織学的変化は副作用の出現の有無には関与していないことがわか り、その原因としてコモンマーモセット特有の IgA 腎症様の腎障害の自然発症
(Wasting marmoset syndrome)が考えられ、個体間での比較となるシクロス ポリン腎症モデルによるヒト TGF-β1 PI ポリアミドの薬効の評価は困難と判 断した。UUO水腎症モデルでは、右の尿管を2ヶ所結紮しその中間を切除して モデルを作製した。UUO水腎症モデルによる腎臓の線維化が起こることは既に マウスやラットのモデルで確認されており、コモンマーモセットでも結紮術施 行から 3 週間経過すると腎臓の線維化が生じることを確認した。自然発症の Wasting marmoset syndromeを考慮すると、同一個体で非結紮(Contralateral unobstructed kidney : CUK)側とUUO側を比較できるため、薬効の多角的な 評価が可能で、ヒトTGF-β1 PIポリアミドの効果を評価する腎線維化モデルと して適切であると判断した。
討を行った。右の尿管を結紮し、UUO水腎症モデル作製から1週間後より、ヒ
トTGF-β1 PIポリアミドを経静脈的に1 mg/kg/weekの濃度で生理食塩水に溶
解して投与することとした。その後、摘出した腎臓を用いて、Hematoxylin Eosin
(HE)染色、Masson Trichrome(Masson)染色から得られた糸球体障害スコ ア(Glomerular injury score : GIS)や間質障害スコア(Tubulointestitial injury score : TIS)、TGF-β1、E-cadherin、α-smooth muscle actin(α-SMA)の免 疫染色による組織学的検証を行った。また、リアルタイムReverse Transcription Polymerase Chain Reaction(RT-PCR)でTGF-β1のmRNA(transforming growth factor beta1, TGFB1 mRNA)の発現やEMTや線維化に関与するとさ れるSnailのmRNA(snail family transcriptional repressor 1, SNAI1 mRNA)
の発現、α-SMA の mRNA(actin, alpha 2, smooth muscle, aorta, ACTA2
mRNA)の発現も評価した。その結果、ヒト TGF-β1 PI ポリアミド投与群は
TISが有意に低下していた。GISやTGFB1 mRNA、SNAI1 mRNA、ACTA2 mRNAは、実験に使用できた個体数が少ないことや個体差が大きいことから統 計学上有意な差は得られなかったが、ヒトTGF-β1 PIポリアミド投与群で線維 化を抑制する可能性を認め、ヒトTGF-β1 PIポリアミドはヒトに近い霊長類で あるコモンマーモセットの腎線維化モデルにおいて有効な可能性があると考え られた。今後は、進行性腎障害に対する実地医薬として創薬開発を更に進めて いく。
第 2章 研究の背景
2-1.慢性腎臓病(CKD)の病態
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease : CKD)の概念は2002年に米国で提唱 された 1。CKD は①腎障害を示唆する所見の存在(尿検査異常、画像異常、血 液検査異常、病理所見など)、②糸球体濾過量(Glomerular filtration rate : GFR)
60 ml/分/1.73㎡未満、のいずれかまたは両方が3ヶ月以上慢性的に持続するも
のすべてを含む疾患概念で、特に尿蛋白の存在は重要な所見である2。CKDは、
進行すると人工透析や移植を必要とする末期腎不全(End-stage renal disease : ESRD)につながるだけでなく、心血管疾患(Cardiovascular disease : CVD)
の高率な発症リスクとなる 1,3,4 ため、早期発見、早期治療介入が必要である。
CKDの原疾患となりうる糖尿病性腎症や高血圧性腎硬化症、慢性糸球体腎炎の いずれにおいても、共通となる病態は腎内虚血と腎線維化、腎性貧血である5–7。 CKD に お け る 腎 線 維 化 の メ カ ニ ズ ム と し て 腎 尿 細 管 の 上 皮 間 葉 化 現 象
(Epithelial Mesenchymal Transition : EMT)が主体であることが確立されて
おり、TGF-β1がEMTの責任分子の一つとして知られている8。すなわち、腎
臓に慢性的な虚血が起こると、腎内レニン-アンギオテンシン系(RAS)の活性 化が起こり、増加した腎内組織のアンギオテンシンⅡ(Angiotensin Ⅱ: AngⅡ)
が糸球体のメサンジウム細胞の増殖や、細胞外マトリックス(Extracellular
Matrix : ECM)の増生を起こし糸球体硬化が生じる。また、Ang Ⅱは更にTGF-
β1の転写活性も増加させるため、その発現亢進により線維芽細胞の遊走や尿細 管上皮のEMTが引き起こされる。そしてさらにTGF-β1の下流に位置する増 殖因子connective tissue growth factor(CTGF)の発現が亢進すると間質の線
このように CKD における腎線維化のメカニズムが明らかになってきた 9,10が、
RAS 阻害剤を使用しても腎線維化は十分に抑制できず、新規治療薬の開発が待 ち望まれている。
