『心理学紀要』(明治学院大学)第 22 号 2012 年 31-44 頁
高齢者における日常的な回想と心理的適応との関連
1野 村 信 威
(明治学院大学心理学部)要 約
本研究の目的は,高齢者における日常的な回想の頻度,回想の質的特徴と心理的適応との関連を検討することである。
関西圏の地域在住高齢者 400 名に対して質問紙調査を実施し(平均年齢 72.9 歳,標準偏差 8.2 歳),日常場面における 回想の頻度,肯定的回想,否定的回想と再評価傾向尺度(野村・橋本 ,2001)を使用して心理的適応との関連について 検討した。階層的重回帰分析の結果からは回想の頻度と回想にともなうポジティブおよびネガティブな感情による交互 作用が認められた。本研究の結果より,日常場面における頻繁な回想は心理的適応を低める影響を及ぼす場合もあると 考えられた。この結果は,日常場面では回想を行わないことも心理的適応を維持する手段になり得るとした Coleman
(1994)の指摘を支持した。
キーワード:高齢者 ,回想法 ,心理的適応
問題
老年期に過去を回想する行為が心理的な意 義を持ちうることが精神科医の Butler(1963)
に よ り 指 摘 さ れ, ラ イ フ レ ヴ ュ ー(Life Review)という概念が提唱されて以降,回想 法(ReminiscenceTherapy)は高齢者への対 人援助手段として日本や欧米などの介護・福 祉・臨床場面で広く注目を集めて実践されて いる。回想は老年期に直面する発達課題を解 決する具体的手段だとされ(Erikson,Erikson,
&Kivnick,1986),老年期に行われる回想の心 理的な意義を検討した研究も数多く報告されて きた(例えば Coleman,1974;Lewis&Butler, 1974;Haight,1988;Haight&Dias,1992;野村 , 1998;野村 ,2009)。これまでの研究により回想 の概念は精査され,援助手段としての回想法は,
アクティビティの要素が大きく認知症高齢者に も適用可能とされる一般的回想法と,心理療法 的な要素を含み人生全体の検討や意味づけを促
すライフレヴューに分類されている(Haight
&Burnside,1993)。しかしながら一部の報告 では,回想法の有効性を疑問視する結果も認 められ,回想法の心理的効果に関するエビデ ンスは未だに充分であるとは言えない(例えば Molinari&Reichlin,1985)。
なかでも日常的な回想の頻度と心理的適応
(psychologicalwell-being)2と の 関 連 を 検 討 した研究では,頻繁に行われる回想は心理的 適応の良好さとは関連せず,むしろ心理的適 応の低下と結びつく可能性が報告されている
(例えば Lieberman&Falk,1971;Brennan&
Steinberg,1984;長田・長田 ,1994)。また他 の領域における研究からも,過去を頻繁に反芻
(rumination)する行為がもつネガティブな影 響が指摘されている(Nolen-Hoeksema,1991)。
こ う し た 問 題 に つ い て Coleman(1994) は,
高齢者が一様に回想を好むとは限らず,むしろ 回想を回避することで良好な適応状態を維持し ている場合もあると指摘している。そのため,
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単純な回想の頻度のみから回想行為の心理的な 意義を検討することは不充分であり,回想の質 的側面についても検討することが重要だといえ る。
楽しい,あるいはつらいといった回想にとも なう情緒的性質とそうした回想が心理状態に与 える効果との関連はこれまでもしばしば検討さ れている(例えば Havighurst &Glasser,1972;
Merriam&Cross,1982)。Fry(1991)は高齢 者 140 名を対象に構造化面接を試みた。そして その結果より,回想の量とその情緒的性質は心 理的適応と対照的に異なる関連をもつと指摘し た。すなわち,回想の情緒的性質がポジティブ であるほど過去の満足度や主観的幸福感は高 く,抑うつ的ではなかった。その一方で,回想 の量が多いほど人生満足度や主観的幸福感は低 く,抑うつ傾向は高かった。このことから Fry は,抑うつや不安などのネガティブな感情は,
個人を回想活動に向かわせる役割を果たしてい ると考えた。
Beaton(1991)は施設に入居する 75 名の高 齢女性への面接調査を通して,高齢者の回想ス タイルを肯定的,否定的,絶望的スタイルの3 つに分類し,肯定的スタイルの高齢者はそうで ない者より高い自我発達段階にあることを指 摘した。Beaton による回想スタイルは回想の 情緒的性質とは異なる概念ではあるが,肯定的 スタイルはポジティブな回想ばかりでなくネガ ティブな回想や過去の葛藤が語られ,他の2つ のスタイルはネガティブな経験が否認または最 小化されるか,反対にネガティブな経験に圧倒 されて苦痛を感じるという特徴をもっている。
