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企業結合関係 と会社債権者保護

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企業結合関係 と会社債権者保護

子会社の債務に対す る親会社の責任の問題には,様々な法の対応がみられる。

次の二つの例 は,その代表的な解決の試みといって もよいかと思われる

20世紀になってアメ リカ判例法は,破産手続上支配株主 (親会社)等 の会社 (子会社)に対 して有す る債権を他の債権 より劣後的に取 り扱 う法理 (衡平的 劣後法理)および子会社債権者の親会社に対する直接請求を認容する法理 ( 人格否認法理)'を生成,発展 させた。この動向を,近代における大企業の出現,

とりわけ企業結合の進展 と結びっけて説明す る試みがみ られる1)。 ともか く, アメ リカでは,上述の有限責任排除に関する判例理論 は,親子会社関係 ない し は企業結合関係を中心 に発展 してきたことが知 られている。2)

ドイッでは,従属会社債権者保護の問題 は,現在,主 と して1965年株式法 に おける包括的な企業結合規制のなかで取扱われている。 ドイツの規制の発展に おいて,企業結合関係を軸 とす る会社の構造変革 との対応関係 はアメ リカほど 明確ではない3)。 しか し,現行の規制 は,一般株式法上 の資本充実 ・維持確保 のための制度 によっては,もはや有効な会社債権者保護のための規制 ・対処が な し得な くなった段階で,コンツェル ンに特有の危険に配慮 して,株式法上 の 資本維持規定を進歩 させた内容をもつといわれている4)

なお,わが国法では,こうした顕著な法の対応はみ られない。 ただ,昭和61 1) CLARK,CoRPORATE,LAW 6364(1986)

2)江頭意治郎 『会社法人格否認の法理 』 (昭和55)2324,34貢。

3)江頭 ・前掲注 (2)4647貢参照。

4) Ulmer,Verlustiibernahmepflichtdesherrschenden Unternehmensals konzernspezifischerKapitalerhaltungsschutz,AG1986,123,124.

〔159〕

(2)

160 学 討 究 第39 1号

515日に法務省民事局参事官室より公表 された 「商法 ・有限会社法改正試 案」中に,企業結合 も念頭においた5)規定がおかれるに至 っている6)。

さて,上位会社 (親会社ないしは支配会社)の指拝の もとにある従属会社債 務に対する当該上位会社の責任の問題 は,企業結合の最 も困難な問題に属す る

といわれる7)。その困難 さの所在 は,Lutterによれば,問題が,解釈論上 も, 制度論上 も,最終的には実際上 も,極めて強い二律背反のうちに揺 れ動 いてい

ることにある,と整理 される8)

解釈論上 は,一方で,法律関係の当事者 としてあ らわれるのは当該子会社 で ある その子会社のみの債務が問題なのであり,親会社のそれが問題なので は ない。他方で,子会社 は全体の一部であり,ある意味でコンツェル ンとい う組 織体の広範な企業 目的実行の道具である。両方の要素‑ 法律上 の人格 の異別 性 と機能上の単一性‑ は,法原則に立 って矛盾 し合 っている。

制度上,会社の権利 はおよそ何であれ,いわゆる分離原則(Trennungsprinzip) 一一会社の積極財産であれ,消極財産であれ,その社員の財産 と分離 される‑

によって存在する それは広 く認められており,100%所有 の コンツェル ン子 会社が問題 となる時でさえ,あてはまる 他方で,コンツェル ンにおいて,資 金の分配9),製品の移転,人員の投入等に関 し,自 らリスクを負担 しそ して自 らの利益のために営まれる自治的な経済単一体の像が極めてあや うくなる事態 がみ られる。 もちろん複合経営型のコンツェル ンにおいて,子会社の リスク負 担および事業機会の取得に関する広範な自治が存することは考え られる10)。 し

5) 「商法 ・有限会社法改正試案をめ ぐってul)」商事法務1090号 (昭61)41貢 (稲葉 発言)参照。

6) 同試案三,株式 ・持分の14・15

7) Lutter,Stand undEntwicklung desKonzernrechtsinEuropa,ZGR 1987,S.354.

