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の役割 1秒調査申請の準備

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小樽商科大学商学部 小 林 友 彦

I。問題の所在

本研究の 目的は、農産品に対す るア ンチ ダンピング (以下、ADと略す る)措置が 利用 される場合 にJAが果た しうる役割について、実際的な方策を検討す るにあたって 有用 な理論的基礎 を碇示す ることにある1'。

AD措置 とは、特定の国か ら正常価額 を下回る価格で輸 出 された外 因産品 (農産品 か鉱工業品かを問わない) によって国内産業が損害 を被 ることを防止す るために輸入 国政府が課す行政措置である 補助金相殺 関税及び緊急関税 (セ‑フガー ド)措置 と 並 んで、1947年の 「関税及び貿易 に関す る一般協定」 (以下、GATTと略す る) にお いて国際)i,‑ルが設 け られた際に も一定の条件の下で認め られた。その後、数次にわ たる交渉 を経て、1995年 に発効 した 「世界貿易機関を設立す る協定」 (以下、WTO協 定 と略す る)の一部である 1994年の関税及び貿易 に関す る一般協定第6条の実施 に 関す る協定」 (以下、AD協定 と略す る)によって、全加盟国が AD処置 に関す るさら なる国際)レールの規律 に服す ることとなった。

農産品に対す るAD措置 を発動す るまでには、 ダンピングの認定、損害の認定及び因 果関係の認定において、鉱工業品の場合 と事情が異なる。我が国では、 これまで何度か 農産品に対す るAD措置 をとるよう申請がなされた ものの、いまだ調査が開始 された例 す らない。 しか しなが ら、所定の条件 を満た し効果的に利用 されれば、個別の不公正貿 易 に対抗す るための有周 を法的手段である。 また、AD調査 を申請 したか らといって必 ず しも関税措置のみに帰結するとは限 らず、関係国の業界団体同士の民間合意による処

1)本稿 は、今 日最 も関心が高 くかつ実際上問題 とな りやすいAD措置に対象 を限定する。多 くの論 点 においてAD措置 と補助金相殺関税措置 と共通する点があるものの、輸出補助金 を許容する農業 協定 との規律関係 に関わる問題 もあるため、補助金相殺関税措置については別稀 に譲る。

(2)

理 も可能である。

他方で、AD制度を利用す るには輸入 国側 の関係業界が総体 として取 り組 む ことが 重要であ り、相応の時間的 。経済的負担 も求め られる それゆえ、我が国に関 しては 今一度JAの果た しうる指導的 ◎調整的役割 を再検討す ることが重要 となる。

折 しも、WTO ドーハ 。ラウン ド交渉 は遅 々 としつつ も農産品市場 アクセスの改善 を追求 してお り、関税率低減 に伴 って生 じる唇際競争の激化の副産物 として ダンピン グ行為が増加すれば我が国農業界 にさらなる損害が生 じる可能性がある。我が拷政府 も、従来は鉱工業品について外国政府 にAD措置の標 的 とされることが多かった こと か らAD措置 に対 して消極 的な姿勢であった ものの、近年では国際法上認め られた手 段 としてAD措置 を適宜周いることに前向 きな姿勢 に転換 した。

24JA全 国大会 においては、国際化の もとでのJAグループの取組み として公正 な貿易 ルールの確立 に向けた取組み を強化す るとともに、海外 の農業団体 との連携 を はかることが決議 された ところである2'。それゆえ、JAAD制度について どの よう な形で公正 な貿易の確保 に貢献で きるか検討す ることは、時宜 にかなっていると言 え よう 本研究では、特 に農産品に係 るAD措置 に関 してJAが果た しうる役割 と課題 を 検討する。

Ⅱ。AD

制度の利周法

AD制度 に関 す る隅70協 定 の規律

今 日の ようなAD制度は、1911年 にカナダで最初 に法制化 されて以来、一世紀以上 にわたって貿易制限を正当化す るために用 い られて きた。1947年 GATTにおいて も、

6条における一定の要件 を満たす ことを条件 として、最恵 国待遇や内国民待遇の例 外 として認め られた。「締約国は、ある国の産品をその正常の価額 より低 い価額で他国 の商業‑導入す るダンピングが締約国の領域 における確立 された産業 に実質的な損害 を与 え若 しくは与 えるおそれがあ り、叉は国内産業の確立 を実質的に遅延 させ るとき は、そのダンピングを非薙すべ きもの と認めると規定す る第 6条第1項 第 1文 に、

