わが国企業のバ ランス ・ス コアカー ド導入に おける促進 ・阻害要因に関す る研究
‑A
社のケースを通 じて‑Summar y
本稿では,バ ランス ・ス コアカー ド
( BSC)
の導入 プロセスにおける促進 ・阻害要因の関係 を析 出することを目的 として,事例研究 を行 っ ている。結論 として,既存 システムの運用方法 が促進要因にも阻害要因にもなること,お よび,Kas ur i nen( 2 0 0 2 )
によって提示 された会計 システムの変化 モデルでは広義の
BSC
導入 プロセ スを把握することが困難であることを得ている。Ke yWor ds
①バ ランス ・スコアカー ド
( BSC)
②方針管理
③導入研究
④広義の導入 プロセス
⑤促進 ・阻害要因
⑥会計システムの変化モデル
⑦事例研究
5 8
乙 政 佐 吉
Ⅰ はじめに
バ ラ ン ス ・ス コ ア カ ー ド
( Bal anced Sc o r eca r d
,以下BSC)
は,イノベーシ ョン ・ アクシ ョンリサーチのサ イクルに従い,提唱者 であるKa pl a n & Nor t on
を中心に発展 してい る。イノベーシ ョン ・アクシ ョンリサーチは, 新 しいシステムの創 出に大 きな貢献 を果た して いる。けれ ども
,Ka pl a na ndNo r t o n
をは じめ とし て,BSC
に関す る研究の多 くは,BSC
の導入 ・ 実践 による成功事例の紹介,スコアカー ド (戟 略マ ップ)のデザ イン,BSC
の運用方法 とい う ような技術 的な側面に焦点 を置いている。現状 において,BSC
の導入 を促進す る要因お よび阻 害す る要因については必ず しも明 らかになって いない。近年,わが国において も
BSC
を導入す る企 業が増加 している。今後,わが国におけるBSC
の定着 を円滑 に進める上で,BSC
の導入 プロセ スを解明す ることは重要な研究課題である。このことか ら,本稿 は,事例研究 を通 じて, 導入 プロセスにおける促進 ・阻害要 因の関係 を 析 出す ることを目的 とする。事例研究では特 に, 広 義の
BSC
導入 プロセスに着意 しなが ら,既 存 システムの影響 を検討す る。 この ような 目的を達成す るために次の通 り議論 を進める。 まず,
原価 計算 研 究
2 0 05Vo J . 2 9No . 1
わが国企業のバランス ・スコアカー ド導入における促進 .阻害要因に関す る研究
第
2
節 において,BS C
の導入 に関す る先行研究 の レビュー を行 い,研 究課題 を提示す る。次 に, 第3
節 で は,事 例研 究 を通 じてBSC
の導 入 プロセス を詳細 に記述す る。最後 に,本稿 の イン プ リケーシ ョンと今後 の課題 を提示す る。
I B S C の導入に関する 先行研究のレビュー
1.BSC導入 ・実践 の失敗
Ka pl a na ndNo r t o n ( 2 0 0
1) は, BS C
の導入 ・ 実践 に失敗す る原 因 として,大 き く分 けて,過 渡期 の 問題 , デザ イ ンの 失敗 , プ ロセ ス の失 敗 の三つ を挙 げている("。 しか し,Ka pl a na nd No r t o n( 2 0 0
1)で は,BS C
を導入す る際 に,組織において実際 に どの ような ことが起 こってい る 図表1 典型的なBSC構築 プロセス
のか を必ず しも明 らか に してい ない。それ ゆえ,
BS C
の導入 プロセス において, どの ような要 因 が影響 を与 えてい るのか につ いて検討す る必要 がある。2. BS
Cの導入 プロセスBS C
の導入 プロセスにおける影響要 因を検討 す る上で,BS C
の導入 プロセスに関 して考察 を 加 えてお きたい。それは,BS C
の導入 プロセス が大 き く分 けて二つあ るか らであ る。一つ は,狭 義 の導入 プロセスであ る。図表
1
に示す とお り,Ka pl a na ndNo r t o n( 1 9 9 6 b)
は, ス コア カー ドを構築す る単位 の選定 か ら実行計 画 の完 成 まで を典型 的 なBSC
構 築 プロセス と して提示 してい る̀ 2
‑。 ここで の主 な関心 はス コ アカー ドのデザ イ ンにある。活動
l.測定プログラムの基本設計
1
.組織単位の選定2. SB U
と全社の リンクの明確化I l .
戦略目標の明示3.
第一回インタビュー4.
統合セッシ ョン5.
第一回経営 トップ ・ワークシ ョップ 日.戦略的業績指標の選択6.
サブグループ ・ミーティング7.
第二回経営 トップ ・ワークシ ョップ IV.実行計画の構築8.
実行計画の開発9.
第三回経営 トップ ・ワークシ ョップ1 0.