2-2.ピロール・イミダゾール(Pyrrole-Imidazole : PI)ポリアミド
PIポリアミドは、1996年にカリフォルニア工科大学のPeter B. Darvan教授が 抗生物質から発見したDNAの塩基配列に特異的に結合する中分子化合物である
11。2本鎖DNAの表面にある浅い溝のminor grooveにDNAの各塩基との間で水 素結合を介して可逆的に結合し、Pyrrole(Py)/ Imidazole (Im)ペアがCytosine
(C)–Guanine(G)を、Py / PyペアがAdenin(A)–Thymine(T)またはT – Aを、Im / PyペアがG – Cの塩基配列を認識し、任意のDNAに特異的に強力に 結合するため、ターゲットとなる遺伝子のプロモーターに結合するように設計 すると、転写因子の結合を阻害して遺伝子の転写を制御することができる(図1)。 PIポリアミドは既存の核酸医薬と異なり、核酸分解酵素で分解されず細胞や生 体内で安定であること、ベクターやデリバリー試薬なしに細胞の核に取り込ま れること、様々な遺伝子をターゲットとして自由に分子設計ができることなど の特徴がある。
2-3.TGF-β1に対するPIポリアミドの創薬開発
TGF-β1は細胞の分化や増殖、運動の制御などの機能をもち、ECMの増生、
線維芽細胞の遊走などの創傷治癒に関与していることが知られており、その作 用は多彩である 12。一方で、肝硬変症、肺線維症、CKD、肥厚性瘢痕などの線 維性疾患において TGF-β1 はその病態の責任分子であることが知られており
8,13,14、これらの疾患ではTGF-β1の発現制御は新たな治療のターゲットとして
期待されているが、現状ではTGF-β1に対する効果的な治療法は確立されてい
ない。線維化の主体とされるEMT はE-cadherinの脱落とα-SMAの上昇で定 義される 9。TGF-β1 により誘導される EMT では、TGF-β1 の発現の亢進と その下流のSmadカスケードの亢進により、Snailの発現が誘導され、Snailは
E-cadherin の転写を抑制するため、E-cadherin の上皮細胞からの脱落が生じ
る。また、TGF-β1 により誘導されたα-SMA も発現が亢進し EMT が進行し ていく。日本大学ではこれまで TGF-β1 プロモーターに対する PI ポリアミド がラットの腎症 15,16、血管再狭窄 17、腹膜硬化症 18、角膜損傷 19、皮膚瘢痕 20 を著明に抑制する事を報告した。またヒト TGF-β1 に対する PI ポリアミド、
ヒト TGF-β1 ポリアミドがヒト血管平滑筋細胞の TGF-β1 発現を抑制する事
も確認した 21。このように、ラットやマウスによる実験や In vitro では有効性 を確認できたが、現状ではヒトにPIポリアミドのようなペプチド化合物を投与 することは不可能で、よりヒトに近い疾患動物モデルを使用してその効果の検 証をする必要がある。そこで、ヒトの遺伝子と約86%の相同性を持つ霊長類コ モンマーモセットを用いた検証を、公益財団法人・実験動物中央研究所との共 同研究として行うこととなった。まず、ヒトTGF-β1 PIポリアミドの局所投与 による効果の確認として、皮膚肥厚性瘢痕に対する前臨床試験が施行された。
コモンマーモセットの皮膚に切創を作り形成した肥厚性瘢痕に、軟膏化したヒ
トTGF-β1 PIポリアミドを塗布し観察したところ、ヒトTGF-β1 PIポリアミ
ド塗布例で瘢痕は形成されなかった22。このことから、ヒトTGF-β1 PIポリア ミドはヒトにゲノム構造が近い霊長類のコモンマーモセットでも局所投与で有 効であることが確認された。そこで、本研究ではコモンマーモセットの腎線維 化モデルを作製し、ヒトTGF-β1 PIポリアミドの全身投与による進行性腎障害 に対する効果を検討した。
2-4.コモンマーモセット
コモンマーモセット(学名 : Callithrix jacchus)は南米に生息する新世界ザ ルの一種で、体長約 20~30cm、体重約 200~300g と小型で扱いやすく、繁殖 も安定している。また、新世界ザルで唯一全ゲノム解析が完了しており、マウ スよりもゲノム構造がヒトに近いことが判明しているため、前臨床実験モデル 動物として用いられている。本研究では、コモンマーモセットの動物実験を行 っている公益財団法人・実験動物中央研究所と日本大学の間で共同研究を行う 契約を結び、シクロスポリン腎症または片側尿管結紮術(Unilateral ureteral obstruction : UUO)水腎症によるコモンマーモセットの腎線維化モデルの確立 を目指し、作製したコモンマーモセットの腎線維化モデルを用いて、ヒトTGF- β1 PIポリアミドの腎線維化に対する効果を共同で検討することとなった。
2-5.腎線維化モデルの作製
シクロスポリンはカルシニューリンインヒビターとして免疫抑制作用を示す 薬剤として治療に用いられるが、重大な副作用として腎障害が知られている。
シクロスポリン腎症には急性、慢性の変化があるが、急性は可逆的で、用量依 存性に輸入細動脈を収縮することによって生じる。シクロスポリン投与により 細胞内Caイオン濃度の増加、エンドセリン放出を伴う内皮細胞障害、血管拡張 性プロスタグランジン(Prostaglandin : PG)E2、I2の産生低下、一酸化窒素
