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救命救急センターにおけるこころのケア~第1報 患者や家族への介入~

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Academic year: 2021

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(1)

<原 著>  第 48 回 日本赤十字社医学会総会 優秀演題

救命救急センターにおけるこころのケア~第1報 患者や家族への介入~

徳島赤十字病院 臨床心理士

1)

 同 ICU

2)

 同救急部

3)

高芝 朋子

1)

  藤河 周作

1)

  元木 靖代

1)

庄野まゆみ

2)

  藤田 昌子

2)

  福田  靖

3)

Psychological support in Emergency and Critical Care Center

~ the care of our Patients and their families ~

Tomoko TAKASHIBA

1)

, Syusaku FUJIKAWA

1)

, Yasuyo MOTOKI

1)

Mayumi SYONO

2)

, Masako FUJITA

2)

and Yasushi FUKUTA

3)

1)

Clinical Psychologist,

2)

Intensive Care Unit,

3)

Emergency and Critical Care Center, Japanese Red Cross Tokushima Hospital

Key words:救命救急センター、心のケア、ストレス障害

1.問題と目的

 救急臨床において、患者や家族は、危機状態 に圧倒されて苦悩や痛みを言語化することが困 難な場合が多い。そして、外傷体験や集中治療 室(Intensive Care Unit:以下、ICU)での体 験は、その後の心理状態や生活に大きく影響す る。特に、非現実的な体験を記憶している場合 や、記憶の喪失(解離)が起きている場合、恐 怖記憶が強い場合、不可逆的な身体障害や損傷 がある場合などは、退院後の生活に困難を来た

しやすい

1) 2)

。そのため、精神症状の重篤化を

予防するために、治療と同時に、患者の心理的 支援を速やかに開始したり、患者の治療意欲や 退院後の生活を支える家族の心のケアを行うこ とは重要である。

 近年、総合病院に勤務する精神科常勤医数は 減少し続けている

3)

。一方で、総合病院で勤務 する臨床心理士(Clinical Psychologist)数は 増加しているが、救命救急センターにおける臨 床心理士の役割は殆ど報告されていない。徳 島赤十字病院においても精神科常勤医は不在 で、週3時間のみ非常勤医師が入院患者のリエ ゾン・コンサルテーションを行っている。患者 やその家族の専門的な心理的支援は3名の常勤 臨床心理士が担当している。今回は、当院救命

救急センターにおける臨床心理士の活動をまと めて報告し、心のケアの役割と重要性を検討し た。

2.対  象

 2007 年4月~2013 年3月の6年間に、当院 救命救急センターで臨床心理士が介入した 123 例(男性 60 例、女性 63 例)を対象とし、診断、

治療、転帰を後方視的にまとめた。

3.結  果

 救命救急センターにおける臨床心理士の介入 件数は、増加傾向であった。特に、2007 年に 急性ストレス反応の症例を機に、病棟で『急性 ストレス障害と心的外傷後ストレス障害』の勉 強会を実施した後に依頼数が増加し、看護部の 研究テーマになるなど、心のケアへの関心の高 まりが認められた(図1)。

(1)患者への支援

 患者の平均年齢は 50.3 歳(0~83 歳)で、

60 歳台が最も多く全体の2割を占めていたが、

20 歳未満の依頼も1割認められた(図2)。入 院背景は、疾病が 57 例(46%)で最も多かっ た(図3)。診療科は麻酔科 37 例(30%)、循 環器科 28 例(23%)、整形外科 12 例(10%)

の順に多かった(図4)。

  日赤医学 第 64 巻 第2号 433-436 2013   433

(2)

 介入の背景として、臨床心理士の介入時期 は、覚醒後 24 時間以内が半数を占めていた(図 5)。また、主たる依頼理由は、自殺企図 25 例

(20%)、急性ストレス反応疑い 24 例(20%)、

精神疾患の既往がある 18 例(15%)であった

(図6)。

 介入の結果、精神疾患の既往がある患者の 割合は 38 例(30%)であった。当院退院後に

精神科医療機関へ転院する割合は2割(図7)

だったが、入院中に精神科医師による薬物治療 を要する精神的な危機状態に陥っていた患者は 67 例(55%)であった。

 患者や家族との面談にあたっては、医師や看

図2 年齢区分 図1 介入件数の推移 0

5 10 15 20 25 30 35

2007 2008 2009 2010 2011 2012

年度 例

図3 入院背景 4

8

14 1 4 10

21 26

21

5

0 5 10 15 20 25 30

10 歳以 下

10 台 20

台 30 台 40

台 50 台 60

台 70 台 80

歳 例

57例 46%

3例 2%

29例 24%

34例 28%

疾病 事故 自殺企図 事件

麻酔科 循環器科 整形外科 脳神経外科 消化器科 総合診療科 小児科 形成外科 皮膚科 代謝内分泌科 呼吸器科 産婦人科 耳鼻科 1例1%

1例1%

3例2%

3例2%

3例2%2例 2%

5例4%

6例5%

11例9%

11例9%

12例10%

28例23%

37例30%

図4 診療科 434 高芝 朋子・藤河 周作・元木 靖代・庄野まゆみ・藤田 昌子・福田  靖

(3)