2)食 と農 を結ぶ活力あ るJAづ くり農』 と 『共生』の世紀 を実現す るため に」 (24回JA 国大会決議 (平成1810月)

(3)

農業のグローバ)i,化に対応するJAの役割の研究 97

その性質が端的に表れている 正常価額 より低い価額で輸出す ることが 「ダンピング

の定義であ り、 ダンピングによって輸入国内の同種産品の生産者 に実質的損害 を与 え る叉 は与 える恐 れのある場合 に、対抗措置 として ダンピングの程度 (いわゆる 「ダン ピングマ‑ジン」)に相 当す る上乗せ関税 を課す ことが正 当化 される 上記要件 とは、

ダンピングの存在、損害又 はその恐れの存在、及び両者の因果関係の存在 の3点 に整 理 される

個 々のAD措置の発動のための手続及び要件 は各国の関係法令 に基づ くものの、AD 協定が当該関係法令の規定について国際的基準 。要件 を定めている。従来か ら、GATT 体制下で関税障壁が低減 された時期や不況期 には、競争が激化す ることに伴 って ダン

ピングが発生 しやす い とい う指摘があ り、 ダンピングに対す る対抗手段 であるAD措 置 もほぼその時期 に対応 して多用 されて きた。他方で、それが 自由競争の進展 に逆行 す るような保護主義的措置 として濫摺 されやすい とい う批判 もあ り、主要 な非関税 障 壁 として徐 々に国際的規律が強化 の明確化 されて きた3)。ケネデ ィ 。ラウン ドの成果 としての1967AD協定、東京 ラウン ドの成果 としての1979AD協定 を経て、1995 年以降は、WTO協定の一部 となった1994GATT及 びAD協定に よって、 よ り詳細 を規則が適用 される。

さらに、現在進行中のいわゆる ドーハ 。ラウン ド交渉 においては、いわゆるルール 交渉の一環 としてAD協定の さらなる明確化及び改善が追求 されている これは、 ダ ンピング 。損害 。因果関係それぞれの認定及び当初調査 。見直 し調査の手続等 におい て、各国にいまだ広 い裁量の余地が残 されてお り、各国法令が区々であることによっ て貿易 阻害効果が生 じているとい う問題意識があるためである ただ し、 ドーハ 。ラ ウン ド交渉 自体が、主 として市場 アクセス交渉の成否 に依存 してお り、妥結 までの見 通 しは不透明である上 4)㌔AD協定の改正の在 り方 については、主要な論点について加 盟国間の議論の隔た りがいまだ大 きい5)。

3)経済産業省通商政策局編 『不公正貿易報告書2009年版』(2009),229頁。

4)拙稿 WTO協定 を改正す る際の国際法上の論点‑ ラウン ド交渉による政治的合意の法的効力 を確保するための方策 『国際法外交雑誌』1053 (2006),68頁以下参照。

5)RulesNegotiatingGroup,Informal OpenEndedMeetingwithSeniorOfficials:25November 2009,StatementbytheChairman,TN/RL/W/246,27November2009,4.

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2巧我が国のAE)制度 (1)関連法令

我が国は、1910年の関税定率法改正時にAD措置 を法制化す る等 6㌦ AD措置 に関 し て100年 に及ぶ長い歴 史 を有す る 今 日にお ける関連法制 と して は〜 「関税 定率法

(以下、特 に断 らない限 り 「法」 とは本法 を指す)7)及び 「不当廉売関税 に関す る政令

(いわゆるAD政令)8'があ り、それを 「不 当廉売関税 に関す る手続等 についてのガイ ドライン」 (いわゆるADガイ ドライン)が補完す る。現行法上、AD措置 とは、 ダン ピング、損害及び因果関係が当局により認定 された場合 に、一般関税 に上乗せ した特 殊関税 を課す とい う形で叉 は価格約束 に基づいて輸入の最低価格又 は上限数量 を設定 す るという形で発動 される ダンピング、損害及 び因果関係の存否 に関す る実態的要 件及び認定手続については、AD政令及びADガイ ドラインに規定 された細則 に基づ( 9)。

AD政令及びADガイ ドラインは20093月に改訂 され10)、 より手続的な透明性が高め られた。具体 的には、仮決定の手続が明確化 された ことで、 ダンピング 。損害 。因果 関係 について確定的な判断がなされる前であって も、緊急 に救済が必要 な場合 に即応 することがで きるようになった。