(Nitric oxide : NO)の産生低下などの変化が生じ、腎血管のうち特に輸入細動 脈が血管収縮し腎血流量が低下する 23。病理組織学的変化としては尿細管病変 が主体である。シクロスポリン投与によりTGF-β1の産生が亢進されることは 報告されており 24,25、TGF-β1は AngⅡの産生亢進を招き、NO の産生低下が 生じると考えられている 26。シクロスポリンは血管内皮細胞障害(血栓性微小 血管障害)、尿細管機能障害、尿細管間質線維化も引き起こす。一方慢性では、
持続する内皮細胞障害による慢性血管障害とこれによるネフロンの減少により
hyperfiltration の機序で細小動脈病変、巣状糸球体硬化症様病変、間質の線維
化などが起こる。病理組織学的には血管と間質の線維化が主体となる。更にシ クロスポリンは、低 Mg 血症も引き起こすことが知られており 27、腎尿細管線 維化にはnuclear factor kappa B subunit 1(NFKB1)の活性化が関与するが、
Mgの補充によりNFKB1活性化だけでなく腎障害も抑制されることが報告され
ている28,29。抗TGF-β1抗体投与によりシクロスポリン腎症の抑制が起こると
する報告もある25,30。シクロスポリン投与下で腎線維化モデルを惹起するには低 塩(0.05%)、低Mg(0.05%)食をする必要があるとの報告もある31。そこで、
低塩・低 Mg 食下でシクロスポリン投与により腎線維化モデルの作製を行うこ ととした。シクロスポリンは油脂をベースとして開発された疎水性の製剤と、
水溶によりマイクロエマルジョン化する製剤があり、本研究ではシクロスポリ ンマイクロエマルジョン製剤(Cyclosporine microemulsion pre-concentrate : Cyclosporine MEPC)と、疎水性のシクロスポリン製剤(Cyclosporine A)を 用いて検討した。
一方マウスにUUOを施行すると、片側の尿管閉塞によりTGF-β1の分泌が 刺激され、尿細管上皮細胞のEMTが生じて線維化が起こることが報告されてい る32。そこで、コモンマーモセットにUUOを施行し、新たな腎線維化モデルと して用いた。
第 3章 研究の目的
本研究は、ヒトに近いゲノム構造をもつ霊長類コモンマーモセットの腎線維 化モデルを作製すること、そしてコモンマーモセットの腎線維化モデルを用い た、創薬開発における前臨床試験としてのヒトTGF-β1 PIポリアミドの有効性 の検討が目的である。
第 4章 研究の材料と方法
4-1.実験動物
本研究を施行するにあたり、公益財団法人・実験動物中央研究所(Central Institute for Experimental Animals : CIEA)と日本大学との間で共同研究を行 う契約を結び、動物実験については実験施設である CIEA の動物実験委員会に て承認を受け(CIEA 承認番号:14016A、15025A、16034A)マーモセットを 用いた実験に習熟した実験実施者によって実施された。実験に使用したコモン マーモセットはいずれも日本クレア株式会社(東京、日本)より購入した。動 物実験は全て CIEA の動物実験に関する規定に基づいて実施された。コモンマ ーモセットは、ステンレスゲージ(39655670㎝ 3)で飼育し、温度25±2℃、
湿度45~55%で12時間ごとに照明を点灯し飼育した。それぞれの飼育ゲージに
は、給餌箱、給水設備(自動給水配管・給水ノズルまたは給水瓶)の他、とま り木、とまり台(寝床棚)などコモンマーモセットの生態や習性に配慮した器 材を設置し、飼料、飲料水は自由に摂取できるようにした。マーモセット専用
飼料CMS-1M(日本クレア株式会社、東京、日本)を基本飼料とし、必要に応
じてビタミンA、D3、E(Duphasol AE3D、共立製薬株式会社、東京、日本)、 ハチミツ(日本蜂蜜株式会社、岐阜、日本)を添加して微温湯でふやかして1 日2回給餌した。また、実験実施者と接する際はスポンジケーキやビスケット、
リンゴゼリーなどを与えた。
実験開始前のコモンマーモセットの選定基準は以下とし、可能な限り同程度 の年齢の個体を使用した。
①体重減少を伴う慢性下痢症の無いこと
・血中尿素窒素(Blood urea nitrogen : BUN)値 34.0 mg/dl以下
・血清クレアチニン(Creatinine : CRE)値 0.4 mg/dl以下
・血清アルブミン値 3.5 g/dl以上
・尿中タンパク/クレアチン比 0.5以下
・血清ヘマトクリット(Hematocrit : Ht)値 40%以上
③腹部エコーで検出できる腎臓の形態異常がない
④体重300 g以上
尚、体重の 20%以上の減少や副作用と思われる所見が出現した場合は状態に 応じて実験を中止あるいは投与量の減量、投与期間の調整により対応すること とした。
4-2.コモンマーモセットの腎線維化モデルの作製
シクロスポリン腎症モデルと片側尿管結紮術(UUO)水腎症モデルを作製し 検討した。表 1 に、それぞれに使用したコモンマーモセットの個体番号、実験 開始時の個体の月齢、体重、性別を示す。
表1 各腎線維化モデル作製に使用したコモンマーモセット
4-2-1)シクロスポリン腎症モデル
基本飼料の CMS-1M とコーンスターチ、白糖を混合して低塩(0.05%)、
低Mg(0.05%)食を作製し、コモンマーモセットに実験開始1週間前より与