回想法やライフレヴューが心理的効果を生 じさせる要因のひとつに,回想における評価 的要素があることが指摘されている。Haight, Coleman,&Lord(1995)はライフレヴューが 療法効果をもつ重要な条件として構造化,個別 性,評価(evaluation)の3つを挙げ,中でも 過去の評価を行うことは,個々のライフイベ ントを意味づけて過去の人生の受容や再統合を
導く重要なプロセスだと指摘した。その一方で ライフレヴューは必ずしも統合を導くとは限ら ず,時には後悔や悲しみ,不安といった感情や 心理的苦痛を導くこともあると指摘されている
(Lewis&Butler,1974)。そのため,回想にお いて過去を評価する行為の心理的な意義は依然 として明確ではない。
野村・橋本(2001)はこれらの見解を踏まえ,
回想の質的特徴を検討する指標として肯定的回 想尺度,否定的回想尺度,そして再評価傾向尺 度の3つの尺度を作成した。肯定的回想尺度 と否定的回想尺度は,ポジティブあるいはネガ ティブな過去の出来事やエピソードの多さを測 るのではなく,「個人の回想全般にともなうポ ジティブあるいはネガティブな感情や認知の程 度」を測定するものである。また再評価傾向尺 度は「回想を通して過去のネガティブな出来事 の再評価を行う程度」を測定する尺度である。
これらの回想の特徴と心理的適応の関連につい て,老人大学を受講する地域在住高齢者 208 名 を対象とした質問紙調査から検討した結果,老 年男性では頻繁に過去を振り返ることは心理的 適応の低さと関連し,また老年女性ではネガ ティブな感情をともなう回想の多さと心理的適 応の低さとの間に関連が認められた。しかしな がら,結果において性差が認められた原因は充 分に検討できず,性差や年齢,生活環境などの 影響を考慮したより包括的な検討が必要だと考 えられた。
本研究は,野村・橋本(2001)の結果をもと に,回想の頻度とその質的特徴がもつ心理的 な意義を年齢や性別などの基本属性による影 響を考慮して検討する。その際に本研究では,
これまでの先行研究(例えば Fry,1991;Haight, Coleman&Lord,1995)における知見に基づき,
1. 回想にともなうポジティブまたはネガティ ブな感情や過去を再評価する傾向は高齢者の心 理的適応の程度を説明する,2. これらの回想 の質的特徴は回想の頻度とは異なる心理的な意 義をもつ,という仮説を立てた。本研究では上
33 記の仮説を検討することを目的とした。
方法
調査対象者 調査対象者は関西圏のK市内およ び近郊に在住しており,認知症やその他の精神 疾患を持たない 60 歳以上の在宅高齢者であっ た。
対象者は生活環境が異なる以下の3つの集団 から募集された。第1の集団は,K市内の老人 大学で健康や文学・歴史についての講義を受講 する高齢者であり,これを老人大学群とした。
質問紙の回答を依頼し配付しておよそ1週間後 に郵送で回収した。調査対象者は 208 名(男性 111 名 ,女性 97 名 ,平均年齢 67.9 歳 ,標準偏差 4.6 歳)だった。 老人大学群の対象者は野村・
橋本(2001)における調査対象者であり,他の 集団との比較のために再度分析に用いた。
第2の集団である福祉センター群は,K市内 の老人福祉センターに通所して生け花や俳句と いった活動に参加している高齢者であり,生活 自立度(ADL)も良好だった。センターで開 催される複数の活動時に質問紙への回答を依頼 し,1週間後に郵送または手渡しにより回収し た。調査対象者は 101 名(男性 26 名 ,女性 75 名 , 平均年齢 74.8 歳 ,標準偏差 6.6 歳)だった。
そして第3の集団であるデイケア群は,K市 内の老人保健施設に併設されたデイケアの利用 者のうち,認知症の症状が認められず,体調が 良好であり,施設責任者により調査者との面接 が可能であると判断された者を対象とした。デ イケア群の対象者は在宅であるものの ADL の 低下が認められ,日常生活を送る上である程度 の介助や支援を必要とする高齢者だった。デイ ケア群の調査対象者は自筆で質問紙に回答を記 入することが困難な者が多く,その場合には調 査者が口頭で質問項目を読み上げて聞き取り調 査を行った。調査対象者は 91 名(男性 25 名 , 女性 66 名 , 平均年齢 82.7 歳 , 標準偏差 6.3 歳)
だった。