実行計画の完成出典
: Kapl anan dNo什on.1 996 b. p, 3 09
も う一 つ は, 広 義 の導 入 プ ロセ ス で あ る
。
図表2
の ように提示 してい る。 BS C
は,イノベ‑Ka pl a na ndNo r t o n( 1 9 9 6 a )
は,最初 か ら戦略マ シ ョン ・アクシ ョンリサーチ( Ka pl a n,1 9 9 8)
ネ ジ メ ン ト シス テ ム を新 た に構 築 す る 目的 のサ イクルに従 って段 階的 に発展 し続 けてい る。で
BSC
を導 入 した企業 は皆 無 であ る と して, そ の影響 もあ ってか,実務 にお いてBSC
の導Nat i ona ll ns ur a nce
社 のBSC
導入 プロセス を 入 ・実践 が段 階 的 に な され る こ とを図表2
は 原価計算研究2 0 05
Vol . 2 9
No.159
表 している̀3'。広義の
BS
C導入 プロセスでは,BS
C導入か ら戦略マネジメン ト・システム とし 図表2
広義のB S
C導入 プロセス単位 : ステップ1:ビジ ョンの明確化
ステップ
3A:
非戦略的投資の削除 ステップ3B:
全社変革プログラムの着手ステップ
5:
ビジョンの精練化 ステップ6 A:
組織全体へのB S
Cの伝達 ステップ7:
長期計画と予算の更新 ステップ8:
月次 ・四半期レビューの実施ステップ
1 0:
全成員の業績とB S
Cのリンク78 91 0 11
34 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4
561 1 1 1 1 1 ー N 2 2 2 N
N2 月て組織 に定着す るまでの プロセスが
BS
C導入 プロセスの対象 となる。ステップ
2A:
ミ ドル ・マネジャーへの伝達 ステップ2B:
事業単位スコアカー ドの開発 ステップ4:
事業単位スコアカー ドのレビューステップ
6B:
個人の業績目標の設定ステップ
9:
年次戦略 レビューの実施出典 : Ka p l a na n dNo r t o n , 1 9 9 6 a . p p. 7 8 ‑ 7 9
3.B S
C導入にお ける促進 ・阻害要因BS
Cの導入 に影響 を与 える要因に関す る研究 ももちろんなされている。以下では, コンテク ス ト要 因 と導入 プロセス要 因に分 けて(4' ,BS C
導入 における促進 ・阻害要 因に関す る先行研究 を考察す る。
( 1 )B S
C導入 を促進 ・阻害するコンテクス ト要因BS
C導入 を促進 ・阻害す るコンテクス ト要因 は,BS
C を導入 ・実践するか否かの意思決定 に 影響 を与 える要因である。BS
C導入 を促進す る要 因 としては, まず,級 織 規 模 と製 品 の ライフ ・サ イ クルが挙 げ られる
̀ 5 '( Ho q u ea n dJ a me s , 2 0 0 0 ) 0
60
二つ に
,BS
Cの普及である。Ma l mi ( 2 0 0 1 )
は, フ ィンラ ン ド企業1 7
社 に対す るイ ンタビュー 調査 か ら,現在 のBS
Cに対す る人気 の高 ま り は模倣行動 に よって最 もよ く説明 されるか もし れない と推測 している。三つ に
,BS
Cの著作( Ka pl a na ndNo r t o n
,1 9 9 6 b)
の レ トリ ックの巧 み さがBS
Cに対 す る関心 を高 め て い る とい う見解 もあ る̀ 6 ' ( No
r r e k l i t , 2 0 0 3 ) 0
四つ に,わが国企業 においては,経済的業績 の好調 さ, コンサルテ ィング会社 の売 り込み, 他社 のベ ンチマークが
BS
C導入 の促進要 因 となっている (乙政
, 2 0 0 4 )
。原価計算研究2005VoJ.29No.1
わが国企業のバランス・スコアカード導入における促進 ・阻害要因に関する研究
一 方
,BSCの導 入 を阻害 す る要 因 に は,演
似 的手 法 の存 在 が 挙 げ られ る(7'(乙 政,2 00 5 1 , Spe c kba c he re ta 1 . , 2 00 3 )
0( 2 )B S
Cの導入プロセスにおける促進 ・阻害要因BSCの導入 プロセス を促進す る要 因は, まず,
伊藤他( 2 001 )
において, リコーの事 例研究か ら, 業績評価 の公平性 お よび明瞭性 を重視 す る組織 風 土, トップ ・マ ネジメ ン トの コ ミッ トメ ン ト,
戦 略 お よび ビジ ョンの明確 化 がBSCの導 入 ・
実践 を成功 に導 くための基本用件 と して指摘 さ れてい る。 また, リコーや富士 ゼ ロ ックスの事 例 で は,方針管理 の実施経験 お よび 日本経営 品 質賞‑ の取 り組み実績が,BSC導入 の促進要 因 になってい る (伊藤他,2 0 0
1)。さ らに, リコー,宝酒造 ,伊藤ハ ムの事例 で は,BSCの導入 を推進す る経営企画室の存在が,
BSCの導 入 プ ロセス を促 進 す る要 因 と して挙
げ られている (柴 山他,20 0
1)
。 なお,Kaplan andNor t on( 1 9 9 6 b)
は,新 しい システム を効果 的 に導 入 す るた め に は,変 革期 の リー ダー と な るマ ネ ジ ャー を必 要 とす る と と もに, マ ネ ジ ャー には立 案 者,変 革 推 進 者,伝 達者 とい う三つの役割が求め られ ることを指摘 してい る( Ka pl a n & No r t o n,1 9 9 6 b,p. 2 8 7) 0
BSC導 入 プ ロ セ ス を 阻 害 す る要 因 と して
は,一つ に,指標 の選択 ・指標 間の因果 関係 の 設定 ・短期 的 ターゲ ッ ト (意欲 的 な 目標) の設 定 の困難 さ とい うよ うなBSCの技術 的側面 が
指摘 されてい る( 8 ' ( Ahn,20 01 )
0も う一 つ に,情 報 シス テ ム の 開発 コス トが
BSC導入 プロセス を阻害す る要 因 として挙 げ ら
れ る̀9'(
I t t ne ra ndLa r c ke r ,1 9 9 8)
。 図表3 B S
C導入における促進 ・阻害要因の分類定義
内容
促 進
要 動機付け要因 一般的な方法で観察された、 市場のグローバル化、複雑な事業環境、成熟段階に逢した製品のライフ.サイ
( Mo t i v a t oi r s )
変化に影響を与えている要因 クル、財務的指標に関する問題推進要因
( Fa c i l i t a t or s )
会計変化に建設的な状況それ自体では変化を起こさない、必要だが十分でない管理 より早期の築された状況BS C
導入、戦略的に十分積 触媒要因 変化に直接関係し、変化のタイコングに密接に貢献してい 事業単位のジェネラル.マネジャーの 因( Ca t al y s t s )
る出来事 戦略的な作業の経験、戦略的分析の実施加速要因 変化に勢いをつける要因 戦略分析プロセス、パートナーシップ
( Momen t um)
・プロジェクトリーダー 変化におけるリーダーとして 事業部のジェネラル.マネジャー
( L e ade r s )
の個人の役割阻
皇 混乱要因
( Con f u s er s )
プロジェクトを混乱させる要因 組織におけるプロジェクトの将来的な役割に関する不確実性、変化に対するさまざまな見方 抑圧要因 組織の変化への試みを抑え 現在の報告システム、組織文化 l::コ
要
因
( Fr u s t r a t or s )
る要因遅延要因 プロジェクト(主に新しい経営管理ツーを遅らさせる要因 明確な戦略の欠如、不十分な情報システム
出典 : Kas ur i nen( 2 002)
での議論 に基づいて筆者作成原価計算研究2005VoL29No.1
61
4.