えた。シクロスポリン腎症モデルは、Cyclosporine MEPCとCyclosporine A で作製することとした。シクロスポリンによると考えられる副作用が出現しな い用量で、尚且つ、4週間連日皮下投与後の実験終了時に摘出した腎組織で線 維化が確認された用量を、シクロスポリン腎症モデル作製のための用量として 決定することとした。まず、Cyclosporine MEPCを低用量(30 mg/kg/day)、 4週間連日皮下投与で開始し、投与中の経過や実験終了後の腎組織学的変化を 確認しながら 1 頭ずつ用量を調整して行うこととした。そして Cyclosporine
MEPC の結果をもとにCyclosporine Aの投与量も決定することとした。経過
中に、1 週間に 1 回、体重測定と、血液検査(血算、生化学)、尿検査(尿蛋 白定性、尿蛋白定量、尿糖定性)を行い、コモンマーモセットの飼料摂取量な どは毎日観察した。体重の 20%以上の減少や、血液・尿検査により異常を認 めた場合は実験を中止することとし、20%以下の体重減少であっても、飼料の 摂取量や体調などに応じてシクロスポリンの投与量の減量や休薬を速やかに 検討することとした。
4-2-2)UUO水腎症モデル
8時間以上絶食したコモンマーモセットにMMB(塩酸メデトミジン、ミダ ゾラム、酒石酸ブトルファノール、生理食塩水を 1:2:2:5で混合)0.15 ml/匹 およびアンピシリン注射薬 0.25 g 0.1 ml/匹の筋肉内注射を施行し、鎮静後に イソフルラン吸入で麻酔を維持した。腰背部皮膚より腎臓を触診し、直上を切 開して開腹し、腎臓と尿管の外観に異常がないことを確認した。右の尿管を
後、閉腹しUUO水腎症モデルとした。結紮術施行からまず3週間後に両側腎 の組織切片標本を作製し、線維化の発生を確認することとした。経過中の飼料 摂取量などは毎日観察し、コモンマーモセットの状態に変化がなければ、血液 検査や尿検査などは検査開始前に施行するのみとした。
4-3.ヒトTGF-β1 PIポリアミドの効果
ヒトTGF-β1 PIポリアミドはIgarashiら22が使用したものと同じものを使
用した。図4にヒトTGF-β1 PIポリアミドの結合部位と構造を示す。4-2)に おける腎線維化モデル作製の経過から、UUO 水腎症モデルが PI ポリアミドの 評価に適していると判断したため、UUO 水腎症モデルにおいてヒト TGF-β1 PI ポリアミドの効果を検討することとした。線維化の程度におけるヒト TGF- β1 PI ポリアミドの効果も検討するため、3 週間モデルと5 週間モデルを作製 し、それぞれでヒトTGF-β1 PIポリアミドの効果を検討することとした。コン トロールとして注射用水投与個体を用いた。表 2 に使用したコモンマーモセッ トの個体番号、実験開始時の個体の月齢、体重、性別を示す。また、ヒトTGF- β1 PIポリアミド投与のプロトコールを図2に示す。
表2 ヒトTGF-β1 PIポリアミドの効果に使用したコモンマーモセット
4-4.ヒトTGF-β1 PIポリアミドの溶解とコモンマーモセットへの投与方法 粉末のヒトTGF-β1 PIポリアミドを、使用前にsonicationし、注射用水で1
mg/kg の濃度に調節し尾静脈よりコモンマーモセットに静脈内投与した。コン
トロール群は注射用水を同様に1 mg/kgを尾静脈より静脈内投与した。
4-5.コモンマーモセットの腎組織採取と保存方法
キシラジン塩酸塩0.06 ml/匹及びケタミン塩酸塩0.3 ml/匹の混合筋肉注射に よる深麻酔下で大動脈全採血により放血殺を施行後、左右の腎臓を迅速に摘出 し重量を計測した。シクロスポリン腎症モデルのコモンマーモセットでは採取 したそれぞれの腎臓は10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋とした。UUO 水腎症モデルのコモンマーモセットでは、採取したそれぞれの腎臓を冠状面で 縦断し、半分割を10%ホルマリンで固定した。一方の半分割は凍結切片用ブロ ック、蛋白質・RNA抽出用凍結サンプルの作製に使用した。凍結切片用ブロッ クは、ろ紙にて十分に水分を拭った後、3 mm厚になるように片刃カミソリにて スライスし、O.C.T.コンパウンド(ティッシュー・テック)にて封入後凍結標本 用カセットに入れて液体窒素、エタノールで凍結処理を行った。蛋白質・RNA 抽出用凍結サンプルは、左右の腎臓を皮質及び髄質に分離し各チューブにおお
よそ0.1 g/本となるように分割し、液体窒素で急速凍結後、-80℃で保存した。
残りの主要臓器は10%ホルマリンに固定した。
4-6.病理組織学的評価
シクロスポリン腎症モデルと UUO 水腎症モデルの腎線維化モデルとしての 組織学的評価や、ヒトTGF-β1 PIポリアミドの効果評価のいずれの個体におい ても、病理組織学的評価は、実験終了後に摘出した腎臓を用いて行った。
4-6-1)Hematoxylin Eosin(HE)染色、Masson Trichrome(Masson)染色 CIEAにて標本作製し、評価した。
4-6-2)Glomerular injury score(GIS)、Tubulointestitial injury score(TIS)