関税定率法においてAD措置の規定が設け られたのは古い ものの、GATT及びWTO 協定に併せて適宜改正が施 された。 また、AD政令 はAD協定の発効 に合 わせて全面改 定 されたため、個別の手続及び要件 については、今 日おおむねAD協定 に沿 った内容 となっている。 なお、AD協定 と国内関係法令 の関係では、WTO協定発効段階で所要 の国内担保法令 を整備 した ものの、AD協定第2条、第3条、第6条等 に定める国際 義務 について国内法令 に不足があれば、AD協定 を直接適用す ることとしている11)。

(2)認定手続

まず、関税定率法第8条 は、「不 当廉売ない しダンピングについて 「貨物 を、輸 出 6)GATT,AniiDumpingandCountervailingDuties(1958),p.6.

7)明治43年法律 第54号。

8)平成6年政令第416号。

9)関税定率法第 8条第37項。

10)平成21331日政令第110号。200941日に施行 された不 当廉売関税 に関す る手続等 につ いてのガイ ドラインについては、財務省 ウェブサイ トの関連ページ参照。

http://www.customs.go.jp/tokusyu/aa̲gl.htm

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農業のグローバル化に対応するJAの役割の研究 99

国における消費に向け られる当該貨物 と同種の貨物の通常の商取引における価格その 他 これに準ずるものとしてAD政令で定める価格 (以下、 この条において 「正常価格

とい う) より低い価格で輸 出のために販売す ること」 と定義 し、その ような行為が

「本邦の産業【中略】に実質的な損害を与え若 しくは与えるおそれがあ り、又は本邦の産 業の確立を実質的に妨げる」場合に、「本邦の産業を保護するために必要があると認め

られるときは、AD関税 を課す ことができると定める (同条第 1項)。

実際にAD措置が発動 されるためには、政府による調査が行われる必要がある。 ま ず、「本邦の産業に利害関係 を有する者が上記3要件に関する十分な証拠を備えて政 府に申請を行 うか、政府 自身がそのような証拠があると認める場合に、政府は調査 を 開始する (法第8条第4項及び第5項)。AD措置が一部の非効率な生産者の保護のた めに用い られないよう、 ダンピングされる産品と同種の産品を生産する輸入国内生産 者の 「相当な割合」以上の賛同を要することとしている12)。なお、この 「相当な割合」

とは原則 として過半数を指す13)。

AD調査 は、開始 されてか ら原則 1年以内、最長で も 1年67う、月以内に終了する必 要がある (法第 8粂第 6項)。 これは、調査が長引 くことで調査対象企業の企業活動が 阻害 されることを防止す ることが 目的であ り、仮 に16か月以内にダンピング、損 害及び因果関係の判断がつ きかねる場合にはAD措置の発動が正当化で きない ものと 判断する他 ない。ただ し、調査の遂行中であって も、急激な輸入増加等か ら我が国の 産業を保護するために必要だと証拠か ら判断された場合は、最終的な結論が出るまで の閏、暫定的に政府が関税引 き上げ等のAD措置 (いわゆる 「暫定措置」ない し 「仮 措置)をとることが可能である (同条第9項)。

AD調査の最終的な帰結 としては、調査当局にはAD措置を発動するか しないか判断 することが義務付 け られる ここでAD措置には2種類の形式がある1に、ダン

ll)Seee.g.,NotificationofLawsandRegulationsunderArticles18.5and32.60ftheAgreements: RepliesofJapantoQuestionsposedbyAustralia,G/AD㌘/Ql/JPN/1,9August1996;Notication ofLawsandRegulationsunderArticles18.5and32.60ftheAgreements:RepliesofJapanto QuestionsposedbyCanada,G/ADP/Ql/JPN/2,9August1996.

12)AD政令第 4粂第 1項。

13)ADガイ ドライ ン第4 (1)パ ラグラフ。

(6)

ビング、損害又は因果関係 とい う3要件 の全 てを満たす とい う理 由で AD関税 を課す ことである2に、調査対象企業が我が国政府 に対 して、我が国の産業 に損害 を与 えないような水準の価格でのみ輸出すると約束 (いわゆる 「価格約束」) し、輸入国政 府がこれを受け入れて調査 を中止す ることである (法第8条第 7項)。

AD調査を完了 してAD措置 を発動す る際、5年 を超 えない有効期 間を設定す ること がで きる 当該期 間中に、当初調査 中に確認で きなかった事情が生 じれば、個別に見 直 しを行 う必要がある 具体 的には3種類 の見直 し手続が規定 されてい る1に、