8) Lutter,aaO (Fn7),S.354ff.なお,以下の,この ことに関す る記述 も,主 に こ れによっている

9) ドイツの若干の大 コンツェル ンにみ られ る金銭 の集 中管理方式 (cash‑manage ment)につ き,マル クス ・ル ッター 「ドイツコンツェル ン法の体系(2)」(山口賢訳 注)甲南法学273・4号 (昭62) 6頁参照。

10) Posnerは この よ うな状況 が企業結合 にお いて通常 の もので あ ると想定 す る。

(3)

企業結合関係 と会社債権者保護 161

か し,それが通常のコンツェル ンに妥当す るわけではない。 したが って,まさ しく制度面で,指揮および支配が統一的である場合の責任 の一体性‑ 責任 な くして支配な し‑ に賛成す る意見 も少 な くない。

実際上 も,問題 は二つの相反す る価値を同時に含む 一面で,コ ンツェル ン 内部での子会社 による経済上の危険の局地化 は,子会社の破壊がただちに親会 社および他のグループ構成会社を危険に導 くわけではない,という長所をも 他面でそのような見方 は,必然的に,あるコンツェル ン構成会社 の徹底的 な破 壊が受 け入れ られねばな らないとい うことを意味す る。そ してその際,関係者 つまり当該子会社の債権者 について,なにゆえよりにもよってその者が非運 な でき事 に‑ 他 のコンツェル ン会社 はその時なお生 き続 けるにもかかわらず‑

出会わなければな らないか,が問題 となる この立場を貫 くことが,実際上極 めて過酷な結果 になる場合 も考え られる。

以上 のように問題が相反す る価値 を同時に含んでいることを反映 して,各国 にみ られる対応 も様々である 多 くの法制度のもとで,コンツェル ン責任 につ いての これまでの判決および学説 は,一定の場合に子会社債務に対す る親会社 の責任が肯定 されるに して も,それは極端な場合に限 られ ることが報告 されて いる11)0

しか し,通常法的現象 として把握 されるコンツェル ン,すなわち必ず しも極 端ではな く,統一的指棒の もとにある企業 グループに関 して,問題 にす る余地 はないか。以前に別稿 にて,親会社 の責任を肯定す る経済的および法的根拠 に 関す る検討を試みた12)。その結果 は,そ うした企業結合において も親会社 の責 任を話題にす る可能性 のあることを示唆す るものと考え る。 もちろん,1975

Posner,TheRightsofCreditorsofAffiliatedCorporations,43U.Chi. L.Rev.499,513(1976)これに対する批判として,Landers,AnotherWord

on Parents,Subsidiariesand Affiliatesin Bankruptcy,43U.Chi.L Rev.527,53233(1976)

ll) ヨーロッパ各国の規制につき,Lutter,aaO (Fn.7),S.356ff.また,Immenga, CompanySystemsandAffiliation5355,(Int'1EncyclopediaofComp.

L.)参照。

12) 拙稿 「有限責任原則 と親子会社関係」一橋論第984号 (昭62)81貢。

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J62

の ヨーロッパ会社法案2391項 に定め られ るコンツェル ン上位会社 の子会社 債務 に対す る一般的責任の考え方 は肯定で きるものではない。統一的指揮 とい う素朴 な要件 に もとづいて直接 の責任 を課す ことについて,法的基礎の あいま いさは否定で きず13),またそのよ うな責任14)は,おそ らく債権者 の期待 す ると ころで もないと思われ るか らである15)。

本稿では,企業結合 において生起す る事態 に適合す る債権者保護 に関す る法 規制 のあ り方 を,冒頭 に示 した二つの法制度 を手がか りとして検討す る すな わち,一つ は,アメ リカ法の もとで主 に有限責任排除 の判例理論 の適用 に関 し て問題 となるその要件 ,与え られる保護 の範囲,実効性 ,もた らされ る救済 の 結果等 の考案であ り,Ⅱで行 う いま一つ は,ドイツ法の規制の経験 に もとづ く考察である 子会社 に生 じたすべての年度欠損額 の補償義務 を伴 う契約 コン ツェル ンのモデルは,そのよ うな総体的な損失 の填補義務 を知 らない,いわ ゆ る事実上 のコンツェル ンに比 して,現実 にはそれほど活用 されているわ けで は ない。そ して後者 の法秩序 は緊密 な指揮関係 にあるコンツェル ンに対 して成功

していない。 この結果 に照 らしての考察が有益であろう16)。 もし事実上 の コ ン ツェル ンが ことさ ら禁止 され るほどで もないとすれば,何が適用 され るべきか, の検討 につなが る (Ⅱ)。以上 は,本稿 の主題 とす る問題 に、何 が よ り一般 的 な通用性 を もつか,を追求す る手がか りになると思われる

Ⅰ アメ リカ法の規制

1.指針

会社債権者 は,債権回収不能 の リスクに備 えて契約上 自衛的手段 を講 ず る こ

13) ヨーロッパ諸国の国内法に基礎をみい出 し得ないことにつ き,Lutter,aaO (Fn.

7),S.36lf.