これらの手続きにより集められた老人大学 群,福祉センター群,デイケア群の3群の調査 対象者は合計で 400 名(男性 162 名 ,女性 238 名 , 平均年齢 72.9 歳 ,標準偏差 8.2 歳)だった。本 研究ではこれらの対象者のデータに対して統計 的分析を行った。なお質問紙の一部に回答漏れ が認められた場合には,欠損値を含む尺度のみ を分析から除外した。
これら3群の平均年齢には統計的に有意な差 が認められ,老人大学群は他の2群よりも年齢 が若く,福祉センター群はデイケア群よりも年 齢が若かった。各群の特徴として,デイケア群 は ADL が低下しており公的な支援を受けてい る集団である一方,老人大学群と福祉センター 群はいずれも ADL は良好だといえる。また老 人大学群は福祉センター群と比べて社会的な活 動範囲が広く,活動度の高い集団だと考えられ た。本研究の対象者は在宅高齢者全体から無作 為抽出されたサンプルではなく,デイケアや福 祉センターなどの集団に所属してある程度の社 会的交流の機会をもつ高齢者であるという特徴 を持っている。
質問紙 本研究では回想に関する指標として以 下の4つの尺度を用いた。
日常的な回想の量的な指標としては長田・長 田(1994)による回想尺度を使用した。これは 日常生活における回想の頻度を測定する8項目 からなる尺度であり,「ひとりでいるとき」「寂 しさを感じたとき」「暇なとき」などの状況で,
過去について「考えない(1点)」から「よく 考える(4点)」の4件法で評定を求める。
また回想の質的な指標には,野村・橋本
(2001)の作成した肯定的および否定的回想尺 度を用いた。肯定的および否定的回想尺度は回 想にともなう情緒的な性質,すなわち個人の回 想にともなうポジティブあるいはネガティブな 感情や認知の程度を測定する。肯定的回想尺度 は 14 項目からなるが,本研究では野村・橋本
(2001)において因子負荷量の高かった6項目
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のみを使用し,6項目からなる否定的回想尺度 と項目数を揃えた。「私は昔のことを思い出す と幸せを感じる」や「思い出すのがつらいこと がある」などの項目に対して「そう思わない(1 点)」から「そう思う(5点)」の5件法で評定 を求める。
再評価傾向尺度は Haight,Coleman,&Lord
(1995)が回想法の重要な治療的要素の1つに 挙げた「評価」という概念をもとに野村・橋本
(2001)により作成された。再評価傾向尺度は 過去のネガティブな経験について自ら再評価を 行う傾向を測定し,回想を通じて個人が自発的 に過去の評価に取り組む程度を予測する指標と される。「いやな出来事の持つよい側面に気づ くことがある」などの項目に対して「そう思わ ない(1点)」から「そう思う(5点)」の5件 法で評定を求める。
心理的適応の指標には先行研究(Haight, 1988;Cook,1991)を参考に以下の3つの尺度 を用いた。
⑴人生満足度
(LifeSatisfactionIndex-A,LSI-A)
LSI-A は Neugarten,Havighurst&Tobin
(1961)により作成された個人の人生全体の満 足度を測定する 20 項目の尺度である。和田
(1981)により項目数の少ない日本版が作成さ れているが,本研究では野村・橋本(2001)に より修正され,新たに整理された 14 項目を用 いた。作成した LSI-A と和田による LSI-A と の相関は非常に高いことから(r=.962,p<.001),
人生満足度の指標として利用可能だと考えられ た。
⑵短縮版抑うつ尺度
(GeriatricDepressionScale,GDS)
GDS は Yesavage,Brink,Rose,Lum,Huang, Adey,&Leirer(1983)により作成された 30 項目からなる高齢者向け抑うつ尺度である。本 研究で使用した Sheikh&Yesavage(1986)に よる短縮版は 15 項目からなり,「はい」「いい え」の2件法で評定する。 本研究では Niino,
Imaizumi,&Kawakami(1991)による日本版 を用いた。
⑶自尊感情尺度
(RosenbergSelf-EsteemScale,RSE)
Rosenberg(1965)により作成された 10 項 目からなる尺度であり,自分に対して「これで よい」と思う程度を測定する。山本・松井・山 成(1982)により日本版が標準化された。「あ てはまる」から「あてはまらない」の5件法で 回答する。
本研究では,上記の尺度により測定された結果 を心理的適応の高さとする操作的定義を行った。
結果
はじめに対象者の年齢,性別,伴侶との関係