当初調査中に調査対象 となっていなかった企業 (いわゆる 「新規供給者」)‑ のAD措 置の通庸について決定す るための見直 し (いわゆる 「新規供給者見直 し

」 )

(法第8条 第12項)がある2に、当初調査中に確認 した ダンピング叉 は損害に関す る事情の 変更があった場合 にそれを調整す るための見直 し (いわゆる 「事情変更見直 し」)(同 条第20項)がある。 また、第3に、当初設定 した期 間の満了前 までに行 う見直 し (い わゆる 「サ ンセ ッ ト見直 し」)によって、後 にダンピング及び損害が継続 し又 は再発す る恐れがあると認める場合 には、AD措置の適用 をさらに5年 を超 えない範囲で延長す ることがで きる (同条第25項及び第30粂)。

なお、 これ ら3種類 の見直 し手続 に加 えて、AD措置発動 中に輸入者が納付 した関 税の額 よりも実際のダンピングマ‑ジン (「不 当廉売差額」)が下回っていた場合、当 該輸入者 は過払 い分の還付 を求め ること (還付 請求)がで きる (法第 8条第32項)。

これは税額の更生に相当す る作業であ り、それ以降の ダンピングマ‑ジンの変更 を伴 わないとい う点で既存措置の 「変更」 を意味 しないため、上記3種類 の見直 しとは性 質を異にす る

(3)遣周実績

これまで、1947年GATTの時代 を含めてAD措置の発動実績 は4件であ り14)、 いず れ も鉱工業品に対す る措置である 現行AD協定の規律 の下で は韓 国 .台湾か らのポ リエステル短繊維 に対す る措置 と南 ア 。豪州 。中国 ◎スペ イ ンか らの電解二酸化マ ン ガンに対する措置の2件 にとどまる

14)経済産業省 ウェブサイ ト参照。

http://www.meti.go.jp/poiicy/externaLeconomy/tradeJ二OntrOl/boekikanri/traderemedy/ad/ad」葺aiyou.html

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農業のグローバル化に対応するJAの役割の研究 101

関税定率法 においでは、上述の通 りAD協定が定める 3要件 に加 えて 「我が国の産 業 を保護す るために必要があると認め られるとき」 という保護の必要性の要件 を課 し ている点で、我が国の法令 はAD措置に謙抑的だ と見 られる ただ し、いかなる場合 に 「必要があると認め られるかについて、本法の実施の細則 を定めるAD政令 にお いて規定がな(15'この要件が実務上いかなる意義 を有す るかについて法令上の不明 確 さがある 法令の遅周 においては、1930年代以来、我が国製造業による鉱工業品の 輸出が欧米先進国等 によるAD措置の主たる対象 となって きた経緯 もあ り、我が国政 府及び産業界 は貿易立国 としての 日本の発展の障害 としてAD措置 を消極的にとらえ る傾向があった。 また、農産品については、関税障壁 によって相当程度の保護が得 ら れて きたため、AD措置の必要性があまり高 くないと見 られて きた。

しか しなが ら、欧州連合 (かつての欧州連合体)がAD措置 よりも可変課徴金制度 を主 として利用 したのに対 し、北米 自由貿易協定 を形成す る米国 ◎カナダ ◎メキシコ は、農産品に対 してAD措置 を少 なか らず用いて きた16)。我が国政府 において も、最 近は事情の変化が生 じて きている17'。その背景 として、例 えば、2001年か ら中国と台 湾がWTO協定上 の便益 を享有す るようになった こと、2001年か ら開始 された ドー

匂ラウン ド交渉においてさらなる市場 アクセスの改善 (関税障壁の低減)が もた ら され国際競争が激化す ると予想 されること、及び、 日本経済の構造変化等 に伴い 日本 製品に対するAD措置が漸減 したこと等が挙げ られる 特 に前 2者の ような状況変化 は、農産品について より大 きな影響 を及ぼす もの と考えられている 他方で、次節に おいて見 るように、農産品の輸入 に対 してAD措置 を用い ようとす る場合、鉱工業品 とは異 なる事情があ り、実質的にAD措置 を発動す ることに消極的に作用 して きた。

これ らの留意点について、以下で整理する

15)AD協定 はAD調査 を開始す るための最低 限の要件 を定めるため、要件 を加重的に設けることは禁 じられない

16)RolfMirus,A Review ofAntiDumpingDeterminationsofAgricultural ProductsintheNorth AmericanFreeTradeAgreement,JointSeriesonCompetitiveness(UniversityofAlberta),No.26,

September2002,4.SeealsoNishaMalhotra,HoratiuA.RusandShinanKassam,Antidumping DutiesintheAgricultureSector:TradeRestrictingorTradeDeflecting?,paperfun°edbythe T.A.R.GE.T.,theUniversityofBritishColumbia,2008,15.