失している場合は、記憶や体験の再構築を支援 した。⑤心理教育的に関わった。⑥病識がない 精神疾患患者の場合、問題点を自覚できるよう に明確化し、確実に専門治療につなげた。⑦自 殺企図やうつ病など継続した精神医療を要する にも関わらず拒否的な場合、専門治療に向かう 動機付けを行った。④⑤は、外傷周辺期の解 離が強い時や、過去に PTSD 体験があるなど PTSD 発症の危険因子がある時は、特に必要性 が高くなる場合が多かった。

4.考  察

 臨床心理士が介入した患者のうち、薬物治療 を要する精神的な危機状態に陥っていた患者は 67 例(55%)で約6割にのぼった。先行研究 によると、ICU 退院後6ヶ月経過した時点で、

3~5割が精神症状を呈し、外傷の場合は1~

3割が PTSD を発症している

4)~8)

。今回、退院 時に強いストレス症状が認められた症例は2例 で、精神疾患の既往がある患者を除くと、精 神科機関への紹介が必要な症例は1例だった。

前述した取り組みのうち、①~⑤は支持的か つ予防的な介入と考えられる。このことから、

PTSD を発症する可能性がある半年間にわたる フォローができていないことが課題であるもの の、臨床心理士の介入は、急性ストレス障害の 発症など精神症状の重篤化の予防に寄与すると 思われる。

 また、心のケアを通して、受傷や発症の体 験を、人生や命という大きな意味から捉え直 し、価値観や人生観の変容にいたる traumatic growth が認められる症例もあったことから、

救命救急センターにおける心理的支援は医療の 護師、理学療法士、管理栄養士、薬剤師、ソー

シャルワーカーなど医療チームで情報を共有し た。

(2)家族への支援

 依頼理由が家族支援だったのは 17 例(14%)

であった。主たる依頼理由が家族支援ではな い場合も、患者の心理的支援に必要な情報を聴 くために家族との面談を実施したところ、不眠 や動悸、呼吸苦など急性ストレス反応を呈して いる例が多かった。そのため、ストレス時のセ ルフコントロール法や、患者への対応の助言な ど、家族の心のケアを目的に面談を実施した症 例は 102 例(83%)だった。家族面談後、「眠 れるようになってきた」「面会時の家族の表情 が明るくなった」などの報告が得られた。

(3)臨床心理士の取り組み

 救命救急センターにおける心のケアとして、

主な取り組みは以下の通りであった。

 ①突然の事態や慣れない医療情報に混乱して いる場合、語りを通して理解度を確認し、心の 安定を補助した。②不可逆的な障害が残った場 合や、他界された場合、喪失悲嘆を出せる場を 保証した。③意思決定を支援した。④記憶を喪

図5 覚醒から介入までの日数

図6 依頼理由

図7 転帰 14例

11%

18例 15%

28例 23%

63例 51%

24時間以内 72時間以内 1週間以内 それ以上

24例 20%

18例 15%

25例 20%

8例 7%

8例 7%

14例 11%

17例 14%

6例 5%

3例 2%

自殺企図 急性ストレス反応 精神疾患既往 家族支援 表情が暗い 不安 不眠 イライラ その他

4例 7例 3%

6%

22例 18%

27例 22%

63例 51%

転院

精神科への転院 退院

死亡 その他

救命救急センターにおけるこころのケア~第1報 患者や家族への介入~  435

(4)

質の向上に繋がると考えられる。

 更に、102 例(83%)と8割の家族が何らか の精神症状を呈していたことから、家族にも患 者同様に心のケアを提供する重要性が示唆され た。

 今後も、患者と家族への心のケアの実践を続 けるとともに、スタッフに対する臨床心理士の 役割を検討していく予定である。

文  献

1) 木下佳子,井上智子:集中治療室入室体験が退院 後の生活にもたらす影響と看護変換に関する研究

- ICU サバイバーの体験とその影響-,日本ク リティカルケア看護学会誌2(2):35-44, 2006.

2) 田中耕司:ICU 症候群へのアプローチ-予防の た め の メ ン タ ル ケ ア -,ICU と CCU20(9):

753-757, 1996.

3) 見野耕一,中嶋義文:無床総合病院精神科の危機 と課題,精神医学 52(3):211-220, 2010.

4) Bonne, O., Brandes, D. et al : Longitudinal MRI Study of Hippocampal Volume in Trauma Survivors With PTSD. American Journal of Psychiatry 158 : 1248-1251, 2001.

5) Brewin, C. R., Andrews, B. et al : Diagnostic overlap between acute stress disorder and PTSD in victims of violent crime. American Journal of Psychiatry 160 : 783-785, 2003.

6) Hamanaka, S., Asukai, N. et al : Acute Stress disorder and posttraumatic stress disorder symptoms among patients severely injured in motor vehicle accidents in Japan. General Hospital Psychiatry 28 : 234-241, 2006.

7) 加藤 寛:PTSD の発症と遷延化に寄与するもの PTSD(心的外傷後ストレス障害),星和書店,

2004, p.52.

8) 松岡 豊・西 大輔:交通事故と PTSD,こころ の科学 129:66-70, 2006.

436 高芝 朋子・藤河 周作・元木 靖代・庄野まゆみ・藤田 昌子・福田  靖

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