(結婚経験および死別の有無),家族構成(独居 または家族と同居),そして調査で用いた全て の指標の度数または平均値を群ごとに算出して Table 1にまとめた。上記のデモグラフィック 変数のうち,伴侶との関係および家族構成の2 つは老人大学群では尋ねられていないため,他 の2群における結果のみを示した。
調査に用いた全ての指標に対して,デモグラ フィック変数の要因をそれぞれ主効果とする1 要因の分散分析を行った。年齢については対象 者 を 60 歳 代(N=164),70 歳 代(N=140),80
歳代N=95)に分け,年代による回想および適
応指標の得点の差異を検討した。
分析の結果,年代に関しては適応指標にお いて一貫して有意な差が認められた(LSI - A:F(2,389)=8.72,p<.001;GDS:F(2,384)
=13.79,p<.001;RSE:F(2,388)=3.25,p<.05)。
すべての適応指標で 60 歳代,70 歳代,80 歳代 の順により適応的であり,Turkey 法による比 較の結果,いずれの指標でも 60 歳代は 80 歳代 よりも適応度が高かった(ps<.05)。抑うつ度 では全ての年代で差が認められ,60 歳代は他 の年代よりも抑うつ度が低く,70 歳代は 80 歳 代よりも抑うつ度が低かった(ps<.05)。
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性別に関しては,肯定的回想(F(1,394)
=5.80,p<.05) と 抑 う つ 度(F(1,386)=8.80, p<.01) と 自 尊 感 情 度(F(1,390)=13.56, p<.001)で性差が認められ,高齢女性は高齢男 性に比べて回想にポジティブな感情がともなう が,抑うつ的であり自尊心も低いことが認めら れた。
伴侶との関係では,再評価傾向でのみ差が認 められ(F(1,184)=8.46,p<.01),伴侶を亡く した高齢者はそうでない者よりも過去を再評価 する傾向が高かった。
家族構成に関しては,いずれの指標でも独居 と同居の間で得点の差は認められなかった。
老人大学群,福祉センター群,デイケア群 の各群による違いに関しては,前述したよう に年齢で有意な差が認められた(F(2,396)
=230.24,p<.001)ばかりでなく,3つの適応指 標すべてで有意な差が認められた(LSI -A;F
(2,390)=8.52,p<.001,GDS;F(2,385)=21.05, p<.001,RSE;F(2,389)=5.28,p<.01)。いずれ の指標でも老人大学群はデイケア群よりも適応 的であり,さらに抑うつ度では福祉センター群 はデイケア群よりも適応的だった(ps<.05)。
回想指標と心理的適応の相関
調査に用いたすべての尺度間の相関系数を
算出して Table 2に示した。回想の指標間で は,回想の頻度は肯定的回想とは関連がなかっ た(r=.059,n.s.)一方で,否定的回想とは有意 な相関を示した(r=.223,p<.001)。肯定的回想 は否定的回想と有意な負の相関を(r=-.282, p<.001),また再評価傾向とは正の相関を示し た(r=.269,p<.001)。
適応指標との関連では,回想の頻度は人生 満足度や自尊感情とは負の相関を(r= -.188
~ .196,p<.001),抑うつ度とは正の相関を示し た(r=.216,p<.001)。また,肯定的回想は適応 度の高さと(LSI-A:r=.273,p<.001;GDS:r=
-.188,p<.001;RSE:r=.238,p<.001),否定的回 想は適応度の低さとの関連が認められた(LSI
-A:r=-.292,p<.001; GDS:r=.239,p<.001;
RSE:r=-.262,p<.001)。再評価傾向は人生満 足度の高さとのみ弱い相関を示した(r=.206, p<.001)。
回想が心理的適応に及ぼす影響の検討 ところで本研究の調査方法は単独の質問紙調 査であるために実際には相関研究にあたり,回 想により生じる心理的適応への効果を直接検討 することは出来ない。また記憶における気分一 致効果の研究では,過去を想起する際の感情状 態が想起される内容に影響を及ぼす可能性が指 変数
年齢 72.98 (8.19) 67.87 (4.63) 74.82 (6.57) 82.73 (6.34)
性別 (男性/女性 ) 伴侶 (同居/死別 ) 家族構成 (独居/同居 )