17)SeeSaadiaM.Pekkanen,Japan'sAggressiveLegalism (StanfordUniversityPress,2008),110.

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3匂農産 品 に関 す る留意点

AD措置は、その性質上、全ての物品に関 して適用 され うるものであって、農産品 と鉱工業品とで本質的な違いはない。 しか しなが ら、産品の特性 に基づ くい くつかの 差異がある 第 1に、WTO協定上の位置づけが異 なる もともと鉱工業品 と比べて 農産品については、農業協定に基づ き関税障壁 (市場 アクセス)、補助金 (国内支持及 び輸出競争)、非関税障壁 (特別七‑フガー ド)のいずれの側面において も、輸入国が 貿易障壁 を設ける裁量の余地が広い。 このため、 もともとAD措置で もって不公正貿 易 に対抗す る必要性が小 さい。第2に、単位当た りの価格が低 く、市場規模の小 さい 農産品の場合、AD措置による便益が、措置が発動 されるまでにかかる時間 と費用 と に見合わないことがある3に、生鮮品又は季節性産品の場合、産品の市場価値 に 関 して鉱工業品 とは時間的制約が異なる この点については ドーハ 。ラウン ド交渉に おいて も改善について議論されているものの、特別規則の策定は困錐である。

このうち、AD措置に関 して従来は上記第 1の点が最 も大 きな要因となっていた。 し か しなが ら、 これ らの要因には変化が見 られる 現在進行中の ド‑ハ 。ラウン ド交渉 においては、農産品について も市場 アクセスが相当程度向上 し、特別セーフガー ドの 規制が強化 される見込みである 将来的には、農産品輸入国が従来利周 して きた関税 障壁及び非関税障壁 による保護は弱 まる方向にある 従来は輸入国家貿易 によって管 理 されて きた穀物や乳製品の ような比較的高付加価値の産品について もダンピングに よる損害を受ける可能性があ り、AD措置が機能する余地が出て くる 特に中国におい ては輸出促進のために業界団体 による組織化 を進める政策をとっているため18)生産 者 は小規模で も集団的かつ大規模 にダンピング輸出がなされる可能性 も増す といえよ

それゆえ、鉱工業品について1980年代以降に生 じた状況変化 と同様に、農産品に ついて も、今後は不公正貿易 による悪影響 を防止す るために輸入国がAD措置の発動 が増す と予想 される19‑。

外国農産品に対す るAD措置の活用可能性 を検討す るための出発点 として、次章 に 18)農産品出口 "十一五野党展観勤、商務部外貿司 (2006824日)、第4章。 日本語仮訳 は、

JETRO産業技術 。農水産部 『山東省における農水産物の生産 。輸出動向』(20073月)〜80頁以 下参照。

19)AnnexAtotheWorkingDocumentfromtheChairman,TN/RL/W/232,28May2008,A‑26.

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農業のグローバル化 に対応す るJAの役割の研究 103

おいては、AD措置 を周いようとす る場合にJAが どの ような場面で貢献で きるかにつ いて検討を加 える

Ⅲ。農産品

AD調査におけるgA

の役割 1秒調査申請の準備

AD措置 を発動す るための実体的要件の一つである損害要件 として、関税定率法第 8条第 1項 に基づけば 「本邦の産業の 「相当の割合について実質的な損害が生 じ ていることが必要 となる 他方で、AD措置 を発動す るための手続的要件の一つであ る調査 開始 申請要件 として、 同条第4項 は 「本邦 の産業 に利害関係 を有す る者