14) この場合の支配企業の責任の性質 について,「支配企業の責任 は,真正 の連帯責任 ではな く,連帯責任 と保証責任 との中間に位置す る」 といわれる 森本滋 EC会 社法の形成 と展開(59)417頁。

15) 但 し,親会社のこうした責任が一般原則か ら生 じる場合 もある。例えば,上位会社 がその子会社の責任 に関する債務を全部または一部 引受 けるとい う意思 を公 けに 表示 した場合,また親会社が子会社の負 う当該責任のための法的基礎を子会社 と‑

(5)

企業結合関係 と会社債権者保護 163

とが考え られる。 この着想が根強 く存す るアメ リカ法で も17),それ とは別 に, 詐害行為取消権,有限責任排除に関す る判例理論 ,配当規制等一群 の法 が提供

される。 これ らは,当事者がそのルールに拘束 されることを取決めるか ど うか にかかわ らず,当事者すべてが拘束 され る最小限の債権者保護のためのルール と認め られ る しか し,これ ら一群の法における相互の関連性 の検討 は必ず し も十分ではなかった。その重要性 に着 目したのが,Clarkによる著名 な研究 で ある18)。20世紀になってようや く現れた有限責任排除に関す る判例理論 と古輿 的な法技術である詐害行為取消権等,詐害行為防止 に関す る法 (以下,詐害行 為防止法 とよぶ) との対比等によって得 られ る結果 は,本稿の主題 にとって興 味深い。なお,そ こで詐害行為防止法 として比較 の対象 とされてい るのは,主

に統一詐欺的譲渡法典 (Uniform FraudulentConveyanceAct)19)である 結論的に,衡平的劣後法理 (equitablesubordination doctrine)および法 人格否認法理 は,一面では,詐害行為防止法の限界を克服す る機能 を有 す ると

される その限界 の明瞭 にあ らわれるのが企業結合‑ ことに,それが緊密 な 関係 にある場合‑ の状況であると思われ る したがって,どの点 で どのよ う に して克服 されるかを問 うことは,企業結合関係 の問題状況に適合 した法規制 のあり方を知 る手がか りとなろう

検討の方針をより明確 に しておこう 上述のルールが適用 される状況をみる と,重なり合 う部分が大 きい。子会社債権者 にとって重要な利益衝突の状況 と して子会社 の管理不適正 (子会社 の搾取 :mismanagement) ・その他子会社 に対す る不当な扱 いおよび財産混同 とい う要素 に分類 で きる状況 があ るが,

緒 になって作 り出 した場合である ル ック一 ・前掲注 (9) 2‑3頁参照。

16) この視点につき,Lutter,aaO (Fn.7),S.363. 17) 江頭 ・前掲注 (2)151頁参照。

18) CLARK,SuPra note 1,ch.2,at3592.これは,Clark,TheDutiesofthe CorporateDebtortoItsCreditors,90Harv.L Rev.505(1977)に基づ い ている。本稿で は,主 に前者を参照 した。

19) なお,UFCA1985年 に Uniform FraudulentTransferActに名称 を変更 さ れ,またその内容 も修正 されている。その経緯 につ き,佐藤君昭 「詐害行為取消権

に関す る‑試論(3)」法協1051号 (63)64,73貢参照。

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164 究 第39巻 第1

この状況 は会社の有限責任 という属性の排除を問題にすべ き真の要件事実 に属 す るとの認識が得 られてきている。それと同時に詐害行為取消権の適用 も考え られる20)。 この状況で,各救済の機能 (代替性),貫徹の実行可能性,もた らさ れる結果等を対比的に検討す ることが、それぞれの救済の性質を知 る上で有益 である。 まず,・これを行 う ところで,詐害行為防止法 においては,譲 渡 (transfer)の概念等か ら保護の範囲における限界の存することが指摘できる。

とりわけ過少資本への衡平的劣後法理,法人格否認法理の適用の問題 は,実際 上 も,また理論的にも重要である 適用領域の拡張 として,次 にこれを検討す 最後 に,配当規制について も言及す る。企業結合関係にあって,利益配 当 規制それ自体の債権者保護に果たす役割 は大 きいとはいえないが,資本維持 を 規制の中心に据える ドイツ法の検討への,いわば橋渡 しも念頭 にお く

2.救済の性質

(1) 詐害行為防止法 と衡平的劣後法理

(イ)機能の代替性。適用条件 に関 し,前述のように,親会社 による子会社 の 管理不適正 ・搾取を根拠 とす る衡平的劣後法理の適用 と詐害行為防止法のルー ルの適用 とは,その条件 において類似性のあることが指摘 されてい る ただ, 衡平的劣後法理の適用 される局面が基本的に限 られていることには,注意 して お く必要がある すなわち,この法理 は,会社破産の際に連邦法上 の破産手続 において,その会社の内部者または支配株主が同時にその債権者で もあ る場合 に適用 されるものである21)。典型的には,会社の支配株主 (親会社 ) または役 員 ・取締役が会社に対 して有する破産 ・更生債権が適用の対象 となる