回想 の 頻度 19.14 (4.94) 18.91 (4.44) 19.74 (5.40) 18.99 (5.46) 肯定的回想 21.12 (5.34) 20.89 (7.41) 21.03 (5.82) 21.73 (6.13) 否定的回想 17.72 (6.98) 17.64 (6.61) 18.41 (7.38) 17.14 (7.38) 再評価傾向 42.57 (10.52) 41.86 (10.40) 42.35 (10.47) 44.38 (10.76) 人生満足度 (LSI -A) 18.01 (5.44) 18.98 (4.69) 17.56 (5.99) 16.27 (5.95) 抑 うつ 度 (GDS) 4.07 (3.00) 3.36 (2.63) 4.01 (3.02) 5.70 (3.14) 自尊感情度(RSE ) 36.28 (6.31) 37.20 (5.24) 35.80 (6.94) 34.74 (7.42)
括弧内は標準偏差。a
老人大学群の対象者は含まず。
48/139 - a 35/66 13/73
57/132 - a 38/63 19/69
162/238 111/97 26/75 25/65
全体 老人大学群 福祉センター群 デイケア群
Table 1 老人大学群,福祉センター群,デイケア群における各変数の度数および平均値
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摘されており(例えば筒井,2000),回想から 適応への一方的な因果関係を規定するべきでは ない。しかしながら,回想法が心理的適応に及 ぼす効果についてはこれまで繰り返し指摘され ていることから(例えば Haight,1988),本研 究でも同様の因果関係を仮定した上でこれらの 指標間の関連を検討した。
回想指標における階層的重回帰分析を人生満 足度,抑うつ尺度および自尊感情尺度の3つの 適応指標に対して行った。第1段階としてデモ グラフィック変数である年齢,性別,ADL(デ イケアの利用の有無)を,第2段階として回想 の頻度とその質的指標である4つの尺度を,さ らに第3段階として回想の頻度と他の3つの回 想の指標との積である交互作用項を説明変数と して投入した。 説明変数の選択には強制投入 法を用いた。また Aiken&West(1991)に従い,
すべての説明変数は多重共線性の問題を取り除 くため平均値からの偏差に変換して用いた。
人生満足度では,分散分析の結果と一致して 高齢者は年齢を重ねるほど人生満足度は低下し た(β= -.225,p<.001)。また4つの回想の指 標は全て人生満足度を説明し,回想の頻度や否 定的回想の程度が低く,肯定的回想や再評価 傾向の程度が高いほど人生満足度は高かった
(回想の頻度:β= -.173,p<.001; 肯定的回想:
β=.239,p<.001;否定的回想:β= -.204,p<.001;
再評価傾向:β=.164,p<.01)。回想の頻度と質 的指標との交互作用はいずれも有意ではなかっ
た。
抑うつ度では(Table 3 参照),年齢,性 別,ADL の3つのデモグラフィック変数はい ずれも抑うつの程度を説明した。高齢者は年齢 を重ねるほど抑うつ度が高まり,女性は男性よ りも抑うつ度が高く,またデイケア利用者は非 利用者よりも抑うつ度が高かった。また回想の 頻度と肯定的回想,否定的回想の程度はそれぞ れ抑うつの高さを説明し(回想の頻度:β=.213, p<.001;肯定的回想:β= -.190,p<.001;否定的 回想:β=.156,p<.01),回想の頻度や否定的回 想の程度が高く,肯定的回想の程度が低いほど 抑うつ度が高かった。これらに加えて,標準偏 回帰係数は低いものの,回想の頻度と肯定的 回想による交互作用が認められた(β= -.127, p<.05)。
自尊感情度では(Table 4 参照)性別によ る違いが認められ,男性は女性よりも自尊心が 高かった(β=.187,p<.001)。回想の頻度と肯定 的回想,否定的回想の程度はそれぞれ自尊心の 高さを説明し(回想の頻度:β= -.193,p<.001;
肯定的回想:β=.261,p<.001; 否定的回想:β=
-.142,p<.01),回想の頻度や否定的回想の程 度が低く,肯定的回想の程度が高いほど自尊感 情は高かった。さらに回想の頻度と否定的回想 による交互作用が認められた(β=.164,p<.01)。
そこで交互作用が認められた結果において,
回想の頻度の得点が平均値±1SD における肯 定的回想または否定的回想の単回帰直線をもと
* p< .05 ** p< .01 *** p< .001 肯定的回想 .059
否定的回想 .223 *** -.282 ***
再評価傾向 .114 * .269 *** -.077
人生満足度 (LSI -A) -.196 *** .273 *** -.292 *** .206 ***
抑 うつ 度 (GDS) .216 *** -.188 *** .239 *** -.090 -.705 ***
自尊感情度 (RSE ) -.188 *** .238 *** -.262 *** .058 .526 *** -.601 ***
肯定的回想尺度は6項目の短縮版を使用