B S
C導入における促進要因と阻害要因の分類 先行研究において,BS C
導入におけるさまざ まな促進 ・阻害要因が指摘 されている。 しか し, 促進 ・阻害要因間の関係 については必ず しも明らかにされていない。
その中で
,Ka s ur i ne n( 2 0 0 2 )
は,フィンラン ド企業の導入事例 をもとに,図表3
に示す よう に,BS C
導入における促進 ・阻害要因を分類 し た上で,図表4の会計システムの変化モデルを 提示 している。図表
4
会計システムの変化モデル会計システムの変化
出典 : K a s u r i n e n , 2 0 0 2 ,p. 33 8
( F i g u r e7
を簡素化 して作成)5. B S
Cの導入研究の課題前項 まで検討 した とお り
,BS C
の導入に関す る研究はなされている。 とはいえ,BS C
と類似 の発展 を遂げたABC/ ABM
と比べて も,BSC
の導入研究は少数である (谷
, 2 0 0 4 )
0また
,Ahn( 2 0 0 1 ) や Ka s ur i ne n( 2 0 0 2 )
におい て も,わが国企業のBSC
導入事例において も(10', 研究者の関心,あ るいは,対象企業のBSC
導 入後の経過時間の短 さか ら,狭義の導入プロセ スが主な研究対象 となっている。さらに
,BSC
導入における促進要因 ・阻害要 因に関する体系 だった研究 もほとんどない。現62
状 においては
,Ka s ur i ne n( 2 0 0 2 )
に見 られる程 度である。加 えて,先行研究では
,BSC
の導入 によって 既存 システムの何が どのように変わるのかにつ いてほとんど触れ られていない。わが国企業のBS C
事例 において,導入以前の既存 システムの 問題点に関する記述 は見受 けられる。 とはいえ, どのように業績指標 を利用 していたのかについ ては記述 されていない伽。以上 の ことか ら
,BSC
の導入 に関す る知見 を蓄積 してい くための研究課題 としては,第1
に,広義の導入 プロセスに着意 しつつ,導入 プ ロセスにおける促進 ・阻害要因間の関係 を析 出 す ることが挙げ られる。第2
は,既存 システム がBSC
導入 プロセスに どの ような影響 を与 え るか検討す ることである。特 に,わが国企業で は従来か ら業績測定 に非財務的指標 を利用 して きたといわれる (小林, 1 9 9 8 ) 。BSC
導入によっ て,何が どのように変わ り,いつ どの ような促 進 ・阻害要因が現れるのか を追究す る必要があ る。 このような研究課題 を念頭 に置いて,次節 では,事例研究 を行 う。Ⅱ A 社の BSC 導入に関する 事例研究
1.調査の概要
事 例研 究 の調査対象 は,住宅設備機器 メー カー
A
社である(12)。 インタビューは,BSC
の導 入推進者である経営企画室長に対 して,計5
回 行 っている(13㌦インタビューは半構造化 された質問によって 実施 した。総時間はお よそ
4 8 0
分 に及ぶ。 イン タビュー内容 はテープ録音 した。 インタビュー 級,内部資料,メモ,お よび,録音 テープに基 づいて早急 に文書化 を行 った。2.A
社の現況 とB S
C導入の背景原価計算研 究
2 0 0 5Vo l . 2 9No . 1
わが国企業のバ ランス ・スコアカー ド導入における促進 ・阻害要因に関する研究
図表
5 A
社の経営成績の推移180000 170000 160000 150000
140000
ヽ\7. 6. 5. 4. 3. 00 00 00 00 00
′/ \
/ /
130000 120000 110000
100000 2. 1. 0. 00 00 00
1998
年度 1999年度 2000年度 2001年度 2002年度2003年度
A
社 は,住宅設備機器の製造 ・販売事業 を営 んでいる。過去6
年間の経営成績 (連結)は, 図表5
に示す とお りとなっている。組織構造 としては,職能別事業部制が採用 さ れている。すなわち,研究開発か ら生産 までを 担当す る複数の製品別事業部 と,地域別の支店 を統括す る営業本部,本社スタッフ部門か ら構 成 されている
なお,A社 には, トップ ・マネジメン トか ら 構成 される経営会議体 として,取締役会,経営 会議,予算検討委員会,製販委員会
,R&D
戦 略会議,環境会議がある。2 0 0
1年か らはCS
経 営会議が新たに設けられている(14'。住宅関連事業 を営む同社 にとって,バブル経 済崩壊後 も新築家屋が増 えている間は,海外企 業の市場参入が困難 なこともあ り,それほど厳 しい経営環境ではなかった。 しか し,高齢化社 会 の到来 とともに新設住宅着工戸数 は減少 し(15㌧ 需要が低迷 しだす ことになる。需要の低迷は価 格競争 を引 き起 こし,販売台数が伸びない中で 販売単価 も下げざるをえない状況 になった。
この ような環境下 で
,9 8
年度 には当期純損 失 を計上 してい る。9 8
年度の業績が落 ち込 ん だ ことに より,1 9 9 9
年度か ら2 0 01
年度の3
カ年計画において,売上 を重視 した経営か ら利益 重視の経営‑体質を変換す るよう画策 された。
それで も
,3
カ年計画の初年度 に業績 を回復 し た ことか ら,体質変換 の意識 は薄れた。3
カ年 計画が策定 されるとはいえ,単年度で経営 を行う傾向にあった。
体 質変換‑ の取 り組 みが徹底 され ない 中,
2 0 0 0
年9
月, 同社 製 晶 を利 用 してい た女児2
名 に不幸 な事故が発生 した。 さ らに,2 0 0
1年 度の決算では,売上高 を前年比1 0
.2%増 とした が,売上高経常利益率 を大 きく低下 させた。この ような事態 を深刻 に受け止めた同社 は, 再度利益重視 の経営 を推進す るとともに,顧客 満足経営 の基盤 を作 り上 げるべ く
,2 0 0 2
年度 か らの3
カ年計画 を策定 ・実施 している。3.