「十分な証拠と共にAD調査を開始するよう政府に申請を行 うことを求める

ここで 「本邦の産業に利害関係 を有する者」 については、2種類の ものが想定 され ている20'。第 1に、「当該輸入貨物 と同種の貨物の本邦の生産者又はその団体」(「関係 生産者等)であって 「当該生産者又は当該団体の構成員の本邦における生産高の合計 が当該貨物の本邦における総生産高の四分の‑以上の割合 を占めるもの」である な お、団体の場合、その直接又は間接の構成員の過半数が当該貨物の本邦の生産者であ るものに限定 される。第2に、「当該輸入貨物 と同種の貨物の本邦における生産に従事 する者 を直接又は間接の構成員 とする労働組合」(「関係労働組合)であって 「その構 成員のうち当該生産に従事す る者の合計が当該生産に従事する者の総数の四分の‑以 上の割合 を責めるもの」である 農産品に関 しては、上記 1つ 目の種類,特 に生産者 団体が主たる申請者 となろう 個 々の生産者が小規模である場合、総生産高の25%を 超 える生産者 について、 ダンピングに対す る問題意識 を集約 し、必要な情報 を収集 し てAD調査 串請をとりまとめる作業は容易ではない。楽団においては、業界団体やAD 調査 申請 を行 うための臨時団体が申請 を行 う例が見 られるものの21我が国において ほ、JAの持つネッ トワ‑夕機能が活周で きると思われる。 日頃か ら、輸入品の数量や 価格の変動 に目配 りし、不 自然な変化があった と思われる場合に早期に生産者の注意

20)AD政令第5条。

21)衆近のAD調査申請案件の申請者 として、FreshGarlicProducersAssociationAdHocShrimp TradeActionCommittee (ASTAC)等が挙 げ られる。

(10)

を促 し、意見 を集約す ることによって、 ダンピングに対 して迅速 に対応す ることが可 能 となる。

次に、「十分な証拠」 とは、ダンピング、損害、因果関係のそれぞれの要件 について、

確定的な ものでな くとも、政府がAD調査 を開始す るに健す る程度の情報 を提供す る 必要がある 損害及び因果関係 については生産者側 でデー タを入手で きるものの、 ダ ンピングの存在 については、輸出国側の正常価額に関す る情報 を得 る必要があ り、外 部の統計情報等 を収集す る手間がかかる 先進国においては、GDPに占める割合か ら 見れば高い頻度でAD調査がなされているものの、結果 としてAD措置の発動が認め ら れる割合 は鉱工業品に比べて低 い という指摘がある等22)、十分 な証拠 を提 出す るのが 常 に容易 なわけではない。ただ し、可能な範囲で最善 を尽 くす ことが第一の課題であ り、特 に中国についていえば、WTO加盟時の約束 として、201612月 までは非市場 経済国 (NME)として ダンピング認定時の正常価額 について第三国 (イン ド等)の情 報 を用 いて算定で きるとされているため23‑、今後6年の間は相当程度負担が軽減 され ていると見 ることがで きる 東南 アジア等の類比 しうる国における太 まかな生産費周 の情報等 を得 ることは、JAの情報収集能力 をもってすればそれほ ど困経ではなかろう

2出調査 率のL情報収集 ◎提供

いったんAD調査が開始 されれば、損害及 び因果関係 に関す る客観的な証拠 を提 出 することが必要 となる。

まず損害認定に関 しては、「本邦の産業の定義がAD政令の平成21年改正によって 明確化 された ところであ り、「当該輸入貨物 を輸入 した生産者が、当該輸入貨物及びこ れ と同種の貨物 に係 る当該生産者の事業の うち主たる事業が当該輸入貨物 と同種 の貨 物の本邦 における生産であることについての証拠 を提 出 した場合」 も〜AD措置の 申 請 を行 う国内産業 として認め られることとなった24,'。 これによって、外 固産品を一部 輸入 している生産者であって も、主たる事業が国内産品であれば、損害認定 において 22)Richard氏.BarichelloandNishaMalhotra,AntiDumping,Agriculture,andtheLevelof

Development (August2008),13.AvailableatSSRN:http://ssrn.com/abstract‑1260378. 23)中国のWTO加盟議定書第15 (d)

24)AD政令 第4条。

(11)

農業のグローバル化に対応するJAの役割の研究 105

「本邦の産業」に加 えることが可能 となった。

次 に、因果関係の認定に関 しては、調査対象企業 と申請者の双方か ら提 出された証 拠 を基 に当局が総合的に判断することになるものの、 申請者側か らも、 ダンピング行 為 と本邦の産業の被 った損害 との関連性 を示す証拠 を積極的に提 出することが有効で ある