再評価傾向 人生満足度 抑うつ度 回想の頻度 肯定的回想 否定的回想
Table 2 回想に関する指標と適応指標間の相関
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めてFigure 1および Figure 2に図示した。
抑うつ度では(Figure 1 参照),回想の頻 度が低い場合(-1SD)には肯定的回想の程 度によって抑うつ度に違いはなく,ほぼ一貫し て抑うつ度は低かった。しかしながら回想の頻 度が高い場合は(+ 1SD),肯定的回想の程度 によって抑うつ度は異なり,回想にともなうポ ジティブな感情の程度が低いほど抑うつ度は高 かった。
自尊感情度では(Figure 2 参照),回想の
頻度が高い場合には(+ 1SD),否定的回想の 程度に関わらず自尊感情は低かった。これに対 して回想の頻度が低い場合(-1SD),否定的 回想の程度により自尊感情度は異なり,回想に ともなうネガティブな感情の程度が低いほど自 尊感情は高かった。
考察
本 研 究 の 結 果 は 先 行 研 究(Brennan&
変数 B SE B β B SE B β B SE B β
年齢 0.044 .024 .123 0.060 .022 .166 ** 0.063 .022 .174 **
性別a -0.601 .308 -.098 -0.660 .287 -.108 * -0.683 .285 -.112 * ADL(デイケア利用)b 1.482 .457 .211 ** 1.493 .424 .212 *** 1.391 .424 .198 **
*
*
* 3 1 2 . 9 2 0 . 9 2 1 . 0
*
*
* 6 9 1 . 9 2 0 . 9 1 1 . 0 度
頻 の 想 回
*
*
* 0 9 1 . - 8 2 0 . 6 0 1 . 0 -
*
*
* 5 8 1 . - 8 2 0 . 3 0 1 . 0 - 想
回 的 定 肯
*
* 6 5 1 . 1 2 0 . 7 6 0 . 0
*
* 1 6 1 . 2 2 0 . 0 7 0 . 0 想
回 的 定 否
5 8 0 . - 4 1 0 . 4 2 0 . 0 - 9 8 0 . - 4 1 0 . 5 2 0 . 0 - 向
傾 価 評 再
* 7 2 1 . - 5 0 0 . 3 1 0 . 0 - 想
回 的 定 肯
× 度 頻 の 想 回
5 9 0 . - 4 0 0 . 8 0 0 . 0 - 想
回 的 定 否
× 度 頻 の 想 回
1 0 0 . 3 0 0 . 0 0 0 . 0 - 向
傾 価 評 再
× 度 頻 の 想 回
決定係数 R2 .115 .255 .271
決定係数の増分 △ R2 .115 *** .141 *** .016 *
a女性=0,男性=1 b 非利用=0,利用=1 抑うつ度における高得点は適応的でない状態を示す。
* p< .05 ** p< .01 *** p< .001
第1段階 第2段階 第3段階
変数 B SE B β B SE B β B SE B β
年齢 -0.027 .051 -.035 -0.073 .049 -.096 -0.073 .048 -.096
性別a 2.067 .665 .161 ** 2.274 .625 .177 *** 2.393 .618 .187 ***
ADL(デイケア利用)b -1.407 .992 -.095 -1.208 .927 -.081 -1.042 .915 -.070
*
*
* 3 9 1 . - 3 6 0 . 6 4 2 . 0 -
*
* 9 5 1 . - 3 6 0 . 3 0 2 . 0 - 度
頻 の 想 回
*
*
* 1 6 2 . 1 6 0 . 9 0 3 . 0
*
*
* 3 5 2 . 2 6 0 . 9 9 2 . 0 想
回 的 定 肯
*
* 2 4 1 . - 6 4 0 . 9 2 1 . 0 -
*
* 7 4 1 . - 7 4 0 . 4 3 1 . 0 - 想
回 的 定 否
5 3 0 . 9 2 0 . 1 2 0 . 0 - 0 3 0 . 9 2 0 . 8 1 0 . 0 - 向
傾 価 評 再
2 0 1 . 2 1 0 . 3 2 0 . 0 想
回 的 定 肯
× 度 頻 の 想 回
*
* 4 6 1 . 9 0 0 . 9 2 0 . 0 想
回 的 定 否
× 度 頻 の 想 回
2 0 1 . 6 0 0 . 1 1 0 . 0 向
傾 価 評 再
× 度 頻 の 想 回
決定係数 R2 .048 .188 .221
決定係数の増分 △ R2 .048 *** .140 *** .033 **
a女性=0,男性=1 b 非利用=0,利用=1
* p< .05 ** p< .01 *** p< .001