従来の業績管理 システム( 2001
年以前)A
社 では,お よそ1
0年前か ら方針管理 を実 施 している。A
社 のBSC
導入 を検討す る前 に ビジ ョン,中期経営計画,予算 との関係の もと での方針管理の運営方法,お よびに,その間蓮 点について記述する。(1) ビジョン
A
社では,企業理念の下で1
0年後 の到達 イ原価計算研究
2005Vol . 29No. 1 6 3
メ‑ジを措いた ビジ ョンが策定 される。 さらに, ビジ ョンを基 に して具体的な施策 を決定す る。
ところが
,2 0 01
年以前 に策定 された ビジ ョン は企業活動 を包括的にまとめてお らず, ビジ ョ ンはビジ ョン,施策は施策 として孤立 していた。(2)中期経営計画
10年後の到達 イメージを措いた ビジ ョンの もと
,3
カ年 を対象 に した中期経営計画が策定 される。中期計画においてスローガンや基本方 針 を掲 げて も,表現が長かった り,わか りに く かった りしたために飾 り物 となっていた。上述 の とお り, ビジ ョンと中期経営計画 との リンク は十分 に図 られていなかった。 また, トップ ・ マネジメン トをは じめ として,売上が伸 びれば 利益がついて くるとい う考えが支配 してお り, 何 よりも売上が重視 された'16'。(3)方針管理
方針管理では,まず,予算編成 と時期 を同 じ くして
,9‑ 1
1月に経営企画室が主幹 となっ て社長方針 を策定す る。方針策定の際に基本方 針は検討 されていたが, ビジ ョンや中期計画 と 明確 にリンク していなかった。社長方針 は,経営企画室の原案 をもとに,経 営会議にて合議の上で承認 される。承認 を得た 方針 は
,1 2
月の方針発表会 にて課長以上 を招 集 して伝達 される。 また,方針 を従業員 に伝達 す るために,冊子やカー ドが配布 される。方針 に対する従業員の理解度 に対す るフィー ドバ ッ クの仕組みはなかった。方針発表会 にて社長方針が伝達 された後,各 部門にて方針が展開 されてい く。全社 としては 方針 を提示するのみで, どのように展開 してい くかに関 しては部門任せであった。 また,部門 (水平)間のす り合わせは行 われていなかった。
さらに,社長診断が行われることもなかったた め,社長方針 と各部門の方針 との間の整合性が 十分にとれていなかった什7)0
64
社長方針には重点課題 と施策が記 される。そ れ らは主に品質
( Q)
,コス ト (C),デ リバ リー (D)の観点か ら,業務の仕組みの強化 に集 中 していた。 また,品質管理体制の強化 とい うよ うに定性的に表現 されていた。定性的に表現 さ れた方針は事業部サ イ ドで展開 される。展開時 の定量的 目標 と走性的 目標 の比率 はお よそ7 : 3
であった。定量的に捉 えられる指標 について は, 目標達成度が毎月各部 門か ら事業部長へ報 告 される。それを事業部長が報告書 として本社 に提出するとともに経営会議で全て報告す る。しか し,事業部か ら下位 に展開す る際に業績 指標 として管理で きていたのは売上 と利益 と品 質 ぐらいであったu8'。 さらに,事業部長 レベル で
3 0‑6 0
の 目標 を抱 えてお り,なすべ き事項 の焦点が絞れていなかった。 このことか ら,方 針の進捗 を計画対実績 との比較か ら十分 に検討 で きていなかった。(4)方針管理 と予算の関係
社長方針 は予算 と同時期 に策定 される。販売 や コス ト削減に関す る方針が提示 された場合, 予算数値が方針管理 にも用い られていた。 また, 金銭支出を伴 う方策 (施策)に対 しての金額は 明確 に把接 されていた。それに もかかわ らず, 予算編成時に,積み上げた予算が一律でカッ ト
されるため,施策 と予算 にギャップがあった。
それゆえ,施策の実施は十分 に管理 されていな か った。
(5)報酬 との リンク
昇給やボーナスに成果主義の要素 は入 ってい る。ただ し,上位者 (事業部長に対 しては社長) が主に定性的な側面 を主観的に判断 しているた め,何が どの ように評価 されるのについて明確 にはなっていない。
4.顧客満足経営確立 に向 けた取組
経営環境が大 きく変動す る中で
,A
社では故原価計算研究
2 0 0 5Vo l 2 9No . 1
わが国企業のバ ランス ・スコアカー ド導入における促進 ・阻害要因に関す る研究
存の業績管理 システムの問題点 を認識 し
,BSC
の導入に向けた取 り組みを開始 している。
(1) 新 しい ビジ ョン と第一次 中期経 営計画 の 策定
2 0 0 2
年 には,21
世紀 に向か って新 しい長期 経営計画19'が発表 された。長期経営計画では,BSC
の考 え方 も取 り入れなが ら,1
0年 ビジ ョ ンを策定 してい る。新 しい ビジ ョンには,顧 客満足 を重視する上で,社員, ビジネスパー ト ナー,株主,社会の価値向上 も視野 に入れ られ ている。長期経営計画 においては
,1 0
年 ビジ ョンを 実現す るための第一次中期経営計画 もビジ ョン とのつなが りを考慮 した上で策定 された。中期 経営計画では,
「顧客」 を中心 としたス ロー ガンや基本方針 を提示 している。
なお, ビジ ョン ・方針の伝達に関 しては,釈 しい ビジ ョンお よび中期 計画 を浸透 させ るた め に
,2 0 01
年 と2 0 0 2
年 は方針 発表会 が1 2
月 だけで な く7
月 に も実施 された。2 0 0 2