我が園においてほ、米国のようにダンピング認定 を行 う当局 と損害及び因果関係の 認定 を行 う当局 とが裁然 と分化 しているわけではないものの、 ダンピングの認定は財 務省 を主体 として行い、損害の認定は経済産業省及び産品の所管省庁 (農産品の場合 は農林水産省叉は水産庁) を主体 として行い、両者の因果関係 については調査当局が 総体 として判断す るとい う手順が通常 とられる こうした判断の基礎にす るため、調 査当局か ら調査対象企業 (輸出国側) と申請者 (輸入国側)の双方に質問状が送付 さ れ、それに対 して原則 として1か月以内に回答す ることが求め られる 調査 申請時に 提 出すべ き書類及び調査 開始後に民間の利害関係者に送付 される質問状が標準化 され た ものの25)、小規模 な農業生産者が多数関係す る事案においてほ個別に質問状の内容 が変更 され うる 質問状‑の対応 は個 々の生産者の努力のみでは困難であ り、組織的 な支援の枠組みが不可欠である この点、我が国における生産、流通、販売 を含む多 様 な段階に関与するJAが、生産者の生産費用、規模、市況等に関する情報を日常的に 整理 して集約 し、必要であれば関係省庁に照会 しつつ適切 な証拠 を提供する局面にお いて重要な役割 を果た しうると思われる

3B和解 の と りま とめ

輸入国産業がAD措置 を申請す る目的は、不公正 な輸出行為 によって我が国の産業 が経済的損害 を被 らないようにすることである。 しか しなが ら、AD協定はAD措置の 乱周 を防止す るために客観的な証拠 と透明な手続 に基づいてAD調査 を遂行す るよう 求めてお り、それを遂行するには相当の時間と費用がかかることも確かである この 点、AD調査 を行った場合、調査当局 としては調査の帰結 としてAD措置 (関税叉は価 格約束) を発動す るか しないか決定す ることが求め られる。他方で、輸出国 と輸入国

25)AD政令第4条。

(12)

の双方の業界団体等 による調整 を通 じて、 ダンピング行為が解消 されるよう業界 間で 合意すれば、AD調査が中止 されるとい う選択肢 もあ りうる

価格約束の場合 は、調査当局 と個 々の調査対象企業の間の個別合意であって も正式 なAD措置の一形態であ り、各国国内法上の手続 と条件 に服す る これに対 して、業 界間合意の場合、輸出国側 の調査対象企業 と輸入 国側の申請者が民 間合意 として締結 す る非公式な合意であ り、AD調査 申請の取下げ又 はAD調査の中止 をもた らす。 この ように、価格約束 と業界 間合意の関係 は、裁判上の和解 と裁判外の和解 の関係 に類似 してお り、合意の第三者 としての裁判所叉 は調査当局の関与の度合 い も異 なることと なる

業界間合意が成立すれば、 どの時点 (措置発動前か後か)で、 どの ような形式 (莱 界 間の約束か、両国政府 も関与 した国際取極か)で確定す るかはさてお き、 ダンピン

グ輸出をめ ぐる紛争 を柔軟かつ迅速 に処理す ることが可能 となる AD制度が高度 に 法化 した米国において も、重要 な案件 において業界 間合意に基づ く処理がなされる場 合があることか ら26)決 して例外 的 。変則 的 な方法 とはい えない。初期 の例 であ る

「米国による韓国製半導体 に関するAD措置に関 しては、WTO紛争処理手続でWTO 協定違反 と認定 された ものの、WTO紛争処理裁定は措置の廃止 までは命 じなかった。

当該措置が見直 しによって撤廃 されたのは、米韓DRAM業界の間で合意がなされたこ とによる点が注 目で きる27)。他方で、「メキシコによる米国産砂糖‑のAD措置」 につ いては、朱墨業界 間の合意に両国政府がお墨付 きを与 えるという形で終結 した28'。

むろん、 こうした和解 による処理 を成功 させ るには、国内の関係業界の意見の とり まとめを行い、相手国の業界団体 と折衝する能力が必要 となる。 この点で も、JAの有 する国際的 。国内的ネ ッ トワ‑夕が有周だ と思われる。

26)うちWTO紛争処理手続 に付託 された事案 としてほ、米国による韓 国製DRAMへのAD措置、 メ キシコによる米国産砂糖へのAD措置、米国によるメキシコ産セメ ン ト‑のAD措置、米国による カナダ産木材 に対するAD措置等が挙げ られる。

27)拙稿 「米国の韓国産DRAMSに対す るア ンチダンピング措置 。WTO小委員会報告貿易 と関税

4911号 (2001),43頁参照。

28)拙稿"DynamicProcessofTransnationalDisputeSettlementasanAutopoieticSystem?Implica

tionsofNorthAmericanExperiencestoEastAsia,paperpresentedattheAIELN Inaugural Conference,August2009,availableathttp://aielnl.weblC2com/KobayashLpane14.pdf,参照。