シクロスポリン腎症モデルの40 mg/kg/dayの検体、UUO水腎症モデルの 検体、そしてヒトTGF-β1 PIポリアミドの効果評価に用いた個体の腎組織プ レパラートを用いて、GIS、TISの評価を第三者により行った。GISは標本中 で観察可能な糸球体領域を50か所、TISは標本中で観察可能な間質領域を20 か所、それぞれランダムにピックアップして、以下のように該当する組織変化 に点数をつけ、それらの合計を標準化して求められる。実験内容を示さずに観 察し評価するため、本研究では客観的な組織の評価方法として用いた。
【glomerular injury score : GIS】
0: normal appearance
1: involvement of up to 25% of the glomerulus 2: involvement of 25 to 50% of the glomerulus 3: involvement of 50 to 75% of the glomerulus 4: involvement of 75 to 100% of the glomerulus
【tubulointestitial injury score : TIS】
0: normal appearance
1: involvement of less than 10% of the area 2: involvement of 10 to 30% of the area 3: involvement of 30 to 50% of the area 4: involvement of more than 50% of the area
Ex) 以下のように計算して求める。
GIS = {( 0 × n0 )+( 1×n1 )+( 2×n2 )+( 3×n3 )+( 4×n4 )}/50 TIS = {( 0×n0 )+( 1×n1 )+( 2×n2 )+( 3×n3 )+( 4×n4)}/20
4-6-3)免疫組織学的染色
ヒト TGF-β1 PI ポリアミドの効果評価に用いた個体の腎組織における
TGF-β1、E-cadherin、α-SMA の局在を免疫組織学的に検討した。免疫組
織学的染色の方法は表3~5にまとめて示す。
表3 TGF-β1の染色の方法 1脱パラフィン
2洗浄 蒸留水 室温5分1回
3抗原賦活処理 0.01 Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)処理
(圧力Low 59 Paゲージ圧)約113℃20分、緩徐に室温に冷却
4洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回
5ブロッキング Goat serum(VECTOR、No.S-1000、USA) 室温20分 6洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回
7一次抗体 4℃一晩 Anti-Human TGF-β1 Rabbit polyclonal antibody
(Yanaihara、#Y241、Japan) 希釈倍率 ×1000
8洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回 9二次抗体
ペルオキシダーゼ標識抗マウス及びウサギIgGポリクローナルヤギ抗体
(ニチレイ、#424151、Japan)
10洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回 11発色反応
VECTASTAIN ABC-AP Reagent(VECTOR、No.AK-5001)室温60分 ImmPACT Vector Red substrate solution
(VECTOR、ImmPACT Vector Red substrate Kit) 暗室30~60秒 12洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回
蒸留水 室温5分1回 13対比染色
14脱水・透徹、封入
表4 E-cadherinの染色の方法 1脱パラフィン
2洗浄 蒸留水 室温5分1回
3抗原賦活処理 0.01 Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)処理
(圧力Low 59 Paゲージ圧)約113℃20分、緩徐に室温に冷却
4洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回
5ブロッキング Goat serum(VECTOR、No.S-1000) 室温20分 6洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回
7一次抗体 4℃一晩
Anti-E-Cadherin antibody(abcam、#ab76055、UK)
希釈倍率 ×5
8洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回 9二次抗体
ペルオキシダーゼ標識抗マウス及びウサギIgGポリクローナルヤギ抗体
(ニチレイ、#424151)
10洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回 11発色反応
VECTASTAIN ABC-AP Reagent(VECTOR、No.AK-5001)室温60分 ImmPACT Vector Red substrate solution
(VECTOR、ImmPACT Vector Red substrate Kit) 暗室30~60秒 12洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回