年 には, 社長 と副社長が全国拠点 を巡回 し,新 しく策定された長期経営計画の説明を行っている。
また,長期経営計画 を実施す るに当た り,社 長が積極 的 なサ ポー トを行 ってい る
。2 0 0 2
年 には,副社長 の指揮 下 にあ った経営企画室 を 分割 し,社長室 を設置す るとともに,社長室 を 介 して顧客満足経営 を推進 した。2 0 0 3
年 には, 経営企画室 と社長室 を合体 し,新たに社長直属 の経営企画室 とした上で,継続的に顧客満足経 営 を推進 している。(2)新 たな業績指標の測定
A
社 は,顧客 ・社員 ・ビジネスパー トナー ・ 株主 ・社会 とい う五つの価値向上 を掲 げた長期 経営計画の進捗度合 を把握す るために,新たな 業績指標の測定 を開始 している。一つ に
,2 0 01
年 か ら顧客満足度調査 が実施 されてい るeO。顧客満足度調査 を実施す る際 に,質問項 目は自社で設定 している ものの,データ の,集計は外部の調査会社 に委託 している。そ のため,調査費用 として毎年数百万円の コス ト がかかっている。
二つに,苦情件数である
。A
社 は,顧客満足 経営 を推進す る上で,顧客の声 を聞 くとい う目 的か ら,2 0 0 2
年 にお客様相談 セ ンター を‑箇 所 に集約 ・拡大す るとともに,全国フリーコー ル を導入 してい る。お客様相談 セ ンターにか かって きた電話は内容 に基づいて分類 される。苦情 に関 しては,毎 日部門長 に件数 と内容が報 告 されるとともに,苦情件数 として毎月測定 さ れている (211。
なお,顧客か らの情報 を識別 ・分類す るため, お よび,その情報 を社内で共有す るために,情 報 システムへの投資が なされている。相談セン ターの集約 とそれに伴 う情報 システムの更新に 約
2
億 円, インターネッ トを通 じた顧客登録 シ ステムの構築 にも約2
億 円を投資 している。 さ らに,全国フリーコールの導入 によって年間数 千万のコス トが発生 している。三つに,社員満足度 も測定 されるようになっ た。顧客満足向上 を図るためには従業員の満足 が必要 だ とい う考 えに基づいて
,2 0 0
1年 か ら 社員満足度調査が実施 されている。調査 は,外 部の調査会社の用意 した質問項 目に自社の項 目 を付 け加 えて実施 し,集計 ・分析 は外部の調査 会社 に委託 されている。社員満足度調査では,c
s認知度の測定 も同時に行われている (221。 (3) ビジョンに基づいた取組みA
社では,顧客満足経営 を確立するために, 新 しく策定 されたビジ ョンや基本方針 に基づい て, さまざまな取 り組みがなされている。一つ に
,2 0 01
年 か ら月に一度役 員以上が 出 席 してCS
経営会議 を実施 している。2 0 0 3
年か らは各部門において もCS
会議が実施 されてい る。原価計算研究
2 0 05Vo l . 2 9No1 65
二つに,2
00 2
年か らCS研修が実施 されてい る。従業員のあいだで顧客満足 とい う言葉 は知 れ渡 っていて も,具体的に何 をすれば良いのか を理解で きていなかったため,全従業員 を対象 としてCS
研修が実施 されるようになった。三つに,2
0 0 2
年1
月にNPS
研究会 (23日こ再入 会 し,J I
T( J u s t ‑ I n ‑ Ti me )
生産の強化 に取 り組ん でいる( 2 1
)。四つ に,将 来の リー ダー を育成す る 目的で
20 0 3
年3
月か ら40
歳前後の人材 を対象 に経営 塾 を開催 している。(4)方針管理の仕組みの変更
2 00 2
年 か らは方針管理 の仕組 み も変更 して いる。 まず, ビジ ョンお よび中期計画 を改めた ことか ら,方針策定時にビジ ョンや中期計画 (塞 本方針含 む) とのつなが りが明確 に意識 される ようになった。 また,方針策定の際に,経営企 画室 と社長 との打 ち合わせ を綿密 に行 うことに よって,社長方針 に社長の意向 をいっそ う反映 す るように している。さ らに,午二 回 (6月 と 11月) の社 長 ヒア リングが実施 されることになった。社長 ヒアリ ングは事業部門ごとに約
1
時間か ら1時間半か けて行われる。 このことにより社長 と事業部長 の意思疎通が うま く図れるようになって きてい る。5. B S
Cの導入 ・実践A社 では,20 0 4
年か らBSCが本格的に実施 段階に入っている。(1
)B S
Cの導入プロセス2 001
年 に新 しい ビジ ョンや中期経営計 画 を 策定する際,以前か らつ きあいのあるコンサル タン ト会社 に企業価値 に関す る役員研修 を依頼 した。その ときにコンサルタン ト会社の会長か らパ フォーマ ンス ・ス コアカー ドとい う言葉 を 聞いたのが BSCを知 るきっかけとなっている。66
この役員研修 によって得たことを反映 して, 新 しい ビジ ョンや第一次中期経営計画にはBSC の考 え方 も取 り入れた。 しか し, ビジ ョンや中 期経営計画 を達成するためにどのように
PDCA
のサ イクルを回 してい くか と考えた ときに,覗 状 の方針管理 において トップと事業部 との整合 性の弱 きが問題 となった。そ こで,経営企画室 長は,インフォーマルなが らも,BSCに関連す る著作 を読み,セ ミナーにも参加 した。その結 果,BSCが 自社 にも有用であることを認識 した。BSCの有用性 を認識 した とはいえ,当初は第
