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論文の内容の要旨
1 申 請 者
防衛医科大学校 阿尾 理一
2 論文題目
大腸癌におけるdesmoplastic reactionの多様性が持つ臨床的・分子生物学的意義 に関する研究
3 論文の内容の要旨(博士:2,000字程度)
(1)目的
近年、癌細胞の周囲を取り巻く癌間質が腫瘍の浸潤・転移に影響を及ぼしてい るとして注目を集めている。我々の教室では、癌細胞が浸潤する際に癌関連線維 芽細胞(CAFs, cancer-associated fibroblasts)をはじめとする間質細胞により形成さ れる線維性癌間質反応 (DR, desmoplastic reaction) に着目し、腫瘍先進部に特異的 に出現するmyxoidな間質およびkeloid-like collagenを基準として、原発巣のDR をimmature、intermediate、matureの3群に分類するDR分類が予後予測因子とし て有用であることを報告してきた。一方、大腸癌の転移好発部位である肝臓やリ ンパ節等の転移巣においても癌細胞の周囲にDRが形成されるが、原発巣と同様 の基準でDRを分類することの可否は明らかではなく、原発巣のDRとの関連や その臨床的意義については検討されていない。
また、DRの形態的分類が癌悪性度と関連する理由やDRの多様性の基となる分 子生物学的背景は十分解明されていない。DRの形成には、細胞外マトリックスの 産生と分解が深く関与しており、CAFsから産生されるADAM(a disintegrin and metalloproteinase)分子などの蛋白質分解酵素の関与が推定されるが、これまでに DRとADAM分子との関連については検討されていない。
そこで本研究では、原発巣と転移巣のDRの関連を検討すると共に後者の臨床 的意義を明らかにし、さらにDRの形態的多様性に関連する分子についてADAM 分子を基軸に解析し、DRが癌悪性度に影響を及ぼす機序を解明することを目的と した。
(2)対象並びに方法
大腸癌由来の肝転移204例とリンパ節転移363例を対象として、両転移巣のDR をimmature、intermediate、matureの3群に分類した。原発巣のDRとの関連を評 価するとともに、転移巣におけるDR分類別の無再発生存期間および全生存期間 の比較を行った。
続いて、大腸癌原発巣の切除検体からCAFsを分離・培養し、CAFsにおける ADAM分子の発現量についてRT-PCR法、real-time PCR法、イムノブロット法を 用いてDR分類別に比較した。また、切除検体から新鮮凍結標本を採取し、癌先 進部間質におけるADAM分子発現について検討した。DR分類別に採取したCAFs の培養上清と共培養した大腸癌株化細胞 (HCT-116, HT-29) およびオルガノイドに
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ついて細胞増殖アッセイを行った。またDR分類と関連を認めたADAM分子の発 現を抑制させ、増殖抑制効果を検討した。最後にDR分類別に採取したCAFsと大 腸癌株化細胞とをそれぞれ混合してマウス皮下または盲腸漿膜下層へ移植し、腫 瘍増大・転移について経時的に観察した。
(3)結果
肝およびリンパ節のいずれの転移巣においても原発巣と同様に DRが分類 でき、原発巣の DRと有意な関連を認めた。また、肝転移巣のDRは肝転移 切除後の独立した予後予測因子であった。
mature症例に比較して immature 症例から採取した CAFsでは ADAM9が有 意に発現増強していた。同様に、腫瘍先進部の間質を選択的に採取した検討 においてもimmature 症例の癌間質で ADAM9 の mRNAが有意に高発現して いた。mature 症例と比較し、immature 症例の CAFsの培養上清と共培養した 大腸癌株化細胞 (HCT-116, HT-29) およびオルガノイドは増殖が有意に促進
され、shRNA を用いて ADAM9をノックダウンした CAFsの上清を用いた検
討では増殖が有意に抑制された。さらに、mature 症例およびimmature 症例か ら採取したCAFs と大腸癌株化細胞との混合移植片は immature症例由来の群 が有意に増大傾向を示し、腹膜播種の形成が高度であった。
(4)考察
大腸癌の転移巣におけるDRは、原発巣のDRの特徴をよく反映していた。今 後、DR分類に対応した新規治療法が開発された場合に原発巣の評価によって転 移・再発巣の治療効果予測ができる可能性が示唆された。また、転移巣のDRも 原発巣と同様に予後分別能を有しており、遠隔転移巣摘出後の術後補助化学療法 の適応決定や術後サーベイランスの個別化に寄与し得ると考えられた。
DR分類はCAFsにおけるADAM9の発現とよく関連しており、immature症例の 予後が不良となる背景には、ADAM9による癌細胞増殖への関与が示唆された。
ADAM9を標的とした新たな治療法を開発できれば、特に現行の標準治療では予
後不良であるimmature症例に対する治療効果が期待できると考えられた。
(5)結論
大腸癌の転移巣のDRは原発巣のDRと関連し、予後分別能を有していた。
immature症例ではCAFsを主体として癌間質におけるADAM9の発現が増強して おり、これを介して癌細胞の細胞増殖能が亢進している可能性が示された。