(13)

農業のグローバル化に対応するJAの役割の研究 107

射 発動後の監視

AD措置は、発動 されれば常 に十全 に機能す るとは限 らない。 というの も、輸出国 側でAD措置 を迂回す る行為が発生す る可能性があるか らである29)。AD措置は特定国 のみに発動 されるため、措置の対象外の第三国を経由 して輸入 しようとした り、新た な法人を設立 して既存の適用税率 を免れ ようとした り、あるいは加工又は半加工 を施 して輸入 しようとす る場合がある それゆえ、輸入国側の税関及び利害関係者は、措 置対象企業の行動に対 して継続 して監視す る必要がある。

この点、米国においては、AD税額の確定を事後的に行 う制度であるため、AD措置 を課 して も対象企業が雲隠れす るなどして取 りは ぐれる恐れがあるとして、調査対象 企業 に事前 に追加的な保証 を供託 させ る制度 を設けた。 しか しなが ら、AD協定はダ ンピングの程度を超 えてAD税 を課す ことを禁 じてお り、 この制度は過剰 なAD関税 を賦課す る もの としてAD協定違反だ とされた30)。 この ことに も表れているように、

AD措置の実効性 は税 関のみで確保で きるわけではな く、輸入国側の利害関係者が共 同 して輸入動向を監視す ることを必要 とす る 例 えば、措置対象企業の販売 。輸出活 動の変化や措置対象外の国か らの輸入の増加に対 して 目配 りすること等が有効である

こうした作業は、個 々の生産者が個別に対応す るのでは難 しい。JAのように幅広い視

野 と情報 を有する組織が取 り組むことは有益だ と思われる。

なお、 こうした予防策は、AD措置の直接 の救済効果が高 まること以外 にも間接的 な効果を生 じさせ る可能性がある。仮にある産品について1つの国を対象 としてAD措 置が発動 されれば、同種産品を輸入す る際には当該発動対象国以外の国か らの輸入で あって も、原産地証明を追加的に求める等の追加的な検査 を行 うことが可能になる

これは、AI)措置発動対象 国か ら輸 出された産品が第三国を経 由 して迂回輸入 される ことを防止す るために正当化 される対応であるところ、外国企業 にとっては輸出入に かかるコス トと通関手続にかかる日数を一定程度増大 させ る効果がある31) AD措置は

29)稿 「WTOア ンチ ダ ンピ ング協 定 にお け る迂 回防止措 置 の位 置づ けの再検 討‑ 近 年 の 国家実 行及び紛争処理事例の予備的考察‑ 商学討究』594 (2009),202頁参照。

30)AppellateBodyReport,UnitedStates‑CustomsBondDirectiveforMerchandiseSubjecttoAnti Dumping/CoLintejVailingDuties,WT/Ds345/AB/A,adopted1August2008.

(14)

セー フガー ド措置 と異 な り特定国のみに対す る措置であるものの、 この ような場合 に は、AD措置の対象国以夕摘 ゝらの輸入品 との競争において も優位性 をもた らす。

Ⅳ。

今後の課題

現在進行中の ドーハ 。ラウン ド交渉 によって従来の ような関税障壁やセー フガ‑ ド 措置の利用可能性が狭 まることが予想 される以上、不公正 な貿易 に対す る正 当な対抗 措置 としてAD措置を利周す ることは真剣 な検討 に億す るだろう ただ し、AD措置 を 用 いるには時間 と費周がかか り、 しか も農産品については鉱工業品 とは異 なる留意点 があることもた しかである それゆえ、 ある産品についてAD措置 による救済 を求め ることが合理的か どうかの判断が、 まず必要 となる こうした判断を含め、産品の特 性 に応 じた多面的な検討 を行 い、生産者間の多様な意見 を集約す る役割 をJAが担 うこ

とが期待 される。

その上で、AD措置の発動 を求めることとなれば、AD調査 に協力 し、AD措置が発 動 された後 もその実効性 を確保 してい くために、JAは様 々な役割 を果た しうる さら に、農産品に関す るAD措置 を我が国の通商政策の単で どの ように位置づ けるかにつ いて政府部内で引 き続 き検討が進め られているところ、農業界 において もJAが中心 と なって政策提言 してゆ くことが重要 となろう 本稿 は、 こうした多面的 。多段 階での 検討 を進めるための基本的な論点を示そ うとす るものである。

31)特に生鮮品の場合に、外国同種産品の競争上の優位 を減少させる可能性がある。

参照

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