二次 中期経営計画か らのBSC導入 を検討 して
いた。それで も,次期の中期経営計画か らでは 遅い と感 じた経営企画室長 (一時は社長室長) は,BSCの導入に向けた活動 を開始 した。200 2
年秋 には,本社 ス タッフを召集 してBSCにつ
いての勉強会 を開催 した。経営企画室,財務, 情報 システムか ら1 5
名が参加 している。勉強会では,戦略マ ップお よびスコアカー ド の試案が作成 された。 この とき
,BSCの利点 と
して,①全社 と部門お よびに部門間のつ なが り が明確 になること,②基本方針 をBSCに展 開 する際に顧客の視点や学習 と成長の視点 に属す る指標が抜けがちになることを改めて認識で き たこと,③戦略マ ップを作成する際の議論 にお いて 自社の長所短所が浮かび上が って くること, を見出 している。同時 に,BSCの導入 に伴 う困難 も予測 され た。一つには, トップの決断 による
BSCの推
進ではなか ったため,経営陣がBSCを理解 で
きるか否か懸念 された。 もう一つには,社内に 顧客満足 を浸透 させ るには評価 システム としてBSCを利用す るのが良い と考えるものの,評価
によって格差 をつけるとい う慣習がなかったた め,大 きな抵抗が想像 された。 この時点におい ては, このような困難への対策 として,役員研 修が必要であることを認識す るとともに,多面原価計算研究
2 0 05Vo L 2 9No1
わが国企業のバ ランス ・スコアカー ド導入における促進 ・阻害要因に関する研究
的 目標管理 とい う名称 で
BSC
を運用す ること が検討 された。2 0 0 3
年1
月 には,前述 の コンサ ル タン ト会 社か らBS C
の研修 を受けている。経営企画室 ・ 財務か ら1
0数名が出席 した。A
社ではBSC
の 導入 に関 して直接的にコンサルタン トを利用 し ていない (25)。なお,BS C
に関する研修は同年5
月にも実施 された。
BS C
に関す る最初の研修 を受講 した後,2 0 0 3
年
2,3
月に経営企画室内の5
名で全社 ス コア カー ドお よび事業部 (営業部門)スコアカー ド の試案が再度作成 された (26)。経営企画室内で事業部ス コアカー ドの試案 を 作 成 した際 には,作 成す る人間や,事業部が もともと測定 していた指標の数にもよるとはい え,場合 によっては半 日ほどで作成可能であ り, 特 に困難 は感 じられなかった。ただ し,懸案事 項 として,①実際に事業部においてスコアカー ドを作成す る際 にはガイ ドラインや フォーマ ッ トが必要であること,② ビジネス ・プロセスの 視点 における成果指標 については
PDCA
のサ イクルを回 しなが ら取捨選択す る必要があるこ と1 2 7
㌧ ③先行指標 をどこまで押 さえるべ きか さ らに議論が必要であること(28),④五つ 目の視点 と設定 しようとした環境の視点の納 ま りが悪い こと,が認識 された。2 0 0 3
年4
月にBSC
導入 に関す る承認 を社長 か ら得 た後,5
月には経営会議 において,BSC
の導入が正式に承認 されている。
正式承認 を受 けてか ら
,9
月には,経営企画 室が講師 となって,BS C
に関する役員研修 を実 施 している (29)。 このことにより,役員間でBS C
の必要性が認識 されるに至 っている。 さらに, 11月には,実際にスコアカー ドの作成に携わる, 事業部門の企画責任者お よび本社部長への
BS C
説明会が開催 された。
役員研修の実施や説明会の開催 と平行 しなが
ら,経営企画室 で は,9月か ら 11月 にか けて 全社スコアカー ドが作成 された。スコアカー ド
を作成する際には,従来の方針策定時には行わ れていなかった,事業部門へのヒアリングを実 施 している(30)。経営企画室が作成 した原案は, 経営会議での承認 を受けた後,各事業部門にお いてス コアカー ドを作成するための雛形 となっ ている。
なお
,1 2
月の方針発表会 では,BSC
の導入 が全社 的 に発表 された。 これ を受 けて,1 2
月 か ら翌年1
月にかけて,各事業部門においてス コアカー ドが作成 されている。( 2) B S
Cの実践BSC
の導入 に よって,2 0 0 4
年か ら,社長方 針 は,戦略マ ップを用いなが ら重要成功要因 と 成果指標 に置 き換 えられ,全社スコアカー ドとして提示 されている
' 3 1 1
。全社 スコアカー ドとして提示 された社長方針 は,事業部門において事業ス コアカー ドとして 展開 される。事業部門では,全社 スコアカー ド の中の重要成功要因 と成果指標 を受けて, 自部 門に開通す る成果指標 に対 して,先行指標お よ び 目標 を達成するための施策 (方策)を設定す る。
業績の レビューに関 しては,月次での事業部 内の会議,四半期 ごとの経営会議,年二回の社 長診断にて.スコアカー ドを用いて方針の進捗 度が議論 されている。
なお,業績 レビューでは,方針の進捗度の管 理 を図 る とともに
,BSC
の精度 の向上が検討 されている。2
月の経営会議では.BSC
の実践上の問題点 として,各部門間の調整がで きてお らず全社ス コアカー ドとの整合性が とれていな かったこと,お よび,成果指棟 と先行指標の区 別が十分 になされていなかったことを認識 して いる。第
2
四半期( 7
月)の レビューにおいては, 先行指標が一部削減あるいは変更 されるととも に,新たな問題点 として, レビューの際に施策原価計算研究