では,効果面ではどうか。衡平的劣後法理の具体的な適用の際,劣後す る債

20) 江頭 ・前掲注(2)339頁。

21) 衡平的劣後 は,1978年破産法510条 (C)項 においてその法文上の根拠を与えられた。

しか し,この法理 は判例法において発展 したものであり,そしてその意味 はなお判 例法 に見 出 されねばな らない なお,Note,EquitableSubordination and Analogous Theories of Lender Liability:Toward a New Model of Control",65Tex.L Rev.801,802(1987)参照。

(7)

企業結合関係 と会社債権者保護 )65 権の範囲に関 し,支配株主の会社に対 して有す る債権の全額について劣後的取 扱 いを認める処理 と不公平な行為により会社が被 った損害を賠償す るのに必要 な範囲でのみ,劣後的取扱 いを認める処理 とが考え られる22)。後者 は厳密 に是 正的な結果を意図す るのに対 し,前者において粗雑な結果になることは避 け ら れない。後者の処理が本来のものであると,一般に考え られている そ してそ の場合,衡平的劣後法理が適用 された場合 と詐害行為防止法のルールが適用 さ れた場合 とで,ほぼ同様な結果になる23)

なお,Clarkは,全額についての劣後的取扱いの処理が採 られた場合,支配 株主 は,不公正の程度を増加することによって不公正な行為か ら合法的 に保持 で きる利益を最大にすることができる,という奇妙な結果になることを指摘 し ている24)。 この処理のもとで結果が過大な救済になったり,不十分な是正になっ たりするのは,支配株主の得た不当な利益額 とその財産権上の正当な持分 の額 との間の数値的な関係によるものであるが,それはここで考慮 されるべ き問題 状況 と無関係の要因である25)0

このように,詐害行為防止法 と衡平的劣後法理 とは,適用条件 において も, そのもた らす結果において も類似性を見出す ことができる。 この機能の代替性 の検証には,しか し,一定の前提がおかれねばな らない。すなわち、(9内部者 (支配株主等)たる債権者の影響力行使の結果を原状に復す ることを企図す る いかなるルールも,是正的正義 (correctivejustice)の達成を追求すべきであ るとの判断。そ して,そ うした救済の正確性を実現で きる条件 として,②単純 な状沢 (典型的には,支配株主の影響力行使により会社によってなされた一 つ の 「汚れた」取引のみを含む状況)および⑧その汚れた取引を是正す る法的応

22)片木晴彦 「過少資本会社 とその規制(1)」法学論叢1115号 (57)50頁。

23)CLARK,SuPranote1,at5661.また本稿 ・注25)参照。

24)CLARK,SuPranote1,at5661.

25)なお,劣後的取扱 いにつき後者の処理が採 られる時にあって,支配株主がその正 当 な持分額以上の不当な利益を得ており,その結果破産会社の財産が一般債権者の正 当な持分を下回 ることになって十分な救済が得 られない場合,一般債権者 は損害を 被 るか,または受託者が衡平法上の権限を援用 して支配株主への過度の 「支払額」

を取 り戻す ことができるか,現行法のもとで明 らかではないoId.at60.

(8)

166 商 学 究 第39 1

答が容易に実施できること,の想定。(×宣)は相互 に関連 し合 っている26) (ロ)衡平的劣後法理の発展。両救済の機能上の代替性 は上記の条件のもと で認められる。 しか し(卦,(卦の条件 は現実には満たされない場合が多い。一定 期間にわたって多 くの不公正 な取引が積み重ね られたような場合に,詐害行為 取消権の行使をなす とすれば,原告 は,取消 し,また賠償 を うけることを望 む 各行為をっさとめ,さらに会社の支払不能 もしくは過少資本,取 引条件が不公 正であること,その不公正 の額等をすべての行為に関 して個別的に立証 しなけ ればな らない 。 この場合,詐害行為防止法のルールを適用す るコス トは,極 め て大 きい27)。また,全 く大局を見誤 った結果になるおそれもある こうした状 況 は,大規模な近代的会社企業,とりわけ数多 くの子会社を有す る企業結合 の 出現,発展 にともなって顕著になる28)。典型的な例を,衡平的劣後法理 の草分 けとしてわが国で もしば しば検討の対象 とされる,いわゆるディープ ・ロック 事件29)が提供す る30)。この事件では,親会社 が子会社‑ 親会社 は当該子会社