蒸留水 室温5分1回 13対比染色
表5 α-SMAの染色の方法 1脱パラフィン
2洗浄 蒸留水 室温5分1回
3抗原賦活処理 0.01 Mクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)処理
(圧力Low 59 Paゲージ圧)約113℃20分、緩徐に室温に冷却
4洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回
5ブロッキング Goat serum(VECTOR、No.S-1000) 室温20分 6洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回
7一次抗体 4℃一晩
Anti-Human Smooth Muscle Actin Monoclonal Mouse antibody clone:1A4
(DAKO、#M0851、USA) 希釈倍率 ×1000 8洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回 9二次抗体
ペルオキシダーゼ標識抗マウス及びウサギIgGポリクローナルヤギ抗体
(ニチレイ、#424151)
10洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回 11発色反応
VECTASTAIN ABC-AP Reagent(VECTOR、No.AK-5001)室温60分 ImmPACT Vector Red substrate solution
(VECTOR、ImmPACT Vector Red substrate Kit) 暗室30~60秒 12洗浄 0.05 Mリン酸緩衝液(PBS)pH 7.6 室温5分2回
蒸留水 室温5分1回 13対比染色
14脱水・透徹、封入
4-7.コモンマーモセット腎組織からのRNA抽出とcDNA作製、リアルタイム RT-PCR
採取した UUO 水腎症モデルコモンマーモセットの凍結ブロックを QIAzol Lysis Reagent(QIAGEN、Germany)と共にRNaseフリーの状態でホモジナ イザーを用いて均質化し、miRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNAを 溶出した。サンプルに含まれるDNAは DNaseⅠ stock solution(QIAGEN)
を用いて除去した。抽出したRNA をRNase free waterで溶解したのち濃度を 測定し、total RNAが1μgとなるよう調整した。High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems、#4368814、USA)を用いて cDNA 合成を行い、mRNAの確認はリアルタイムRT-PCR法にて行った。プローブと プライマーは表のごとくSigma-Aldrich社のリアルタイムRT-PCR用両末端修 飾プローブデザインセットを用いた。使用したプライマーの配列は表6に示す。
リアルタイム RT-PCR は、Step One Plus realtime PCR system(Applied
Biosystems)を使用して40 回増幅させた。温度設定は全て脱重合95℃20秒間、
アニーリング60℃1秒間行った。PCR産物は standard curve法による相対定 量にて測定し、18Sをendogenous controlとして求めた。
表6 各プローブとプライマー TGFB1
Probe 5’-FAM-TGACAAGTTCAAGCACAGCACACACAGCA-TAMRA-3’
Forward 5’-FAM-GATGGAAACCCGCCACGAC-TAMRA-3’
Reverse 5’-FAM-CAGGTACTGCTTCTCGGAGC-TAMRA-3’
SNAI1
Probe 5’-FAM-ACCTTCTCCCGAATGTCCCTGCTCCAC-TAMRA-3’
Forward 5’-FAM-CGTCAAGAAGTACCAGTGCCA-TAMRA-3’
Reverse 5’-FAM-TCCTGAGCAGCCGGACTC-TAMRA-3’
ACTA2
Probe 5’-FAM-TCTCCTTGATGTCCCGAACAATCTCACGCT-TAMRA-3’
Forward 5’-FAM-TGAGCGTGGATATTCCTTCGTTA-TAMRA-3’
Reverse 5’-FAM-AGTCCAGAGCTACGTAACACAG-TAMRA-3’
4-8.統計処理
リアルタイムRT-PCRの結果は平均±標準偏差で示した。GIS、TISの値は、
個々の値を実測値で示し、UUO 5週間モデルでは各群で得られた値をUUO側 値/CUK側値として求め、平均±標準偏差で示した。各群の平均の差の検定は対 応の無いt検定を用いて、P値が0.05未満を統計学的に有意とした。
第 5章 研究の結果
5-1.コモンマーモセットの腎線維化モデルの作製
5-1-1)シクロスポリン腎症モデル
表 7 に 各 マ ー モ セ ッ ト の 実 験 内 容 を 示 す 。Cyclosporine MEPC 30
mg/kg/day(I5505M)の 4 週間連日皮下投与では、経過中のコモンマーモセ