第1段階 第2段階 第3段階
Table 3 抑うつ度(GDS)に対する回想指標の階層的重回帰分析
Table 4 自尊感情度(RSE)に対する回想指標の階層的重回帰分析
38
Steinberg,1984; 長田・長田,1994)と一致し て,日常場面における頻繁な回想は心理的適応 の低さと関連することが認められた。また,回 想指標間の相関の結果からは,回想の頻度と否 定的回想の間に弱い相関が認められ,日常的に 頻繁に回想をする高齢者ほど回想にともなって ネガティブな感情が喚起されやすいことが認め られた。これに対して回想の頻度と肯定的回想 にはほとんど相関が認められないことから,日 常場面で行われる回想はどちらかと言えばネガ ティブな感情と結びつきやすい傾向があるとい える。
階層的重回帰分析の結果からは,日常的に頻
繁に回想を行い,また回想にネガティブな感情 がともなう高齢者ほど心理的適応の程度は低 かった。その一方,回想にポジティブな感情が ともなう高齢者は心理的適応も良好であること が認められた。このことから回想の頻度とポジ ティブな回想の程度は心理的適応に対して異な る関連をもつことが認められ,本研究の第1お よび第2の仮説は部分的にだがいずれも支持さ れた。
また,回想の頻度と回想にともなうポジティ ブまたはネガティブな感情による交互作用が認 められ,回想にともなうポジティブまたはネガ ティブな感情の程度が心理的適応に及ぼす影響 は,高齢者が日常的に回想を行う頻度によって 異なる可能性が認められた。すなわち,過去を 頻繁に想起する高齢者は,回想にポジティブな 感情がともなうほど抑うつ的ではなかったが,
ポジティブな感情が少ない場合は抑うつ的だっ た。その一方で,過去をあまり想起しない高齢 者は回想にともなう感情の程度にかかわらず抑 うつ的でなかった。また過去を頻繁に想起する 高齢者は自尊感情が低かったが,過去をあまり 想起しない高齢者は回想にネガティブな感情が ともなうほど自尊感情が低く,ネガティブな感 情が少ない場合は自尊感情が高かった。
この結果は,過去を回想しないように試みる ことも場合によっては心理的適応を維持する手 段になり得ると指摘した Coleman(1994)の 考えを支持すると言える。もしも高齢者が意識 的に過去の頻繁な想起を行わないように努める 場合があるとすれば,そうした試みは彼らを良 好な適応状態に維持する効果をもつ可能性があ ると言える。前述した結果からは,高齢者の中 には頻繁に過去を振り返ることで自尊心の低下 や抑うつ感情の増加を招く者もいる一方で,過 去を振り返らないことでこうした心理的なリス クを回避することに成功する者もいる可能性が 考えられた。
頻繁に過去を回想することそれ自体が心理的 適応を低下させる影響をもつ可能性はこれまで 2
3 4 5 6 7
-1SD Mean +1SD
抑うつ度(GDS)
肯定的回想
回想の頻度 : -1SD 回想の頻度 : Mean 回想の頻度 : +1SD
30 32 34 36 38 40 42
-1SD Mean +1SD
自尊感情度(RSE)
否定的回想
回想の頻度 : -1SD 回想の頻度 : Mean 回想の頻度 : +1SD Figure 1 抑うつ度(GDS)における
回想の頻度別の単回帰直線
Figure 2 自尊感情度(RSE)における 回想の頻度別の単回帰直線
39 もしばしば指摘されており,Nolen-Hoeksema
(1991)は,反応スタイル理論において反芻と いう概念からこうした影響を指摘している。彼 女の指摘は抑うつ症状における過程に限定して はいるものの,想起された内容ではなく,頻繁 に想起することそれ自体がうつ状態からの回復 を遅らせる中心的役割を果たすという指摘は本 研究の結果とも一致するものである。
これらの結果と関連した概念には,Logerfo
(1980)の強迫的回想や Webster(1993)の苦 痛の再現といった回想機能が挙げられる。高齢 者にとって過去を想起することはつらく苦痛で あるにも関わらず,しばしば過去が強迫的に想 起される場合がある。過去のつらく不快な出来 事は個人の記憶にしこりとなって残り,そうし た記憶が高齢者に過去を想起させる誘因になる とされている。彼らの理論からは,高齢者の過 去が苦痛やネガティブな感情に占められる場合 には,回想を行わないよう試みることは心理的 適応を維持する有効な手段になり得ると考えら れる。
しかしながら,本研究で認められた自尊感情 度における交互作用からは,過去を振り返らな いことが自尊感情の維持に有効であるのは主に 回想にともなう感情が少ない場合だと考えられ た。そのため,回想に苦痛やつらさを感じる高 齢者にとって過去を想起しないように試みるこ とは心理的適応を維持する手段として必ずしも 有効ではない可能性がある。過去の想起を苦痛 だと感じる高齢者にとって,過去を想起しない ように試みることで自尊感情を維持することは 必ずしも容易ではないのかもしれない。