のほとんどすべての普通株式を保有 していた‑ に対 して有す る債権 が問題 と された。当該子会社の設立時の過少資本の他,親会社が自己の利益のためにす る当該子会社の管理不適正 ・その他不当な取扱 いを指 し示す数多 くの事実が存 在 した。親会社 は当該子会社に次のような一連の取引をなさしめ,また義務 を 負わせた。(i)親会社 は当該子会社に一方的に不利な条件で別 の子会社 との 賃貸借契約を結ばせた。(ii)親会社 は当該子会社を して他 の子会社 (経常受 託会社)と契約 させ,過大な経営管理費用を支払 わせたO (ia)親会社 は,当 該子会社 との与信売買勘定 (openaccount)に もとづいて高 い利子 を請求 し

た。(iv)親会社 は当該子会社の財務状況か らすれば無理 な配当政策 を とって 自ら所有す る普通株式 に対 して も配当を支払 わせた その事態 は,「デ ィー

26) Id.at56.参照。

27) Id.at62.

28) Id.at63164.また拙稿 ・前掲注12)95頁参照.

29) Taylorv.StandardGas&Elec.C0.,306U.S.307(1939). 30)本件については,江頭 ・前掲注2)296頁以下に詳 しい。

(9)

企業結合関係 と会社債権者保護 167

プ ・ロック 〔当該子会社を指す‑筆者〕が十分な資本を もって設立 され,そ し て独立 して運営 されていたとしたら,またその財務事項がそれ自身の利益 のみ を考えてとりお こなわれていたとしたら今 日その財務状態 はどうであったかを 概算 しよ うに も,デ ィープ ・ロックの歴史 および経験 を鋳 直 す ことは不 可 能」31)というものであった。

このような場合,衡平的劣後 (ことに全債権の劣後的取扱い)は実行可能な 救済を提供す る。その適用のコス トは,個別的な分析を要す る解決の場合 に比

して小 さい32)

ただ,ここで検討 しておかねばな らないのは,先述の①の前提 (是正的正義) との関係である 衡平的劣後法理の救済の粗雑 さおよびその適用基準のあいま いさには,学説上 も,従来より大 きな関心がよせ られてきた33)。 また衡平法上 の救済 は,保護的な (remedial)ものであり,懲罰的 な (punitive)もので は ないといわれる34)。そこで親子会社間に 「複雑な歴史」がある場合 で も,正義 の大ざっぱな接近の試みは相当ではない‑ そうでなければ,内部債権者 は劣 後のなされるべき状況および劣後のなされる可能性のある範囲について明確な 指針のない状況におかれる‑ として,債権の全額についての劣後的取扱 いに 疑問を投げかける考え方 もでて くる これによれば,上述のように大ざ っぱな 決定がなされやすい場合,裁判所 は,非難 されるべき債権者 の権利 を,現実 の (actual)損害の範囲でのみ,そ して もし不当な行為が特定 の債権者 を害す る なら当該債権者 に対 してのみ,劣後的に取扱 うべきことになる35)

しか し,ここで問題に している場合 に,債権の全額について劣後的取扱 いが 認め られることも少な くない36)。学説上,こうした衡平的劣後法理 の実際 の運

31) 306U.S.,Supranote29,at323.

32) Id.at315.では,二つの会社の間の取引の細 目に立 ち入 ることな しに,我 々の決 定 〔子会社の優先株主の権利 に対す る親会社債権の劣後的取扱 い‑筆者 〕 に対 す

る理由を示すのに十分であると述べ られよ う」 とされ る。

33) Note,Supranote21,at801.

34) DeNatale & Abram,The Doctrine of Equitable Subordination as AppliedtoNonmanagementCreditors,40Bus.Law.417,42627.(1985) 35) Note,Supranote21,at80109.

(10)

76g 究 第39巻 第1

用につ き,是正的な救済の実現のため注意深 く正確な証拠の吟味および損害 の 算定を求めるという公正性 とそれを達成す るための費用 との調和 という観点か ら正当化がなされる その費用が大 きなものとなる場合,内部者が救済 におけ る不正確 さの リスクを負担すべきであるとして も,必ず しも酷 とはいえないと 考え られるのである37)

(2) 法人格否認の法理

(イ)道具理論。株主有限責任の原則にもかかわ らず,会社債権者がその権利 を株主の個人財産 (親会社の会社財産)か ら満足 させるとの試みを取扱 う判例 法は,アメ リカでは,とりわけ道具理論 (instrumentality rule)の法律構成 をとって,親子会社関係を中心に発展 して きた。道具理論に対 しては,学説上, その適用基準のあいまいさおよび理由の仮装性に関 して鋭 い批半はiなされてき ているが,なお判例上道具理論の影響 は強 く残 されている。