2 0 05Vo L 2 9No1 67
の実施 状 況 も合 わせ て検 討 す る こ との必 要 性 を 確 認 してい る。
(3)現 時点 で認 識 してい るBSC実践 の課 題
A
社 は,BSC
を導 入 す る こ と に よ っ て, 既 存 の方針 管 理 の問題 点 を改 善 して い る。 とはい え,PDCAのサ イクル を回 しなが ら, さ らな るBSC
の精 度 の向上 を図 って い る。現 時点 にお い て は,上 述 の問題 点 の他 に,BSC
実践 上 の課題 と して,① 営 業 部 門 のBSC
作 成 の 困難 さ,② 製 品 の特 性 か ら派 生 す る顧客 ニ ー ズ の把 握 の難 しさ,③ 環 境 の視 点 の納 ま りの悪 さ,④ 生 産部 門 と営 業 部 門 の調整 ,⑤ 本社 ス タ ッフ部 門 で のBSC
の運用 ,⑥ ス コア カー ドに基 づ く資 源 配分 の優 先順 位付 け (予 算 との関係 ),⑦ ス コア カー ドと報 酬 との リ ンク,(む3
年 を対 象 とす る基 本 方 針 に対 す るス コア カー ドの作 成 , が 認識 され て い る。図表6 A社 にお けるBSC導 入 に関す る 促 進 ・阻害要 因の分類
A
社促 進
要因 動機仰ナ要因 需要低迷による競争の激化、既存システム
(Motivatoirs)(社長.部門長方針のつながりの悪さ) 推進要因 ビジョサルタントンの明確化、、スタッフによるアド′Vザ」としてのコンBSC勉強会、役員
(Faciritators)研修、説明会、既存システム(QCDに関す る指標の測定)、多面的な観点からの取組
( J
ⅠT
生産の強化、経営塾など) 触媒要因(Catalysts) 製品事故、財務業績の悪化 加速要因(Momentum) 社長のコミyトメント リ(Leaderーダーs) 経営企画室長阻
皇 混乱要因抑圧要因(confusers) BSC情報システム投資、に対する役員の理解指標測定に要するコス
量因 (Frustrators)ト、成果主義に対する風土
遅延要因 既存システム(視点に属する指標の不足、顧客の視点や学習と成長の予算との関係、
(Delaye「S) 水平間の調整)、BSCの技術的要因(成果
68
6.
考察本 節 で は
,A
社 に お け るBSC
の 導 入 プ ロ セ ス を, 従 来 の 業 績 管 理 シ ス テ ム が ど の よ う に 運 営 さ れ て い た の か , ま た, ど の よ う な 問 題 点 を抱 え て い た の か とい う点 と合 わ せ て 記 述 して きた。 こ こ で, 以 上 の 記 述 内 容 をKas ur i nen( 2 0 0 2 )
が提 示 した促 進要 因 ・阻害 要 因 の 分 類 に基 づ い て ま とめ る と, 図 表6
の よ うに表 され る。 図表3
と図表6
を比 較 す る と,Kas ur i nr n( 2 0 0 2 )
の事 例 とA
社 で は,促 進 ・阻 害 要 因そ れぞ れ の 内容 は大 き く異 な って い る ことが見 て取 れ る。
A
社 の事 例 を,Kas ur i ne n( 2 0 0 2 )
に よって提 示 され た促 進 ・阻害 要 因 の分 類 , あ るい は,会 計 シス テ ム の変化 モ デ ル (図表4
参 照 ) に当 て はめ て検 討 してみ て も,いつ ,どの よ うな促 進 ・ 阻害 要 因が現 れ るのか , また, 阻害 要 因 を どの よ う に 克 服 して い くの か に つ い て は 明 示 的 で な い。 この こ とか ら, 図 表7
の よ う にA
社 のBSC
導 入 プ ロセス を図示 した。まず , 図表
7
にお い て示 す① ,② ,③ ,④ そ れ ぞ れ の要 因 間 の 関係 は,
「需 要 低 迷 に よ る競 争 の激化 」 が進 む 中で,「既 存 シス テ ム (社 長 ・ 部 門長 方 針 の つ なが りの 悪 さ)」 の 問 題 点 を認 識 した こ と を きっか け と して,
「製 品事 故 」 と「財 務 業 績 の悪 化 」が拍 車 をか け る形 で 「ビジ ョ ンの明確 化 」が な され た こ とを示 して い る。 「ビ ジ ョンの明確化 」にあた って は,「経 営企 画室 長」
が立 案 者 と して大 きな役 割 を果 た してい る。
次 に,④ ‑⑦ ‑⑧ ‑⑬ , お よび に,⑤ ‑⑥ と して措 か れ て い る導 入 プ ロセ ス につ い て検 討 す る
。BSC
の考 え方 も取 り入 れ て 「ビジ ョンの明 確 化 」 が な され た もの の,BSC
を導 入 ・実践 す る に は,
「既 存 シス テ ム (顧 客 の視 点 や 学 習 と 成 長 の視 点 に属 す る指 標 の不 足)」 に不 備 が あ る こ とか ら,早 急 なBSC
の 導 入 は見 送 られ た 。 そ れ で も,顧 客 満 足 度 や苦 情 件 数 とい った業 績 原価計算研究2 0 05Vo 1 2 9No1
わ が 国 企 業 の バ ラ ンス ・ス コ ア カー ド導 入 にお け る促 進 ・阻 害 要 因 に 関 す る研 究
図表
7 A
社のBS
C導入プロセスにおける促進 ・阻害要因BSC
の実践に
よる精度向上
BSC
の導入プロセス 指標 の測定は開始 されている。新 しい業績指標を測定す る際には
,