ットの体調や行動に変化はなく、血液検査、尿検査でもCyclosporine MEPC による副作用と思われる変化や、BUN値、CRE値の上昇、尿蛋白の出現など の腎機能障害を示唆する所見は出現しなかった。次に、Cyclosporine MEPC
を35 mg/kg/day(I5144M)に増量し、4日間連日皮下投与を行ったところ、
尿蛋白は(±)から(+)に、ベースラインが 140 mg/dl 前後の血糖値が、
239~259 mg/dlへと上昇したのみで、BUN値、CRE値は開始時と変わりな
く経過した。また、飼料の摂取や行動に変化も見られず、実験終了時後の腎臓 の組織でも線維化を含む組織学的変化は認めなかった(図4(A))。
シクロスポリン腎症モデル作製にはCyclosporine MEPCを増量する必要が あると考え、50 mg/kg/day(I5319M)の4週間連日皮下投与を行うこととし た。しかし投与開始から14日目に飼料の摂取が不良となり、歩行や移動が困 難となり、体重が335 gから278 gへ減少した。血液検査で腎機能障害(BUN 78.1 mg/dl、CRE 0.8 mg/dl)と、血液濃縮(Ht 57%、血清ヘモグロビン(Hb)
18.8 g/dl)、血清Glu濃度の上昇(365 mg/dl)、逸脱酵素の上昇(LDH 536 U/l、
AST 101 U/l)、K値の上昇(K 6.2 g/dl)、尿糖陽性(3+)も出現したため、
Cyclosporine MEPC 投与による副作用である横紋筋融解症の可能性や高血
回復と血液検査で血糖値、逸脱酵素、K 値などが回復したこと確認し、
Cyclosporine MEPCを42.5 mg/kg/dayに減量して再開したが、再開してから 16日目に体重が減少傾向となり、更にCyclosporine MEPCを37.5 mg/kg/day に減量した。しかし、一連の経過からマーモセットへの負担が大きく実験を終 了し、腎線維化モデルとしても適さないと判断した。
そこで、35 mg/kg/dayでは不足で、50 mg/kg/dayでは過量と考えられたた め、Cyclosporine MEPCを40 mg/kg/day(I5508M、I4711M、Y1050M)と し、検討することとし、Cyclosporine MEPC に加え、Cyclosporine A 40
mg/kg/day(I5499M)の投与による検討も行うこととした。Cyclosporine
MEPC 投与個体の2頭(I4711M、Y1050M)では、14日目、24日目に20%
以上の体重減少や衰弱を認め、低塩・低 Mg飼料を拒食し実験中断となった。
残った1頭(I5508M)は体重減少などなく実験を継続できたが、尿蛋白や血 液検査で高血糖や逸脱酵素の上昇を含む変化は見られず、病理組織学的にも腎 糸球体や間質の組織学的変化は乏しかった。GIS、TISも同様に変化に乏しか った(図4(B))。一方、Cyclosporine A投与個体では飼料の摂取に問題はな く、体重減少も見られなかった。投与から7日目頃より尿蛋白が(1+)から
(2+)へ上昇し、投与14日目よりベースラインが180 mg/dl前後の血糖値 が、360~380 mg/dlへと上昇したが、逸脱酵素などの他の血液検査所見で異 常を認めず、実験を継続した。実験終了後の腎組織では、間質の線維化と一部 で糸球体のメサンギウムの増生と硬化所見を認め、遠位尿細管、集合管に巣状 性空胞変性を認めた。また、GIS、TIS値も高い傾向にあった(図4(C))。
表7 シクロスポリン腎症モデルに使用したコモンマーモセットの実験内容
5-1-2)UUO水腎症モデル
表8にUUO水腎症モデル作製に使用したコモンマーモセット(I5414M)
の実験内容を示す。UUO水腎症モデルでは、基本飼料となるマーモセット専
用飼料CMS-1Mを与えたため、飼料の摂取に問題はなかった。また、体重減
少や衰弱などの有害事象もなく実験終了まで遂行できた。UUO 3週間施行後 の腎組織では、UUO 側に間質を中心とした線維化を確認し、GIS、TIS も高 い傾向にあった(図 5)。CUK 側にも間質を中心とした線維化を認め、GIS、
TISもUUO側より軽度ではあるが高い傾向にあり、ベースに腎臓の組織学的 障害があった可能性が示唆された。しかし、有害事象を認めず腎線維化モデル が作製でき、ベースの組織学的障害の有無についてもCUK側で評価可能であ ることから、UUO水腎症モデルを使用しヒトTGF-β1 PIポリアミドの効果 を評価することとした。さらに、線維化の程度におけるヒトTGF-β1 PIポリ アミドの効果も検討するため、UUO水腎症モデルは、UUO 3 週間モデルと
UUO 5週間モデルを作製し、それぞれでヒトTGF-β1 PIポリアミドの効果
を検討することとした。
5-2.コモンマーモセットのUUO水腎症モデルに対するヒトTGF-β1 PIポリ アミドの効果
表 9 に各実験に使用したコモンマーモセットの実験内容を示す。HE 染色、
Masson染色、GIS、TISの結果で検討すると、UUO3週間モデルでは、注射
用水投与個体、ヒトTGF-β1 PIポリアミド投与個体共にUUO側の方がCUK 側よりも線維化を認め、GIS、TISも高い傾向にあった。ヒトTGF-β1 PIポ リアミドを投与した X087Mでは、CUK側にも UUO側より軽度の線維化を 認め、TISも高い傾向にあったことから、ベースに腎組織障害があった可能性 が考えられた(図6)。UUO 5週間モデルでは、UUO側で比較すると、注射 用水投与個体の方がヒト TGF-β1 PI ポリアミド投与個体に比べ広範囲の線 維化を認めた。また、CUK側で比較すると、線維化の程度やGIS、TISには 個体による差があることが分かった(図7)。UUO 5週間モデルのGIS、TIS の結果をまとめると、GIS、TIS共にヒトTGF-β1 PIポリアミドを投与した 個体の方が低値で、TISは統計学的に有意(P値<0.05)に低値であった(図 8)。