さて,子会社の管理不適正 ・その他不当な扱いにもとづ く法人格否認 ・有限 責任排除の法理の適用 について,判例 は,親会社の直接責任を認め るのに適切 な状況を一貫 した形で明 らかにしてきたわけではない。明示 の代理 (express agency),禁反言 または直接の不法行為の場合を別 にすれば,もっとも正統 の 道具理論38)のもとで,親会社に子会社の行為 に対す る責任 を負わせ るため,J次 の要素が存在 しなければな らないとされる ①親会社による子会社の支配,( 親会社がその支配力を行使 して,詐欺 もしくは不正 ・不当な行為 をな し,また

は制定法上その他の義務に遵反す ること,および③原告の被 った権利侵害 また は損失 と親会社の義務違反 との間の直接の因果関係39),である

多 くの判決および学説において,この集積 した法を系統立てることが試 み ら れ,法人格否認 ・有限責任排除 という効果が もた らされるのに繰 り返 された事

36) 片木 ・前掲注22)50頁.その他,InreKistmer,25Bankr.262,264(Bankr.

S.D.Ohio1982)等.

37) Clark,supranote 1,at64165.

38)江頭 ・前掲注(2)108貢.

39) Clark,supranote 1,at72,n. 4.Clarkによれば,この要件は, P owELL,

p ARENT ANIj SuBSIDIARY 、C oRPORATIONS4‑6(1931)までたどれるとされる. なお江 頭 ・前掲注2)108貢参照。

(11)

企業結合関係 と会社債権者保護 169

実の標本の列挙 ・分類に努められてきた40)。 しか し,この試みは成功 したとは いえない。む しろ,追求 される救済によって統一的な把握がなされるとの見方 がある41)。 それによれば,法人格否認によって与え られる救済を詐害行為取消 権の行使および衡平的劣後において与え られる救済 と対比的に検討す ることが 有益であると思われる。

(ロ)救済の比較。法人格否認 は,株主が会社債権者に対 して全面的に ( や対象についての制限な く)責任を負 うことを意味す る42)。是正的な結果 を追 求す る詐害行為防止法における応答 と対比 した時,その性質は衡平的劣後 によ る救済のそれと似かよっているといえよう。 しか し,法人格否認において もた らされる結果 は,衡平的劣後の場合に比べて しば しばより懲罰的になる 衡平 的劣後において,株主の責任の限度 は,会社 に対 して有す る債権 を限度 とす る にす ぎないが,法人格否認 においては,会社の負債額によっては予期で きない

ものになることもある。

以上の救済の効果面での実質的相違 は無視できないがP),道具理論 は,衡平 的劣後法理 と同様、救済の実行性の側面で,詐害行為防止法に求め られ る立証 の程度および分析の原子的性質を柔軟にすることが指摘できる44)。道具理論 が 実際に適用 されるには,現実の支配および救済を求める当事者の不利益 が要件 として求め られるにせよ45),裁判所 は,親子会社間の個々の取引に厳密 には焦 点を合わせず,会計区分の欠如,会社法上の手続違反の反復,業務 の混同等 の 存する状況では,子会社の管理不適正 ・搾取の吟味はランダムなもので足りる̀)0

(ハ)道具理論に対す る批判 とその検討。先述のように,道具理論に対 して 1

は,わが国の形骸化に対 してみ られるのと同様,鋭い批判が存す る。その判断

40) 江頭 ・前掲注2)3536頁。

41) CLARK,SuPranote 1,at73. 42) 片木 ・前掲注22)46貢。

43) 後述の,過少資本の場合の両救済 の判例上 の取扱 いの相違等 に も反映す る。

44) CLARX,SuPranote 1,at8485.

45) 例 えば,KrivoIndus.SupplyCo.Ⅴ.NationalDistillers&Chem.Corp., 483F.2d1098,(5thCir.1973).

46) CLARK,SuPranote 1,at85.

(12)

)70 商 学 究 第39巻 第 1

基準 はあいまいである。そ して,より重要なこととして,裁判所 はその適用 に 際 し前記の会社法上の手続違反,業務の混同のような事実をも関係 させ るが, これ らは支配株主の不当な行為によって一般債権者の被 る損害の存在および額 の問題 と直接 には関係 しない47)。

この批判 は説得的であろう その適用が制裁的な色彩を帯びること'は否定で きない。では,子会社の管理不適正 ・搾取の事例において,親会社 に対す る直 接請求 として,詐害行為取消権を行使することが残 されるのみであるか。 ここ でも,ことに緊密 ・複雑な企業結合関係のよ うな場合に,その実行可能性が疑 問になる そこに法人格否認 ・有限責任排除の必要性が見出される その正当 化 は必ず しも容易ではないが,先のような道具理論 に対す る批判 をみれば,ひ とっには,直接に会社搾取を単独の根拠 として株主無限責任に導 くことが考え られ る48)。 また,一定 の現実 の利益衝突 の存在が十分 に うかがえ る」 こと を前提 に,有限責任排除に導 く利益衝突 と直接関係 しない,前記 の要素 も代理 (agency)の徴ひょうとして一定の意義を認め49),こうした徴 ひ ょうの存在 は, より注意深い分析および正確な救済を要求す るルールに伴 う制約を突破するこ とを正当化す る,との説明 もみ られる50)