「情報 システム投資」 と 「指 標測定に要す るコス ト」 を負担 しなければなら なかった。 しか し ビジ ョンの中で掲 げられた 顧客満足経営の確立 に向けた基本方針やスロー ガンによって, これ らの負担 は承認 された。新 しく測定 される ようになった業績指標 は,
「既 存 システム( QCD
に関する指標の測定)」での 実績 とあいまって,BS C
の導入 ・実践 に結びつ いている。 なお, この導入 プロセスでは,経営 企画室 を直属の部署 とする 「社長の コミッ トメ ン ト」 によって後押 しされた 「経営企画室長」が推進者 としての役割 を果た している。
さらに,⑥‑㊨‑⑪‑⑫,お よび,⑨ に関 し ては,次のことを表 している。「経営企画室長」
は伝達者 として
,
「スタッフによるBS C
勉強会」を開催 した
。BS C
に関す る基礎知識 を得 るため に 「ア ドバ イザーとしての コンサルタン ト」か ら研修 も受 けてい る。BSC
勉強会 においては,BSC
を導入 ・実践す る上での「 BSC
に対す る 役員の理解」が懸念 された。そのため,BS C
に 関す る 「役員研修」 を1
日かけて実施す るとと もに,実際の実務 を担当す る企画責任者や本社 部長 に対 して 「説明会」 を開催 してい る。「役 員研修」お よび 「説明会」 によってBSC
の必 要性 を認識 した役員や企画責任者 は,
「既存 システム
( QCD
に関する指標の測定)」での経験 を生か しなが ら,スコアカー ドを作成 している。加 えて,④‑⑭ は,顧客や従業員 を見据 えて 多面的な観点か ら 「ビジ ョンの明確化」がなさ れた ことに基づいて
,CS
経営会議やCS
研修 の実施,J I T
生産の強化,あるいは,経営塾の原 価 計 算 研 究2005Vol.29No.1
69
開催 といった 「多面的な観点か らの取組」が実 施 され, この ような取組が
BSCを実践す る上
での施策 として反映 されていることを示 してい る。最 後 に,⑮,⑯,⑫ の要 因に関 して は,今 後
BSCを実践す る上での課題が書 き表 されて
いる。す なわち,
「成果主義 に対す る風土」が ない こと,
「既存 システム (予算 との関係.水平 間の調整)」の手順がその まま踏襲 されてい ること
,
「BSCの技術的要因 (成果指標 と先行 指標 の区別 ・選定)」 を克服す ること,である。A
社では,PDCA
のサ イクルを回 しなが ら,さ らなるBSCの精度向上 を図っている。
Ⅳ おわ りに
本稿では,BSCの導入プロセスに関する知見 の蓄積 に寄与す ることを目的 として,事例研究 を行 っている。事例研究では,広義の導入 プロ セスに着意 しなが ら,先行研究ではほとん ど触 れ られていなかった既存 システムの影響 を視野 に入れて導入 プロセスを記述 した。
本稿のインプリケーシ ョンとしては,次の二 点が挙げ られる。 まず第
1
に,BSCの導入 プロ セスにおいて,既存 システムのあ り方 (運用方 法)が,促進要因に も阻害要因にもなっている とい うことである。戦略マネジメン ト・システ ム としてのBSCは,多面的業績測定 システム,
コミュニケーシ ョン ・システム, 目標管理,莱 績評価 といった多様 な側面か ら成 り立 っている。それゆえ,それぞれの側面において,既存 シス テムが どの ように運用 されていたのかに応 じて, 既存 システムは促進要因にも阻害要因に もなる のである。 このことは,会計 システムの変化 と い う観点か らBSC導入 プロセス を検討 してい
く必要があることを示 している。
第
2
に,Kasuri nen ( 2 0 0 2)が提示 した会計 7 0
システム変化のモデルは,促進 ・阻害要因を分 類する上では有効であるとはいえ,広義の導入 プロセスを研究対象 とする場合,BSCの導入 プ ロセスを促進す る,あるいは,阻害す る諸要因 間の関係の把握 を困難にす るとい うことである。
実践的なインプリケーシ ョンを得 るためには, いつ, どのような促進 ・阻害要因が現れるのか, また,阻害要因をどの ように克服 してい くのか を明示的にすることが不可欠 となる。
ただ し, ここで提示 したインプリケーシ ョン の妥当性 を確保す る際に,本稿 にはい くつかの 限界があ る。一つ に,A社 の
BSC実践 はまだ
開始 されて間 もない段階である。BSCの組織へ の定着,あるいは,導入成果 を検証す る上で, さらに長期的な調査が必要 となる。長期的な調 査 を行 う場合 には,導入ステージの活用 も検討されなければならない。
二つに,今 回の調査では,導入推進側 に対 し てのみ聞 き取 りを行 っている。被導入側 にも調 査 を進めることによって.新たな促進 ・阻害要 因が見出される可能性 はある。特 に,変化への 抵抗 とい う側面 をとらえるために,被導入側へ の調査 は避け られない。
最後 に,本稿での事例研究は単一のケースで あ り,一般化で きる事項 はそれほど多 くない。
事実の追試,あるいは,理論の追試 を行 うため にも, さらにケースを蓄積 してい くことが必要 であ る。 とはいえ,本稿 において示 した
A
社 のBSC導入 プロセス (
図表 7) は,ケースの 蓄積 を進める上での基礎 になると考える。以上の ような限界の克服 に関 しては,今後の 研究課題 としたい。
【注】
( 1 ) Ni e ve n( 2 0 0 2 )
もまた,BSC
の導入に失敗する原因を.BS C
導入課題のトップ1 0
として提示している。( 2 ) 図表
1ではBSC
構築に1 6
週間かかるとしているが,原価計算研究