このことからも,過去を想起する頻度のみが 回想のもつ心理的な意義を説明するのではな く,回想の質的特徴は回想の頻度と異なる意義 をもつとした本研究の仮説は支持されたといえ る。
本研究の結果からは,日常的に行われる回想 行為がその頻度や回想にともなう感情の程度に よって心理的適応を低める影響をもつ可能性が
あることを示している。その一方で,高齢者に 対する回想法の実践場面ではその有効性を認め る多くの報告があり,両者の指摘は一致してい ないようにも考えられる。このことに関して,
野村・山田(2004)は回想が行われる状況から 回想を区別する重要性を指摘し「回想のモダリ ティ」という概念を提案している。彼らは高齢 者の行う回想を,①個人で行われる過去の想起 である個人内回想,②想起された過去を他者に 語る行為である対人的回想,③特定の手続きの もとに治療的聴き手との間で行われる療法的回 想の3つに分類した。この分類にあてはめれば,
本研究は日常的に行われる個人内回想について の結果であり,対人援助手段として実践される 回想法とは必ずしも同一のものではない。その ためこれらの結果から回想法の有用性に否定的 な結論を導き出すことは早計であろう。
本研究における限界として,本研究の調査方 法が単独の質問紙調査であることが挙げられ る。そのため実際には回想から心理的適応への 影響ばかりでなく,心理的適応から回想への影 響も考えられるものの,本研究ではこれらの可 能性について検討していない。こうした因果関 係を検討するためには,縦断研究や実験的方法 を用いて検討を行う必要がある。また本研究で 認められた相関係数や標準偏回帰係数は概して 充分な大きさの値だとはいえず,これらの結果 が頑健なものであるかどうかは今後も検討を重 ねる必要があるだろう。
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注釈
1 本研究は InternationalReminiscenceand Life Review Conference 2001(Chicago, USA)において発表したデータに加筆・修 正を加えたものである。また本研究の一部 は同志社大学大学院博士課程学位論文「高 齢者における回想の心理的意義に関する研 究」において報告された。
2 psychologicalwell-being とは健康で幸福な 状態であり,心理・社会的に良好な状態と
42
されている。一般には主観的幸福感と翻訳 されるが,本研究では心理的適応という表 現を用いた。
43
The daily intrapersonal reminiscing and psychological well-being in Old Age
NOBUTAKE NOMURA, Ph.D
(Faculty of Psychology, Meiji Gakuin University)
Abstract
Thepurposeofthisstudywastoexploretherelationshipbetweenfrequencyandpositive/negativeaffectof reminiscenceandwell-beinginoldage.Aresearchquestionnairewasadministeredto400community-dwelling elderly(meanage72.9years).Thefrequencyofreminiscence,thepositive/negativeaffectofreminiscence,and thereevaluationtendency(Nomura&Hashimoto,2001)wereexaminedinrelationtopsychologicalwell-being.
Hierarchicalmultiple-regressionanalysesrevealedinteractionsbetweenthefrequencyandaffectofreminiscence.
Theresultsindicatedthatthehigherfrequencyofreminiscencemayhasamaladaptiveinfluenceonpsychological well-being.InaccordancewithColeman(1994),theresultsalsosuggestedthatnottoreminiscecouldbeadaptivein dailyintrapersonal.
Key words:OldAge,Reminiscencetherapy,psychologicalwell-being