ただ し,どのように正当化 されようと,それが,比較的単純 な,いいかえれ ば,容易に不実の表示にもとづ く取引や不公正な取引が明 らかにされる場合 に

まで及ぶ ものでないことは,いうまで もない51)0

3.保護範囲の拡張‑ 過少資本の規制

いわゆる過少資本の問題‑ 主 として設立時の資本に′目が向け られ る‑ は,

47) 江頭 ・前掲注2)114頁以下 ;竹内昭夫 『会社法講義 ()』(昭61)47貢。

48) この解決の弱点 につ き,江東 ・前掲注2)339頁以下。

49) 関係づけ られ る要素 (徴 ひ ょう)は,「少な くとも詐害的な譲 渡 が行 わ れた こと, または債権者が正当に支配株主 またはその他のグル ープ構成会社 の信 用 をあて に

していたことを示唆す る」 とされる. CLARK,SuPranote1,at85. 50) Ibid.

51) この場合,伝統的な個別的補償の解決が,基準,根拠の明確性およびより妥当な結 果を提供す る

(13)

企業結合関係 と会社債権者保護 171

親子会社の関係で も重要である ある会社が,自ら事業を行 った場合 には完全 に責任を負担 しなければな らないが,子会社を通 じてその事業を行 う場合,子 会社‑の出資額を限度 にその責任の利己的な制限をはかることが可能である52)

この場合に,アメ リカ法では,衡平的劣後および法人格否認 によ って対処 さ れてきた53)。過少資本事例において,(それが根拠 として認 め られ るな ら)両 法理 は詐害行為防止法の適用領域を越えよう 但 し,過少資本をめ ぐる判例法 上の取扱 いは両者で異なることが,しば しば指摘 される。衡平的劣後法理 の適 用において,過少資本が単独の根拠 となることに判例 は肯定的であ るが叫,過 少資本を単独の根拠 とする法人格否認 には,判例 は否定的である

この取扱 いの相違に関 し,理論面の考察だけでな く,効果面か らの考慮 もな される その議論を踏まえなが ら,両法理それぞれについてみてゆ く なお上 記判例の傾向にもかかわ らず,法人格否認の場合において も,その理論上 の重 要性か ら,学説上過少資本の要素について詳 しく論 じられて きた。 そ こで,仮 に過少資本が株主に対す る直接請求の根拠 と認め られるとすれば,理論上 どう 説明できるか,それは衡平的劣後の場合 と異なるか,について も言及 したい。

(1) 過少資本 と衡平的劣後

債権の衡平的劣後の一般的な領域のうち,過少資本ケースは,分類すれば, その下位分類 として位置づけられる55)。過少資本ケースにおいて,支配株主 の 会社‑の貸付等 は,破産裁判所 によって,その貸付の実質 と考え られ るもの, すなわち資本出資または他の所有権上の持分 に変換 される、とみることができ

る56)

しか し過少資本 は,厄介な問題を伴 う根拠である 最低資本金額 に関 して,

52) 問題状況 につき詳 しくは,拙稿 ・前掲注 (12)91頁以下参照。

53)前者 は名目的過少資本を,後者 は実質的過少資本を取扱 う。片木 ・前掲注22)38頁。

加美和照 「過少資本の法理現代商事法の重要問題 (田中米寿)』(59)所収276 頁参照。

54) 但 し,必ず しも一貫 していない。本稿注60)参照。

55) Herzog&Zweibel,TheEquitableSubordinationofClaimsinBankruptcy,

15Vand.L Rev.83,93(1961) 56) Ibid.