免疫組織学的染色の結果で検討すると、UUO 3週間モデル、UUO 5週間モ
デル共に TGF-β1 は遠位尿細管を中心に、α-SMAは腎間質領域を中心に染
色されたが、ヒトTGF-β1 PIポリアミド投与個体のUUO側では同部位は染 色されなかった(図 9(A)、(B)、図 10(A)、(B))。また、E-cadherin は
UUO 3週間モデル、UUO 5週間モデル共に遠位尿細管を中心に染色されたが、
UUO 3週間モデルの注射用水投与個体のUUO側では同部位が染色されたの
に対し、UUO 5週間モデルのUUO側では同部位は染色されなかった(図11)。
TGFB1、ACTA2、SNAI1 の mRNA の発現の結果で検討すると、UUO 3 週間モデルのUUO側では、ヒトTGF-β1 PIポリアミド投与個体のTGFB1 mRNAが注射用水投与個体と同程度で、ACTA2 mRNAはヒトTGF-β1 PI ポリアミド投与個体の方が発現は低い傾向にあった(図 9(C))。UUO 5週間 モデルでは、TGFB1 mRNA、ACTA2 mRNAの発現は個体間で大きな差があ ったが、各群でまとめて検討すると、ヒトTGF-β1 PIポリアミド投与個体群 の方で低い傾向にあった。(図10(C)(D))。SNAI1 mRNAの発現はUUO 3週間モデル、UUO 5週間モデル共に、ヒトTGF-β1 PIポリアミド投与個 体側で低い傾向にあり、特にUUO 3週間モデルでは低い傾向にあった(図12)。
表9 ヒト TGF-β1 PI ポリアミドの効果に使用したコモンマーモセットの実
験内容
第6章 小括
1.コモンマーモセットによる腎線維化モデルとして、シクロスポリン腎症モデ ル、UUO水腎症モデルを作製した。
2.シクロスポリン腎症モデルは、低用量では腎線維化を含む組織変化は起こら ず、高用量ではモデル作製までにシクロスポリン投与によると思われる副作用 が出現し、モデル作製に要するシクロスポリンの用量の決定が困難だった。ま た、低塩・低 Mg 飼料を拒食した個体もあった。さらに副作用の出現には個体 差があることも分かり、個体間での比較となるシクロスポリン腎症モデルは本 研究の腎線維化モデルとして適さないと判断した。
3.UUO 水腎症モデルは、3 週間モデルでモデル作製までに有害事象の出現な
く UUO 側の腎組織に線維化が生じ、腎線維化モデルが作製できた。しかし、
CUK側でも軽度の線維化が確認されたことから、ベースに腎臓の組織学的障害 が生じている可能性が考えられ、同一個体でUUO側とCUK側の比較が可能で ある点も本研究の腎線維化モデルとして適切であると判断した。
4. ヒトTGF-β1 PIポリアミドの効果をUUO水腎症モデルの3週間モデル、
5週間モデルで検討した。5週間モデルで、ヒトTGF-β1 PIポリアミド投与群 は有意にTISが低い傾向にあった。GISや、TGFB1 mRNA、SNAI1 mRNA、
ACTA2 mRNAの発現量もヒトTGF-β1 PIポリアミド投与群で低い傾向にあっ
たが、統計学上有意な差ではなかった。
第7章 考察
シクロスポリン腎症モデルでは、Cyclosporine MEPC の投与量が低用量では 腎臓の組織学的変化は認めなかった。50 mg/kg/dayの高用量では腎機能障害と 高血糖が強く見られ、高血糖に起因する脱水やそれに伴う血液濃縮、横紋筋融 解症を疑う逸脱酵素の上昇が出現し、いずれもCyclosporine MEPCの休薬によ り回復したことから、Cyclosporine MEPC投与による副作用と考えられた。し かし、Cyclosporine MEPC 40 mg/kg/dayの投与では腎臓の組織学的変化は乏 しく、Cyclosporine MEPCではモデル作製のために要する用量の決定が困難で あった。一方で、Cyclosporine A 40 mg/kg/dayを投与した場合では、腎組織に 線維化と遠位尿細管、集合管の巣状性空胞変性を認め組織学的変化が得られた。
しかし、モデル作製までに高血糖が出現しており、4週間以上の連日皮下投与を 施行した場合シクロスポリンによる副作用がさらに出現する可能性も考えられ た。また、シクロスポリン腎症モデル作製の際は、副作用が懸念されることか ら頻回の血液、尿検査によるモニタリングが必要となり、1頭ずつ確認しながら 検討しなくてはならなかった。一般の猿類の飼料は25%の高タンパク質が良い とされ、コモンマーモセットに用いられるの基本飼料CMS-1Mも高タンパク質 である。しかしシクロスポリン投与により腎線維化を惹起するには低塩・低Mg 食に飼料を変更する必要がある 31。飼料中の塩分と Mg のみを減量することは 現実的には困難であるため、飼料を炭水化物のコーンスターチ、グラニュー糖 と混合しエネルギー量を調節して与えた。その結果、調整後の飼料中のタンパ ク質量は通常の約1/4 となり、低タンパク食となってしまった。モデル作製の 際の腎障害のモニタリングにはBUN 値、CRE値の評価は必須であり、低タン