(14)

772 39巻 第1

ほとんどみるべき規制のなされていない制定法 との関係が問題 となる さらに 過少資本のみが問題 となる場合,支配株主等への利益の移転を含 まない ことか ら,過少資本に起因す る損害に対す る救済の確定 は,極めて困難 になることが 考え られる

確かに基本的な視角 は,ここに含まれている問題,すなわち支配株主 の貸付 が現実の経済的 ・法的事実か らみて会社の債務であるか,または所有権上 の持 分であるか,に焦点を合わせ ることによって得 られる57)。劣後を もた らすため

に焦点 となる問題がその処置の実質如何である限 りは,詐欺およびその他 の不 衡平な行為を立証す ることも不要になるn)。 しか し現実の適用を考え ると,秩 主の貸付が実質上出資であったとの判断 は,その基準が高度の経営判断 を含 む

こともあり59),容易でないことは,否定できない。

実際の判決例において,過少資本のみで劣後的取扱いが認容 されるとい うこ とは,なおあきらかになっていないとの見方 もある60)。単独の根拠 と して肯定 されるとすれば,この法理が 「実質上経営を掌把 している支配株主を対象 と し てお り,又責任の限度額 も,同株主の会社への貸付額を最大 とす るか ら,法人 格否認例 はど過酷な結果を生ぜ しめない」61) ことをもって,正当化 されよう

なお別の観点か ら,この問題 は,外部債権者に対す る完全 な開示‑ それに 57) Id.at94.アメ リカの判例の多 くは,衡平的劣後法理を適用す るか どうかを,こ

の視角によって決す る。江頭 ・前掲注2)312頁.片木 ・前掲注22)53貢.

58) 但 し,資本出資が形式上負債 として故意に隠ペいされる場合,それは実際には詐欺, 不法 その他の劣後的取扱 いに影響 す る要 素 と同 じ類型 に属 す る。Herzog&

Zweibel,Supranote55,at94. 59) 片木 ・前掲注22)57貢。

60) CLARK,SZLPranote 1,at68.言葉の上では設立時の過少資本だけで根拠 となる とした判決は少な くないが,具体的にみると,例えばパー トナーシップを法人化す る際持分上の権利を貸付にし,その結果過少資本になる(Costellov.Fazio,256

F.2d903(9thCir.1958)一江頭 ・前掲注2)322貢参照) とい う事情が含 ま れている場合が多い。また明示的に過少資本だけでは不十分 としたケースとして, RegoCrescentCorp.Ⅴ.Tymon,7C.B.C.2d713(B.Ct.,E.D.N.Y.

1982).他方純粋の設立時の過少資本 と説明す る しかないケースとして,Arnold v.phillips,117F.2d 497 (5th Cir.1941)cert.denie'd,313U.S.583 (1941).本件につき,江頭 ・前掲書321貢参照。

61) 片木 ・前掲注22)5758頁。

(15)

企業結合関係 と会社債権者保護 )73

より,契約上 自衛的手段をとるべき効果的な機会が与え られ る‑ の問題 に帰 着するとの指摘 もある62)。この指摘 は,先にみた具体的な適用 にあた っての問 題および株主 一債権者間の リスク負担の公平をいかにはかるかを考慮す ると, 一つの現実的な指針を提供す るように思われる

(2) 過少資本 と法人格否認

アメ リカの多 くの判例 は,法人格の否認に際 し設立時の過少資本を重要 な要 素 として認めるものの,単独の根拠 とす ることに否定的である。そ して,過少 資本を直接に法人格否認 に関連 させず,衡平 ・道異論 といったフィルターを通 させるのが,一般的である63)。判例の態度を理解す る上 で,一つには,上述 の 衡平的劣後 との比較で,法人格否認の効果 (の過酷性)に着眼 される64)

理論面ではどうか。「株主 は予期 しうる責任に備 え,合理的 にみて十分 なだ けの返還を要 しない資本を営業上 の リスク負担 と して誠実 に(ingoodfaith) 投ずべきことは法政策 として認め られっっある なされるべ き事業および損失

の リスクか らみて,会社の資本が名目的又 はごくわずかであることは,会社 と 社員 との法人格の異別性を否定する根拠 となるだろう。」65)

しば しば引用 される上の記述 において,会社の営業にふさわ しい資本金 の額 杏,株主が決定する義務が前提 となっている66)。 しか し,この種の要求 をす る

ことに困難が伴 うことは容易 に推測で きる。会社の営業の種類 ・規模に応 じた 自己資本の額 は単純に判断 しうるもので はない67)。仮定上 の合理的 な債務者 (会社設立者 )‑債権者の交渉の過程を想定することを試みて も,成功 しない。

外部債権者にとって予期 しうる最大限の リスクの概念および十分な資本の概念 はあいまいである。さらに,より重要な こととして,会社設立時に投入 され る べき資本につき,現実の債権者 と会社設立者が同意す るであろう額 は,設立者

62)CLARK,SuPranote1,at68.

63)判例の動向につ き,片木 ・前掲注22)4346頁参照。

64)片木 ・前掲注22)46頁参照 。

65)BallantineonCorporations303(rev.ed.1946) 66)片木 ・前掲注22)49頁。

67) 今 日の経済社会の状況 に照 らして検討す るものとして,片木 ・前掲注22)「過少資 本会社 とその規制(2)」法学論叢1122号92頁。

参照

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